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    カテゴリ:オカルト・怖い話・ミステリー > 【師匠シリーズ】

    970 : ペットの話 : 2012/03/04(日) 11:18:31.06 ID:
    京介さんから聞いた話だ。


    高校一年生の春。
    私は女子高に入ってからできた友だちを、自分の家に招待した。ヨーコという名前で、言動がとても騒がしく、いつもその相手をしているだけでなんだか忙しい気持ちになるような子だ。
    そのころの自分にできた、唯一の友だちだった。
    私の家は動物をたくさん飼っていて、その話をすると「見たい見たい」と言い出してきかなかったのだ。
    「でか。猫でか!」
    リビングで対面するなり、ヨーコはそう言って小躍りした。
    「名前は? 名前」
    「ぶー」
    「ぶー?」
    妹や母親は『ぶーちゃん』と呼んでいる毛の長い猫だ。
    アメリカ原産のメインクーンという種類で、子猫の時に知り合いからもらってきたのだが、元々かなり大きくなると聞いていたのに、さらにこいつは底なしの食欲を発揮するに至って、実に体重は十キロを超えてしまっている。
    『ブマー』というのが彼の本名だが、家族の誰も今はそう呼ばない。
    「重っ」
    ヨーコはぶーを抱きかかえて嬉しそうに喚いている。ぶーは身じろぎするのもめんどくさい、というように眠そうな顔をしてされるがままになっている。
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    890 : トランプ 前編  ◆oJUBn2VTGE : 2012/02/25(土) 23:24:13.77 ID:
    師匠から聞いた話だ。


    大学一回生の冬だった。
    その日僕は朝から小川調査事務所という興信所でバイトをしていた。
    バイトと言っても、探偵の手伝いではない。ただの資料整理だ。そもそも僕は一人で興信所の仕事はできない。心霊現象絡みの依頼があった時に、その専門家である加奈子さんの助手をするだけだ。
    助手と言っても、僕のオカルト道の師匠であるところの彼女は、ほとんど一人で解決してしまうので、なかば話相手程度にしか過ぎないのではないかと、思わないでもなかった。
    「おい、どうした」
    声に振り向くと所長の小川さんが奥のデスクで唸りながらワープロを叩いていた。
    雑居ビルの三階にある事務所にはデスクが五つあるが、いつも使われているのは小川さんが座っている奥のデスクと、そのすぐ前に二つ並んでいるデスクだけだった。あとはダミーだ。
    いや、見栄というやつなのかも知れない。僕は県内最王手のタカヤ総合リサーチを除いて、小川調査事務所以外の一般的な興信所というものを知らないが、そんなに何人も所員を抱えている興信所なんて普通にあるとは思わない。
    しょせん自営業だ。依頼客もそのくらい分かっていると思うのだが。
    その使われているデスクにしたところで、師匠の指定席はたいてい開店休業状態。
    何日も資料集めをして必要な情報を得る、というようなスタイルではなく、お化け絡みの話とくればとりあえず出向いて、そのままたいてい即解決、という実に効率の良い仕事をしているのでデスクは依頼完了後に報告書を作るためにちょろっと使うくらいだった。
    「まじかよ、おい」
    小川さんはのけ反るように椅子にもたれかかり、天井を仰ぎながら左手で顔を覆った。その指には煙草が挟まれている。
    僕は新聞記事のスクラップを整理する手を止め、振り向いた。
    「どうしました」
    そう問いかけると、小川さんは忌々しそうにワープロを小突きながら深い溜息をついた。
    「作りかけの報告書が消えた」
    「保存してなかったんですか。まめに上書きしないと」
    「……」
    それには答えず、煙草を消してから伸びをして立ちあがる。そして洗面所の方へ向かった。
    no title

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    401 : 未 本編2 ◆oJUBn2VTGE : 2012/01/07(土) 22:17:16.64 ID:
    ※前作→「未 本編1」【師匠シリーズ】

    『とかの』に帰り着いたとき、腕時計を見ると午後四時半を回っていた。
    旅館の玄関から中へ向かって楓が「ただいま」と声を張り上げる。少しして女将がフロントの奥から姿を表した。
    「どうでしたか」
    「いやあ、期待はずれですね」
    師匠は明るくそう言って、山の上からの景色についてしばらく女将と語り合っていた。僕は地滑りの跡で見つけた石についてどうして黙っているのだろうと疑問に思った。
    その師匠の横顔がスッとこちらに向き直る。
    「おい、次を見に行くぞ」
    「え」
    まだどこか行くんですか。
    師匠は女将にこのあたりの道を尋ねている。
    つい、つい、と袖を引かれた。楓が耳元に顔を寄せてくる。
    「なに」
    「あの人ほんものなの?」
    「なにが」
    「霊能力者」
    まあ確かにここまでは、まったくそれらしい所を見せていない。
    「テレビに出てくるのとは違うけど、霊を見ることに関しては凄いよ」
    霊感が強いだけの人なら他にもいるだろうが、師匠の本当に凄い所は、その見たこと、体験したことに対する料理の仕方なのだ。
    それはある意味、探偵的と言えるかも知れない。つまり興信所の調査員であるこの今のスタイルで正解なのかも知れなかった。
    「ふうん。まあいいや。で、付き合ってんの?」
    いきなりすぎて吹きそうになった。
    「助手だよ」
    「それもう聞いた」
    「まあいいじゃないか」
    ああ。やってしまった。明確に否定しないという、見栄。
    軽い罪悪感に襲われていると、二人でひそひそやっているのが気になったのか、和雄が「なになに」と近づいてくる。
    「よし、行くぞ」
    師匠に服を掴まれる。軽く引きずられながら「どこへ?」と訊くと「この旅館の周辺の調査」

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    「未 本編2~5」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    336:2012/01/02(月) 22:15:41.13 ID:
    ※前作→「未」【師匠シリーズ】

    師匠から聞いた話だ。


    大学一回生の冬。僕は北へ向かう電車に乗っていた。
    十二月二十四日。クリスマスイブのことだ。
    零細興信所である小川調査事務所に持ち込まれた奇妙な依頼を引き受けるために、バイトの加奈子さんとその助手の僕という、つましい身分の二人で、いつになく遠出をすることになったのだ。
    市内から出発するころにはかなり込んでいた車内も、大きな駅を通り過ぎるたびに少しずつ人が減ってきた。
    はじめはゴトゴトと揺れる電車の二人掛けの席に並んで腰掛け、荷物をそれぞれ膝に抱えていたのだが、閑散としてきたのを見計らい、僕は空いた向かいの席に移動して荷物を脇に置いた。
    僕をこの旅に駆り出した張本人であり、オカルト道の師匠でもある加奈子さんはさっきから一体いくつ目になるのか知れないみかんの皮を真剣な表情で剥いている。
    その横では窓のサッシに敷いたティッシュの上に剥かれた皮が小さな山を作っている。
    「イブに温泉かぁ」
    頬杖をつき、特に感情を込めずに僕がそう呟くと、その師匠はみかんの表面の白い繊維を千切れないように慎重に剥がしながら顔を上げた。
    「イブってのは日没から深夜二十四時までのことだ。二十四日の昼間はクリスマスイブじゃない」
    「本当ですか」
    「百科事典で調べてみるか」
    師匠はそう言って笑った。
    今日は天気がいい。
    それでも山肌や、畑。水路。あぜ道。送電線。そして瓦屋根。流れるように過ぎ去っていく景色には、寒々とした冬の色合いが濃い。
    今回の依頼は、以前オカルトじみた事件を解決してもらって以来、師匠のシンパになってしまったという、ある老婦人の口利きで転がり込んできたものだった。
    北の町の市街地から離れた温泉旅館で、このところ幽霊の目撃談が相次ぎ、営業に支障がでているというのだ。
    そんなものは、仮に本物だとしても、いや、ガセだったとしても、どちらにせよ地元の神社やお寺にお願いして祓ってもらえば済む話だろう。ところがそれが全く効果がないらしいのだ。それも目撃される幽霊というのが問題だった。

    「未 本編1」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    362:2012/01/02(月) 23:40:12.97 ID:
    師匠から聞いた話だ。


    大学一回生の夏だった。
    午前中の講義が終わり、大学構内の喫茶店の前を通りがかった時、僕のオカルト道の師匠が一人でテーブル席に陣取り、なにやら難しい顔をしているのが目に入った。
    「なにを見てるんですか」
    近づいて話かけると、手にした紙切れを天井の蛍光灯にかざして見上げるような仕草をする。
    「どうしようかと思ってな」
    つられて僕も姿勢を低くして下から覗き込むと、どうやらなにかのチケットのようだ。横を向いた髑髏のマークが全面に描かれている。
    「M.C.D.……?」
    髑髏の中にそんな文字が見えた。
    師匠が口を開く。
    「『モーター・サイクル・ダイアリーズ』だってよ。アマチュアバンドだよ」
    地元バンドのライブチケットか。
    師匠がそんなものを持っているのは意外な気がした。
    「もらったんだ」
    そう言ってチケットをひらひらさせる。「行こうかどうしようか迷っててな」
    「知り合いでもいるんですか」
    そう訊ねると、「ああ」と言ってチケットを睨んでいる。
    そのバンドのメンバーからもらったもののようだった。ライブ自体にはあまり興味がなさそうで、もらった手前、義理で行くべきかどうか迷っている、というところか。
    「何系のバンドなんですか」
    髑髏の絵でなんとなく想像はついたが、一応訊いてみると「パンク」という答えが返ってきた。
    なるほど。
    「前に聴きに行った時は、もうなんていうかシッチャカメッチャカになってな。なんていうんだ、あれ。おしくら饅頭みたいな」
    モッシュか。
    僕もほとんどライブなどには行かないので良く知らないのだが、客がノリノリで暴れまわるようなライブハウスだとそんなことが起こるらしい。

    「M.C.D.」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    760:2011/08/21(日) 00:19:26.51 ID:
    師匠から聞いた話だ。


    一度どうして蜘蛛が嫌いなのか訊いたことがある。
    加奈子さんはどうしても訊きたいのかともったいぶったあと、いや、後悔するぞとも言っていたような気がするが、ともかくあぐらをかいて語り始めた。
    クーラーのない夜のアパートの一室は座っているだけでじっとりと汗が浮かんできて、なんとも怪談を聞くのに相応しい雰囲気だった。だからと言ってその話が怪談になる保障はなかったのであるが……
    「子どものころにな、エグい蜘蛛の死骸を見てな。それ以来だめなんだ」
    エグい、というのが気になるが、案外普通の話だ。
    余計に暑くなって団扇を仰ぐ。
    「近所にゴミ屋敷って呼ばれてる家があったんだけど、そこに有名な変人のおじさんが住んでてな。いつも短パン穿いてて、上半身は垢じみたシャツ一枚。ニヤニヤ笑いながら用もないのにそのへんをぐるぐる歩いて回ってんの。
    仕事なんてしてなかったけど、母親の年金で食ってるって話。だけどかなり前から近所の人もその母親を見かけなくなってて、実はとっくに死んでるのに死体を隠してるって噂があった。もちろん年金をもらいつづけるためだな。
    とにかく近所のコミュニティー内でも危険人物ナンバーワン。大人からは絶対ついていっちゃだめだって、きつく言われてた」
    「……ついていったんですね」
    「うん」
    ありうる。おばあちゃんの死体を見つけるつもりだったに違いない。
    「小学校三年生くらいだったかな。歩いてたおじさんを尾行してた時、いきなり振り向いて言ったんだよ。『うちにおいしい食べ物があるよ』」
    「……ついていったんですね」
    「うん」
    ありうる。



    わたしはおじさんの後をついていった。大人が近くに居れば注意してくれたかも知れないけれど、平日の昼間だったから、誰とも行きあわなかった。
    もった、もった、とマイペースで歩くおじさんの背中を見ながらしばらく進むと例のゴミ屋敷にたどり着いた。いったいいつから溜めているのか、黒いゴミ袋に入っているものから、入っていないなんだか汚らしいものまでが庭にまであふれ出している。
    周囲には異様な匂いが立ち込めていて、これでは死体があっても死臭など嗅ぎ分けられそうになかった。

    「食べる」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    221:2011/06/25(土) 23:09:26.24 ID:
    大学二回生の春だった。
    その日は土曜の朝から友人の家に集まり、学生らしく麻雀を打っていた。
    最初は調子の良かった俺も、ノーマークだった男に国士無双の直撃を受けたあたりから雲行きが怪しくなり、半チャンを重ねるたびにズブズブと沈んでいった。
    結局ほぼ一人負けの状態で、ギブアップ宣言をした時には夜の十二時を回っていた。
    「お疲れ」
    と、みんな疲れ切った表情でそれぞれの帰路へ散っていく。
    俺も自転車に跨って、民家の明かりもまばらな寂しい通りを力なく進んでいった。
    季節柄、虫の音もほとんど聞こえない。
    その友人宅での麻雀のあとは、いつもこの暗く静かな帰り道が嫌だった。けっして山奥というわけでもないのに、すれ違う人もいない道で、自分の自転車のホイールが回転する音だけを聞いているとなんだか薄気味の悪い気分になってくる。
    ところどころに漏れている民家の明かり。その前を通るとき、その明かりの向こうには本当は人間は一人もいず、ただ町を模した箱庭のなかに据えられた空虚な構造物にすぎないのではないかと、そんな奇妙な想像が脳裏を掠める。
    その日も、眠気とそんな薄気味悪さから逃げるようにスピードを上げて自転車のペダルを漕いでいた。
    線路沿いの道からカーブして、山裾に近づいていくあたりでのことだった。
    ふいに、ずしんと内臓に重い石を入れられたような感覚があった。目の前、切れかけてまばたきをしている街路灯の下あたりに、人影が見えたのだ。
    車道だ。ガードレールの外側に、より沿うように何かが立っている。異様な気配。思わず前方に目を凝らす。
    確かに人の形をしている。夜とはいえ、月明かりはある。そして街路灯のまたたく淡い明かりも。なのにそれは人影のままだった。じっと見つめていても、真っ暗で、色のない人影のままだった。
    自分が歩道、つまりガードレールの内側を走っていることを確認する。
    あれと、近づきたくなかった。しかしこの道を通らないと家には帰れない。俺は息を止めて、その人影の横を駆け抜けた。

    「花」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    462:2011/02/18(金) 22:08:21 ID:
    ウニです。

    前回の続きですが、半ば予想したとおり難航しています。
    投げているわけではないので、すみませんがもう少しお待ちください。
    今日は別の話を持ってきました。
    では、

    「星を見る少女」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    89:2010/12/25(土) 23:50:33 ID:
    師匠から聞いた話だ。


    匂いの記憶というものは不思議なものだ。
    すっかり忘れていた過去が、ふとした時に嗅いだ懐かしい匂いにいざなわれて、
    鮮やかに蘇ることがある。
    例えば幼いころ、僕の家の近所には大きな工場があり、
    そのそばを通る時に嗅いだなんとも言えない化学物質の匂いがそうだ。
    家を離れ、大学のある街に移り住んでからも、どこかの工場で同じものを精製しているのか、
    時おり良く似た匂いを嗅ぐことがあった。

    そんな時にはただ思い出すよりも、ずっと身体の奥深くに染み込むような郷愁に襲われる。
    次の角を曲がれば、子どものころに歩いたあの道に通じているのではないか。そんな気がするのだ。
    そんな僕にとって一番思い入れのある匂いの記憶は、石鹸の匂いだ。
    どこにでも売っているごく普通の石鹸。その清潔な匂いを嗅ぐたびに、
    今はもういないあの人のことを思い出す。

    身体を動かすのが好きで、山に登ったり街中を自転車で走ったり、
    いつも自分のことや他人のことで駆けずり回っていたその人は、
    きっと健康的な汗の匂いを纏っていたに違いない。
    けれど、僕の記憶の中ではどういうわけかいつも石鹸の匂いと強く結びついている。

    その人がこの世を去った後、その空き部屋となったアパートの一室を僕が借りることになった。
    殺風景な部屋に自分の荷物をすべて運び込んで梱包を解き、
    一つ一つあるべき場所に配置していった。
    その作業もひと段落し、埃で汚れた手を洗おうと流し台の蛇口を捻った。
    コンコンコンという音が水道管の中から響き、数秒から十秒程度経ってからようやく水が迸る。
    古い水道管のせいなのか、その人がいたころからそうだった。

    その人はよく僕に手料理を作ってくれた。そう言うと妙に色気があるように聞こえるが、
    実際は『同じ釜の飯』という方が近い。兄弟か、あるいは親しい仲間のような関係。そ
    れが望ましいかどうかは別として。
    その人は台所に立つとまず真っ先に手を洗った。石鹸で入念に。
    だから食事どきのその人は、いつもほのかな石鹸の匂いを纏っていた。

    「未」【師匠シリーズ】 →続きを読む

    952:2010/12/17(金) 23:26:24 ID:
    大学一回生の冬だった。
    そのころアパートで一人暮らしをしていた俺は、
    寝る時に豆電球だけを点けるようにしていた。

    実家にいたころは豆電球も点けないことが多かったが、
    アパートでは一つだけあるベランダに面した窓に厚手のカーテンをしていて、
    夜はいつもそれを隙間なく締め切っていた。
    だから豆電球も消していると、夜中目が覚めた時に完全に真っ暗闇になってしまい、
    電球の紐を探すのも手探りで、心細い思いをすることになるのだ。
    それが嫌だったのだろう。

    ある夜いつものように明かりを落とし、豆電球だけにしてベッドに倒れ込んで、
    眠りについた。夜中の十二時くらいだったと思う。
    それからどれくらい眠っただろうか。

    意識の空白期間が突然終わり、頭が半分覚醒した。
    目が開いていることで自分が目覚めたことを知る。
    あたりは夜の海の底のように静かだ。
    天井の豆電球が仄かに室内を照らしている。何時くらいだろうか。

    壁の掛け時計を見る。眼鏡がないと針がよく見えない。
    短針が深夜の三時あたりを指しているようにも見えるが、
    枕元のどこかにあるであろう眼鏡を探すのもおっくうだった。
    頭は覚めていても身体はまだ命令を拒んでいる。
    ぼんやりと、どうして目が覚めたのか考える。

    電話や目覚まし時計の音が鳴っていた痕跡はない。尿意もない。
    最近の睡眠パターンを思い出しても実に規則的で、
    こんな変な時間に目が覚める必然性はなかった。
    いつも割と寝つきは良く、夜中に何度も目が覚めるようなことはなくて、
    朝までぐっすりということが多かったのだが……
    それでもたまにあるこんな時には、得体の知れない恐怖心が心の奥底で騒ぐのを感じる。

    理由はない。あるいは無防備に意識を途絶えさせることに対する原初的な恐怖、
    ただ夜が怖い、というその本能が蘇るのかも知れない。
    ベッドで仰向けのままもう一度眠ろうとして目を閉じる。
    深く息をつくと、まどろみは自分のすぐ下にあった。

    翌日師匠に会った時に、ふと思いついたことを言ってみた。
    オカルトに関して師と仰いでいる人だ。

    「目が覚めるとき、目を開けようと思ったかどうか、ねえ」

    師匠はさほど面白くもなさそうに繰り返した。

    「目覚め」【師匠シリーズ】 →続きを読む

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