428 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:25:48.97 ID:
前スレ※俺の痛すぎる大学3年間を語る

そんな堕落した日々を送っている時、

実家から連絡があった。

母親が癌になり、病床に伏せたという連絡だった。

幸い早期発見で命に別状はなかったのだけど、
この出来事は俺の「意識」をはっきり変える出来事になった。

親だっていつまでも健在なわけではない。
漫画家を目指すのなら、すぐにでも結果を出さなければ、と強く思った。no title


429 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:27:27.91 ID:
俺は、自分の原点に立ち返るため…
「ヒカルの碁」「I's」「鋼の錬金術師」「いちご100%」
など、自分が中高時代に愛したバイブル的漫画を、
一気に読み直した。

そして再び、「漫画ってすげえ!」という原体験を味わい直した。

そこから俺は不思議なほど……
すべてを忘れて集中することができた。

430 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:29:08.38 ID:
2月が終わる頃だったろうか。
俺は自分の「最高だ」と思えるネームを書き上げていた。

32Pの、ラブコメだった。
自分の好きや憧れを全て詰め込んだ、
これ以上にないネームだと思った。

思っていたが……
やっぱり不安だった。

431 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:36:15.94 ID:
前みたいに、落選してしまうかもしれない。
自分だけが良いと思っていても、正直言って不安だった。

清書に入る前に、どうしても誰かに見てもらいたかった。
でも、見せられる相手なんて一人もいないし……

そんな事を悶々と考え込み、ネーム完成から一週間近くも悩んだ。
そして俺は、穂高ならネームを見てくれるかも…と思い、
穂高に電話をかけてみた。

432 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:38:09.57 ID:
穂高と話すのも、テスト以来。
ただ電話をかけて話すだけなのに、それすらも少し緊張した。

俺「あ、穂高……」
穂高「なんだ1、久々じゃねえか」
俺「おう、ちょっとな……」

穂高「なんだ?w 一緒にとらのあなでも行くか?」
俺「いや違う、遊びの誘いとかじゃなくて」

433 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:39:57.02 ID:
穂高「え?じゃあどうしたんだよ?」
俺「ね、ネーム……見てくれないかなって」
穂高「ネーム?」

俺「ああ、書いたんだよ……」
穂高「別にいいけど」
俺「マジか…! それじゃ来週あたりお前ん家行って…」

434 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:41:41.08 ID:
穂高「いや、ってか1さ。来週ヒマなん?」
俺「え、暇だけど…?」
穂高「ならいいじゃん!お前合宿来いよ」

なにやら、嫌な予感がした。

俺「合宿って、漫研の…?」
穂高「そうだよ。一人家の事情で来れなくなっちゃってさぁ…」
穂高「でも、もうキャンセルできないんだよ」

435 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:46:11.78 ID:
俺は、この前の部会の事を思い出す。
俺を唾棄した戸倉に、笹子さん……
行ったところで。何になるっていうんだ?

俺「いや、俺は……」
穂高「いや、むしろ来てくれると助かるんだって!」

俺「なんでそんなに…?」
穂高「いや、俺3月から会計補佐なんだよ」
穂高「みんなから追加で金徴収するの嫌なんだよぉ…!」

436 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:47:38.76 ID:
なるほど、そういう。
そりゃあ穂高からしたら俺を人柱にできれば最高だろう。

一応俺は、今年いっぱいは部費も払ったしれっきとした部員だ。
適当に俺を引っ張っていって、俺から集金すれば、
会計の仕事も減って楽ちんというわけだ。

俺「でも、俺は……」
穂高「なんだ?あんまり来てねえから気まずいのか?」
俺「うん。そうなんだよ。だから……」

437 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:49:19.65 ID:
穂高「ばーか大丈夫だよw誰もお前の事なんて気づかないさ」

それは、俺を励ましてるつもりだったんだろうけど、地味に傷ついた。

穂高「マジでさ、助けてくれよ、な。来週ヒマなんだろ?」
俺「うーん…」
穂高「またテストの時過去問回すからさ…!」

俺「お前、それ約束な。なら行くわ」
穂高「マジかよ!助かるわー!」

438 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:51:17.74 ID:
こんな感じで、過去問の手回しを条件として、まんまと釣られてしまった。

ただでさえ大学をサボりがちであった俺にとって、
過去問や代返などの要素は超重要事項だった。

そのあたり、授業のサポートに関しては、
穂高に頼り切りであったので、たとえ条件ナシでも、
穂高のお願いを断れるワケはなかった…。

そうして俺は、新学年目前の3月半ば、
なんと漫研の春合宿に参加してしまう事になる…

439 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:54:47.65 ID:
片田舎から、片田舎へ。
バスを使ってなんとも地味な移動をし、
俺たちは温泉街にある、大きなロッジに宿泊した。

一挙に30人程度が宿泊できる想定の非常に大きなロッジだった。

ワークショップのようなものができる教室や、
ボール等が一式揃ったミニ体育館や小さなテニスコートなど、
ロッジ至近に様々な施設もあった。

まさに、大学サークルの合宿にうってつけのスポットであった。

440 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:55:50.56 ID:
簡単な手製の旅のしおりも有志で作っていて、
思った以上に手が込んでいるんだなぁと感心した。

そのしおりの挿絵や表紙を笹子さんが描いていたので、
それはもう言うまでもなく素敵なしおりになっていて、
帰ったら綺麗に保存しておこう…と思った。

とはいえ、出発してからの道中、俺はずっと気まずくて、
終始穂高の金魚の糞となり、穂高バリアーを張った。
かくいう穂高も俺を無理やりに連れてきた自覚があるのか、
ある程度俺に構ってくれた。

441 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:57:17.86 ID:
当然、戸倉も来ていたし、笹子さんも来ていた。
戸倉はもはや別段どうでもいいとしても、
笹子さんがいることに動揺を隠せなかった。

もはや、この期に及んで何を話せばいいのかサッパリ分からなかった。

ただ、途中のサービスエリアで横森さんは俺に話しかけてくれた。
「来たんだな」
とそれだけ言って、ヘラヘラ笑っていた。

442 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/10(日) 23:59:03.54 ID:
ロッジに到着してからの予定も、意外と詰まっていて、
思った以上に「気まずい」と感じる瞬間が少なくて助かった。

まず、近くの教室を借りて「お絵描き教室」が開催された。
笹子さんとオショウさんが先導して、
希望者に絵の書き方を伝授する、といったものだった。

俺も穂高にくっついて、こっそりと参加した。

それは初心者に優しく、本当に楽しい内容で、、
「ああ俺も、こういう風にまわりにアプローチしていれば良かったのかな…」
と思う内容だった。

443 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:01:32.95 ID:
途中、「実際に描いてそれを笹子さん達が見て回る」という段になったので、
俺は気まずくなって外へ飛び出した。

穂高は「え、お前!」と驚いていたけれども、
確実に笹子さんとエンカウントしてしまうと思ったので、
なりふり構わず途中離席してしまった。

外に出ると、お絵描き教室に参加しなかった人たちが、
近くのテニスコートで楽しそうにはしゃいでいるのが見えた。

444 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:03:17.22 ID:
俺は、テニスコートで遊んでいる連中にも、
体育館で遊んでいるであろう連中にも、混ざることはできない。
このままロッジに戻って、一人でゆっくりするか…と思った。

歩いていると、ベンチに座って、渋い顔でタバコを吸う横森さんがいた。
横森「おお、1じゃねえか」
横森さんは、タバコを咥えたまま反応した。

俺「うっす……」
横森「座れよ」

445 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:05:29.32 ID:
横森「お前もいっとく?」

横森さんはそう言ってタバコを勧めてきたが、
俺はタバコが嫌いなので、それとなく断った。
あの煙、むせるしどうにもダメなんだよな。

横森「お前、合宿きたんだな。なんか嬉しいよ」
俺「い、いえ…穂高に誘われただけで」
横森「ふーん、そっか」

446 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:07:57.40 ID:
俺はこの時、横森さんにネームを見せるのが一番いいんじゃないか、と思い浮かんだ。
何よりこの人とは趣味嗜好が合うし、
横森さんのオタ目線だけじゃない、ちゃんと一般的目線も持った意見をもらえたら、
すごくいいんじゃないか、と思えた。

俺はこの合宿に、一応自分のネームコピーを持ってきていた。
だからこそ、横森さんに見てもらいたいと考えた。

俺「……あの」
横森「なに?」
俺「あとで時間ある時、ネーム見てもらえないすか…」

447 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:10:09.50 ID:
横森「お前、また描いてるの?」
俺「…はい」

俺がそう答えると、横森さんは嬉しそうに笑った。
それが、本当に嬉しそうだったので、とても印象的だった。

横森「お前、マジかよぉ」
横森「いいな…それ! 見せろよ!」

俺「まだネームなので見にくいかもですが」
横森「いいっていいって!」

448 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:12:49.26 ID:
横森「お前、すげえじゃん。さすがに辞めちまったかと思った」
俺「いや、まだ諦めてないんで…」
横森「お前、やっぱりすげえって!」

横森「じゃあ夜とかか?今からめっちゃ楽しみだわ」
俺「あ、ありがとうございます」

横森さんは、にこにこして煙を吐いた。

449 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:16:58.03 ID:
俺「横森さんって…本当に漫画好きっすよね」
横森「ん?まあ普通だろ。別に。漫画だけじゃないし」
俺「それ以外にも?」

横森「映画だって見るし、アニメも毎期ほとんど見てるな」
横森「あ、でも一番は小説。三島とか谷崎とかよく読んでるわ」
俺「…すげえっす。そんなにインプットしてんの、漫研でも他にいないんじゃ…」

横森「俺な、編集者になりてえんだよ」
俺「……編集者?」

450 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:18:15.14 ID:
横森さんは、晴れた空のベンチで、夢を語りだした。
その時の横顔がなんだかかっこよくて、忘れらない。

横森「雁屋さんの事があってから、ずっと考えててさ」
横森「俺なんて、1みたいに絵が描けるわけでもないし、なんの才能もねえんだよ」
横森「なんもできねえ凡人なんだなって」

そんな事はないだろうに、と思いながら俺は話を聞いた。

451 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:20:13.79 ID:
横森「そんな俺でもなんかできねえかなって考えた時に」
横森「作品を愛する気持ちだけは誰にも負けないかもって思ったんだよね」
横森「俺は作り出すことはできないけど、作品への愛とその知識だけは誰にも負けたくない」

横森「そんで、それを活かして編集者になって、何かを生み出す作家の手助けをしたいんだよ」

俺「なるほど……」

一通り話したあと、横森さんは「はは」と笑って、
「まあ妄想みたいなもんだから気にすんな」と言った。

452 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:21:46.64 ID:
横森「たとえば、俺らが想像するような大手出版社に入るのがどれだけ大変か」
俺「……大人気企業っすもんね…」
横森「だからまあ、これが俺にとっての夢、なのかもな」

俺は今まで…絵を描かない連中に対し、
”なんの目的も夢もない雑魚”と蔑んでいたが…

その考えがどれほどに浅ましいものだったかを、痛感した。
横森さんなんかは、俺よりもずっと冷静に自分を分析し、
将来のビジョンを思い描いていた。

それが率直に、すげえと思った。
大学に来て初めて、絵を描かない人に対して敬愛の念を抱いた。

453 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:23:43.99 ID:
横森「ってかさ」
俺「はい?」

横森「お前の事だから笹子のトコに行ってると思ったんだけど」
俺「あ、行ってたんですが……抜け出してきて」
横森「ええ。なんでよ?」
俺「気まずくて……」
横森「気まずい?」

454 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:26:28.32 ID:
横森「そういやお前、この前の部会の時、結局笹子と話したのか?」

そういえば横森さんに何も言ってなかったなと思った。
笹子さんの事しか考えていなかったので、
横森さんはすっかり頭から抜け落ちていた。

俺「それなんですが…」

俺は、横森さんにこの前の部会の事を、洗いざらい話した。
それゆえ、今日も笹子さんと非常に気まずいということも…。

455 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:28:19.91 ID:
横森「かっこつけた事言ったのに、結局合宿に来ちまったワケかw」
俺「そ、そうなんですよ……」
横森「でもそれってさ、おかしくね?」
俺「そうなんすよ、本当に俺は……」

横森さんは声を上げて笑った。

横森「いやいや、お前じゃないってw」
横森「笹子だよ、笹子」

456 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:31:10.82 ID:
俺「笹子さんがですか?」
横森「俺からすればさ、漫研に戻って漫画も描き続ければいいと思うワケ」
俺「でも、それは俺がムキになって……」

横森「違うだろ? そもそも笹子が素直に認めてくれれば、お前もこんな事にならなかったんだよ」
横森「おかしいと思うんだよ俺は。素直にさ、夢見てるヤツを応援してやれば済む話じゃん」

横森「1、聞くけどさ。じゃあお前は漫研ナシ…いや、笹子ナシでこれからまた孤独に頑張れるのか?」
俺「……わからないです」

457 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:32:47.24 ID:
横森「俺な、一人で漫画を描き続ける日々なんて…周りが思うよりずっとずっとヤバいと思うんだ」
俺「それはまあ…そうです」
横森「なのに、笹子は分かっててお前をそんな日々に落とし込んでんだぜ?」

俺「でも横森さん、それは笹子さんとカリヤとの過去が……」
横森「ちげえんだよ。雁屋さんの事気にしてんだったらさ」
横森「それこそ1を応援してやるべきなんだよ」

横森「下手したら、お前がまた独りで挫折して、どうにかなっちゃうかもしれねえのに」
横森「お前がどうなってもいいのか?って話じゃね?」

458 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:34:07.67 ID:
俺「でもそれは……」
横森「いや、わかってる。笹子だって悪気があるわけじゃない」
横森「多分、お前のことも本気で心配してると思う」

横森「なのにお前ら二人は、うまくお互いの気持ちを伝えられてないんだよ」
俺「そ、それは……」
横森「ほんとに。何してんだよ、お前ら…」

459 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:35:27.92 ID:
俺「でも、それは仕方ないですよ…笹子さんに、俺の夢は関係ないですから」
横森「じゃあいいじゃん。お前も気にせず漫研に戻ってくりゃあ」
俺「それは……」

正直、横森さんにそう言ってもらえるのはありがたかった。
こんな事がなければ、漫研に戻って、
誰かとコミュニケーションを取りながら漫画制作をする方が絶対に良かった。

あの孤独の日々はもう…嫌だった。

でも、やっぱり漫研に戻るのであれば……
笹子さんとちゃんと話して、笹子さんに応援されたい、と思った。

460 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:36:45.93 ID:
俺「でも、俺は笹子さんに……」
横森「…まあ、お前からしたら漫研より笹子だよな、分かるよ」

横森さんはタバコを灰皿に投げ入れると、
「来いよ」と俺を誘った。

横森「体育館で軽くフットサルしてんだ。お前混じれ」

そう言われて、しばらく横森さんら他男子たちと、
体育館でフットサルをして遊んだ。
体を動かすこと自体久しぶりだったので…めちゃくちゃに楽しかった。

クソみたいな春休みになるはずだったのに、
なぜか大学生っぽい事してるなぁって思った。

461 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 00:39:13.17 ID:
今日はこのくらいで終わりたいと思います。
続きはまた明日あたりに。


なんか予想以上に長くなってきて読む人も減ってきたと思うけど…
頑張って書ききるんで、引き続きまったりお願いしゃす。

462 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/11(月) 00:41:12.81 ID:kuu3yfA+0
おつかれ
相変わらず良いところで終わりやがるw
続き楽しみにしてます

463 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/11(月) 01:08:03.18 ID:ebNNalDqH
ここから2年あるってことは笹子さんと付き合うのかな?
先が読めないな

465 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/11(月) 13:31:19.96 ID:3Tw5h5did
横森さん良い人すぎワロタ

466 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/11(月) 17:47:15.97 ID:pbWEE0QJ0
もうすぐ大学生だからこういうスレがリアタイで見れる事に感謝しかない

470 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 20:59:48.14 ID:
こんばんは~
みんなありがとう!

続き書いていきたいと思います。

471 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:01:32.78 ID:
その後、プランでロッジ内に用意されていた食材で
カレーや鍋などをみんなでワイワイしながら作り、フリーダムな夕飯の時間を過ごした。

俺は、終始部屋の隅から見ているだけだったが、
知らない先輩に呼ばれて味見に参戦したり、
穂高を通じて1年男子と遊戯王やボドゲをしたりして、
徐々にではあるが、次第に輪に入っていけるようになっていた。

その間も、常に視界の片隅には笹子さんがいたが…
俺は意識的に避け、極力絡まないようにしていた。

きっと、向こうもそうだったんだと思う。

472 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:03:36.58 ID:
夕飯が終わると、男女に分かれて歩いて数分の場所にある大浴場へと向かった。

ド平日ということもあって人もいなかったので、
ここに来て、男子たちのテンションは凄まじいものになった。

大声で歌い、叫びながら大浴場に飛び込み、笑い転げていた。
そしてその中に、ニコニコの替え歌を熱唱したり、
アニメのダンスを大げさに踊ったりする人がいて、
オタ的なノリがふんだんに盛り込まれていた。

今思えば、割とヤバめのノリではあるが…若気の至りだ。
俺は一人で、こういうのもいいかもな、と思った。

473 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:04:22.63 ID:
共通の趣味嗜好で笑い合って、語り合えたら楽しいかもしれない。
ずっとずっと「絵を描かないヤツはクソ」と決めつけた俺も、
一年経つうちにさすがに考え方が変わってきていた。

楽しいかもしれない。
できることなら、ここに戻れたら……
風呂に浸かって笑いながら、そんな事をずっと考えていた。

474 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:06:07.17 ID:
大浴場からロッジに戻ると、各部員たちがそれぞれの時間を過ごしていた。

64でスマブラ最強決定戦を行う者、
酒を入れつつまったりトレカに興じる者、
積まれた同人誌を肴に、推し語りをする者……

そのどれもが楽しそうで、
やっぱり漫研には漫研なりの「青春」があるんだなと思った。

かくいう俺は……横森さんにネームを見せるなら今だな、と思っていた。
肝心の横森さんは、ロッジのテラスのような所で椅子に座って、
缶ビール片手にタバコを吸っていた。
横には……笹子さんがいた。

475 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:08:11.01 ID:
行きにくかった。
でも、今見てもらわないと、横森さんも酒につぶれてしまうかもしれない…
合宿自体は1泊2日だったので、チャンスは今日しかないんだ。

俺は恐る恐る窓を開け……
俺「あの、横森さん」
横森「んお、1じゃん」

笹子さんは、俺の方を見ると、
「1くん」とだけ言った。

476 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:09:11.53 ID:
俺は、笹子さんに軽く会釈だけして、すぐに横森さんに話しかけた。
俺「あの、昼間言ってたネームの話……」
すると横森さんは嬉しそうに笑って、「そうだったわ!」と立ち上がった。

笹子さんは不思議そうにこちらを見ていた。

俺「いいんですか…?」
横森「いいよ別に。大した事話してなかったし」

477 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:11:14.83 ID:
横森さんは、「人に見られたら困るだろ」と言って、
ロッジの屋根裏に向かった。

はしごを使って、ロフトのようになった屋根裏に行くと、
すでに先輩男子で酔いつぶれた人が一人眠りこけていた。

横森さんはそんな事は意にも介さず、「すいませんね」と言いながら
堂々と電気を点けた。

明るくなるとその先輩は起きて、「使うの?」と言いながら
フラフラと屋根裏から下りていった。

478 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:14:06.30 ID:
横森「じゃあ、見せてくれよ」
横森さんはいたずら小僧のように、ニヤニヤとしていた。

俺「これです…」
恥ずかしながら、俺は横森さんに渾身のネームを見せた。
渡すとすぐに、横森さんは熱心な目つきで、
食い入るように俺のネームを読み始めた。

思えば。
自分以外の人間に自分の漫画を読んでもらうのは初めてだった。
たとえそれがネーム状態であったとしても、
なんだか自分の全てをさらけ出しているかのような感覚で…

生きた心地がしなかったのを覚えてる。

479 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:15:27.11 ID:
横森さんは、一通り読み終わると「ふう」と息を吐いた。
…なんて言われるのか。

横森「おもしれえぞ、これ!」
俺「マジすか!?」

めちゃくちゃに嬉しかった。
初めての感想、そして、初めて人に認められた安堵。
なんだか、「報われた」って気がした。

480 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:17:16.07 ID:
横森「なんつーか…ちゃんとラブコメ漫画してるわ」
横森「キャラが可愛いだけじゃなくて、ちゃんとストーリーもあるのがいい」
俺「そう言ってもらえて良かったっす…」

その後、横森さんに褒められながら、
「横森さんが読んでいて詰まった所、分かりにくかった所」を、
一つ残さず教えてもらった。

コマ割りの仕方から、セリフ回し、そして演出や絵の見せ方…
横森さんのアドバイスはどれも俺が考えつきもしなかった事で、
本当に、さすが編集者志望だなぁと思った。

481 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:19:42.46 ID:
その全てが、圧倒的なインプット量に裏付けされたものだったからだと思う。
横森さんは常日頃から多くの漫画を読み、沢山の映画を観ている。

そういった知識の裏付けが、アドバイスに説得力を持たせていた。
俺の浅ましい知識では絶対に補えない部分であったし、
俺は横森さんのアドバイスを聞いて、どんどん光明が見えてくるような気がして、
言いようのない嬉しさを感じた。

お世辞なしに、この人なら将来編集者になれるんじゃ…と思った。

482 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:21:09.94 ID:
持ってきたメモ帳がアドバイスでいっぱいになった頃だった。
俺と横森さんの議論は白熱し、
二人ともなんだかめちゃくちゃにハイになっていた時。

屋根裏の入り口から声がした。

笹子「ねえ、何してんの。こんなとこで」

笹子さんが不思議そうに、顔をのぞかせていた。

483 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:23:11.62 ID:
笹子「今から庭で花火するってさ。二人は来ないの?」
横森「この寒いのに花火? いいよ。今いいところなんだ」

すると笹子さんはじーっと俺ら二人を見つめた。

笹子「こんなところで何してるの?ねえねえ、なんか秘密の話?」

笹子さんは楽しそうに訊いてくる。
そのノリが、なんだか笹子さんっぽくなかった。
恐らく、少しお酒も飲んでいたんだろう。

484 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:25:17.45 ID:
笹子「私も行っていい?」

そう言われて、心臓が跳ね上がった気がした。
急にドキドキと胸が騒ぎ始める。

横森「ええ…。1、どうする?」
そう訊かれて俺は…
「どっちでもいいですけど?」
と、斜に構えた返事をしてしまった。

485 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:27:08.31 ID:
横森「じゃあわかった。笹子、悪いけど缶ビール持ってきて!」
横森「俺、喉乾いちゃってさぁ。持ってきてくれたら来ていいよ!」

そう言われて笹子さんは「えー分かったよ」と言いながら、
一旦顔を引っ込めた。

横森「お前、大丈夫?」
俺「いえ、一度ちゃんと話したかったので…」

俺は腹をくくった。

486 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:29:10.95 ID:
数分して、笹子さんが嬉しそうに袋に缶ビールを数個入れて上がってきた。
ここに来てはっきりと目視する、部屋着姿の笹子さん。
俺の心臓は急速にスピードを上げたw

笹子「ごめんね。邪魔しちゃって」
横森「ビールくれればなんだっていいよ」

笹子「それで、何してたの?」
横森「ネームチェックってやつだなぁ」
笹子「ネームチェック?」

横森「そう。1先生の描いたネームを見てたワケ」
俺はそう言われて、小刻みに数回うなずいた。

487 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:31:53.76 ID:
すると、笹子さんは露骨に気落ちした様子だった。
笹子「そっか1くん、まだ描いてるんだね…」

その表情が、やっぱり辛い。俺の心をずきんと傷める。
俺が漫画を描くと、やっぱり笹子さんは……

横森「ってかさぁ、1が漫画を描いたって別にいいじゃねえか」
笹子「そ、それはいいよ。ただ私は……」
横森「よくはねえだろ。あのなぁ、1はお前に応援されたくてずっと描いてんだぞ」

笹子「…私に?」

488 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:33:06.01 ID:
横森さんが、やべえっという表情をした。
本当にこの人、なにをやってくれてんだ。

でもそれで、俺は踏ん切りがついた。
もういったれ!と、全部さらけ出すことにした。

俺「…そうですよ」
俺「俺は笹子さんに応援されたくて……ずっと漫画を描いてました」
俺「でも、俺が漫画を描けば描くほど、笹子さんは離れていってしまうので…つらかったです」

489 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:36:17.41 ID:
笹子「1くん…」

俺「カリヤの事も、すべて聞きました。…辛い過去があったことも」
俺「でも……」
俺「そ、それでも俺は、漫画家を目指しますから」

しばらくの沈黙があって…笹子さんは寂しそうな顔をした。

笹子「そっか、1くんは知ってたんだね……」

それから、笹子さんは淡々と話し始めた。
笹子「前にもこんな事があったんだ」

490 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:38:02.72 ID:
笹子「私が1年生の夏合宿で……雁屋センパイが同じように夢を語ってくれた」
笹子「…みんなの前でね」

横森「……そんな事あったなぁ」

笹子「私、嬉しかったよ。夢を語れることが、どれだけ輝いて見えたか…」
笹子「だから当然、心から応援したんだよ。でも……」

笹子さんは声が震えて、涙目になっていた。

横森「いいって、もう。無理すんな」

491 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:40:55.56 ID:
笹子「そりゃね、夢を追うことはかっこいいし、素敵なことだから」
笹子「応援したい。応援したいよ」

笹子「でも、そこにたどり着くまでの孤独や苦痛は?」
笹子「叶わなかった時の悲しみは?」

笹子「そんな事考えたら、私はもう、無責任に応援できないよ…」

横森「だからって」
笹子「え?」

492 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:42:08.97 ID:
横森「それでも夢を追い続けるって言ってる1を、突き放すことはないだろ?」
横森「せめてお前くらいは、1のこと応援してやれよ……」

横森「お前がそんな事言ってたら…」
横森「まるで雁屋さんのやってきた事が、全部ムダだったみたいじゃねえか…」

笹子「私はそんなことは……」
笹子「ただ、もしかしたら1くんもって思うと……本当に怖い」

493 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:43:57.97 ID:
俺はその時……やっと気づいた。
笹子さんは俺とカリヤを比較していたわけでもなく、
俺のせいでカリヤを思い出すから距離を置いたわけでもなかった。

俺とカリヤを重ねていたんだ。…と思う。

心のどこかできっと……
俺も挫折をし、自ら命を絶つかもしれない、と思っていたんだ。

494 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:46:00.76 ID:
俺「笹子さん、これ読んでくださいよ」

そう言って俺は、持っていたネームを目の前に広げた。

笹子さんは、ゆっくりとそれを手にとって、読み始めた。

俺「俺は漫画家を目指します。でも…それでたとえ何があっても、いなくなりません!」
俺「絶対です!」

俺はそう言って、笹子さんの目を見た。

笹子「本当に?」
俺「本当です!」

495 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:48:08.34 ID:
笹子「…信じていいんだよね?」
笹子さんは、ぽろぽろと涙を流していた。

俺「はい、絶対にです」

すると笹子さんは大きくうなずいた。
笹子「わかったよ」

笹子「じゃあ、応援する。1くんの漫画、楽しみにする」

そう言われた瞬間、
俺の視界がひらけて、きらきらと光に満ちた気がした。

496 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:50:39.32 ID:
俺「ほ、本当ですか!?」
笹子「うん、もう決めたよ。これから頑張ってね、1くん」

笹子「やるからには、本当に……面白い漫画、描いてね」
笹子さんは涙目のまま、にこりと笑顔を見せた。

それが、本当に本当に嬉しくて、俺は叫んで走り出したい気分になった。

横森「ほらなぁ。最初からさ、ちゃんと話してれば良かったんだ」
横森さんは、ご機嫌な様子でビールを飲んでいた。

497 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:52:12.41 ID:
それから笹子さんは俺のネームを読み終わり、
「すっごく良かったよ」と一言だけ言った。

そしてすぐに「でもオチが弱い。これじゃだめ!」と笑った。
それを聞きつけ横森さんもやってきて、
「あーな!俺もそう思うんだよ!」と、
再び俺のネームを巡って議論が起こった。

この時、あのロッジの屋根裏で3人でネーム討論をしたこと…
紛れもなく、俺の人生において一番幸せな瞬間だったと思う。

498 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:53:19.43 ID:
横森さんが、あの笹子さんが、、
俺のネームを読んで笑い、感想をくれて、応援してくれている。
俺の夢を後押ししてくれている!

この事実に俺は胸がいっぱいで、とても幸せだった。

何もかもを、ここまでで辞めておけば、
俺の大学生活も夢も、すべて幸せな思い出で終わっていたのに……。

漫画を描くなんてこと、これで終わりにしておけば良かったのに…。
まあそんな選択、この時の俺ができるわけないけれど。

499 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:56:15.71 ID:
そのあと、三人で庭に下りて、
終盤に差し掛かっていた花火に参戦した。

笹子さんはどうしても花火をしたかったようで、とても喜んでいた。
「一緒にやろ」と誘われて、
あの暗がりのなかで一緒に花火をしたことは、俺の永遠の思い出だ。

プリズムみたいに乱反射する花火の光をたたえて、
笹子さんは「今年の夏合宿でも、一緒に花火しようね」と笑ってくれた。

それが嬉しくて、涙が出るほど感激したけど、
その約束が叶うことはなかった。

500 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 21:58:34.63 ID:
合宿のあと、俺は益々やる気と希望に満ちていた。

穂高だけじゃない。横森さんも笹子さんもいる。
ネームだって見てもらって、悪い箇所は徹底的に直した。

今度の俺は独りじゃないし、きっと前よりもさらに良いものができる。

そうして2年生になった俺は、授業にも参加しつつ、
漫研にもたまに顔を出しながら、漫画の制作を続けた。

漫研はといえば、横森さんが部長になって新体制になった。

501 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:01:24.26 ID:
周りに応援してくれる人がいる。
その事実が何よりも俺を勇気づけた。

それでもやっぱり、たった一人で漫画を描き続ける作業は、途方もなかった。
人生で2度めの”ガチ”のマンガ制作。

そして、前回と違って色んな現実も見えてきて、描いていて辛い。
上手く描けないシーン、キャラの表情が思ったように描けないシーン、
そういった箇所に幾度となくぶつかり、
そのたびに頭を掻きむしっては、半泣きになってトライアンドエラー。

502 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:04:46.88 ID:
自分の力不足を痛感しながら、
それでも自分の描いている漫画は最高だと言い聞かせる。

キャラよし、設定よし、ストーリーよし。
あとは絵だけ、絵さえ俺が頑張れれば……

信じるしかなかった。
自分で、自分の漫画を、キャラクターを、信じるしかなかった。

503 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:08:55.87 ID:
そして合宿から4ヶ月あまりが経過した2年生の7月ころ…
俺は生涯で2作めとなる漫画を完成させた。

前回はオールアナログでの原稿だったが、
今回はペン入れ~仕上げをデジタルで行ったものだった。

ゆえに、前回よりも少しスピードを早めることができたし、
クオリティだって格段にアップさせられた自信があった。

まさに、当時の”俺のすべて”が仕上がった。

504 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:10:50.26 ID:
前回賞に投稿し、特になんのフィードバックもなく選外だった俺は、
今度はかねてより憧れであった”持ち込み”をすることにした。

もちろん、前回選外となってしまった、
幼少期からの憧れであった雑誌に向けて、だ。

実際に持ち込んで、対面で編集さんの意見を聞きたい。
たとえ芳しくない反応であったとしても、
夢に近づくための具体期なアドバイスを貰える。

運が良ければ担当も付いてもらえるかもしれない。

505 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:11:56.82 ID:
横森さんや笹子さん、穂高に相談しても、
持ち込みの方がすぐに返事ももらえるし、
リアルなアドバイスがもらえるから絶対に良いと言っていた。

7月の、夏の始まりの頃。
俺は緊張しながら電話予約をし、
人生で初めての漫画持ち込みを心に決めた。

506 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:13:14.68 ID:
上京する直前……部室で、笹子さんにお守りを貰った。
お守りと言っても、便箋1枚に、「負けるな!」と書かれた
簡単なメッセージだった。

でも俺はそれがすごく嬉しくて、とっても心強かった。

目指すは東京、出版社の街。
俺にとっては、かねてからの憧れの地だ……。

507 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:14:37.86 ID:
俺の一番憧れだった雑誌をAとしよう。
俺はそれ以外にも、せっかく東京に行くし…ということで、
BとCの2つの雑誌にも持ち込み予約をした。

AとBは極めて至近に位置した出版社であり、
(人によってはこれだけで見当が付いちゃうかもな)
Cはすこし距離はあるものの、電車ですぐの位置にあった。

日程的に、一日でC→B→Aと回るスケジュールだったので、
俺はひとまずCへと向かった。

508 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:26:55.06 ID:
言ってみれば、Cは俺からしたら保険の保険。
なんとも上から目線だが……
それでもやはり何て言われるのか、緊張で心臓が飛び出そうだった。

そもそも、世で言う「漫画編集者」なる人と初めて話す。
もしかして、ズタボロに言われたりするのか?

いや、俺の漫画が良すぎていきなり担当になったり?
もしかしてもしかして、
ABCすべての雑誌に担当ができちゃったり…!?

まさに、期待と不安が入り交じる。
人生でも初めて感じる、高揚感であった。

509 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:29:25.30 ID:
すごみのあるビルの一階にて、
受付で持ち込みである旨を伝え、入館証を首から下げる。
すごい、これが出版社、東京…!

完全におのぼりさん状態だった。

ABCともに大手であったので、俺は完全に場違いの田舎者のガキであった。

ロビーの椅子にソワソワして座っていると、
なんだか体格がよく、迫力のある男性が来た。

510 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:31:07.86 ID:
そのまま案内され、なにやら小さなブースのような場所へ。
俺はてっきり、編集部に入れるのかも!と考えていたので、がっくりした。

まあ、どこぞの馬の骨とも分からんガキを、執務室に入れるワケがないw

安っぽいパーテーションで区切られたスペース内に、
くすんだ白いテーブルと椅子があった。簡素なものだった。

特になんの雑談もなしに、座ってすぐに「じゃあ、拝見します」と、
原稿を催促された。

「そんなにすぐに…?」と、
心の準備ができていなかった俺は、面食らった…。

511 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:36:48.97 ID:
そしてその男性は、俺の渾身の32Pの漫画を、
ものの3分程度で一気に素読みした。

「ふーん……」とため息をついてから、何個か質問を受ける。

男「これ、何作目?」
俺「2作目、です……」
男「へえ……」

男「今、いくつ?」
俺「今年でハタチです…」

512 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:37:36.36 ID:
そんな質問が何個かあってから、
男性は再び俺の漫画を読み直した。

そして読み終わると、トントンと束を揃えて、
「ありがとう」と俺に渡し返した。

男「悪くないね。漫画にはなってる」
俺「はい……」
男「でも、面白くはないなぁ」

513 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:38:48.13 ID:
俺「ええと…それは」
男「これ、何が面白いと思ってる?」

俺はその質問に対し、自分の感じていたこの作品の良さを説明した。
すごい喋ったかもしれないし、簡潔に答えた気もする。
でも……

男「だめだよ。プロを目指すなら、趣味で描くわけじゃないんだ」
男「それだと売れない」
男「いいかい、自分の漫画は誰に刺さって誰に読まれてほしいのか、よく考えるんだ」

514 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:42:18.66 ID:
男性の言っていることはもっともで……
だからこそ、それに対し何も反抗できない自分が悔しかった。

結果的には、持ち込み時間はたったの小十分で終わり、
俺はボコボコに言われて終わった。

担当がつくなんてこともまったくなく、惨敗だった。

持ち込みの後、近くの喫茶店で一息付きながら…
落ち込みはしたが、まだまだ余裕はあった。

偶然、あの編集には俺の漫画が合わなかっただけだ、と。
それにCは次点の次点。

515 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:44:26.93 ID:
逆に、ここでそれなりにキツイことを言われてよかった。
A、Bに続く良い予行練習になった。

俺はそんな風に前向きに捉え、次のBへと向かった。

Bでの持ち込みも、ほとんどCと同じような雰囲気であった。
違ったのは、編集者が来たあと、
まず「持ち込み票」のようなものに、簡単な個人情報を書いた。

年齢や、過去の受賞歴、漫画歴、好きな漫画等。
恐らく、話をスムーズに進めるためのものだったんだろう。

516 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:47:42.52 ID:
しかし、Bの編集はCよりももっとひどかった。
読むやいなや、俺を攻め立てるように、質問攻め。

B「きみ、絵はいつから描いてる?」
俺「小さい頃からずっと……」
B「……絵の練習って、一日にどのくらいしてる?」
俺「わ、わかんないです…描いてる時間だけなら、2~3時間とか」

B「はっははw 本気?」

その「本気?」と言った目に、怒りや呆れが滲んでいる気がした。

517 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:48:24.05 ID:
B「きみ今年でハタチだろ? 決して若くないんだよ?」
俺「そうなんですね…」

B「今、若くて上手い子なんてたくさんいるんだよ。追いつかなきゃ、そういう人たちに」
俺「はい……」
B「デビューできる子は、毎日10時間描くなんて、ザラだよ?」
俺「え……」

一日に10時間、それを毎日続ける。
この編集さんは、俺の前でそう言い切った。

518 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:51:27.44 ID:
B「みんな本気なんだよ。本気じゃないなら悪いこと言わない。辞めたほうがいい」
俺「は、はあ……」
B「ただ漫然とやってるだけじゃデビューはできないよ。後悔するから、辞めなよ」
B「完成させただけでも偉い…なんて言いたいけど、そんなのは”当たり前”の事だから」
B「…この世界ではね」

そうして……
俺はBでも、C以上にズタボロに言われて……終わった。
Bに関しては、本当にまるでなんの手応えもなかった。

「デビューすることを甘く見るな。舐めるな」と言われ続けて、終わった。

519 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:52:16.16 ID:
俺は……舐めてたのか?
そんな感情が押し寄せた。

Cに続き、Bでも惨敗……。
もしかして、Aでも俺は…

そんな風に落ち込んだが、感傷に浸る間もなく、
次のAの持ち込み時間はすぐだった。

そして、その足でそのままAへと向かった。

520 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/11(月) 22:55:07.74 ID:
運命の時だった。
かねてよりの憧れ、俺の夢そのもの。
そこの編集さんは、俺の漫画を読んで何を思い、何を言うのか?

緊張と、焦りと、不安。
その全てがまざりあって、なんだか吐きそうな気分だった。

俺を出迎えた編集さんは、比較的若い方だった。
BとCがかなりベテランっぽい印象があったので、
俺はそれだけで少し安堵した。

少なくとも30代前半くらいの方だった。
この人なら、俺と感性が近いかもしれない…!

521 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/11(月) 23:52:55.89 ID:ebNNalDqH
妙なところで終わったな

522 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/12(火) 00:14:31.78 ID:
A「他にも、まわってきたの?」
Aの編集さんは不意にそんな事を訊ねてきた。
時間が夕方だったからだろう。

俺「あ、はい、2つほど……」
A「そっかぁ。遠方からだと、一日で回っちゃうのがいいもんねぇ」
俺「そ、そうですね…」

今までよりも明らかにざっくばらんな雰囲気で、俺は戸惑った。
同時に、話しやすくていい人かも…と思った。

もしこの人が、俺の担当になってくれれば……。
そんな淡い願いも持った。

523 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/12(火) 00:15:55.19 ID:
A「じゃあ、見せてください」

対面に座ったAは、笑顔でそう促した。
こちらの緊張をほぐすためなのか、ずっと柔らかな態度だった。

そして、目の前で…。
憧れの雑誌の編集さんが、俺の漫画を読んでいる。
一瞬にも無限にも感じる、息を飲む時間。

後にも先にも、人生でこんなに緊張した経験はない。
ドキドキしすぎて呼吸は荒くなるし、
なんだかトイレに行きたいような気もしてくるし、
手も震えが止まらんし、本当に大変な時間だった。

524 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/12(火) 00:16:59.57 ID:
ごめん、今日はこの辺で一旦落ちます。

続きはまた明日あたりに。
多分、あと数日以内に終わると思う。
最後まで付き合ってくれると嬉しい。では、また

525 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/12(火) 00:26:40.67 ID:hKgupD3y0
続き楽しみに待ってる

526 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/12(火) 00:35:44.50 ID:bR+IwmB+0
また良いところで終わってくれるなぁ

527 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/12(火) 01:23:25.39 ID:sDoRVqcGd
一気読みしたけど凄い面白い
乙です続き楽しみにしてます

534 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:11:40.83 ID:
>>527
ありがとう~最後までがんばります

528 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/12(火) 01:47:13.87 ID:PHbwu4c+0
笹子さんとのベッドシーンはよ

534 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:11:40.83 ID:
>>528
そんなものはない(´・ω・`)

529 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/12(火) 22:14:56.66 ID:rR24wwhOd
たのしみ

530 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/12(火) 22:27:34.66 ID:Zthyj5GfH
あの夜が最高ということは笹子さんとは何もないのか
ちぇっ

535 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:14:08.55 ID:
A「はい」
そう言うと、Aは俺の漫画を読み終わったようだった。
体感に過ぎないが、BやCよりも丁寧に読んでいた印象だ。

A「うーん、悪くないけど…。ごめん、面白くないなぁ」
俺「は……」
A「キャラがよく分からなくてさ、もうちょっと真剣にキャラの事考えた方がいいかも」
俺「そうですか……」

A「あと、絵はもっと練習した方がいいなぁ…」

536 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:17:10.34 ID:
A「正直言うと、内容もイマイチで、絵もイマイチだから…」
A「なにか良いところがあればいいんだけど」
A「これだと、とても賞にも回せないなぁ」
俺「はい……」

A「ごめん。歳はいくつ?」
俺「今年でハタチです…」
A「ってことは、大学2年生とか?」
俺「はい」
A「そっかぁ…」

537 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:18:19.63 ID:
A「それなら、就活の準備した方がいいんじゃないかな」

この一言が、俺の運命を決めた。
ああ俺、漫画家を目指す資格がないんだなって。
この時、本当に人生で初めて、心から気づいた瞬間だった。

辞めた方がいい、じゃなくて、「辞めないとダメ」なんだって。

A「いや、就活じゃなくてもいいんだ」
A「ごめんね。でもこれ以上漫画を描いてても、君にとっても良くないよ」
A「僕らも、無責任な事言えないんだよ。だって人生がかかってるわけだから」

538 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:38:43.67 ID:
Aの編集さんはまったく悪い人ではなく…むしろ本当に良い人だったと思う。

A「ここで、よっしゃ向こう5年捧げて漫画家目指そうって言うのは簡単なんだ」
A「だってもし君が5年後に失敗しても、僕には関係ない」
A「でも、君にとってはやり直しのきかない…人生だ」

A「人生を、一生を捧げる覚悟はある?ってことなんだよ」

俺は言葉もなかった。

A「そして僕は……捧げない方が良い、と思うよ」

終わった。俺の夢。

539 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:40:39.30 ID:
何を狂ったのか、去り際に俺は……
俺に引導を渡した編集さんに、
「A誌、ずっと好きでした」と伝え、その場を去った。

まさに、「作家志望」から「ただのファン」に変わった瞬間だったと思う。

ずっと俺の人生を彩っていた光り輝く「夢」が目の前から崩れ去った瞬間。
苦しい時も、周りから反発を買った時もあった。
でもそれは、すべて夢への原動力。

光り輝く夢がずっとあったから、俺は頑張ってこれたし、
多少めちゃくちゃな、”痛い”事でもやり通してきた。

…でも、今は?

540 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:43:39.51 ID:
俺は帰りの電車で……
かつてなく、それはもう凄まじく真っ黒な感情に呑み込まれた。

笹子さんからもらったお守りの便箋は、
見るのが辛すぎて、ぐしゃぐしゃにしてホームのゴミ箱に捨てた。

ホームに飛び込んで死んでしまおうか?
帰り道にトラックに突っ込んでやろうか?
そんなおびただしいほどの希死念慮がみるみるうちに俺を支配して……

俺は「死にたいな」とだけ思うようになった。

541 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:44:42.07 ID:
才能もないくせに、漫画家になんかなれもしないくせに、
ずっとずっとイキり倒して、周りをバカにして、
自分が一番だと思いこんできた、痛すぎる俺。

こんなヤツ、いなくてもいいじゃん。
よし、死のう。

俺はその日、下宿に帰ってから寝ずに徹夜した。
徹夜して、色んな「死に方」をネットで調べた。
でもそのどれもが眉唾で、なんとも現実味がなかった。

542 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:49:18.76 ID:
俺のアパートの部屋はボロかったが、4階にあった。
最悪、ベランダから飛び降りればそれで事足りるか?
でも、死にきれなかったら地獄じゃね?

そんな事を考えているうちに朝になり、
よしそれなら、と思って俺は近所のホームセンターまで行って、
それらしいロープを買ってきた。

543 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:50:10.16 ID:
気づけば時間は昼前だった。
本来なら、普通に大学に行っている日だ。

俺は部屋でひとり、買ってきたロープをずっと眺めていた。
本当に死ぬ気があったのかどうかは、今でも良く分からない。
いや、多分死ぬ気なんてなかった、微塵も。

ただ、絶望はしていたんだ、本当に。

やっぱり怖かった。
死にたくて仕方ないのに、消え去りたくてしょうがないのに、
それでも本当に死ぬのは怖くて怖くて堪らなかった。

544 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:52:15.81 ID:
俺は1年生の頃、なにかの授業で教授が、
「万が一自殺したくなったら、その直前に誰か知り合いに一本だけでいいから電話しろ」
と言っていた事を思い出した。

電話することで他者と話をし、自殺願望が薄れるという。

当時、若者の自殺が問題視されており、
大学でも1年次に注意喚起を込めて、そういった授業があったんだ。

そして、俺の人生において、最も「痛い」瞬間が来てしまう。

545 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:53:37.82 ID:
俺は……。
穂高でも、横森さんでもなく……
本当に何を思ったのか……

笹子さんに電話をしていたんだ。

笹子「もしもし、1くん?」
俺「笹子さん……」
笹子「どうしたの?」

546 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 22:54:57.72 ID:
俺「俺……もうダメです」
笹子「え…なにが?」
俺「俺、死にます」

笹子「何言ってるの…?」
俺「笹子さんには、最期にお礼を言いたかったので」
笹子「ちょっと…今どこにいるの?」

俺「家っすけど……」
笹子「ちょっと1くん、落ち着いて。何があったの?」

547 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/13(水) 22:59:06.63 ID:iRnscuuYM
クソワロタwww

549 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:03:02.07 ID:
俺「何もないですが…ただ、もう生きていても意味ないので」
笹子「意味分かんない! 急にどうしたの?」
俺「笹子さん、今まで本当にありがとうございました」

俺「それじゃあ、さようなら」
笹子「待ってよ!」

俺はそのまま、電話を切った。

550 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:04:27.89 ID:
悲劇の主人公を気取っていたのかもしれない。
「死ぬ」といえば、まだ自分が注目を集められると勘違いしていたのかもしれない。

カリヤとの辛い過去がある笹子さんに……
俺は、決してやってはいけないことをやってしまった。

俺は正真正銘、痛すぎるクズでしかなかった。

いや、もう痛いとかじゃないな。
ただの人間のクズ。

551 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/13(水) 23:06:20.20 ID:gi2ewNHNd
それだけはアカンやろ…(´・ω・`)

552 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/13(水) 23:08:22.13 ID:PaZ+RYdn0
思い出した叫びたくなるやつやこれ

553 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:09:27.60 ID:
それから、笹子さんから何件も、鬼のような着信があった。
だが、俺はすべて無視した。
次第に笹子さんだけではなく、穂高やオショウさんからも着信が来た。

笹子さんはきっと部室にいたんだ。

その間、見よう見まねで、服用の備え付けのポールにロープを結んだ。

死ぬ気なんてきっとなかったので、見せかけだけのものだった。
そういう事をすることで、「死にそうな自分」に酔っていたのかもしれない。

俺は悲劇の主人公なんだ、と。
悩める才人なんだ、と。
そう暗示していたんだと思う…。

554 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:11:41.66 ID:
俺のアパートは、大学から歩いて10分程度の場所にあった。

だからか……
不意にインターホンが鳴ったかと思えば、
外から「いいよ開けろ!」と声が聞こえてきて、玄関が開いた。

そして、「おい!大丈夫か!」と叫びながら部屋の中に、
笹子さん、穂高、オショウさん、3年女子一人が入ってきた。

笹子さんは、「1くん…」とだけ言って、そのまま泣き崩れた。
すぐにオショウさんが近寄ってきて、俺の両肩を掴んだ。

オショウ「お前、何やってんだよ!!」

555 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:14:56.95 ID:
俺「なんすか、みんなして……」
オショウ「あのなぁ、こっちがどれだけ心配したか分かってんのか!」
俺「知らないっす。俺は死にたかっただけなんで」
オショウ「バカ言うな!」

オショウさんはそう言うと、ポールに結ばれたロープをほどき始めた。

穂高「お前、本当にするつもりだったのか…?」
さすがの穂高も、ほとほと狼狽した様子で、訊いてきた。

俺「なんだよ。関係ないじゃん。大体、俺なんか死んだっていいだろ」

笹子「そんなことないよ!!」

556 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:16:50.89 ID:
笹子さんは、声が枯れるほどの勢いで叫んだ。

笹子「死んでいいわけないじゃん!なに言ってんだよ!!」
笹子「なんで、なんでこんな事すんだよぉ……」
そしてまたぼろぼろと涙を流し、号泣した。

笹子さんの様子は本当に大変なもので、
泣きすぎて呼吸もままならないほどになっていた。

そのまま、一緒に来ていた女子に抱きかかえられて、部屋を出ていった。

笹子さんをあんな状態にしたのは、紛れもなく俺だ。
俺って、なんなんだ?

557 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:20:59.11 ID:
しばらく、穂高とオショウさんだけが俺の部屋に残り、話を聞いてくれた。

オショウさんは「腹が減ってるから気が滅入るんだ」と言って、
宅配ピザをオゴりで取ってくれた。

俺もピザを食べているうちに”発作”が収まり…だいぶ冷静になっていた。

そして話すうちに、穂高もオショウさんも、
俺に「本当に死ぬ気なんてない」という事を察したようだった。

558 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:23:05.28 ID:
オショウさんからは、手厳しい事を言われた。
多分オショウさんは、俺のこと嫌いだったんだろうな。
本当にごめんなさい。

オショウ「俺は別に、お前が死ぬなんて思ってなかったよ」
オショウ「お前は、雁屋とは違うからね」

言われたのはそれだけだったが……
それが何を意味しているのか、俺にはよく分かった。

559 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:27:59.28 ID:
俺はカリヤと違って、口だけで実力がない。
俺はカリヤと違って、周りにアピールしかしない。
俺はカリヤと違って、本気じゃない。

そしてそのどれもが、真理だった。

俺は何もかも、カリヤとは違った。
そして、そのカリヤですら届かなかった漫画家という夢。

俺には語る資格すらないよな。

560 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:31:48.09 ID:
オショウさんは、カリヤと高校時代からの同級生だった。
オショウさんは一浪したから学年こそカリヤの一つ下だったが…

高校時代からずっと「盟友」だったらしい。
カリヤがあおい坂高校野球部などの作品を愛していたのも、
高校時代のオショウさんからの影響だったという。

そして、今回の俺の自殺騒ぎは……
そんなオショウさんの逆鱗にも触れたんだと思う。

大切な友人を自殺で亡くしたオショウさんが今回の件をどう思ったかなんて…
火を見るより明らかだった。

561 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:32:59.91 ID:
かくして俺は……

笹子さんを取り返しもつかないくらい傷つけ、
無二の友人である穂高にも「自殺しようとして気を引くやべえヤツ」という印象を残した。

次の日、穂高に連れられて横森さんも家に来た。
「お前ふざけんなよ!」と怒鳴り込まれた。

あんなに俺のことを気にかけてくれていた横森さんにすら、
俺は見放されたのであった。

そりゃあそうだ。
合宿の時、約束したんだから。
「俺は絶対にカリヤのようにはならない」って。

562 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:34:07.95 ID:
それが、自分から進んであんなひどい事したんだ。
怒らないはずがない。

もう、みんなにバレちゃったんだよね。
俺は夢に向かって頑張ってるヤツでも、絵を描くのが大好きなヤツでもなく、
どんな方法であろうと、みんなから注目を集めたいだけの”痛すぎるヤツ”だって。

563 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:35:39.86 ID:
俺の根底にあった有り得ないほどの承認欲求と、選民意識。
そういったものが、俺をこういった奇行へと走らせた。

よく飲み会とかでさ、常に話題の中心にいないと気が済まないヤツいるだろ?

それの究極形態が、大学の時の俺だったんだよな、きっと。
みんなから一目置かれたくて、仕方なかったんだよ。

564 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:42:21.22 ID:
その後俺は、部活も、大学も、漫画も……
何もかもがどうでも良くなって、一年弱休学した。

俺が休学したという報せは、穂高を通して漫研にもすぐ広まったようで…
笹子さんからもメールが来た。

「実家に帰るの?」と、ただそれだけ。
でも、それだけでも嬉しかった俺は、
「そうです。だから心配しないでください」とだけ送っておいた。

休学して、実家に帰ってしばらく引きこもった。
もう大学に俺の居場所なんてなかったしね。

565 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:44:24.83 ID:
俺はクズだったからな…

その後大学を休学している間も、特にバイトをするわけでもなく、
実家で穀潰しになり、毎日自室に籠もってゲームして食って寝るだけ。

そんな、自堕落ですべてが終わった生活を、ずっと続けた。
実家は裕福な方だったから、特に金の心配もないし、
俺の親は不干渉だったから…何も言ってこなかったな。

すべてが終わった部屋で、ただただ毎日、
世界が明るくなって暗くなるのを見ているだけだった。

566 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:49:08.30 ID:
まだ痛かろうが漫研で浮いていようが、
元気に大学に通っている時の方がずっとマシだった。

俺は真っ暗な部屋で、自分が絵を好きだったことも、
漫画家になりたかったことも、大学で出会った沢山の人のことも、
笹子さんのことも、すべて忘れて天井を見つめて過ごした。

次第に、俺を心配してメールをくれていたいくらかの人たち…
穂高や、横森さんや、笹子さんも、メールを寄越さなくなった。

567 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:55:11.41 ID:
そんな風に日々を削り取っているうちに、
時間はあっという間に流れて……

翌年の春、4月になっていた。
俺だけ2年生のまま春を迎えて…
穂高は3年生に、笹子さんや横森さんは4年生になっていた。

568 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:56:06.48 ID:
親に、さすがにもう大学に行けと唆された俺は、
数ヶ月出入りしていなかったアパートへと戻った。

一度引き払って再度部屋を借りるよりは安上がりだろうって事で、
休学している間もアパートの部屋は借りたままだった。

再びあの部屋を開けた時は、色んな記憶が蘇ってしんどかった。

俺、こんな場所で死のうとしてたんだな。
いや、正確には”死ぬフリ”か。
みんなの気を引きたかっただけで、きっと死ぬ気なんてなかった。

569 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/13(水) 23:58:56.58 ID:
大学近くのアパートに戻ってからも、俺は相変わらず引きこもった。

ただでさえ、周りから一年ビハインドしてしまって、
授業になんて行く気にはなれなかった。

何もかもがくだらない、もう大学なんてやめちゃおうかな、
なんて思っていたときだった。

穂高から一通のメールが来た。

「笹子さんと横森さん、内定取ったってよ」

570 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/14(木) 00:00:42.81 ID:
内定。
正直、聞き馴染みのない言葉だった。

まだまだ、ずっと遠い世界の話だと思ってた。
社会に出るなんて遥か先の話で、
自分はこのままずっとモラトリアムを謳歌できると錯覚していた。

だから、笹子さんや横森さんが”内定”を取ったと言われた時…
上手く気持ちの整理がつかなかった。

571 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/14(木) 00:02:29.55 ID:
そんな身近な知っている人たちが、内定。
そうか。笹子さんや横森さんも、もう社会に出るんだ。

と、そんな当たり前のことに気付かされた。

笹子さんは小さなゲーム会社でデザイナー、
(あれだけ絵は仕事にしないと言っていたのに…)
横森さんに至っては、ガチで出版系の内定を取った。

あの二人は、俺なんかよりずっとずっと、
自分の夢に近づいたんだな…と思った。

572 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/14(木) 00:04:20.47 ID:
穂高からのメールには、
「二人の内定祝いをするんだ。お前も久々に来るか?」
と書かれていた。

今さら、どのツラ下げて俺があの二人を祝いに行くんだろう。

万が一、億が一にだ。
俺が行ったとして、笹子さんを祝ったとして、
それで笹子さんは笑ってくれるんだろうか?

573 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/14(木) 00:07:27.42 ID:
そんな事、1ミリも想像できなかったので、俺は行かなかった。
…当たり前だけどね。行くわけがない。

大体、大学にすら全然行っていなかったので、あの穂高とすら顔を合わせていなかった。

いよいよもって、大学に俺の居場所がなくなっていた。
穂高からは、
「こっちに戻ってるんだろ? 飲みにでも行こうぜ」
と、再三誘いをもらっていたが……

そういう、アイツの優しいところに甘えるような事も申し訳なかった。
だから俺は結局誰とも関わることができず、月日を消費していった。

…何もしないうちに。

574 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/14(木) 00:08:26.14 ID:
今日は一旦この辺で落ちます。。

かなり長くなってしまって申し訳ない…
そろそろ書ききれると思いますので、
もう少しだけ付き合ってくれると嬉しい!

ではまた~

576 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/14(木) 09:44:33.67 ID:MeP2B2N5d
好きなことを仕事に出来て二人とも普通に凄いな

579 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/15(金) 14:18:59.96 ID:E0FckU3nd
マジで楽しみ
待ってます

580 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:39:46.12 ID:
こんばんは!
続きを書いていこうと思います~

581 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:40:30.87 ID:
親には「真面目に授業を受けている」と軽薄な嘘をついて、
俺は大学に行くこともなく、誰と会うこともなく、
しみったれたアパートの部屋で一人過ごしていた。

ぼんやりしているうちに、季節は流れて6月になった。
むしむしして、すっかり暑くなっていた。

金もなかったので、エアコンを無闇に使うこともできず、
昼間だけ大学図書館に避難して涼んだりしていた。

高い学費を払って、授業を一切受けずに、
図書館で涼んでるんだから、本当に救いようがないよ。

582 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:41:12.54 ID:
しばらく、昼過ぎに起きて涼むためだけに大学図書館に繰り出すという、
世界で一番意味のない日々を過ごした。

テスト期間でもなく、基本的に人影のまばらな図書館で、
俺は日がな一日中物思いに耽っていた。

「はじめから絵なんて…漫画なんて描いていなければ」
「こんな事にはならなかったのに」

俺は、かつて創作活動に打ち込んでいた自分をひどく恨めしく思った。
と同時に、もはや心の底から絵を描くことが嫌いになっていた。

583 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:42:20.64 ID:
無駄な時間だった。
すでに、大学の2年間を棒に振った。

そして終いには大きくつまずいて転んで、すっかり居場所をなくして。
きっとだらだら留年を続けて、就活も上手く行かずに、
クソみたいな人生を歩むんだろうか。

目の前に広がる暗闇が本当に怖かった。

「漫画なんて描かずに、俺も普通に漫研に参加していたら、もしかしたら」
ありもしなかった架空の日々に思いを馳せた。

絵なんて、漫画なんて、クソだ。
そう思った。

584 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:44:15.96 ID:
図書館にこもるようになってからどのくらいだったか分からない。
館内の端のデスクで眠りこけていた俺の肩を誰かが叩いた。

「戻ってきてたの?」

俺「え……?」
笹子「久しぶりだね」

そこには、約一年ぶりに見る笹子さんの姿があった。
めちゃくちゃに気まずかった。
俺が最後に見た本物の笹子さんは、ぐしゃぐしゃに泣いていた時だった。

実に、あのクソ騒動以来での対面であった。

585 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:45:29.77 ID:
笹子「元気そうで、よかった」
俺「あ……は……はい」

笹子「こんな所で、何してるの?」
俺「い、いや、別に特に何も……」
笹子「部室、来る?」

そう水を向けられたが……今さらあんな場所に行けるワケがなかった。
っていうかもう、部員ですらなかったし。

俺「いや、いいです……」
笹子「そっかぁ。お腹は、すいてる?」

586 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:47:00.55 ID:
俺「そ、それなりには」
笹子「じゃあさ、一緒に学食で行こうよ」
俺「大丈夫ですが…いいんですか?」

笹子さんは「なにが?」とでも言わんばかりにキョトンとして俺を見た。

笹子「じゃあ、せっかく久々に会ったし、いこっか」

そう言われて連れ出されて、俺は笹子さんと二人で学食へ向かった。

587 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:48:29.00 ID:
券売機の列に並びながら、妙に気まずい空気を感じつつ、
俺は「あの件」に触れる勇気を振り絞った。

俺「あの」
笹子「ん、なに?」
俺「俺…あんな事して…本当にすみませんでした」

笹子さんは、少し上の空で「あ~…」と言うと、
「ま、もういいよ。ほとんど忘れた」と力なく笑った。

588 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:50:00.51 ID:
その奥底には、もう絶対に消すことのできない傷があって、
俺と笹子さんの間には、どうしようもなく深い溝があることが、痛いほどに分かった。

笹子「私は、1くんが元気に大学に戻ってきて嬉しいから」
俺「あ、ありがとうございます…」

そんな会話をしつつ、料理を受け取って二人で空席をさがした。
ピーク時は過ぎた時間帯であったが、
それでも良さそうな席は埋まってしまっていた。

589 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:51:10.03 ID:
席に着いてからも、気まずい時間が流れた。
どうして笹子さんは、俺なんかを誘い出してくれたのだろうか?
単純に心配だったのだろうか。

俺「笹子さんも、もう4年生ですもんね」
笹子「どうしたの急に? そりゃそうだよ」
俺「いや、俺はまだ2年ですから」
笹子「あっ…そっか、ごめんね」

自分だけピッタリと、時が止まっているような気がした。

590 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:52:33.65 ID:
俺「そういえば、穂高のヤツから聞きました。内定おめでとうございます」
笹子「あ、ありがとう!」

俺「聞きましたよ。ゲーム会社でデザイナーだって」
笹子「うん、行きたかったところなんだ」
俺「笹子さん、絵は仕事にしないって言ってたから…意外でした」

俺がそう言うと、笹子さんは「そんな事も言ってたね」と笑った。

笹子「私ね、色々考えたんだ。自分の将来のこととか、人生のこととか」
俺「はあ……」

591 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:54:28.95 ID:
笹子「絵で食べられるなんて到底思ってなかったんだけど、」
笹子「それでも、自分の好きな事を仕事にできたら、きっと楽しいんだろうなって」
笹子「好きな事を仕事にすると辛くなるってよく言うけどさ」

笹子「それくらい人生を好きな事に捧げたかったから……」

熱心に話す笹子さんの顔を見て…俺は思った。

「ああ、この人は俺とは違うんだなぁ」

592 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:55:50.29 ID:
俺「……すごいと思います」
笹子「いやまあ、ただ運が良かっただけだよぉ」

運がいいだけで、ゲーム会社でデザイナーになれるわけがない。
それは確実に”笹子さんの実力”だ。
俺は心の中でそう思ったけど、口には出さなかった。

俺「きっと笹子さんはこれからも、一生絵を描いていくんですね」
笹子「まあ、仕事にしたらね。きっとそう」

本当に愛して傾倒するって、こういう事だったんだな。

593 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:56:52.52 ID:
笹子「1くんは、もう絵は描いてないの?」

そう言われて…ドキッとした。

俺「俺はもう…描かないっすよ」
笹子「え、でも、あんなに熱心だったのに」
俺「あれは……一時のものだったというか。多分嘘っぱちだったんです」

笹子「……本当に?」
笹子さんは、とても寂しそうな顔をしていた。

594 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:58:05.40 ID:
俺「…本当ですよ。もう、二度と描かないです」
俺「意味ないですから」

笹子「…嘘だよ」
俺「嘘って、何がですか? 僕はもう描きたくないって自分で…」
笹子「そんなの嘘じゃん!」

珍しく、笹子さんが大きな声を上げた。

595 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 22:59:08.69 ID:
俺「え……?」
笹子「1くんの絵は、いつも楽しそうな気持ちが伝わってくる素敵な絵だったよ?」
笹子「描きたくないなんて、そんなの嘘だよ」

俺「だって、俺なんかが描いたところで…もう意味なんか……」

笹子「1くんは初めて絵を描いたとき、意味があると思って描いてたの…?」

そう言われて俺は。
自分が「楽しい」と思って絵を描いていた日々の事を思い出した。

初めてお絵かきしたのはきっと小学1年の時で、
カービィを模写して母親に褒められたことがすごく嬉しかった。

596 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:00:25.18 ID:
小4の時、ドラゴンボールの模写をして、キャラクターを初めて描いた。
中学に上がって、初めて女の子のキャラを描いた時はすっげえドキドキしたけど、
めちゃくちゃに楽しかったことを、今でも覚えてる。

でも、高校に上がってからはオタクいじめをされ、
そこから「見返してやる」という気持ちが強くなって、
ただただ自分の存在証明のためだけに絵を描き始めて……

「楽しい」よりも、「焦燥感」の方が、勝っていたかもしれない。

俺には才能があって、誰よりも上手くないといけなくて、
絶対に賞を取って、必ず漫画家にならなくてはいけない。

いつからか俺は、そんな風に考えてしまっていたんだ。

597 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:02:37.21 ID:
バンプの「才悩人応援歌」じゃないけど、
いつしか俺はそんな人間になってしまっていた。

そしてそれで突き進んだ結果……
今、こんな姿に成り果てた自分がいた。

笹子「1くんは、どうして絵を描き始めたの?どうして絵を描いていたの?」
俺「そ、それは……」

笹子「ずっと前だけどさ…私、1くんがアンケートに描いてくれた大河の絵、よく覚えてるよ」
笹子「楽しそうに絵を描くなぁって」
笹子「私は、1くんの絵がずっと好きだったよ」

嬉しかった。笹子さんにそう言ってもらえるだけで、どれほど救われたか。
でも、自分だけじゃもう、どうしていいかわかんなかったんだ。

598 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:03:36.09 ID:
笹子「もう、描かないの?」
俺「わ、わかりません! 俺にもわからないんです。俺はもうどうしたらいいか…」

俺「絵を描こうとすると、むなしくなるんです」
俺「叶わなかった夢とか、理想とかがちらついて、もう前と同じように描けないんです!」

俺は必死になって、そんな事を笹子さんに言っていた。
でも、取り乱した俺に対しても笹子さんは、落ち着いた様子だった。

笹子「1くんさ、この夏、ヒマ?」

599 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:04:47.69 ID:
俺「ヒマですけど……」
笹子「私と一緒に、コミケ出ようか」

笹子さんの口から「コミケ」というワードが飛び出し、俺は驚いた。

俺「え、コミケですか? それって、同人誌を出すってことですか…?」
笹子「そうだよ。だからさ、同人誌作ろうよ」

笹子さんからの誘いだから、断るはずもなかったのだけど、
それってまた面倒くさい原稿作業をしないといけないのか…?
と思うと、気乗りはしなかった…。

600 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:06:03.61 ID:
俺「でも、同人誌なんて俺興味ないですし、なんのためにそんな……」
笹子「だから、私が見たいんだよ。1くんの作品」

胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
本当に卑怯だ、この人は。

今まで俺は、漠然と自分の自己実現……
ただ夢のためだけに、絵や漫画を描き続けてきた。

こんな身近なたった一人のために何かを描く。
そんな事、考えたこともなかった。
そして、何かを作る上では、それが一番大事な事だったのかもしれない。

601 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:07:49.56 ID:
俺「そ、そんなのずるいですよ……」
笹子「だからさ、一緒に描こう、同人誌」

俺「え、一緒って…?どういうことですか?」
笹子「だから、1くんと私の合同誌にしようよ。そしたら費用だって折半だよ!」

俺「俺を使って、費用を抑えようとしてません?」
笹子「ひどーい!そんな事ないよ!本当に1くんと同人誌が作りたいんだよ」

茶化すと、笹子さんはなんだか楽しそうに笑ってくれた。

602 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:09:09.95 ID:
俺「…わかりました。笹子さんがそこまで言ってくれるなら、一緒に作りましょう、同人誌」
笹子「ほんとに?」

俺「でも、コミケって申し込みとかジャンルとか…色々複雑だって聞きましたけど…」
笹子「あ、それなら大丈夫。就活が終わるだろって見込んで、私申し込んでおいたの」
俺「おお、それはすごいですね……」

笹子「まだ就活中だったらやばかったけどねw学生時代のうちに、一度参加してみたかったから」
俺「確かに、社会人になったら参加は難しいかもですね…」

俺「あ、そうだ。ちなみにジャンルは…?なにか版権ジャンルですか?」
俺がそう訊ねると…笹子さんは首を横に振った。

笹子「創作少年。…ほら、1くんの出番でしょ?」
笹子さんがドヤ顔でそんな事言うもんだから、俺は思わず吹き出した。

でも、なんだか騒がしくて楽しそうな夏になる気がした。

603 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:12:27.19 ID:
それから俺は、ずっと立ち上げていなかったコミスタを久々に起動し…
原稿作業に着手した。

笹子さんはイラストしか描けないとの事で、本文の半分を笹子さんのカラーイラスト、
そしてもう半分を、俺のモノクロ漫画で埋めることにした。

その間、笹子さんとたまにSkypeで連絡を取り合ったりして、
お互いの進捗を確認しあったり、励まし合ったりした。

印刷所の手配なんかも俺の方でして、
少しでも質が高く、料金がリーズナブルな所を探した。

本来であれば何もなかったはずの夏が、急に慌ただしく、
そして鮮やかに色づきだしたので、戸惑いつつも、それを目一杯楽しんだ。

604 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:13:56.07 ID:
7月の下旬に差し掛かると、いよいよ〆切間近。
本文も大体が仕上がって、あとは表紙絵だけ、となった時。

表紙のイラストはカラーが上手な笹子さんのイラスト単騎でいく予定だったが、
笹子さんが「二人の本だから」と、
どうしても俺と笹子さんのイラストを組み合わせた表紙絵にしたがった。

カラーはほとほと苦手だったんだけど、
笹子さんの「二人の本だから」という気持ちが嬉しくて、
俺は苦心してなんとか、オリジナルのカラーイラストをでっち上げた。

色んな苦労がありつつも、すべてのデータを無事に入稿した俺たちは……
きたる「夏コミ」本番を待つだけとなった。

605 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:15:48.26 ID:
当日。
俺は大井町で安いビジホを借りて前泊し、
笹子さんは高田馬場の親戚の家に泊まって前乗りをした。

早朝に国際展示場駅で待ち合わせた笹子さんと俺は、
初めての異空間に圧倒された。

見渡す限り人の海で、果てしない熱気をまとった人間が、
このビッグサイトで一堂に介している。

その状況があまりにも「非現実的」で、
俺も笹子さんもただただ圧倒されるばかりだった。

606 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:18:00.76 ID:
俺たち「創作」ジャンルのスペースは西展示棟だった。

東に比べればそこまで広くない西館であるが、
この時ばかりは俺も笹子さんも圧倒された。

あの「コの字型」の展示棟に、これでもかと長机が並んでいて、
色んなサークルさんが思い思いのポスターを掲示し、
自分の「自慢の作品」を並べている。

その光景には、すべてに「情熱」と「愛」が宿っていて、
こんな世界があるんだなぁとかつてない衝撃を受けた。

607 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:20:10.59 ID:
スペースにたどり着くと、すでに長机の下には印刷所のダンボールがあった。
笹子さんと二人で興奮しながらスペース内に入り、
「これですよね!?」と急いでダンボールを開封。

なんとも言えないインクの匂いともに…
俺と笹子さんの苦労の結晶である、同人誌の束が出てきた。

俺「す、すごい! 本当にちゃんと、本に、本になってますよ!!」
笹子「マジだ!すごい!ちゃんと本だ!」

608 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:21:54.29 ID:
作った部数は、ちょっと強気の50部。
いや、大手のサークルさんからしたら、大した数字じゃないだろうが。
初参加で、かつオリジナルの同人誌とあっては、かなり冒険した数字だった。

でも、笹子さんはピクシブでも普通に人気があったので、
このくらいの数字にしても普通に大丈夫だろう、という算段だった。

初めての同人誌にすっかり舞い上がった俺と笹子さんは、
あたふたしながらサークル設営をしつつ、
隣のサークルさんと挨拶をして新刊を交換したり、スタッフさんに見本誌を提出したり、
そんな初めての「同人イベントの定番」を楽しんだ。

609 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:22:53.01 ID:
そして、時刻が10時になり……
会場内、一斉の拍手とともに、コミケがスタート。

その拍手の文化を知らない俺と笹子さんは、
きょろきょろと周りを見回しながらも、なんとなく拍手をした。

開始してから15分弱で、「新刊ください」と、
一人の男性が同人誌を購入していった。

緊張でどぎまぎしながら「ありがとうございます!」と
言って、本を手渡した。

610 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:26:23.89 ID:
俺と笹子さんは「売れた!」と大はしゃぎ。
「本当に買ってくれる人がいた!」と二人して大喜びであった。

その後も、あまり途切れることなく、俺と笹子さんの同人誌は次々と売れていった。
その度に、俺も飛び跳ねて喜んでいたが…。

けど、時間が経つにつれて俺は気づいた。
これ、買っていってる人、ほとんどが笹子さんのファンだ。

考えてもみれば、当然のことであった。
だって笹子さんはpixivでもランキングに入るほど、
すでにそこそこ知名度があって、かつイラストもすこぶる上手い。

そんな人と合同で本を出したら……そりゃあ、笹子さん目当てで買いに来る人ばかりだろ。

611 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:27:41.59 ID:
立ち読みする人もみな、笹子さんのイラストパートを熟視して購入しているし、
声をかけてくる人も、みんな「○○さん(笹子ペンネーム)います?」としか言ってこない。

開始1時間くらい経過してから、今さら俺はその事実に気づき……
スペース内で一人また、自分を客観視していた。

「笹子さんと同人誌が作れる」っつって一人で勝手に盛り上がって舞い上がっていたけど、
結局、結局……現実はこれだ。

俺はただのヘボで、主役ではない。
この同人誌だって、作る意味はなかったんじゃないだろうか?

612 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:28:28.64 ID:
昼過ぎあたり……同人誌の在庫もわずかになってきた時。
俺はふと、こんな事を言ってしまった。

俺「この同人誌……俺、必要だったんすか?」
笹子「…どうして?」
俺「だって買いに来る人はみんな笹子さん目当てで…」
俺「はっきり言って、俺の漫画なんてただの邪魔ですよね?」

そう言うと、笹子さんはイベント効果で高揚していたのか…いつもの笹子さんとは違った。
ぱしん、と俺の肩を叩くと、
「何言ってんの!1くんの漫画最高だったじゃん!」と楽しげに言った。

613 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:30:07.21 ID:
笹子さんは、同人誌を開いてまじまじと眺めた。
笹子「1くんの漫画、すごく面白かったよ」
笹子「描いてくれて本当に感謝してるし、私、また1くんの漫画読めて…本当に嬉しかったよ」

ちょっと前まで「笹子さんは印刷費を抑えるためだけに俺を利用したんじゃ…」
とか考えていた自分を、殴り倒したくなった。

笹子さんのその表情には、まったく嘘偽りがなかった。
本当に、心の底から、きっと俺の漫画を楽しみにしてくれていた。

というか、どうかそうであってほしい。
あの女神のような表情が、嘘であったなら、俺は死ぬ。

614 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:31:13.18 ID:
俺「笹子さん……」
笹子「だから、そんな事言わないでほしい」
笹子「少なくとも今日、私たちの同人誌はたくさんの人の手に…渡ったんだから」
俺「まあ……それも、そうですね」

俺は、あと数冊になった同人誌の残りを見て、
最後までイベントを楽しもう、と思った。

そして、それから少しだけ間があって……。

615 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:32:09.41 ID:
笹子さんのファンと思われる若い女性が一冊購入していき、
そのすぐ後であった。

俺と同性代くらいの、若い男性が「いいですか?」と同人誌を手に取った。
そしてしばらく熟読。
一回読んで、もう一回読み直す。

そして笑顔で顔を上げると……

男「この漫画描いた方、今いらっしゃるんですか?」

急な質問に、俺も笹子さんも驚く。

俺「あ、俺……ですけど」

616 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:34:02.04 ID:
男「この漫画、すごく面白かったです!一冊ください」
そう言って笑顔で、500円を差し出した。

初めてのことだった。
まったく知らない誰かに、直接、自分の漫画を褒めてもらったこと。
だから俺は嬉しくて、嬉しくて、混乱してしまい……

その男性が去ったあと、スペースに立って売り子をしたまま、涙を流していた。

笹子さんに「大丈夫?」と心配されたが、
涙は止まらず、ぼろぼろと泣き続けていた。

617 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:35:16.61 ID:
誰にも認められることのないと思っていた、自分の漫画。
自分の生み出すものは、ずっとずっとクソだと思っていた。

でも、いた。
今日、確かに、そこにいた。
どこかの、知らない誰かに、届いた。

そう思うと、もう自分の感情がわからなくなり、ただぼろぼろと泣くしかなかった。

でも、考えてみれば……最初からそうだったのかもしれない。

618 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:36:05.78 ID:
横森さんがいた。穂高も褒めてくれた。
笹子さんも俺の作品を好きだと言ってくれた。
高校の時だって、中学の時だって、ずっとずっとそばには、
俺の作品を好きだと言ってくれる人がいた。

なのに、夢とか漫画家とか、大きすぎる目標だけが先行してしまって、
自分の中でそういった人たちの存在にずっと気づかずにいた。

バカだと思った。
いつだって、どんな時だって、必ず……
誰かが自分の作品を見ていてくれる。

俺は、そんな単純なことにずっと気づいていなかったんだ。

619 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:37:40.55 ID:
そして、笹子さんと参加したコミケで、俺は……

そんなシンプルな事にやっと気づくことができた。
絵はただ自分が楽しいから描くものだったし、
そして、それを応援してくれる人は、気づかないだけで、どこかにいるんだ…と。

この、コミケの熱狂渦巻くビッグサイトのど真ん中で、
俺はそんな単純なことに気づき……

ただただ、涙を流すしかなかった。

620 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:38:47.55 ID:
結局、笹子さんとの合同誌は昼過ぎにはめでたく完売し、
俺と笹子さんは14時過ぎには会場から撤収した。

なんだか、いつになく、本当に清々しい気持ちだった。
一日中熱気の中にいて、体なんか全身汗だくでひどいものだったけど、
外はバカみたいに晴れていて、この上ない青空が広がっていた。

621 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:40:32.08 ID:
俺「なんか、よかったです。今日参加して」
笹子「ほんと? 1くんがそう思えたなら、本当によかった」
俺「正直言うと、ちょっと怖かったり…卑屈になっていた部分もあったんです」
笹子「……そっか」

俺「でも、なんか全部どうでも良くなったっていうか。もちろん、良い意味で」
笹子「…うんうん」

俺「笹子さん、俺……また絵とか漫画、描きます」
俺「だって、描くのは……楽しいですから」

俺がそう言うと、笹子さんは小声で「だろ?」とだけ言い、にこりと笑顔を咲かせた。

622 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:43:57.77 ID:
色々あったけど、やっぱり俺は、絵を描いてきて良かったと思った。

痛すぎる行動も何度もしでかしてしまったし、その代償が消えることもない。
けど……
俺は、きっとこれからもまた懲りずに絵や漫画を描き続けるんだろう。

ビッグサイト前のやぐら橋で振り返ると、
あの”逆三角”が青空のなかにくっきりと浮き立っていた。

俺「俺、またなんか描きたくなってきました」
笹子「わかるよ。私も」

俺「帰ったら、何描こうかなぁ」

623 : 1 ◆c4nkALBTcs : 2021/01/15(金) 23:46:11.19 ID:
ということで…この話はこれで終わりです。
今まで長い間、お付き合いいただいて本当にありがとうございました。

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↑Twitterもやってますので、もしご感想があればこちらにお願いします。

それでは、本当にありがとうございました。
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account)

624 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/15(金) 23:49:11.65 ID:E0FckU3nd
あー、、お疲れ様。。
すごく綺麗なドラマだったからそうかもなぁとは思っていたが
創作だとしてもホントに楽しめたよ。ありがとう。
なんかこの世界に入り込みすぎて、俺もどっと疲れたよ

625 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/15(金) 23:52:58.98 ID:Bdt1QZlD0
予想外のENDww

笹子さん女神ww

626 : ムッシュ ◆OSSAN.1ubQ : 2021/01/15(金) 23:59:56.70 ID:m8KpDdsz0
お疲れ様でした。
とても楽しませて頂きました。
まさか、ゲーセンの方とは思わなかった……
ありがとうございました。

627 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/16(土) 00:09:23.89 ID:rAWXFGH+d
これ思うんだけど、大袈裟じゃなく
夢を追いかけてる人は必見の読み物だろこれ
特に、クリエイター系目指してるやつ

630 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/16(土) 00:18:50.99 ID:b4Qd1xtq0
最後までお疲れ様
面白かったよ
ありがとう

632 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/16(土) 00:36:55.81 ID:S6mLPSNL0
面白かった~
ん?創作ってこと?

640 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/16(土) 12:07:37.68 ID:mxkUJSnWa
ホント楽しかった!
これをちゃんとした作品として改めて出して欲しい!

641 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/16(土) 18:56:44.94 ID:bd1/qZKkd
めちゃくちゃ青春してて草

642 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/16(土) 20:11:02.28 ID:DZ0FCm7ud
完走おめ!

643 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/17(日) 03:12:59.25 ID:yaEL0cxx0
面白かった。でも創作だろうけど創作なのかはっきりさせろよ

644 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/17(日) 09:05:27.80 ID:PuBOe8KLd
富澤だし創作だろ

646 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/17(日) 20:06:06.81 ID:a8yGfYR30
俺も笹子さんみたいな先輩がほしかった

648 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/18(月) 14:24:46.93 ID:16qCRbpQ0
実際こんな奴いたらヤバいからな

649 : 名も無き被検体774号+ : 2021/01/22(金) 18:47:48.87 ID:snxrAKkX0
良かったよ
俺も大学で冒険したいな

657 : 名も無き被検体774号+ : 2021/03/31(水) 15:33:17.32 ID:u9mWGSRr0
まあ創作だろうと思ってたけどさ
なんかちょっと悔しいわ