355 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:04:04.62 ID:
前回
魔王「50年決戦」


勇者「やっぱり、城下の方がいいのかな?」ヒソ

盗賊「西大陸の方が瘴気は薄いですからね。しかし、ここからだと船賃が…」ヒソ

勇者「だよね、盗賊くんの持ち物売り払ってもカツカツになっちゃうよね?」ヒソ

盗賊「僕のを売る前提ですか。すでに、あの子には隠者のローブなんていうお宝まであげてるんですよ?」ヒソ

勇者「仕方ないじゃない、そんなの。取り上げられなかったからあげちゃったことになってるんでしょ?」ヒソ

盗賊「それはそうですけど、僕は盗賊であってお宝を盗む側なんですよ。なのに施してばかりじゃ…」ヒソ

勇者「じゃあ義賊ってことにすればいいじゃん」ヒソ

盗賊「そういう問題じゃないんです」ヒソ

*「あの…」

勇者「な、何?」

盗賊「どうかしましたか?」

*「わたし…めいわくなら…もうだいじょうぶだから…」

勇者「そ、そんなことないよ! うん、私たちが責任持って、あなたの落ち着けるところまで連れてってあげるからね!」

盗賊「ええ、迷惑だなんて考えなくていいんですよ」ニコッ

*「ありがとうっ」パァッ

no title

356 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:06:13.98 ID:

 クルッ

勇者「どうする、どうすればいい?」ヒソ

盗賊「全く、あなたは格好をつけすぎなんですよ、何が責任持つですか」ヒソ

勇者「だって、そのまま言うわけにもいかないでしょ。それに盗賊くんだって迷惑だなんてー、なんて言っちゃって」ヒソ

盗賊「だって、あんな子に正直困ってるなんて言えるはずないでしょう」ヒソ

勇者「ほらほら、盗賊くんも言い訳した」ヒソ

盗賊「とにかく、僕らがひそひそ話しているとまた、いらぬ不安を与えます」ヒソ

勇者「で、どうするの? お金ないんだよ?」ヒソ

盗賊「…分かりましたよ、僕のお宝を売却しましょう」ハァ

勇者「今から、お船の手配するからお姉ちゃんと一緒に待っててね」ニコッ

*「おふねにのるの?」

盗賊「ええ、西大陸へあなたは向かうことになります。今、乗船券を買ってきますから」

盗賊(何を売るかが問題ですね…)ハァ


357 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:07:06.66 ID:

商人「お兄さん、商品を選ぶのに悩む人はいても、自分で売りに来ておいて悩む人なんてそうそういないよ?」スパ-

盗賊「そうは言いますが…手放すには惜しいものばかりなんですよ」

商人「そんなに珍しい品をお持ちなんで?」

盗賊「ええ、ですが…単純な価値のあるものとなると、残り少ないんです」

商人「単純な価値…」

盗賊「例えば、宝飾のついたナイフなどは宝石に価値があるでしょう? でも、僕はあいにくと、そんな役立たずではなく、役に立てられるアイテムしかもう持ってないんですよ」

商人「何とも嫌味な言い方…。ですが、売るなら売るでさっさとしてください」

盗賊「仕方ありません…では、この笛はどうでしょう? 買い取っていただけますか?」

商人「ふむ…これはどのような品で?」

盗賊「この笛は一度吹けば、巨万の富を得られると言われています。しかし、笛を吹くと死んでしまいます。試してみたいのはやまやまですが、死んでしまっては意味がありませんからね」

商人「むむむ…なるほど」


358 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:09:00.30 ID:

盗賊「いくらになりますか?」

商人「あなた、しれっと詐欺をはたらいてません?」スパ-

盗賊「バレましたか。商談相手としては上等です。あ、これは銅貨1枚でいいです」

商人「はい、銅貨1枚」

盗賊「こちらは本物です。砂漠のオアシス、南西の遺跡で手に入れたものです」

商人「おお、あの遺跡から…!」

盗賊「守護赤石の首飾りです。ご存知ですか?」

商人「守護赤石ですか。ふうむ…確かに、こちらは本物のようですな。しかし、状態が何とも…」

盗賊「守護赤石を研磨すればまた輝きは戻ると思うのですがね。機能はきちんと残っているはずです。こいつに魔力を込めてやれば――」

 ポゥ
 シュボボボッ

商人「おおっ、確かに守護赤石だ。魔力に反応して燃焼する宝石。しかも、魔力を注ぐ持ち主は燃えることも、熱を感じることもないという…」

盗賊「ええ、この通り、少しも熱くないです」


359 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:09:39.19 ID:

商人「よろしいでしょう、これなら金貨8枚――」

盗賊「24枚です」

商人「ぬぐっ…」

盗賊「金貨8枚なんて爪ほどしかない守護赤石の末端価格じゃないですか」

商人「し、しかし、研磨するという手間も…」

盗賊「研磨? 守護赤石の研磨方法は魔力を注いで、ひたすら燃焼をさせることのみですよ?」

盗賊「魔力が扱える者ならば誰にだってできる。見習い魔法使いが師に押しつけられるような雑務程度の技能しか必要としませんよ?」

商人「うぐぐっ…」

盗賊「しかも、手の平大のこのサイズです」

商人「そ、それだけ燃焼時間は長くなるということで、手間も…」

盗賊「それだけ貴重なものということですよ」

商人「21枚」

盗賊「24枚です」

商人「22!」

盗賊「断固、24です」

商人「…仕方ありません、勉強しましょう…」ハァ

盗賊「どうも。さて、次は――」


360 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:10:10.12 ID:

*「おにいちゃん、おそいね」

勇者「そうだね。待ちくたびれちゃうよね」

*「ねえねえ、見るだけでいいからお店見たい」

勇者「いいよ。じゃ、手を繋いでいこ」

*「うん」


361 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:10:46.48 ID:

盗賊「13枚!」

商人「11!」

盗賊「12枚と銀貨16枚」

商人「12枚と銀貨10枚!」

盗賊「…いいでしょう、それで」

商人「ふふっ、こんなに熱く商談するのは久しぶりですよ」

盗賊「では、次です――」


362 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:11:14.61 ID:

*「…」ジ-ッ

勇者「どうしたの?」

*「あの本って、なに?」

勇者「あれはね、魔法を勉強する本だよ」

*「おべんきょうしたら、まほうがつかえるの?」

勇者「うーん…皆が使えるわけじゃないけど、使える人はちゃんと勉強すれば魔法が使えるようになるの」

*「まほう…つかってみたいな」

勇者「…じゃあ、お姉ちゃんが買ってあげる」

*「ほんとうっ?」

勇者「うん。でも、ちゃんとお勉強するんだよ。…それとね、お姉ちゃん達は、あなたと一緒に西大陸まで行ってあげられないの」

勇者「でも、ちゃんと魔王を倒したら西大陸の城下には行くから、その時に魔法を見せてくれる?」

勇者「寂しいかも知れないけど、魔法のお勉強しながらまたお姉ちゃん達と会えるの待っててくれる?」

*「…うん。いっぱいおべんきょうしてまってる」

勇者「いい子だね」ナデ


363 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:11:57.36 ID:

盗賊「僕のお宝が…ほとんど金に変わってしまいました」ハァ

勇者「どんまい。そのお陰であの子をちゃんと船に乗せてあげられたし、城下まで行くって人にも同行をお願いできたし、人の役に立ったんだからいいじゃない」

盗賊「そうは言いますけど…ああ、僕のお宝…」

勇者「元気出して! さ、今夜はぱーっとやっちゃお!」

盗賊「…僕のお宝が変身した金で、ですか?」

勇者「もちろん♪」

盗賊「…」ハァ


364 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:12:49.41 ID:

 ワイワイ
 ガヤガヤ

盗賊「だいたいですねー、ぼくはねー、とーぞくなんれすよー?」

盗賊「なのにどーして、スリもぬすみもしちゃいけないんですか? おかしくないですかぁ?」

勇者(盗賊くんがめっちゃ酔った…面倒臭い…)

盗賊「ねーえー、聞いてますぅ~?」

勇者「聞いてるってば。ガマンして偉いね」

盗賊「えらくなんかないれすってばぁ~…」

盗賊「あいでんてぃてぃーがなくなってるんれすよぉ?」

勇者「あ、そろそろ眠った方がいいんじゃない? ほらほら、お部屋まで連れてってあげるから」グイッ

盗賊「まだまだのめますよぉ、どーせぼくのおたからちゃんなんですから、もぉーっとのみましょ~?」

勇者「はいはい、そうだねー」ズルズル

盗賊「だいたいれすねぇ~…あなたってひとはぁ…」

勇者「お部屋到着っ!」ブンッ

盗賊「ぶへっ…なにするんれすかぁ…?」

勇者「はい、おやすみ!」ゴスッ

盗賊「」

勇者「ふぅ、盗賊くんって酔っ払うとああなっちゃうんだ、面倒臭いな…」

勇者「山賊さんみたいだった、うん。さすが」

勇者「夜の海でも眺めて散歩しよーっと」


365 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:13:28.97 ID:

 ヘイ ラッシャイ ラッシャイ
 イマ ナラ パフパフガ エンチョウ 30プン ハンガク ダヨッ
 ソコノ シンシ サン ソコノ タビビト サン イカガ デスカ

勇者「何か変なとこに来ちゃったな…」

 マタ キテネ サ-ビス シテ アゲル カラ

勇者「そう言えば盗賊くんって、こういうの全然、興味示さないんだよね。枯れてるのかなぁ…?」

勇者「でもまだ若いはずだよねぇ…」

*「あれっ、娼婦ちゃん?」

勇者「へっ? え、だ、誰…ですか…?」

*「いや、娼婦ちゃんより若い…でも若いころの娼婦ちゃんにクリソツ…ややや…?」

勇者「あのー…?」

*「あ、ごめんね、いきなり。いや、何だか知り合いにそっくりだったもんで」

勇者「お知り合い…ですか? 私に?」

*「そうそう、娼婦ちゃんって言ってね、この街じゃ1番の美人さんだったんだよ」

*「でも18年前に人気絶頂のままいきなりいなくなっちゃって…」

*「風の噂じゃ、大金手に入れてさっさと辞めたなんてことらしいんだけど…惜しかったなあ…。あ、ごめんね、引き止めて。それじゃ」

勇者「…私にそっくりの、人…?」


366 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:14:02.63 ID:

盗賊「…頭が痛い…」

勇者「飲み過ぎ」ビシッ

盗賊「記憶がありません」

勇者「盗賊くんって酔っ払うと山賊さんみたいになるんだね」

盗賊「!?」

勇者「あ、これは嘘じゃないよ?」

盗賊「なっ…嘘だ…嘘と言ってください…」ウナダレ

勇者「まあまあ、酔っ払いなんてどれも同じようなものなんだし、ね?」

盗賊「それでも、あんな人みたいになるなんて胸くそ悪くてたまりません」


367 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:15:56.18 ID:

 コンコン

盗賊「おや朝から、客でしょうか…?」

勇者「宿屋までわざわざ? 何だろうね?」

 ガチャ

宿屋「すみません、お客様。勇者様に是非ともお会いしたいという方がおりまして」

勇者「私に?」

宿屋「はい、その方からお手紙をお預かりしました」

盗賊「どなたからです?」

宿屋「さあ…お名乗りにならなかったものですから」

勇者「…手紙に書いてあるところに来てってだけしか書いてない」

盗賊「とりあえず、行ってみますか?」

勇者「うん」


368 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:16:38.52 ID:

勇者「ここみたいだね…」

盗賊「なかなかのお屋敷ですね」

勇者「師匠の実家に比べたら全然だけどねー」

盗賊「あの人、公爵家の人間なんでしょう? 当たり前ですよ…」

 コンコン

勇者「勇者ですけどー」

 ガチャ

?「待ってたわ、入って」

勇者(えっ…この人…)

盗賊(勇者によく似てる…?)

勇者「は、はい…」

盗賊「失礼します」


369 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:17:55.47 ID:

勇者「ねえねえ、この人、私にそっくりだよね?」ヒソ

盗賊「ええ、瓜二つというか、あなたの将来の姿を見ているというか…」ヒソ

勇者「こんな偶然ってあるものなんだね」ヒソ

盗賊「偶然…いえ、僕はちょっと悪い予感がしますが…」ヒソ

勇者「?」

?「私は…娼婦、でいいわ」

勇者「娼婦さん? …18年前に街で1番の美女で、人気絶頂だったのに姿を消したっていう…?」

娼婦「…ええ、そうよ。知ってるなら、話は早そうだわ」

勇者「何を?」

娼婦「1つめ、魔王を倒したらここで暮らしなさい」

娼婦「2つめ、国からの報奨金の半分を渡しなさい」

娼婦「以上よ。それだけだから…もう帰っていいわよ」

勇者「…え?」

盗賊「勇者、行きましょう。今のことは全て忘れた方が賢明です、さあ」グイッ

勇者「ちょっ、え…?」

娼婦「部外者は引っ込んでてくれる? その娘は私がお腹を痛めて産んだの」

盗賊「勇者、船の出航時間も迫っていますから、早く行きましょう」


370 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:19:21.22 ID:

盗賊(船には乗せたものの…明らかに今朝のことを気にしていますね…)

盗賊(あんな女が、勇者の母だなんて考えられない…)

盗賊(見た目は立派だが、明らかに手入れが行き届いていなかった屋敷…)

盗賊(あの大きな屋敷なのに、あの女の他に人の姿も見えなかった…)

盗賊(破産も秒読みというところに勇者が来て、娘だからという理由だけで利用を目論んだ…というところか)

盗賊「…」チラッ

勇者「…」ボ-

盗賊「勇者、そろそろ昼食です。食堂へ行きましょう」

勇者「あ、うん」

盗賊「僕のお宝で資金は潤沢になりましたらから、食事のグレードも高めです。好きなだけ食べていいですよ」

勇者「うん、じゃあ食べるぞー」

 ガツガツ

盗賊「…」モグモグ

勇者「ご馳走さま!」

盗賊「もうですか? おかわりは?」

勇者「何か船酔いしちゃったかも。部屋で休んでるね」


371 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:19:54.94 ID:

盗賊「…」ハァ

 ナア アレ ッテ ナンダ?
 サカナ カ ナンカ ダロ ソレ ヨリ コノ メシ ウマイヨナ
 サカナ ッテ ソレニ シチャ オオキイ ヨウナ

盗賊「大きな、魚…?」

 ザワザワ…

盗賊「確かに、大きいですね…」

盗賊「と言うか…どれくらい離れているんだ…?」

盗賊「この距離で、あの大きさ――魔物!?」

 マモノ ダト ?
 ウ ウミノ ウエデ マモノ ダナンテ タスカル ハズ ナイ
 オイ ドウ ナッテルンダ アンゼン ジャ ナイノカ !?

盗賊「しまった、騒ぎが…。勇者を呼びに行かないと――」

 ガシッ

?「そうはさせないぜぇ~?」

盗賊「誰か知りませんが、この緊急事態に何の悪ふざけですか?」

?「何のって…人間虐殺ショー、開幕するんだぜ?」メキメキメキィッ

 キャ-------
 ウワァ マモノガイルゾ

盗賊「魔物…!?」チャキ

魔物「海の藻屑となって死んでいけ!」


372 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:20:49.06 ID:

盗賊「皆さん、僕の後ろに固まっていてください。でないと、命の保証はできませんよ」ゼィゼィ

盗賊(とは言え…船の周りは魔物に取り囲まれている…)

盗賊(どうやらパニックになってる人間を見て楽しがってるようだから、すぐに沈没させられることはなさそうだが…)

魔物「キシャァアアアッ」

盗賊「はぁっ!」ズバッ

 ドサッ

盗賊「数が多すぎる…!」ギリッ

 ズバッ
 ヒュンッ
 ヒュオッ
 シュバッ

盗賊(こいつら…! 物量で押せばすぐなのに、やっぱりわざと少しずつ僕に向かってきて、乗客の恐怖を煽ってる…!)

盗賊(だが、一斉に襲いかかられても僕だけじゃ捌ききれない)

 魔物は大火球魔法を唱えた!

 ズォオオッ

盗賊「しまっ――」

 ブワァアアアアアッ

 盗賊は巨大な火柱に飲み込まれた!
 しかし、突如として海面から水が吹き上がって盗賊を飲み込んだ炎をかき消す!


373 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:21:23.91 ID:

盗賊「ごほっ…これは――」

勇者「盗賊くん、大丈夫!?」

 勇者が駆けつけた!

盗賊「勇者…平気なんですか?」

勇者「何のこと?」チャキ

盗賊「いえ…今はいいでしょう」グッ

勇者「ねえ、この魔物達…どうしてこんなににやにやしてるの?」

盗賊「必要以上に恐怖を煽っているんでしょう、後ろの乗客達に」

盗賊「ですが、ここは海上です。船をやられたらその時点で僕らは終わり…」

勇者「じゃ、じゃあどうしたらいいの?」

盗賊「連中に船を攻撃する暇も与えずに、まとめて蹴散らせれば…。その方法が分かりませんけど」

勇者「分かった。どうにかしてみる。船を守ればいいんでしょ」

盗賊「は? どうにかって――」

勇者「盗賊くん、時間ちょうだい!」

 勇者は循環の杖を取り出した!

盗賊「分かりました、早めに頼みますよ!」

 盗賊は魔物の群れに突っ込んだ!


374 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:22:09.70 ID:

勇者(ようは船が魔物から攻撃されないようにしておいて、その間に魔物を倒しちゃえばいいんだ)

勇者(だから循環の杖で船を守って、魔物から攻撃されないようにする)

勇者(正直、自信はあんまりないけど…やるしかない!)

 勇者は精神を統一し、循環の杖を振るった!
 海面がドーム状に盛り上がり、船がその中で浮かび上がる!

勇者「盗賊くん、魔物はこれで船に入ってこられない!」

盗賊「分かりました、一気にやりましょう!」

勇者「大技、いっちゃうよ! 覇道斬りィ――――ッ!」

 勇者は勢いよく剣を振るった!
 繰り出された剣戟が甲板を抉りながら進撃する!
 留まることを知らぬ剣戟は直線上の魔物全てを両断していく!

盗賊「多少は仕方ないにしろ、船を壊したら意味がありませんよ!」

勇者「分かってるよ! でも今は早くやっつけないと!」

盗賊(いつもの余裕がない? そうか、循環の杖を使って船を守っているだけで、もう勇者は――)

盗賊「あなたは下がっていてください。残りは僕が!」

勇者「盗賊くん!?」

盗賊「あなたは脳筋なんですから、頑張って循環の杖を維持していてください!」


375 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:24:05.57 ID:

勇者「ふぅっ…ふぅっ…まだ、岸が見えない…?」

盗賊「もう少しのはずです、どうにか頑張ってください…」

盗賊(どうにか船へ乗り込んできた魔物は倒せたものの、勇者の集中力が途切れたら、循環の杖で隔絶している魔物が再び襲いかかってくる…)

盗賊(港まで戻るのと、勇者の集中力が切れるのと、どちらが先になるか…)

勇者「ねえ…盗賊くん…」

盗賊「何ですか?」

勇者「私ね、ちょっとだけ…あの港に戻れて良かったって思う…」

盗賊「?」

勇者「ちゃんと…お母さんと話してみたいの…」

盗賊「ですが、あの人は…」

勇者「分かってる…。盗賊くんが、私のことを心配してくれているのも、ちゃんと分かってる…」

勇者「でも…ずっと、何となくだけどね…お母さんって、どんなんだろうって…思ってたんだ…」


376 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:25:01.01 ID:

盗賊「…幻滅するかも、知れません。いえ、きっと…あなたの望む母親の姿とはかけ離れているはずです…」

盗賊「それでもあなたは…行くんですか?」

勇者「…うん」

 グレイトホ-ンホエ-ル ダ
 コッチニ ツッコンデ クルゾ!

盗賊「グレイトホーンホエール!?」

 ドゴォッ

勇者「っ…!」

盗賊「耐えてください、あなたがこの結界を解いたら全滅です!」

勇者「分かってる…!」

 ドォンッ
 ドゴォッ

盗賊(グレイトホーンホエール…恐ろしく凶暴な性格の、海のギャング…)

盗賊(海で出会いたくない魔物でも、最上位…)

盗賊「勇者、あなたはどうにか耐えてください。僕が、ヤツを仕留めます」

勇者「盗賊くん…!?」

盗賊「あなたが船の人々を守る、そして僕があなたを守ります」


377 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:26:22.65 ID:

*「こ、こんなロープ1本だけでいいのか?」

盗賊「ええ、まあ気休めですが…僕の命運がここで尽きなければロープも切れないでしょう」

*「だ、だが…」

盗賊「必ず、グレイトホーンホエールは仕留めます。ですから、僕が生きていても、死んでいても、引っ張り上げてください」

盗賊「ヤツを倒して僕が生きていた場合は、可及的速やかに引き上げてくださいよ。溺死なんてしたくないんで」

 盗賊は船から飛び出した!

 オォオオオオオオンッ

盗賊(まさか、海に飛び込んで、海の魔物と戦うなんて…)

盗賊(それも山ほどありそうなグレイトホーンホエール相手か)

盗賊(どうにか生きて帰りたいものですね――)

 グレイトホーンホエールは盗賊目掛けて体当たりしてきた!
 盗賊は抜き放った短剣で凶悪な捩じれた角を受け止める!
 しかし、盗賊は呆気なく弾き飛ばされる!


378 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:27:15.39 ID:

盗賊(どうしてこんな無謀なことをしているのか――)

 グレイトホーンホエールが再度、盗賊目掛けて体当たりする!
 盗賊は突っ込んできたグレイトホーンホエールの角に対して角度をつけながら、短剣を滑らせた!
 盗賊はグレイトホーンホエールの額に短剣を突き立てる!
 しかし、あまりの硬さに短剣は刺さらない!

盗賊(この魔物どもが、僕らが去った後で報復として港を襲撃しないとも限らない)

 グレイトホーンホエールが大きな口を開けて盗賊を飲み込む!
 盗賊はグレイトホーンホエールの上顎に短剣を立てて切り裂く!

盗賊(それでも、この船に乗り合わせている人々を見捨てることはできない)

 盗賊は凄まじい勢いに圧され、グレイトホーンホエールの歯へ叩きつけられた!

盗賊(僕なんかのちっぽけな力で、救えるものがあるのなら)

 盗賊は取り出したナイフをグレイホーンホエールの咥内にばら撒いた!

盗賊(それはきっと、僕だけしか救えなかった師匠さんが今のために残した希望だったのかも知れない)

 グレイトホーンホエールは再び海水を咥内へ取り込んだ!
 同時にばら撒かれたナイフが咥内を蹂躙して切り刻む!
 グレイトホーンホエールはたまりかねて盗賊を吐き出した!

盗賊(だとしたら、やっぱり僕もまた――救える命は救う)

 グレイトホーンホエールは怒り狂って盗賊に突撃する!
 盗賊は勢いよく短剣を振るった!
 繰り出された剣戟が海水を抉りながら進撃する!
 グレイトホーンホエールの頭から腹までが真っ二つに切り裂かれる!

盗賊(そうして希望は、未来へと繋がれる――)

 しかし、盗賊は息が続かなくなって意識を失った!


379 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:28:10.78 ID:

盗賊(何だ…眩しい…?)

 トウゾククン トウゾククン オキテ

盗賊(体が重い…僕を抱き締めているのは…誰だ…?)

 オネガイ ヤダヨ メヲ サマシテ オネガイ ダカラ

盗賊(温かい…母、さん――?)

 パチ…

盗賊「勇、者…?」

勇者「盗賊くん…!」ギュッ

盗賊「っ…放してください…痛いです…」

勇者「心配したんだよ! 目を覚まさないから…!」

盗賊「…泣いてるんです…か?」

勇者「当たり前でしょ!」


380 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:29:04.77 ID:

盗賊「…そうですか…。ご心配をおかけしましたね…」

盗賊(西日が差している…無事に港へ辿り着けたんですね…)

盗賊(にしても、泣きすぎですってば…僕が泣かせたみたいじゃないですか…)

盗賊「…勇者」

勇者「ぐすっ…何、もう…」

盗賊「泣かないでくださいよ。泣き虫は僕のキャラなんでしょう?」ナデ

 ウワァ----ン

盗賊「ああ、もう…今度は号泣ですか…」

盗賊「あなたって人は手がかかりますね…」ポンポン

勇者「だっでぇ…盗賊ぐんがぁ…死んじゃったらっで、不安だっただのぉ…」

盗賊「よしよし、死ぬはずないでしょう。あなたをひとりにしたら、何をしでかすか分からないんですから」


381 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:30:12.30 ID:

勇者「もう無茶しないでよ?」ムスッ

盗賊「しませんよ、僕だって死にたくないんですから」ヤレヤレ

勇者「本当?」

盗賊「もちろん。どこの世界に死にたがりがいますか」

勇者「…ひねくれた盗賊くんとか」

盗賊「失礼な、僕はひねくれてなんかません」

勇者「…」ジト

盗賊「…今は、ですけど」

勇者「認めちゃったね?」

盗賊「僕のことはもういいんですよ。それより…母親に会いに行くんでしょう?」

盗賊「心の準備はできているんですか?」

勇者「…うん、大丈夫。…でも盗賊くんも、ついてきてくれる?」

盗賊「不愉快になったら、僕は何をするか分かりませんよ?」

勇者「ついてきて、ずっと黙っててくれたらいいから。黙ってるんだよ?」


382 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:31:43.50 ID:

盗賊「…仕方ないですね。では、明日の朝にでも行きましょうか」

勇者「うん。…ねえ、盗賊くんのベッドに行っていい?」

盗賊「はあ? 何言ってるんです、これでも僕は男ですよ?」

勇者「それはそうだけど…枯れてたりじゃないの?」

盗賊「何を言うんですか。僕は健全な男子です」

勇者「まあまあ、添い寝だけだから。お邪魔しまーす」

盗賊「ちょっ…狭いんですから…」

勇者「いいから、いいから。あ、変なことしないでよ?」

盗賊「そんな警戒をするなら自分のベッドへどうぞ」

勇者「盗賊くんがケガしてるから、心細くないようにって気遣ってあげてるんじゃん」

盗賊「別に心細くなんてなってませんし、なりません」

勇者「えーっと、盗賊くんがお頭に拾われて3年くらい経った頃に、確かかわいい事件があったと思うんだけど――」

盗賊「ほら勇者、毛布をちゃんとかけないと寒いですよ」

勇者「むふふ…」

盗賊「早く寝ますよ…」ハァ


383 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:33:00.25 ID:

娼婦「…また来るなんて、思ってもいなかったわ」

勇者「私のお母さん、なんだよね?」

娼婦「そうよ」

勇者「お金持ちなの? お家が立派だけど」

娼婦「もう金なんてないわ。だからあなたが稼いできてちょうだい」

勇者「どうして?」

娼婦「だって、あなたは私の娘よ。子どもは親の言うことを聞けばいいの。いつだってそう」

勇者「違うよ。親子って、そんな一方通行じゃない」

娼婦「何言ってるのよ、あんたは私が産まなきゃ――」

勇者「うん。産んでくれてありがとう。お母さんが私を産んでくれたから、たくさん、たくさん、楽しいことを覚えた」

勇者「師匠に強く育ててもらったから、たくさんの人を助けてあげられて、ありがとうってお礼を言われた」

勇者「私はまだ魔王を倒す旅の途中だけど、旅で出会った人達が私のことを知って、魔物に苦しめられても頑張ろうって思ってくれた」


384 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:33:51.25 ID:

勇者「全部、お母さんが私を産んでくれたからだね」

娼婦「…嫌味のつもり?」

勇者「そんなじゃないよ。…産んでくれて、ありがとう」

勇者「でも…お母さんにありがとうって言えるのは…今は、そのことだけ」

勇者「だから、魔王を倒してからお母さんと一緒に暮らすのはちょっと難しいな」

勇者「王様からお礼をもらうのだって…王様替わっちゃったし、どうなるか分からない」

勇者「それを言いにきたの。でも…お母さんが、寂しいなら会いにくるよ」

勇者「お母さんが私を勇者として産んでくれたから、勇者として…辛い思いをしてるなら、助けてあげる」

勇者「その時は教えてね」

娼婦「バカにしてるの、あんた!?」

盗賊「あなたの方が勇者のことを――」

勇者「盗賊くんは、黙ってて」

盗賊「…」チッ


385 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:34:30.27 ID:

勇者「お母さん。私は勇者だから、お母さんと離れちゃった。それは絶対に変わらない」

勇者「お母さんがいなくて寂しかった気持ちも、ずっと私の胸に残る」

勇者「でも、こうやって会えたから…ちょっとだけ、ほっとしてるんだ」

勇者「お母さんが美人で、嬉しい。そういう気持ちもあるんだけど、勇者として生きなきゃいけないと思うの」

勇者「そうじゃないと…きっと辛い想いをして私を手放したお母さんに、申し訳ないから」

勇者「ううん…そう思わないとさ、ちょっと…勇者としてあるまじき…何て言うか…ね、あるじゃない、そういうの」

勇者「だから! 私は勇者としてなら、お母さんを助けてあげる」

勇者「でも、残念だけどお母さんの娘として振る舞うのは…もっとずっと時間が経ってからになっちゃうかな」

勇者「その時にね、まだお母さんが私と一緒に暮らしてもいいって言ってくれるなら…甘えさせてもらうね」

娼婦「…」

勇者「そういうことで…お邪魔しました。次の大陸に渡って、魔王を倒してくる」

勇者「…またね、お母さん」


386 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:42:24.93 ID:

―王歴186年―

側近「魔王様、勇者が着々と魔王城に近づきつつあります」

魔王「そうか。で、今回の勇者とやらはどうだ?」

側近「は、どうやら以前の勇者に比べて魔法の才に特別なものはないようですが、剣術に秀でているようです」

側近「また、循環の杖なるものを持っており、これはあらゆる流れを操るものであります。これを用いて幾度となく危機を乗り越えたと」

魔王「そうか…。まだ、興が乗らぬな」

魔王「四天王はどうしている?」

側近「銀獣王と、百刃王がやられました」

側近「銀獣王は不死の秘宝があった遺跡で勇者と交戦し、その後に世界樹を焼失させようとしたところで敗北したようです」

側近「百刃王は刹那の刃を守っていましたが、20年前の勇者とともにいた人間が現れ、敗北を喫しました」

魔王「そうか。戦いの中で死ねたのならば本望だろう」

側近「勇者はいかがしますか?」

魔王「別にどうもせん。来るのなら、城の魔族総出で相手をしてやるだけのこと」

魔王「我が前に立ちはだかるのならば相手をしてやるだけだ」

魔王「食らうに値するのであれば、我が力として永遠を授けてやればいい」

側近「かしこまりました。全ては魔王様の御心のままに」


387 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:43:45.38 ID:

勇者「師匠がね、時々、修行してた山を降りて、2、3ヶ月くらい帰らないことがあったんだ」

勇者「何か、魔王を倒すための武器を探してたんだって」

盗賊「しかし、見つからずじまい…ですか」

勇者「うん。師匠に聞いた限り、魔王は消し飛ばされてもすぐに再生――ううん、復活をしたんだって」

勇者「普通に戦ってもらちがあかないから、武器が必要なんだと思う」

盗賊「ちなみに、どのような武器なんです?」

勇者「神託によれば、輝く剣なんだって。でも、それらしいものはなくて…」

盗賊「曖昧ですね。言葉通りに光を発する剣なのか、それとも何かの比喩なのか…」

勇者「うん…。でも、瘴気がすごい勢いで世界中に拡散されてるし、そろそろ魔王を倒さないと取り返しがつかなくなるかも知れない」


388 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:45:25.51 ID:

盗賊「ええ…。時間がありません」

勇者「だから魔王城に行こう。師匠の言いつけ守らずに、寄り道ばっかりしてたけど…」

盗賊「その分、レベルは上がりました。四天王だろうが、魔王だろうが、充分に戦えるでしょう」

盗賊「そうなると、魔王城のある孤島までの海路ですね。どこかの船にお願いしなければなりませんが――」

勇者「あ、それは大丈夫なの! 師匠の昔の知り合いにね、いつでも連れてってくれるようになってるから」

勇者「タラコ唇の海賊船が目印だって」

盗賊「海賊船?」

勇者「…うん、そう言ってた。師匠って変なコネクションあるよね」

盗賊「そうですね…。では、その人に挨拶をして、都合次第で出発ということにしましょう」


389 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:46:32.54 ID:

勇者「それでは明日からの航海の無事と、魔王討伐祈願を兼ねて、かんぱーい!」

盗賊「…乾杯」

 チン

勇者「何でそんなに元気ないの?」

盗賊「前回の勇者は失敗しているんですよ。それなのに、こうも暢気に酒を飲むなんて…」

勇者「盗賊はマジメなんだよ、堅物! 盗賊のくせに」

盗賊「職業は関係ないでしょう。だいたい、僕のお陰であなたは何度も助かっているでしょう」

盗賊「牢屋に閉じ込められた時なんて、僕が解錠術を使えなかったらそのまま獄門打ち首でしたよ」

勇者「あれは仕方ないないことじゃん! 大体、盗賊くんだって、いつもいつも事なかれ主義だし、なのに切羽詰まると危ないことばっかりして!」

盗賊「あなたは後先考えないだけです! 僕はちゃんと機会を窺ってですね!」

勇者「盗賊は考えすぎなの!」

 ムッ
 ジト-

 プッ

勇者「あははっ」

盗賊「ふふっ」


390 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:47:36.91 ID:

勇者「私達、意外といいコンビだよね」

盗賊「そうですか? 僕が尻拭いをしてばかりですが」

勇者「あれれー?そんなこと言っちゃう? 泣き虫のくせに」

盗賊「いつの話ですか、いつの」

勇者「『お頭…』って泣いたのは誰だっけ?」ニヤニヤ

盗賊「っ…あ、あれは欠伸をしてーー」

勇者「あ~れ~? 目にゴミが入ったって、言ってなかった?」ニタニタ

盗賊「細かいことばかり…」ギリッ

勇者「それにさ、ほら、お頭と会った時に色々と聞いちゃってるんだよ?」

盗賊「なっ…何を聞いたか知りませんが、お頭は何かと話を誇張する悪癖がありますから、鵜呑みにするのは――」

勇者「初めてのスリで盗ってきたのが何だっけ?」ニヤニヤ

盗賊「そ、その話は…」

勇者「あはは、大丈夫だって! 別に誰にもバラさないから!」

勇者「大体、そんな反応するんじゃ当たりって分かっちゃうよ?」

盗賊「くっ…一生の不覚…」


391 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:49:29.74 ID:

盗賊「ですが、あなたにだって汚点は腐るほどあります!」

勇者「女の子に向かって、汚点って言う、ふつー!? 大体、腐るって!?」

盗賊「そうとしか言いようがありません!」

盗賊「いびきはうるさいわ、腹を出して寝るわ、男女が同じ部屋で眠る状況で無防備にして!」

盗賊「何でもかんでも食べ物でつられて、その内、変な輩にいいようにされてしまいますよ」

勇者「そこまで言う? 盗賊ってデリカシーないよね」

 モグモグ
 ガツガツ

盗賊「あなたからデリカシーなんて言葉が聞ける日がくるとは思いませんでしたが、使い方に誤りがないですか?」

勇者「間違ってないよ! 私だって女の子だもーん」プイッ

盗賊「むくれないで下さい、あなたがやってもギャグです」


392 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:50:04.54 ID:

勇者「ギャグじゃないし…」

盗賊「じゃあ何です、本気でむくれているんですか?」

勇者「…そうだよ?」ツン

盗賊「何に?」

勇者「…本っ当、盗賊にはロマンチックの欠片も感じられない」

盗賊「ロマンチックぅ? 何です、それ。何の役に立ちますか?」

勇者「例えば…その、こう…」モジモジ

盗賊「何です?」

勇者「…もう、盗賊のヘタレ! 気付いてよ、女の子の気持ちくらい!」

盗賊「はぁ?」

勇者「ま、私が悪いのよね、はいはい、分かりましたー」ムスッ


393 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:50:41.86 ID:

盗賊「今日はまた、一段と意味不明ですね。酒が回りましたか?」

盗賊「明日から船旅ですし、早めに帰りましょうか」

勇者「…うん」ムスッ

盗賊「機嫌を損ねたなら謝りますけど、ちゃんと説明してくれないと直しようがないことだけご承知下さい」

 カラン カラン

勇者「あーあ、つまんない」

盗賊「だから何が…」

勇者「べっつにー?」ツ-ン

盗賊「…少しだけ、散歩しながら帰りますか?」

勇者「…うん」

 スタスタ

盗賊「瘴気が随分と濃くなりましたね…。星空が見える場所の方が少ないくらいです」


394 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:51:40.75 ID:

勇者「魔王がそれだけ強くなってるって証拠だね…」

盗賊「けれど僕らも強くなりました」

勇者「大冒険だったからね」

盗賊「師匠さんとの口論の内容、前にお話しましたが覚えていますか?」

勇者「うん…。ちょっとだけ」

盗賊「僕はあなたと旅をするまでは、いつ、どこで死んでもいいと思っていました」

盗賊「しょせん僕は、幼い頃に死にそびれ、惰性で生きているものと思っていましたから」

盗賊「だから魔物に人類が滅ぼされても構わないと…そう思っていました」

盗賊「けれど今は…その考えも変わりました」

盗賊「魔王を倒せるのならば、そうした方がきっと良い…と」

勇者「…うん」


395 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:52:31.26 ID:

盗賊「気付いたら、今の僕は死んでも死に切れないほど、たくさんのことをしたいと考えています」

盗賊「お頭や、山賊…僕の大切な家族に恩返しをしたい」

盗賊「師匠さんにちゃんと謝りたい」

盗賊「そして、あなたの傍にずっといたい」

勇者「へ…?///」

盗賊「あなたの傍にいると、飽きないんですよ」

盗賊「毎度、毎度、突飛なことをしでかすし、世間知らずの常識知らずで、お人好しな上に、人を疑うことすら知らないから騙される」

盗賊「そんなあなただから…どうも放っておけなくなります」


396 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 19:53:50.30 ID:

勇者「…」グヌヌ

盗賊「だから、勇者。もしよろしければ、魔王を倒したら僕とまた旅をしませんか?」

勇者「…どうしてもって言うなら、考えてあげるけど?」ツ-ン

盗賊「ふふっ、では、どうしても、お願いします」

勇者「わ、分かった…///」

盗賊「ちゃんとリードしますよ、飼い主として」ニコッ

勇者「わ、私は犬じゃないよっ!」

盗賊「冗談です。…その、愛してますよ…///」

勇者「ぇ…わ、私も、だけど…///」


397 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/04(木) 19:54:27.03 ID:9DQD5t87O
今39年か…

400 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) : 2014/09/04(木) 20:25:17.73 ID:VF+jPcj80
なげー

401 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:14:38.77 ID:
 ザッ

勇者「瘴気、濃過ぎ…。ええい、邪魔!」ブンッ

 ザァアアア…

 勇者は循環の杖を振るった!
 魔王城に満ちていた瘴気が霧散していく!

盗賊「魔王城一帯の瘴気を散らせるなんて、循環の杖、さまさまですね」

勇者「ふふん、馴れたものでしょ?」トクイゲ-

盗賊「バカの1つ覚え、とはよく言ったものです」

勇者「バカじゃないってばー!」

 ズシン…
 ズシン…

勇者「足音がする…」

盗賊「魔物のお出ましでしょう。これだけ盛大に瘴気を散らせては到着を告げたようなものですし」


402 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:15:57.59 ID:

勇者「それもそっか。でも、負けないもんね!」スラァン

盗賊「もちろんです」チャキッ

 魔物の大群があらわれた!

勇者「せーので行くよ!」

盗賊「ええ、いいでしょう」

勇者「せぇーのっ!」

勇者盗賊「「覇道斬り!」」

 勇者は勢いよく剣を振るった!
 盗賊は勢いよく短剣を振るった!
 繰り出された剣戟が大地を抉りながら進撃する!
 直撃した魔物が真っ二つに両断されて息絶えた!

勇者「ガンガンいこう!」


403 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:17:09.67 ID:

 ドゴォォォ…
 ドガァ…

 ザッ

師匠「一足、遅かったか…」

 ズザッ

師匠「…何だ、お前ら?」

?「私は魔王軍四天王が1人、蒼鬼王」

?「同じく、我輩は魔王軍四天王、亡骸王である」

 蒼鬼王があらわれた!
 亡骸王があらわれた!

師匠「それが俺に何の用だ?」

蒼鬼王「無論、決まっている」

亡骸王「魔王様の命により、抹殺しに来たのである」

師匠「やれるもんなら、やってみやがれ――」チャキ


404 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:18:07.96 ID:

盗賊「てっきり、残りの四天王が出てくるかとも思っていましたが、どうにか出くわさずに済みましたね」

勇者「うん…。もう、かなり奥の方まで来てるはずだし…。残りは魔王くらいかな?」

盗賊「そうだといいですね…」

勇者「よし、じゃあ休憩はこの辺にして行こう!」

 ドゴォッ

盗賊「っ!?」

勇者「な、何、壁が…!?」

 ザッ

師匠「よう、こんなとこまで来てたのか」

勇者「師匠!? え、ひ、1人でここまで…?」

盗賊「この壁だって、どうやってぶち抜いたんですか…?」

師匠「よく見ろよ、四天王なんだと、こいつ」グイッ

蒼鬼王「」

盗賊「…せ、戦闘で…? どれだけなんだ…」

勇者「師匠、さすが…。じゃあ、後は魔王だけだね!」

師匠「ああ、そうだな。行くぞ」ポイッ

勇者「うん!」


405 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:18:56.52 ID:

師匠(どれだけ探しまわっても、輝く剣は見つからなかった…)

師匠(だが、今度こそ…例え魔王に敗北しようが、俺の命に代えても勇者は守る――)

盗賊「ところで、神託では輝く剣で魔王を倒すということですが、それらしきものは持っていません。大丈夫でしょうか?」

師匠「…ハッ、どうにかするしかねえんだよ」

勇者「ちょっとは心配だけど、大丈夫だって! だって最強だもん、師匠がいれば!」

盗賊「そうですか…。ところで、師匠さん」

師匠「何だ?」

盗賊「以前は、無礼な口をきいたこと、謝ります」

師匠「別にどうだっていい。ここまで勇者を連れてきたんだからな」


406 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:20:26.97 ID:

勇者「あ、それとね、師匠。1つ、報告することがあるんだ」ダキッ

盗賊「ちょ、勇者…こんなとこで腕を組んで何のつもり――」

勇者「私達、婚約しました!」

師匠「」

盗賊「」

勇者「でね、魔王を倒したら、また2人で旅してねーー」

 ゴゴゴ…

盗賊「こ、婚約なんてしていないでしょう、まだ!」

勇者「ええっ!? 私、そのつもりでいたんだけど…違ったの? あんなに激しくしたのに…///」モジモジ

師匠「ほおう、激しく…? 詳しく聞かせてもらおうか…」

 ゴゴゴ…

盗賊「ご、誤解です!」

勇者「違うよ、私、初めてだったもん!」

盗賊「あなたはどうしてそうも大声で!」


407 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:21:22.12 ID:

師匠「魔王の前にぶち殺す輩ができちまったな…」チャキ

勇者「し、師匠!?」

 バサッ
 バサッ

盗賊「っ…このタイミングで、まだ新手が…!」

紅竜「また来たか、人間どもよ」

紅竜「魔王様に挑み、1度は惨めに負けた身でのこのこと現れるとはな」

紅竜「今度こそ、我が全力をもって葬ってやろう!」

 紅竜があらわれた!

師匠「黙ってろ、三下――」


408 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:22:41.43 ID:

師匠「けっ…手応えのねえ…」チンッ

勇者「」

盗賊「」

勇者(師匠、強すぎ…!)ガクガク

盗賊(あんな強力な竜を、単身で、それもこれほど容易く、切り伏せられるなんて…)アゼン

師匠「さて、閑話休題――」

 ダキッ

勇者「師匠、バージンロードは一緒に歩いてね?」ニコッ

 勇者は師匠の腕にしがみつき、上目遣いをした!
 師匠は仏頂面をしたまま逡巡する!

師匠「バージンロードぉ…?」

師匠「…」

盗賊「」ドキドキ

師匠「…悪くねえな。そうと決まれば、魔王をぶっ殺しに行くぞ」

勇者「うん!」

盗賊(それでいいのか!?)


409 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:23:38.15 ID:

 ギィィィ…

魔王「よく来たな、勇者ども」

盗賊(凄まじい魔力を放っている…)

勇者(これが魔王…20年前、師匠が勝てなかった相手――)

師匠「久しぶりだな、魔王」ギリッ

魔王「随分と、人というのは短い期間で変われるものだな」

魔王「あの時の人間の小僧が、これほどの使い手になるとは思っていなかった」

魔王「それでこそ、見逃した甲斐があったというものよ」ニタァ

勇者「ちょっと、勇者は私なんだけど!」スラァン

魔王「ふむ…今回の勇者というのはメスからしいな」

盗賊「御託はいいので、さっさと殺し合いましょうか」チャキ


410 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:24:31.66 ID:

魔王「かかってこい。――貴様らが我が糧に値するか、見極めてやろう」スッ

勇者「師匠、しょっぱなから奥義ぶちかますから合わせて!」

師匠「いいだろう」グッ

盗賊「それでは、僕も――」グッ

勇者「食らえ、魔王! 3人分の…!」

  『覇道斬り!!!』

 勇者は勢いよく剣を振った!
 盗賊は勢いよく短剣を振った!
 師匠は勢いよく剣を振った!
 同時に放たれた剣戟は大地を抉り、凄まじい勢いで魔王に迫り直撃する!


411 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:25:34.79 ID:

魔王「――フハッ! ハハハハハッ!」

勇者「嘘…!?」

盗賊「あれを耐え切れるなんて…!?」

師匠(一筋縄じゃいかねえのは分かっちゃいたが――)ギリッ

魔王「いいぞ、期待以上だ。20年前に比べ、総合力では貴様らの方が上と見える」

魔王「これぞ覇道とばかりに大地を抉り、突き進む斬撃、見事」

魔王「だが、それだけではまだ、人間の領域と言うもの」

魔王「このくらい、しなければなァ――」

 魔王は両手にそれぞれ別の魔法を発動する!

師匠「まさか、その魔法…! お前ら、避けろ!」

魔王「火球魔法、爆裂魔法――爆裂光弾」

 魔王は紅蓮の炎を内包した無数の光球を放つ!
 光球がぶつかり合い、凄まじい爆発と同時に周囲の至るところで火柱が立ち上る!


412 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:27:01.78 ID:

勇者「きゃっ…!」

盗賊「勇者…!」ガシッ

師匠「てめえがどうして、その技を使う…!?」

 師匠は魔王に切りかかった!
 しかし、魔王は余裕の笑みで剣を受け止める!

魔王「んん? 気になるか。ならば冥途の土産に教えてやろう」

 師匠は剣で魔王を振り払って飛び退く!

魔王「俺は20年前の勇者の心臓を食らい、その身にあった技を、魔法を、我がものとした」

師匠「心臓を――」

魔王「だからこそ、俺は最強の存在でいられるのだ」

魔王「貴様らは俺を殺そうと鍛錬し、自らの限界に挑戦してきたな」

魔王「それこそが我が力の源となるのだ」

魔王「貴様らが強くあればあるほどに! その心臓を食らった俺が力を得る!」

魔王「我が肉体となり、ともに永遠の存在となろうではないか!」


413 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:27:53.99 ID:

師匠「てめえェ――――ッ!」ダンッ

勇者「盗賊、師匠のコントロールお願い」

盗賊「分かってますよ」

 剣士は激昂しながら魔王に切りかかった!

魔王「ほう、やはり20年前とは比べ物にならぬな」

師匠「てめえを殺すためだけに生きてきたんだ…!」

盗賊「師匠さん、半歩脇へ――」

 盗賊がナイフを投擲した!

魔王「ッ――ふむ、よい腕だ。しかし…!」

魔王「凍結魔法、爆裂魔法――爆裂氷弾!」

 魔王は凍結魔法と爆裂魔法を唱えた!
 荒れ狂う猛吹雪が勇者達に襲いかかる!

勇者「もらった…!」ブンッ

 勇者は循環の杖を振るった!

魔王「あの杖は…!」

 魔王の放った猛吹雪が逆に吹いて魔王へ襲いかかる!
 瞬時に凍結した爆裂魔法が炸裂した!
 大爆発があらゆるものを破砕していく!


414 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:29:12.40 ID:

魔王「ぐぬっ…!」

師匠「そこォ!」

盗賊「逃しません!」

勇者「はぁあああっ!」

 師匠は魔王を渾身の力で刺突する!
 盗賊は短剣で魔王の肩を突き刺した!
 勇者は大きく振り上げた剣を魔王に振り下ろす!

魔王「っ…フ、それでも、この程度か」

 しかし、魔王は勇者達の攻撃を防御せずに受け止める!

魔王「極大消滅魔法――」

 魔王は消滅魔法を唱えた!
 右手に莫大な熱量の光、左手に全てを即時凍結させる光を収束し、手を合わせる!

盗賊「ッ――危ないっ!」

 プラスとマイナスの莫大なエネルギーが矢を形成し、魔王の両腕を弓として解き放たれる!
 輝く一撃が勇者に向かって繰り出された!

 盗賊は勇者を突き倒すようにして庇う!


415 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:30:10.06 ID:

勇者「痛っ…と、盗賊――?」

盗賊「かろうじて…右腕一本だけで済みました…」

魔王「ふむ、避けたか…。やはり、以前よりは強くなっているのだな、貴様らは」

師匠「てめえを殺すためだけになァ!」

魔王「だが、まだ我が糧に値するのは貴様だけか」

盗賊「僕に手当ては必要ありませんから…魔王を」

勇者「う、うん…!」

師匠「勇者、合わせろ!」

勇者「分かった!」

勇者師匠「「百波突き!!」」

 師匠は物理を超越した無限の突きを、ただ一突きに収束させて解き放つ!
 勇者は物理を超越した無限の突きを、ただ一突きに収束させて解き放つ!

 収束された幾百の剣戟が魔王へ襲いかかる!


416 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:31:10.31 ID:

魔王「竜巻魔法、閃熱魔法――旋風烈火!」

 魔王は竜巻魔法と閃熱魔法を唱えた!
 荒れ狂う暴風が灼熱の炎を孕んで膨れ上がる!

師匠「その程度で、止まりゃしねえぞ!」

勇者「ぶった斬れるもんね!」

 勇者は勢いよく剣を振った!
 師匠は勢いよく剣を振った!
 同時に放たれた剣戟は魔王の魔法を穿ち、幾百の剣戟を後押しして魔王を直撃する!

魔王「ぐっ…なるほど…なかなかだ」

勇者「まだ耐えてるなんて…!」

師匠「まだまだ序の口だ、一瞬も気を緩めるな」ジリ

魔王「しかし…どうもまだ、力を出し切れてはいないようだな?」

魔王「勇者よ、貴様が死力を尽くさなければ俺は貴様を食うに値するか見極められぬのだ」


417 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:33:10.50 ID:

盗賊「だから…何だと言うんです…。ここで死ぬのに無用な心配をするな…!」

魔王「やはり人間というのは、絶望してこそ真価を見られるものよ――」ニヤァ

師匠「! 盗賊、下がれ!」

 魔王が床を蹴り、師匠が盗賊の前に立ちはだかった!

 ギャリィィィッ

魔王「勘づいたか? ならば抗え、限界までな!」

 魔王は凄まじい膂力で師匠を強引に組み伏せた!

盗賊「来るなら、来い…!」

勇者「盗賊!」

魔王「以前の、あのメスよりかは、期待しているぞ?」

 盗賊は短剣で魔王の腕を受け止めた!
 しかし、短剣が砕けて盗賊は吹き飛ばされる!


418 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:33:58.62 ID:

勇者「この、ぉおおおおっ!」

 勇者は追撃の構えを見せた魔王へ切りかかる!

魔王「貴様は絶望に備えていろ!」

 魔王は振り向きざまに爆裂光弾を放った!
 勇者は直撃を受けて宙を舞う!

盗賊「魔王ぉおおお――――――っ!」

魔王「そうだ、かかって来い! 足掻き、苦しみ、痛めつけられ、そして死ね!」

 盗賊は無数のナイフを投擲する!
 しかし、魔王はナイフを避けることもなく盗賊へ突き進む!

魔王「そのような玩具で何ができる!?」

 盗賊は手元に残した、最後のナイフで魔王に立ち向かう!

盗賊「何って、お前を殺すことですよ――」

 突如として、魔王の背後にナイフの竜が食らいつく!

魔王「循環の杖、か…!?」

 盗賊は魔王の首をナイフで貫いた!


419 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:36:39.28 ID:

勇者「はぁっ…はぁっ…」

盗賊「これで――」

師匠「その程度じゃ死なねえぞ!」

魔王「…」ニィ

 魔王は素手で盗賊の腹部を貫いた!

勇者「ッ――!」

盗賊「ガッ…!?」

魔王「さあ、勇者よ、怒れ。そして、俺に全力をぶつけろ」

 魔王は盗賊の腹から臓物を引きずり出した!

師匠「てめぇえええ―――――っ!」

魔王「貴様もそうだ、まだまだ怒れば力が湧くであろう?」

 魔王は切りかかってきた師匠の攻撃をかいくぐり、至近距離で火球魔法を放つ!


420 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:38:23.30 ID:

勇者「盗賊…!」ダッ

盗賊「…僕は…ここまで、みたい…です…」ゴホッ

魔王「今生の別を惜しむといい。もっとも、すぐに同じ場所へ行くのだがな」

勇者「盗賊、盗賊…! ダメだよ、死んじゃうつもりなの!?」

盗賊「無茶…言わ…い…で…」

盗賊「し…しょ…あな…の…おか…げ…で…」

勇者「喋らないで…今、治すから…! 治すから、すぐに!」

 勇者は盗賊に祈りを捧げた!
 しかし、効果はないようだ!

師匠「やめろ、勇者。男の死に際に、水差すな」ガシッ

勇者「でも…でもっ…」

盗賊「…あ…り…と…う…。ゆう…しゃ…きみ…あえ…て…良か…た…」ニコ

 盗賊は最期に笑みを浮かべると絶命した!


421 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:42:36.84 ID:

勇者「盗賊…盗賊!」

勇者「面倒見てくれるって…約束したのに…!」

勇者「ちゃんと…リードしてくれるって…やりたいこともあるって…なのに…」

師匠「…泣くのは後にしろ」ギラリ

魔王「さあ、その怒りを俺に向けて挑んでこい」

魔王「でなければその男の死が無意味になるぞ?」ニタリ

勇者「ッ――許さない、絶対に…!」ダッ

魔王「剣だけが取り柄か? それで俺が殺せるのか、勇者よ?」

 勇者は魔王に切りかかった!
 しかし、魔王は素手で勇者と渡り合う!

師匠「俺の弟子に、ケチつけんじゃねえぞォ!」ブンッ

 師匠は魔王に切りかかった!
 しかし、魔王はひらりと回避する!

勇者「はぁああああっ!」

師匠「しっ! ふっ!」

 勇者と師匠は互いの攻撃の合間を縫うようにして魔王に肉薄する!

魔王「コンビネーションは良い、が――極大闇魔法」

 魔王は闇魔法を唱えた!
 地の底からどす黒い瘴気が液状化しながら滲み出す!
 液状化した黒い瘴気が膨れ上がり、無数の刃となって周囲を引き裂き荒れ狂う!


422 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:44:04.65 ID:

勇者「そんな、ものォ…!」ヒュオンッ

 しかし、勇者は激昂しながら剣を振るう!
 玉座の間に膨れ上がった瘴気が一閃の下に丸ごと断ち切られて消滅した!

魔王「何――?」

勇者「盗賊はやっと、自分が生きる意味を見つけたのに…!」

 さらに勇者は魔王に切りつける!

魔王「ッ…ぐぅ…!」

師匠「まだまだ、終わりゃあしねえよ!」

 師匠は怯んだ魔王に研ぎすました一撃を放つ!


423 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:45:47.93 ID:

魔王「魔法を切った…? ハハハ、ハハ、剣のみで魔法を超越するか!」ヨロッ

勇者「うるさい、うるさい、うるさい!」

勇者「よくも、よくも盗賊をォ…!」ポゥ

 ダッ

師匠(循環の杖が光って、勇者に取り込まれた…?)

師匠(そうか、循環の杖で形を持たぬ力に干渉する感覚を身につけて、それを剣技に応用した――)

師匠「勇者、畳み掛けるぞ!」

魔王「いいぞ、人間! その可能性を、俺は食らう!」

 魔王から凄まじい魔力が発散された!


424 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:49:03.03 ID:

勇者「っ…っ…」ゼィゼィ

師匠「…」ハァハァ

魔王「フハハ…これが人間と、魔族の王たる俺の差だ」

魔王「悲しいかな、それが人間の肉体的限界だ」

魔王「しかし、よくやった方だ…。喜べ、貴様らの心臓は、我が糧としてやる」ニィッ

魔王「もう体力は限界だろう? 魔力も尽きたようだ」

勇者「それでも…倒す!」

魔王「気丈な女だな」

師匠(底なしの魔力、無尽蔵の体力、死なない肉体――)

師匠(結局、輝く剣とやらがねえとこいつは殺せねえのか…?)ギリッ

魔王「だが…もう、頃合いだ」


425 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:50:31.18 ID:

勇者「頃合い…?」

魔王「貴様らは知らんだろうが、数時間前に我が配下の魔族が地上中に侵攻を開始している」

勇者「そんな…!」

師匠「てめえ!」

魔王「そういきり立つな、人間よ。異なる生物同士が相見える時、互いの生存をかけて殺し合うのは世の仕組みであろう」

魔王「そうして貴様らも進化を遂げてきたのだからな、自分達が駆逐される段になって嫌だとのたまうのは傲慢だぞ」

勇者「それでも私達は生きるために戦う!」

魔王「良いぞ、それでこそ勇者。勇気を与える者、であったか?」

魔王「そうだ、良いことを思いついた。勇者、世界の半分をくれてやる」

勇者「っ!?」

魔王「代わりに我が配下に加われ。勇者として崇められてきた貴様が、今度は人間に絶望を振りまくのだ!」


426 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:52:07.89 ID:

魔王「皮肉だよなあ? どうだ、勇者よ。なんなら、我が秘術をもってそこの人間もついでに蘇らせてやろう」

勇者「そ、そんなこと…」

師匠「そんな都合のいいことが起きると思ってやがるのか? てめえの脳みそはとんだ花畑だな」

魔王「この俺に不可能はない。世の理さえも超越し、世界の神に取って代われるのも俺のみだ」

魔王「どうする、勇者よ。地上の半分と、愛する者――天秤にかけるのは貴様の存在理由と、誇り」

魔王「自らが犠牲となれば地上の半分は救えるのだぞ?」

勇者「…半、分――?」

師匠「勇者、惑わされるな! お前はこいつを殺すために生きてきたんだろうが!」

魔王「生き方はそう変わるまい。貴様は俺を殺すためと言われてその男に育てられたのだろう?」

魔王「今度は人間を殺すためと俺に言われ、その力を行使するのだ」


427 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:55:38.44 ID:

師匠「勇者!」

勇者「黙っててよ、師匠! 確かに…魔王の言うことだし…信用なんか出来ないけど…」

勇者「それでも…盗賊が生き返るって…思ったら…」ポロポロ

師匠「っ…」

勇者「師匠も、分かるでしょ…? 大切な人と、また話せるかも知れない…抱き締めてくれるかも知れない…」

師匠「それでいいのか?」

勇者「だって…!」

勇者「魔王を倒したって、盗賊がいないんじゃ…私…もう…」

師匠「…泣くな」

勇者「でも…でも…!」

師匠「お前はここに来るまで、何をしてきた?」


428 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/04(木) 23:56:47.62 ID:

勇者「っ――」

師匠「お前はどうして、勇者の肩書きを放棄せずにここまで来た」

師匠「俺にそう教えられてきたからじゃないはずだ」

師匠「お前はお前の意志で、ここへ来た。お前の意志で、勇者として旅をしたんじゃないのか」

師匠「お前は紛れもなく勇者だ。勇者なら、世界の1つや2つ救ってみろ」

魔王「存分に悩むが良い」ニタニタ

師匠「それと…卑怯なこと言うが、お前が自分を犠牲にして盗賊が生き返ったとして、喜ぶのか?」

師匠「あいつはお前を最後まで信じて、死んでいった」

師匠「それなのに、お前は魔王にそそのかされて企みに乗るのか?」

勇者「師匠…師匠は…何で、絶望しなかったの…?」

勇者「大切な人だったんでしょ…?」


429 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:00:03.45 ID:

師匠「何度も死のうとしたさ。何度も魔物どもに無謀な戦いを挑み、死にそびれてきた」

師匠「だがある日、よだれ垂らした娘ができたんだよ」

師匠「大事な家族を守るために、俺はこの剣を捧げると誓った」

師匠「その誓いを、もう1度立てられた」

師匠「剣に生きる者として、絶望なんかをしていられるか」

師匠「俺は何もかもを失ってきている」

師匠「それでも、必ず何かを掴み取り、未来を切り拓くために生きてきた」

師匠「絶望なんかに浸っていられるほど、俺の誓いは安くねえ」

勇者「分かった…。決めた」

魔王「その決断が命運を分かつ、いいんだな?」

勇者「待っててもらって悪いけど、私はやっぱりお前を倒す!」

勇者「それで、地上の魔物も全部、私が退治する!」

勇者「私が世界を救うんだ!」

師匠「そういうことだ、魔王」


430 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:01:27.29 ID:

魔王「良かろう。…ならば、貴様らの心の臓を食らい、俺はまた力を手に入れる!」

 魔王の魔力が膨れ上がっていく!

勇者「師匠、もう、全部ぶち込むよ」

師匠「ああ…。その剣、もうボロだろ。俺のを使え」

 盗賊は刹那の刃を勇者に渡した!
 勇者は刹那の刃を装備した!

勇者「ありがと、師匠」チャキ

剣精『私の主は師匠、あなたのみです。剣として彼女に助力はいたしますが、私の真の力はあなたの意志で使われます』

師匠「分かってる…」

勇者「? 師匠、ひとりごと?」

師匠「黙ってろ、行くぞ」

魔王「さあ来い、貴様らの心臓を、我に捧げよ!」


431 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:02:19.37 ID:

勇者「ッ――大覇道斬りィ!」

 勇者は渾身の力をもって、全ての魔力とともに刹那の刃を振り下ろした!

師匠「奥義・百波突き!」

 師匠は物理を超越した無限の突きを、ただ一突きに収束させて解き放つ!

魔王「極大消滅魔法!」

 魔王は消滅魔法を唱えた!
 右手に莫大な熱量の光、左手に全てを即時凍結させる光を収束し、手を合わせる!
 プラスとマイナスの莫大なエネルギーが矢を形成し、魔王の両腕を弓として解き放たれる!
 輝く一撃が勇者に向かって繰り出された!


432 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:03:37.06 ID:

勇者「――っ…」

魔王「残念だったな、勇者よ…」グイッ

 魔王は勇者の髪を掴んで頭を持ち上げた!

勇者「うっ…」

魔王「ん? ふむ…そうか…。貴様の心臓は十月の後に食らうとしよう…」

 魔王は無造作に勇者を放り投げる!

魔王「だが、そうだな…。この男の心臓を、俺がどう食らうか…見せてやろう」

 魔王は師匠の髪を掴んで頭を持ち上げた!

勇者「し…しょ…」

師匠「ア゛ア゛ッ!」ヒュバッ

 師匠はずっと握り締めていた剣を魔王の首目掛けて振るった!
 しかし、剣は魔王の首に当たる前に砕け散った!


433 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:05:23.70 ID:

魔王「ふむ、最後の力か?」

魔王「その執念、見事。それでこそ、食い甲斐があるというもの――」

 魔王は師匠の胸に手刀を突き立て、微弱に鼓動を打ち続けていた心臓を掴み、引きずり出す!

師匠「…が…ぁ…」

魔王「見えるか? 貴様の心臓だぞ?」ニタァ

勇者「っ…」

魔王「そうそう、俺はな、人間の使う言葉で1つだけ気に入っているのがある」

魔王「いただきます、というのが――」

 魔王は大きく口を開けて師匠の心臓にかぶりついた!
 魔王は心臓を噛みちぎりながら、くちゃくちゃと音を立てて咀嚼する!

勇者「ぁ…ぁ…」

 魔王は師匠の心臓を全て食らい、口周りの血を拭った!

魔王「さて…貴様には、俺の更なる力のためにもうしばらく生きてもらおうか――」


434 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:07:35.00 ID:

―王歴155年―

剣精『あなたは最後まで、その意志を放棄して魔王を殺すためだけに思考を巡らせていたようですが、それでは私の使命が果たされません』

剣精『なので、あなたが心の深層でずっと望んでいた時に渡しました』

剣精『刹那の時ですが、あなたの魂が魔王に取り込まれる数瞬前だけ、最後に望みを叶えて下さい』

 ガサッ

勇者「…だれ?」キョトン

*「…勇、者…?」

勇者「おじちゃん…僕のこと…しってるの?」

*「会いたかった…お前に…」

勇者「ぼくのことをしってるの?」

*「ああ…ああ…だが、もう行かないとならない…」ギュッ

勇者「ぐるし…おじちゃん、だれ?」

*「俺は…いや、もう――」

勇者「いっちゃうの? おじちゃん…」

*「ああ…さよなら、勇者」

 ポゥ…

剣精『長い間、ご苦労様でした――』


435 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/05(金) 00:08:48.03 ID:

―王歴187年―

側近「魔王様、勇者がとうとう…赤子を産み落としました」

魔王「そうか。ならば勇者の心臓をとうとう食えるな…」

側近「僭越ながら申し上げますと、魔王様」

魔王「何だ」

側近「もはや、あの勇者であった人間の女に、魔王様の望む力はないように感じられます」

側近「赤子の胸に、あのあざがございまして、出産するや否や、勇者の不思議な力が失せ、赤子に宿りました」

魔王「ほう、母子で勇者か…。ならば、その赤子が俺に対峙する時は、さらに大きな力を持っているのだな?」

側近「恐らくは」

魔王「それはそれで良かろう…。赤子を地上のどこかへ落とせ」

魔王「そして勇者の首を落とし、人間の王とやらが住む都へ」

魔王「さあ、次の勇者は俺にどんな力を持ってくるか――」ニタァ


 王歴187年――。
 二代目勇者の生首が王城に落とされ、消息不明となっていた勇者一行の死亡が公式に認められた。

 そして、その日、城下町のスラムで1人の赤子が発見された。

437 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/05(金) 00:18:57.35 ID:5xsIXnq1o
あぁ・・きつい・・でも続きが気になるビクンビクン

438 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/05(金) 00:30:01.97 ID:H6Ju36Dpo
2代目も全滅か…

439 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/05(金) 00:47:43.44 ID:IWpIbCdBo
キャラの愛着湧いてきたところで無残にも殺されるのが……
でも楽しみにしてるよ更新乙

440 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/05(金) 00:57:34.12 ID:y85odozCo
なんという絶望
それにしてもこの魔王、戦闘狂みたいなとこもあるな…

441 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 10:58:48.43 ID:
―王歴198年―

戦士「おお、小童。今日も来たか」

小童「…」コクリ

戦士「よし、では木剣を――」

小童「…」ギュッ

戦士「すでに握っているか。では、好きに打ち込んでこい!」

小童「…」ゴクリ

 小童は握り締めた木剣で戦士に打ち込む!

戦士「なかなか、鋭い打ち込みをするな。だが、体捌きが甘い」

 戦士は小童の脇に木剣をすっと這わせた!

小童「…」

 ジリ…

 小童は仕切り直し、戦士から距離を取る!


442 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:00:02.48 ID:

戦士「距離を取るか。それでどうする?」

戦士「お前には、この技は使えんだろう? 覇道斬り!」

 戦士は木剣を勢いよく振り下ろした!
 木剣から放たれた衝撃が小童に直撃して吹き飛ばす!

小童「!?」ドタッ

戦士「ハッハッハッ、これは覇道斬りと言って、王国軍でも上級の兵にのみ伝わる秘技なのだ」

戦士「元々は、公爵家にのみ伝わる秘伝の技だったがな、かの大剣士が1人でも多くの者を守れるようにと王国軍に伝授したということだ」

戦士「この技を使える者はそう多くない。言わば、実力の証明といった技だな」

小童「…」ムッ

戦士「何だ、ずるいと? ふっ、そう睨むなよ、小童」

戦士「お前も他のことにうつつを抜かさず、剣の道だけをこの調子で突き進めばいずれ使えるさ」

小童「…」ムゥ

戦士「なに、魔法の修行もある?」

戦士「この浮気者め。…おっと、もう休憩は終わりだ。今日はここまでにしよう。またな」

小童「…」ペコッ

戦士「うむ、師に敬意を払うのは良い心がけだ」


443 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:01:27.45 ID:

賢者「何です、また来たのですか?」

小童「…」コクリ

賢者「私はキミに構っている時間はあまりないのですが…」

小童「…」ポンッ

賢者「脳筋戦士と違って態度に余裕がないのか、などと勝手に納得しないで下さい」

賢者「私は地上一の、大魔導士ですよ」ドヤァ

小童「…」ジッ

賢者「…良いでしょう。では、今日は魔法の基礎修練を」コホン

小童「…」ブンブン

賢者「なに、もう基礎修練は完璧? なら、火球魔法を見せてください」

小童「…」バッ

 小童は火球魔法を唱えた!
 小さな火球が小童の前に出現する!

賢者「確かに…完璧ですね。では、応用編と参りましょう」

小童「…」ワクワク


444 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:02:55.87 ID:

 ワイワイ
 ガヤガヤ

戦士「乾杯!」

賢者「乾杯」

 ガチャン

戦士「ぷはーっ、仕事終わりの麦酒は最高だ!」

賢者「確かに、このことばかりはあなたと同意見ですね」

戦士「聞いてくれよ、賢者。小童のヤツがな…」

 カクカク シカジカ
 ワタシハ スゴイ
 ドヤ-

賢者「しかしですね、戦士。小童は私のところでは…」

 カクカク シカジカ
 カレハ ワタシノ イチバン デシ
 ドヤ-

戦士「あいつは立派な戦士になるべきだ」ドンッ

賢者「いいえ、彼こそが私の跡継ぎに相応しいはずです」ドンッ

 戦士と賢者は互いに睨み合う!

445 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:04:23.00 ID:

戦士「…そう言えば、あいつ、喋らないのは何故なんだ?」

賢者「…今さら、ですか?」

戦士「ずっとそれを尋ねるタイミングを失っていたんだ」

賢者「彼はどうやら、ちょっとした障害があるようでしてね」

戦士「障害?」

賢者「珍しいことではないですよ。瘴気の影響で、彼は失語症に陥ってしまっているようです」

戦士「そうか…。子どもは瘴気の影響を受けやすいんだったな…」

賢者「ええ。二代目勇者が魔王城に踏み入ってから、急速に地上へ満ちた瘴気…」

賢者「その影響で、作物の実りが悪くなり、家畜は凶暴化して魔物に変貌、食料不足にも陥り、体の弱い年寄りと子どもが大勢亡くなりました…」

戦士「話によれば中央大陸の世界樹も、数年前に枯れたらしいしな」


446 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:04:58.49 ID:

賢者「ええ…この国が治めていると言えるのも、もはやこの城下くらいのものです」

戦士「周囲は魔物ばかりだ。定期的に駆除しなければ数が急速に膨れ上がって、いつ襲われるとも分からない」

賢者「私もその状況については報告を受けています…。明日、遠征部隊が出るのでしょう?」

戦士「そうだ。私は外部の身でありながら、その遠征隊長に任命されたよ」

賢者「この12年で…地上は変わり果てましたね…」

戦士「ああ…今の子は、野原で駆け回ることさえも知らない…」

戦士「…」

賢者「…」

戦士「しんみりしてしまったな…。気を取り直そう」

賢者「そうですね、そうしましょう」

戦士「小童のヤツはどこに住んでるんだ?」

戦士「いつも、ひょっこり顔を出すが親や兄弟や友達といるのを見たことがない」

賢者「そう言えば…私も知りませんね」


447 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:06:16.49 ID:

 ガッシャ--ン

 まだ中身の入っていた酒瓶が壁にぶつかった拍子に割れ、盛大な音を立てた!

小童「」ビクッ

女将「ちょっと、あんた! およしよ!」

亭主「やい、小童! てめえ、誰のお陰でメシ食えるか分かってるんだろうなァ!?」グイッ

 亭主は小童のよれた服のえりを掴み持ち上げた!

小童「…」ビクビク

 小童は怯えるしかできない!

女将「あんた!」

亭主「黙ってろォ!」ブンッ

 亭主は止めに入った女将を振り払った!


448 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:06:49.00 ID:

亭主「毎日、毎日、一言も喋らねえで、幽霊みてえにしやがって! 気色悪いんだよ!」

小童「…」シュン

女将「あんた、この子は元々喋れない子なんだよ!?」

亭主「喋れないなら犬畜生と同じだってんだ! 世話してやってる恩さえ感じねえで、のんきにいやがって…! 畜生以下だ!」

亭主「文句があるなら、こんな貧乏メシ屋からいつでも出てっていいんだぞ、小童!」

小童「…」ビクビク

女将「ちょっとあんた、どうしたんだい、一体! こんなにひどく当たるなんて、可哀相だろう!」

亭主「うるせえ! うるせえ、うるせえ! ああ、もう、何もかもがうるせえんだ!」

小童「…」オロオロ

女将「だ、大丈夫だよ、あの人、きっとちょっと酒を飲み過ぎただけだからね…」ギュッ


449 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:07:25.80 ID:

亭主「瘴気が何だ、魔王が何だ!?」

亭主「どうして人間様が魔物なんぞに食われなきゃならねえ!」

女将「あ、あんた…本当に何かあったのかい? 言ってごらんよ…」

亭主「う、裏町のよぉ…肉屋のヤツが、ま、魔物に食われたってんだ…」

亭主「あ、あいつぁ…ガキの頃からずぅっと…俺ぁ、一番のダチだったんだ!」

亭主「何であいつが死ななきゃなんねえ…!」

亭主「クソぅ…クソ…!」

女将「あんた…」

小童「…」ポン

亭主「何だってんだ、小童!」

小童「…」ナデナデ

亭主「お、お前…俺を慰めてんのか…?」

小童「…」ニコッ

亭主「っ…ごめん…ごめんなぁ…小童…お前に当たって…どうにもならねえのに…」ギュッ

小童「…」ポンポン


450 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:10:11.30 ID:

 スゥ スゥ

女将「小童ったら、気持ち良さそうに眠ってるよ…」

亭主「ああ…」

女将「この子を拾ってから、もう11年かい」

亭主「子どものできなかった俺達に女神様が子をくれたかと思ったが…案外、本物の天使かも知れんなあ…」

女将「その天使に向かって酒瓶投げつけたんだから反省をしなさいよ」

亭主「それはちゃんと小童に詫びたろう…」

女将「心優しい子だよ…誰がこんないい子を捨てちまったのか」

亭主「今まではこの子の本当の親が出て来ちゃあ、手放すしかないってんで隠してきたが…そろそろ、教会に連れてって洗礼を受けさせてやるべきか…」

女将「覚悟が出来たのかい?」

亭主「ああ…もしかしたら教会に、この子を捨てて懺悔する親がいるかもしれん」

女将「そうだねえ…」

亭主「見つかるんなら…やっぱり子どもが親といるのが1番だろうしなぁ」

女将「すぐに親が見つかるって決まったわけでもないのさ」

女将「この子の本当の両親が見つかるまで、大切に育てていけばいいじゃない」

451 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:11:13.32 ID:

司祭「そうですか、そのような事情で…」

司祭「よく、それを告白いたしました。女神様はきっとお許しになるでしょう」

亭主「ははあ…どうぞ、この子の洗礼をお願いします…」

司祭「ええ。では、まずこの清らかな水で身体をきよめますので、濡れないように服を脱ぎましょうか。上のシャツだけで結構ですよ」

小童「…」モジモジ

亭主「あ…し、司祭様、この子の胸、ちょいと奇妙なあざがあって、それを恥ずかしがってるんですが…」

司祭「奇妙な、あざ…?」

亭主「へえ…何ぶん、この子は口が利けねえんで、人に怯えちまうんで…くわえて、前に子ども同士の喧嘩をした時、ひどくバカにされたようで…」

司祭「そんなことが…。しかし、何も恥ずかしがることはありませんよ、小童くん」


452 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:11:46.75 ID:

小童「…」ウツムキ

司祭「人にはそれぞれ、個性があるのです。それに私は全身にひどい火傷を負ってしまった人を見たことがありますが、その人はハクがついたと喜んでさえいました」

司祭「大切なのは恥じることではなく、恥じてしまう気持ちを克服すること。そうできないことが、恥となるのです」

小童「…」コクン

 ヌギヌギ

司祭「いい子ですね。それでは洗礼を――」ピクッ

小童「?」

亭主「ど、どうかしましたか…司祭様」

司祭「その、あざは…聖痕…? まさか、そんな…」

小童「?」キョトン

司祭「3人目の、勇者――」

亭主「な…!?」

司祭「こ、これは一大事です…。誰か、誰か! すぐに陛下へご報告を!」

司祭「三代目勇者が発見された!」


453 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:12:51.60 ID:

 ズバァッ

戦士「ふぅっ…ざっとこんなものか」

伝令「戦士殿、失礼いたします!」

戦士「どうした?」

伝令「国王陛下より、至急、参城するようにと緊急伝達がございました!」

戦士「至急か…。では、部隊を後退させておけ」



 コポコポ…

使者「賢者様、国王陛下より至急参城するようにとの要請です」

賢者「研究の最中だと言うのに…仕方ありません、パトロンの命令ならば従いましょう」

賢者「用件は何です?」

使者「3人目の勇者が発見された、とのことです」

賢者「とうとう、ですか――」


454 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:13:49.55 ID:

小童「…」オドオド

 ズラァッ

大臣「顔を上げよ、勇者」

小童「…」ピクッ

大臣「そう怯えずに良い。じき、陛下がいらっしゃる。その時は膝をつき、頭を垂れるのだ。良いな?」

小童「…」コクコク

大臣(3人目の勇者が見つかったのは良いが、口が利けぬとは面倒な…)

小童「…」

 コクオウ ヘイカノ オナ-リ-

小童「…」ヒョコッ

 国王があらわれた!


455 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:14:53.90 ID:

国王「面をあげろ」

小童「…」ビクビク

国王「ガキか…」

小童「…」

大臣「この勇者はどうやら、瘴気により口が利けぬようですが、きちんと言葉は理解しているとのことです」

大臣「城下のスラム――裏町区域の食堂を営む夫婦が11年前、戸口に捨てられていたのを拾い、この勇者の実の親が現れて引き離されるのを恐れ、今日まで教会で洗礼をさせなかったということです」

国王「喋れぬか…。それではプロパガンダには使えぬな」

大臣「左様ですね」

小童「?」キョトン

国王「まあ、それはそれで使い道はあろうが――」

 センシ サマ ケンジャ サマガ ゴトウチャク イタシ マシタ

戦士「陛下、ご無沙汰をしております」スッ

賢者「招集に応じ、馳せ参じました」スッ

小童「!」

戦士「小童…?」

賢者「まさか、彼が3人目の…?」


456 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:16:15.14 ID:

大臣「知っておるのか、お前達」

国王「関係を話せ」

賢者「ハッ、では私よりご説明を申し上げます」

賢者「小童は私と戦士の、弟子であります」

大臣「お前達はそろって弟子は取らぬ主義ではなかったか?」

戦士「そうでしたが、小童は毎日、私の修練するところを眺めに来ていまして、木の棒で私のマネをしていたのです」

戦士「そこで気まぐれに型を教えたところ、とても覚えが良く、毎日、私の下を訪れる度に剣を教えていた次第です」

賢者「私も同様でございまして、魔法に強い興味を示していたので息抜きに教えたところで、魔法の才に気付いて日々、教えていました」

大臣「何と…」

国王「…事情は分かったが、喋れぬのにどうやって貴様らはこの者の名を知り、ものを教えた?」

賢者「彼は確かに運動性失語症であり、言葉を発することは出来ませんが…表情や、ボディランゲージによってコミュニケーションを取るのは容易です」

戦士「加えて、この者はとても覚えが良く、教えもしないことを自分で編み出して身につけてしまう才能があります」

賢者「私と戦士は、互いに会う度、自らの弟子に相応しいと主張するほど、彼の才能を高く買っておりました」

小童「…///」テレテレ


457 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:17:00.20 ID:

国王「確かに分かりやすい表情をする」

小童「…」ビクッ

国王「まあ良いか…言葉が話せずとも剣を振るい、魔法を放てるのならば勇者として問題はない」

大臣「それでは、陛下…」

国王「ああ。小童、と言ったな。貴様にはこれより、三代目勇者の称号を与える」

小童「…」コクコク

国王「この暗黒の時代において、人々に希望を分け与え、勇気を抱かせる存在になるよう願う」

国王「これより、小童、お前は勇者としてその称号に恥じぬ行いをするように」

小童「…」コクリ

国王「そして、魔王を殺せ」ギラッ

小童「…」ゾクッ

大臣(即位から12年――いまだ、現陛下の覇気には馴れぬな…)


458 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:17:44.24 ID:

国王「戦士、賢者。正式に勇者を弟子とし、お前達の全てを教え込め」

国王「それと並行して勇者を守護しつつ、魔王城まで連れて行け」

国王「この謁見が終わり次第だ」

戦士「陛下、それは…」

賢者「これからすぐに、旅立てと仰るのですか…?」

小童「!?」ギョッ

国王「道中、勇者が死なぬように。また、魔王を殺せるだけの力を身につけさせろ」

国王「何としてでも、魔王を討て」

国王「そして、3代目勇者よ。魔王征伐を果たした暁には、望むものを何でも与える」

小童「…」ハッ

賢者「陛下、小童が…望むものは本当に何でも良いか、と」

国王「ああ、何でもだ。それこそ、何であろうがこの俺が与えてやろう」

小童「…」ゴクリ

戦士「魔王征伐の任、確かに賜ったと申しています」

国王「では、朗報を待つ。大臣、勇者に路銀と武具をくれてやれ」

大臣「かしこまりました」


459 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:18:19.79 ID:

戦士「――小童の旅には私達が責任を持って同行する。危険な旅だろうが、どうか安心してくれ」

女将「ああ…小童や、あんたが勇者だったなんて…どうか、ちゃんと帰ってくるんだよ」ギュッ

勇者「…」コクリ

亭主「小童…あんまり、俺ぁお前に良くしてやれなかったが、お前は俺達夫婦の子だ…」

亭主「初代や二代目みたいなことにはならねえでくれ…」

勇者「…」コクリ

賢者「それでは、行きましょうか…。小童、もうお別れはいいですね?」

勇者「…」コク

女将「これ…お弁当だよ。お2人の分もあるので、良かったら召し上がってください」

勇者「…」パァ

戦士「かたじけない」

賢者「それでは」

勇者「…」

亭主「元気でやんだぞ!」

女将「ちゃんと帰ってくるんだよ!」


460 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:19:19.01 ID:

戦士「小童、防護壁の外に出るのは初めてだったな?」

勇者「…」コクリ

賢者「キミも知っての通り、外は多くの魔物が徘徊しています」

賢者「遠巻きから常に人間を観察し、襲いかかる時を待っています」

賢者「いつ、いかなる時でも油断をせずにいて下さい」

戦士「私達もサポートするが、魔王討伐のためにはお前の力が必要不可欠になるはずだ」

戦士「当分、ともに肩を並べられると判断するまでは私達がサポートを務めるから、お前が頑張れよ」

勇者「…」コクリ

賢者「それでは行きましょう」

戦士「気を引き締めろよ」

 ギィィィ

 ユウシャガ タビダツ ゾ
 センシサマト ケンジャサマモ ゴイッショ ダ
 コンド コソ マオウヲ タオシテクレ

 ワ-ワ-

小童「…」ゴクッ


461 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/06(土) 11:21:24.34 ID:

戦士(昨日まではどこにでもいる、スラムの子どもだったのにな…)

戦士(それでも前を向いて、背筋を伸ばして歩けるとは)

賢者(この子は本当に不思議な子だ…)

賢者(もしかしたら、この子こそが魔王を倒す勇者なのかも知れない)

小童「…」



 王歴198年――。
 三代目勇者が魔王征伐の旅に出た。
 最強の傭兵団元首領の戦士と、地上随一と謳われる賢者とともに。


―――――――――

短いですが、ここで一区切り
夜は更新するか未定です

462 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/06(土) 11:34:34.07 ID:gC02VeYpo
50年目に人間が勝つのか魔王が勝つのか…楽しみだわおつ

464 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 01:50:55.76 ID:
 ガサガサッ

 魔物があらわれた!

勇者「!」ヒュバッ

 勇者は素早く剣を抜き放ち、切りかかる!

勇者「…」シュバン

 勇者は火球魔法を唱えた!
 小さな火球が魔物に直撃する!

 魔物をたおした!

戦士「これが11歳の子どもと思うと、末恐ろしいものがある」

賢者「ええ…。これでまだ発展途上の力ですからね」

勇者「…」クルッ

戦士「ああ、今回も文句なしだ。何なら一人旅でも出来そうだぞ」ナデナデ

賢者「魔法も完璧です。このまま日々の修練を続けましょう」

勇者「…」コク

戦士「そろそろ、日が沈む。今日はここまでにしよう」

賢者「そうですね。食事の準備を――」

 グイッ

 勇者は賢者のローブを引っ張った!


465 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 01:54:54.08 ID:

勇者「…」

賢者「ああ、そうでした。お弁当がありましたね。では、近くに小川がありますから水だけ汲んできて、簡単なスープでも作りましょう」

戦士「その間にテントを組み立てておく。行ってこい」

勇者「…」コク

 タッタッタッ

賢者「では、テントはお願いします」

賢者「勇者、旅では自炊が必要になります」

賢者「簡単にですが教えてあげますよ」

勇者「!」

賢者「おや? そんなに料理を教わるのが嬉しいのですか?」

勇者「…」コクリ

賢者「ふふ…プロである勇者のお父さんには及ばないとは思いますがね」

賢者「何事も研究と理論の実践、それに反復の訓練をこなせば一人前に上達します」


466 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 01:55:55.27 ID:

 モグモグ

勇者「…」ニコニコ

戦士「そうかそうか、そんなに美味しいか」

賢者「ええ、実際、味も良いですし、栄養バランスも良い…。旅においては理想的な食事ですね」

勇者「…」ニッコリ

戦士「そうそう、勇者。魔物の肉を食べると魔物になるという迷信が巷で横行しているようだが、そんなことはないから覚えておけ」

賢者「もともと、魔物は動物などが瘴気の影響を受けて異形、凶暴化しただけですからね」

戦士「田舎にちょっと入ると迷信だらけで、そのせいで餓死する奴らまでいるようだ」

賢者「凝り固まった考え方を変えるのは難しいですが、生きるためですからね」

戦士「魔物を倒したら、干し肉を作っておけばいいだろう。それを貧しい者に配って、正しい知識を教えれば餓死者も減らせるはずだ」

勇者「…」コクリ


467 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 01:56:53.36 ID:

賢者「ところで、小童、キミはどうして私や戦士のところへ魔法と剣を習いに来ていたんだ?」

戦士「それは私も気になっていたな。こういうことになって役立っているが、そうでなければ無用の長物だっただろう」

勇者「…」

戦士「…どうした、秘密か?」

勇者「…」コクリ

賢者「まあ、それならそれでいいでしょう。明日からは山に入りますから、よく疲れを癒して下さい」

勇者「…」コクリ

戦士「夜番はどうする? 私は早起きする習慣があるから、後にするか?」

賢者「ではそうしましょう」

勇者「…」

賢者「キミはまだ成長期の身ですから、充分に睡眠時間をとって下さい」

戦士「お前がもう少し、大きかったら三交代制にしたんだがな」

賢者「その時を楽しみにしていますよ」

勇者「…」コクリ


468 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 01:58:39.33 ID:

賢者「こうも魔物の気配がしていては…そうそう気を休めることもままなりませんね」

戦士「そうだな…。なあ、賢者、互いにあまり昔のことは詮索しないでいたが、こういう機会だ。少しどうだ?」

賢者「よろしいですよ。あなたの経歴には少し、興味があったんです」

戦士「そうか。…実を言えばな、私はこれまで、勇者という存在に憧れを持っていた」

戦士「2代目に会った――と言うより、2代目と同じ戦場にいたことがある」

賢者「同じ戦場…ですか? 肩を並べて、戦ったと?」

戦士「いや、そんなに上等なものではない。12年前だ、私は中央大陸で名を馳せていた傭兵団に見習いで入っていた」

戦士「ある日、傭兵団に依頼が入って世界樹の里を防衛することになったんだ」

戦士「何でも強力な魔物が、配下を率いて世界樹を狙ってくるということらしかった」

戦士「そして2代目は世界樹を守るために奔走していたんだ」


469 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 01:59:18.09 ID:

戦士「魔物の軍勢が里へ押し寄せてきたが、私はまだまだ未熟者で、戦闘には参加することが許されずにいた」

戦士「それでもいっぱしの戦力であろうと、安物の剣を握り締めていたものだ」

戦士「だが、世界樹を守って、長槍を携えた魔物と戦っている勇者とその仲間を見て…レベルの違いを思い知った」

戦士「ただ見ているだけで、膝が震えてしまうほどだった」

戦士「相手の魔物は3対1の状況でも、互角に渡り合っていた」

戦士「圧倒的な強さだったはずなのに…彼らは戦い、そして勝利した」

戦士「あれを見てしまってから、傭兵団の当時の首領でさえ弱いと感じてしまってな」

戦士「必死になって鍛錬したものだ。自分もいつか、あれほどに強くなりたいと願って」

戦士「そうしたらいつの間にか、見習いだったのに腕を認められ、女だてらに首領にまでなってしまった」

戦士「あの時に、あの戦いを目撃していなければ…きっと今の私はなかった」


470 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 02:00:34.59 ID:

賢者「なるほど。あなたも彼らと縁があったのですね…」

戦士「…あなたも、と言ったか? もしや賢者、お前も2代目と?」

賢者「そうです。彼らは…命の恩人です」

賢者「私の産まれた村は瘴気の影響で激しい貧困に見舞われていました」

賢者「私はその村の儀式で…生贄に選ばれたのです」

賢者「そこを2代目と、仲間の盗賊さんが助けてくれたんです」

賢者「まだ幼かった私に…この隠者のローブまで与え、村にはいられなくなった私を西大陸まで送ってくれたのです」

賢者「村の儀式も、彼らが尽力してやめさせた…と聞かされましたが、もうその頃の記憶も薄れてしまって、どんなことをしたのかも覚えていません」


471 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 02:05:04.41 ID:

賢者「彼らと別れる前…私は2代目と手を繋いで港町を歩いていました」

賢者「その時、魔導書を見つけて、心を惹かれてしまいました」

賢者「2代目が熱心に魔導書を見つめていた私に、それを買ってくれたんです」

賢者「彼らと別れた私は、必死になってその魔導書を読み込んで、魔法を習得しました」

賢者「いつか、彼らと再会した時に魔法を見てもらおうと…」

賢者「ほどなくして、彼らは魔王に挑んで…死んでしまったようですがね」

賢者「それでもあの出会いがなければ、私は勇者に魔法を教えてあげることが出来ませんでした」

賢者「あの方達に披露することのなくなった魔法ですが、ずっと研鑽を積んできたことを今は嬉しく思っています」

戦士「私たちは…揃って勇者と縁があったのだな」

賢者「今の私たちがいるのは、2代目のお陰と言っても過言ではないでしょう」

戦士「ああ、小童…いや、勇者は私たちで守り抜こう」

賢者「ええ、それが我々に課せられた使命のはずです――」

472 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/07(日) 02:23:51.03 ID:s6xuMCA2o
ロマサガ2をやりたくなってくるな

475 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:05:31.22 ID:
 森が焼けている!

戦士「――ぜぇい!」

 戦士は飛びかかってきた魔物を切り裂いた!

賢者「こうも数が多いとは…大竜巻魔法!」

 賢者は竜巻魔法を唱えた!
 烈風が吹き荒れて魔物を飲み込み切り刻んでいく!

戦士「完全に囲まれたか…。無事に魔王城まで辿り着く自信があったのだが…」

賢者「ええ…。瘴気の影響でここまで魔物が強力になっているとは誤算でした…」

戦士「せめて、小童だけでも逃がさないとな」

賢者「しかし、その余裕がどうにもありません」

戦士「私が特攻して隙を作る。その間に小童を起こし、逃がせ」

賢者「分かりました」

 ダッ

戦士「食らえ…! 百波突き!」

 戦士は物理を超越した無限の突きを、ただ一突きに収束させて解き放つ!


476 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:07:30.19 ID:

賢者「小童、小童!」

 ユサユサ

勇者「Zzz」スゥスゥ

賢者「覚醒魔法」パァ

 ムクリ

勇者「!?」

賢者「とんでもない数の魔物に囲まれてしまいました」

賢者「まだ城下を出てから1週間足らずで、ここまで追い詰められるとは想像もできませんでした…すみません」

勇者「…」オロオロ

賢者「どうにか、キミだけでも逃げて下さい」

勇者「!?」ブンブン

賢者「これは決定事項です。今も戦士が魔物を食い止めています」

賢者「これから、盛大に抵抗して魔物の注意を引きつけますから、その隙にお行きなさい」


477 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:08:46.31 ID:

勇者「…」ジワァ

賢者「キミは男の子でしょう。その瞳は涙を溜めるためではなく、ただ前を見据えるためにあるのですよ」

勇者「…」ゴシゴシ

賢者「いい子ですね。さあ、振り返らずに走るんです」

賢者「キミは魔王を倒しなさい。そして、どうかまた、平和な世を取り戻して下さい」

 バサッ

賢者「この隠者のローブを被れば、魔力と気配を遮断して、姿も見えなくなります。私が特大の魔法を見舞うのと同時に走るんですよ」

勇者「…」

賢者「大丈夫です。さらさら、死ぬ気はありませんから」

賢者「…さて。戦士も限界でしょう。行きますよ――双極爆裂魔法!」

 賢者は爆裂魔法を唱えた!
 賢者の両手から凄まじい爆発が振りまかれ、あらゆるものを破砕していく!


478 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:09:34.02 ID:

勇者「!」

 勇者はテントの裏から一目散に走り出した!

 サア ユウシャヲ ホウムリ タクバ ワタシタチノ シカバネヲ コエテ イキナサイ

勇者「…」ギリッ

 タッタッタッ

 イカセルカァアアアッ

 ワガ マドウノ キョクチヲ ゴランニ イレマショウ

 ドゴォォォォ

勇者「…」ステンッ

 ムクッ

勇者「…」

 ダッ

 ・
 ・
 ・



479 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:10:37.53 ID:

 一滴の雨粒が勇者の鼻先に落ちた!

勇者「…」

 ポツン

 大量の死骸が転がっている!

戦士「」

賢者「」

魔物「」

 まだ森には火がくすぶっている!

勇者「…」

 ポロッ
 ポロポロ

勇者「ぅ…ぁ…」グス

勇者「ぇ…ぃ…ぇ…ぁ…」

勇者「せ…ん…し…。け…ん…じゃ…」

 雨が降り始める!
 すぐさま雨は強くなり、くすぶっていた炎が消されていく!

 ザ----


480 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:12:07.71 ID:

痩せ男「このご時世にガキの旅人か…」

痩せ男「よく来たなって、つい10年前は迎えてたんだが、今はもうここには絶望しかないぜ…」

痩せ男「どこにも行けやしない…食いものもねえ…寄り集まって、死ぬのを待つ人間しかいない…」

勇者「…」スッ

 勇者は干し肉を差し出した!

痩せ男「っ! こ、こいつは…肉か…?」

痩せ男「く、くれるってのか…?」

 コクリ

痩せ男「も、もっとないのか…?」

 ブンブン

痩せ男「そ、そうか…。だ、だが、これはもう俺のもんだ! 今さら返せったってやらねえからな!」ダッ

勇者「…」

 ポツン


481 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:13:41.02 ID:

 ワ-ワ-
 ドロボウヲ コロセ
 コノ ニクハ ドコカラ トッテキタ
 チ チガウ コレハ シラネエ ガキ カラ

 痩せ男は恐ろしい形相をした村人達に取り囲まれている!

勇者「!」

 勇者は石を投げつけられている痩せ男の前に立ちはだかった!

痩せ男「お前…!」

 ヒュッ

 どこからか石が投げられ、勇者の額に命中する!ガンッ

勇者「…」

 タラ-

勇者「こ…これ…みん、なに…」

 ゴソゴソ

 勇者は小分けした干し肉や魚の干物を取り出した!

 ニク ダゾ コレ
 ドウシテ コンナニ タクサン アルンダ
 サカナノ ヒモノ マデ アル

痩せ男「お、お前…どこでこんな大量の食料を…」

勇者「…」チャキ

 勇者は血と脂で汚れた剣を見せた!


482 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:14:14.42 ID:

痩せ男「じゃ、じゃあこれは…魔物の肉なのか…?」ゾッ

勇者「?」コクン

 痩せ男が奇声を発しながら勇者に殴り掛かった!

勇者「!?」

痩せ男「てめえ! 魔物の肉なんか食って、魔物になったらどうしてくれるんだ!?」

 キット コイツモ マモノノ テサキ ダ

 勇者はうろたえ、逃げ出した!

 ニゲダシタ ゾ ツカマエロ
 マモノノ テサキヲ イカシテ カエス ナ

勇者「…」

 ポロッ
 グシグシ

 タッタッタッ



483 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:14:44.78 ID:

 魔物があらわれた!
 勇者は火球魔法を唱えた!
 魔物は躍起になりながら勇者に牙を剥く!
 しかし、勇者は冷静に魔物の動きを読み、切り伏せた!

勇者「…」チン

 勇者は魔物の肉を剥ぎ、焼いて口にする!

 ムシャムシャ
 ゴクン

勇者「…」

 ゴシゴシ

勇者「…」

 スタスタ

 ポツポツ

 ザ------

勇者「…」

 ザッザッザッ


484 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:15:46.90 ID:

水夫「中央大陸に行きたい…?」ジロリ

水夫(何だ、このガキ…。薄汚えし、臭えし…だが、孤児には見えねえな)

勇者「…」スッ

 勇者は手持ちの金を水夫に見せた!

水夫「金はあるようだな。…よし、じゃあ、手荷物検査があるから持ち物出しな、全部だぞ」

勇者「…」スッ

 勇者は持ち物を全て水夫に差し出した!

水夫「ああ、その腰の剣もだ。船内で喧嘩するバカどもも時々いるからな。危険物は船を降りるまで預からせてもらう」

勇者「…」コクリ

水夫「船賃は金貨13枚だ」

勇者「!?」

水夫「このご時世だぜ。嫌なら他を当たりな」

勇者「…」チャリン


485 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:16:34.34 ID:

水夫「じゃ、向こうでこの乗船券に判子を押して持ってこい」

 コクリ
 スタスタ

水夫「へっ…」ニヤ

水夫「野郎ども、すぐに出せ!」

 水夫は勇者から巻き上げた金と剣と荷物を抱えて船に乗り込んだ!

 ボォ----

勇者「!」

 勇者は出航に気付いて走り出す!
 しかし、船はすでに岸を離れている!

水夫「ハッハッハッ、だーれが大陸間航海なんかするかってんだ!」

水夫「勉強代として全部、もらってってやるよ!」

勇者「…」グッ


486 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:17:41.41 ID:

オカマ「ねえ、ぼく~? どうしたの、そんなに困った顔して」

勇者「…全部…なくして…」

オカマ「あら、大変ね~。困ってるなら、お姉さんが相談に乗るわよ~?」

勇者「中央大陸に…行きたい…」

オカマ「中央大陸? お船が1番だったんだけど、今は大陸間航海するような船はないのよ?」

勇者「…」ウツムキ

オカマ「でも、北の方で西大陸と中央大陸が繋がってるって聞いたことはあるわよ」

勇者「…」パッ

オカマ「けど、とっても寒いのよ? それに流氷で出来た道みたいで、遠くにうっすら岸が見えているのに道がなくて立ち往生したとかって話もあるわ」

オカマ「1人が泳いで渡ろうとしたみたいなんだけど、北の海なんてとっても冷たいし、魔物もいるからすぐに死んじゃったって」

勇者「…」ペコリ

オカマ「え、ちょっと、行くつもり?」

勇者「…」コクリ

オカマ「やめときなさい、死んじゃうわよ?」

勇者「…」ニコッ

オカマ「…あら、かわいい笑顔…」

 スタスタ

オカマ「大丈夫かしら…?」


487 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:18:18.13 ID:

 ヒュウゥゥゥ…

勇者「…」

 ザクッ
 ザクッ

 魔物があらわれた!

勇者「!」

 魔物は飛び出てくるなり勇者に先制攻撃をする!
 勇者は魔物の攻撃を受けて吹き飛ばされた!

勇者「…」ムクッ

 グルル…

勇者「…中閃熱魔法」

 勇者は閃熱魔法を唱えた!
 氷上を光線が勢いよく駆け、魔物に直撃する!
 魔物をたおした!

勇者「…」

 ザクッ
 ザクッ


488 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:19:06.03 ID:

戦士『おお、小童。今日も来たか』

賢者『何です、また来たのですか?』

亭主『瘴気が何だ、魔王が何だ!?』

国王『魔王征伐を果たした暁には、望むものを何でも与える』

亭主『元気でやんだぞ!』

女将『ちゃんと帰ってくるんだよ!』

賢者『どうにか、キミだけでも逃げて下さい』


489 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:20:00.09 ID:

勇者「…」ズキッ

勇者「…ぅ…ぁ…ぁ…」



痩せ男『てめえ! 魔物の肉なんか食って、魔物になったらどうしてくれるんだ!?』

水夫『ハッハッハッ、だーれが大陸間航海なんかするかってんだ!』



勇者「――――」

 何かが勇者の中で切れた!
 同時に抑制の利かない魔力が爆裂魔法となって解き放たれる!

勇者「…」フゥフゥ

 フラッ
 バタッ

?「こんなところで魔法を撃つなんざ、どこのどいつだ…?」

?「あれは…」

?「何でこんなとこに人が――いや、それより、子どもじゃないか…」

?「ひどい衰弱だな…おい、大丈夫か?」

?「待ってろよ、すぐにあったかいところに連れてってやるからな」


490 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:20:40.88 ID:

 パチ

勇者「…」キョロキョロ

 グオ- グオ-

勇者「…」キョトン

勇者「…」ムクッ

 スタスタ

勇者「…」

?「お、起きたのか…ちょっと居眠りしちまったかぁ…」

勇者「!」ビク

?「そう警戒するなって、氷原で倒れてたお前さんを運んできたんだぞ」

勇者「…」ハッ

勇者「…」

 ペコリ

?「まあ、いいってことさ。俺は…そうだな、隠居、とでも呼べばいいさ」

隠居「お前さんは?」

勇者「…勇者」

隠居「勇者? あの…?」

勇者「…」コクリ


491 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:21:14.30 ID:

隠居「そうか、3人目がお前か…。いや、会えるとは思ってなかったな」

隠居「それにしても無口なヤツだなぁ。寒さで口が凍りついたか?」ケラケラ

勇者「…最近、やっと…喋れる…ように…なったから」

隠居「最近?」

勇者「ずっと…喋れなかっ、た…」

隠居「ほおう、そりゃそりゃ不思議だな。俺はな、まあ、隠居とは名乗ったが一応は作家ってやつをしているつもりだ」

勇者「…」パッ

隠居「お、本が好きか?」

 コクコク

隠居「そうか、そいつはいい。今な、俺は勇者と魔王の戦いの記録を集めるだけ集めて、それを一冊の本にしようとしてるんだ」

勇者「…」

隠居「お前さんの旅に何か有益な情報があるかも知れないし、ちょっと俺の本、読んでみないか?」

勇者「…」コクリ


492 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:21:44.84 ID:

隠居「まだ書きかけでな、初代勇者の義兄だったって言う大剣士を主軸に据えた初代勇者編と、女の勇者と仲間の盗賊の旅の記録を集めた、二代目編の魔王城へ向かうまでを書いてあるんだ」

隠居「本当はこれで終わりかと思ってたが、三代目が現れたんじゃあ書かざるをえない」

隠居「良かったら、ここに来るまでのこと、教えてくれねえか?」

隠居「読み終わってからでもいいからよ。それにお前さん、熱もあるようだし、ゆっくりしていくといい」

勇者「…」コクリ


493 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:22:52.74 ID:

 ペラ…
 ペラ…

 パタン

隠居「どうだった?」

勇者「…」ニコッ

隠居「気に入ってくれたか。そいつは嬉しいね。作家冥利に尽きるってやつだ」

隠居「色々と取材をしてみて、気付いたことも書いておいたが驚いたか?」

勇者「?」

隠居「何だ、分からなかったか。大剣士と初代勇者が本当の兄弟だった、とか」

勇者「!」

隠居「あ、さては創作だと思ったな? これはきちんと取材をして、記録を集めて、事実に基づいた推論を入れてあるだけだ」

勇者「…」

隠居「納得しないか。まあいい。それに、二代目勇者と盗賊の恋愛譚なんてどうだった?」

勇者「!」

隠居「それも創作かと思ったってか!?」

 コクリ

隠居「ま、そうも思われるか…。仕方ねえ」


494 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:23:24.38 ID:

隠居「それで、お前さんの話なんだが――」

勇者「…」シュン

隠居「話しにくいことがあるのか?」

 コクリ

隠居「そうか…。まあ、ムリにとは言わねえが、吐き出すだけ吐き出せばすっきりすることもあるんだぜ?」

勇者「…」

隠居「まあいいさ。とりあえず、感想を教えてくれ」

勇者「…」ニコッ


495 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:24:05.69 ID:

隠居「たまには、こうして人と話すのもいいもんだ」

勇者「…ここに…1人で…いるの…?」

隠居「ああ、あんまり人がたくさんいると面倒なことがたくさんあるからな」

隠居「瘴気がどうこうと騒いじゃいるが、追い詰められた人間ってのが1番あさましくていけねえ」

隠居「煩わしくて、何度も居を移しちまったぜ…」

隠居「人は助け合うために社会を形成したのに、いつの間にか、足を引っ張り合うようになっちまう」

隠居「本当…人間ってヤツは救われねえな」

勇者「…でも…僕は…好き…」

隠居「ほう? 何でだ?」

勇者「…こうして…助けて…くれること、あるから…」

隠居「そりゃ、一握りだけだぜ?」

勇者「…それでも…いる…」


496 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:24:38.30 ID:

隠居「ふむ。少し、お前に厳しい問いかけをしていいか?」

勇者「?」コクリ

隠居「人間は10の善行をし、30の悪行をするとしよう」

隠居「そして魔族は魔族3の善行をし、50の悪行をする」

隠居「一握りだが、魔族も人を助けるとしたら」

隠居「お前さんは一体、どうする?」

勇者「…」

隠居「…」

勇者「…分からない…」

隠居「分からない、か。…それもいい。いや、それでこそ、いい」

勇者「?」

隠居「実は俺は隠居したと言ったが…隠居する前は何をしていたと思う?」


497 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:25:38.65 ID:

勇者「?」

隠居「魔王」

勇者「!?」

隠居「魔王も実は世代交替をするんだ。ああ、安心しろ。俺は別に人間を襲おうとは考えん」

勇者「…」

隠居「今の魔王は、俺の倅でもあるんだが…いつからか、とんでもない野心を持ってな」

隠居「全てを手中に治める神になるなんて言い出した」

隠居「そして、俺の玉座を力によって奪い去った」

隠居「その時に心臓を2つほど食われちまってな…お陰で、隠居生活だ」

勇者「…」


498 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:26:15.73 ID:

隠居「あいつが俺から玉座を取ったのは、人間の暦で、もう半世紀近く前になるか」

隠居「それからだ、勇者なんていうのが現れたのは」

隠居「人間と魔族の生存戦争における、人間側唯一の切り札」

隠居「だが、2戦2敗で人間は負け越しだ」

隠居「正直、俺は人間の文化を愛している。人間の生き方は魔族にはない思考に基づいていて、多種多様だ」

隠居「だから人間の味方をしてやりたいが、余計なことをして倅にぶっ殺されたら、人間をこれ以上、見ていられないしな」

隠居「勇者、お前さんは俺を変だと思うか?」

勇者「…」コクリ

隠居「じゃ、お前さんは自分を変だと思うか? 魔族は全部悪くないとは言い切れない、お前さん自身を」

勇者「…」コクリ

隠居「そうか。…だが、変なんかじゃない。初代勇者なんて、それぞれに主義主張がある、なんて言ったそうだぞ」


499 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:26:51.34 ID:

隠居「余計なことまで考えさせて悪いかも知れないが、魔王を倒すことを正義としても、全ての魔族が悪であるとは思わないでくれ」

勇者「…」

隠居「種族は違えど、同じ生物だ。こうして言葉も交わせる」

隠居「例えいがみ合ったとしても、どちらかが絶滅するまで殺し合う必要はないはずだ」

勇者「…」コクリ

隠居「とにもかくにも、今は魔王を倒すことが第一だろう。あいつは後戻りすることなど知らないしな」

隠居「お前が俺に同調してくれたし、とっておきのことを教えてやろう」

勇者「?」

隠居「アイツの命の秘密について」

勇者「!」


500 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:27:46.76 ID:

隠居「あいつは心臓を食って、自分の心臓を増やすことができる」

隠居「そして、食らった心臓の持ち主の力を自分のものにする」

隠居「人間では、初代勇者と、二代目勇者の師匠が心臓を食われた」

隠居「さらに、俺の心臓を2つ」

隠居「ついでに魔王は竜族の王を殺して、その心臓も食っている」

隠居「ヤツの自前の心臓を加えて、6回もヤツを殺さないと倒せない」

勇者「…」ゴクリ

隠居「ああ…いや、確か初代勇者が1度、あいつを殺したか。てことは5つの命だ」


501 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:29:14.59 ID:

隠居「もちろん、1回殺すだけでも命懸けだろうがな」

隠居「だが、そんな正攻法じゃ、いつまで経っても殺せん。どころか、1度殺して、2つの心臓を食われるようなサイクルにでもなっちまったら手に負えん」

隠居「そこで魔王の心臓を破壊にかかれ」

勇者「…心臓…」

隠居「そうだ、心臓とは言え、魔王の体に5つもそれがあるわけではない」

隠居「別のものに心臓を作り替えて保管しているんだ」

隠居「だから、それを破壊し、ヤツの肉体で心臓として動いている1つだけにして挑む」

隠居「ま、1つでも壊せば魔王はすぐに魂胆を察するだろうが…4つ壊せば対等な命のやり取りに持ち込める」

隠居「その先はお前さんの腕次第、ってわけだな」

勇者「…その、心臓の場所は…?」

隠居「それはちと今は分からんが、俺が調べてやろう」

勇者「…」


502 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:29:45.95 ID:

隠居「その代わり、1つ条件を出す」ビシッ

勇者「?」

隠居「必ず、魔王を倒せ」

隠居「俺としても、大好きな人間が虐げられるこの時代は気分が良くない」

隠居「だから約束をしろ」

勇者「…」コク

隠居「よーし、もののついでにプレゼントだ」

隠居「見たとこ、武器も防具もなしで、ついでに防寒対策も薄汚い布っ切れと、どこぞの魔物の毛皮だけじゃみすぼらしくて仕方ねえ」ゴソゴソ

 隠居は小屋の中をあさり始めた!
 隠居は鞘に収まった長剣を取り出した!
 隠居は威圧感さえ与えられる毛皮のコートを取り出した!


503 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:30:13.26 ID:

隠居「紅の剣と、覇獣のコートだ」

勇者「!」

隠居「こいつの凄さが分かるか? ふふん、俺様愛用の逸品だからな。こいつをやるから、もう身ぐるみ剥がされるなよ?」

勇者「身ぐるみ…何で…知って…?」

隠居「それしか考えられないだろう、こんな場所に丸腰同然で来てんだからな」ハッハッハッ

隠居「心臓の場所が分かり次第、随時、お前に報せてやる」

隠居「きちっと体調を戻して、行ってこい」

勇者「…」コクリ


504 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:30:49.82 ID:

 ザクッ
 ザクッ

 グォオオオッ

 魔物があらわれた!

 勇者は紅の剣を閃かせる!
 深紅の剣閃が魔物を引き裂いた!

魔物「」

 チン

 ザクッ
 ザクッ

勇者「…」

 ピタ

 ザザ-ン
 ザザ-ン

 大地が途絶え、荒れる海が眼前に広がる!


505 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:32:06.79 ID:

オカマ『1人が泳いで渡ろうとしたみたいなんだけど、北の海なんてとっても冷たいし、魔物もいるからすぐに死んじゃったって』

勇者「…」

 ヌギヌギ

 勇者は服を脱ぎ、荷物とともにまとめた!ブルブル
 全ての荷物を頭の上にくくりつける!

勇者「…」フ-

 ザバンッ

 グォオオオッ

 身を切るような冷たさの海中から魔物が迫ってくる!

勇者「中竜巻魔法」

 勇者は竜巻魔法を唱えた!
 竜巻魔法は海中で渦潮を作り出し、魔物を飲み込んでいく!

 オォォォォン…

 ザブン
 ザブン

勇者「…」

 バシャッ

 勇者は対岸に辿り着いた!


506 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:33:40.53 ID:

 フ-フ-
 ブルッ
 クシュンッ

勇者「…」

 ズビ-

勇者「…寒かったけど…渡れた…」

 勇者は服を着た!

 ポツン

 ザクッ
 ザクッ

 バサバサッ

 魔物があらわれた!

勇者「中火球魔法」

 勇者は火球魔法を唱えた!
 無数の炎の塊が魔物に襲いかかる!


507 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:34:22.79 ID:

魔物「」

勇者「…」

 パチパチ

 モグモグ

勇者「…」

 ザクッ
 クシュンッ
 ザクッ
 ズビ-


亭主『元気でやんだぞ!』

女将『ちゃんと帰ってくるんだよ!』


 クシュンッ

勇者「…もう…倒れないぞ…」

 ザクッ
 ザクッ


508 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:35:24.20 ID:

 ワイワイ
 ガヤガヤ

勇者「…」

 スタスタ

 ナニ アノコ スゴク カオイロ ワルイ
 アア イウノ トハ カカワラナイ ホウガ イイサ

 オソロシイ フウボウノ ガキ ダナ
 コンナ ジダイニ ヒトリタビ ダト シタラ ヨホドノ シニタガリ ダナ

勇者「…」

 カランカラン

宿屋「いらっしゃいま…せ、お客様…」タジ

勇者「1晩…」

宿屋「1泊でございますね。1泊、銀貨1枚と銅貨8枚です」

勇者「…」チャリン

宿屋「で、では4階の階段上がってすぐ手前のお部屋にどうぞ」

 ペコリ
 スタスタ

宿屋「…な、何かおっかないお客さんだなぁ…」


509 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:36:46.17 ID:

 ガチャ

勇者「…」

 ボフッ
 フカフカ

 勇者はふかふかのベッドに感動している!

勇者「…」

 ボフッ
 フカフカ

 勇者はふかふかのベッドに興奮さえしている!

勇者「…」ニコニコ

 ボフッ
 フカフカ

 勇者はふかふかのベッドにやみつきだ!


510 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:37:22.02 ID:

勇者「♪」ウキウキ

 ボフッ

 コンコン

勇者「!」

 バタバタ

宿屋「失礼します、お客様…」

勇者「…」キョドキョド

宿屋「今夜は食堂が込み合いますので、お食事はこちらにお持ちしてよろしいですか?」

勇者「…」コクコク

宿屋「で、では失礼いたしました…」

 バタン

勇者「…」フ-

宿屋(な、何か怪しい音がしていた…! な、何だ、何だったんだ…!?)


511 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:38:05.05 ID:

勇者「…」

 カチャカチャ
 モグモグ

勇者「…」ピタ


亭主『何度言わせんだ、小童! 食器の音なんか立てんじゃねえ!』

女将『あんた、およし、こんなに美味しそうにあんたの料理食ってくれるのは貴重なんだよ?』

亭主『うるせえ! 裏町だからってなぁ、こちとら料理人のプライドってもんがあんだ!』

女将『まったく…自尊心ばっかり大きくて、肝っ玉は小さい男だね、あんた』


勇者「…」

 カチャ

勇者「…」ムゥ

 ヒョイ
 パクッ

勇者「…」ハァ


512 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:38:59.38 ID:

 小鳥が閉ざされている窓をつついている!コンコン

勇者「?」

 ガタッ

 勇者は窓を開け放った!

 バサバサッ

小鳥?『よう、勇者。元気にやってるか? 俺だ』

勇者「…隠居…?」

隠居『そうだ。お前、あの氷の海を泳いだろう? 見てたが、まあ、随分と無茶なことをするな』

勇者「…///」テレテレ

隠居『誉めてないが、まあいいか。心臓の在処が1つ、分かった』

勇者「!」


513 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:39:27.16 ID:

隠居『お前さんがいるのは中央大陸の玄関港だな』

隠居『そこから北西の山に無数の洞窟がある』

隠居『その中のどれか、最奥部にあるはずだ。どの洞窟かは特定出来なかった』

隠居『魔王も一応の用心をしているかも知れないから気をつけろ』

勇者「…」コクリ

隠居『それじゃ、2箇所目が分かったらまた報せる』

 ピィピィ
 パサパサッ

 小鳥は飛び去っていった!

勇者「…」

 ポツン


514 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:40:16.18 ID:

宿屋「ま、またのご利用をお待ちしております…」

勇者「…」ペコリ

 カランカラン

宿屋「…意外と普通の子、だったか…?」

宿屋「い、いや…客室に何かされた可能性も…!?」

 ドドドッ
 バタンッ

 ピッカ----ン
 キラキラキラキラキラ…

宿屋「何、だと…!?」


515 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:41:08.97 ID:

女将『おや、小童…お手伝いしてくれるのかい?』

 コクリ

女将『ありがとうねえ、あんたは本当にいい子だね』

 ナデナデ
 ニコニコ



勇者「…」

 テクテク

勇者「…」

 ヒソヒソ

 アノ ボウズノ コ-ト ネウチ モン ダゼ キット
 ボス イツモノ ヤツ ヤリマス カイ
 ヨシ ジャア イツモ ドオリニ ヤルゾ

勇者「…」

 ドンッ

チンピラ「ってぇーな! あー、こりゃダメだわ、骨折れたわー」

 チンピラがあらわれた!

516 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:41:44.09 ID:

勇者「…」

ボス「どうした、お前!」

チンピラ「ボス、このガキ、俺にいきなりぶつかってきやがったんだ」

ボス「何だと!? お前、ケガは!?」

チンピラ「うぉおおおっ、こ、こりゃいけねえ、骨が折れたみだいだ!」

ボス「おうおう、坊主、こいつぁなぁ、最近、ようやく改心して働いて子どももできたんだ」

チンピラ「うぉおおおっ、嫁っ、娘っ! こんな、こんなケガじゃあ働けねえ! お前ら、俺を切り捨ててどうかうまくやっていってくれぇー!」

ボス「こいつも思い詰めて、これじゃいつバカなことを考えるかわからねえ」

ボス「金目のもので償いな!」

勇者「…」スッ

ボス「んんっ!? な、何だよ…物分かりがいいな。だが、こりゃ何だ…?」

勇者「グレイトホーンホエールの角」


517 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:42:18.80 ID:

ボス「グレイトホーンホエールぅ!?」

チンピラ「そ、それって…あの海のギャングじゃないすか…!?」

勇者「…」スッ

ボス「ま、待て、小僧! た、確かにこれが本物なら、大したもんだが…証拠がねえ」

ボス「そのコート、もらってやるよ。それと、この角で手打ちだ」

勇者「…」

 スタスタ

ボス「てめえ、待――」ガシッ

 ボスは勇者の肩を掴んだ!


518 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:42:54.23 ID:

勇者「!」ピクッ

 勇者はとっさに紅の剣に手を伸ばしたが、途中で動きを止めた!

 ゾクッ
 ポタポタッ

チンピラ「ぼ、ボス…?」

ボス「あ…ああ…いや…何でもねえ…行け…」ガタガタ

 スタスタ

チンピラ「ボス、一体どうしたんでさぁ!?」

ボス「あ、あの小僧…何者だ…? こ、殺されるかと…思って…」

チンピラ「ぼ、ボス、汗がとんでもねえことになってやすが…」

ボス「も、もうあんな小僧と関わるな…あれはただのガキじゃねえぞ…」ブルブル


519 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:43:31.18 ID:

 スタスタ

 ブルルァアアアア

 魔物があらわれた!

 魔物の攻撃!
 勇者は攻撃をかいくぐり、深紅の剣閃を閃かせた!

 魔物は手負いになりながら勇者に噛みついてくる!
 勇者は爆裂魔法を至近距離で魔物に解き放った!

魔物「」

勇者「…」チン

 スタスタ

 ヒュオォォォ

勇者「1…2…3…」

 ガルルルッ

 魔物があらわれた!
 勇者は火球魔法を唱えた!
 巨大な火球が魔物に直撃し、巨大な火柱をあげる!

魔物「」

勇者「…13…14…15…」

勇者「ここから見えるだけで…15箇所…」

 ハァ

 スタスタ


520 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:44:25.34 ID:

 パチパチ…

勇者「…」


賢者『ダンジョン内での焚き火は危険な場合があります』

賢者『炎が燃焼すると、有毒なガスが生じるんです』

賢者『屋外では新鮮な空気がありますので、それが溜まりはしないのですが、ダンジョン内で、特に空気がよどんでいるような場所では控えた方がいいでしょう』

賢者『それと、洞窟などでは引火性のガスが発生している場合もありますから、その注意もしなければなりません』

賢者『前者については、風の流れさえ作ってあげれば問題ありませんがね』

賢者『そういう意味でも、魔法というのはただ相手を傷つけるためではなく、色々な用途があるのです』


勇者「…」

 ヒュゥゥゥ

勇者「…」ウンウン


521 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:45:23.53 ID:

戦士『肉をとる時は、とりあえず頭を落とす』ザクッ

 ブシュ-

戦士『血抜き、というやつだな。それから、毛皮や羽などを剥ぐ』

 ザシュッ
 ザシュッ

戦士『あとは解体して、干し肉にするなり、何なり、ラジバンダリだ』


 ザシュッ
 ザシュッ

勇者「ラジ…バン、ダリ…?」

 ウ-ン


522 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:46:59.62 ID:

 黒竜があらわれた!

勇者「!」

 黒竜は口から暗黒の火炎を吐き出す!
 勇者は岩場を駆け回りながら火炎を回避する!

 勇者は岩陰から飛び出し、黒竜に飛び出して切りかかった!
 紅の剣から竜殺しの稲妻が発せられ、切り裂くのと同時に稲妻が黒竜を焼く!

 黒竜は飛び上がり、ホバリングしながら中空から勇者に向かって暗黒の火炎を吐き出した!

勇者「!?」

 勇者はとっさに覇獣のコートで身体を覆い、暗黒の火炎を防ぐ!
 しかし、黒竜は動きを止めた勇者に鋭い牙の並んだ口で噛みついてきた!

 勇者はあえて黒竜の口内に身を投げて、内側から紅の剣を突き立てる!
 紅の剣から紅蓮の炎が燃え上がり、黒竜は耐え切れずに竜車を吐き出した!

勇者「!」

 黒竜が棘のついた尻尾で勇者を叩きつける!
 勇者は横っ飛びになったが回避し切れずに吹き飛ばされた!


523 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:47:33.48 ID:

 フ-フ-

 黒竜は暗黒の火球を5発連続で吐き出した!
 しかし、勇者は紅の剣を掲げた!
 すると火球は勇者に直撃する寸前で進路を変え、勇者の掲げた紅の剣の先端に収束する!

 勇者は紅の剣を振り下ろし、暗黒の大火球を黒竜にぶつけた!
 黒竜が倒れた!

勇者「…」

 パァァ

勇者「…」

 テクテク

勇者「これが魔王の心臓…1つ目…」

 ブンッ
 パリ----ン



524 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:48:27.71 ID:

魔王「!」

魔王「…フフ、フハハ…そうか、いよいよ、気付いたか…」

魔王「まあ良い…。次から、そう簡単にいくとは思うなよ」ニヤァ



 ハァハァ

勇者「…」

 勇者は洞窟から呼吸を荒げながら出た!
 しかし、体力の限界ですぐに仰向けに倒れる!

 フ-フ-

勇者「…」

 ポツン

 タカが勇者の傍に降り立った!

隠居『勇者、待っていたぞ』

勇者「…」ムクリ

隠居『随分と疲労が顔に出ているな。洞窟を何個潜った?』

勇者「17…18…?」


525 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:49:31.02 ID:

隠居『道理で、時間がかかったわけだな…』

隠居『すでに季節が1つ変わってしまったぞ』

勇者「!」

勇者「…」ウナダレ

隠居『だが、その間に3つ目まで分かった』

勇者「!」

隠居『1つは中央大陸にある。片方は枯れた世界樹の頂上。もう片方は南海の孤島にある海面洞窟の中だ』

勇者「…」コクリ

隠居『引き続き、こちらも捜索を続ける。次から、魔王は本腰を入れて心臓を守りにくるはずだ』

隠居『これまで以上に気をつけるんだぞ』

勇者「…」コクリ


526 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:50:30.12 ID:

里長「…おお、勇者様でございますか…」

里長「私は里長と申します…。世界樹を守る、この里の長をしておりました…」

勇者「…里…?」

里長「つい6年ほど前までは、ここにも人がおりました…」

里長「しかし…世界樹が枯れ…今はもう…私くらいしかここへは残っておりません…」

勇者「…」

里長「折角、勇者様がいらしたのに…おもてなしもできないことをお詫びさせてください…」

勇者「!」ブンブン

里長「おやさしいですな…。勇者様というのは…」

里長「2代目の勇者様も…それはそれは…おやさしい方でした…」

里長「何となく、あなたにも…面影が見て取れますな…」


527 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:52:01.99 ID:

勇者「世界樹の頂上に…いきたい…」

里長「頂上…でございますか…?」

里長「それならば世界樹をそれこそ、よじ登るしかありませんが…世界樹を登れるのはよほどの者しかございません…」

里長「守人という男がいたのですが、世界樹が枯れてからは姿も見えなくなり…この地上で、頂上まで登れるのはあの者だけだったのですが…」

勇者「…」

里長「それでも…ご自分で登られるのでしたら…これをお持ちください…」

勇者「?」

里長「この里に最後に残された…世界樹の雫と言います…」

里長「いえ…もう、地上で最後のものでしょう…」

里長「瘴気の影響で新芽がとれなくなり…もう、何十年も前に雫を精製できなくなってしまったのです…」

里長「しかし、この最後の世界樹の雫も、勇者様の一助となれるならば…きっと…世界樹も喜ぶでしょう」

勇者「…」


528 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:52:48.55 ID:

 ヨジヨジ…
 ハァハァ

 勇者は世界樹をよじ登っている!

 ヨジヨジ…

 勇者はふと下を見た!

勇者「!?」

 勇者はあまりの高さにビビり、そっと上を見るようにした!

勇者「…」

 勇者はあまりの高さに体がすくんでしまい、動けなくなった!

勇者「…」

 勇者は高所恐怖症を自覚した!

賢者『キミは男の子でしょう。その瞳は涙を溜めるためではなく、ただ前を見据えるためにあるのですよ』

 勇者は勇気を振り絞ってまた登り始めた!


529 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:53:38.75 ID:

勇者「!」

勇者「…」キョロキョロ

 勇者は世界樹の幹にあるドアを発見した!

勇者「…」

 ガチャ

 勇者は恐る恐るドアを開けた!

勇者「?」

 キョロキョロ
 ハッ

 勇者はベッドを見つけた!

勇者「…」

 ボフッ

 勇者はベッドに腰掛けてみた!
 しかし埃が舞い上がってしまう!

 ケホッ ケホッ

 勇者は布団を日の当たるところへ移動した!


530 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:54:21.41 ID:

 スヤスヤ

?『……を………』

?『…じゅ…を…とこ……へ…』

勇者「?」ムニャムニャ

?『世界樹の雫を俺のところへ…』

勇者「!?」

 勇者はどこからか響く声に怖くなった!

勇者「…」キョロキョロ

?『世界樹の雫を俺のところへ…そうすれば世界樹は…息を吹き返す――』

勇者「!」

 シ-----ン

 しかし、それきり声は消えてしまった!

勇者「?」

勇者「俺のところって…どこ…?」

 勇者は干したての布団で丸まり、再び眠った!


531 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:55:28.79 ID:

 ヨジヨジ
 クシュンッ

勇者「…寒い…。高い…から…?」

 ヒュオォォォ…

勇者「…」

 ヨジヨジ
 ・
 ・
 ・

勇者「!」

 勇者は再び、世界樹の幹にドアを見つけた!

勇者「…」

 勇者は逡巡し、ドアを無視して上を目指した!

勇者「…」チラッ

 勇者は恐る恐る、下を見た!
 眼下には雲が広がるばかりだ!

勇者「…ちょっとは…マシ…?」

 ヨジヨジ


532 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:56:28.50 ID:

勇者「頂、上…」

 グッ
 スタ

 勇者は枯れた世界樹の頂上にたどり着いた!

?「魔王様の命を狙っているのは貴様だな?」

勇者「!?」

?「我が名は騎竜兵――参るぞ!」

 騎竜兵があらわれた!

勇者「!」チャキッ

 騎竜兵は飛竜に跨がったまま素早い動きで勇者へ迫る!
 勇者は紅の剣に竜殺しの稲妻をまとって身構える!
 騎竜兵は飛竜から飛び上がった!
 騎竜兵と飛竜が同時に勇者へ襲いかかる!

勇者「!?」

 勇者は飛竜の鋭い爪を防いだ!
 しかし、騎竜兵の繰り出した長剣の一撃が勇者の左肩を切り裂いた!


533 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:57:00.32 ID:

勇者「!」ブンッ

 勇者は飛竜の首を掴んで騎竜兵に投げつけた!

勇者「っ…」ドクドク

 勇者は血の止まらない左肩を抑え、じりじりと騎竜兵との間合いをはかる!

騎竜兵「行け、飛竜!」

 騎竜兵の号令で飛竜が高く飛び上がる!
 騎竜兵は竜巻魔法を唱えた!
 勇者は烈風に煽られて全身を刻まれていく!

勇者「!」

 飛竜は降下しながら勇者に襲いかかった!
 勇者は閃熱魔法を唱えた!
 飛竜は閃熱魔法を錐揉み回転しながら回避する!
 しかし、勇者は閃熱魔法を放つ腕を振り、飛竜に直撃させる!

 騎竜兵が長剣を振り下ろしてきた!
 勇者は跳びずさって距離を持ち、紅の剣を片手で突き出す!
 しかし、剣同士がかち合って互いの攻撃が通じない!


534 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:57:42.31 ID:

 飛竜は騎竜兵と切り結ぶ勇者に火球を吐き出した!
 勇者は騎竜兵の長剣を弾いてから火球を切り裂き、その炎を紅の剣にまとう!

 勇者は紅の剣を思い切り振り下ろした!
 紅の剣から放射状に凄まじい火炎が繰り出され、騎竜兵と飛竜を飲み込む!

勇者「っ…」

 勇者は紅の剣を下段に構えながら様子をうかがう!

 バッ

 騎竜兵が炎の中から飛び出してきた!
 勇者は騎竜兵を迎え撃つべく紅の剣を振り上げる!
 しかし、背後から迫った飛竜が勇者に襲いかかった!

 騎竜兵は勇者ごと飛竜を長剣で貫く!

勇者「っ――」

 勇者は腹部を貫かれて膝をついた!
 飛竜は力つきた!

騎竜兵「死ね、勇者…!」

 竜騎兵は長剣を振り下ろす!
 しかし、勇者は覇獣のコートを翻した!

 覇獣のコートは長剣を弾く!
 勇者は思いがけず体勢を崩した騎竜兵の首を紅の剣で切り飛ばす!


535 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:58:18.18 ID:

 ドサッ…

勇者「っ…」

 勇者は自らに祈りを捧げた!
 勇者の傷口がみるみる塞がっていく!

勇者「…心臓…2つ目――」

 ブンッ
 パリ-------ン

勇者「…」

 勇者は世界樹の頂上から地上を見渡した!
 どこまでも雲海が広がり、何も見えない!

勇者「…」

?『世界樹の雫を俺のところへ…』

 勇者は世界樹の頂上に遺体を見つけた!

勇者「!」

 勇者は恐る恐る世界樹の雫を遺体にかけた!

 ジュワァ…

 遺体が溶けて世界樹に吸い込まれていった!

勇者「!?」

?『下で待っている。礼を言う、勇者よ――』

勇者「?」

 勇者はそっと、世界樹の頂上から下を見た!
 勇者は登ることより降りることの方が怖いことを知った!


536 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:59:13.64 ID:

勇者「…」ピョンッ

 ジ------ン

 勇者は大地に降り立ち、感動した!

里長「おお…勇者様っ…!」

勇者「!」

里長「勇者様、ありがとうございます、ありがとうございます…!」

 里長は勇者のぼろぼろの両手を握りしめる!

勇者「?」オドオド

?「勇者、待っていた」

勇者「?」

?「俺は守人――。世界樹の守護者だ」

守人「瘴気の影響で世界樹が弱り果てていたところを、あの魔物に襲われて俺は1度死んだ」

守人「だが、その魔物を退治し、世界樹の雫を俺にかけてくれたから再び復活できた」

勇者「?」

 勇者はよく分かっていない!


537 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 18:59:52.81 ID:

里長「守人は…いえ、守人様は世界樹の化身なのです」

里長「彼が復活したことで、世界樹もまた復活の兆しを見せます」

守人「里長、今まで通りでいいんだ」

勇者「…」

守人「キミのお陰で、俺はまた復活を果たせた」

守人「俺ならば枯れた世界樹をまた蘇らせることができる」

勇者「!」

守人「瘴気があまりのも濃くてすぐに蘇るというわけではないがな」

勇者「…」

守人「それでも、再び俺は世界樹を守護する」

守人「キミが魔王を倒した暁には瘴気も薄くなり、再び世界樹が新芽を出すだろう」

里長「世界樹が復活をすれば里にも人がやってきます…」

守人「里長、1人でずっとこの地を守ってくれてありがとう」

勇者「…」

守人「キミならばきっと、魔王を倒せるはずだ」

守人「木の実や野菜だらけだが、俺の力でもてなしをさせてくれ」

 守人は印を結んだ!
 たちまち、周囲に草木が生え揃っていく!


538 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 19:00:34.15 ID:

勇者「!」

里長「おお…」

守人「ささやかな勝利祈願だ。今夜はゆっくり休むといい」

勇者「…」ニコッ

守人「…何となく、キミから彼らに似たものを感じられるな…」

勇者「?」

守人「いや、何でもない。里長も、俺からのねぎらいだ。たくさん食べるといい」

里長「いただきましょう。さ、勇者様も。今、テーブルを持ってきましょう」

守人「ああ、忘れていた。その必要はない、里長」

 守人は再び印を結んだ!
 3人の足元から根が生えてテーブルとなる!

勇者「!」キラキラ

 勇者は不思議な守人の術に感動した!

542 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:00:57.70 ID:
―王歴199年―

勇者「…」ギリッ

 勇者は距離を取りながら海王の様子を見る!

海王「その小さな体で、ここまでやるとは。魔王様が私を差し向けたのも頷ける」

海王「だが、負けはせん!」

 海王が矛を掲げると、神殿内の海水が勇者に襲いかかる!

 ザッパ----ン

海王「濁流に飲まれて窒息してしまえ! 下等な人間風情が!」

勇者「!」グイッ

 勇者が右手で空を掴むと、海水が竜巻状になって逆に海王へ襲いかかる!

海王「何!? 波が…私のコントロールを…!」

 海流は僅かに拮抗したが、海王に直撃した!


543 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:01:29.18 ID:

海王「何のこれしき、私はこの大海の王! 波に飲まれたとて――」

勇者「大雷撃魔法――」

 勇者は雷撃魔法を唱えた!
 開けている神殿の空、高くから聖なる雷が落ちる!

海王「ぐぉおおおおっ!」

勇者「!」

 勇者は悶える海王にトドメの一撃を振り下ろす!

海王「ぐ…ぬ…魔王様…栄光、あれ…」

 バタッ

勇者「…」

 フ-フ-

勇者「3つ目――」

 ブンッ
 パリ-----ン

 ポゥ…

 オマエハ サンダイメ ナノカ
 アリガトウ ワズカ ダガ オレノ チカラヲ ワケ アタエル

勇者「!?」

 キョロキョロ

勇者「?」

 スタスタ


544 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:02:02.26 ID:

海賊「おおーい、ちっこいの、無事だったか!?」

勇者「…」コクリ

海賊「そりゃあ良かった。お前のお陰で海に出られるようになった!」

海賊「さすがは勇者だな! これで、大陸間航海もまた始まるぜ」

海賊「そうしたら、俺達、海賊の天下だ!」

海賊「お前には礼を言っても、言い足りないな」

勇者「…」ニコッ

海賊「よーし、じゃあ港まで英雄の凱旋航海と行くぞ、野郎ども!」

 ウォオオオオオオ---------


545 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:02:46.72 ID:

 パサパサッ

隠居『とうとう、3つ目を破壊したな』

勇者「…また…違う鳥…」

隠居『世界中の鳥を使役出来るからな。今回は海猫だ。鳥だけど海猫なんて名前がついてる』

 クスッ

勇者「不思議…」

隠居『まあ、人間のネーミングなんてそんなもんさ』

隠居『最後の1つだが、これは少し厄介だ』

勇者「厄介…?」キョトン

隠居『何だ、その、どこもかしこも大変だったとでも言いたげな目は』

勇者「!」ブンブン

隠居『まあいい。…飛び抜けて、厄介な場所だ。そう訂正する』


546 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:03:24.24 ID:

隠居『場所は…終末時計塔。そこには境涯の扉、というものがある』

隠居『こいつは…異空間へ通じる扉だ』

勇者「…」

隠居『魔界でも、地上でもない場所。その奥に4つ目の心臓を隠してあるらしい』

勇者「…分かった」

隠居『とにかく、次の大陸へ行け。それからだ』

 コクリ

隠居『それと、お前…少しずつ喋るようになってきたな』

勇者「!」

隠居『良いことだ。もっと、お前は人間と関わるべきだ』

隠居『老婆心だがな、勇者。言葉を話せるのなら、話すにこしたことはない』

隠居『もっとも、俺だって喋り相手はもっぱらお前のみだがな』

勇者「…」クスッ

隠居『たくさんお喋りしろよ、勇者』

 バサバサッ


547 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:04:23.50 ID:

 ワイワイ
 ガヤガヤ

 ドンチャン
 ドンチャン

勇者「…」

 ゴクゴク
 プハッ

勇者「♪」

 勇者は甘いジュースにご満悦だ!

 ニコニコ

海賊「お、ちっこいの! こんなとこにいたのか!」

勇者「…」ニッコリ

海賊「この宴の主役はお前だぜ、隅っこにいねえでこっち来い!」

勇者「…」ブンブン

海賊「何で嫌がるんだよ、ほらほら」グイグイ


隠居『たくさんお喋りしろよ、勇者』


勇者「…」

 ズルズル

海賊「海王を倒した、勇者様のお通りだぁー!」


548 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:05:25.20 ID:

 ワイワイ

勇者「…///」

海賊「よぉーし! それじゃあ、ここらで一丁、未来の救世主、今は海の救世主である勇者に100の質問でもぶつけてみよう!」

勇者「!?」

 ワ-ワ-

海賊「さて、まずは手始めに、名前を言ってくれ!」

勇者「…勇者」

海賊「まあ、ここにいる奴らは誰でも知ってるな。次、年!」

勇者「…12…?」

海賊「その年ですげえな! 性別は?」

勇者「お、男…」

海賊「怖がるなって。別に男だからとか、女だからどうなんてないから」


549 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:06:14.53 ID:

海賊「100個もあるんだから虱潰しだ。出身地は?」

勇者「…城下の…スラム…」

海賊「おおっ、シティボーイってやつだな! じゃあ、親の仕事は?」

勇者「…」

海賊「どうした?」

勇者「…料理人」ボソ

海賊「おお、舌が肥えてるんだろうなあ、きっと。じゃ、好きな食べ物は?」

勇者「…父さんの…カツレツ…」

海賊「お~お~、ファザコンかぁ~? じゃ、嫌いな食べ物」

勇者「…からいの」


550 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:06:52.06 ID:

海賊「舌はやっぱりおこちゃまなのか? 好きな人は?」ニヤニヤ

勇者「父さんか…母さんか…悩む…」

海賊「チッチッチッ、女の子で、だよ」ニタァ

勇者「!?」オロオロ

海賊「お、その反応、まさかいるのか? いるなら言っちゃえよ、ええ?」

勇者「…選べない…」

海賊「おお、候補がいるのか! じゃ、それは何人いる?」

勇者「…2人」

海賊「じゃ、名前を言ってみるか!?」

勇者「…戦士と…賢者…///」

海賊「ひゅーひゅー! どこの誰だか知らねえが、いいぞ、いいぞ! もっと教えてくれよ!」


551 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:07:27.71 ID:

海賊「それぞれ、どこが好きだ?」

勇者「…戦士は…凛々しくて…格好良かった…」

勇者「…賢者は…可憐だけど…格好良かった…」

海賊「うっひょぉー! で、で? どっちの方がおっぱい好みだった?」

勇者「そ、そんな…///」

海賊「あっはっはっ、ウブだなぁ~。皆、見たかよ、今の顔?」ニタニタ

 ヒッコメ カイゾク-
 オレタチノ ユウシャヲ ケガス ンジャ ネエ

 ブ-
 ブ-ブ-

海賊「わぁーった、分かったってば、ジョークだろーが」チッ

海賊「そいじゃ、まだまだ行くぜぃ!――」

 ・
 ・
 ・


552 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:08:12.88 ID:

勇者「…」ハァ

 グッタリ

 100コ モ ヨク ユウシャハ コタエタ ヨナ
 ヤハリ ユウシャ タル モノ ウツワガ オオキク ナケレバ ッテカ
 ソリャ ショダイ ユウシャノ コトバ ダロ-ガ
 イヤイヤ アレハ ダイケンシノ コトバ ダッタロウ タシカ
 ドッチ デモ イイサ ワレラノ ユウシャニ モウ イッカイ カンパイ ダ

勇者「…」

 ゴクゴク


賢者『ところで、小童、キミはどうして私や戦士のところへ魔法と剣を習いに来ていたんだ?』

戦士『それは私も気になっていたな。こういうことになって役立っているが、そうでなければ無用の長物だっただろう』

勇者『…』

戦士『…どうした、秘密か?』

勇者『…』コクリ


勇者「…お話、したかったな…」ボソ

 ポツン


553 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:08:56.17 ID:

海賊「じゃあな、ちっこいの! 魔王城まで行けるよう、この船を大陸の反対まで回しておくぜ!」

海賊「その時、また会おうな!」

勇者「…」ペコリ

 ジャアナ- ユウシャ-
 オタガイ ブジデ イヨ-ゼ-

勇者「…」

 スタスタ

 バサバサッ

隠居『今回はかもめだ』

勇者「…」コクリ

隠居『終末時計塔は最果ての村というところの近くにある』

隠居『しかし、この最果ての村は数年前に滅んでしまっていて、地図からも消えてしまっているようだ』

隠居『西大陸の最南端にあるとは聞いたことがある』

隠居『とにかく、そこを目指せ』


554 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:09:27.08 ID:

勇者「…」コクリ

隠居『一人旅にも馴れたか?』

 コクコク

隠居『それもそうか。もう1年はそうして旅しているんだからな』

隠居『誰かと旅をするのも良いが、一人旅も悪いことばかりじゃない』

隠居『一人旅なりの楽しみをちゃんと見つけて、せいぜい楽しくやることだ』

 バサバサッ

 ヒュォオオオオオ…

勇者「…」

 スタスタ



555 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:10:10.97 ID:

魔王「側近、調べはついたか?」

側近「は、魔王様。どうやらご隠居様が嗅ぎ回っていたようです」

魔王「何? …ふん、おいぼれめ。やはり情などは我々に必要なかったということか…」

側近「いかがなされますか?」

魔王「どうせ、もう最後の場所には辿り着くだろう。それで俺の心臓がこの肉体に埋まる1つのみとなる…」

魔王「と、なれば…まずは裏切り者を殺し、また心臓を増やしておくとしよう」

魔王「俺の命が1つであると思い込みながら挑み、俺がまた復活するのを見せつければ絶望もしよう」

魔王「いや…絶望は、もっと悲劇的な方がいいか――」ニヤァ


556 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:10:59.78 ID:

勇者「…終末時計塔…」

勇者「…最後の…心臓――」

 ギィィィ

 勇者は終末時計塔の中へ入った!

 ザザザッ

 首なし騎士と、その配下の魔物の群れがあらわれた!

勇者「!」チャキ

 魔物の群れが襲いかかってくる!
 勇者は爆裂魔法を唱えた!
 しかし、首なし騎士が軽く手を振るうと魔法が暴発して勇者の眼前で大爆発を引き起こす!

勇者「!?」

 勇者は爆風に煽られて吹き飛ばされた!
 魔物の群れが襲いかかる!


557 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:11:43.24 ID:

勇者「!」

 魔物の携える武器が勇者の右肩を貫いた!
 魔物の携える武器が勇者の腹部にめり込んだ!
 魔物の吐き出した火球が勇者に直撃し、大炎上する!

勇者「っ!」

 勇者は紅の剣を掲げた!
 燃え盛る火炎を刀身に纏い、振り下ろすと火炎が放射状に解き放たれて魔物の群れを焼き尽くす!

勇者「…」チャキ

 勇者は首なし騎士に紅の剣を構えた!
 しかし、首なし騎士は幻のように揺らぎ、消え去った!

勇者「?」

 勇者は自らに祈りを捧げた!
 勇者の傷口が塞がっていく!

 スタスタ



558 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:12:14.40 ID:

 ポゥ

勇者「境涯の扉…」

 勇者は境涯の扉に近づいた!
 すると境涯の扉がひとりでに開き、そこから眩い光が発せられる!

勇者「!?」

 勇者は光に包まれた!


559 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:13:01.43 ID:

勇者「…」キョロキョロ

勇者「…山小屋…?」

少女『こうそうやき、美味しいーっ!』バタバタ

勇者「?」キョトン

男『そりゃ良かったな』スパ-

勇者「…気付いてない…?」

少女『今日からずっと、師匠とここで美味しいもの食べる! 修行ないもんね!』

男『修行がないから俺はもう、お前の傍にいてやれないな』

勇者「修行…これは…前の勇者の、小さい頃…?」

少女『え?』

男『魔王にはな、俺の大切な人が2人もやられたんだ。だから倒す』

男『そのためにお前に修行をつけてた』

男『だが、その修行がないんじゃあ…仕方ないよな』


560 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:13:40.28 ID:

勇者「…」

少女『そんな…やだ!』

男『じゃあ、修行するか?』

少女『それも…やだ…』シュン

少女『何で修行しなくちゃいけないの…?』

勇者「…」

男『お前、ご飯を食べるの好きだろ?』

少女『うん。師匠のご飯、美味しいから大好き』

男『他の人だって、皆そうだ。でもな、魔王を放っておくと…その内、一緒にご飯を食べる相手がいなくなっちまう』

男『それじゃあ悲しいだろ。だから、倒すんだ』


561 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:14:10.53 ID:

勇者「…」

少女『…分かった』ボソ

少女『…私も師匠と美味しいもの、たくさん食べたい!』

少女『だから、魔王をたおす!』

男『…よし。じゃ、サボった分、今からやってこい』ギロ

勇者「…」ビクッ

少女『え…』

男『いや、サボった罰だ。2倍やれ。終わるまで傍で見守っててやるよ』ニタァ

勇者「この人…王様に少しだけ…似てる…?」


562 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:15:01.45 ID:

少女『結局…見ててくれないし…』

勇者「場面が…変わった…?」

少女『あれ? キミ、だれ?』

勇者「!?」

少女『こんなとこにどうしたの!?』

勇者「!?」アタフタ

少女『私、勇者! キミは?』

勇者「…小童」

少女『小童? ふうん…キミ、何だか私と似てない?』

勇者「?」

少女『そうでもないかな? でも、うーん…ちょっと好みのタイプかも』

勇者「…」アセアセ

少女『あのね、私、2人目の勇者なんだよ? すごいでしょう』エッヘン

勇者「…」コクリ

少女『魔王を倒したらね、格好いい人と結婚してね、幸せになるの。美味しいものたくさん食べて、可愛い子ども産むんだ』


563 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:15:38.15 ID:

勇者「…」

少女『でも…コウノトリってどうやったら赤ちゃん運んできてくれるんだろう…?』ウ-ン

少女『知ってる?』

勇者「…」

 勇者はなけなしの知識を振り絞り、黙ることを選択した!

少女『知らないかぁ…。早く大人になりたいなぁ』

勇者「…」

少女『ところで、キミ、何でここにいるの?』

勇者「…」

 勇者は困惑気味に肩をすくめた!
 しかし、その瞬間に勇者の周囲の全てが幻のように溶けて消え去った!


564 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:16:10.74 ID:

勇者「!?」

優男『愛してますよ…』

女性『私も…』

勇者「!?」

 勇者は濡れ場の事後に遭遇した!
 勇者は慌てて両手で目を覆うが、ほんの少しの好奇心と同じだけ指と指の間を開いて覗き見る!

優男『それにしても…明日には魔王城なのにいいんでしょうかね…』

女性『いいじゃん、別に…。そんなこと気にしてたの?』

勇者「…二代目勇者と…仲間の盗賊…?」ドキドキ

優男『男は賢者になれる瞬間があるんですよ…』

勇者「?」

女性『どういうこと?』

優男『深い意味はありませんよ…』ヤレヤレ


565 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:16:45.13 ID:

女性『ねえ、子ども産まれたら…どんな子かな?』

優男『気が早いですね。まあ、僕に似てくれれば安泰ですが』

女性『えー? 泣き虫になっちゃうよ』

優男『何言ってるんです。あなたにそっくりな子だったら、僕の苦労は二倍どころか、二乗になってしまいます』

女性『またそんなこと言って。本当は照れ隠しでしょ~?』ニヤニヤ

優男『あなたって人は…』

女性『子ども、何人くらいいたら楽しいかな?』

優男『…別に何人でもいいでしょう…』

女性『私はね、最初に男の子で、その次に女の子の双子でしょ、それからまた女の子で、末っ子に今度は男の子がいいな』

優男『…そう、ですか…。とにかく、魔王を倒した後の話です』

女性『そうだけど…』

優男『何としても魔王を倒しましょう。あなたと、ずっといたい』

女性『…うん』

 チュッ

勇者「…」

 また、目の前の光景が溶けて消え去った!


566 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:18:09.12 ID:

女性『…』

勇者「!?」

 女性から生気は失われ、虚ろな目をしていた!
 女性のお腹は大きく膨らんでおり、痙攣を繰り返している!

側近『…』

 側近は何かの魔法を唱えた!
 女性の股から赤子がするりと産み落とされる!

側近『これは――』

勇者「!」

 側近はへその緒を切り、生まれた赤子の胸にある聖痕を渋面しながら見つめる!

側近『…』

 側近は赤子を布に包むと、どこかへ消え去った!
 再度、目の前の光景が溶けて消え去る!

 ガチャ

女将『おや…これは…な、何だってこんな戸口に赤ちゃんがいるんだい…』

女将『あんた、あんた! 起きとくれ、大変だよ!』

勇者「…」ブルブル

亭主『何だってんだ、こんな朝っぱらから!』

女将『ほら、この子! 戸口に置かれてたんだ!』

亭主『な、何だってうちの前に赤ん坊なんかが…』


567 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:18:41.91 ID:

女将『もしかしたら…女神様があたしらに授けてくれた子かも知れないよ』

亭主『そ…そうなのか…? じゃ、じゃあ教会に洗礼を――いや、だがなぁ…もし、本当の親が来やがったら…』

女将『それも寂しいねえ…』

亭主『…と、とにかく、うちの子にしちまおう』

亭主『どっちにしろ…こんなとこに自分の子を放置するような親なんざタカが知れるってんだ』

亭主『孤児だろうが関係ねえ…きっと女神様の授けてくれた子なんだ』

女将『そ、そうだね…そうさ、赤ちゃんや、お前はあたしらの子だよ』

勇者『…』ガクガク

 目の前の光景が溶けて消え去る!


568 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:19:12.82 ID:

魔王『側近、勇者の首から下はあるか?』

側近『はい、申し付け通りにしてあります。…こちらです』

魔王『初代勇者から造った我が心臓を埋め込み、俺の魔力と瘴気で魔物に転生させる――』ニヤリ

 魔王は首のない勇者に赤い玉を埋め込み、莫大な魔力と瘴気を注ぎ込んでいく!

勇者「…」ブルブル

 ムクリ

魔王『二代目勇者の肉体を持ち、初代勇者の心臓で動く、境涯の扉の守護者』

魔王『首なし騎士、といったところだな――』ニタァ


569 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:20:03.23 ID:

 バシッ

 勇者は壁のない空間に放り出された!

 スチャッ

 首なし騎士があらわれた!

勇者「…お…お母さん…?」

 首なし騎士は手にした剣で勇者に襲いかかってくる!
 勇者はとっさに紅の剣で受け止めた!
 しかし、首なし騎士は組み合った瞬間に勇者を蹴り飛ばす!

勇者「…」

 勇者は恐怖に震えて起き上がれない!
 首なし騎士は勢いよく剣を振り下ろした!
 大地を抉りながら凄まじい勢いで斬撃が向かってくる!
 勇者は紅の剣で受け止めるが、紅の剣を弾き飛ばされた!

勇者「!?」

 首なし騎士が凄まじい速さで迫り、勇者の体に剣を刺す!
 首なし騎士の剣は勇者の腹を貫いた!

勇者「…」

 勇者は力なく倒れ込む!


570 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:20:45.87 ID:

少女『小童? ふうん…キミ、何だか私と似てない?』

女性『ねえ、子ども産まれたら…どんな子かな?』

魔王『初代勇者から造った我が心臓を埋め込み、俺の魔力と瘴気で魔物に転生させる――』ニヤリ

 ブチブチブチィッ

勇者「ガ、ア゛ア゛アア―――――――――ッ!!」

 何かが勇者の中でまとめて切れた!
 同時に抑制の利かない魔力が解き放たれる!

 首なし騎士は警戒して飛び退いた!
 勇者は手を振るうだけで紅の剣を手元に引き寄せ、握り締めると首なし騎士に切りかかる!

 首なし騎士は勇者の剣戟を捌く!
 しかし、紅の剣が閃くと首なし騎士は一瞬で全身を切り刻まれた!
 さらにその切り口から凄まじい勢いで炎が吹き上がって焼いていく!


571 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:21:38.31 ID:

勇者「魔王――魔王ォ!」

 勇者はしゃにむに首なし騎士を切り刻む!
 首なし騎士は自らを焼く炎を頭上に収束させ、勇者に叩き込んだ!
 しかし、紅の剣がその炎を吸収してしまう!

 勇者は渾身の力で紅の剣を振るった!
 天地を引き裂く、神撃の一太刀が首なし騎士を両断した!

 パリ----ン

勇者「ふぅっ…ふぅっ…」

 ポゥ…

 首なし騎士の体内から、砕け散った赤い玉があらわれた!
 砕け散った赤い玉から柔らかな光が漏れ出し、勇者に注ぎ込まれる!

?『キミが3人目なんだね――』

勇者「!?」

?『俺は初代勇者だ…。ずっと、魔王に心臓として取り込まれていた』

勇者「!」

初代『キミのお陰で思わぬ再会まで果たせた…』

勇者「?」

初代『キミに…俺と兄ちゃんの、最期の力を分け与えるよ』

初代『これでキミは3代の勇者の力を備えた』

初代『この力は空間を超えていく――今度こそ魔王を倒して』

 勇者は体内から不思議な力がわき起こるのを感じた!

勇者「…魔王は…許さない――」


572 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/07(日) 20:22:49.18 ID:

 ヒュオォォォ…

 バサバサッ

隠居『勇者』

勇者「…」チラ

隠居『雰囲気が変わったな…。4つ目は壊したか?』

勇者「…殺した」

隠居『殺した…?』

勇者「魔王は…二代目勇者の死体に…初代勇者の魂と、心臓を植えつけていた…」

勇者「…二代目勇者は…僕の…本当のお母さんだった…」

勇者「…お母さんを…殺した…」ギリッ

隠居『そうだったか…。だが、お前さん、あんまり憎しみに囚われると――』

勇者「うるさい、魔物!」

 勇者は紅の剣で鳥を斬り殺した!

勇者「…」

 ザッザッザッ

573 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/07(日) 20:24:54.87 ID:s6xuMCA2o
首なし騎士が母親とかえぐいなあ

574 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:05:52.37 ID:
門番「魔王城までとうとう来たか、3人目の勇者」

勇者「黙れ――」

 勇者は消滅魔法を唱えた!
 門番は瞬時に形成された輝く矢に貫かれて消え去った!

勇者「魔物は…全滅させる…」

勇者「魔王を…ぶち殺す…!」



側近「勇者が城へ来ました。しかし、体力を削るどころか、足止めにならぬ勢いで進んでいます」

側近「魔王様、今回の勇者はとてつもない強さの持ち主です」

側近「どうか、私めに交戦のご許可を。少しでも勇者を弱らせます」

魔王「ふむ、お前が危惧するほどか。いいだろう、何なら死体を持ってこい」

魔王「俺も父上の最後の心臓、1つ分しかもうストックがないからな」

魔王「勇者の心臓だけあれば他はどうなろうとも構わん」

側近「必ずや、我が命に変えても勇者を仕留めましょう」


575 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:08:03.80 ID:

勇者「…」チャキ

 側近があらわれた!

側近「あの赤子がここまでになるとは、人間というのは侮れませんね」

勇者「知っている…僕を取り上げた魔物だ…」

側近「ええ、そうですよ。ちなみに、あなたの母親の首を切り落としたのも、その首を人間の城に放り込んだのも、赤子だったあなたを汚らしい人間の住居に連れていったのも、全て私です」

勇者「…殺す」

 勇者は紅の剣を引き抜いて側近に切りかかった!
 側近はひらりと勇者の一撃を回避し、勇者の足元に魔法陣を展開させる!

側近「初めて見るでしょう? 私が独自に編み出した魔法系統です」

 魔法陣から凄まじい火柱が上がった!
 勇者は紅の剣を掲げるが、火柱はそれさえも無視して勇者を焼いていく!

勇者「!」

側近「魔法系統が違うのですから、循環の力からも影響を受けませんよ」

 勇者は魔法陣に紅の剣を突き立て、自らの魔力を流し込んで暴発させる!
 勇者は覇獣のコートに残り火をつけたまま側近に切りかかる!
 しかし、魔法陣が勇者と側近の間に展開されて攻撃を受け止めた!


576 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:09:18.24 ID:

勇者「!」

側近「魔王様に認められた、私の実力をとくとご覧に入れましょう」

 側近は魔法陣を消し去ると飛び退いた!
 さらに側近は別の魔法陣をいくつも展開して勇者に向ける!
 魔法陣は同時に輝き、燃え盛る炎や、凍てつく冷気で勇者を攻撃する!

勇者「!」

 勇者は紅の剣で自分の周囲を切り裂いた!
 空間が引き裂かれ、側近の魔法が遮られる!

側近「そのような力まで…!」

 勇者は軽く床を蹴った!
 瞬間、側近の背後に姿をあらわして袈裟懸けに切りつける!

側近「くっ…!」

 側近はとっさに展開した魔法陣で勇者の攻撃を防ぐ!
 しかし、魔法陣に亀裂が入って暴発した!

側近(何だ、何なんだ、この力は…!?)

側近(空間にまで影響を及ぼす力など、まるで…!)

 側近は大きく腕を広げた!
 勇者の頭上に巨大な魔法陣が展開される!
 魔法陣から網膜を焼き尽くすかのような強烈な光が真下に発射される!


577 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:10:17.55 ID:

勇者「!」

 しかし、勇者は渾身の力で紅の剣を振るう!
 天地を引き裂く、神撃の一太刀が魔法陣を、天上を、壁を、床を、両断していく!

側近(こんなもの、まるで――)

 勇者は一歩で側近の眼前に姿をあらわす!

勇者「死ね――」

側近(神の領域――)

 勇者は紅の剣を振るった!
 側近をたおした!

勇者「…」

 勇者は側近の死体を掴むと、その胸に紅の剣を突き立てた!

 ズリュッ

 勇者は側近の死体から心臓を抉り出し、口に含んで飲み込んだ!


578 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:11:12.11 ID:

 ギィィィ…

魔王「素晴らしいではないか」

魔王「側近さえも下すとは、最早、貴様は人間の領域などとうに超越している」

勇者「…」

魔王「初代勇者の魔法合成」

魔王「二代目勇者の得た循環の力」

魔王「忌々しき我が父君が貴様に与えた剣とコート」

魔王「我が心臓から吸い取った剣士の経験」

魔王「同じく、吸い取った初代勇者の力を得て、貴様の中で昇華されたのであろう空間干渉の異能」

魔王「さらに側近の、特異な魔法まで手に入れた」

勇者「…」

魔王「たった3代でここまで進化を遂げるとは、俺の予想を遥かに超えていた」

魔王「その力が俺の力とともになれば、俺の野望は叶うというものだ」

勇者「…」


579 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:12:13.40 ID:

魔王「初代が産まれ落ちてから、もう50年近くか」

魔王「ずっとこの時を待ち望んでいたぞ」

魔王「貴様の心臓を食らえば、俺は神に等しい力を得られる」

魔王「神の創造した箱庭で気取る王ではなく、創造から万物を司る神になる」

魔王「お前はその偉大な存在の一部になれるのだ」

魔王「大人しく、心臓を差し出してはどうだ?」

魔王「この俺のために、死んでいけ」

勇者「…」チャキ

 勇者は紅の剣を抜いた!

勇者「――僕のために、死ね」


580 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:13:22.85 ID:

魔王「ふっ、これまでの勇者どもより強い分、内面は勇者にはほど遠いようだ」

 魔王は軽く手を振った!
 どこからともなく、禍々しい剣があらわれる!

魔王「だが気に入った。――貴様を殺し、俺は万物創世の神となる!」

 勇者は渾身の力で紅の剣を振るう!
 天地を引き裂く、神撃の一太刀が全てを両断していく!

 魔王は渾身の力で剣を振るう!
 天地を引き裂く、神撃の一太刀が全てを両断していく!

 ぶつかり合った両者の超破壊の力は相反せず、相乗して膨れ上がり、魔王城を吹き飛ばす!

魔王「いいぞ、初めてだ! この俺の本気と対等な相手は!」

 魔王は背に翼を生やした!
 魔王は瓦礫と化した魔王城を上空から俯瞰する!

 勇者は瓦礫の中から起き上がる!
 勇者は魔王を睨みつけると、足元に魔法陣を展開してふわりと浮き上がる!


581 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:14:10.67 ID:

勇者「対等なもんか…」

勇者「お前はまだ、何も失っていない…!」

 勇者は紅の剣で魔王に切りかかる!
 魔王は勇者の攻撃を受け止め、消滅魔法を放った!
 しかし、勇者は魔法陣を展開して消滅魔法を反射する!
 魔王は嬉々として高笑いすると、剣を一振りして消滅魔法を消し去った!

魔王「楽しいなあ、勇者よ!」

魔王「俺は貴様が怒れば怒るほど、愉快で仕方なくなるぞ!」

 勇者と魔王は瘴気の渦巻く空中で何度も剣戟をぶつけ合う!

勇者「死ね、死ね、死ね…!」

勇者「何もかも全部…! お前がいたせいだ…!」


582 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:14:37.63 ID:

亭主『やい、小童! てめえ、誰のお陰でメシ食えるか分かってるんだろうなァ!?』グイッ

亭主『瘴気が何だ、魔王が何だ!?』

司祭『三代目勇者が発見された!』

国王『何としてでも、魔王を討て』

痩せ男『このご時世にガキの旅人か…』

痩せ男『てめえ! 魔物の肉なんか食って、魔物になったらどうしてくれるんだ!?』

水夫『ハッハッハッ、だーれが大陸間航海なんかするかってんだ!』

チンピラ『ってぇーな! あー、こりゃダメだわ、骨折れたわー』

ボス『そのコート、もらってやるよ。それと、この角で手打ちだ』


583 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:15:17.33 ID:

勇者「何で僕が、僕だけが! いつも理不尽な仕打ちを受ける!?」

勇者「ずっと、誰かのせいだと思ってた!」

勇者「全部…お前のせいだ、魔王!」

魔王「ハッ、とんだ責任転嫁だぞ、それは!」

魔王「人間など、そもそもが浅ましい存在でしかないのだ!」

 勇者と魔王の剣戟がぶつかり合い、その衝撃が周辺の瘴気を散らす!

魔王「それに大方、貴様は何もかもの不満を溜め込んでいたんだろう!」

 魔王は剣を掲げ、液状化した闇を収束させた!
 魔王は剣を振り下ろす!
 闇が一振りの巨大な刃を形成して勇者に襲いかかる!

勇者「!」

 勇者は紅の剣を腰だめから一気に抜き放つ!
 紅の剣は巨大な闇の刃を切り裂く!

勇者「それが、どうしたァ!」

 勇者は怒号とともに紅の剣を振るう!
 空間を超越した至高の一撃が魔王を襲う!

 魔王は魔力と瘴気を周囲に集めて防壁を張る!
 しかし、勇者の一撃は防壁を一瞬で破り魔王を引き裂いた!


584 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:16:19.65 ID:

魔王「ぐぅ…!」

魔王「貴様のようなヤツはな、せいぜい他者に利用され、気付けば何もかもを失ってしまうのが末路だ!」

 魔王は天の果てから光の塊を召喚した!
 魔王は地の底から黒い稲妻を召喚した!
 勇者は天地に全てを阻まれ、全身を焼かれる!

魔王「人並みの感情がありながら欲望を持たずに唯々諾々と他人に従う!」

魔王「そんな者はどれだけの力を持とうとも、淘汰されるしかない!」

魔王「だからこそ貴様は理不尽な目に遭ったのであろう!」

 魔王は自身の背後に魔法陣を展開した!
 魔法陣から無数の大火球群が勇者に降り注いでいく!

勇者「違う!」

 勇者は紅の剣を振り上げた!
 魔王の放った魔法の全てが紅の剣に集約されていく!

勇者「ただ、僕は本当の親に会いたかっただけだ!」

 勇者は紅の剣を振るった!
 赤い剣閃に乗り、莫大なエネルギーが魔王に解き放たれる!

魔王「ぐ、おぉおおおおお―――――――っ!」

 魔王は莫大な魔力を解き放って勇者の攻撃を耐え凌いだ!


585 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:17:28.36 ID:

魔王「フハ…ハハハ、俺はちゃんと貴様を、貴様の母に会わせてやったはずだぞ」

魔王「何とも涙をそそられる、素晴らしい演出をしたつもりだ」

勇者「…」ギリッ

魔王「その顔だ。その表情さえ見られれば、俺は無限と力が湧くようだ」

魔王「さあ、いつまでもこの死闘を続けようではないか!」

魔王「天が割れ、地が砕け、海の干上がるまで!」

魔王「そして壊れた、この世界を俺が創造し直すのだ!」

勇者「思い通りにはさせない」

 勇者は魔王に切りかかった!
 魔王は勇者に切りかかった!

 ・
 ・
 ・


586 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:18:31.55 ID:

魔王「…フッ…ハハッ…」ゼィゼィ

 勇者は大地を蹴り、魔王を切りつけた!
 魔王の肩から腰にかけて鋭く傷が刻まれる!

勇者「ふーっ…ふーっ…」ゼィゼィ

 魔王は重そうにしながら剣を振るい勇者に叩きつける!
 勇者は紅の剣で受けるが、膝をついてしまう!

魔王「どう、した…? もう、体力は尽きたか?」クククッ

勇者「そっち、こそ…」ゼィゼィ

 勇者は片手を払うような仕草をした!
 魔王は強風にあおられて倒れ込む!

魔王「俺は…まだ、心臓を1つ…残している…」

勇者「…」ギリッ

魔王「忌まわしき父上の最後の心臓ではあるが…ないよりはマシというものだ」

勇者「!」

魔王「どうした…?」

勇者「隠居まで…」

魔王「ふっ、何を言う…。貴様とて、父上の最期の言葉を聞かずして使いの鳥を斬り殺したであろう」

勇者「…」ギリッ

魔王「っ…だが…いささか…力を使い過ぎた…」

 勇者は満身創痍で立ち上がった!
 魔王は満身創痍で立ち上がった!


587 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:19:13.84 ID:

勇者「殺す…」

魔王「月が太陽を食らう時、再び俺はここへ来る…」

魔王「その時こそ、貴様との決着をつけてやろう…」

魔王「そう、勇者と魔王の50年にも及ぶ決戦に、決着を」

勇者「…」

魔王「せめてもの、俺なりの礼儀だ。その時まで、人間への侵攻を一時的にやめてやる」

勇者「…次は、殺す」

魔王「それはこちらとて同じこと。――その時まで、さらばだ」

 魔王は両手を突き出した!
 勇者は眩い光に包まれ、光とともにどこか遠くへ消え去った!


588 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:20:53.82 ID:

 バシュン

勇者「!」

 ドサッ

 ザワザワ…

勇者「…城下…?」

憲兵「な、何者だ…!?」

勇者「…」

 勇者はボロボロの服の襟を掴んでずり下げ、胸の聖痕を見せた!

憲兵「それは…! ゆ、勇者様であられましたか…! 失礼いたしました!」

勇者「…」スクッ

 勇者は隠者のローブを被った!

 ザワッ

憲兵「!? ゆ、勇者様…が…消えた…?」

 スタスタ


589 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:21:34.24 ID:

 カラン

女将「いらっしゃい、お客さ――」

勇者「…」

女将「小童!」

亭主「小童!?」

勇者「…ただいま」

女将「!?」

亭主「!?」

女将「あ、あんた…喋れるように…なったのかい?」

亭主「お、おい、今日は店じまいだ! 小童、そこに座れ! 何でも食わせてやる!」

亭主「そうだ、お前、俺のカツレツ好きだったろ、すぐ出してやる!」

女将「おかえり…よく、よく帰ってきてくれたねえ…」ギュゥゥ

勇者「…」コクリ


590 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:23:22.09 ID:

 コンコン

亭主「あんだってんだ、折角、小童が帰ってきたってのに!」

 バタン

使者「こちらに勇者様はおられるか?」

亭主「」

勇者「…」スクッ

使者「勇者様、国王陛下がご報告を聞きたいとのことです。城へ」

勇者「…」コクリ

女将「小童…」

勇者「…ごちそうさま」ニコリ

 バタン


591 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:24:56.91 ID:

国王「――まずは海に潜んでいた魔物の親玉の討伐により、大陸間航海の再開に目処が立ったことに礼を言おう」

国王「それに伴い、各大陸間の情報交換・共有が再び可能になった」

国王「さらには昨日の正午頃より、各地の魔物が不気味なほどに姿を見せなくなった。現在でも城下周辺の平原に魔物の姿は確認されていない」

国王「そして、この地に戻ってきた理由を、教えろ」

大臣「筆談の用意がしてある。ペンを――」

勇者「…魔王とは2日前から、戦っていた」

大臣「! 言葉を…」

国王「2日前…。そして、どうなった?」

大臣「喋れるのならばお前、陛下には丁寧な言葉を使え!」

国王「良い、喋れるように喋れ」


592 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:25:41.93 ID:

勇者「…殺しきれなかった」

勇者「昨日の正午頃…もう、互いに魔力はほとんどなかった…」

国王「なるほど。魔王はそれほどに消耗した、ということか。それによって一時的に魔物が大人しくなったと考えるべきか…」

勇者「月が太陽を食らう時、今度こそ決着をつけると持ちかけられた」

勇者「それまで、魔物には侵攻をさせない、と言っていた…」

大臣「何と…!」

国王「つまり、この状態は一時的なもの…ということか」

国王「随分と身なりがひどいのは、その死闘の証か」

国王「しかし、月が太陽を食らう時というのは…」

大臣「陛下、恐らく、それは日蝕という現象のことかと。天文学士が近々、そのような現象が起きると言っておりました」

大臣「そして…その日は瘴気が非常に濃くなり、魔物がもっとも活発化する可能性があるとも」

国王「そうか。それはいつになる?」

大臣「およそ半年後――来年になるかと」


593 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:26:50.44 ID:

国王「…丁度良い。勇者、その時こそ魔王を殺せ」

国王「50年にも及ぶ、魔王との戦いに終止符を打て」

勇者「…」コクリ

国王「必要なものがあれば準備をさせてやる。傷を癒し、魔王を倒すために必要な英気を充分に養え」

国王「魔王を倒した暁には、約束通りに望むものをやろう」

国王「何が欲しい? 現実味が帯びてきた、今から準備してやろう」

勇者「…何も」

国王「何? 旅立ちの日にお前は目の色を変えていたが、すでに得たというのか?」

勇者「手に入らないと知ったから」

勇者「お父さんとお母さんは…魔王に殺されていた」

大臣「何と…では両親が欲しいと陛下に言うつもりであったのか」


594 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:27:25.01 ID:

国王「確かに死んだ人間を与えることは出来ぬな」

国王「だが、それでは示しがつかぬというもの」

国王「何か考えておけ。以上だ、日蝕とやらの正確な日時が分かり次第、使いを寄越す」

勇者「…」コクリ

 スタスタ

大臣(たった1年で、これほどまでに雰囲気が変わるとは…)

大臣(一体、どのような地獄を見てきたというのだ)

国王「大臣」

大臣「は」

国王「例の魔法の完成を急がせろ」

大臣「! …かしこまりました」


595 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:29:41.90 ID:

 スタスタ

勇者「…」

?「あー、キミ、キミ」

勇者「?」

?「キミって3代目の勇者くんかな? そうだね? 僕は情報屋って言うんだ」

勇者「…」

情報屋「実はね、ある人からキミに情報を届けるようにって依頼をされていたんだ」

勇者「…ある人…?」

情報屋「依頼主については教えられないよ。守秘義務があるんだよ、これでも」

情報屋「そして、その情報について教えてあげたいんだけれど…場所を移すとしよう。さ、こっちだよ」

情報屋「陛下にちょっと睨まれててね、監視がいるから撒こうと思う。隠者のローブを使って、城下の南にある無人の屋敷へ来てくれ」ヒソ

勇者「…」

情報屋「ええっ!? 来てくれない? それは困ったなぁー?」チラチラッ

勇者「…」パサッ

情報屋「おや、嫌われちゃったかな? はぁ…お仕事なんだけれどなぁ。残念だったなぁ~」


597 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:30:51.72 ID:

情報屋「――ちゃんと来てくれて嬉しいよ」

勇者「…」

情報屋「おやおや? 僕の方が先に到着していて驚いているのかな?」

情報屋「なーに、そう不思議がらなくてもいいよ。僕は情報屋だからね、抜け道なんてものは網羅しているんだ」

情報屋「あ、ちなみにここはね、キミにも縁がある場所だ」

勇者「?」

情報屋「ここは初代勇者の生家であり、今はもう没落した公爵家の屋敷だったのさ」

情報屋「2代目勇者の師匠と初代勇者は兄弟だったしね、この屋敷が勇者という存在の始まりだったと言っても過言じゃないだろう」

勇者「…」

情報屋「もっとも、今じゃあ誰も暮らしていないんだけれどね」


598 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:31:25.73 ID:

情報屋「さて、本題だ。キミに伝えたい情報がある」

情報屋「この情報を仕入れるのは随分と時間もかかったし、苦労もしたんだ」

情報屋「30年越しだ、気が遠くなるだろう?」

情報屋「すでに代金はたんまりともらってる。本当は依頼者本人に教えてあげたかったけど、彼はもう逝ってしまったからね」

情報屋「そういう時に備えて、彼は自分がいなければその時の勇者へ伝えるようにと言っていたんだ」

勇者「…」

情報屋「御託はいいからさっさと言えって? それじゃあ、そうしようか」

情報屋「不死の秘宝についての情報だ」


599 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:32:39.19 ID:

神官「――カァッ!」

神官「その者、緋色の剣を携え、絶対の獣を纏いし修羅」

神官「全てを照らす光に、全ての闇を含ませる超越者」

神官「永遠の輪廻を生み出す始祖の英霊となるだろう」

国王「それが…神託、か?」

神官「はい」

国王「どういう意味だ?」

神官「どうにも私にも分かりかねます…」

神官「修羅とは永遠の闘争者や、そのような激情を持った者と考えられます」

神官「しかし…それ以降の神託については…」

国王「勇者の身なりは…毛皮のコートであったな。剣は見ていないが…血に濡れたものを緋色の剣と考えることもできよう」

国王「で、あれば…この神託はあの勇者についてのものと言えるのだな?」

神官「恐らくは陛下の見立通りかと」

国王「ならば、もうどうでも良い。勇者は英霊となる――つまり、魔王を討ってから死ぬのだろう」

国王「それならばこそ、いよいよ我が野望を達成する時機となったことを意味する」

国王「ただ、それだけのことだ」ニタリ


600 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:33:10.38 ID:

情報屋「――さて、僕がキミに伝えなくてはならなかった情報は以上だ」

情報屋「何か質問はあるかい?」

勇者「…依頼したのは…誰?」

情報屋「さっきも説明したけれど、守秘義務があるんだ。だけどね、この屋敷にキミを呼んだのは単にこそこそするのに都合が良かったから、というだけの理由じゃない。それがヒントかな」

情報屋「それと、情報屋としてではなく…個人的にね、家族からの頼まれごとがあって、これもキミへの用事なんだ」

情報屋「大往生した、我がお爺様から託されたんだ。この手紙をキミに託したい」

勇者「…誰から?」

情報屋「かつてお爺様が仕えていた、とある立派な屋敷の、最期の当主様からだ」

勇者「…」ピラ


601 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:33:50.41 ID:

手紙『魔王討伐を果たした勇者へ』

手紙『私は初代勇者とともに魔王へ挑み、敗れた者だ』

手紙『二代目とともに魔王征伐を果たさんとする旅の途中、聖王国国王が代替わりをした』

手紙『その新王が、この手紙の読まれる時代にも玉座にいるかは分からない』

手紙『すでに新王が王位にいないのであれば手紙は破り捨ててかまわない』

手紙『ただし、その新王がいるのであれば、もしくは暴君が玉座に座しているのならば、警告をする』

手紙『魔王を討ち倒した勇者よ、あの男は必ず地上で大規模な争いをする』

手紙『それを止めなければ魔王を討ち倒したところで平和の世は訪れない』

手紙『魔王との戦いという人類存亡を賭けた戦いが勝利した後、それまでに蓄えられた軍事力というものは統べる者にとっては黄金の剣も同然だ』

手紙『どうか、魔王を討ち倒した後であっても気高く、真に平和を望む勇者であることを願う――』


602 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:38:57.58 ID:

情報屋「さて、これでキミへの用事は本当に全部終わりだよ」

勇者「…」

情報屋「ここからは、初対面の人間同士として。――おほん、僕は情報屋、扱う情報は近所の奥様ネットワークから、国家の暗部にいたるまで様々だ」

情報屋「何か、欲しい情報があればいつでも頼ってくれ」

情報屋「例えばキミが今、手に入れたいものの在処とか、ね」

情報屋「よっぽど不確実なものでない限り、僕の仕入れる情報は精確だよ」

勇者「魔王の心臓のストック、因縁の剣、この2つがある場所」

情報屋「おやおや…随分と難しそうな依頼をするね。ま、1つはすぐに渡せるけれどね。ついておいで」


603 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:40:17.20 ID:

 キィィィ…

情報屋「ここは公爵家の隠し宝物庫。もっとも、剣士くんが湯水のように使ってしまったから今じゃ価値ある財宝なんて残っていないんだけれど…」

 ゴソゴソ

情報屋「多分、この辺りのはずなんだ。キミも探して」

勇者「…」

 ゴソゴソ

勇者「!」

情報屋「お、それだよ、因縁の剣。かつて魔王の心臓を貫いたものだ。そして初代が最期に握ったものだ」

情報屋「勇者と魔王、双方の死を記憶している。武器としてはただ切れ味が良かっただけのものだけど、染みついた魔王の血と、初代の死に際の意志が込められている」

勇者「…」ギュッ

情報屋「あ、言い忘れていたけど依頼料は親友からたんまりもらっててね。一生食うに困らないくらいにはなっているんだ」

情報屋「だから、キミの依頼料については無料のサービスにしてあげよう」


604 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:41:27.50 ID:

情報屋『心臓のストック、というのは不死の秘宝によって作られたものだね』

情報屋『こいつを探すならむしろ、魔物のいない今しかないだろう』

情報屋『瘴気の異質な場所にあるはずだ。もっとも、地上はあまりにも広い』

情報屋『鳥かなんかにでもなって、背中にハネをつけないと探しきれないね』

情報屋『僕は情報網を駆使するけど、探し物っていうのは本当に必要としている人のところへ来るものだ。キミも探したらどうだい』

 ザザ---ン

情報屋『時間がないのに見つかるかって? それならきっと大丈夫だと思うね』

情報屋『この50年で蒔かれていた種がそろそろ芽吹く頃だから』

情報屋『まずは西大陸の玄関港へ行ってごらんよ』

勇者「…」

 ポツン


605 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:42:15.90 ID:

勇者「…」

 ボォォ-----…

勇者「!」

 ボォォォォ--------

海賊「いたー! 勇者ぁーっ! 魔王倒せたんだな!?」

海賊「野郎ども、全速前進よーそろー!」

 ウェエエエ---------イ

海賊「大陸間航海再開1番乗りだぜぃ!」


606 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 00:43:09.55 ID:

海賊「へっ? じゃ、魔王の野郎はまだ生きてやがんのか?」

勇者「…」コクリ

海賊「で、決戦の下準備か。よっしゃ、誰であろう、お前のためだ!」

海賊「どこへでも乗せてやる! うちの海賊船ほど速い船はない! 手足のように使え!」

勇者「!」

海賊「そいじゃ、まずはどこへ行く?」ニカッ



―――――――――

本日の更新はここまでです
明日には終わる…かな?

607 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 00:45:03.12 ID:+eY6KWECo
乙なんだよ
情報屋のスペックがただごとではないな

609 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 13:57:04.33 ID:Rc3Q8Y1y0
魔王の心臓の件がヴォルデモートを彷彿とさせる

610 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:37:21.00 ID:
海賊「さっぶい…さぶさぶ…早く戻ってきてくれよ、凍りついてちまう」

勇者「…」コクリ

 タンッ

 勇者は西大陸北の氷原へ降り立った!

勇者「…」

 ザッザッザッ

勇者「…あった」

 勇者は隠居の小屋へ入った!

勇者「…」キョロキョロ

 ゴソゴソ

隠居『必ず、魔王を倒せ』

隠居『俺としても、大好きな人間が虐げられるこの時代は気分が良くない』

隠居『だから約束をしろ』

 ゴソゴソ

勇者「あった…」

 勇者は隠居著:勇者伝を手に入れた!


611 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:38:15.78 ID:

 ポゥ…

隠居『よう、勇者』

勇者「!?」

隠居『なーに驚いてる?』

勇者「…し…死んだんじゃ…?」

隠居『そうだな。倅にやられちまった』

勇者「なのに…」

隠居『俺はこれでも元魔王だ。そもそも、肉体なんぞに存在を依存してないのさ』

隠居『ま、あのバカ息子に関しちゃあ、あれだけ必死こいて心臓に頼ってんだ、殺せばちゃんと死ぬから安心しろ』


612 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:39:22.47 ID:

勇者「…」

隠居『何だ、その気不味そうな顔?』

勇者「…あの…」

隠居『ああ、アレな。気にしてねえさ、俺だって虫の居所が悪い頃なんかしょっちゅう似たようなことをしてたもんさ』

勇者「…」

隠居『さて、言っておくが俺は今、その本に間借りしてるような状態なんだ』

隠居『お前がそいつを持ち歩くなら自然と俺もついていく。なーに、お前以外には見えないようにちょちょいと細工してあるから安心しろ!』

隠居『さあ、3代目勇者の最後の冒険をじっくり見せてもらうぞ』

勇者「…」

隠居『ん?』

勇者「ありがとう…」

隠居『お、おう…。照れるぞ、オイ。さあ出発だ!』


613 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:40:20.55 ID:

勇者「これが…初代の倒した魔物…?」

隠居『ああ、それだな。きっとそうだ。村の連中が取っておいたんだろう』

隠居『ご利益なんかありそうにないが、助けてくれたっていう立派な証拠だ。人ってのはそういうもんを拠り所にするんだろ?』

勇者「…」

 ポゥ…

勇者「…初代と剣士の魂が、懐かしんでる…」

隠居『心臓にされてたのをぶっ壊したから、お前さんに宿ってるんだったな』

勇者「宿ってる…?」

隠居『ああ、そうさ。不死の秘宝ってのはよ、もちろん命のストックを造ることで死亡しても即時に蘇れる』

隠居『だが、秘宝と言われる所以はな…相手を自分の中に取り込むってことにあるんだ。造った心臓には元になった者の魂が移るからな』

隠居『大昔にひとりぼっちになることを恐れた野郎が作り上げた、何とも悲しいお宝なのさ』

隠居『そいでもって、お前さんはその魂の結晶を壊すことで魔王の心臓を削り、魂となっていた勇者や剣士を内に宿したのさ』

隠居『言っとくが、こいつは取り込む側との魂の親和性が高くないとムリだぜ?』

隠居『俺の分の心臓2つをお前は壊してるけど、お前には宿ってねえだろう?』

隠居『倅に持ってかれた分が、俺のカリスマ性溢れる邪知暴虐の塊みたいなところだったから今の俺がいるわけさ』

隠居『丸くなっちまったもんだぜ、うん』


614 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:41:06.51 ID:

勇者「…でも…この魔法…」

 ブゥン

隠居『お、そいつは側近のガキの魔法か?』

勇者「…心臓を食べたら…使えた…」

隠居『ふむ…なるほど。分からん』

勇者「…」

隠居『何だ、その期待させといてそれかよみたいな失望の眼差しは』

勇者「!」ブンブン

隠居『いーや、そういう顔だったぞ。いいだろう、なら元魔王としての知識を最大限に活用して考えといてやる』

勇者「…」


615 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:42:09.93 ID:

 ボォォォォォォ----------

海賊「んん? 何でこんなに良くしてくれるかって?」

勇者「…」コクリ

海賊「そりゃ、お前には恩がある! 海賊だってのに、海を魔物どもに占領されて、そりゃもう最低最悪の生活をしてたんだ」

海賊「それがある日、お前が現れた! そんでもって海の魔物の親玉だった海王をぶっ倒してくれた!」

海賊「それでまた海へ出れるようになったんだ。いやあ、感謝してもしたりねえ!」

海賊「この調子で魔王までぶっ倒してくれるってのに協力しない理由があるか?」

海賊「それと、これは個人的なことなんだがな」

勇者「?」


616 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:42:41.68 ID:

海賊「いや、実は俺の母ちゃんがよ、あの大剣士に惚れてたってんだ」

海賊「もう求婚しまくりだったらしい。だけど、振り向いてもらえずに、そのまま親父と成り行きでくっついて俺が産まれて」

海賊「だのに、13年前、その大剣士からいきなり手紙が届きやがって、2代目を魔王城まで船で乗せてくれって」

海賊「あんなにはしゃいじゃってる母ちゃん見るのは初めてだったぜ。ま、大剣士は2代目と一緒にいなかったんだけどな」

海賊「てなわけでだ、お前さんが3代目だって俺の前に出てきた時は奇妙な縁があるもんだと思ったぜ」

海賊「正直、お前を乗せて海王のとこまで行くのは嫌だったが、これまで2度も勇者を乗せてきた女の息子だからと思って協力したのさ」

情報屋『この50年で蒔かれていた種がそろそろ芽吹く頃だから』

勇者「…」

*「キャプテン! 目的地が見えましたぜ!」

海賊「おうよ! さ、勇者! この辺で停泊して待ってるからな!」

勇者「…」コクリ


617 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:43:12.12 ID:

隠居『ここは泉の村と言ってな、前は俺もこの辺に住んでたもんだ』

隠居『口減らしのためにガキを生贄に捧げてるっつー儀式があったんだが、2代目がそれをやめさせた』

隠居『生命の樹ってのを植えたんだ。生命の樹は世界樹の子どもみたいなもんでな、瘴気を浄化できるんだ』

隠居『だがこいつは人の負の感情に弱くてな、そういうもんを敏感に察知してはひとりでに枯れちまうんだ』

隠居『そこで勇者は、いつか生命の樹が瘴気を浄化するまで守れと村の民に言った』

隠居『そうして希望をこの地に残したんだが、2代目が死んだってのが知れ渡ったせいで…すっかり枯れちまったようだ』

勇者「…」


618 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:43:42.78 ID:

隠居『だが、生命の樹っていうのは枯れてもまた蘇ることができる』

勇者「!」

隠居『根っこが大地を離れない限り、育とうとするんだ。魔物がいなくなって、地上の人間どもは救われたと喜んでるだろう?』

隠居『それを察知して…ほれ、枯れてるのに枝と枝の間からひょっこり新芽が出てやがる』

勇者「…」

隠居『だが、お前さんが決戦で敗れればまた枯れちまう』

勇者「…もう、枯れさせない…」

隠居『2代目は点々と、ひっそりこの種を蒔いていった』

隠居『いや、蒔いたというより、蒔き散らしたか。戦いの最中でぽろっとこぼれるようにして蒔かれたのさ』

隠居『そうしてあちこちに蒔かれた生命の樹が無事に大樹へ育つ頃には平和ってのが実現するんだろうな』

勇者「…」


619 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:44:18.03 ID:

里長「勇者様!」

勇者「…」ニコッ

守人「勇者、また来てくれたのか」

勇者「…」キョロキョロ

里長「ええ、少しではありますが再び人が集まって参りまして…これも勇者様のお陰です」

勇者「…」

守人「それで、一体どうしたんだ?」

隠居『こいつはお前さんの両親を知ってるぜ?』

隠居『何せ世界樹を守るために共闘した仲なんだ』

隠居『聞きたいことがありゃあ聞いておけ』

里長「それで勇者様は何をしにいらしたのですか?」

守人「…」

勇者「…両親について…聞きたい」

守人「両親と言うと?」

勇者「2代目と…盗賊」

里長「何と!」

守人「そうか、そうだったのか…」

守人「彼らのことはよく覚えている。知っている限りのことを話そう」


620 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:45:08.66 ID:

勇者「Zzz…」スゥスゥ

守人「眠ってしまったか…。こうして見ると、まだまだ幼く見えるのにな…」

隠居『全くもって、女神ってのはどうしてこんなのを選ぶかねえ…』

守人「…ところで、あなたは一体、何者なんですか?」

隠居『んん? …俺? 見えてんのか、お前さん』

守人「どうやら里長には見えていなかったようなので知らぬふりをしていたが…。生者ではないようだ」

隠居『世界樹の守護者ってのはなかなかやるな…。俺は隠居でいい』

隠居『勇者のことが気に入っていてな、こうして見守ってやっているのさ』

守人「それなら安心だ。…この子は強い力を持っているが、精神的に未熟なところがある」

守人「それをくれぐれも暴走させないように頼む」

隠居『お前さんに頼みごとをされたところでなあ…』

守人「きっと道を誤れば…それに気づいたこの子は苦悩する。それで見守ることになるのか?」

隠居『さーてね、俺は別にどうだっていいさ。気に入っちゃいるが、死なすには惜しいってだけだ』

隠居『見届けるくらいしかしてやるつもりはないのさ』

守人「ひねくれているんだな、案外」

隠居『俺は誰の味方でもない。人間の営みってもんを観察してるだけだからな』


621 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:45:34.53 ID:

勇者「…」ジ-ッ

看板『温泉はこの道をまっすぐ上へ』

看板『ナイスバディーなお姉ちゃんがいる方の入浴は無料』

隠居『おいおい、ナイスバディーなお姉ちゃんを妄想してるのか?』

勇者「!?」ブンブン

隠居『ところでお前、温泉って知ってるか?』

勇者「…」ブンブン

隠居『そうか、なら行ってみたらどうだ? 俺も生身の体があればなぁ…』

勇者「?」


622 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:46:30.68 ID:

 ガララ…

?「客がキタァ――――――ッ!」

 ドドドドドッ

勇者「!?」

?「って、ガキ――? おい、ぼくちゃん」

勇者「?」

?「美人なお母さんとか、おっぱいデカいお姉ちゃんとか、生意気だけどかわいい妹とか、そういうのとかと来たのか?」

勇者「…」ブンブン

 チッ

?「はぁぁぁ…入浴料は金貨1万枚」

勇者「!?」

?「あ、俺は山賊ね。はぁー…魔物がいなくなっちまったってのに、どうして女が来ねえのか…」ウナダレ

山賊「入ってく?」

勇者「…お金…ない…」シュン


623 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:47:10.90 ID:

山賊「…何だか、お前の顔見てると妙に懐かしいな」ジィ-ッ

勇者「?」

山賊「…」

 山賊はおもむろに勇者の頬をつまんだ!ムニッ

勇者「…?」

 勇者は困惑している!
 しかし、山賊は勇者の頬をつまんではこねくり回す!

山賊「この感じも盗賊そっくりでやがるな…」ボソッ

勇者「!」

山賊「お、おおう、どうした? いきなり?」

勇者「お…お父さん…」

山賊「へ?」

勇者「盗賊…僕の…お父さんだから…」

山賊「ぬわにぃいい――――――っ!? お頭、お頭ァ!」

山賊「大変っす! お頭ァ――――――――ッ!」ドドドッ

 山賊は慌てて走っていった!


624 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:47:41.80 ID:

勇者「…?」

 ドドド…
 ドドドドドドドドッ

お頭「お前が盗賊のガキか!?」

 お頭が猛烈な勢いで走ってきた!

勇者「!?」

 勇者は思わず紅の剣へ手を伸ばす!
 しかし、お頭は突進するようにして勇者を捕まえて抱き締めた!

勇者「!? ? !?」

 勇者は驚き、戸惑う!

山賊「お、お頭…画面的にヤバいっすよ?」

お頭「黙ってろ! おい、坊主、お前、本当に盗賊のガキか?」

勇者「…」コクコク


625 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:48:16.60 ID:

お頭「お前のお袋は?」

勇者「2代目…勇者…」

お頭「!」

お頭「そうかぁ…そうだったのか…」ギュッ

勇者「?」

お頭「おっと、悪いな。俺は…何だ、お前の親父の育ての親ってやつだ」

勇者「!」

お頭「揃ってお前の親が死んじまったって聞いた時はガラにもなく感傷的になっちまったが…」

お頭「いつの間にこんなガキをこさえてたんだか。何でもっと早く来なかった!」

勇者「…」オロオロ

 勇者は困惑するばかりだ!


626 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:49:35.80 ID:

山賊「お頭、いいから放してやらないと潰れちまいますよ!」

お頭「おお、それもそうだったな! お前の名は?」パッ

勇者「…勇者」

山賊「! ってえと…3代目か!?」

お頭「はぁぁ…こりゃたまげるな。まあいい、三下、てめえはメシの支度だ!」

お頭「勇者、温泉へ入るぞ! ついてこい!」

勇者「?」

山賊「お頭、手ぇ出すんすか? マジっすか?」

お頭「んな畜生のマネするか! てめえは大人しくメシ作ってやがれ!」ゴスッ

山賊「ぶべばっ」ドサッ

勇者「…」

 勇者は山賊に祈りを捧げておいてあげた!

627 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:50:13.33 ID:

 カポ-----ン

 デ ダナ オレハ オマエノ オヤジニ…
 アン ニャロウハ ヒネクレチャア イタ ンダガナ…
 ヤイ サンシタ ! サケダ! スグ サケ モッテ キヤガレ ココデ ノム !
 カ-ッ キョウハ キブンガ イイゼ マッタク オマエノ オカゲダ ガッハッハッ

 勇者はすでにのぼせている!
 しかし、お頭は気分が良くて気づかない!


628 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:50:56.52 ID:

勇者「…」フラフラ

お頭「Zzz」グオ- グオ-

山賊「お頭っ、せめて股間のマンモスしまってから寝てくだせえ! ガキんちょの目が腐っちまいますよ!」ユサユサ

山賊「はぁ…こんなにお頭がのぼせちまうなんてなぁ…」

勇者「…」フラフラ

山賊「ガキんちょ、水飲め! お頭につき合うなら適当に切り上げねえと身がもたねえぞ!」

勇者「…」ゴクゴク

 プハッ
 ホッ…

山賊「にしても…」フニッ

勇者「?」

山賊「お前のほっぺはあいつそっくりだな…」フニフニ

勇者「…///」


629 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:51:36.46 ID:

山賊「あいつこうするとすぐ毒吐いてきたから堪能できなかったんだよなあ」

 フニフニフニ

勇者「…」

山賊「…」フニフニ

勇者「…」

山賊「…」フニフニ

 勇者はちょっと嫌になってきた!

勇者「…」チラッ

山賊「…」フニフニ

勇者「…」プイッ

山賊「おいこら」ガシッ

勇者「…」ムム

山賊「…」フニフニ

勇者「…」ハァ

山賊「…」フニフニ

 勇者は嫌な顔を隠さず、されるがままになった!


630 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:52:14.49 ID:

山賊「俺ぁよう…頭はてんで悪かった」フニフニ

勇者「?」

山賊「だけどお前の父ちゃんは頭良くてよ、俺がとちって牢屋ぶち込まれた時なんかすぐに来て、カギを開けてくれたりよぅ…」フニフニ

山賊「情けねえけど今のお前と同じくらいの頃のあいつにいっつも助けられてきたんだ…」フニフニ

山賊「うぅっ…ぐすっ…俺ぁよ…あいつに…何も…何もして…やれなかったって…思うとよぉっ…」フニフニ

勇者「…」

山賊「お前はよぉ…そうは…ならねえよなぁっ?」フニフニ

勇者「…」ポンッ

 ナデナデ

山賊「うっ…うおおおおおお――んっ! お前はいいヤツだなぁっ…!」フニフニ

勇者「…ほっぺ…放してくれないんだ…」ナデナデ


631 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:52:44.21 ID:

お頭「これも持っていけ」

山賊「お頭、そんな余計なもんじゃなくて、こう、ど派手にっすねえ!」

お頭「うるせえ、すっこんでろ!」ゴスッ

山賊「ひでぶっ」

 ゴッチャリ

勇者「…」

 勇者は土産をたっぷり持たされた!

勇者「…重い…」

お頭「いつでもまた温泉に浸かりにこい!」

山賊「絶対死ぬんじゃねえぞ!」

勇者「…」コクリ

勇者「…またね」


632 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:53:17.36 ID:

隠居『賑やかな連中だったな』

勇者「…」コクリ

隠居『思いがけず親のことも聞けて良かったじゃないか』

手紙『魔王を討ち倒した勇者よ、あの男は必ず地上で大規模な争いをする』

勇者「…」

隠居『どうした、その顔は?』

勇者「隠居が…魔王だった頃のこと…知りたい」

隠居『いきなりどうした?』

勇者「…」ジッ

隠居『知りたいなら聞かせてやらないこともないが…』

隠居『どんなことを知りたいんだ?』

勇者「…地上の…様子について」

隠居『あー…そうだなあ、あの頃はあんまり興味なかったもんでうろ覚えだが――』


633 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:53:56.22 ID:

 ワイワイ
 サアサア ハジメテノ オキャクサマ ゲンテイ パフパフ 3p サ-ビス ヤッテルヨ-
 ソコノ オニイサン ミチユク シンシサン イカガ デスカ-

隠居『ほほーう、なかなか面白そうな場所だなあ』

勇者「…///」

隠居『そう早足になることもないだろ、ちょっとだけ観察しながら行こう、そうしよう』

勇者「…」モジモジ

隠居『ほほーう、何で女がウサギの格好をしているんだ? 人間はあれが好きなのか?』

隠居『だが俺としても何やらそそられるな…恐るべきだ』

隠居『こうして人間どもは性の営みさえも商売にして子孫繁栄をはかるのか』

勇者「…」

*「よっ、そこのぼく、ぱふぱふって知ってるかい?」

勇者「!?」


634 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:54:33.73 ID:

隠居『おおっ、誘いがかかったな。行ってみろ、悪いことは言わん、観察させろ』

勇者「…」ガタガタ

*「お金持ってる?」

勇者「…ちょっとだけ…」

*「持ってる!? よーし、じゃあ1名様ご案内!」

勇者「!?」ブンブン

*「大丈夫、大丈夫、ぱふぱふっていいもんだよ、ぼく~」

隠居『よし、いいぞ! 勇者、抵抗するな!』ビシッ

勇者「!?」

 勇者は突然、自分の意思で体を動かせなくなった!

*「怖がってるけど素直にお店へ来てくれるんじゃないのぉ~このこの~」

隠居『今の俺でもこの程度ならちょちょいのちょいだぜ』ニタリ

勇者「!?」

*「さー、この個室で待ってるんだぞ~」

 バタンッ

勇者「…」ガクガク


635 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:55:37.40 ID:

隠居『さてさて、ぱふぱふなるものは一体どう行われるのか…』

 ガチャ…

勇者「!」

バニーガール「はじめまして、ぼく。ぱふぱふは初めて?」

隠居『初めてだ! 気前よく頼むぞ!』

勇者「…」ブルブル

バニーガール「緊張しなくてもいいの。さ、目隠してをして、この椅子へ座って…」

勇者「!?」

 勇者は目隠しをされた!ブルブル

バニーガール「それじゃあ、始めるわね…」

 プルンッ

勇者「!? ! !?」

 勇者は顔を挟む2つの柔らかなものを感じて驚き、困惑する!

隠居『おお…ふむふむ…』

バニーガール「そぉーれっ♪」

 プルンプルン
 ムニュムニュ

勇者「~っ」ゾワゾワ

バニーガール「どう? いい感じになってきた?」

 プヨプヨ
 プルンッ
 ムニュッ ムニュッ
 ・
 ・
 ・


636 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:56:18.61 ID:

*「――ありがとうございましたー! またぱふぱふしたくなったらおいで、ぼく!」

勇者「…」

 勇者は軽くなった財布を惜しそうに見つめている!

隠居『なるほどなぁ~』ホクホク

勇者「…」ジロッ

隠居『感想はどうだった?』

勇者「…///」

隠居『いやー、あれで人間ってのは満足するものか、驚きだった』

勇者「…?」

隠居『何されたか分かってないのか? ああ、目隠しされてたもんなあ』

隠居『驚いたぜ、人間がスライムを飼い馴らして、それで人間の顔を挟むだけで良かったなんてなあ』

勇者「…?」

 勇者は何かが違っていることを理解した!


637 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:56:48.31 ID:

勇者「!」バッ

 勇者は後にしたばかりのぱふぱふ屋を振り返る!
 しかし、キャッチとバニーガールが慌てて逃げ出しているところだった!

勇者「っ…」シュン

 勇者は騙されたことを知った!

隠居『どうした、何を落ち込んでる?』

勇者「…」ハァ

 勇者はとぼとぼと歓楽街を歩いた!


638 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:57:33.70 ID:

隠居『ふむ、勇者、あれは飲み食いする店のはずだ。あそこへ入れ』

勇者「?」ジト

隠居『金がないのにどうしてって? なーに、金なんて心配するな、そんなものなくても生きていけるだろう』

勇者「…」プイッ

隠居『あそこに心臓がありそうな気配するんだけどなー…』

勇者「…」ジト

隠居『確証はないけど、確かめてみないとなぁ?』

勇者「…」ムムム

隠居『いや、気のせいかも分からんが、気のせいじゃなかったらなかっただし、でも気のせいかはやっぱり確かめないことにはなぁ?』

 勇者はスナックへ入った!


639 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:58:01.43 ID:

?「いらっしゃい…」

勇者「…」キョロキョロ

?「こういうところは初めて? 子どものくせにませてるのね…」

?「座りなさい、今はあなたしか客がいないから」

勇者「…」

?「何飲む? お酒しかないけど、飲めるの? そもそも」

勇者「…」ブンブン

?「それじゃ水で文句ないわね」

 トン

勇者「…」ゴクゴク

?「どうしてこんな店に入ってきたの? ああ、忘れてたわ。私はこの店のママだから」

勇者「…探し物…してて…」

ママ「探し物?」

勇者「…」コクリ

ママ「…そう」


640 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:58:52.69 ID:

 シ-----ン

隠居『何か退屈な店だな、思ってたのと違うぞ』

勇者「…」ジト

隠居『えーと心臓はあるかなー? どーだろなー?』

勇者「…」ハァ

ママ「大切なものなの?」

勇者「?」

ママ「探し物…」

勇者「…」コクリ

ママ「見つかるといいわね…」

勇者「…あの…」

ママ「何?」

勇者「…どうして…寂しそうなの…?」

ママ「口説いてるつもり? 10年後に金持ちになってから出直しなさい」

勇者「!?」ブンブン

ママ「…私はいつもこうよ」


641 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 15:59:45.04 ID:

ママ「お金だけあれば…楽して食うに困らなければ、それでいいって思ってたわ」

ママ「男だってそう、貢いでくれればそれだけでいい。ケチな男なんて論外で、愛なんかを囁かれても金しか見ない」

勇者「…」

ママ「お金に換わるものなら、何でも金にしてきた」

ママ「でも…そうして手に入れたものは何もかも…消えてったわ」

勇者「…」

ママ「なけなしの金と、都合のいい男をそそのかせて、こんなに小さな店を構えて…それで今は暮らしてる」

ママ「…坊やはそれが、寂しいって言うの?」

勇者「…」

ママ「…いいのよ、何だって。…私も飲ませてもらうから。あなたのお金だから」

勇者「!?」

ママ「ここはそういうお店なの。社会勉強よ」

勇者「…」シュン


642 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:00:47.53 ID:

ママ「お小遣いがないなら親にでも甘えてみたら?」

勇者「…本当の親は…いないから…。育ての親は…遠いところ…」

ママ「…そう、かわいそうね。でも同情なんてしないから、適当に金目のもの置いていきなさいよ」

勇者「…よく分からない土産物なら…」

ママ「そうね…じゃあそれでいいわ」

勇者「! …本当に…?」

ママ「それを代金代わりにしてあげるって言ってんの」

勇者「でも…こんなの…」

ママ「早く出して」

勇者「…」スッ

 ゴッチャリ

 勇者は正直、邪魔以外の何でもなかった土産物を差し出した!

643 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:01:17.32 ID:

ママ「いいつまみになりそうなのもあるじゃない…。気が向いたから、何か作ってあげるわ」

 トントントン…
 ジュワッ

ママ「…はい」

 コトッ

勇者「…」モグ

勇者「…」モグモグ

勇者「…………おいしい」

ママ「そう。探し物は…忘れない内に見つけなさい」

ママ「忘れてしまって、後から思い出したって…もう間に合わないかも知れないから」

勇者「…また来ても、いい?」

ママ「今度はちゃんとお金持ってきなさいよ」



644 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:02:10.20 ID:

隠居『なかったな、心臓』

勇者「…」

隠居『んん? またあの不審の眼差し攻撃をしてくるかと思ったら、何か考え込んでるのか?』

勇者「…」チラ

隠居『おおう、何だよ?』

勇者「…あの人、何を忘れたんだろう」

隠居『知るかよ。だがまあ人間にしては美しい女だったな』

隠居『惚れたか?』ニタッ

勇者「あんなにおいしいの…初めてだった――」


645 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:02:38.86 ID:

 ボォオオオオオ-----------

海賊「さてさて、お次はどこだい?」

勇者「…終末時計塔」

盗賊「しゅ…週末…? 何じゃそりゃ?」

勇者「…地上の果て――」


646 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:04:04.52 ID:

 ヒュオォォォォォ…

隠居『ここはあんま、お前さん的には近寄りたくない場所じゃねえのか?』

勇者「…」

 ギィィィ…

隠居『ああ、そうだ。お前がどうして側近の魔法を使えるようになったかの仮説なんだがな』

勇者「…」

隠居『もしかしたら…お前が勇者だったから、っていうことかも知れん』

勇者「…?」

隠居『初代と2代目、そして3代目であるお前…』

隠居『勇者ってのは普通の人間よりも遥かに早く、そして強靭に、進化していってる』


647 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:08:29.48 ID:

隠居『異なる魔法を合成するなんて発想と、それを実際にものにしちまった初代』

隠居『循環の力を自在に操って、自分の異能にしちまった2代目』

隠居『こういうもんはな、魔族だろうが人間だろうが、気の遠くなるほどの時の流れと、その中での研鑽ってやつによって、ようやく辿り着く境地なんだ』

隠居『それをたった一代で編み出して習得して、次代に継承していくのが、女神の送り出した勇者って存在だったのかもな』

勇者「…」

隠居『つまり…そうだな、進化の因子が勇者の最大の特徴だったってわけさ』

隠居『この進化の因子がよ、お前が食っちまった側近の心臓を有益と判断して取り込んじまったんじゃねえのかっていうのが、俺の推測だ』

隠居『ま、具体的な根拠も何もないんだが…俺はそう考えた』

勇者「…進化の因子…」


648 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:09:20.53 ID:

隠居『要するにどこまでいけるか知らねえが、いけるとこまでお前さんは色々な力を手に入れることができるってことだ』

隠居『初代は魔法に特化していって、2代目は剣術だった』

隠居『お前さんは何かに特化ってわけじゃないが…その分、全体的に、満遍なく、ってことだ』

隠居『むしろ、初代と2代目の持ってたもんを全て昇華させちまってる』

勇者「…」

 勇者は境涯の扉へ辿り着いた!


649 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:10:02.83 ID:

隠居『おおっと、この先へは俺は行けねえんでな…。待ってるから連れてかないでくれよ、本置いてけ』

勇者「…どうして?」

隠居『その先はどこでもない場所だ。どこでもないが、どこでもある』

隠居『ちょちょいと細工さえしてやれば、どんなことでも再現できちまう』

隠居『幻を見せるなり、自分の記憶を追体験するなり、魂さえありゃ死人との会話だってできるぜ』

隠居『そういう曖昧な場所っていうのはな、今の俺みたいに曖昧な存在を許さないんだな、これが』

勇者「…」

隠居『何だよ、その死ぬ前から曖昧だったみたいな面は』

勇者「!」ブンブン

隠居『とにかくだ、死人の俺はそこへ行けねえのさ』

勇者「…」スッ

 勇者は隠居著:勇者伝を境涯の扉の前へ置いた!


650 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:11:11.56 ID:

 バァンッ

勇者「…」

 キョロキョロ

勇者「心臓は…ここも…ない…」

 チャキ

勇者「…」

 ズンッ

 勇者は因縁の剣を床へ突き立てた!

勇者「…」

隠居『ちょちょいと細工さえしてやれば、どんなことでも再現できちまう――』

隠居『幻を見せるなり、自分の記憶を追体験するなり、魂さえありゃ死人との会話だってできるぜ』


651 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:11:44.78 ID:

勇者「…」

 ポゥ…

初代『どうしたの? 人恋しくなった?』

勇者「…僕は…間違ったことをしようとしてる…」

初代『それで不安になって、隠居がここだけは把握できないのを知って、思いがけず相談したくなった?』

勇者「…」

初代『ここでキミと出会えて、兄ちゃんの魂までキミとともにあって、嬉しかったよ』

初代『正直、キミに最初はあまり良くない感情を覚えた。でもキミは、かつて俺達が歩んだ道程を意図せずに辿っていく中で…思い直せたんだね』

初代『今のキミなら、きっと魔王を倒せるはずだ。これは多くの人が俺達に向けてきた、縋るような期待の言葉じゃない』

初代『魂だけの存在でキミの中にいて、そう感じられるんだ』

初代『兄ちゃんはキミの考えにはあまり賛同してくれそうにないから、俺を呼び出したんでしょ?』

勇者「…」コクリ

初代『キミはやさしくて、でも…ちょっとだけ臆病なところがある』

初代『だから、背中を押してもらいたい。でも、そうしてもらうには…これからを生きる人には重すぎる荷だ』

勇者「…隠居はあてにしちゃいけないと思ったから…」

初代『そうみたいだね』


652 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:12:33.96 ID:

勇者「初代は…僕のこと、許してくれる…?」

初代『俺が許すまでのこともないよ。キミがそう決めたのなら、そうすればいい』

初代『明らかな誤りだとしても、きっといつか、それを正してくれる人が現れる』

初代『野心にまみれた魔王を討たんとして、女神が俺達を地上に産み落としたようにね』

初代『だからキミは、キミにできることをすればいい』

初代『いつか世界はそれに応えてくれる。その時に決断はキミの手から離れていく』

勇者「…」

初代『キミがやろうとしていることが誤っていても、キミのその考えが誤りだと僕は思わない』

初代『だけど世界は不完全だから、こうなってしまうんだと思うよ』

初代『そんな世界をキミは守ろうとして戦ってきた』

初代『だから俺は、キミの背中を押す。――勇気を出していいよ、小童』

勇者「…」コクン


653 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:13:06.35 ID:

隠居『おう、意外と早かったな。何してきたんだ?』

勇者「…下準備。あと…」

隠居『あと、何だ?』

勇者「…何でもない…」

隠居『ふーん? しっかし、そろそろ日蝕だな…』

隠居『早めに魔王の心臓を見つけねえとな』

勇者「…知りたいことがある」

隠居『何を?』

勇者「僕は…魔王と同じことをできる…?」

隠居『…そりゃ、どういう意味でだ?』


654 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:13:58.99 ID:

 クルッポ-

勇者「!」

 勇者は伝書鳩から手紙を受け取った!

手紙『魔王の心臓を発見した』

手紙『キミの親友・情報屋より』

勇者「!」

隠居『ほぉー? なかなか、人間ってのもやりおる』

勇者「…」

隠居『この手紙の相手の、情報屋ってのは何者なんだ?』

勇者「…よく、知らない…」


655 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:14:34.14 ID:

情報屋「やあやあ、お久しぶり」

情報屋「キミ、成長期だね。ちょっと会わない内に背が伸びたんじゃないか?」

勇者「…」

情報屋「御託はいいから用件を話せって? やれやれ、知己と同じようなことをキミは言うね」

勇者「!」ブンブン

情報屋「さて、じゃあそんなせっかちなキミにサービスだ」

情報屋「魔王の心臓はすでに手に入れておいた」

勇者「!」

隠居『ほほーう、見つけるだけじゃなく持ち出したか。本当に何者だこいつ? 胡散臭いな』

情報屋「こいつをどうするかは知らないが、渡しておこう」

 勇者は魔王の心臓を手に入れた!

勇者「…」グッ

情報屋「これでキミからの依頼は完遂だ」


656 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:15:47.75 ID:

勇者「情報屋さんは…何者なの?」

隠居『よく聞いた! はぐらかそうとしても絶対に聞き出せよ!』

情報屋「僕かい? 僕は公爵家に使えていた使用人という男の孫だ」

情報屋「身長は189センチ、体重は77キロ、好きな食べ物はポークステーキ、嫌いな食べ物はイチゴ、職業病で人に馴れ馴れしく接して、相手さえ知らない間に情報をふんだくろうとする癖があるんだ」ペラペラ

情報屋「1回の依頼料はまちまちだけど、僕が知ってることなら金貨5枚から、知らなくて調査が必要なら調査費という名目で20枚からもらうけど、独自のコネがあるから僕自身はあまり移動する手間がいらなくてね、必要経費とか言いながらぼったくってるよ」ペラペラ

情報屋「独自のコネって言うのはさすがに教えることはできないけど、少なくとも全ての街や村に最低1人は情報提供者がいてね。顔が広いのさ、これでも。顔と名前と趣味と生まれた場所と年齢を知っている人間の数は現在1200人を突破しているよ」ペラペラ

情報屋「生まれはこの城下だ。親友とは幼馴染みでね、屋敷じゃよく遊んであげていて、その時に剣の修行につき合わされたものだからちょっとは腕に自身はあるけど、荒事はあんまり好きじゃないからね、可能な限りは口で言い包めるようにしてるよ」ペラペラ

情報屋「僕の情報ネットワークを使えば腹の立つ相手を辱められるネタや、脅迫のネタなんてものは簡単に手中に収められるからね」ペラペラ

情報屋「ああ、それと僕はこれでも50歳を超えているんだけど、若い見た目をしているだろう? 前に不老不死の秘薬なんてものを欲しがってる客がいて調査をしている時、手に入れた薬を誤って服用してしまったんだ。それきり、年齢を取らなくなってしまったみたいでね」ペラペラ

情報屋「だけどその薬を渡したお客さんはもう年寄りでね、持病があって苦しんでいたから死にたくないって不老不死の薬を欲しがったみたいなんだけど、持病でかなり苦しめられて、でもなかなか死ねなくて今でも困ってるみたいだ、可哀相だけど仕事を完遂したから僕としては後ろ暗さなんて持っていないよ」ペラペラ

情報屋「僕は健康体のまんまで服用したから体に何も影響はないし、むしろ28歳っていう脂が乗りかけの頃だったからもう丁度いいよね。まあ悩みは髪の毛ももう生えてこなくって、1度切ったらもう2度と生えないことだ。あ、でも抜け毛はしなくなったから禿げる心配はしていないよ」ペラペラ

 ・
 ・
 ・

657 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:17:10.04 ID:

 ・
 ・
 ・

情報屋「そうそう、それと僕は情報屋っていう人間としてちょっとはミステリアスな存在じゃなきゃいけないんだ。この手の質問にはいつも金貨40枚か、相手がよほどの金持ちならふっかけて金貨100枚とかふんだくったりしてるんだよ。タダなんてラッキーだね、キミは」ペラペラ

情報屋「――と、まあ、大体これくらいまで喋ると飽きられる頃合いなんだけど、まだ知りたいかい? ここから先の追加情報もキミなら無料にしておくよ」ニコニコ

勇者「もう…いいです…」ゲッソリ

隠居『長かったな…。そして分かったような分からんような』

隠居『しかもさり気なく不老不死とか言ってやがるが、んなもんあったのか』

隠居『元魔王の俺さえそんなもんが実在するなんて知らなかったぞ…』


658 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:17:45.88 ID:

情報屋「他にはあるかい? 不老不死の秘薬ならもうないよ。精製には世界樹の雫が必要だからしばらく作れないしね」

勇者「…もう1つ」

情報屋「まだあるのか。懲りたかと思ったのに」

隠居『懲りたってことは、こいつもう面倒臭がってねえか』

勇者「王様は…何をしようとしてるの?」

情報屋「そうだね…。有り体に、一言でまとめてしまうなら、地上の支配かな」

情報屋「ちなみに、この情報ならすぐに提供可能だよ?」


659 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:19:04.75 ID:

―王歴200年―

 トントントン…
 グツグツ
 ジュワァッ

勇者「…できたよ」

 コトッ

女将「美味しそうだねえ、あんたがご飯を作ってくれるなんて嬉しいよ」

勇者「…」ニコニコ

亭主「ふんっ、味を見なきゃ何とも分からんのにいちいち…」

女将「何言ってんだい、盛りつけ見ただけでもあんたのより美味しそうなのは目に見えてるだろう」

亭主「何をっ!」

女将「はいはい、文句は食べてから言うんだね。いただきます」

亭主「ぐぬぅ…」

 モグモグ

勇者「…」ドキドキ


660 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:19:34.49 ID:

女将「美味しい。美味しいよ、小童。これなら小童が厨房立ってもいいくらい」

亭主「な、何言ってやがる! あ、味はいいがな、小童! 段取りが悪いんだよ!」

女将「あんたは段取りとか言う前に焦げてない料理でも作りな!」

勇者「…」クスクス

亭主「わ、笑うんじゃねえ! いいか、小童、客商売っていうもんはなあ――」

 コンコン

女将「おや…」

亭主「っ…もうか…」

 ガチャ

使者「お迎えに上がりました、勇者様」

勇者「…」コクリ


661 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:20:03.37 ID:

女将「気をつけて…また、帰ってくるんだよ」

亭主「た、例え魔王が倒せなくたって、俺達はいつまでもお前の味方だぞ!」

亭主「だから、絶対に帰ってこい! な?」

女将「何を弱気なこと言ってんだい、あんた! 魔王もちゃんと倒すんだよ!」

勇者「…行ってきます」ニコッ

女将「行ってらっしゃい」

亭主「あ、ああ…行ってこい」

 バタン

女将「うっ…うぅ…」ポロポロ

亭主「…な、何泣いてんだ、お前。大丈夫だ、小童は帰ってくる…」


662 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:21:57.15 ID:

使者「魔王城のある孤島まで、この船でお送りします」

勇者「…」コクリ

 シュッコウ ヨォ-イ
 マオウジョウニ カジヲ トレェ-

勇者「…」

 グレイトホ-ンホエ-ルガ デタゾ
 トンデモネエ タイグンダ

勇者「…」スッ

使者「! ゆ、勇者様、ここは船員が対処しますので――」

勇者「…」

 勇者は紅の剣を抜き放った!
 海に巨大な亀裂が入り、魔物の大群が切り刻まれる!

使者「な…何て強さだ…。海が赤く…」ゾクッ

勇者「魔王…50年の戦いに、決着をつける――」


663 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:22:40.73 ID:

船長「ここまでで、いいんですか…?」

使者「まだ小さく島が見える程度ですが」

勇者「…」コクリ

船長「じゃ、じゃあ今、小船を――」

 トンッ

 勇者は甲板を軽く蹴り、ふわりと浮かび上がった!

船長「」

使者「」

勇者「ここまで…ありがとう…」

 勇者は凄まじいスピードで孤島まで飛んでいった!

船長「…に、人間じゃ、ねえ…」

使者「…船長、しばらくここに停泊して様子見をします。よろしいですね」

船長「あ、ああ…国王様からの命令だからな」

使者(その者、緋色の剣を携え、絶対の獣を纏いし修羅)

使者(全てを照らす光に、全ての闇を含ませる超越者)

使者(永遠の輪廻を生み出す始祖の英霊となるだろう…)

使者「神託の意味を…確かめねば――」


664 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:23:30.02 ID:

 スタッ

勇者「…」

 ポツン

勇者「…」チラッ

 ギンギン ギラギラ

勇者「…」

 ・
 ・
 ・

勇者「?」

勇者「空が…暗く…」

 ズズ…

勇者「!」

 突如として、魔王城跡地に世界中の瘴気が収束してきた!

勇者「…」チャキ

 瘴気は島を覆い隠していく!


665 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:24:19.57 ID:

魔王「待たせたな…」

 ゴゴゴ…

 魔王があらわれた!

魔王「約束通りに貴様が来てくれたことに、まずは礼を言おう」

勇者「今度こそ…息の根を止める!」

 勇者は紅の剣を抜き、地面を蹴った!
 勇者は一瞬で魔王の眼前に迫り、紅の剣を振りかぶる!
 しかし、魔王はどこからともなく召喚した剣で受け止めた!

 勇者は飛びずさった!
 魔王は飛びずさった!

魔王「うん? その程度の力であったか?」

勇者「…日蝕と瘴気で、パワーアップしている…」

魔王「その通り。姑息だなどとは言うなよ、それだけ貴様を高く買っているのだ」

勇者「僕だって、姑息な手段は用意してある――」

 勇者は魔王に向かって切りかかった!
 魔王はひらりと回避し、勇者に剣を叩き込む!
 しかし、勇者は地面を蹴って魔王の背後に回り込んだ!

勇者「転移魔法――」

魔王「何…!」

 勇者は魔王を後ろから羽交い締めにし、足元に魔法陣を展開する!

 バシュン


666 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:26:26.58 ID:

 バシュン

魔王「っ――ここ、は…!」

勇者「境涯の扉の内部…」

魔王「境涯の扉は異空間のはず…何故、このような場所に転移など――」

 スチャッ

 勇者は床に突き刺さっていた剣を無造作に抜いた!

魔王「その、剣は…」

勇者「遺されていた、因縁の剣」

勇者「これに魔法陣を施して、僕と強い結びつきを持たせた」

勇者「因縁は互いを結んで強く惹きつけるから…その力を借りて、ここまで転移をした」

 剣には魔法陣が刻み込まれている!

魔王「側近の魔法か…。だが、ここに来てどうすると言うのだ?」

魔王「貴様はここが、どのような場所か知っているのか?」

勇者「どこでもあって、どこでもない場所…」

勇者「生きている者しかいられない、果てのない場所」

勇者「ここで死んだ者は、生者に取り込まれる」

魔王「…ふっ、貴様は俺を殺して取り込もうと言うのか?」

勇者「ここなら…何が起きても外に影響はない」ゴゴゴ…

 勇者は徐々に魔力を解放していく!

魔王「良かろう」

 魔王は徐々に魔力を解放していく!


667 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:27:01.84 ID:

勇者「――覇道斬り!」

 勇者は勢いよく紅の剣を振り下ろした!
 繰り出された剣戟が大地を抉りながら進撃する!

魔王「覇道斬り!」

 魔王は勢いよく剣を振り下ろした!
 繰り出された剣戟が大地を抉りながら進撃する!

 両者の剣戟はぶつかり合い、弾けとんだ!

 勇者は地を蹴り、瞬時に魔王の眼前へ迫る!
 勇者は紅の剣にふわりとたゆたう赤い綿を乗せて切りかかる!

魔王「ッ――!?」

 魔王の傷口から凄まじい炎が吹き上がる!
 魔王は耐え切れずに自分自身へ凍結魔法を放った!

勇者「冷たい方がいいなら、こうだ」

 勇者は紅の剣にふわりとたゆたう青い綿を乗せて切りかかる!

魔王「がぁあああああっ!?」

 魔王の傷口から肉体が凄まじい勢いで凍結していく!
 魔王は自分の肉体を傷口の周辺ごと抉り取った!


668 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:28:51.95 ID:

魔王「な…何だ…何なんだ、お前は…!?」

魔王「半年前とは違う…何故だ、何故、こうも貴様は強くなる…!?」

勇者「僕が進化の因子を持った勇者だから」

魔王「進化の因子だと…? だが、俺は始まりの勇者の心臓を食らっている!」

魔王「ならば俺も持っている…! なのに何故、貴様だけが!」

勇者「進化は前を見ること、希望そのもの」

勇者「絶望なんかを好むお前には、心臓を食べたところで意味がない」

勇者「お前が僕を魔物への恨みで掻き立ててくれたから、以前の勇者達が希望の種を蒔いていて、僕のそれを誤っていると導いてくれたから、僕はまた前に進めた」

勇者「そうして、僕は半年前よりも強くなれた」

魔王「くっ…」

勇者「これが、お前の大好きな絶望だ。気分は…どう?」

 勇者はじっと魔王を見つめた!


669 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:29:44.41 ID:

魔王「ッ――たかが人間風情めが、この俺をコケにするなど…!」

 魔王は渾身の力で剣を振るう!
 天地を引き裂く、神撃の一太刀が全てを両断していく!

 勇者は渾身の力で紅の剣を振るう!
 天地を引き裂く、神撃の一太刀が全てを両断していく!

 ぶつかり合った両者の超破壊の力は相反せず、相乗して膨れ上がり、周囲を吹き飛ばす!

魔王「見よ、新たに得た、我が魔法を!」

魔王「光の魔法である消滅魔法と、我が最強の闇魔法を合成した、至高にして究極の魔法!」

 魔王は消滅魔法と闇魔法を唱えた!
 しかし、勇者が魔王に紅の剣を突き立て抉り抜ける!

魔王「――」

勇者「半年前に…僕を殺さなかったのが、敗因だ…」

魔王「っ…か、ははっ…だが…俺にはまだ心臓がある!」

勇者「それは、これのこと?」

 勇者は赤い玉を取り出し、口に含むと奥歯で噛み砕いた!バリボリ

 ゴクン

魔王「何…だと――」

 勇者は紅の剣を引き抜いた!


670 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:32:28.23 ID:

魔王「フハハハハッ! 決着に勝者などを出してたまるか!」

魔王「俺も死ぬが、貴様も死ぬ!」

魔王「我が覇道の末に貴様が立ち塞がるならば、例えこの身が滅びようとも貴様を屠る!」

魔王「この俺が人間如きに殺されるなどあってはならぬからなァ!」

魔王「死ねェ、勇者! ――自爆魔法!」

 魔王は巨大な魔力の全てとともに爆発した!
 凄まじい爆発が何もかもを闇の炎で焼き尽くす!
 勇者は爆発の中へ勇み飛び込み、魔王に光の剣を突き立てる!

 紅の剣の刀身が砕け散る!
 しかし、紅の剣は折れて尚、輝く剣が柄から延伸されている!
 輝く剣は、魔王の心臓を貫いて放さない!

 爆発が異空間を破壊し、空間に亀裂が入った!

魔王「破滅するが良い、勇者!」

魔王「ハハハッ! フハハハハハ――――――ッ!」

勇者「さよなら、魔王――」

 異空間が破壊された!
 勇者は上下左右のない、無色の世界に放り出された!



671 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:33:42.46 ID:

 ポゥ…

初代『さよなら、3代目』

剣士『じゃあな、達者で』

勇者『今まで…ありがとう』

初代『こっちこそ、魔王から救ってくれてありがとう』

剣士『ようやっと、あの世だぜ』

 初代と剣士の魂は勇者から解き放たれた!

初代『またのろけるの? でも、2代目鍛えてた頃の兄ちゃんじゃ、なかなかそうもいかないよねえ』

剣士『うるせえ、ニヤつくんじゃねえ』

初代『それにしても憎いことするよね、兄ちゃんって本当に俺の兄ちゃんだったんだし』

剣士『あれは俺の一存じゃねえし、そもそもは反対だったんだよ』

 初代と剣士の魂は天へ召されていった!

 ・
 ・
 ・

勇者『…さよなら』

 ポツン

勇者『…』


672 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:34:23.26 ID:


―王歴205年―

国王「――勇者が魔王討伐を果たして、5年の歳月が経った」

国王「今日になっても、魔王討伐の勇者は我々の前に姿をあらわさず、消息を絶ったままになっている」

国王「彼がすでに命なき者であろうと、彼が築いたこの平和な時代は統治され幸せな世にならなければならぬ」

国王「中央大陸、そして東大陸は、魔物の脅威がなくなったことを好機とばかりに我々、聖王国に離叛した」

国王「私は英霊たる3代目勇者に報いるためにも、中央大陸、東大陸を再び我が領土として、真に平和な時代を築くと宣言する!」

国王「見よ、敬虔な臣民諸君よ!」

国王「これこそが王国魔法部隊が創りあげし、究極の魔法!」

国王「天を支配し、炎の岩を降らせる王にのみ許された魔法だ!」

国王「魔法部隊、まずは中央大陸に降らせよ、聖なる罰を!」


673 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:35:05.16 ID:

情報屋「やれやれ…。こうなってしまうとはね…」

情報屋「親愛なる剣士くん、キミは魔王からは解放されたのかな?」

情報屋「そうだとしても…これからの動乱はキミが望んだものじゃなかっただろうにね…」

情報屋「不死の秘宝――いや、不死の秘法か」

情報屋「キミにお願いされたことを、僕は果たしたんだけど」

情報屋「彼はどうしたんだろうね――」


674 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:36:40.29 ID:

 ザッザッザッ

 ウワ----
 ソラ カラ モエル イワガ オチテ クルゾ-
 オウコクノ シワザ ダ

?「――」

 ?は空をあおいだ!
 ?は片手をあげ、軽く手首を振る!
 隕石は突如として軌道を変え、海に落ちた!

 オオ ツナミガ クルゾ-

?「…」

 ?はあげたままの手をさらにまた振った!
 高波が急になくなり、海に凪が訪れる!

 タ タスカッタ ノカ?

 ホントウニ セイオウコクハ セメテ クルノカ ?
 ワタシタチ ベツニ ナニモ シテ イナイ ジャナイ
 フッコウガ ススムニ ツレテ アッチノ タイリク カラノ イミンガ フエテ ルンダ
 キット ソレヲ ネタンデルニ チガイ ナイゼ
 ダケド センソウニ ナンテ ナッチ マッタラ マオウガ イタ コロト カワラナク ナルンジャ ネエカ

?「…」


675 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:37:30.54 ID:

?’『おーおー、また派手なもんを人間は考えついたなあ』

?「…」

?’『お前さん、どうするつもりなんだ? 魔王は消えたってのに、これじゃヤツがいた頃と変わらなくなるぜ』

?「お前さん…じゃない…」

?’『だがもうお前は勇者でもないだろーが』

?’『次元の狭間に肉体が閉じ込められて、魔力をこねくり回して作った人形の姿じゃないと地上にはいられねえんだ』

?「…ただの小童でいい。…そっちはただの、亡霊」

亡霊『そうきたか』

小童「…」

 ブゥン
 バシュンッ


676 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:38:45.34 ID:

 バシュン

小童「魔王がいないと、人は人同士で争う…」

亡霊『まあ争いってのは程度の差があれ誰でもやっちまうもんさ』

小童「隠居が魔王をしていた頃が本当に幸せだったなら…」

亡霊『少なくとも平和そうに俺の目には見えていたな』

 バサッ

 小童は覇獣のコートを身にまとった!

小童「僕が、勇者と魔王を永遠に生み出し続ける…」

小童「魔王が現れ、勇者が生まれ落ち、魔王は倒され、勇者は新たな魔王に破れ、新たな勇者が再び魔王を討つ…」

小童「そうして世界に永遠の循環をもたらせば、仮染めの平和は維持される」

小童「僕が永遠の世界の基になって、勇者と魔王を導き続ける」


677 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:40:08.49 ID:

亡霊『小童…お前は神でも気取るつもりか?』

小童「…神様じゃない」

小童「きっと…魔王よりもタチが悪い存在…」

小童「これからの平和な時代の…全ての元凶――」

 スッ

亡霊『何だ、こっから先は俺抜きか?』

小童「亡霊は亡霊らしく、生きてる人間といる方がいいと思う」

亡霊『はぁ…退屈しないヤツが俺を見つけてくれればいいんだがな』

亡霊『だがまあ、お前がこれからすることは遠くから眺めててやるよ』

小童「…ありがとう…今まで」

亡霊『行ってこい。二度と会えない別れなんて、今さらだから惜しまなくてもいいだろ』

小童「…さよなら」





 王歴205年――。
 地上に新たな魔王が現れた。

 そして、この時より永遠に続く勇者と魔王の戦いの歴史が始まった。

678 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 16:41:32.34 ID:8N6c+yZyo

大好きだ

679 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 16:41:42.83 ID:

くぅ疲
以上です

何か説明不足だったりの感もいなめないので、
分かんないこととかが、もしもあったらお答えしますよー


681 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 16:47:14.75 ID:xIhTSsJLo
面白かった乙

684 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 17:07:03.70 ID:+eY6KWECo
乙なんだよ
完結しちゃうと寂しいなあ

686 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 17:28:21.94 ID:8N6c+yZyo
二代目の魂は救われない感じ?

687 : ◆3ZxXgUosIQ : 2014/09/08(月) 17:47:15.74 ID:
>>686
二代目は別に魔王に食べられてはないんで
そのまま無念とかはあるだろうけど天に召されてますね
魔王が食べちゃった初代と剣士に関しては
天に召されなかったんで最後に3代目が解放してあげてちゃんと天にかえれましたよって
そんな感じです

688 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 20:10:32.24 ID:O4imcBq+O
素晴らしかった
>>1乙

680 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします : 2014/09/08(月) 16:44:56.99 ID:fgQt1Ijlo


さ、次の50年いってみようか(ゲス顔)