371 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 04:57:08 yXbM2XqE
※前スレ→勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」




勇者「なあ戦士」

戦士「なに?」

勇者「あのまま、赤ローブを捕まえてもよかったんじゃないか?」

戦士「一瞬やりあっただけでわかった。アレは危険だよ」

勇者「……まあ、それもそうか」

戦士「とにかくここから脱出すれば、魔術が使えるんだ」

勇者「そうだな。さっさと脱出したほうがいいな」
no title

372 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 04:58:08 yXbM2XqE
勇者(ん?  なんか音が……)

戦士「気づいたかい?」

勇者「ああ、なにかがオレたちを追っかけてきてる」

戦士「この通路に入れば、牢獄に戻るはず」

勇者「見張りとかはどうするんだよ?」

戦士「看守とかは、中にはいないかも」

勇者「どういうことだ?」

戦士「話はあと!  とにかくここを脱出する!」

373 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 04:59:14 yXbM2XqE
勇者(そうしてオレたちは、なんとか牢獄から脱出した)


戦士「よし、これで魔術プロテクトが消えた……勇者くん?」

勇者「あ、あぁぁ……」


勇者(なんだこの感覚……いや、これはさっきアイツに捕まったときにも……)


戦士「どうしたの?  どこかおか……」


勇者(全身が沸騰する……魔力が……自分の中で暴発するような……)

374 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:00:15 yXbM2XqE



??「本来なら彼の潜在能力を少しずつ覚醒させてくつもりでしたが……」


??「これ以上手間をかけるのも面倒です」


??「魔術プロテクトのない空間で、暴発させてしまいましょう」


??「彼が暴走したところで私が……」


??「……! この感覚は――」


??「まさか、彼が来ている?」


??「……予定変更か。今日のところはひくとしましょう」

375 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:01:16 yXbM2XqE



勇者「はぁはぁ……あ、つぃ……」

戦士「魔物が追いかけてきた!  勇者くん!」

勇者「……お前、だけでもいい……逃げろ…………」

戦士「さすがにそこまでバカな発言されると、ボクも困るよ」

勇者「う、るせ……」


勇者(なんて、数の……魔物だ……コイツら全部研究所の…………)


 すべての音が遠ざかっていく。戦士がなにかを叫んでいる。
 いつか魔界でケルベロスに殺されそうになったときの感覚が蘇る。
 あの得体の知れない力に全身を支配される恐怖。


勇者(や、めろ――)


 首筋に違和感を覚えたのと、誰かの声が鼓膜を叩いたのはほとんど同時だった。

376 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:02:13 yXbM2XqE
勇者「ぁ……」


 不意に視界が鮮明になって、全身の血が沸騰するような感覚が消え失せる。


   「大丈夫ですか……勇者様」


勇者「や、くし……?」


 たしかに彼女の声がした。いや、彼女の声だけではない。


勇者(僧侶?  それに、魔法使いも…………)


 視界がどういうわけか、傾いていく。
 目の前に石畳の地面が迫ってくる。なにかが地面に投げ出される音が聞こえた。


勇者(みんな……)


 やがて勇者の意識は闇に溶けていった。

377 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:03:13 yXbM2XqE



勇者『魔王を倒したそのあとのこと?』

戦士『そう。お前、なんかプランあんのか?』

勇者『ない』

戦士『即答かよ。将来の展望とかねえの?』

勇者『今のところはない。それより生きて帰れるのかって話だ』

戦士『お前、つまんねえなあ』

勇者『魔王を倒すこと以外、考えられないのかもしれない』

戦士『なんだお前。プレッシャー感じてんのかよ』

勇者『お前はなにも思わないのか?  もし俺たちが魔王を倒せなかったら……』

戦士『わぁってるっつーの!』

378 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:04:14 yXbM2XqE
戦士『でもよ。俺ら四人の肩に、世界の命運がかかってるとか言われてもなあ』

勇者『旅をしてずいぶん経ってるのに、まだそんなことを言ってるのか』

戦士『つーか、軍とかも協力してくれてもよくね?』

勇者『軍は戦争、魔物の討伐、街の警備で手一杯だって説明されただろ』

戦士『わかってて言ってんだよ』

勇者『俺たちは言ってみれば暗殺者だ。大人数で行動する必要はない』

戦士『俺らが旅に出るときにはパレードもできてたのに、暗殺者ねえ』

勇者『それがどうした?』

戦士『矛盾してね?  それに、姫が誘拐されてからの一連の流れが、早すぎる気がするぜ』

勇者『それだけ迅速な行動が、求められる事態だったんだ』

379 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:05:16 yXbM2XqE
戦士『俺たちゃ魔王を倒すための兵器じゃねえ。普通の人間だ』

勇者『普通の人間、か』

戦士『ちげーのかよ?』

勇者『いや……そのとおりかもしれない』

戦士『教会送りにされて思ったわ。やっぱり死ぬのはイヤだ』

勇者『そうだな』

戦士『……俺、旅を終えたら店を出してえなって思ってんだ』

勇者『店? なんの店だ?』

戦士『そういう細かいプランはまだない。
   けど、将来的にはカワイイ嫁さんもらって、子どもは……何人がいいかね?』

勇者『知らん。
   ……将来、か』

380 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:06:17 yXbM2XqE



勇者「……ぅっ」


勇者(またあの夢だ)


竜人「目が覚めましたか?」

勇者「……竜人?  ここはどこだ?」

竜人「個人経営の病院です」

勇者「病院……って、なんでオレが病院にいるんだ!?」

竜人「落ち着いてください。覚えてないんですか?」


勇者(オレは竜人からこれまでの経緯を簡単に説明してもらった)


勇者「オレが意識を失ったあと、みんなが駆けつけてくれたってことか」

竜人「それで、念のために国が関与していない病院へ搬送されたわけです」

381 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:07:18 yXbM2XqE
竜人「丸二日ほど勇者殿は眠っていたんですよ」

勇者「二日も!?」

竜人「ええ」

勇者「みんなは……そうだ、薬師は!?」

竜人「彼女なら昨日、退院しましたよ」

勇者「退院?  じゃあ、薬師は助け出されたのか!?」

竜人「ええ。実は……」

382 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:08:25 yXbM2XqE





魔法使い『ゴーレムが、消えた』

?『くっ……』

王『魔力切れか?  おサムいねえ』

?『なぜキサマがここにいる……!』

王『お前こそなんで泥遊びしてんだ?  俺相手にこんなチンケなもんが通じるとでも?』

僧侶『なぜ陛下がここにいるのですか?』

王『いくらでも話してやるよ。コイツを牢獄にぶちこんだあとでな』

?『……私を牢獄にぶちこむ、か。これを見てもそんなことが言えるかなあ?』

竜人『あれは……』

僧侶『薬師!』

薬師『……』

383 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:09:27 yXbM2XqE
?『指ひとつでも動かしてみろ。この女を殺すぞ』

王『うわあ、人質かよ。ますますおサムいねえ』

?『……動くなと言っているのがわからないのかっ!  この女を……』

僧侶『へ、陛下!?』

王『うるせえなあ。俺は動いたぞ? 殺せよ』

?『……なん、だと?』

王『お前がその女を殺す。そして俺がお前を殺す。わかりやすくていいじゃねえか』

?『ぐっ……』

王『こういう状況で本当に助かりたいなら、普通に逃げたほうがいいんだよ』


 王が唇のはしを釣り上げた、と思ったときには、すでに『それ』は起きていた。


王『つまり、お前は助からない』

384 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:10:28 yXbM2XqE
?『かはっ……!?』


 赤ローブのひざが崩れ落ちる。
 王がなにかをした、ということだけは僧侶にもわかった。


王『ほれ、終わったぞ』

竜人『え……』


 すでに王の腕の中には薬師がいた。


僧侶『い、いったいなにを……!?』

王『驚きすぎだろ。あのローブの馬鹿の腹に、空気の塊をぶつけてやっただけだ』

僧侶『ではどうやって薬師を……』

王『べつに。今のでスキができたんで、普通に取ってきたぞ』

僧侶『取ってきたって……』

385 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:11:34 yXbM2XqE
王『それより薬師はどうなっている?』

僧侶『そうだった……魔法使い、わかるか?』

魔法使い『…………』


僧侶『(魔法使いが薬師を調べた結果、傷口が塞がれたあとがあったらしい)』


魔法使い『……傷口自体は、自力でどうにかしたのかもしれない。
     それから、治癒の魔術の類を、浴びている可能性がある』

王『回復系の魔術か?  今どきそんなのが使える人間がいるんだな』

魔法使い『いないことも、ない』

僧侶『とにかく病院へ運ぼう。それと、陛下……』

王『まあお前らがなにを考えているかは、だいたいわかる』

僧侶『いえ、わたくしは混乱していて。なにがなんだか……』

王『お前らに監視をつけてただろ。ソイツから聞いてここに駆けつけたんだ』

386 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:12:35 yXbM2XqE
僧侶『では、公務の最中である陛下が……』

王『どうやってお前らを助けに来たのかって?』

僧侶『……そうです』

王『俺の代わりに影武者が働いているさ』

魔法使い『……影武者』

僧侶『無礼を承知で質問を……』

薬師『う、ぅん……』

魔法使い『……!』

僧侶『薬師!』

薬師『……ぁ、みなさん?  えっと……』

僧侶『(私たちは意識を取り戻した薬師に、簡単な状況説明をした)』

387 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:13:36 yXbM2XqE
薬師『本当にみなさん、ありがとうございました』

僧侶『礼はいい。それより、からだは大丈夫なのか?』

薬師『……そう、ですね。少し目まいと痛みがありますが、大丈夫です』

王『……まずいな』

竜人『どうしました?』

王『断言はできないが、勇者の身になにか起きているかもしれない』

魔法使い『……暴走?』

王『わからん。とりあえず質問はあとにしろ。
  お前らここまではどうやって来た?」

僧侶『歩きと魔法陣です』

王『じゃあその魔法陣のところまで案内しろ。急げ』

388 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:14:33 yXbM2XqE



竜人「で、ちょうどあの場に駆けつけたわけです」

勇者「そうだったのか。でもよかった、みんな無事で」

竜人「みなさん、もうバリバリ働いていますよ」

勇者「そうなのか?」

竜人「戦士殿は調査に駆り出されています。薬師殿も退院して取り調べを受けています」

勇者「大丈夫なのか、薬師は」

竜人「詳しくは知りませんが、大丈夫だと思います。
   今は手が空いている者が、私しかいない状態なんです」

勇者「オレもいつまでも、こうしちゃいられないな」


 コンコン


竜人「……誰か来たみたいですね」

389 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:15:39 yXbM2XqE
老人「失礼するぞ」

竜人「……すみませんが、どなたですか?  勇者殿の知り合いですか?」

勇者「ううん、知らない」

老人「まあとりあえず、入らせてもらうよ」

竜人「ご老人、勝手に入られては……」

老人「ていうか、わかれよ。オレだ、オレ」


勇者(次の瞬間。急にそのジイさんの姿が変わった)


勇者「お、王様!?」

王「老人にはちがいないが、他人から言われるのはムカつくぜ」

竜人「な、なぜあなたがここに。それに今のはいったい……」

王「言ってないっけ?  メタモルフォーゼの能力について」

390 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:16:36 yXbM2XqE
王「まあ、そんなことはどうでもいい。竜人、悪いが部屋の外で見張りを頼む」

竜人「はあ……わかりました」

王「悪いな。……で、勇者よ。体調のほうはどうだ?」

勇者「うーん、たぶん大丈夫だと思うけど」

王「そいつはよかった。これ、見舞いのフルーツだ」

勇者「あ、どうも。ていうかなんで王様がこんなとこに?」

王「だから見舞いだって言ってんだろうが」

勇者「そうじゃなくて。仕事とかは大丈夫なんですか?」

王「優秀な部下がいるからな。あと、お前と話しておきたいこともある」

391 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:17:43 yXbM2XqE
王「話は戦士から大まかにだが、聞いた。だがお前の話も聞いておきたい」

勇者「なにを?」

王「赤いローブの男に捕まったときに、なにをされたのか」

勇者「正直よくわからなかった。けど……」


勇者(オレはあのときのことを、そのまま話した)


王「……お前の力を引き出そうとしていた、か」

勇者「オレの力の覚醒がどうとか、よくわからないことを言っていた」

王「敵がなにを考えているのか、完全にはわからんな」

勇者「でも、アイツはオレのことを知っている。たぶん、オレ以上に」

王「そうだな。そして、ひとつはっきりしたことがある」

王「今回の一連の騒動の狙い。それはお前だったんだ」

392 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:18:44 yXbM2XqE
勇者「オレ?」

王「敵はお前の中に眠る力を、奪取しようとしている」

勇者「オレの中に眠る力……」


勇者(魔界で何回か、急に強くなったりしたことがあったな)


王「以前、教会でサイクロプスとやりあっただろ?」

勇者「はい」

王「あのときも赤ローブから、変なことされたろ?」

勇者「そういえば、あの牢獄のときと同じようなことをされた」

王「今回の事件で、敵の目的のひとつにお前が入っていることが確定した」



王「で、ここからが本題だ」

393 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:19:40 yXbM2XqE
王「お前。この国を出てどっかに逃亡しろと、俺が言ったらどうする?」

勇者「は?」

王「お前が消えれば、少なくとも敵の目的のひとつは、潰せるだろうからな」

勇者「そんなの絶対ダメだ!」

王「なんでだ?  今よりずっと安全になるのに」

勇者「それってみんなを見捨てるってことだろ?」

王「べつに逃げたって、誰もお前を責めたりしないと思うけどな」

勇者「イヤなんだ」

王「逃げるって行為がか?」

勇者「ちがう。オレはバカだし、みんなより今回のことも理解できていない。
   でも、そんなオレでも少しわかった。人が死ぬってどういうことか」

394 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:20:42 yXbM2XqE
勇者「薬師が血だらけでたおれてるのを見て、本気で怖いって思った。
   心臓を鷲掴みにされたみたいな気持ちになった」

王「……それで?」

勇者「仲間があんなふうになるのはイヤだ。あんな思いは二度としたくない」

王「次はお前があの女みたいになるかもしれないぞ」

勇者「そうだとしても、オレは戦う」

王「……じゃあ好きにすればいい。だがな」

勇者「?」

王「お前が味わった思いを、お前の仲間も味わうかもしれない。わかってるか?」

勇者「……!」

王「好きにしろ。だが、自分の行動がどんな結果をもたらすのか、しっかり考えるんだな」

勇者(……)

395 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:21:48 yXbM2XqE



竜人「お話はもうよろしいのですか?」

王「ああ。ありがとな」

竜人「いえ。……ひとつ、私から質問させてもらってもいいですか?」

王「ひとつだけな」

竜人「ありがとうございます。
   私が聞きたいのは、陛下と我が国の元皇帝の関係についてです」

王「関係?」

竜人「ええ」

王「逆にお前はどこまで知っている?  俺とあの女の関係を」

竜人「ほとんどなにも」

王「そうか。まあ俺とあの女は深い関係ではない」

竜人「そうなのですか?」

396 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:22:43 yXbM2XqE
王「ああ。ただ、俺もあの女も運良く実験に成功して生き延びた」

王「たしか、あの女の方が四、五年早く生まれていたはずだ」

王「だから、あの女には色々と教育を受けた」

王「とにかく真面目な女だった。俺とは正反対だったよ」

王「『災厄の女王』の役に立ちたかったのか、なんなのか知らんがな」

王「俺はな、あの災厄が起こったあと逃げ出したんだ」

王「本能的にあの場所から逃げりゃあ、自由を手に入れられると思った」

王「阿鼻叫喚の街を抜け出して、あとはずっと放浪の旅をしていた」

王「そして今さらになって戻ってきた」

王「魔王として生きたあの女とは、えらいちがいだろ?」

397 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:23:50 yXbM2XqE
竜人「真逆、ですね」

王「だからそんな関わりがあるわけでもない。
  あの女が魔界に行ってから、何回か手伝いじみたことはしたけどな」

竜人「なぜあなたは今になって、国王になったのですか?」

王「それについては……勘弁してくれ。話すつもりはない」

竜人「わかりました」

王「ただ、自分で言って悲しくなるが、みすぼらしい生活をずっと送っていたんだ」

竜人「なぜですか?」

王「機関に見つからないようにたえず移動してたからな。常に金に困ってた。
  金のためにドブさらいだとか、監獄の掃除とか、そんなのばかりやってたぜ」

竜人「苦労してるんですね」

王「単なる自業自得だ」

398 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:24:59 yXbM2XqE
王「しかし旅のおかげで、様々な人脈もできた。こんなとこでいいか?」

竜人「はい。貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございました」

王「謎だらけの魔王の正体、気になるわな」

竜人「……謎多き人でした。最初は皇帝だと教えられても納得できませんでした」

王「今でもできてないんだろ?」

竜人「そう、かもしれませんね」

王「だが、お前らの皇帝は女傑と呼ぶにふさわしい存在だった。俺とちがってな」

竜人「ええ。我らが偉大なる魔王様です」

王「……っと、そろそろ行かないとな。悪いが、あの馬鹿の面倒を頼んだ」

竜人「了解しました」

399 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:26:05 yXbM2XqE



竜人「なにをやってるんですか、勇者殿?」

勇者「見りゃわかるだろ。着替えてんだよ」

竜人「まだ入院中ですよ」

勇者「退院する」

竜人「退院するって、まだ診察もなにも受けていないのに」

勇者「わかってる。でも、オレは強くならなきゃいけない。寝てる場合じゃない」

竜人「訓練でもしに行くんですか?」

勇者「そうだ」

竜人「一朝一夕で強くなれるとでも?」

勇者「そんなこともわかってる……っ!  けど、なにもしないよりはいいだろ!?」

400 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:27:01 yXbM2XqE
竜人「落ち着いて考えてください」

勇者「オレなりに考えてる!」

竜人「本当ですか?」

勇者「……」

竜人「訓練よりも先にやるべきことがあるでしょう?」

勇者「だけど……みんな頑張ってるのに……」

竜人「焦る気持ちはわかります。ですが、冷静になってください」

勇者「……冷静に、か」

竜人「今とるべき最善の行動がなにか、勇者殿ならわかるでしょう?」


王『自分の行動がどんな結果をもたらすのか、しっかり考えるんだな』


勇者「……そうだな」

401 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:28:02 yXbM2XqE
勇者「まずはきちんと診察を受けて、万全の状態にしなきゃな」

竜人「ええ」

勇者「じゃあさっそくお医者さんのとこに行ってくる!」

竜人「いやいや。私が呼んできますので寝ていてください」

勇者「そうか? 悪いな」

竜人「構いません。あの方に頼まれていますしね」

勇者「あの方?」

竜人「なんにもです。では、行ってきます」

勇者「竜人」

竜人「なんですか?」

勇者「その……ありがと」

竜人「ふっ、どういたしまして」

402 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:29:03 yXbM2XqE





戦士「……っ!  ね、寝てた!?」

僧侶「目を覚ましたか?」

戦士「えっと……どれぐらい寝ていた?」

僧侶「ざっと一時間ぐらいだな」

戦士「ごめん。で、例のものは見つかったかい?」

僧侶「それが……すまないが、どこに片付けたかわからないんだ」

戦士「まあこの部屋から、ものを探すのは大変だろうね」

僧侶「……暇ができたら片付けておく。あと、冒険の書も探しておく」

戦士「急に押しかけたうえに、寝させてもらって悪かったね」

僧侶「それは構わないが、お前が居眠りなんて珍しいな」

403 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:30:10 yXbM2XqE
戦士「この二日間はほとんど寝てないからね」

僧侶「取り調べを受けて調査もして……大丈夫なのか?」

戦士「気になることが多くてね。落ち着いて眠ることもできない」

僧侶「寝てたぞ、さっき」

戦士「まあね」

僧侶「……薬師の件、それと第三番館の資料についてはどうなった?」

戦士「彼女もボクと同じで、ずっと取り調べを受けているよ」

僧侶「そうか」

戦士「でも、わからないんだ」

僧侶「敵の資料を盗んだ手段のことか?」

戦士「うん」

404 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:31:29 yXbM2XqE
戦士「盗んだタイミングも、資料を外に持ち出した手段も、密室のトリックも。
   なにひとつわかっていない」

僧侶「薬師はなにか知っていないのか?」

戦士「そっちにはまだ聞けてないんだよ」

僧侶「あと、犯人の候補としてあげられるのは職員だけか」

戦士「そうなるね」

僧侶「だが、密室は単純に鍵がかけられていた、とかじゃないのか?」

戦士「南京錠は外に落ちていた。
   それに、その南京錠は室内ではかけられない魔術細工が施されてるらしい」

僧侶「でも南京錠を通すための鍵穴はあるんだろ?  代わりのものを通せば……」

戦士「それらしきものは見つかってないんだ」

僧侶「そっちは手詰まりってことか」

405 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:32:30 yXbM2XqE
戦士「ただ、今回の件で敵も手痛い損失を出している」

僧侶「捕まった赤ローブのことか?」

戦士「そう。尋問で、例の宗教団体が調べていた教会をほぼ洗い出せた」

僧侶「……普通の尋問ではないんだろうな」

戦士「まあ色々と特殊な尋問だよ」

僧侶「とにかく敵の狙いの教会が、絞りやすくなったってことか」

戦士「うん。ボクは教会について知ることが、謎の解明の一番の近道だと思ってる」

僧侶「どういうことだ?」

戦士「ほら、以前に勇者と魔王の争いの仕組まれたワケについて話したでしょ」

僧侶「ああ」

戦士「そして勇者一行は、必ず教会送りになっているという共通点を見つけた」

406 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:33:37 yXbM2XqE
戦士「このことから、ボクはずっと教会について調べていたんだ」

僧侶「あれから、なにかわかったのか?」

戦士「魔王から受け取った資料を調べていてね。五百年前の災厄のことなんだけど」

戦士「あれが仕組まれたものである、という確信を得た」

僧侶「やはりあの災厄は、実験失敗による事故ではなかったってことか」

戦士「うん。そもそも少し考えればわかることだよね」

戦士「国が混乱する数の魔物がいっせいに暴れだすなんて、作為的なものに決まってる」

戦士「そして、これがボクの推測を裏付ける資料だ」

僧侶「……魔物開発プロジェクトの記録か」

戦士「実は災厄が起きる直前に、一度かなりの数の魔物が暴走したという記録がある」

僧侶「……その魔物が、処理されたという記録がないな」

407 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:34:56 yXbM2XqE
戦士「しかも国が作り出した魔物なら、なおさら処分しなきゃまずいのにね」

僧侶「だが、この災厄と教会の関係が私にはわからないんだが」

戦士「あの災厄以降、大量の魔法使いが異端審問局によって処刑された」

戦士「さらに人体に直接影響を与える魔術の禁止」

戦士「災厄とこれらのことによって、教会の権威は著しく落ちた」

僧侶「たしかに……」

戦士「そしてあの災厄以降、新しい勇者は生まれていない」

僧侶「つまりお前は、あの災厄と勇者と教会に関連性があると考えているわけか」

戦士「そういうこと」

408 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:35:53 yXbM2XqE
僧侶「今のところ私は自宅待機だから、できる範囲で教会について調べておく」

戦士「それはありがたいんだけど……」

僧侶「なんだ?」

戦士「まずは部屋の片付けをきっちりして、冒険の書を見つけてほしいなあ」

僧侶「……言われなくてもわかっている」

戦士「あっ、ちなみに勇者くんには黙っておいてあげるよ」

僧侶「……う、うるさい。さっさと仕事へ行け」

戦士「ははは、それじゃあオジャマしましたー」

409 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:36:54 yXbM2XqE




勇者「つまり、えっと……」


コンコン


勇者「はい! 入ってどーぞ!」

魔法使い「……元気?」

勇者「魔法使い」

魔法使い「お見舞いに来た。これ、見舞いの品」

勇者「おっ、サンキュー」

魔法使い「……なに、してるの?」

勇者「今まであったことを紙に書いてまとめてたんだ」

魔法使い「どうして?」

勇者「自分のやるべきことがなんなのか、わかるかなって思ってさ」

魔法使い「そう」

410 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:37:55 yXbM2XqE
勇者「やっぱり盗まれた資料について調べるのが、一番の優先事項かな。
   そうだよ、あの捕まえた赤ローブから話を聞けないのか?」

魔法使い「……無理」

勇者「なんで?  アイツならなにか知ってるだろ?」

魔法使い「尋問では、その部分は答えない」

勇者「あの図書館の関係者を調べたりするしか、解決手段はないってことか」

魔法使い「うん」

勇者「……でも。敵のスパイがいるかもしれないんだろ?  それを見つけ出せば……」

魔法使い「……あなたたちを捕まえた、警備兵をはじめとする監獄の看守は。
     ほぼ全員殺された」

勇者「そんな……」

魔法使い「おそらく、看守の中にも、敵の間諜がいたのは、間違いない」

411 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:39:01 yXbM2XqE
勇者「全員スパイだったのか?」

魔法使い「……ちがう。スパイを特定されないための、措置だと思われる」

勇者「じゃあ、オレと戦士が牢獄から脱出したとき、誰にも会わなかったのは……」

魔法使い「その時点で、すでに殺されていた」

勇者「……」

魔法使い「敵は、徹底している」

勇者「そうだな。それに、資料を盗まれた方法の特定は、難しそうだ」

魔法使い「うん」

勇者「じゃあ王様に頼んで、あの第三番館を調べさせてもらうのはどうだ?」

魔法使い「……不可能」

412 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:40:02 yXbM2XqE
魔法使い「第三番館は、陛下の一存で、どうにかなる場所じゃない」

勇者「王様でもどうにもできないなんて、すごいところなんだな」

魔法使い「元老院の許可が、降りないかぎり、入れない」

勇者「ゲンロウイン?」

魔法使い「そういう組織」

勇者「ふうん。いっそのこと侵入できないかな?」

魔法使い「……勇者は容疑者候補。危険」

勇者「そういえばオレ、一回捕まってるんだよな」

魔法使い「そうじゃなくても、今は、警備が大幅に強化されている」

勇者「これも現実的じゃないか」

413 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:41:03 yXbM2XqE
勇者「ほかにできそうなことは……」

魔法使い「その前に、これ」

勇者「なんだそのノート?」

魔法使い「……薬師がつけた勇者の、旅の記録帳」

勇者「そういえば、話してたな」

魔法使い「念の為に記録があっているか、確認してほしい」

勇者「どれどれ……」

414 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:41:58 yXbM2XqE
勇者「うーんと、最初の一週間は特記事項なし」


勇者「その後は……結構な量の文章だな」


勇者「二週間目あたりから、魔力が暴走することがあった。回復力が凄まじい」


勇者「……そういえばそうだったかな」


勇者「で、それ以降から若干情緒不安定。情緒不安定、オレが?」


勇者「言われてみると旅の途中では、なんか変だったかもな」


勇者「しかし二ヶ月目以降は、その傾向も見られなくなる」


勇者「以降は、魔力の暴走などもなくなる」


勇者「その代わり、傷の治癒が以前より遅くなったりしている」

415 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:42:59 yXbM2XqE
魔法使い「内容は合っている?」

勇者「たぶん。薬師がつけた記録だし間違いはないと思う」

魔法使い「……これは、戦士に渡しておく」

勇者「ああ、頼んだ」


コンコン


勇者「またお見舞いかな。はーいどうぞー」


薬師「……どうも」


勇者「薬師……!」

薬師「意識を取り戻されたんですね、勇者様。本当によかった」

勇者「……」

薬師「どうしました、私の顔になにかついてますか?」

416 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:44:00 yXbM2XqE
勇者「いや、その……本当に薬師は無事だったんだな、って」

薬師「本当に申し訳ございませんでした、勇者様」

勇者「な、なんで頭下げるんだよ?」

薬師「私のせいで勇者様と戦士様には、大変な迷惑をかけてしまいました」

勇者「なに言ってんだよ、それは敵のせいだろ?」

薬師「いいえ。私がもっとしっかりしていれば、こんなことにはなりませんでした」

勇者「……」

薬師「資料が盗まれることも……」

勇者「…………。
   お前がたおれてるのを見たとき、本当に息ができなくなったと思った」

417 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:45:01 yXbM2XqE
勇者「……もしかしたら、今回のことにで薬師を責める人も、いるかもしれない」

勇者「でもオレは、薬師が生きているってわかって本当に安心したし、嬉しかった」

薬師「勇者様……」

勇者「責任がどうとかよりも、とにかくオレは薬師が生きてたからいいかなあ、って」

薬師「でも……」

勇者「オレも戦士も無事だったし。結果オーライだろ?」

魔法使い「うん、結果オーライ」

薬師「……ありがとうございます、ふたりとも」

勇者「それに今度はオレが薬師を守ってみせる、絶対に」

魔法使い「……また守られる、可能性もあるけど」

勇者「それは否定できないな」

418 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:46:07 yXbM2XqE
薬師「……ふふっ、ありがとうございます。少し、元気をもらいました」

勇者「みんなで協力して、真勇者も、薬師をあんな目にあわせたヤツも必ず捕まえよう!」

薬師「はい……!」

魔法使い「気合が、空回りしないように」

勇者「わかってるよ」

魔法使い「……本当に?」

勇者「……たぶん」

薬師「クールな勇者様っていうのも、想像つきませんけどね」

魔法使い「たしかに」

勇者「クール……」

419 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:47:03 yXbM2XqE
魔法使い「……取り調べは?」

薬師「ちょうど一段落したところです」

勇者「やっぱりしばらくは、ずっと取り調べは続くのか?」

薬師「はい。あの難攻不落の第三番館から資料がなくなるなんて前代未聞ですから」

魔法使い「……勇者も退院すれば、おそらく延々と、取り調べを受けるハメになる」

勇者「うげえ、やっぱそうなるのか」

薬師「戦士様も私と同様に、ずっと取り調べを受けています」

勇者「これもあの赤ローブのヤツらのせいだよな……ん?」

薬師「どうしました?」

勇者「……スパイがいたんだよな?」

魔法使い「そう」

420 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:48:05 yXbM2XqE
勇者「だったら敵のスパイって、教会にも侵入してる可能性はないか?」

薬師「……どういうことですか?」

勇者「敵はずっと教会を調べてるだろ?  だったら、この街の教会も調べるだろ?」

薬師「なるほど」

魔法使い「……敵が調べた教会は尋問のおかげで、判明しているはず」

勇者「この街の教会を調べたかどうかもわかってるのか?」

魔法使い「おそらく、まだ。……戦士にいちおう、伝えておく」

勇者「おう」


竜人「勇者殿」


勇者「おっ、竜人。どこ行ってたんだよ?」

421 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:49:12 yXbM2XqE
竜人「少々街へ息抜きへ行ってました。
   ……ああ、薬師殿と」

薬師「……どうも」

魔法使い「……」

竜人「魔法使い殿……」


勇者(やっぱり竜人は、魔法使いに怯えてるように見えるんだよなあ)


竜人「勇者殿、これを市警から回収してきました」

422 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:50:12 yXbM2XqE
勇者「オレの剣だ。そういや捕まったときに取られたんだよな。ありがとな」

竜人「礼には及びません」

魔法使い「……竜人」

竜人「な、なんでしょうか魔法使い殿?」

魔法使い「勇者。薬師。私と竜人は、お暇する」



勇者(魔法使いは病室を出る直前、唇の動きだけで「お楽しみに」とオレに言ってきた)

勇者(なにが『お楽しみに』なんだ?)

423 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:51:14 yXbM2XqE
勇者「急に帰っちゃったな、あのふたり」

薬師「なにか用事があったのかもしれませんね」

勇者「……髪、すごい短くなったな」

薬師「ええ、切られちゃいましたから。おかげで、らくになりましたけどね」

勇者「……そっか。それにしてもやっぱり、お医者さんは忙しいみたいだな」

薬師「街に魔物が現れたせいで、怪我人も出ましたから……魔物はやはり恐ろしいです」

勇者「でもあの魔物たちは普通じゃないんだろ?
   今の魔物は人を襲わないんだし」

薬師「はたしてどちらがおかしいんでしょうか?」

勇者「……え?」

薬師「本来の魔物は人の脅威になる存在のはずです。今の状態はむしろ異常です」

勇者「たしかに昔はそうだったけど……」

薬師「魔物は危険な存在です。今の人たちは、そのことを忘れています」

424 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:52:20 yXbM2XqE
薬師「街の市警だって対応が遅すぎます。
   もっと早く対応できていれば、被害はもっと小さくできたはずなんです。

勇者「それはそうかもしれないけど」


薬師「今の魔物の姿というのは、あるべき姿から外れているんです」

薬師「昔とは真逆になっていると思いませんか?」

薬師「魔物が危険なものと教えられた昔と今では、人々の認識に差があると思います」


勇者「たしかに魔物は危険な存在かもしれない」

勇者「でも、魔物だって生きてるし」

勇者「魔界にいた魔物たちは、オレたちと大きなちがいはないように思えたよ」


薬師「……すみません。私、少し疲れているのかもしれません」

勇者「薬師……」

425 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:53:22 yXbM2XqE
薬師「実は陛下から、今回の任務から降りてもいいと言われたんです」

勇者「薬師もだったのか」

薬師「勇者様も同じことを言われたのですか?」

勇者「結局断ったけどな」

薬師「勇者様は、例の赤ローブのグループと戦う、ということですね?」

勇者「もちろん。逃げるつもりはない」

薬師「……もし、ですよ」

勇者「ん?」

薬師「私が勇者様に、どこかへ逃げてほしいって言ったらどうしますか?」

勇者「……どうするかな」

426 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:54:18 yXbM2XqE
薬師「勇者様が逃げないという選択肢をとる、ということはわかってます」

薬師「でも、誰かに命を狙われたから逃げるというのは、普通のことだと思います」

勇者「逃げる、か」

薬師「はい。逃げてくれませんか?」

勇者「……王様には、みんなを守るために戦うって言ったんだ」

勇者「でも今になってわかったんだ。それだけじゃないって」

薬師「ほかになにか目的があるんですか?」

勇者「もしかしたら、オレ自信の秘密を知ることができるかもしれない」

勇者「赤ローブのひとりに、オレの秘密を知っているヤツがいる」

薬師「その人を捕まえたい。そういうことですね?」

427 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:55:19 yXbM2XqE
勇者「うん。自分勝手な理由だとは思う。
   でも、できるならオレは自分のことを知りたいんだ」

薬師「……なにを言っても、引く気はないってことですね」

勇者「うん。オレは戦うよ」

薬師「わかりました。……私も戦います」

勇者「おう!」

薬師「でもその前に」

勇者「なんだよ?」

薬師「まずはきちんと検査を受けて、退院してくださいね」

428 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:56:25 yXbM2XqE





???「まだ生きていましたか」

?「……お前か」

???「無様ですね。敵に捕まり、むざむざと情報を垂れ流しにするなんて」

?「キサマのせいでもあるんだぞ」

???「私はあなたの策に協力しただけです」

?「……だが、まだこちらが手をつけた教会についてしか、口を割っていない」

???「薬と魔術による尋問とはいえ、それぐらい耐え抜いてもらわないと困ります」

?「いちいちうるさい女だなあ」

???「…………」

?「それより、ここから出してくれないか?  そのために来たんだろ?」

429 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:57:21 yXbM2XqE
???「……」

?「おいおい、まさか私にイヤミを言うためだけに、看守殺してここに来たのか?」

???「私がそんな酔狂な人間だと思いますか?」

?「……だったら早く出してくれ」

???「ええ。わかりました」

?「まったく。だいたいなぜ私がこんな目に……ぅっ!?」

???「…………」

?「かはっ……きっ、きさ、ま……な、なにをした……?」

???「ここから出たいのでしょう?」

?「な、なにを……なにを、言っている…………!?」

???「肉体を捨て、魂となればここから出られるでしょう」

430 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:58:21 yXbM2XqE
?「……な、なぜ……なぜだっ!?」

???「敵に情報を垂れ流すあなたを生かしておく意味が、ありませんから」

?「…………キサ、マ……薬師ぃ……!」

???「あとは私にまかせてください」



薬師「さようなら」

431 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 05:59:23 yXbM2XqE



戦士「こんな朝早くから陛下との謁見か……」


戦士(しかし、例の新興宗教団体の目的は一向にわからないまま)


戦士(赤いローブがトレードマーク)


戦士(『新興』となっているけど、いつ創立されたかは判明してない)


戦士(その理念は、魔物を滅ぼし人間だけの楽園を築くこと)


戦士(そして真勇者は、彼らとつながりを持っている)


戦士(とにかく尋問調書を見せてもらわないと)


戦士(ん?  なにか様子がおかしいな……)

432 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:00:24 yXbM2XqE



戦士(やっぱり宮廷内の様子がおかしいな)

側近「……君か」

戦士「おはようございます、先生。なにかあったのですか?」

側近「……おおっぴらには言えないが。かなりまずいことが起こった」

戦士「いったいなにが?」

側近「捕らえた例の赤ローブが、何者かに殺害された」

戦士「!」

側近「今朝冷たくなっているのを発見されたんだ」

戦士「……殺害手段は?」

側近「目立った外傷はなかったらしい。これから司法解剖が行われる」

433 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:01:26 yXbM2XqE
戦士「今朝になって見つかったんですか?」

側近「看守も全員殺害されていた。そっちも同様に目立った外傷はなかった」

戦士「……そうですか」

側近「このことは他言無用で頼むよ」

戦士「ええ。それと、頼まれていたものです」

側近「これが君のギルドの構成員の名簿だね」

戦士「はい」

側近「わかった。預かっておく」

戦士「先生」

側近「なにかな?」

434 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:02:28 yXbM2XqE
戦士「敵はやはり、味方側に潜んでいると考えるべきですよね」

側近「なにを今さら」

戦士「たとえば、陛下の側近である先生とか」

側近「……ふむ。君は僕を疑っているのか」

戦士「たとえ話ですよ」

側近「まあ僕が君の立場だったら、同じように考えるかもね。それで?」

戦士「いえ。とりあえず、カマをかけてみただけです」

側近「疑心暗鬼と警戒は似て非なるものだ。
   真実を知りたいなら、本当に疑わなければいけなものがなにか、見極めることだ」

戦士「……忠告、痛み入ります」

側近「本当に思っているんだか」

戦士「いちおう」

435 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:03:29 yXbM2XqE
側近「陛下ならすでに王の間にいらっしゃる」

戦士「先生は?」

側近「僕は僕でやることがある。この状況でやることがない人間などいないがね
   君もがんばりたまえ」

戦士「はい。では、失礼します」



戦士(……先生が裏で手を引いている可能性はある)

戦士(本当に疑うべきものか)

436 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:04:29 yXbM2XqE





王「つまり、話は側近から聞いているわけだな」

戦士「ええ」

王「それと、バカ勇者が風穴開けて見つけた研究機関についてだが」

王「お前の読みは当たっていた」

王「ウルフをはじめとする暴走した魔物の多くが、あそこに存在したものだ」

戦士「では、サイクロプスも?」

王「ああ。俺ですら存在を知らなかった場所だ」

戦士「あの研究機関、今は使われてないのでしょうか?」

王「あそこにあった薬品から推測して、使われなくなって半年前後だそうだ」

戦士「半年……」

437 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:05:30 yXbM2XqE
王「それと、これだけは許可がおりたから見せてやる」

戦士「このスティックのような、カプセルのようなものはなんですか?」

王「第三番館に入ったとき、見なかったか?」

戦士「では、これが第三番館にある資料の形なんですね」

王「ああ。人差し指サイズだから、隠し持つのは不可能ではないな」

戦士「……第三番館に入るのは、やはり不可能ですか?」

王「元老院のジジイどもの首を縦に振らせるのは、おそらく無理だ」


戦士(自分のほうがジジイじゃん)


王「今失礼なことを考えなかったか?」

戦士「気のせいでしょう」

王「……まあいい」

438 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:06:37 yXbM2XqE



僧侶「やはり、古い教会記録をさかのぼっても大した記録はなかったか」

勇者「ちっちゃい教会だったし、仕方ないんじゃないか」


僧侶(無事退院した勇者を引き連れて、私は自分の勤め先の教会に訪れた)

僧侶(今はその帰りだ)


勇者「なんで街の教会を調べなかったんだ?」

僧侶「今は一部関係者しか入れなくなってるんだ」

勇者「まあ、あんなことがあったばかりだもんな」

僧侶「私から誘っておいてなんだが、勇者は取り調べとかはないのか?」

勇者「朝から取り調べがあるはずだったけど、夜に変わった。理由は知らない」

僧侶「そうか」

439 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:07:33 yXbM2XqE
勇者「なあ、武器を変えるってどう思う?」

僧侶「剣から得物を変える気か?」

勇者「いや。参考までにさ」

僧侶「私はオススメしないな。付け焼刃の技術はすぐにボロがでる」

勇者「あー、じゃあなんか便利そうな道具は?」

僧侶「急にどうしたんだ?  武器に興味を持ったのか?」


勇者「病院にいる間、自分にできることを考えたんだ」

勇者「で、色々考えたけど最終的には強くなるしかないって結論になった」

勇者「でも急には強くなれないだろ。だから、なにかを変えようと思って」


僧侶「なるほど」

440 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:08:35 yXbM2XqE
勇者「僧侶は男顔負けの腕っぷしだけど、なんかすごい鍛え方してるのか?」

僧侶「……。私は腕力が特別秀でているわけじゃない」

勇者「あれ?」

僧侶「魔界でも説明したと思うが。私は魔力をグローブで増幅させているんだ」

勇者「それであの威力になってるのか」

僧侶「ああ。その代わり、燃費はかなり悪いけどな」

勇者「うーん。やっぱり習得は難しいよな?」

僧侶「私の場合はグローブを三、四十個ぐらい破壊したな」

勇者「そんなに!?」

僧侶「一時期、周りからグローブマニアだと思われていた」

勇者「……オレには無理そうだ」

441 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:09:42 yXbM2XqE
勇者「武器と言えば、『勇者の剣』って知ってるか?」

僧侶「おとぎ話の中の架空の剣のことだな」

勇者「実在しないのか?」

僧侶「その手の話ではよく出てくる。けど、実在するという話は聞いたことがない」

勇者「……そのさ、変なこと言っていいか?」

僧侶「へ、変なこと?」


僧侶(勇者の顔には迷いが色濃く出ていた)

僧侶(その顔は魔界でも、一度見た覚えがある)


僧侶「とりあえず話してみてくれないか?」

勇者「うん。……ときどき変な夢を見るんだ」

442 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:10:37 yXbM2XqE
勇者「夢なんだけど、誰かの記憶みたいなんだ」

僧侶「誰の記憶かはわからないのか?」

勇者「よくわからない。その誰かはひとりじゃない……と、思う」

勇者「その誰かの記憶の中で、出てきたんだ。勇者の剣の話」

僧侶「……そうか」

勇者「まあそんな気にしないでくれよ。とにかく勇者の剣の夢を見たんだよ」


僧侶(正直、なんて勇者に返したらいいのかわからなかった)


僧侶「……勇者の剣は、剣であると同時に実体をもたないなんて話も聞いたことがある」

勇者「どういうことだ?」

僧侶「決められた形がないってことだ。持ち主によって形状が変化するとか」

443 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:11:43 yXbM2XqE
勇者「でもやっぱりすごい剣なんだろうな」

僧侶「本当にあれば、だがな。それに……」


僧侶(使えるのは『勇者』のみと言われている)


勇者「それに?」

僧侶「いや……それより勇者」

勇者「どうした?」

僧侶「お腹空かないか?」

勇者「実は今日、朝からまだなに食べてないんだ」

僧侶「本当か。だったら……」


女の子「あー!  シスター!」


僧侶(なぜこのタイミングで……)

444 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:12:44 yXbM2XqE
勇者「あっ。ませてるヤツだ」

女の子「シスター、またこの変なお兄ちゃんと一緒にいるの?」

僧侶「えっと……お仕事です」

勇者「まあ仕事といえば、仕事か」

僧侶「それよりどうしてこんな山道をひとりで?」

女の子「たまにはひとりでシスターに会いに行こうと思って」

僧侶「そうだったのですか」

女の子「でも、ここで会えたし教会に行く必要はなくなっちゃった」



僧侶(そういえば、この子は図書館の前で変な男がいると言っていたな)

僧侶(もっと警戒しておくべきだったのかもしれない)

445 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:13:41 yXbM2XqE
女の子「シスターとお兄ちゃんは、仕事仲間なんだよね?」

勇者「仕事仲間、なのか?」

僧侶「簡潔に言うと、そうなのかもしれませんね」

女の子「ふーん」

僧侶「どうかしましたか?」

女の子「単なる仕事仲間相手なのに、シスターはなんだか楽しそうだなあって思って」

僧侶「……そうですか」



僧侶(たしかに。ませてるな……)

446 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:14:48 yXbM2XqE



竜人「この資料でよろしいですか?」

魔法使い「……ありがとう」


竜人(なぜ魔族であり使者である私が、こき使われているのだろうか)

竜人(しかもこの女性は口数が少ないから、なにを考えているのか読めない)


魔法使い「やっぱり」

竜人「なにかわかったのですか?」

魔法使い「……この国は災厄以降、様々な海外諸国の介入を、受けている」

竜人「しかし、現在は完全に独立しているんですよね?」

魔法使い「うん。でも、これを見て」

竜人「……国の復興関係資料ですか」

魔法使い「……私たちの国が、指揮をとっている」

447 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:15:44 yXbM2XqE
竜人「ああ、なるほど。復興指揮をとっているのは、この国ってことですね」

魔法使い「そう」

竜人「他国の人間はあくまで労働資源としてしか、使われてない」

竜人「そして現在この国は完全に独立し、魔術大国として復活している」

魔法使い「……ほかにも、気になることはある」

竜人「ふむ……って、んっ!?」


竜人(不意に足もとが光ったと思ったら、魔法陣が展開された)


竜人「なんですかこの紙は?」

魔法使い「例のサイクロプスの、解剖結果」

竜人「この手の魔術というのは便利ですね」

448 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:16:45 yXbM2XqE
魔法使い「……私たちは日陰者だから、人目につくのは好まない」

竜人(魔女狩り、か)

魔法使い「だから、ときどき退屈で、死にそうになる」

竜人「はあ」

魔法使い「だから、またあとで……」

竜人「ま、またですか!?」

魔法使い「おねがい」

449 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:17:47 yXbM2XqE
竜人「え?  いや、そのできれば……」

魔法使い「あとで、いいから。
     これは…………そっちの資料をとって」

竜人「これですか?  なにかわかったんですか?」

魔法使い「……このサイクロプス、似ている」

竜人「似ている?」

魔法使い「勇者に」

450 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:18:48 yXbM2XqE



??「あなたの正体を隠し通すのは、そろそろ無理でしょうね」

薬師「そうかもしれません」

??「そしてあの偽勇者によって、あの機関もバレてしまいました。
   私の正体に気づくのも秒読みでしょうね」

薬師「では、あの勇者を今度こそ捕らえる必要がある、ということですね?」

??「ええ。そしてそれが確実にできるのはあなただけです」

薬師「……私だけ、ですか」

??「勇者パーティとしてのあなたの役割は終わりです」

薬師「……」

??「なにか言いたげですね」

薬師「いいえ、なにも」

??「なら、いいんですけどね」

451 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:19:49 yXbM2XqE
??「例のものを手に入れれば、我々の目的は果たせるんです」

薬師「わかっています。ただ、ひとつおねがいしたいことがあります」

??「なんですか?」

薬師「『勇者様』とお話をさせていただきたいのですが」

??「なんのために?」

薬師「……」

??「まあいいでしょう。ついてきなさい」

薬師「ありがとうございます」

452 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:20:51 yXbM2XqE





??「お客様ですよ、勇者様」


 真勇者は培養槽の中で眠っていた。
 ゴボリと培養槽の中の液体が泡立つと、真勇者はゆっくりと目を開いた。


真勇者『……』

薬師「あなたとお話したいことがあります」

真勇者『……ここを開けろ』

??「かしこまりました」

453 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:21:52 yXbM2XqE



真勇者「俺になんの用だ?」

薬師「……あなたの過去のことを知りたいと思って」

真勇者「それを知ってどうなる?」

薬師「わかりません。でも、聞いておきたいんです」

真勇者「逆に聞こう。あの偽物についてどう思う?」

薬師「…………必死、でしょうか」

真勇者「必死?」

薬師「彼は幼稚です。そしてそれを自覚しています。ゆえに常に必死なんだと思います」

真勇者「必死か」

薬師「あなたはどうなんですか?」

真勇者「ヤツの有り様には興味がない。ただ、ヤツの力は俺にとって必要だ」

454 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:22:52 yXbM2XqE
真勇者「だが、あの偽物は俺にアイツのことを想起させる」

薬師「あいつ?」

真勇者「馬鹿で猪突猛進。腕は悪くない。だが頭の悪いヤツだった」

薬師「あなたのパーティーのひとりだった方ですか?」



真勇者「ああ。アイツは馬鹿だったが、俺より物事をしっかり考えていた」


真勇者「魔法使いは、なんでも知りたがるヤツだった。
    将来は自分の魔法を人々の役に立てたいと言っていた」


真勇者「僧侶はいつも一歩引いたヤツだった。アイツが一番よくわからなかったな。
    だが、誰よりも気遣いのできる女で、優しいヤツだった」


薬師「素敵な人たちだったんですね」

真勇者「素敵か。そうだな、今思えばとても大切な仲間だった」

455 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:23:59 yXbM2XqE
真勇者「だが全員俺より先に逝った」


真勇者「誰かが仕組んだ過ちによって、みんな死んだんだ」


真勇者「魔法使いは魔女狩りの犠牲になった」


真勇者「戦士は、災厄で出現した魔物と戦って」


真勇者「僧侶は魔物に襲われそうになった子どもを庇って」


真勇者「みんな死んだ。俺だけが、今なおこうして生きている」


真勇者「言ってみれば俺は亡霊だ」

456 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:25:01 yXbM2XqE
真勇者「お前は知っているか。勇者と魔王のおとぎ話を」

薬師「世界は勇者と魔王のためにあり、それ以外は舞台装置だっていう話ですか?」

真勇者「そうだ。この話、どう思う?」

薬師「勇者と魔王という存在が、世界にとってそれだけ強大な存在だった。
   ……ということでしょうか?」


真勇者「どういう経緯で、そんな話ができたかは知らない」

真勇者「……なにがこの世界は勇者と魔王のためにある、だ」

真勇者「かつて勇者だった俺は、自分の仲間さえ助けられなかった」

真勇者「俺は無力だ。だが、それでも真実を暴き、世界を是正する」


薬師「……あなたにとってこの組織と私たちは、なんなんですか?」

真勇者「お前らとは目的が一緒なだけだ」

457 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:26:02 yXbM2XqE
真勇者「お前たちは仲間でもなんでもない」

薬師「そうですか」

真勇者「俺の仲間はアイツらだけだ」

薬師「では……あなたはずっと独りなんですね」

真勇者「そうだな。だが、それはお前もじゃないのか?」

薬師「……」

真勇者「話はすんだか?  終わったのなら俺は戻る」

薬師「待ってください」

真勇者「まだなにかあるのか?」

薬師「……もうひとつだけ。話しておきたいことがあります」

458 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:27:04 yXbM2XqE



勇者「今日は訓練に付き合ってくれてありがとう、ふたりとも」

僧侶「ずいぶんとすっきりした顔をしてるな」

竜人「そうですね」

勇者「いやあ、昨日はほとんど一日、取り調べで拘束されてたからなあ」

僧侶「お前も大変だな」

勇者「僧侶はなにもないのか?」

僧侶「私は昨日、洗礼式の準備があったぐらいだ。
   相変わらずゴタゴタしているせいで、色々と行事も延期になっている」

勇者「そうか。あ、そういえば薬師には会ってないか?」

僧侶「ここのところは会っていないが、どうかしたか?」

勇者「いや、オレもこの四日間ぐらい見てないからさ。気になったんだ」

459 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:28:00 yXbM2XqE
竜人「私も見てないですね」

勇者「……アイツ、なにか悩んでるのかもしれない」

僧侶「薬師が?」

勇者「いや、直接言われたわけじゃないけど、少し様子が変な気がする。
   僧侶、会ったら元気づけてやってくれないか?」

僧侶「私が?」

勇者「やっぱり女のことは女かなと思って」

竜人「勇者殿は女性の心の機微に、よく通じているはずでは?」

僧侶「勇者が?  心の機微だと……?」

勇者「あ、いやそれは……まあとにかく!  頼むよ僧侶」

僧侶「……わかったよ」

460 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:29:06 yXbM2XqE





魔法使い「少しやつれた?」

戦士「……そう見えるかい?」

魔法使い「わりと」

戦士「久々に仕事に追われるっていう感覚を味わっているよ」

魔法使い「なにしてたの?」

戦士「報告書のまとめ時期でね。さっきようやく提出し終えたところだよ」

魔法使い「そう」

僧侶「魔法使いに戦士」

戦士「おや、僧侶ちゃんじゃないか」

僧侶「ふたりとも仕事か?」

戦士「いや、仕事をちょうど終わらせたところだよ」

461 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:30:08 yXbM2XqE
戦士「僧侶ちゃんは?」

僧侶「さっきまで勇者と竜人と、訓練をしていた」

戦士「勇者くんはどうしたんだい?」

僧侶「昨日から一睡もしていなかったみたいで、これから寝るそうだ」

戦士「まっ、勇者くんもなんだかんだ忙しいからね」

魔法使い「……みんな、時間に追われている」

戦士「ちょうどいいや。これから時間あるかい?」

魔法使い「……飲みに行く?」

戦士「すごいソワソワしてるところ申し訳ないけど、今飲むのはまずい」

僧侶「戦士は今にもたおれそうだな」

魔法使い「……じゃあ、私だけ飲む」

462 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:31:10 yXbM2XqE





戦士「魔法使い」

魔法使い「なに?」

戦士「グラスに口つける前に、頼んでた資料を頼むよ」

魔法使い「…………はい」

戦士「ありがと」

僧侶「それは?」

戦士「ひとつが災厄後の国の復興関係資料。
   こっちが、勇者くんが壁をぶち破って見つけた正体不明の研究機関の資料。
   あとはギルドやその他諸々の資料だね」

僧侶「ある意味で勇者はお手柄だったってわけか」

戦士「勇者くんのおかげで、陛下すら知らなかった機関を発掘できたわけだからね」

463 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:32:05 yXbM2XqE
僧侶「こっちは?」

戦士「ボクが任されてるギルドとは、べつのところの名簿と記録だよ」

魔法使い「……私が、戦士の代わりに受け取っておいた」

僧侶「名簿を見てみたが知っている人は……あっ」

戦士「どうしたんだい?」

僧侶「いや、薬師は私たちとはちがうギルドに所属しているんだなと思って」

戦士「ボクのギルドにいたなら、第三番館に勤めるエリートだからね。知らないわけがないよ」

僧侶「それもそうか。薬師は半年前からギルドに加入しているんだな」

魔法使い「……飲んでいい?」

戦士「もうちょっとだけ待ってよ」

魔法使い「……むっ」

464 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:33:07 yXbM2XqE
戦士「あとはなにか伝えておくことはない?」

僧侶「私は特にないな」

魔法使い「……私は、ある。勇者が言っていた」

戦士「なんて?」

魔法使い「赤ローブが、この街の教会を調べたのかどうか」

戦士「この街の教会は、たしか調べられてないはずだ」

僧侶「なんで勇者はそんなことを言ったんだ?」

魔法使い「敵のスパイがいたなら、この街の教会も、調べられているはず」

戦士「……って、言ってたわけね。でも尋問では口にしてないんだよね」

僧侶「つまり、敵はまだ調べていないってわけか」

戦士「……いや」

465 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:34:09 yXbM2XqE
僧侶「どうした?  それは研究機関の資料だろ?」

戦士「ちょっと待って。……僧侶ちゃん」

僧侶「なんだ?」

戦士「さっき薬師ちゃんがギルドに加入したのは、いつって言った?」

僧侶「……半年前だ。ここにそう書いてある」

戦士「殺された側近の推薦で勇者くんの監視と護衛を任された、か」

魔法使い「……なにか、わかったの?」

戦士「……例の研究機関が、使われなくなったのもおよそ半年前」

僧侶「戦士?」

戦士「そして例の側近が殺されたのも、半年前」

466 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:35:11 yXbM2XqE
戦士「……教会はずっと前に……そして、彼女は……第三番館では…………」

僧侶「ど、どうしたんだ?」



戦士「……そういうことかっ!!」



僧侶(戦士が突然、テーブルに思いっきり両手の拳を打ちつけた)

戦士「こんなチャチな手に引っかかったなんて……ボクは大バカだっ!」

僧侶「お、落ち着け。いったいどうした?」

戦士「わかったんだよっ!  どうやってあの第三番館から資料を盗んだのか!」

僧侶「……ほんとか?  いったいどうやって?」

戦士「移動しながら説明する」

467 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:36:11 yXbM2XqE
僧侶「移動しながらって……」

戦士「魔法使い、お酒はまた今度だ!」

魔法使い「え……」

戦士「ふたりとも、ついてきて」

僧侶「どこへ行く気だ?」

戦士「もちろん、犯人のところにだよ」

468 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:37:17 yXbM2XqE





コンコン


勇者「ぅん……」


勇者(真っ暗だな。今何時なんだろ?)



コンコン



勇者「はーい、ちょっと待ってくださーい。今開けます」

薬師『……勇者様、私です』

勇者(薬師?)

469 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:38:14 yXbM2XqE
勇者「よっ、薬師」

薬師「夜分にすみません、勇者様」

勇者「最近、ずっと会ってなかったな。元気だったか?」

薬師「はい。突然ですが、勇者様にどうしても話しておきたいことがあります」

勇者「オレと?」

薬師「はい。ついてきてくれませんか?」

勇者「べつにいいんだけど、ここじゃあダメなのか?」

薬師「ええ。できればべつの場所がいいんです」

勇者「わかった」

薬師「ありがとうございます」



 薬師がきびすを返す。
 ふわりと長い髪が月の光を浴びて大きく膨らんだ。

470 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:39:20 yXbM2XqE





僧侶「それで、いったいどうやって敵は資料を盗んだんだ?」

戦士「……あの第三番館でなにがあったのか、ほぼ予想はついている」

戦士「犯人はもちろんわかっている」

戦士「あそこから資料を持ち出した方法も、密室のトリックも」

僧侶「……回りくどいのは、今回はなしだ」

戦士「まんまとボクらは引っかかったんだ」

僧侶「引っかかった?」

戦士「えーっとだね、非常に言いづらいんだけど……」

僧侶「だから早く言え」

戦士「あの資料を持ち出したのはほかでもない――ボクだ」

471 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:40:16 yXbM2XqE
僧侶「持ち出したって……お前また裏切ったのか!?」

戦士「ちょっとやめてよ、そういう言い方!  ボクが裏切りキャラみたいになるじゃん!」

僧侶「実際に魔界で一度裏切っただろうが!」

戦士「あ、あれは……」

魔法使い「話が進まない。続きを、話して」

戦士「ゴホンッ……ようはボクは敵の手にまんまと引っかかったんだよ」

僧侶「敵というのは、例の赤ローブのことか?」

戦士「そう。そしてその赤ローブのひとりが、ボクをハメたヤツだ」



戦士「――薬師。彼女だ」

472 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:41:23 yXbM2XqE
僧侶「薬師が……!?」

戦士「彼女が敵のスパイだとしたら、すべてに説明がつく」

僧侶「……本気で言っているのか?」

戦士「ボクは冗談が得意じゃない」

僧侶「どうしてそう思った?」

戦士「彼女が第三番館勤務だからだよ」

魔法使い「……どういうこと?」


戦士「あそこの資料は、職員すら中身そのものは見ることはできない」

戦士「だから初めて入った人間では、目的の資料を盗み出すのは不可能だ」


僧侶「だが、それだけで薬師が犯人と決めつけるのは早計じゃないか?」

戦士「それだけじゃない」

473 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:42:24 yXbM2XqE
戦士「ここでもうひとつ注目したいのが、『半年前』というキーワードだ」

僧侶「半年前?」




戦士「勇者くんが見つけ出した、謎の研究機関の話は覚えてる?」

戦士「あれは調査の結果、半年前から使われてないことが判明した」

戦士「そして、半年前と言えば真勇者が陛下の側近を殺したときと一致している」

474 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:43:25 yXbM2XqE
戦士「さらに勇者くんが言っていた、『この街の教会は調べられたのか』」

戦士「捕らえた赤ローブの口からは、この街の教会の名前は出てない」

戦士「しかし、これっておかしくないかい?」

戦士「赤ローブの連中は、とにかく教会を探し回っている」

戦士「陛下のお膝元の教会ではあるけど、スパイがいたことを考えれば」

戦士「それが理由で調べていないというのは、ちょっと考えられない」

475 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:44:26 yXbM2XqE
戦士「だったらこう考えるのが、自然じゃないかな」

戦士「もうとっくにこの街の教会は調べられていた」

戦士「そして、もうひとつ思い出してほしいことがある」

戦士「例の側近が殺された状態。死体は判別不可能なまでに、切り刻まれていた」

戦士「唯一残っていた遺留品から、かろうじて側近その人だとわかった」

戦士「……死体の状況から考えると、それが残ってるのって少し不自然じゃない?」

戦士「でもこれは、殺されたと思わせるのが目的だったとしたら?」


僧侶「じゃあ、まだその側近は生きている……?」

戦士「うん。十中八九ね」

僧侶「だが、なんのために?」

戦士「理由はいくらでも挙げられる。殺されたことにすれば、自由になれるしね」

476 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:45:23 yXbM2XqE
僧侶「だが、少し話が飛躍しすぎている気が……」


戦士「これだけだったらね。ここで、薬師ちゃんについて考えてみよう」


戦士「彼女はこの側近の、推薦で勇者くんの監視役に選ばれた……半年前に」


戦士「死んだ側近と入れ替わるように、ね」


戦士「彼女が敵のスパイだとすると、色々としっくり来ることがある」


戦士「まず、思い出してほしいのが女王の手記」


戦士「五体バラバラにされた死体が保管されていたっていう教会に行ったよね?」


戦士「あの教会の調査のあと、なぜか陛下に手記のことがバレた」


戦士「てっきりボクらについていた監視が、陛下にリークしたのかと思った」

477 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:46:24 yXbM2XqE
戦士「だけどいるよね、ひとりだけ。あの手記の存在を知らなかった人間が」

僧侶「……薬師か」

戦士「まあこれは、陛下に聞けばわかることだ」

僧侶「だが、どうして彼女は陛下に手記のことを教えたんだ?」

戦士「わかってたんだよ。陛下に伝えれば、自分がその手記を複写するってことが」

僧侶「じゃあその手記は……」

戦士「余分に複写したはずだ。そして、敵組織は手にしたはず」

僧侶「……ほかにもまだ薬師が敵だっていう根拠はあるのか?」

戦士「ある。僧侶ちゃんたちが、魔界使者を迎えに行ったときのことだ」

478 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:47:31 yXbM2XqE
戦士「極秘に行われたこの任務」

戦士「しかし、勇者くんいわく敵にバレていた可能性がある」

戦士「仮に勇者くんの言ったことが本当だと仮定する」

戦士「薬師ちゃんも、魔界の使者を迎えに行くことは知っていた」


僧侶「薬師が敵にリークしたっていうのか?」

戦士「そう考えれば、納得がいくんだよ」

僧侶「だが……いや、ひとつ私も奇妙だと思うことはあった」

戦士「なにかな?」

僧侶「さっき話に出た教会を調べたとき、赤ローブのヤツが現れたのを覚えてるか?」

戦士「うん、ゴーレムを引き連れてたよね」

479 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:48:27 yXbM2XqE
僧侶「そしてそのゴーレムを倒したとき、私は『ほのおのパンチ』を使った」

僧侶「だが、そのとき薬師はその場に居合わせていなかった」

僧侶「なのに薬師はこう言ったんだ」

僧侶「『僧侶様の炎の攻撃はすごかったですよ』って」

僧侶「てっきり私は魔法使いか、誰かに聞いたのかと思っていた。だが……」


魔法使い「……私ではない」

戦士「住民の避難や手当で、話す暇は誰ひとりなかったはずだよ」

僧侶「……だが、第三番館で薬師が死にかけたことはどう説明する?」

戦士「なに、ここからが本題だ」

480 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:49:33 yXbM2XqE
戦士「ボクらが引っかかった資料を盗んだ方法は、極めて単純だ」

戦士「なにせ薬師ちゃん自身のからだに、資料を隠しただけだからね」

僧侶「そんなことをしても、ボディチェックでバレる……いや、そういうことか」

戦士「そう。彼女は受けてないんだよ。重傷を負っていたからね」

僧侶「そのうえ、見張りの兵のひとりは敵の息がかかっていたものだった……」


戦士「うん。出入りできる場所がひとつしかない第三番館で、資料を持ち出すには」

戦士「この手段しかなかったんだ」

戦士「血だらけで発見されたけど、ボクらは傷の確認なんか一切していない」

戦士「しかも第三番館から病院へ搬送されて、敵に誘拐されるという一連の流れ」

戦士「できすぎてる。前もってそうなるとわかってたんだ」

481 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:50:34 yXbM2XqE
僧侶「一度殺しかけた人間を誘拐するというのも、考えれば変な話だな」

戦士「しかも病院を襲撃するなんて、面倒この上ないことをしている」

僧侶「陛下の側近と薬師。両方から考えれば、戦士の推測は正解と考えていいのか」

戦士「おそらくね。……まったく、先生の言うとおりだった」

僧侶「それで、結局密室のトリックはどうなったんだ?」

戦士「ああ、トリック?  これだよ」

僧侶「これって……」

482 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:51:35 yXbM2XqE



側近「ここにいましたか、陛下」

王「戦士が言っていたことが気になってな」

側近「と、言いますと?」

王「ヤツは勇者と魔王の争いが仕組まれたものと考えた」

王「そしてその理由は、勇者という人間兵器を育て上げること」

王「お前の愛弟子の推理、見事なものだ」

側近「いちおう自慢の弟子ですからね」

王「そのようだな。それに雰囲気が少し似ている」

側近「私と彼が、ですか?」

王「ああ。どことなくだがな」

側近「うーむ、それは喜んでいいのでしょうか」

483 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:52:31 yXbM2XqE
王「知らん。だが優秀な弟子を持てるのは、師匠として嬉しいだろ」

側近「そうですね。なにより彼は、教えがいのある子でしたからね」

王「優秀だからか?」


側近「いいえ。努力を惜しまない子だからです」

側近「極めて難しい課題だろうが、諦めずに最後までやりきる」

側近「本人は天才肌を気取ってますが、人一倍努力家なんですよ」


王「……なんだか嬉しそうだな」

側近「そうかもしれませんね」

王「しかし。お前の弟子の推理には問題点がひとつある」

側近「……彼の推測を裏付けるには、勇者を特定する手段が必要、ということですね」

王「そうだ。その手段がないかぎり、戦士の推測は正解とは言えない」

484 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:53:31 yXbM2XqE
側近「おっしゃるとおりです」

王「歴代の勇者の記録を漁ってるんだが、共通点らしい共通点はほとんどない」

側近「ひとつもないのですか?」

王「しいて挙げるなら、幼少の頃から訓練を受けているってぐらいか」

側近「しかしそれは……」


王「ああ。魔物から身を守るために、当時の人間のほとんどが訓練を受けている」

王「争いが仕組まれていた期間は、おそらくそこまで長くないはずだ」

王「……ダメだ、わからんな」


側近「この五百年の間、勇者が現れていないことと関係があるんでしょうか?」

王「わからん」

485 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:54:33 yXbM2XqE
王(あの女は『本物の勇者は今も生きている』と言っていたらしいが)

王(俺にはそうは思えない)

王(魔王と勇者はあの災厄までは、ほとんど同時に存在していたと言っていい)

王(魔王は植物状態とはいえ、生きていてた)

王(勇者も存在はしていた。ただし、勇者は封印されていた)

王(封印状態も生きているのと同じだから、新たな勇者は誕生しないのか?)

王(しかし、あの女は魔王を封印しなかった)

王(それは封印したら、新しい魔王が生まれると考えたからではないか?)

王(……わからんな)

王(せめてヤツが生きていれば……)

486 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:55:34 yXbM2XqE



勇者「薬師。いったいどこへ向かってるんだ?」

薬師「…………」

勇者「おーい、聞いてるか?」

薬師「……勇者様、手を出してもらえますか?」

勇者「手?」

薬師「はい」

勇者「これでいいか」

薬師「少し、失礼します」


勇者(薬師は俺の手を握ると、なにかをつぶやいた)


勇者「薬師?」

薬師「ありがとうございます。それでは行きましょう」

487 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:56:35 yXbM2XqE
勇者「ちょっと待ってくれ」

薬師「……なぜですか?」

勇者「なぜって……だってさっきから行き先も言ってないし」

薬師「今は黙ってついてきてくれませんか?」

勇者「どうしたんだよ、薬師」

薬師「なにがですか?」

勇者「なんか様子がおかしいぞ。薬師らしくないっていうか……」

薬師「べつに。私は普段通りですよ」

勇者「……なにか、悩みでもあるのか?」

薬師「……」

勇者「ちょっ……だから待てよ。どこへ行くんだ?」

488 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:57:42 yXbM2XqE
勇者(結局オレは黙って、薬師について行くことしかできなかった)


薬師「着きましたよ」

勇者「着いた?  さっきから森を歩いているだけで、なにもないぞ」

薬師「ここから移動するんですよ」

勇者「!?」


 勇者の脇腹を鋭い痛みが走った。遅れて血が地面に飛び散る。
 なにが起きたか理解できなかった。


勇者「ぐっ……!」

薬師「抵抗しなければ、これ以上なにもするつもりはありません」

勇者「……薬師っ!?」

薬師「なにが起きているか、理解できないって顔をしてますね」

489 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:58:48 yXbM2XqE
勇者「薬師、オレになにをし……っ!」


 勇者が口を開こうとしたときだった。再び鋭い痛みが走る。
 今度は足だった。だが、武器と思わしきものを彼女はもっていない。


薬師「あなた方が言うところの新興宗教グループ」

勇者「なにを……」

薬師「私はその一員なんです」

勇者「なにを……なにを言っているんだ?」

薬師「まだわかりませんか?」




薬師「――私はあなたの敵、ということです」

490 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 06:59:49 yXbM2XqE





僧侶「これって……」

戦士「そう。現場に散乱していたもの」

僧侶「……髪の毛じゃないか。どうやってこんなもので……」

魔法使い「簡単。束にした髪を、南京錠の代わりにとおす。それだけ」

戦士「うん、密室トリックなんて言ったけど、こんな簡単なことだったんだよ」

僧侶「だが髪の毛で扉の固定ができるのか?」

戦士「髪っていうのは意外と強度がある」

魔法使い「……さらに、彼女は髪に、魔力を流しこめる」

戦士「密室はボクらを混乱させるためだったんだろうね」

僧侶「だが、髪を使ったのならそれに気づくんじゃないのか?」

491 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 07:00:45 yXbM2XqE
戦士「いや、気づけないよ」

僧侶「どうして?  扉を破壊したとしても、束にした髪なら床に残るはずだ」

戦士「言ったでしょ?  現場には髪の毛が散乱してるって」

僧侶「……そういうことか」

戦士「うん。現場に散らばっていた髪は、カモフラージュだったんだよ」

魔法使い「極めて単純なトリック。でも、引っかかった」

戦士「悔しいけどね、まんまと敵の術中にハマったってわけだ」

僧侶「薬師はなぜあんな組織に……」

戦士「それは、彼女を捕まえればわかることだ」

494 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 15:34:53 PciXAMC.
戦士「おっと、ここが彼女がいる宿舎だね。部屋は……ここだね」

魔法使い「……勇者には、伝えるの?」

戦士「……。いや、やめておこう」


僧侶(だが、ここの宿舎には勇者もいる)


戦士「とにかく今は彼女を捕まえるのが先だ」

魔法使い「うん」

戦士「……ボクの推理が単なる勘違いだったら、それでもいい」

僧侶「……」


コンコン


戦士「薬師ちゃん、いるかい?」

魔法使い「気配がしない」

僧侶「どこかへ出かけているのかもしれない」

495 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 15:41:21 PciXAMC.
魔法使い「……気配は、しない」

戦士「魔法使い。軽い魔術で扉に穴を開けて」

僧侶「いくらなんでも、そこまでしなくても……」

戦士「なにかイヤな予感がする。急いだほうがいい」


僧侶(魔法使いは扉に拳サイズの穴を開けると、その穴から手を通して鍵を開けた)


魔法使い「開いた」

戦士「オジャマします……って、これは……」

僧侶「モノがなにもない」

魔法使い「もぬけの殻」

496 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 15:46:24 PciXAMC.
僧侶「ここは本当に薬師の部屋なのか?」

戦士「記録では間違いなくここだよ」

魔法使い「……逃げられた?」

戦士「彼女も気づかれるのは、時間の問題だってわかってたんだろうね」

僧侶「じゃあ薬師は本当に……」

魔法使い「どうする?」

戦士「やはり、勇者くんの部屋に行こう」

497 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 15:52:31 PciXAMC.




僧侶「勇者! 勇者、いないのかっ!?」

戦士「……まずいかもしれない」

魔法使い「やはり部屋に、気配がない」

僧侶「どこかへ出かけたのか……まさか……」

戦士「すでに敵の手にかかった可能性がある。勇者くんは狙われているからね」

魔法使い「追わないと、まずい」

戦士「ああ。だけど彼らはどこへ……」


   「教えてあげよっか?」


僧侶「どうしてあなたがここに……」

498 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 15:59:29 PciXAMC.




薬師『挨拶が遅れて申し訳ございません、薬師って言います』

勇者『キミも真勇者の捕獲任務に参加するのか?』

薬師『ええ。……どうかしましたか?』

勇者『いや、こんな女の子が任務に参加するなんて、と思って』

薬師『あの、もしかして誤解していませんか?』

勇者『誤解?』

薬師『勇者様については、すでに書類で存じ上げております』

勇者『それがどうしたんだ?』

薬師『そして勇者様が私より年下であることも』

勇者『は? キミがオレより年下!?』

499 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:01:43 PciXAMC.
薬師『そうです。これでもきちんと、ギルドにも所属しています』

勇者『全然そんなふうに見えないな』

薬師『よく言われます。でも、ある方の推薦を受けてこの役になったんですからね』

勇者『……そっか』

薬師『あ、今少し目が泳ぎましたよね?』

勇者『そ、そんなことないよ?』

薬師『まあ私の実力は、そのうち披露できると思います』
    それともうひとつ。勇者様の監視兼護衛役、及び健康管理も任されていますから』

勇者『よくわからないけど、よろしく頼む』

薬師『はい。勇者様は私が必ずお守りします』

500 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:04:19 PciXAMC.



薬師『どうして、あんな無茶な庇い方をしたのですか?』

勇者『ごめん』

薬師『あの程度なら、私でも十分対応できました』

勇者『……』

薬師『勇者様はやはり、私のことを信用していませんよね』

勇者『……そういうわけじゃない』

薬師『なら、どうしてさっきは私を守ったりしたんですか?』

勇者『守られっぱなしはイヤだから』

薬師『なにを言ってるんですか? 私は勇者様の護衛ですよ』

勇者『それはわかってる。でも、オレたちは仲間でもあるだろ?』

501 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:10:54 PciXAMC.
勇者『オレたちは真勇者を追う仲間だ。仲間が仲間を庇うのは当たり前だろ?』

薬師『言いたいことはわかりました。でも』

勇者『でも?』

薬師『勇者様はやっぱり、私のことを信用してませんね。
   仲間だって言うなら、信頼して任せてもよかったはずです』

勇者『そうだな……ごめん、それは謝る』

薬師『いいですよ。いつか勇者様の信頼を勝ち取ってみせますから』

勇者『頼もしいな』

薬師『言っておきますけど、私もまだ勇者様を信頼してませんからね』

勇者『そう言われるとツライな。……信頼し合える関係か』

薬師『なれるといいですね』

勇者『なれるよ、きっと』

502 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:13:44 PciXAMC.



 なにか鋭い針のようなものが、頬を横切った。
 勇者はとっさに体勢を低くしたが、そのときにはすでに頬の肉は裂けていた。


勇者「……くっ!」

薬師「逃げてもムダです。私からは逃れられません」

勇者「……どうして」

薬師「はい?」

勇者「どうしてあんなヤツらの仲間なんかに……」

薬師「勘違いしていませんか?
    もとから私はスパイとして、ギルドに潜りこんだんですよ」

勇者「じゃあ……今までのは全部ウソだって言うのか……?」

503 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:19:28 PciXAMC.
勇者「なにもかも偽りだったっていうのか……?」

薬師「ええ。情報の横流しとあなたたちの監視。それが私の役目でしたから――」
 

 ほとんど本能的に勇者は動いていた。正体不明の凶器が夜闇を裂く。
 地面に飛び込むように片手前転する。

 薬師の真ん前に回り込み、彼女の腕をつかもうとしたときだった。


勇者「……なっ、なんで……」

薬師「言いましたよね。ムダだって」


 あと少しというところで、勇者の動きが完全に止まる。

504 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:22:31 PciXAMC.
 いつの間にか、腕と足になにかが絡みついていた。


 勇者(なにがどうなってる……!?)

 薬師「……」


 首筋にチクリとした痛みを感じた。
 からだに絡みついていたなにかが、ほどける。


勇者「……え?」


 どういうわけか、勇者の視界がかたむいていく。
 気づいたときには地面に倒れ伏していた。

505 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:31:39 PciXAMC.
勇者「な、にをした……?」


 舌がもつれて言葉がうまく話せない。舌だけではない。
 得体の知れない痺れが、全身に広がっていく。


勇者(そもそも薬師はどうやって攻撃を……いや、たしか……)


 以前、サイクロプスと戦ったときも同じようなことが起きた。
 時間が止まったかのように、硬直したサイクロプス。


薬師「驚きました。まだ動けるんですね」


 勇者はなんとか首を動かして、薬師を見上げる。強い違和感が頭をもたげる。
 だが、その正体はあっさりとわかった。
 
 同時にすべてを理解した。


勇者「髪の毛…………か……?」

506 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:33:50 PciXAMC.
薬師「気づきましたか」

勇者「……切られたはずの……髪の毛、なんであるんだよ……?」

薬師「これ、ウィッグなんですよね」 

勇者「攻撃、手段は……その、髪か……」  

勇者「どうしてだ……なにが、目的なんだ……?」

薬師「魔物を滅ぼすためですよ」

勇者「……そん、なことして………どうなる?」

薬師「……」

507 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/22(土) 16:35:47 PciXAMC.
薬師「私が前へ進むためには、必要なことです」

勇者「前へ、進む……?」

薬師「あなたにはわかりません。過去をもたないあなたに、私のことなんて……」

勇者「オレ、は…………」



薬師『知りたくないことや、経験したくないこと。
   もっとわかりやすく言えば、記憶から消し去りたいこと』

薬師『忘れられるなら、忘れたいってことありませんか?』



勇者(くそっ……意識が、もう…………)

509 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:04:46 F8ytvWSI



勇者「……ここは、どこだ…………いや、オレはいったい……」

??「予想よりだいぶ早く目が覚めましたね」

勇者「……なんでアンタがいる?」

勇者(また拘束されてる……それにからだの痺れがまだ……)

??「もとからあなたの力を得ることが、今回の目的だったものでね」

勇者「薬師とアンタたちは仲間なのか?」

??「彼女から説明されたんでしょう。
   彼女は私が送りこんだスパイ。そしてあなたたちを見事に欺いた」

勇者「……」

??「いまだに真実を受け入れられていない、そういう顔をしていますね」

勇者「魔物を滅ぼしてなにがしたいんだ?」

??「さあ? 行為の理由は様々でしょう?
   そもそもそんなことを聞いて、なにか変わるのですか?」

勇者(とにかく少しでも話して、時間をかせがないと)

510 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:05:58 F8ytvWSI
勇者「アンタは何者だ?」

??「前にも聞いてきましたね。答えられないって言ったはずですけど」

勇者「そんなわけあるかっ。自分のことじゃねえか」

??「ふっ、まあそう思うのも無理はありませんか。
   ……なら、逆に聞きますけどあなたは誰なんですか?」

勇者「……オレ?」

??「やたら私の正体に固執しているようですが。自分はどうなんです?」

勇者「それは……オレは……」

??「答えられないでしょう? 
   もっとも、あなたと私が答えられない理由はちがいますけどね」

511 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:09:39 F8ytvWSI
??「私はね、教会神父だったんですよ」


??「しかし私は生まれ変わった」


??「いつしか『災厄の女王』の教育係のひとりになりました」


??「同時に国の命令で、側近として魔王に仕えた」


??「最近では、この国の皇帝陛下の側近を務めさせてもらいましたよ」


??「まったく元老院の老人たちは、ひどいことをする」

512 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:16:43 F8ytvWSI
勇者「なにを言っている?」

??「あなたの質問に、可能な範囲で答えたんですよ。で、あなたは?」

勇者「は?」

??「あなたは何者なんですか?」


勇者(オレは……何者だ? オレは――)


??「あなたの代わりに答えてあげましょうか?」

勇者「やっぱりオレのことを知ってるのか!?」

??「あなたは私です」

勇者「は? なにを言ってるんだ?」

513 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:18:21 F8ytvWSI
??「私はね、もとは戦争孤児だったんですよ」

??「しかし私は魔術の才能と、ある可能性によって国に拾われたんですよ」

??「ある可能性の正体、なにかわかりますか?」


勇者「知るか」


??「勇者であるかもしれない、という可能性ですよ」

勇者「……アンタが?」


??「ええ。当時はまだ、勇者特定のシステムが確立されていなかった」

??「だから候補を絞るので精一杯だったんですよ」

??「勇者候補に選ばれたものたちに、拒否権はありませんでした」

??「家族を殺された人間、夢を潰された人間……」

??「運命を勇者という存在によって捻じ曲げられた者が、たくさんいたんですよ」

514 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:25:27 F8ytvWSI
勇者「アンタもそうなのか?」


??「私は失うものなどありませんでしたけどね」

??「それに勇者の選出も、当時は単なる人材補給制度という扱いになっていました」

??「八百年も前のことなのに、あの頃の訓練は昨日のことのように思い出せますよ」

??「結局、勇者にならなかった者たちは、国から斡旋された仕事をすることになります」

??「勇者になれなかった私は、教会に勤めることになりました」

??「そしてあるとき、美しい女性が私の教会を訪れました。女性――魔王にね」

??「同時に当時の勇者も、私が住んでいた街にいたんですよ」

??「私はね、勇者が気に食わなかった」


勇者「自分が、勇者に選ばれなかったからか?」

515 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:33:58 F8ytvWSI
??「ふふふっ、それだったらまだ私も幸せだったかもしれませんね」

??「なにせあの勇者は、才能という点では私よりも遥かに劣っていましたからね」

??「嫉妬の炎も多少は収まったでしょう。嫉妬だったら、ですが」

??「私が気に食わなかったのは、その存在が他者の運命を狂わせることです」

??「なぜたった一人の人間に、我々が翻弄されなければいけないのか?」

??「ですから、私は勇者と魔王を同時に殺すという賭けに出たんですよ」


勇者「……待てよ、勇者と魔王を同時に殺すって……じゃあアンタは……」


??「……話を続けます」

??「結果は成功しました。私は勇者と魔王を殺すことに成功しました」

??「勇者のからだを弄ってね」

516 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:40:14 F8ytvWSI
勇者「勇者のからだをいじる? どういうことだ?」

??「彼のからだの利き手以外を、全部魔物に変えたんですよ」

勇者「……そ、そんなことができたのか?」


??「当時はね。しかし、不幸なことに私の悪行はバレてしまった」

??「同じ教会に勤めていたシスターによってね」

??「いやあ、間違いなく死刑ものだと思ったんですよ」


勇者「なんで生きてる? しかも、八百年前って……」


??「簡単な話ですよ。私は人体実験の材料にされたんですよ」

??「私が造りあげた魔物勇者のからだ。それと私のからだを用いた実験」

??「思い出すだけで死にたくなるような実験でした」

517 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:55:07 F8ytvWSI
??「泣き叫びながら懇願しましたよ。殺してくれって」

??「そうして私は死んだことになった。表向きは」

??「その後も何度も人体実験によって、生きながらえた」

??「途中封印されたりもしましたがね」

??「さて、ここで最初の話に戻りましょう」

??「『あなたは私』という言葉。なぜこんなことを言ったかわかりますか?」


勇者「わかるわけないだろ」


??「わかりませんか。でもあなた、言いましたよね?」

??「私のからだと自分のからだが似ているって」


勇者「たしかにそう言ったけど……」

518 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 00:56:01 F8ytvWSI
勇者「いや、待て……まさか……」

??「気づきましたか。あなたのからだの一部は、もとは私のものだったんですよ」

勇者「待て待て待て! 意味がわからないっ!」

??「そこまで取り乱さなくてもいいでしょうに……」

勇者「じゃあ……オレを造ったのは、アンタだっていうのか?」

??「ええ。言ってみれば、私はあなたの生みの親、ということでしょうかね」

勇者「なんでだ……」

??「はい?」

勇者「なんでオレを造った?」

??「簡単ですよ。試したかったんですよ、災厄の女王が失敗したことを」

519 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:03:44 F8ytvWSI
勇者「どういうことだ?」


??「勇者と魔王の混合体を作る。それをやってみたかったんです」

??「もっとも彼女は平和のためにそれやった。私とちがってね」


勇者「アンタはなんのためにそんなことを……!?」


??「ひとつは好奇心。そしてもうひとつは、勇者と魔王を滅ぼすため」

??「苦労しましたよ、あなたを造るのは」

??「普通の人間のからだでは、勇者と魔王の力に耐えられない」

??「仕方なく、私のからだを流用することでなんとかしましたが」

??「しかし、魔物ベースのからだでは勇者の力は発揮されない」

??「そこでさらに人間のからだを用いたりと……試行錯誤しましたよ、本当に」

520 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:06:55 F8ytvWSI
??「部下の賢者たちはよく働いてくれました」

??「ちなみに、あなたの僅かな記憶は八百年前のものではありません」


??「それよりさらに昔のものです」

??「そうじゃないと、真実が露見する可能性がありましたから」

??「しかし、結局できたのは勇者の出来損ないでしかありませんでしたけどね」

勇者「……オレは……」

??「自分で知りたいと言っておいて、このざまとは」



薬師「ただいま戻りました」



??「ご苦労様でした」

薬師「……まだ、終わってなかったのですね」

521 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:12:06 F8ytvWSI
??「ええ。彼がどうしても、真実を知りたいというのでね」

薬師「……そうですか」

??「で、もう満足ですか勇者様?」

勇者「……ああ」

??「心ここにあらずといった感じですね。
    話さないほうがよかったかもしれませんね」

勇者「いや……わざわざ長々と話してくれてありがとな」

??「おや、どうしました? ショックが強すぎましたか」

勇者「……おかげでからだの痺れがなくなった!」

??「!」 


 勇者は魔力を腕にこめ、腕の拘束具を破壊する。同時に赤ローブの男に飛びかかる。

522 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:13:42 F8ytvWSI
勇者「さっさとオレを煮るなり焼くなりすれば、よかったのにな!」

??「あなたのほうこそ、自由になったのなら逃げるべきでしたね
   薬師、下がっていなさい」

薬師「……」


 勇者の拳はあっさりと敵に受け止められていた。
 とっさに飛び退いて、距離をかせぐ。

??「逃がしはしません」


 不意に赤いローブを突き破って、巨大なツタのようなものが現れる。


勇者(なっ……)

 
 のたくるそれが、勇者目がけて飛んでくる。
 間一髪。なんとか横転してそれを避ける。

523 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:20:06 F8ytvWSI
 ツタのような触手が壁に突き刺さる。
 勇者の予想通り、それは赤ローブの腕だった。

 すぐさま触手が動き出して勇者を襲う。
 ムチのようにしなるそれを掻いくぐって、走る。

 
??「なかなかすばしこい。ならば……!」


 頭上から魔力を感じ取って、勇者はほとんど反射的に跳んでいた。
 遅れて巨大な光の矢が天井から降ってくる。衝撃、地面を穿つ。


勇者「……あっぶねえ!」

??「まだ終わりませんよ」


 地面に刺さっていた光の矢が勇者の背後で文字通り、砕けた。
 光が飛礫に取って代わって四散する。
 かわしたと思ったが、いくつかの光が勇者のからだに当たっていた。

524 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:29:10 F8ytvWSI
勇者「ぐっ……」


 当たった箇所に、焼かれたかのような激痛が走る。
 思わず動きが止まったところに、今度はツタが勇者に向かってくる。
 体重移動だけでツタを避けられたのは、幸運だったと言っていい。
 地面に突き刺さって、赤ローブの触手が一瞬だけ動きを止める。


勇者(イチかバチか……!)


 勇者は敵の触手を掴んでいた。掌に魔力を集中させる。
 魔力を流しこむ。わずかに遅れて敵の口からうめき声が漏れた。


??「っ……!」
 
勇者「なんでもかんでも伸ばせばいいってもんじゃないな」

525 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:37:58 F8ytvWSI
??「……どうでしょうねえ」
 
勇者「!?」


 不意にからだがもちあがる。不気味な浮遊感。
 なにが起きたのかわからないまま、地面に叩きつけられる。
 強烈な痛みと衝撃に視界が明滅する。


勇者「かぁっ……」


 ようやく自分が触手に足をつかまれ。地面に叩きつけられたと理解する。
 全身を締め上げる痛みを無視して、跳ね起きる。
 だが、遅すぎた。敵の触手がすでに迫っていた。


勇者「――っ!」


 反射的に目を閉じてしまう。
 まぶたの裏に浮かんだのは、自分の肉体がツタによって貫かれる光景だった。

526 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 01:56:04 F8ytvWSI
 予想していた激痛は、いつまで経っても来ない。
 代わりになにか熱い湯のようなものが、勇者の肌を濡らした。


勇者「え……?」


 目を開く。目の前で起きていることが理解できなかった。


勇者「……な、な、んで…………」


 勇者の目に飛び込んできたのは、小さな背中だった。
 見覚えがある。その背中を滑り落ちる長い髪にも。
 
 だが彼女の背中に生えているものはなんだ?

 触手が引き抜かれる。肉の裂ける音とともに、血が溢れる。
 小柄な背中がかたむく。勇者はなんとか彼女を受け止めた。


勇者「な、なんで……どうして……」

薬師「ぁ……かはっ…………」


 薬師の頬はすでに青ざめていた。血の気の失せた唇を赤い液体が伝う。

527 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 02:18:53 F8ytvWSI
薬師「…………わか、り……ませ、ん……」

薬師「……わた、しは…………まも、のを……ほろぼさなきゃ、いけないの、に……」


 薬師の虚ろな瞳には勇者の顔が映っていた。
 勇者はどうすることもできなかった。


勇者「……どうして、オレを庇った……」

薬師「だ、って…………から、だが……かって、にうご……いたから……」


 彼女の手が勇者の頬に触れた。


薬師「あなた、が……わた、しのたいせつな……ひとたちに、にてたから……」


 命そのものを絞り出すかのようなかすれた声。


 薬師「うらぎ、ったけど……ゆう、しゃさまを…………まもっ、たでしょ……?」


 彼女の唇がゆっくりと動く。

 ごめんなさい、と。

528 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 02:42:08 F8ytvWSI
 薬師の手が勇者の頬から滑り落ちる。
 わずかに開いた目からは、光が完全に失せていた。

 勇者は息ができなかった。

 ただ、呆然と沈黙した彼女を見つめることしかできない。


??「予想通りの行動をしましたね」

??「彼女は幼い頃に、住んでいた村を魔物に襲撃されたんです」

??「愚か極まりないです」

??「家族や同じ村の住人のおかげで生き延びたんです」

??「復讐なんて考えずに、ただ普通の生活を送ればよかったんですよ」
?

529 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 03:01:12 F8ytvWSI
??「もっとも復讐に駆られる人間の気持ちもわからなくもありませんが」

??「煙のように止めどなく湧く憎しみは、人の心に大きなしこりとなって残ってしまう」

??「しかも厄介なことに、自分ではそのことに気づくことができない」

??「彼女はいつの間にか自身で醸成してしまった憎しみに、永遠に囚われることになってしまった」

??「そしてこういう結果を生むことになった」

??「実に愚かですねえ。あなたもそう思いませんか?」


勇者「…………」


??「そんなにショックですか。ならば、もうひとつ」

??「私なんですよ」

??「国の命令で、実験のために彼女の村に魔物をけしかけたのは」

530 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 03:13:55 F8ytvWSI
??「まったく……愚かですよね、どこまでも。
   本当の復讐の対象は、すぐ近くにいたのに」

勇者「……言いたいことは、それだけか?」

??「ええ。あとはあなたから、力を奪うだけです」

勇者「……わかったよ、薬師の気持ちが」

??「……」


 勇者の輪郭を黒い霧が覆っていた。視認できるほどの強大な魔力。
 怒りが魔力に代わって、全身からあふれてくる。
 

勇者「殺してやる……」

??「どうぞ。やれるものなら」

531 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 03:14:24 F8ytvWSI
つづく

533 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 09:16:54 rKvETqeY
これでアツくならない者がいようか

534 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 09:19:54 M7Fze7S2
神父生きてたんかい

532 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 08:13:50 IFqgUafs
乙と言うのは終わってからにしてやる

535 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:20:49 CCFGGQjE



??(ここまではほぼ、予定通り)

??(予想通り、薬師の死がトリガーとなって覚醒した)

??(もっとも当初の予定とは大きく異なる結果になったが)

??(そもそも薬師が、余計なことをしなければ)

??(彼女は死ぬこともなかったし、この男の覚醒はもっとスムーズに行くはずだった)


勇者「……殺してやる」

??「どうぞ。やれるものなら」

??(そして、ここからが本番)


 漆黒の魔力をまとった勇者が、一瞬で赤ローブの男の視界から消える。


??(はや――)


 気づいたときには勇者は眼前にいた。勇者が突きを繰り出してくる。

536 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:30:56 CCFGGQjE
 赤ローブはとっさに腕で防いだ。だが、避けるべきだった。


??「ぐっううぅ……!」


 勇者の突きは、男のオークを思わす腕をあっさりと突き破った。
 大量の血が床を濡らす。二の腕から下が、床を転がる。


??「おのれ……!」


 残った腕の触手で勇者の腕をつかむ。捕らえた。

 魔術を発動する。

 無数の光の矢が天井から現れ、勇者を目標に飛んでいく。
 直撃。弾けた光が数秒の間だけ、空間を真っ白に埋め尽くす。


??(これで多少でもダメージを与えることができたら……)
 

 もとに戻った視界に入ってきたのは、猛禽類を思わす翼だった。

537 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:33:03 CCFGGQjE
??「やはり、この程度ではダメですか……」


 勇者を包み込むように現れた黒翼が、光の矢をすべて受け止めていた。

 攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
 赤ローブの男は光弾を連続して放った。


勇者「――っ!」


 翼が大きくはためく。突風が起きて、光弾をひとつ残らず弾き返した。
 刺さっていたはずの矢が地面に落ちて、かわいた音を立てる。

 再び魔術を発動しようとした男よりも、勇者のほうが遥かに速かった。

 魔法のように眼前に現れた勇者は、赤ローブの男の首に手をかけた。


??「……ぁ、ぐっ……!」

勇者「――とらえたぞ……っ!」

538 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:39:02 CCFGGQjE
??(やはり、こうなったか。私の力は全盛期には程遠い)

??(そう――こうなることは予想済みだった)

 
勇者「終わりだ……!」


 男の手を締めつける勇者の手が、不意に止まる。

 床に仕込んでおいた魔法陣を発動させたのだ。
 突如、大量のツタが床から現れ、勇者の背中に突き刺さる。


勇者「がっ、ああぁぁ……!」

??「わかっていましたよ、こうなることは」

勇者「あぁ……がはっ! ……おまえっ…………!」

??「あなたは勇者としては出来損ないですが、実験体としてはまあまあ優秀でしたね」


 勇者の口から大量の血がこぼれる。
 普通の人間だったら、これで間違いなく死ぬだろう。薬師のように。

539 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:40:14 CCFGGQjE
??「薬師のせいでずいぶんと手間がかかりましたよ」

??「彼女が真勇者を追う旅のときに、あなたを覚醒させれば」

??「それですむ話だったんですよ」

??「だが彼女はなにを血迷ったのか、あなたを覚醒させるどころか、逆のことをした」

??「結果として彼女には、あなたの力を覚醒させるための犠牲になってもらった」

??「彼女をあなたに同行させたのは間違いでした」

??「いや、そもそもの間違いはあなたを造ったことかもしれませんね」

??「好奇心を満たすため。そして、アレを使うためのコマとしてあなたを造った」

??「しかし偽物ではダメだった。本物の勇者でなければ、アレは使えないとわかった」

??「結局、本物の勇者を蘇らせるハメになってしまいました」

540 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:47:51 CCFGGQjE
勇者「ぐっ……うぅっ……」 

??「そのツタはあなたの力を奪うための装置ですが、さすがにツライようですね」

??「ところで、ひとつ聞いてもいいですか?」

勇者「……っ!」

??「勇者でもなければ、魔物でもない。まして人間でもない」

??「あなたはそのことを以前から知っていた」

??「自分が得体の知れない存在であること……それってどんな気分なんですか?」

541 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:52:28 CCFGGQjE



??「自分が得体の知れない存在であること……それってどんな気分なんですか?」


勇者(オレは……オレは…………)


??「……もはや答えることもできませんか。
    なら、そろそろあなたの力を頂くことにしましょう」

勇者(なんとかしなきゃ……コイツを……)

??「真実を知ったものは死ぬ。さようなら」  


 
   「――同時に真実を語った者も死ぬ。終わりだ」



??「あっ、あぁぁ……!?」


 赤ローブから剣が生えていた。そして、男の背後にいたのは。

542 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:55:12 CCFGGQjE
真勇者「薬師の言うとおりだったな」
  
??「な、ぜっ……あなた、がここに……?」

真勇者「答える義理はない」


 男の胸を貫いていた剣が、なんの前触れもなく燃え上がる。
 あとは一瞬だった。男のからだはローブごと火炎に飲みこまれた。


??「――――」


 悲鳴すらあげることなく、男は灰となった。
 あまりにもあっけなかった。
 ツタが消える。勇者は地面に仰向けに倒れた。


真勇者「このツタをどうやって破壊しようかと思ったが、コイツが死ねば勝手に消えるのか」

勇者「がはっ……はぁはぁ…………」

真勇者「たいしたものだ。傷がすでに治り始めてるとはな」

勇者「仲間じゃなかったのか……」

543 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:57:15 CCFGGQjE
真勇者「薬師のおかげでようやく五百年前の謎が解けた」

勇者「……?」

真勇者「この男だったんだ。彼女を騙し、五百年前の災厄を引き起こしたのは」

勇者「……災厄の女王のことか」

真勇者「いや、より正確に言えば国がグルだったんだ。
    この男が姫を扇動したんだ、勇者と魔王の混合体を造ることを」

勇者「……」

真勇者「危うく俺も完全に騙されるところだった。
    薬師のおかげで、なんとか真実に気づけはしたがな」

勇者「……薬師……くそっ……!」

真勇者「仲間が目の前で殺された気分はどうだ?」

勇者「なんだとっ……!?」

544 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:58:15 CCFGGQjE
真勇者「自分の非力のせいで仲間が殺された気分はどうか、そう聞いたんだ」

勇者「……っ」

真勇者「俺にはお前の気持ちが手に取るようにわかる。俺もそうだったからな」

勇者「お前も、仲間を殺されたのか……?」

真勇者「ああ。目の前で殺された。お前と同じだ」

真勇者「俺の仲間は全員死んだ。俺が非力で、愚かだったからだ」

真勇者「気づくべきだった。この国がなにをしようとしているのか」

真勇者「いや、真実の途中までは知ったんだ。なのに、最後にはたどり着けなかった」

勇者「最後……?」

545 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 21:59:05 CCFGGQjE
真勇者「気づいていれば、少なくともすべてを失うことはなかった」

勇者「……お前の目的はなんだ?」

真勇者「是正するんだ。なにもかもを」

勇者「なにをする気だ?」

真勇者「……このからだには難儀させられる。ようやく回復した」

勇者「え?」

真勇者「話は終わりだ。目的のひとつは果たした」

真勇者「次はお前の力……いや、俺の力を返してもらうぞ」


 真勇者の手が勇者のひたいを掴む。

546 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:01:51 CCFGGQjE
勇者(まずいっ……)



魔法使い「――そこまで」



真勇者「!」


 不意に真勇者の足もとから、氷が隆起する。
 真勇者はそれをなんなくかわす。
 さらに追撃。今度は無数の氷針が放たれる。


真勇者「……お仲間の登場か」 


 だが真勇者はこれもすべてやりすごす。床に氷が散乱する。

547 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:02:50 CCFGGQjE
 戦士、僧侶、魔法使いが現れる。


勇者「みんな……!」

僧侶「勇者、無事か!?」

戦士「なるほど。なかなかいい動きだね。だったら……!」


 戦士が巨大な紫炎を飛ばす。だが、やはり真勇者はすべてを避けきった。
 そのまま三人へと向かってくる。


勇者(くそっ……からだが上手く動かない……!)

548 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:05:13 CCFGGQjE
 さらに氷の突起と炎で真勇者を攻撃するが、なんなく捌かれてしまう。


戦士「なるほど、これは手ごわい。けど……!」

僧侶「これならどうだっ!」


 あちこちに散らばった氷は、戦士の炎によって水に変化していた。
 魔法陣はすでに展開されている。僧侶が水面へ雷の拳を突っ込む。

 炸裂。光が弾ける。


真勇者「……はあああぁっ!」


 真勇者が地面に剣を振り下ろす。
 真勇者の剣が地面を穿つ。ひび割れた地面から火柱があがる。


僧侶「なっ……」


 真勇者「危うくやられるところだった。
 なるほど、お前の仲間はなかなかの手練らしいな」

549 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:07:00 CCFGGQjE
戦士「まだ本気じゃないみたいだね」

真勇者「本気じゃない、というよりはまだ本気は出せないと言ったほうが正しいな」

戦士「それでもずいぶんと余裕そうだね」

真勇者「いや、そうでも――ない」


 真勇者がなにかを放った。
 魔法使いがとっさに氷の壁を作る。
 

 まばゆい光が炸裂した。

550 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:09:01 CCFGGQjE




魔法使い「逃げられた」

僧侶「いちおう聞いておくが、戦士。追うのか?」

戦士「もちろん追わない。斥候の類もなし。
   今のままでは間違いなく勝てないしね」

僧侶「勇者、大丈夫か……勇者?」

勇者「オレのせいだ……オレが弱いから、薬師を……」

僧侶「薬師? 
   あっ…………っ!!」

魔法使い「……!」

戦士「……」


 勇者の怒りの炎は、すでに鳴りをひそめている。
 かわりに荒涼とした心の穴を、風が虚しく吹き抜けていった。

551 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:09:39 CCFGGQjE
つづく

552 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/23(日) 22:13:30 rKvETqeY
乙、気になってしかたない

553 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 01:53:45 jTUxEvpw



戦士「なるほど。だいたい話はわかったよ」

勇者「……」

戦士「……」

勇者「……」

戦士「とりあえず、検査の結果も良好みたいだし今は養生しておいてよ」

勇者「……」

戦士「伝え忘れたことがあったら、護衛が部屋の前にいるからその人によろしく」

勇者「……ああ」

554 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 01:56:40 jTUxEvpw



僧侶「戦士……」

戦士「やあ、僧侶ちゃん。勇者くんのお見舞いかい?」

僧侶「そのつもりだったが……」

戦士「やめておいたほうがいいよ。今はひとりにしてあげて」

僧侶「……そうだな」

戦士「それと……やっぱり彼女は敵のスパイだった」

僧侶「お前はどう思った、薬師が敵側の人間だと知って」

戦士「正直なところ、色々と思うことはあったよ。でも、もう彼女は生きていない」

僧侶「……生きていない、か」

戦士「彼女はボクらと敵対する道を選んだのに、最後は勇者くんを庇って死んだそうだ。
   彼女がなにを考えていたかは、ボクには推し量れない」

555 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 01:57:51 jTUxEvpw
戦士「でも色々な葛藤があったんだろうね。
   勇者くんの手の甲に、彼女は魔術でメッセージを残している」

僧侶「メッセージ? なにが書かれてたんだ?」

戦士「『部屋の床に隠した』とだけ書かれている」

僧侶「なにを、とは書かれてないのか?」

戦士「うん。おそらく見ればわかるものなんでしょ」

僧侶「……私は薬師が敵だと知ったとき、正直冗談かと思った。
   人を騙せる人間には、とても見えなかった」

戦士「そう思わせる訓練も、当然受けていたんだろうね」

僧侶「……」

戦士「どちらにしよう、もう彼女はいない。
   そしてボクらは進まなきゃいけない」

僧侶「……わかっている。止まるわけにはいかない」

556 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:00:58 jTUxEvpw



僧侶(戦士と別れ、一度私は家に戻ることにした)


女の子「あっ、シスター。よかった無事だったんだね」

僧侶「……」

女の子「どうしたの?」

僧侶「いや、まだ礼を言っていなかったと思って」

女の子「ああ、勇者のお兄ちゃんの行方? それのお礼はいいよ、仕事だったし」

僧侶「仕事、か。まさかあなたが私たちの監視役のひとりだったなんて」

女の子「陛下の思惑通り、誰も気づかなかったみたいだね」

僧侶「思いもしなかったよ」

女の子「監視役って一歩間違えると、敵にも狙われる可能性があるからね」


僧侶(そう言うと、彼女は私にウインクしてみせた)

557 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:04:24 jTUxEvpw



戦士(ボクは僧侶ちゃんとわかれて、薬師ちゃんの部屋へと向かった)


戦士「お待たせ」

魔法使い「遅い」

戦士「途中、勇者くんのとこに寄ったものでね」

魔法使い「……薬師の部屋に隠されていたもの」

戦士「罠の類とかは、なにもなかったってことだね」

魔法使い「……うん。はい、これ」

戦士「ひとつは……なるほど。これは、今は関係ないね」

魔法使い「問題はこっち」

戦士「カプセル状のこれは……」

魔法使い「それは、この場では、解析できない」

558 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:05:27 jTUxEvpw
戦士「これって彼女が第三番館から持ち出した……」

魔法使い「持ち出したのは、戦士」

戦士「……そうとも言うかもね」

魔法使い「第三番館から、持ち出した資料の、複製だと思われる」

戦士「じゃあこれが解析できれば、なにか状況の打開策が見つかる可能性があるわけね」

魔法使い「これを解析するには、相当時間がかかる」

戦士「キミでもかい?」

魔法使い「賢者クラスならともかく、私では……」

戦士「賢者は例の爆発事故で全員殺されてるからね」

559 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:06:19 jTUxEvpw
戦士「いや、事故に見せかけて赤ローブが始末した、と言ったほうが正しいね」

魔法使い「……敵は、まだ味方にいるかも」

戦士「それなんだよね。おかげでボクは余計に忙しいよ」

魔法使い「……嘘つき」

戦士「バレた? 実は普段の仕事は他の人にやってもらってるからね」

魔法使い「……それと、勇者の検査の結果で、わかったことがある」

戦士「なにかまずいことでも判明した?」

魔法使い「……真勇者追跡任務時の勇者についての記録」

戦士「彼女がつけていたもののこと?」

魔法使い「うん」

560 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:09:45 jTUxEvpw
魔法使い「勇者の状態が不安定だったのは、彼女が投与していた薬のせいだった」

戦士「その薬っていうのは?」

魔法使い「大別すると、二種類。ひとつは。魔力を無理やり底上げするもの」

戦士「もうひとつは?」

魔法使「魔力をおさえるもの。どちらも、かなり強い薬」

戦士「なるほど」

魔法使い「魔力を、活性化させるものから、おさえるものに途中から変わっている」

戦士「勇者くんと冒険するうちに、彼女の中でなにかが変わったのかな」

魔法使い「……そう、かも」

戦士「まあ、とりあえずは勇者くんが無事みたいでよかった」

561 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:10:16 jTUxEvpw



真勇者『あの男が、五百年前の事件に関与している?』

薬師『ええ、おそらく。
私はあの方が裏でなにをしているのか、把握しています』

真勇者『……』

薬師『あなたにも思い当たる節があるんじゃないですか?』


真勇者『……俺を復活させたのは、この国の人間だ』

真勇者『そして、俺の記憶を完全なものにしたのはヤツだ』

真勇者『ヤツは俺のことを妙に知っていた……』


薬師『私もあなたも、利用されているだけなのかもしれません』

真勇者『……そうだとして、なぜお前はあの男を裏切らない?』

薬師『たとえ利用されていても、魔物を滅ぼせるなら、それで私はいいのかもしれません』

562 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:11:28 jTUxEvpw
真勇者『なぜそこまで魔物を滅ぼそうとする?』


薬師『自分でもわからないんです。でも、魔物の存在が憎くてしかたがないんです』

薬師『視界に入ってきただけで、殺したく殺したくて仕方がなくなるんです』

薬師『今でも目を閉じれば、私の大切な人たちを殺した魔物の姿が浮かびます』

薬師『自分でもおかしいことはわかっています。でも……制御できない』

薬師『憎いって感情を殺すことができなんです』

薬師『自分でもどうかしてるとは思います。でも……』


真勇者『……アイツらを裏切ってでも、達成したい野望ってわけか』

563 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:12:18 jTUxEvpw
薬師『裏切るもなにも、最初から仲間ですらありません』

真勇者『だったら、なぜお前はそんな顔をする?』


薬師『わからないんです。自分の気持ちが理解できないんです』

薬師『ずっと魔物を滅ぼすためだけに生きてきたのに』

薬師『あなたには迷いはないんですか?』


真勇者『俺にはもうこの道しかないからな』

薬師『私は……彼のことが好きなのかもしれません』

真勇者『……』

薬師『ひらすらがむしゃらに、まっすぐに生きている彼が』

564 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:13:09 jTUxEvpw
薬師『彼はこんな私でも、迷わず守ってくれました』

薬師『私の故郷の人たちもそうでした』

薬師『私なんかを守るために、凶暴な魔物に立ち向かいました』

薬師『……彼が私のことをどう思っているのか、それは知りません』

薬師『でも私がやろうとすることを、彼は絶対に理解してくれません』


真勇者『だから敵対するのか?』

薬師『相容れないなら、そうするしかないでしょう』

真勇者『どうだかな。お前にはまだべつの道があるんじゃないのか』


薬師『私は迷っていると言いました』

薬師『それでも、私の前にある道は一本です』

565 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:14:47 jTUxEvpw



真勇者(……どうやらこの培養槽の中で眠っていたらしいな)

真勇者(やはりこのからだは、力を取り戻さないとダメなようだな)

真勇者(いや、あるいは俺の寿命もそう長くないのか……)

真勇者(どちらにしよう万全に近い状態で、ヤツから力を取り戻さなければいけない)

真勇者(しかし敵がここを嗅ぎつける可能性もゼロではない)

真勇者(ならば……)



真勇者「この国が造りあげたもので、この国を追い詰めてやろう」

566 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:15:36 jTUxEvpw



魔法使い『この旅を終えたらなにがしたいか?』

勇者『ああ。なにかあるだろ?』

魔法使い『あるにはあるけど、どうしたの?』

勇者『なにがだ?』

魔法使い『いつもは魔物の戦い方がどうとか、退屈な話しかしないくせに』

勇者『べつに。特に理由はない』

魔法使い『うそだー。絶対なにかあるでしょ? 勇者らしくないもん』

勇者『……戦士に聞かれたんだ。魔王をたおしたらどうするんだって』

魔法使い『へえ。アイツが。なんか意外』

勇者『やはり、お前もそう思うか』

魔法使い『まあね。勇者はどうしたいの?』

勇者『……』

567 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:16:49 jTUxEvpw
魔法使い『なに、言いたくないの?』

勇者『いや……』

魔法使い『なんなの? はっきり言ってよ』

勇者『……ないんだ』

魔法使い『え?』

勇者『なにがしたいとか、正直あんまりないんだ』

魔法使い『ええー。なんか一個ぐらいはあるでしょ?』

勇者『本当にないんだ。魔王をたおすことで頭がいっぱいというか……』

魔法使い『ふふっ……』

勇者『なにがおかしいんだよ?』

魔法使い『だって百体の魔物に、囲まれたみたいな顔してるんだもん』

568 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:18:24 jTUxEvpw
魔法使い『なんか意外。勇者もそういう表情するんだね』

勇者『……そうだな』

魔法使い『んー、でも私も具体的な計画とかがあるわけじゃないよ』

勇者『それでもいいから教えてくれないか?』

魔法使い『私は自分の魔法をね、人の役に立てたいの。
      魔法ってけっこう色んな使い道があるしさ』

勇者『そうか、そういうのでもいいのか』

魔法使い『そうだよ。勇者は難しく考えすぎだよ。
でも、どうしても思いつかないって言うなら私が一緒に考えてあげる』

勇者『お前が?』

魔法使い『なによ、不満なの?』

勇者『いや……心強いよ』

魔法使い『ふふっ、よろしい』

569 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:19:58 jTUxEvpw



勇者『どうして俺を庇った……!?』


魔法使い『……だって、仕方ないでしょ……守りたかったんだもん』

魔法使い『それに……勇者が……助けてくれなかったら、どうせ異端審問局の連中に……』


魔法使い『……殺されてたしね…………』

勇者『もういいっ! しゃべるなっ! 今誰か回復できる人間を……』

魔法使い『ダメっ……! 今ここを飛び出したら……いくら、勇者でも……』

勇者『だけど……!』

魔法使い『……そういえば、見つけられた……?』

勇者『……?』

魔法使い『やりたいこと』

勇者『今はそんなこと言ってる場合じゃないだろっ……!』

570 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:21:33 jTUxEvpw
魔法使い『ふふっ……やっぱり見つかってないんだね』

勇者『……そうだ、まだ見つかってないんだよ……だから、だから死ぬな……っ!』 

勇者『俺と一緒に考えてくれよ……俺のそばに……』


魔法使い『……大丈夫……勇者は強いもん……』

魔法使い『私は……たぶん、もうダメ、かな……でも……勇者は生きて……』

魔法使い『あなたは……みんなの希望、だから……』


勇者『まてっ……なにをする気だ……!?』


魔法使い『……ごめんね』

571 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:23:45 jTUxEvpw



勇者「――っ!」


勇者(なんだ今の夢は……!?)

勇者(オレの記憶は、あの赤ローブのヤツが言うには)

勇者(八百年前の勇者よりさらに前の勇者の記憶らしいけど……)

勇者(だけど、この夢に出てきてるのは真勇者じゃないのか?)

勇者(アイツの力の一部をオレはもっている)

勇者(だから真勇者は、オレをねらった。そしてあの赤ローブの連中も)

勇者(赤ローブ……薬師……)


真勇者『自分の非力のせいで仲間が殺された気分はどうだ?』


勇者(オレが強かったら、薬師は死なずに済んだのか?)

572 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:24:41 jTUxEvpw
勇者(なんでオレを庇ったんだ薬師……)


勇者「くそっ……!」

勇者「死ぬってなんだよ……わけわかんねえよ……」


竜人「失礼します……勇者殿、目が覚めましたか」

勇者「……竜人」

竜人「魔力が非常に不安定な状態だったため、相当強い製剤を打ち込んだと聞きましたが」

勇者「そうだな。注射を打たれたよ。からだがなんだかダルイ」

竜人「普通だったら一日は眠り続ける薬らしいです。無理に動かないほうがいい」

勇者「……なあ、竜人」

573 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:26:37 jTUxEvpw
竜人「なんでしょうか?」

勇者「……いや、なんでもない。悪いけど、帰ってくれないか」

竜人「私は現在勇者殿の護衛なので。……部屋の外で待機しています」

勇者「……ごめん」

竜人「いえ、今のうちに少しでも休んでください」


勇者(俺は瞼を閉じた。今はなにも考えたくない)

574 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:27:41 jTUxEvpw



王「俺の側近であるアイツは敵の首謀者で、殺されたのは全く関係のない人間だった。
  しかし、結局真勇者に殺されたか」

戦士「ええ」

王「……」

戦士「陛下?」

王「いや、すまん。俺もさすがに動揺している」

戦士「とにかく今は、真勇者を捕獲することを最優先に行動するべきでしょう」

王「だが、手がかりがまるでない。真勇者のねらいもわからない」

戦士「いえ、まったくないわけでもありません」

王「薬師が残した第三番館資料の複製か。
だが、俺たちをかく乱するための罠かもしれんぞ」

戦士「その可能性はあります。ですが、足がかりとなるものは、これしかありません」

575 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:29:07 jTUxEvpw
部下「魔法使い殿がお見えになりました」


魔法使い「……」


王「資料解析の最中に悪かったな。あとは僧侶か」

戦士「陛下、なぜ私たちを集めたのですか?」

王「それについては、僧侶が来たら話そう」

魔法使い「……なら、今のうちに、話しておきたいことがある」

王「なんだ?」

魔法使い「例のサイクロプスについて」

戦士「そういえば、そんなのもいたね」

576 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:31:03 jTUxEvpw
王「いちおう資料には目を通したが、勇者や俺とそっくりなんだろ?」

魔法使い「……うん」

戦士「勇者くんや陛下とそっくりって……なにが?」

王「構成している物質や、勇者的な魔力。
  そういった要素から見たとき、俺たちとそのサイクロプスはそっくりってわけだ」

魔法使い「そう」

戦士「たしかそのサイクロプスって、普通のに比べるとかなり強かったんだよね?」

魔法使い「異常な回復力。火を吐く、など」

戦士「しかもその魔物って、例の赤ローブの研究機関で開発されたものらしいね」


戦士(なんだこの感じ……謎が連なっていくような感覚)

577 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:32:32 jTUxEvpw
王「ん? なにか騒がしいな」

部下「陛下、失礼します」

王「なにかあったのか?」

部下「――の村で、突然大量の魔物が現れ、現在市警が駆除にあたっています!」

王「魔物がなぜ……また状況がわかり次第報告しろ」

部下「はっ……! それから僧侶殿がお見えになりました」

王「通せ」


僧侶「遅参いたしまして、申し訳ございませんでした」


王「構わん。急に呼び出してすまなかったな」

578 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:33:15 jTUxEvpw
戦士「……勇者の混合体……災厄の女王…………生まれない勇者……」

魔法使い「戦士?」

戦士「待って。わかりそうな気がするんだ……なにか、答えのようなものが……」

部下「新たに入った情報をお伝えします!」

王「なんだ?」

部下「市警の大半が魔物によって負傷しました。それから……」

王「早く言え」

部下「は、はい。殺したはずの魔物が復活した、という報告がありました……」

王「なに……?」

僧侶「どういうことだ? あのサイクロプスのような魔物が現れたのか?」

579 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:34:17 jTUxEvpw
王「側近に魔物討伐の部隊を編成させろ」

部下「はっ!」

王「誰かが魔物を操っているというのか。だとすると、ヤツか」

魔法使い「真勇者が、赤ローブの造った魔物を、操っている?」

王「その可能性はかなり高い。だが、今はまだ可能性の段階だ」

戦士「……もしかしたら、わかったかもしれない」

僧侶「今回の魔物を操っている者の正体か?」







戦士「わかったのはそっちじゃない。
   どうして五百年間勇者が現れなかったのか、その謎の答えだ」

580 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 02:34:55 jTUxEvpw
つづく

581 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 08:59:18 zDm9UdPo
毎度、切り方が上手い

はよ

582 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/25(火) 13:00:05 uWHvZXIQ
ついに前作からの謎が明かされるのか

584 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:02:29 q4bc09v2
王「……わかったのか?」

戦士「完全にわかったわけではありません。間違っているかもしれません」

王「いいから話せ」

戦士「勇者は五百年、生まれてなかった。
   この前提がそもそも間違っている……と思う」

王「勇者が生まれてないって前提が間違っているって……どういうことだ?」

戦士「生まれた勇者は、全部殺されていた」

王「殺す? なぜだ?
  勇者を戦争兵器にするために、わざわざ勇者魔王の争いを仕組んでいたんだぞ」


戦士「実験材料にされていた、というほうが正確でしょうか」

戦士「陛下や勇者くんみたいな存在を量産できたら、勇者単体より驚異だと思いませんか?」

585 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:03:58 q4bc09v2
僧侶「総合的に考えれば、たしかにそうかもしれないが。いくらなんでも……」


王「仮にそうだとすると、ある問題にぶち当たる」

王「勇者が勇者であると、選別できなければいけないってことだ」


戦士「ええ、それなんです。その問題さえ解ければ……」

王「……国の人間を一人一人、勇者かどうか確認する。そんなことができるか?」

戦士「非常に難しいでしょうね」

魔法使い「しかも、誰にも、気づかせない方法で、なければならない」


戦士(……やっぱり、ボクの勘違いなのか?)


僧侶「……国民全員が漏れなく受けるもの、ひとつだけ心当たりがある」

戦士「本当!?」

僧侶「ああ――幼児洗礼だ」

586 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:16:13 q4bc09v2
王「洗礼……」

戦士「それだっ! そうだ、それでほとんどの謎は解決するっ!」

僧侶「思いつきで言ったんだが、正解なのか?」

戦士「いや、むしろそれしかないと言ってもいい! これですべての辻褄があうんだ!」

王「わかるように説明してくれ」


戦士「はい。勇者くんから、陛下の元側近の話を聞きました」

戦士「そこで、奇妙だなと思ったことがありました」

戦士「災厄の女王に、勇者と魔王の混合体を造らせる、これだけならまだわかります」

戦士「しかし、国は実験がミスをするよう仕向けたあげく」

戦士「自らの国を半壊させた。奇妙極まりないことをしている」

587 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:17:23 q4bc09v2
僧侶「たしかに」


戦士「だけど、これがもし教会の権威を失墜させるためだったとしたら?」

戦士「災厄が起きる直前に、魔法使いによる記憶操作事件があった」


魔法使い「魔女狩りのきっかけにもなった事件……」


戦士「そう。勇者魔王の混合体を造るために行われたものだ」

戦士「この事件以降は、人体に直接影響を及ぼす回復魔術は、一切禁じられた」

戦士「こうした流れの中で、もうひとつ影響を受けたものがある」


王「なるほど。同時に教会の人間も、その本分を失ったってわけか」

588 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:20:33 q4bc09v2
戦士「ええ。復活や癒しの魔術が使えなくなり、勇者もいなくなった」

戦士「もともと教会の権威は、勇者によって支えられていたと言っても過言ではなかった」

戦士「勇者が消えた上に、癒しの術を使えないとなれば、教会の権威は堕ちるしかない」

戦士「そして、教会は国の傘下に入った」


僧侶「そうか! 幼児洗礼が義務になったのも、教会が国の傘下に入って以降だ!」


戦士「いつか僧侶ちゃんは、この国の医療技術と魔物の体制に違和感があるって言ったよね?」

僧侶「え? ……ああ。私の単なる思い過ごしかと思ったが」

戦士「それも、あのサイクロプスのような存在を造る過程の副産物なのかもしれない」


王「たしかに並みの実験では、俺たちのような存在は造れないだろうな」

戦士「それに、今の人間の支配下にある魔物の状態は、実験材料の確保に適している」

僧侶「じゃあ、それも……」

戦士「あくまでボクの推測だけどね」

589 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:22:56 q4bc09v2
王「だが、なぜ洗礼で勇者が勇者であるとわかるんだ?」

戦士「……」

王「……おい」

戦士「いやあ、さすがにそこまではボクもわかりません」

王「……しかし、戦士の憶測は筋は通っているな」

戦士「それと、勇者たちは必ず教会送りにされているという法則があったよね」

僧侶「結局わからないままだな」


戦士「それも、勇者の研究のためだったのかもしれない」

戦士「教会にかけられた巨費は、教会そのものを堅牢にするため。それと」

戦士「勇者の死体を弄るためのなんらかの装置があったせい……かもしれない」

590 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:24:13 q4bc09v2
戦士「勇者魔王の争いを仕組み、勇者を戦争兵器に仕立て上げた」


戦士「しかし、勇者のからだを調べていくうちに国は、新たな計画を企てた」


戦士「人口勇者を量産するという計画を」


戦士「そのためには、勇者を確実に見つける必要があった」


戦士「そして、当時権威を誇る教会を弱体化させ、傘下に入れるために」


戦士「災厄の女王に勇者魔王混合体を造らせ、その実験材料の魔物たちを暴れさせた」


戦士「その実験に国は関与していないことにし、責任のすべてを彼女に押し付けた」


戦士「そしてあとは、勇者を探し出し実験を重ね、勇者のまがいものを量産した」


戦士「魔界で魔王が生きていた以上、勇者は殺しても、また新たに生まれる」


戦士「とりあえず、こんな感じかな」

591 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:25:22 q4bc09v2
王「…………」

僧侶「…………」

魔法使い「…………」

戦士「えっと……みんな?」

僧侶「いや、なんとか話は理解できたんだが……とんでもない話だなと思って」

魔法使い「……うん」

王「この国の再建スピードやその他諸々のことを考慮すれば、十分ありえる話だな」

僧侶「勇者魔王混合体は、他国へのデモンストレーションの意味があったのかもな」

戦士「よその国にも量産型を横流しする、みたいな契約をしたのかもしれないね」

王「だとしたら、元老院のジジイどもが第三番館に誰も立ち入りさせないのは……」

戦士「はい。そこに見られたら困るものがある、ということでしょうね」

592 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:27:38 q4bc09v2
王「こりゃあ近いうちに、掃除してやらなきゃいけねえな」

戦士「色々な片付けが立て込んでて大変ですね」

王「ああ。だが、ようやく真実が見えてきたんだ」


戦士(しかし、結局真勇者の居場所はわかってないんだよね)


僧侶「それで陛下。わたくしたちを招集した理由は?」


王「おっと、そうだった。勇者についてだ」

王「真勇者の狙いは間違いなくヤツだ。アイツの扱いは今後の状況を大きく左右する」

王「俺の中での選択肢は二つだ」

王「ひとつは、ヤツをどこかへ逃がすという選択肢」

王「もうひとつは、ヤツにおとりとして働いてもらうという選択肢」

593 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:29:26 q4bc09v2
王「あのバカは、逃げる選択をすることはないだろう」

王「だが、今の状態で役に立つとは到底思えない」


部下「新たな報告です! ――の街付近の森で、新たな魔物の群れが出現しました!」


王「また……!?」

戦士「しかもさっきの出現場所と全然ちがう……」

王「戦士、もしお前の話が本当だとしたら危険だな」

戦士「ええ。その魔物たちもかなり手ごわい可能性がありますね」

魔法使い「私たちも、討伐に向かうべき?」

王「いや、魔法使いは資料解析を優先しろ」

僧侶「参加するとしたら、私と戦士か」

594 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:30:51 q4bc09v2
王「いや、まだお前たちはこちらで待機しろ。敵が王都を狙う可能性は十分にある」

戦士「これが真勇者の仕業だとしたら、なんのために魔物たちを……」

王「かく乱だろうな。間違いなくヤツは、魔物の出現場所にはいないだろう」

僧侶「だとすると、勇者も危険じゃあ……」

王「僧侶。勇者をここまで連れてこい」

僧侶「……いいのですか? 場合によってはここが……」

王「いや、少なくともすぐに真勇者がここを襲撃するとは思えない」

僧侶「わかりました。すぐ行ってきます」

王「……場合によっては、俺も出たほうがいいかもしれないな」

戦士「陛下自ら?」

王「ああ。量産型勇者、俺と似たような存在だ。だったら俺がヤるべきだろう」

595 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:32:10 q4bc09v2



竜人「僧侶殿、そんなに慌てて……なにかあったのですか?」

僧侶「実は……」


僧侶(私は簡潔に竜人に状況説明をした)


竜人「わかりました。しかし……」

僧侶「ああ、わかっている。だが急いだほうがいい状況だ」

僧侶「勇者、起きているか?」

勇者「…………なんのようだ」

僧侶「とにかく、今すぐ宮廷に来てくれ」

勇者「……」

僧侶「勇者っ!」

596 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:33:22 q4bc09v2
勇者「わかんないんだよ……なんでだ……どうして、オレは……」

僧侶「……?」

勇者「なんで薬師はオレを庇った? なんでオレは生きてるんだ……?」

僧侶「今はそんなことを言ってる場合じゃ……」

勇者「仲間が死んだんだぞっ! なんでお前らは普通でいられるんだよっ!?」

僧侶「それは……」


勇者「オレは……オレのせいで薬師は死んだ……っ!」

勇者「オレが弱いからだ……オレがもっと強かったら……」


僧侶「だ、だけど、それは勇者のせいじゃない……」

勇者「ちがうっ! オレがもっと強かったらアイツが死ぬことはなかったっ!」

597 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:34:33 q4bc09v2
勇者「そうじゃないのかよっ! ちがうなら教えてくれよ!」

僧侶「……」

勇者「……くそっ!」

僧侶「勇者、どこへ……」


僧侶(本当は勇者を追わなければいけなかった)

僧侶(だけど、私はそこから一歩も動けなかった)

598 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:35:13 q4bc09v2



勇者『本当に薬師はなんでも知ってるんだな』

薬師『そんなことはありませんよ。私が知ってることなんて』

勇者『そんなこと言ったら、オレはどうなるんだよ』

薬師『それは……』

勇者『なんで言いよどむんだよ』

薬師『あはは。でも、多くのことを知っていることって、必ずしもいいとは限りませんよ』

勇者『どうして?』

薬師『えっと……どうしてでしょうね?』

勇者『なんか薬師が知らないこと、ないかな』

薬師『いくらでもありますよ』 

勇者『あっ! じゃあさ……』

599 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:36:04 q4bc09v2



王「よう、ここにいたか」

勇者「……なんでオレの場所がわかったんだ」

王「優秀な監視役が何人かいるからな」

勇者「オレの監視役は薬師じゃなかったのか……?」

王「死んだ人間が、どうやってお前の監視をするんだ?」

勇者「……っ!」

王「俺を睨んだって、なにも変わりゃしない。それより、ウロチョロされるのは迷惑だ。
  真勇者の狙いが自分だってことぐらい、わかってるだろ」

勇者「……」

王「ったく、ガキみたいにふてくされてんじゃねえよ」

勇者「そんなんじゃない……っ!」

600 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:37:14 q4bc09v2
王「そうか。だったら今すぐに逃げろ。逃亡ルートならきっちり手配してやる」

勇者「それでどうなる?」

王「あ?」

勇者「オレなんかが、生き残ってどうなるんだ。
仲間のひとりも守れないオレなんかが……」

王「なにか勘違いしてるようだな。お前のためを思って言ってんじゃない」

勇者「……」

王「真勇者にお前の力が渡ったら困るんだよ。手がつけられなくなるからな」

勇者「だったら……だったら、殺せばいいだろうが……っ!」

王「……なに、お前を殺せば済むって言いたいのか?」

勇者「そうだろうがっ! それで終わりだろ!?」

601 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:38:31 q4bc09v2
王「いやあ、なるほどね。うんうん、それはいいアイディアだ」

王「だが、ダメだ」


勇者「……どうして?」

王「お前は真勇者をおびき寄せるエサになるからな」

勇者「エサ、か」

王「……それでも構わないって顔してるな」

勇者「…………」

王「今、お前の仲間は魔物の討伐に向かっている」

勇者「……魔物? また真勇者がなにかしているのか?」


王「おそらくな」

王「そして、その魔物はお前がいつかやりあったサイクロプスと同種だ」

602 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:40:21 q4bc09v2
勇者「だったら相当強いってことか……」

王「そうだ。最初に対応した市警の中には、何人か死者が出ている」

勇者「……みんなはもう行ったんだよな? 魔物の退治に」

王「ああ。俺もこれから参戦するつもりだ」

勇者「王様が?」

王「ああ」

勇者「だけどオレは……」

王「自分が足でまといにしかなれないと思うなら、今すぐ逃げろ」

勇者「…………」

王「いつかお前はオレに啖呵を切ったな。仲間が死ぬのは絶対にイヤだって。
  だから守ってみせるって」

603 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:41:27 q4bc09v2
勇者「そうだよ、言ったよ。でもオレは自分の言ったことを守れなかった」

勇者「えらそうなことを言っておいて、このざまだ」


王「……ああ、情けないったらありゃしないな。
  だが、お前の仲間は薬師ひとりなのか?」

勇者「……」

王「お前が守るって言った仲間は、ほかにもいたんじゃないのか?」

勇者「そうだよ。僧侶だって、魔法使いだって、戦士だって……みんな仲間だ」


王「お前の仲間だって、それぞれの場所で必死に戦っている」

王「どんな人間だってな、常になにかと闘ってるんだよ」

王「自分の命を賭けてな」


勇者「……王様は、人の死に触れたことがあるんだよな?」

604 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:43:03 q4bc09v2
王「そんなもん誰だってある。まあ俺の場合は長く生きてる分、余計にな」

王「色んな生き方がある一方で、色んな死に方もある」

王「くだらない理由で命を落とすヤツもいた。自分の使命のために死んだヤツもいた」

王「そしてお前は、薬師が死んだ瞬間を見ただろ」


勇者「オレは……薬師のこと、なにもわかってなかったんだ」

勇者「オレ、アイツが知らないことってなにかないかなって考えたことがあって」

勇者「思いついたんだ。ひとつだけ……魔界のことだった」

勇者「だから、薬師になにか教えてもらうたびに、オレもよく魔界のことを話した」

勇者「バカだった。薬師のこと、なんにもわかってないで得意げに話して……」

605 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:44:46 q4bc09v2
勇者「……オレにはまだ理解できないんだ。死ぬことがどういうことか」

勇者「死ぬってなんだ?」 


王「二度と会えなくなることだ」

勇者「……!」

王「……これをお前に渡しておく」

勇者「これって、薬師がつけてくれたオレの記録帳……」

王「あの女の部屋に隠されていたものだ」

勇者「どうしてこんなものを……」

王「さあな。だが、薬師にも葛藤があったはずだ。
  そして、葛藤の末の答えが薬師の結末だった」

勇者「……薬師」

王「その記録帳はそんな迷いの一部だったのかもな」

606 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:45:54 q4bc09v2
王「俺は行く。あと、これを渡しておく」

勇者「これは?」

王「億が一、お前が仲間を助けに行きたいと思ったのなら使え」

勇者「……」


王「逃げ続けた俺の言ったことだ。的外れなことを言っているかもしれない」

王「だが、それでも誰もが戦っている」

王「お前はどうする?」


勇者「オレは――」

607 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:46:35 q4bc09v2




勇者(この記録って、オレが真勇者を追っていたときのなんだよな)


勇者(……はじめて会った頃の記録はすごい簡潔だな)


勇者(そうだったな。最初は薬師にどう接していいかわからなかった)


勇者(そんなオレに対して、薬師も困ってたんだよな)


勇者(でも……少しずつだけど、仲良くなって……)


勇者(最後のページになにか書いてある……)

608 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:48:05 q4bc09v2
『あなたがこれを読んでいるとしたら、私はもうあなたの隣に立つことはできないでしょう。
 
 私が、自分の進む道のためにあなたたちを騙していたこと。
 
 私のなにもかもが嘘だったということ。

 あなたはもう知っているはずですから。
 
 ただ、一つだけ。
 
 あなたと一緒に旅をして感じた幸せだけは本物だと、そう思っています。

 あなたはあなたの道を進んでください。さようなら』

609 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:48:56 q4bc09v2
勇者「さようならってなんだよ……」


勇者「裏切るわ騙すわ、勝手に言いたいことだけ言って……ふざけんなよ」


勇者「オレだって薬師に言いたいこと、たくさんあったのに……!」


勇者「……ぅっ、死んだら……もうっ……なにも言えないだろうがっ……!」

610 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:50:13 q4bc09v2




勇者『姫、あなたは魔王をどうするつもりなんだ?』

姫『彼は最後、自らあなたの剣へと飛び込んだ』

勇者『……』

姫『彼が差し出した命、無駄にするわけにはいきません』

勇者『……すまなかった。俺が……』

姫『勇者様は悪くありません。あなたは自分の使命を全うした。……彼もそう』

勇者『姫は、これからどうするんだ?』

姫『もちろん、私のやることは決まっています。勇者と魔王の争いをなくす。
  彼のような犠牲を出さないためにも』

勇者『犠牲、か』

姫『私は人も魔物も関係なく、みんなが幸せな生活を送れる世界を造る』

611 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:51:02 q4bc09v2
勇者『まさしく理想論だな』

姫『ダメですか?』

勇者『え?』

姫『理想を掲げることは駄目ですか?』

勇者『駄目とは言ってない。だが、姫が言っていることは困難極まりないことだ』

姫『わかっています。でも、やらなきゃなにも始まりません。
  それに彼との約束ですから』

勇者『魔王と約束したなんて、国民が知ったらどう思うんだろうな』

姫『罵詈雑言の嵐でしょうね』

勇者『それでもやるんだな』

姫『はい、だって――』

姫『幸せでありたいって思う気持ちに、人も魔物も関係ないでしょう?』

612 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:51:59 q4bc09v2



真勇者(……人も魔物も関係ない、か)


真勇者(そのとおりだ)


真勇者(魔物は恐ろしい存在だと、かつて俺たちは教えこまれていた)


真勇者(だが、人間だって変わりはしない)


真勇者(そうだ、俺の本当の敵は……)


真勇者(……落ち着け。感情を昂ぶらせてはいけない)


真勇者(体調が万全になるには、まだ時間がかかる)


真勇者(今は待つんだ)

613 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:52:54 q4bc09v2
僧侶「……っ!」


 この地帯では絶対に見かけることのない、オーク。
 それが僧侶目がけて拳を振るった。巨大な腕を掻い潜り、敵の懐に入りこむ。


僧侶「――っはあぁぁ――!」
 

 敵の腹を炎の拳で殴りつける。だが、致命傷にはならない。
 今度は拳を敵の足もとへ。衝撃。
 地面から勢いよく突起が出現し、魔物が宙を舞う。


戦士「お見事……と、言いたいところだけど」

僧侶「ああ。コイツら、何度やってもキリがない」

614 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:54:29 q4bc09v2
戦士「何度たおしても、すぐ復活する」

僧侶「一撃で敵の全身を焼き尽くすぐらいの呪文じゃないと……」

戦士「数自体はそんなに多くないんだけどね」

僧侶「戦士、水系の魔術は使えないんだよな?」

戦士「残念なことにね、他のメンバーにいないこともないけど……」

僧侶「魔法使いクラスじゃなきゃ、意味がないな」

戦士「……って、喋ってる場合じゃないね」

僧侶「とにかく打開策を見つけるまで、粘るしかない、かっ!」


 飛びかかってきたウルフの顔面目がけて、拳を振るう。
 たしかな手応えとともに魔物が吹っ飛ぶ。すぐさま拳から衝撃波を放つ。

615 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:56:03 q4bc09v2
 だがウルフに気をとられていたことで、他の魔物への警戒が疎かになっていた。
 音もなく背後に忍び寄っていたサイクロプスの存在。
 それに気づいたときには、すでに敵の拳が僧侶に振り下ろされていた。
 

僧侶「しまっ……」
 


勇者「させるかああぁっ!」


 不意に現れた影が、敵の腕を切り裂いた。魔物が激痛に悲鳴をあげる。


僧侶「え……」

勇者「待たせた!」

戦士「待ってたよ!」


 僧侶の目の前に現れたのは勇者だった。
 だが、魔物たちは突然現れた勇者を見ても、怯むことなく突っこんでくる。

616 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:57:55 q4bc09v2
勇者「魔法使い、氷っ!」

魔法使い「――了解」


 飛びかかろうとした魔物たちの行く手を遮るように、突然巨大な氷が出現する。


勇者「もらったああぁっ!」 


 並みの人間ではまず造れない質量の氷壁。それを勇者は容赦なく切り裂いた。
 分厚く巨大な氷の壁が、音を立てて崩れていく。魔物たち目がけて。


勇者「戦士!」

戦士「そういうことねっ、わかったよ!」

617 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:59:13 q4bc09v2
 魔物たちを下敷きにした氷壁めがけて、戦士は紫炎を放つ。


勇者「僧侶、雷を頼むっ!」

僧侶「――まかせろ!」


 戦士の炎によって溶けた氷に、電撃の拳を打ち込む。


僧侶「もう一回……!」


 もうひとつの電撃の拳も、魔物目がけて放つ。
 眩い光。魔物たちの叫びがあたりに響き渡る。

618 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 01:59:48 q4bc09v2
僧侶「どうだ……?」

魔法使い「……おそらく、たおした」

戦士「なるほどね、こうやって確実に一撃で決めれば復活しないってわけか」

魔法使い「それでも、厄介なことには、変わりない」

戦士「たしかに。ボクらも勇者くんたちが来てくれなかったら、ヤバかったかもね」

勇者「……その、えっと……」

戦士「なに、ほんの数分前まですごい威勢よかったのに」

勇者「いや、まあその……そうなんだけど……」

僧侶「助かったよ、勇者」

勇者「……僧侶」

619 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 02:00:59 q4bc09v2
勇者「……っ」

僧侶「……どうした勇者?」

戦士「なんか目が潤んでるように見えるけど?」

勇者「な、なんでもないっ! とにかくすまなかった……!」

戦士「なにが?」

勇者「いや……その、なんていうか……」

戦士「言いたいことはわかるし、勇者くんの気持ちもわかるよ」

勇者「……ごめん」

戦士「いいってことよっ」

僧侶「とにかく今は、一旦ここから一番近い村へ行こう」

620 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 02:01:31 q4bc09v2
つづく

621 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 07:28:13 UPK5rxhE
乙!

過去作のうrlプリーズ

622 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 15:28:28 itoZiyeQ
乙!
勇者が現れない理由が予想の斜め上だった
普通だったら女神とかそーゆうのが絡んで来そうなもんで

623 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:30:07 qbHdJMTo



戦士「で、勇者くんはボクらを助けに来ようと思ったはいいけど。
    薬の効果が酷くて魔力が引き出せないってことで、魔法使いを頼ったわけね」

魔法使い「私も、勢いにまかせて、勇者についていった」

勇者「まあそんなところだ」

戦士「オッケー。ということは、魔法使いは当然、終わってないってことだよね」

魔法使い「ううん」

戦士「え? 解けてるの!?」

魔法使い「……予想とちがって、かなり解析しやすかった」

僧侶「なにが書いてあったんだ?」

魔法使い「名前」

勇者「なんの名前が書いてあったんだ?」

魔法使い「魔物の名前。それが、羅列されていた」

624 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:32:19 qbHdJMTo
僧侶「魔物の名前……そんなものに意味があるのか?」

勇者「なにかの実験に使われた魔物とか?」

僧侶「あの第三番館から持ち出したものだから、そういう類の可能性もあるのか」

戦士「でも、これは彼女が複製した資料で、敵がリスクを犯して盗んだものだ」
   敵の目的のモノのヒントだと思ったんだけど……」

勇者「…………なあ、戦士」

戦士「うん? どうしたの勇者くん?」

勇者「今話してくれた勇者の選別方法って、なんだったけ?」

戦士「洗礼のことかい? ていうか忘れるの早すぎ」

勇者「…………」

魔法使い「勇者?」

625 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:33:50 qbHdJMTo
勇者「……洗礼って、どうやって勇者だってわかるんだ?」

戦士「そこまではわかってない。それがわかれば、ちがってくるんだろうけど」

勇者「なにかないのか? 勇者にしか反応しないアイテムとか」

戦士「そんな都合のいいものは、さすがにないよ」

勇者「ないのか? 『勇者の剣』みたいな勇者専用の道具とか」


戦士「…………」

僧侶「…………」

魔法使い「……」


勇者「どうした、みんな?」

戦士「…………ひょっとして、それなのかな?」

626 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:35:44 qbHdJMTo
戦士「おとぎ話にしか登場しないものだと思っていたけど」

僧侶「……勇者、いつかお前は『勇者の剣』の話をしたな?」

勇者「ああ。『勇者の剣』についての記憶のことだな」

戦士「勇者にしか扱えない剣……なるほど、それならたしかに選別できる」

魔法使い「……でも、洗礼で選別してるっていうのが、戦士の推測のはず」

戦士「そうなんだよね。剣、関係ないし」


僧侶「でも『勇者の剣』は、実体を持たない剣だと言われている」

僧侶「だから、たとえばその剣が『水のようなもの』で、洗礼の水に使われていた」

僧侶「……とかだったら?
   ……って、いくらなんでも都合よく考え過ぎか」


戦士「いや、でも……ありえなくはないんじゃない?」

627 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:36:57 qbHdJMTo
魔法使い「確証はない」


僧侶「そのとおりだ。……でも……そうだ」

僧侶「私が持っている冒険の書、アレをつい最近見つけたんだ。
   冒険の書には、たしかに『勇者の剣』についての記載があった」

僧侶「もちろん、その冒険の書が絶対に正しいとはかぎらない」

僧侶「だが『勇者の剣』は勇者にしか扱えないという記述もあった」


戦士「……! じゃあ、赤ローブの連中が教会を探っていたのは本当に……」

勇者「そうだよ! きっとそれだ!」

戦士「でも、にわかには信じがたいっていうか……」


勇者「真勇者はオレの力を狙ってる」

勇者「それって自分の力が不完全で、『勇者の剣』が使えないからじゃないか!?」

628 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:38:15 qbHdJMTo
戦士「たしかに。なぜ勇者くんを狙うのかって、疑問の答えとしても、しっくりくる」

僧侶「それ、なのか……?」


魔法使い「勇者の剣。魔力を極端に、増幅させるもの。その剣に斬れぬものはない」

魔法使い「その剣の力が解放されたとき、勇者以外の者が触れれば、死に至る」

魔法使い「……という言い伝えが、ある」


勇者「決定だっ!」

戦士「いっきに真相にたどり着いた感じがするよ」

僧侶「……」

勇者「どうした僧侶? オレの顔がどうかした……いてててっ!」

僧侶「本当に勇者か?」

勇者「なんの話だよ!?」

僧侶「妙に勇者が鋭いと思ったから……本物みたいだな」

629 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:40:04 qbHdJMTo
戦士「ボクもびっくりだよ」

魔法使い「……コワイ」

勇者「お前らなっ!」

戦士「まあこれで、敵の狙いがほぼ完全に読めた」

僧侶「でも……真勇者の居場所はわからないままなんだよね」

勇者「そうだよなあ。あの資料も、魔物の名前が羅列されてるだけだしな」

僧侶「魔物の名前か。この魔物たちの名前に法則性があるとか……」

戦士「パッと見ただけじゃ、思いつかないね」

勇者「これって資料だろ? なんで暗号みたいなものにするんだよ?」

戦士「これが『勇者の剣』の在り処を示すものだとしたら?
   そう簡単にわかったらまずいでしょ?」

630 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:40:59 qbHdJMTo
勇者「それも、そうか……」

魔法使い「……ちがう」

戦士「え?」

魔法使い「これは、暗号なんかじゃない」

勇者「なにかわかったのか!?」

魔法使い「……一旦、私の家に戻りたい」

戦士「オッケー。この村のことは他の人間に任せよう」

631 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:42:04 qbHdJMTo



勇者「この記録でいいのか?」

僧侶「この記録、文字がよく読めない」

魔法使い「私たち、魔法使いは、魔女狩り以降、研究記録に手を加えている。
     特殊な魔術を用いないと、解読できない」

僧侶「なるほど。それで読めないわけか」

魔法使い「解読に時間が必要。三十分以内に、終わらすから、どこかで時間潰して」

勇者「わかった」

632 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:43:10 qbHdJMTo




僧侶「戦士は報告のために宮廷へ行ったが、私たちはどうする?」

勇者「……僧侶」

僧侶「どうした?」

勇者「あ、いや……」

僧侶「……? もしかして調子が悪いのか?」

勇者「そうじゃない。その……あのときは、ごめん」

僧侶「……」

勇者「えっと……」

僧侶「私が知るかぎり、あそこまで勇者が取り乱したのは初めてだったな」

勇者「……え?」

633 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:44:32 qbHdJMTo
僧侶「……その人に対する悲しみの深さは、その人に対する想いの深さ。
   そういう言葉を聞いたことがある」

勇者「想いの深さ……」

僧侶「私たちは薬師とそこまでの付き合いがあったわけじゃない」

勇者「……」


僧侶「裏切られた衝撃も、死んだ悲しみも、お前に比べればきっと小さい」

僧侶「それでも、薬師は私たちの仲間だった」

僧侶「私はあまり友達がいないから、嬉しかったんだ。
   薬師とは気の合う友達になれると思った」

僧侶「せめて、最期にもう一度だけ話したかった……」

僧侶「戦士も魔法使いも、口には出さないがショックだったはずだ」

634 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:46:16 qbHdJMTo
勇者「生きてたら、また今回みたいなことは起こるのかな?」

僧侶「死は私たちにとって身近なものだ。無関係でいることなんてできない」

勇者「また、こういう思いをするんだよな」

僧侶「……ああ。それどころか、次は自分が死ぬ番かもしれない」

勇者「……」

僧侶「魔界にいたとき、何度か死にかけたことがあっただろ?」

勇者「うん」

僧侶「勇者は怖いって思ったことはないか? ……私は何度も思った」

勇者「僧侶も怖いって思うんだな」

僧侶「前から気になってたんだが、お前は私をどういう人間だと思ってるんだ?」

635 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:47:11 qbHdJMTo
勇者「なんていうんだろ。男らしい?」

僧侶「……」

勇者「ご、ごめん。今のはナシで」

僧侶「無理だ。もう耳にこびりついてしまった」

勇者「……ごめん」

僧侶「勇者は私に謝ってばかりだな」

勇者「言われてみるとそうだな。なんでオレ、こんなに僧侶に謝ってばかりなんだろ?」

僧侶「……本気で言ってるのか?」

勇者「……けっこう本気」

僧侶「お前は反省してないみたいだな。あのセクハラ発言といい……」

勇者「セクハラ?」

僧侶「……もういい」

636 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:50:04 qbHdJMTo
僧侶「とにかく今は生き残ることだけを考えよう」

勇者「おう。……って、大丈夫か?」

僧侶「なにがだ?」

勇者「なんか顔色があんまりよくない気がしたからさ」

僧侶「さっきも言ったが、怖いんだ」

勇者「……」

僧侶「次は自分が死ぬ番かもしれない。
   あるいは、私の身近な人がそうなるかもしれない」

勇者「逃げたいって思わないのか?」

僧侶「逃げて解決するなら、いくらでも逃げる。でも、それでは解決しない」

637 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:54:14 qbHdJMTo
僧侶「それに、守るのはお前だけじゃない。
   お前が私を守るなら、私もお前を守る。約束だ」

勇者「ああ」


勇者(今度は――必ず守る)


魔法使い「……お待たせ」

勇者「魔法使い! 解読できたのか!」

魔法使い「……五ぐらい前に」

勇者「だったらもっと早く声かけてくれればよかったのに」

魔法使い「空気を読んだ」

勇者「……?」 

僧侶「ありがとう、魔法使い」

魔法使い「どういたしまして」

638 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:55:23 qbHdJMTo
勇者「それで、あの資料はなんだったんだ?」

魔法使い「アレはある場所を示す手がかりだった」

僧侶「魔物の名前から、場所が特的できるのか?」

魔法使い「うん。載っていた魔物は、その土地で出現するものを書いたものだから」

勇者「……つまり?」








魔法使い「そこに『勇者の剣』がある」

639 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:56:46 qbHdJMTo




王「なるほど。真勇者が追っていたのは『勇者の剣』だった、か」

戦士「……魔物討伐から戻ってくるのが早いですね」

王「俺の前ではあの程度の魔物、虫けら以下だ。優秀なワイバーンもいるしな」

側近「皇帝自らが率先して、魔物退治をするのもすごい話ですけどね」

王「力があるんだ。それを使わなくてどうするんだ」

側近「……おっしゃるとおりですね」

勇者「ていうか、早く真勇者を捕まえにいかないと……!」

王「わかっている」

側近「すでに腕の立つギルドの者を百名、待機させています」

戦士「さすがですね、師匠」

側近「僕は君を優秀に育て上げたんだよ、当然だろ?」

640 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/26(水) 23:58:45 qbHdJMTo
側近「あと二時間ほどあれば、さらに人員を追加できます」

王「見事な手腕だ。だが、相手は真勇者だ」

勇者「王様は勇者の強さを知ってるんですか?」

王「五百年前にな。ありゃあ全盛期の俺でもかなわないな」

僧侶「陛下ですから敵わないほどの強さ……」

王「数に任せたやり方で、勝てる相手ではない」

戦士「しかも、敵は間違いなく魔物を従えている」

王「ったく、厄介極まりないな」

魔法使い「それに、『勇者の剣』が、加わったら……」

王「おそらく完全に手がつけられなくなる」

641 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:00:19 wWt9iwBg
戦士「そうなると勇者くんには……」

側近「帰ってもらったほうがいいかもねえ」

勇者「へ?」

王「たしかにお前が隠れている分には、『勇者の剣』が使われることはないもんな」

勇者「そ、それはそうだけど……で、でも!」

王「なんだよ?」

勇者「いや、その……オレをおとりに使う作戦とか、なんかないの?」

王「おとりじゃなくて、そのままエサとして食われておしまいだろ」

僧侶「たしかに真勇者は強いしな……」

魔法使い「おつかれ」

勇者「ええ!?」

642 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:01:48 wWt9iwBg
王「真面目な話、お前には隠れてもらっていたほうがいいのかもしれない」

勇者「そ、そんな……」

僧侶「……」

王「ギルドメンバー追加まで、あと何時間だった?」

側近「二時間です」

王「それまでに結論を出す。今は待機していろ」

勇者「……」

王「俺の元側近が残した資料をもってくる。もしかしたら、そこになにかヒントが……」


勇者(側近……赤ローブ……)


勇者「待った!」

643 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:03:16 wWt9iwBg
戦士「おっ。なにかに気づいたかい、勇者くん?」

勇者「気づいた……まあ、そうだな。気づいたっていうか疑問っていうか……」

王「聞こうか」

勇者「その王様が言った元側近って、赤ローブのヤツのことだよな?」

王「そうだが?」

勇者「その人は側近なんだから、王様のそばにけっこうな割合でいたんだよな?」

王「ああ」

勇者「……もしかしたら、真勇者をたおすことができるかもしれない」

王「単なる思いつきで言ってるってわけじゃなさそうだな」

勇者「ああ――オレだからこそ、真勇者をたおせるかもしれない」

644 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:05:27 wWt9iwBg




少女『……どうして彼女はいつも泣いてるんだろ?』

勇者『彼女?』

少女『女王陛下のこと』

勇者『彼女は……泣いているのか?』

少女『そっか。あなたは見たことがないんだね、陛下が泣いているのを』

勇者『今では事務的なことでしか、会話しないからな。なあ』

少女『なに?』

勇者『お前が彼女をそこまで慕う理由はなんだ?』

少女『……わからない。生まれたときから、あの人のそばにいるのが当たり前だし』

勇者『自分の生まれ方について、なにも思わないのか?』

645 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:06:56 wWt9iwBg
少女『考えないことはないよ。でも、それを考えてなにか変わる?』

勇者『変わらないだろうな』

少女『でしょ? 変わらないことなんて、考えても仕方ないでしょ』

勇者『お前はなんでもシンプルに考えるんだな』

少女『悪い?』

勇者『べつに。いいんじゃないか』

少女『私はあの人が好き。だから、あの人の役に立ちたい。それで十分』

勇者『……』

少女『いちいち物事に深い理由はいらない。好きな人のためにがんばる、それで十分。
   勇者には好きな人や大切な人、いないの?』

勇者『俺には――』

646 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:08:20 wWt9iwBg



真勇者(また俺が勇者だったころの記憶、か)

真勇者(最近は、こんな夢ばかり見るな)



真勇者(――!)


真勇者(…………この気配は……アイツか……!)

真勇者(薬師。やはりあの女は、アイツらにヒントを残したか)

真勇者(万全には程遠いが、もはや構っていられない)


真勇者「俺の力、返してもらうぞ……!」

647 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:09:38 wWt9iwBg




勇者「あのデカイ建物が、この街の教会なのか?」

戦士「もともとこの街は、宗教がもとで栄えた街なんだよ」

僧侶「だからこそ、教会の権威が落ちてからの凋落も酷かった」

勇者「しかし、そこらへんに水がいっぱいあるんだな」

戦士「水の都、なんて呼ばれていたからね。
   運河を利用した交通も発達していたんだ」

勇者「なのに、今は誰も住んでないんだな」

戦士「色々とあったんだよ、この街も。
   ……魔法使い、どう?」

魔法使い「魔術で、確認したところ、魔法陣が辺り一面に、仕かけられている」

戦士「……どうやら、コソコソ隠れてもムダみたいだね」

魔法使い「うん」

648 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:11:02 wWt9iwBg
魔法使い「勇者、魔力の使い方は、覚えてる?」

勇者「ああ、ここに移動するまでにずっと練習してきたけど、たぶんいける」

魔法使い「……わかった。あと、魔力増幅剤」

勇者「ありがとう」

戦士「……みんな、長く話している時間はないから、ひとつだけ言っておく」

戦士「とにかく生き残れ! オッケー!?」


僧侶「ああ!」

魔法使い「了解」

勇者「おうっ!」

649 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:12:22 wWt9iwBg
 街のいたるところに仕掛けられていた魔法陣が発動し、光が弾ける。
 魔物の咆哮が街全体に響き渡り、運河の水面が揺れる。


戦士「さて、予想通り敵の魔法陣が発動したね」

僧侶「なんて数だ……」

勇者「だけどこっちも!」

魔法使い「――発動」

戦士「これで、こちらの転移用の魔法陣も発動したんだよね?」

魔法使い「もちろん」

勇者「よし、オレたちも行くぞ」

650 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:14:06 wWt9iwBg



王「魔物一体に対して、三人で当たれ! 一撃で決めない限り、復活するぞ!」

部下「了解!」

王(変身してるとはいえ、こういう形で人に指示するのは初めてだな)


王「しかし、ここまでの数の魔物を揃えているとはな――お前ら伏せろっ!」


王(こりゃあ魔術の出し惜しみなんてしている場合じゃないっ!)


 大きく跳躍して、味方と魔物の位置を瞬時に把握する。
火炎の魔術を発動する。地面から巨大な火柱が次々とあがり、魔物たちを燃やし尽くす。


部下「お見事っ!」

王「はっ、誰にもの言ってんだ!」


王(こうなると、やはりカギはアイツらか――頼んだぞ勇者たち!)

651 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:15:31 wWt9iwBg



戦士「よりによってこの街、教会が最奥にあるんだよね」

勇者「どう行っても魔物と遭遇しないのは無理、かっ……!」

戦士「勇者くん、息あがってない?」

勇者「まだまだ余裕だっ!」


 翼の生えたオークが、跳躍とともに勇者と戦士めがけて攻撃をしかけてくる。
 拳が地面にめり込み、砂埃が舞う。


勇者「さっきからコイツ、オレばかり狙ってきやがって……!」
 

 魔法使いが魔術の水弾を放つ。
 背中に直撃するが、オークは構わず勇者に突っこんでくる。


勇者「しつこいっ……!」


勇者(なんでコイツ、オレを執拗に追いかけてくるんだ……!?)

652 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:16:55 wWt9iwBg
戦士「まさか……勇者くんっ!」

勇者「え――」


 走る勇者の足もとから、強烈な光が起こる。


勇者(魔法陣!? そうか、そういうことか!)


 視界が真っ白に染まる。
 あまりの光にまぶたを閉じる。音がすべて消え失せる。


僧侶「……勇者っ!」
 

僧侶が叫んだときには、勇者の姿は跡形もなく消え失せていた。

653 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:21:14 wWt9iwBg




勇者「――っ!」



勇者(しまった。あと少し、早く気づくべきだった)

勇者(あの魔物はオレを移動させるための罠だったんだ……!)


 勇者の予想よりも遥かに広い教会。その中心に佇む人影。



真勇者「自分から命を差し出しにくるなんてな、愚かだな」



 かつて勇者だった男がそこにはいた。


勇者「自分でもそう思うよ」


 張り詰めた空気が勇者の肌に刺さる。無意識に息をのんでいた。

654 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:22:31 wWt9iwBg
勇者「アンタの狙いは『勇者の剣』を手に入れることだな」

真勇者「……わかっていたか」

勇者「薬師が残してくれた資料のおかげでな」

真勇者「……やはりあの女か」

勇者「アンタはその剣を手に入れてどうするつもりだ……?」

真勇者「言ったはずだ。すべてを正すと」

勇者「『勇者の剣』の力でか?」

真勇者「そうだ」

勇者「アンタが言う過ちっていうのを、オレも知った!」

真勇者「知ったから、なんだというんだ? 
    すべてを失った俺のなにがわかるっていうんだ」

勇者「オレは……」

真勇者「造りもののお前が、偽物のお前が、わかったような口をきくな」

655 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:24:56 wWt9iwBg
真勇者「なんの過去ももたないお前の言葉に、意味はない」

勇者「……っ」


薬師『あなたにはわかりません。過去をもたないあなたに、私のことなんて――』


勇者(あのときも、オレは薬師になにも言えなかった……!)


真勇者「終わりだ――」

勇者「……!」


 目の前に真勇者がいた。
 いつの間にか抜かれた剣が、勇者の胴体を横ざまに切り裂く。


勇者「……っ!」


 気づくのが遅すぎた。
 飛び退いたが、真勇者の剣は勇者の胴体を捉えていた。

656 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:27:14 wWt9iwBg
勇者「ぐっ……ぅうぅぅ……!」

真勇者「あっけないな。しょせんは偽物で、出来損ないか」

勇者「……まだだっ!」


 勇者はあるものを口に含んで嚥下した。


真勇者「無駄だ」 


 真勇者の剣が帯電して音を立てる。
 振り下ろされた切っ先から、電気の本流が勇者に向けて放たれる。


勇者「……っ!」


 だが、電撃は勇者に直撃しなかった。すでに勇者はその場から消えていた。


真勇者「……?」


 次の瞬間、勇者は真勇者の背後に現れていた。

657 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:28:34 wWt9iwBg
勇者「そこだああぁっ!」


 剣を真勇者の背中目がけて振り下ろす。

 だが勇者の剣が敵の背中をとらえることはなかった。
 不意に目の前で火柱があがる。勇者はとっさに跳んでかわした。
 あと少し反応が遅れていたら、全身を炎に飲みこまれていた。


勇者「くっ……!」

真勇者「魔力を無理やり底上げして、力を覚醒させたか」

勇者「正解、だっ!」


 勇者の全身を包むように漂う、漆黒の魔力。それを剣先に集中させる。 

 地面を蹴る。真勇者が地面に剣を突き立てる。
 突如、地面から炎が湧き上がる。
 炎が波のように地面をうねりながら、勇者に迫ってくる。

658 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:29:32 wWt9iwBg
勇者(避けきれない――!)


 全身に魔力をみなぎらせる。背中の肉をなにかが食い破る感覚。
 熱風が勇者のからだを飲み込んだ。 


真勇者「……終わったか」

勇者「まだ終わってないっ!」

真勇者「……!」


 勇者の背中から生えた黒翼が、炎の波を受け止めていた。
 翼が大きくはためき、火炎が真勇者へと跳ね返る。 


勇者(やったか!?)


 真勇者に炎が直撃した、と思った。だが、実際はそうではなかった。
 不意に火炎が文字通り裂けた。


真勇者「何度も言わせるな。偽物のお前では俺には勝てない」

659 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:31:04 wWt9iwBg
勇者「ならっ……!」


 自身の剣に魔力を流し込もうとした勇者の腕が止まる。
 一瞬で眼前に現れた真勇者に腕を掴まれていた。


真勇者「遅い」


 真勇者が勇者の額を掴む。静電気の弾ける音。全身を電流が突き抜ける。
 どれほどの時間が経過しただろうか。不意に音が止む。


勇者「ぁ…………」

真勇者「あの教会で戦ったときと、なにも変わっちゃいない」


 細胞の全てが焼け死んだかのような激痛。思考がまとまらない。
 視界が激しく明滅してする。

660 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:31:51 wWt9iwBg
真勇者「さあ、返してもらうぞ」


 勇者の額をつかむ真勇者の力が強くなる。
 魔力が真勇者へと流れていくのがわかる。


勇者(やばい……死ぬ――)


 意識が暗闇に沈んでいく。音が遠のいていく。からだに力が入らない。

 すべてが真っ黒に染まっていく――

661 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:32:57 wWt9iwBg




勇者(……ここはどこだ?)

勇者(オレは死んだのか?)

勇者(全部真っ黒。ここにはなにもないのか……)

勇者(……やっぱりオレはアイツに……本物の勇者に勝てないのか)

勇者(偽物だから、本物には勝てないのか)

勇者(ごめん、みんな……オレ……)


 ――勇者


勇者(誰の声だ?)

勇者(あっ……)


 勇者の目の前に唐突に景色が浮かぶ。そしてすぐ消える。

662 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:33:43 wWt9iwBg
勇者(そういえば、魔界で魔王と戦ったときにも、こんなことがあったな)


勇者(誰かの記憶を見せられているみたいだった)


勇者(これも誰かの記憶なのかもしれない)


勇者(でも、誰の…………あれ?)


勇者(はっきりと見覚えがある)


勇者(これは……)


勇者(オレの記憶だ)

663 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:35:05 wWt9iwBg
勇者(そうだ、オレにだってあるんだ)

勇者(まだちょっとしかないけど、たしかに生きてたっていう証拠が)

勇者(そういえば、みんなと最初に会ったときはすごい不安だったな)


勇者(このパーティでやってけるのかって)


勇者(戦士はなんか、チャラチャラしててイメージと全然ちがったもんな)

勇者(僧侶もイメージと全然ちがった。すごい厳しい口調でちょっと怖かった)

勇者(魔法使いは……無口だしなにを考えてるのか、全然わからなかった)


勇者(なんだか懐かしいな)

勇者(魔界へ行ったときは、驚いてばかりでみんなを呆れさせた)

勇者(自分のまわりのことは、わからないことばかりだった)

勇者(自分のことはもっとわからなかった)

664 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:36:00 wWt9iwBg
勇者(色んなことがあった。知らないことをたくさん知った)

勇者(自分が造られた偽物だってことも知った)

勇者(色んな敵とも戦った。死にかけたこともあった)

勇者(魔王と戦って、少しはわかりあえて……)

勇者(もっと色んなことを知りたいと思った)

勇者(もっと色んなことをしてみたいって思った)

勇者(世界のことを知りたい、旅に出たいって思った)

勇者(でも、真勇者を追いかけることになって、薬師と出会って……)

勇者(薬師からも色んなことを教わった)

665 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:36:52 wWt9iwBg
勇者(……そうだよ、オレはまだみんなとの約束も果たしてない)


勇者(もっと生きたいっ)


勇者(死にたくない……!)


 どこからか淡い光が漏れてくる。
 やがてその光は強くなり、その世界を真っ白に塗りつぶした。

666 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:39:13 wWt9iwBg




真勇者(これでほぼ俺自身の力は取り戻した……)


 真勇者が勇者の額をつかむ手を離そうとしたときだった。


勇者「……く、な……ぃ」


真勇者「!」


 勇者がその手をつかんだ。


真勇者「……お前、まだ……!」

勇者「死に、たくない……」


 まるで、命そのものを搾り出すかのようなかすれた声。


勇者「死にたく、ない……もっと、生きたい……!」

667 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 00:43:23 wWt9iwBg
つづく

ここまで見てくれた人、ありがとうございました
明日でこの話は終わる予定です

ss速報vipが鯖落ちしてるので、URL貼っても見れないと思うので
関連ssのタイトルだけあげておきます

関連ss
神父「また死んだんですか勇者様?」
魔王「姫様さらってきたけど二人っきりで気まずい」


前作
勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」


さすがにこれ全部読むのは長すぎると思いますが、前作か関連ss読めば
ストーリーは九割型把握できるようになると思います

670 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 12:22:27 XBJXx.ZA

ついに最終話か。ここまで長かったな
楽しみにしてる

671 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 15:50:29 Jgkro.qE
こんな作品をタダで読めるなんて

672 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 17:13:38 DtmPutss
乙!
早く次読みたい(>_<)

675 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 23:53:30 fE.NwYp2
真勇者はその手を振りほどこうとするが、あまりの握力にそれができない。


真勇者「チッ……」


 しかも勇者は、ただ腕をつかんでいるだけではなかった。
 自身の魔力を真勇者の腕に流しこんでいた。


真勇者「なにが目的かは知らないが……無駄だっ!」


 真勇者が体勢を低くする。勇者の腹を蹴り上げる。
 真勇者をつかむ手が離れ、勇者が大きく吹っ飛んだ。


真勇者(今のは…………死にかけておかしくなったか?)


 真勇者がゆっくりと勇者へと近づいていく。
 だが、勇者はなおも立ち上がろうとする。

676 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 23:56:02 fE.NwYp2
真勇者「力を解放しても、お前は俺には勝てない。そんなこともわからないのか」

勇者「わかってるさ……アンタとオレじゃ、力の差がありすぎることぐらい……」


 勇者は必死に立ち上がろうとする。
 だが、もはやそれすら満足にできない。
 満身創痍の勇者に剣を突き刺そうとしたときだった。



戦士「――やらせないよっ!」



 紫炎が真勇者に襲いかかる。反射的に真勇者は剣でその炎を振り払っていた。
 だが攻撃はそれで終わらなかった。

677 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 23:57:19 fE.NwYp2
魔法使い「――発動」


 地響きを立てて、氷の刃が地面から現れる。
 だが、真勇者はバックステップで最奥まで行き、これもなんなくかわす。


僧侶「まだだっ!」


 今度は地面を這う衝撃波だった。
 だが真勇者は地面に剣を突き立て、同じように衝撃波を放ち無力化する。


真勇者「よくここまでたどり着けたな。ずいぶんとボロボロになってるようだが」

戦士「まあね。さすがにあの魔物の群れを突破するのは、骨が折れたよ」

真勇者「だが、もうお前たちは手遅れだ」

戦士「どうかな? やってみなきゃわからないよ」

真勇者「だったらやってみるんだな」

678 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/27(木) 23:58:31 fE.NwYp2
♪ 


僧侶「勇者!」

勇者「……僧侶、か」

僧侶「遅れてすまなかった……魔法使い」

魔法使い「わかった」


 魔法使いが勇者へと向けて魔術を放つ。本来禁止されているはずの回復呪文を。
 勇者の傷が瞬く間に治っていく。


真勇者「今の時代に、これほどの回復呪文を使える人間がいるとはな」

魔法使い「……魔界で、覚えた」

勇者「……ありがと、なんとか動けるようになった」

679 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:00:10 Q3RZ7Sas
真勇者「だが今さら回復したところでどうなる? 
    勇者、お前は俺よりはるかに弱い」

勇者「だから、そんなことは知ってるよ」

戦士「そうだよ、勇者くんが弱いことぐらいボクらは知ってる」

僧侶「お前よりもずっとな」

魔法使い「だからこそ、私たちは、ここに来た」

真勇者「……仲間か。俺にもいたよ。
    だが魔王と戦ったときはひとりだった」 


真勇者が、洗礼盤へと手を置く。


真勇者「そして、そのとき俺はこの剣を携えていた」

680 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:02:50 Q3RZ7Sas
 教会そのものが震える。膨大な魔力が空間に広がっていく。
 洗礼盤を満たす水が、独自の意思を持ったかのようにぬたくる。

 やがてその水は輪郭を形作り、長剣へと変貌した。


魔法使い「――」

 
 とっさに魔法使いが水弾を放つ。
 しかしそれは、剣へとたどり着く前に蒸発するように消え失せた。


真勇者「この剣には、そんな術は通用しない」


 真勇者の手に握られた剣から、魔力がにじみ出て、輪郭がぼやける。


真勇者「もう誰にも邪魔はさせない」


 かつての勇者が構えた――『勇者の剣』を。

681 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:06:50 Q3RZ7Sas
勇者(アレが『勇者の剣』……)



 真勇者が剣を掲げた。



勇者「……?」


 そしてそれをそのまま振り下ろした。
 勇者たちと真勇者の距離はかなりある。
 その剣が届くわけがない、そう思ったときだった。


勇者「なっ……!?」


 光の奔流が、勇者を横切ってそのまま教会の壁をぶち破った。
 なにが起きたか理解できなかった。
 光が通過した床は、えぐり取られたかのように消え失せていた。


戦士「散開しろ!」


 戦士の言葉とともに、全員が走り出す。

682 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:08:43 Q3RZ7Sas
真勇者「逃しはしない」
 

 『勇者の剣』が文字通り燃え上がった。
 真勇者が再び剣を天井へと掲げる。天井から突如炎の雨が降り注ぐ。


勇者「ウソだろっ!?」


 部屋が炎の色に染まり、いっきに温度が上昇する。
 勇者はひたすら走って炎の塊をよける。
 降り注ぐ炎の間隙を縫って、真勇者へと接近する。


真勇者「遅い」


 真勇者が地面へと剣を突き立てる。地面から巨大な突起が次々と現れる。


勇者「……っ!」


 とっさに横っ飛びに避ける。突起が天井を貫く。
 視界全体が激しく揺れる。

683 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:13:11 Q3RZ7Sas
僧侶「魔法使いっ!」

魔法使い「了解」


 魔法使いの足もとから、巨大な水柱が何本も現れ、真勇者を襲う。
 水で満たされた床に、僧侶が電撃の拳をぶつける。


真勇者「無駄だ」


 しかし魔法使いと僧侶の攻撃は、真勇者に届くことはなかった。
 真勇者を囲むように何本もの火柱があがり、水流を飲みこんでいく。


僧侶「これもダメなのか……」

戦士「攻撃の手を緩めえちゃダメだっ!」


 いつの間にか戦士が、真勇者の背後に回っていた。

684 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:16:26 Q3RZ7Sas
 戦士が真勇者の背中へ向けて剣を振り下ろす。

 しかし真勇者は空いた手で、戦士の腕を掴んでいた。


戦士「っ……!」

真勇者「しょせんお前も二流の戦士だな」 


 だが、真勇者に接近してたのは戦士だけではなかった。


勇者「――っらあぁぁぁっ!」


 真勇者の背後から勇者が、剣を振るう。真勇者が一瞬で身を翻す。
 真勇者が剣を空中へと放る。
 空いた両の拳で、体勢を崩した勇者と戦士を殴り飛ばした。


勇者「……ぐぁっ!」


 背中から落ちたせいで一瞬息が詰まった。すぐさま飛び起きる。

685 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:18:18 Q3RZ7Sas
勇者「魔法使い!」
 

 それだけで通じたのだろう。魔法使いが呟く。突き上げるような衝撃。
 魔法使いが魔術で巨大な氷の壁を造り、勇者がそれを切り裂く。
 氷壁が真勇者へ向かって崩れる。衝撃。建物が大きく揺れた。


勇者(どうだ……!?)

真勇者「どこを見ている」

勇者「!?」


 背後で声がした。『勇者の剣』が勇者を切り裂く――


魔法使い「発動」


 剣が到達するより先に、氷のかたまりが隆起し、勇者を大きく吹っ飛ばした。


勇者「うわぁっ!?」


 とっさに勇者は受身をとってすぐさま起き上がる。

686 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:19:49 Q3RZ7Sas
魔法使い「ごめん。この方法でしか……」

勇者「わかってる。大丈夫だ、そんなにダメージは受けていないっ……」 


 そう言って、再び勇者は走り出す。


勇者(攻撃の手を緩めるわけにはいかない……だけど、攻撃しても効かない……)


 戦士が真勇者に向けて炎弾を放つ。
 しかし『勇者の剣』のひと振りで、火はあっさりと消えてしまう。
 僧侶が拳から衝撃波を放つ。

 だが、それも真勇者が剣を地面に突き刺しただけで、無効化されてしまった。


勇者(やっぱりダメなのか……っ!?)


 絶望にも似た気持ちが胸を満たしていく。
 なにをやってもこの本物の勇者の前では、意味がない。

687 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:21:50 Q3RZ7Sas
勇者(しかも魔力も、ほとんど残っていない)


 真勇者に勇者の力をもっていかれたうえに、魔力増幅剤の反動のせいか。
 以前のような膨大な魔力を引き出すことができない。


勇者(……いや、あきらめるなっ……! もう一度っ!)


戦士「魔法使いっ! 僧侶ちゃんっ!」

魔法使い「了解」

僧侶「わかった!」


 戦士が巨大な紫炎を。
 魔法使いが大量の氷針を。
 僧侶が最高速度の衝撃波を。

 いっせいに真勇者へと繰り出す。

688 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:23:17 Q3RZ7Sas
真勇者「あきらめの悪いヤツらだ。だが」


 『勇者の剣』が強烈な光を放つ。
 まぶたの裏にまで焼きつくような強烈な光が、教会全体を埋め尽くす。
 気づいたときには三人が放った術は、すべて消滅していた。


魔法使い「そんな……」

真勇者「この剣の前ではすべてが無に等しい」

勇者「まだだっ!」


 勇者が跳躍する。剣を真勇者へと振り下ろそうとする。だが。


真勇者「あきらめろ」


 剣が再び光を帯びる。光が弾ける。全身をつま先から脳天まで衝撃が走る。
 気づけば、勇者のからだは地面を転がっていた、

689 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:25:32 Q3RZ7Sas
勇者(……な、なにが起きた……)
 

 からだに力が入らない。無理やりからだを起こす。
 床にたおれていたのは自分だけではなかった。
 戦士も僧侶も魔法使いも横たわっていた。

 足音が近づいてくる。真勇者の影が勇者に覆いかぶさる。


真勇者「偽物のお前が、本物の俺に勝てるわけがないだろう」


勇者「……っ!」


 真勇者が勇者を見下ろす。まるで質量をもっているかのような殺気。
 喉の奥で詰まった息が音を立てる。指ひとつ動かすことができない。
 本物の勇者の圧倒的な力。自分は絶対に勝てないという確信。

 絶望が胸を締めつける。

690 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:28:02 Q3RZ7Sas
真勇者「お前の翼……あの魔王のそれと似ている」

真勇者「魔王は強かった。お前たちより圧倒的に」

真勇者「だが、それでもこの俺とこの剣の前に破れた」

真勇者「この力があれば、お前たちの国を滅ぼすこともできる」

真勇者「この力があれば、世界の秩序さえも変えられる」


勇者「……そんなことをして、どうなる……?」


真勇者「間違っていたものが消える。それだけで十分だ」


 真勇者の手が勇者へと伸びる。その手の動きがやけに遅く見える。
 戦士がなにか叫んでいる。魔法使いもなにか言っている。
 だが音がぼやけていて、聞き取ることができない。


 ――勇者!


 誰かの叫び声がはっきりと聞こえた。顔をあげる。

691 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:29:29 Q3RZ7Sas
 僧侶が背後から真勇者へとびかかる。


真勇者「何度やっても結果は変わらない」
 

 背後から繰り出される拳は、真勇者に到達することなく止まった。
 僧侶のからだが宙を舞う。


勇者「僧侶っ!」
 

 僧侶が背中から落ちる。鈍い音。


真勇者「いつか俺がお前に聞いたこと、覚えているか?」


勇者「……なんのことだ」


真勇者「仲間が目の前で殺される気分はどうだ?」


 真勇者がきびすを返す。
 勇者は真勇者がなにをしようとしているのか理解した。

692 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:30:34 Q3RZ7Sas
真勇者「お前と俺はなにもかもちがう。
    だが、自分の仲間を救えないという点では同じらしい」


 真勇者がゆっくりと僧侶へと歩み寄っていく。


勇者「や、やめろ……っ!」


 からだが動かない。全身を苛む痺れは酷くなっていく一方だった。
 それどころか、腹部が出血している。


真勇者「これから、お前の大切なものをひとつずつ奪う。
    そうすれば少しは俺の気持ちもわかるだろう」


 真勇者が僧侶を見下ろす。


真勇者「……まだ、動けるか。大したものだ」

僧侶「……っ」

693 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:31:23 Q3RZ7Sas
真勇者「なにか言い残すことはあるか?」

僧侶「……私にとっての、勇者は……お前じゃないっ……」

真勇者「お前にとってはアイツが本当の勇者だってことか」

僧侶「そうだ……!」

真勇者「だが、アイツではお前を救うことができない」

694 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:33:46 Q3RZ7Sas
勇者「僧侶っ……!」


勇者(オレはまた守れないのか……?)

勇者(オレが弱いからまた仲間が殺されるのか?)

勇者(オレを庇ってまた仲間死ぬのか?)


 自分を守ってくれた彼女の姿が、脳裏をよぎる。
 血の匂い。傾いていく小さな背中。長い髪。虚ろな瞳。


勇者(オレのせいで――)


 守ると約束した仲間が殺されようとしている。
 自分を守ってくれた仲間が、また死ぬ。


勇者(そんなのはダメだ……)


 真勇者が剣を構える。僧侶は身動きひとつしない。

695 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:37:51 Q3RZ7Sas
 拳を強く握る。
 まだ微かにからだには力が残っている。
 
 勇者の力ではない、もうひとつの力が。


勇者(守るって――)


 歯を食いしばる。悲鳴をあげるからだを無理やり起こして、立ち上がる。
 勇者は、残った魔力を振り絞った。


勇者(約束したんだ――)

696 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:41:07 Q3RZ7Sas
真勇者「まずはひとり目」
 

 真勇者が僧侶目がけて剣を振り下ろす。 
 上から下へ、ただ振り下ろす。それで僧侶は死ぬ。
 
 だが、剣は僧侶へと到達する前に止まった。


真勇者「まだ、動けるのか……」

勇者「オレの仲間はオレが守る……もう誰も殺させない……!」


 僧侶の前に躍り出た勇者が、真勇者の腕をつかんでいた。


真勇者「仲間を守る? 誰も殺させない? お前にできるものか――」


勇者「できなくてもやるっ!」


 勇者が拳を振るう。真勇者も同じように拳を繰り出してくる。
 拳が衝突する。
 魔力と魔力がぶつかりあい、ふたりは大きく吹っ飛んだ。

697 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:43:32 Q3RZ7Sas
 
 
勇者はとっさに受身をとって、素早くからだを起こす。

真勇者「まだこんな力を残していたとはな。だが……」
 

 真勇者の言葉が途切れる。
 その表情には、はっきりと動揺が浮かんでいた。


真勇者「なぜ……」


 『勇者の剣』の輪郭がぼやける。剣が光り輝く。
 その光が真勇者を飲みこむ。
 静電気が弾けるような音を合図に、真勇者が絶叫する。

 どれほど時間が経過しただろうか。

 光と音が不意に止まった。
 真勇者がもっていた剣は、粒子となり跡形もなく消えていった。

698 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:47:28 Q3RZ7Sas
 真勇者は見えない刃に切り裂かれたように、全身から血を流していた。
 ところどころ肌が焼けただれていた。


真勇者「……っ…………お前、俺の剣になにをした……!?」

勇者「……」

戦士「ふぅ、本当にあと少しで死ぬと思ったよ」

魔法使い「同じく」

勇者「ごめん。予想してたより、ずっとうまくいかなかった」

 
 ようやく回復した戦士と魔法使いが、武器を構える。


僧侶「だが、勇者の言ったとおりだったな」


 ふらつきながらも、僧侶が立ち上がる。

699 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 00:51:05 Jb7I645I
勇者「剣にはなにもしていない」

真勇者「どういうことだ……?」


勇者「……王様の側近の赤ローブのヤツは、オレに言ったんだ」

勇者「オレでは『勇者の剣』は使えないってな」

勇者「そしてその赤ローブは、王様の側近だったにも関わらずオレだけを狙った」

勇者「勇者の力だったら、王様だってもっているはずなのに」

勇者「じゃあ、どうしてそうしなかったのか」

勇者「王様の勇者の力では、勇者の剣が使えなかったから」

勇者「勇者はその勇者の力だけじゃないと、『勇者の剣』を使えない」


真勇者「……! じゃあ、あのときお前が俺に魔力を流したのは……」


勇者「ああ。オレには魔王の力がある。
   さっき、そして今。アンタの腕をつかんだときに魔王の力を流してやった」

700 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 01:02:36 Jb7I645I
戦士「本当に成功するかどうかは、賭けだったけどね」

魔法使い「言い伝えも、馬鹿にはできない」

僧侶「力を解放した状態で、勇者以外が触れれば、その剣は触れたものに牙を向く」

真勇者「……っ」

戦士「さて、ここから反撃させてもらうよ」

真勇者「……この程度で俺が終わると思うなっ!」


 真勇者がもうひとつの剣を再び抜く。
 戦士と魔法使いが術を真勇者に放ち、僧侶が衝撃波を繰り出す。


真勇者「甘い!」


 だが、真勇者はこれをかわし、魔法使いへ突っ込んでくる。


戦士「させないよっ!」


 戦士が真勇者の眼前に躍り出る。

701 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 01:18:04 Jb7I645I
戦士「さっきより動きがだいぶ鈍いね」

真勇者「まだだっ! まだ俺は終わらないっ!」

戦士「……っ!」


 真勇者が地面を蹴り、高く跳ぶ。真勇者の剣先が光る。
 静電気の弾ける音。雷の刃が次々と降り注ぐ。


勇者「まだこんな力を……」

僧侶「さがれっ!」


 僧侶の拳が床にめりこむ。激しい揺れとともに、真勇者の足もとから衝撃波が起こる。
 真勇者のからだが地面へ叩きつけられる。
 魔法使いと戦士が魔術を放つ。

 だが、明らかに威力が落ちている。

702 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 01:36:24 Jb7I645I
 真勇者が身を起こして、それをかわす。
 全員体力も魔力もほとんど残っていないのは、明らかだった。


勇者(これ以上長引いたら、勝てない)


 勇者は地面を蹴った。真勇者へ突進する。


勇者(集中しろ――この一撃にすべてをかける)


 残ったすべての魔力を一点に集中する。
 真勇者が炎弾を放ってくるが、かまわず勇者は突っこむ。
 真勇者との距離がほぼゼロになる。勇者は剣を横薙ぎに振るった。


真勇者「――お前では俺には勝てない」


 甲高い金属の音。真勇者の剣の一撃のほうがはるかに強かった。
 勇者の手から剣がはなれる。

勇者「!!」

703 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 01:40:13 Jb7I645I
真勇者「これで終わりだ――!」


 真勇者が剣を振り上げる。勇者の手に武器はない。
 だが、こうなることはわかっていた。


勇者(オレはコイツに剣の腕でも勝てない――だから)


 初めからこのつもりだった。剣はおとりだった。


勇者「――終わりじゃないっ!」


 敵の剣を掻い潜り、全魔力をこめた拳を真勇者の顔面へとぶつける。
 

真勇者「――――っ!?」
 


 重い手応えが拳を通して伝わる。真勇者が吹っ飛び、地面を転がる。

704 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 01:58:30 Jb7I645I
真勇者「…………かはっ……まだ、だ……」


 真勇者が身を起こし、立ち上がる。勇者は再び身構える。


勇者(まだ動けるのか。もう魔力が……)


 しかし真勇者は膝からくずおれ、地面に倒れ伏した。 


勇者「はぁはぁ……」


 勇者はその場から動くことができなかった。どれほどそうしていただろうか。
 不意に勇者の足の力が抜ける。全身を襲う虚脱感に思わず座りかけ、


戦士「大丈夫かい? 肩貸すよ」

勇者「サンキュ……」

僧侶「終わったの、か……?」

勇者「……たぶん。もうアイツからは魔力を感じない」

705 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 02:03:27 Jb7I645I
勇者「戦士」

戦士「なに?」

勇者「オレをアイツのところまで、連れて行ってくれないか?」

戦士「……できれば、あんなおっかないのには近づきたくないんだけど」

勇者「頼む」

戦士「……わかったよ」

僧侶「私も肩を貸す」

勇者「僧侶……大丈夫なのか?」

僧侶「ムチャクチャな無茶をしたお前よりはな」

勇者「……ありがとう」

僧侶「ああ」

706 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 03:03:06 Jb7I645I
勇者「よお」

真勇者「……っ! ……なぜだ……?」 

勇者「……」

真勇者「なぜ……お前が立っていて、俺が……こんなありさまなんだ……」

勇者「そういうこともあるんじゃないのか」

真勇者「わけが、わからない……俺より、はるかに劣るお前が、なぜ……」

勇者「オレもわからないよ」

戦士「勇者くんがわからないことは、これだけじゃないでしょ?」

勇者「うるせえ。……でも、そのとおりだ。
   オレにとって世界は、わからないことばかりだ」

707 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 03:04:59 Jb7I645I
勇者「世界だけじゃない。自分のことだって、つい最近までわからなかった」

勇者「アンタの言うとおり、オレは造られた存在で……偽物だ」

勇者「でも、そんなオレでも死にかけてわかったんだ」

勇者「死にたくない。もっと生きたいって」


真勇者「生きて……それでどうする?
    お前のような存在が、生きてなにをするっていうんだ……?」


勇者「……知りたいことがたくさんある。やりたいこともたくさんある」

勇者「それに……こんなオレでも受け入れてくれる仲間がいる」

勇者「こんなオレでも、支えてくれる仲間がいる」


真勇者「仲間……」


勇者「あのとき、もう一度みんなに会いたいって思った」

勇者「難しいことはわからない。
   でもオレが生きたいって思う理由は、それで十分だった」

708 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 03:46:40 Jb7I645I
真勇者「仲間、か」

勇者「アンタにだって、仲間はいただろ」


真勇者「……いたさ。大切な仲間だった……」

真勇者「この国が……俺の大切なものを奪ったんだ」

真勇者「……ああ、そうだ。俺もあの女と一緒だったんだ」

真勇者「自分の大切なものを奪ったこの世界に、復讐したいだけだったんだ……」


勇者「……」


真勇者「……お前ら三人は、どうしてコイツを助けるためにそこまで必死になれた?」

709 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 04:00:51 Jb7I645I
戦士「べつに。いちいち理由なんてないし、そんなの考えることでもないでしょ?」

魔法使い「仲間だから、で、十分」

僧侶「それに、約束したからな。守るって」

真勇者「……結局、そんな簡単なことだったんだな」

真勇者「多くのものを犠牲にして、世界を変えようとしておいて……」

真勇者「こんな陳腐な結論が出てくるなんてな……」

真勇者「仲間に、会いたい……もう一度だけでいいから……」

勇者「……」
 

 なにかを言おうとして言葉が喉の奥で詰まる。
 こんなとき、どんなことを言えばいいのかわからない自分が、もどかしかった。

710 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 04:15:07 Jb7I645I
勇者「……え?」


 手足の力が急に入らなくなる。景色がかたむいていく。
 なにが起きているのか理解できなかった。
 鈍い衝撃。なにかが床にたおれる音。


勇者(ああ、そうか……力、なくなったんだよな……)


 唐突にまぶたが重くなっていく。目の前が暗くなっていく。みんなの声がする。
 しかし、なにを言っているのかは全然わからない。


勇者(オレは……どうなるんだ…………オレは……)



『――――お前は生きろ』



 黒く塗りつぶされていく視界の片隅で、小さな光が灯った気がした。

711 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 05:53:18 Jb7I645I
♪一ヶ月後


王「あ、とれた」

戦士「……さっきから難しい顔して、なにやってるんですか?」

王「見りゃわかるだろうが。耳掃除だ」

戦士「はあ……」

王「男は基本的に耳が剥き出しだからな。きっちり掃除しておいたほうがいいぞ」

戦士「ボク、髪長いんで」

王「お前はな。だが、女っていうのは意外と耳の裏とか見てるもんだぞ」

戦士「……そんなことを言うために呼び出したんですか?」

王「そんなことってなんだ。
  俺ほど長生きしているヤツの言葉だぞ。重みがあるだろ?」

戦士「年寄りの戯言にしか聞こえない……」

712 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 05:54:19 Jb7I645I
王「まあなんで休日にも関わらず、呼び出したのかっていうと。 
  元老院のジジイどもの悪行、ようやく暴けそうなんでな」

戦士「……そうですか」

王「なんでそんなイヤそうな顔するんだよ」

戦士「また忙しくなると思うと、もうウンザリでして」

王「若いうちだけだぞ。無理して働けるのは、なあ?」

側近「おっしゃるとおりです」

戦士「……そうですね」

王「それと量産型勇者の中には、やはり人ベースのものも少なからずいるみたいだ」

戦士「それはまた、色々と手ごわい課題が出てきそうですね」

713 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 05:55:23 Jb7I645I
王「そういや、今日だったか? アイツが旅に出るのは」

戦士「そうですね」

王「見送りには行かないのか?」

戦士「今生の別れってわけでもありませんし、昨日乱痴気騒ぎをしたばかりなんで」

王「ふーん、まあお前がいいって言うならべつにいいが、意外だな」

戦士「そうですか?」

王「ああ。なんだかんだ言いつつ、お前はアイツを見送りに行くものだと思ってたよ」

戦士「ちょっとした気づかいですよ」

王「気づかい?」

戦士「ええ、まあそんな大した話でもないんですけどね」

王「ふーん、まあいいか」

714 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 05:57:17 Jb7I645I
王「とにかく、これから忙しくなるからこの連休でやりたいことはしっかりやっておけよ」

戦士「言われなくても、わかってますよ。
   それに今が一番盛り上がってるところなんで」

側近「演劇のことかな? 君は相変わらず、それに熱中してるみたいだね」

戦士「現実に辟易してますからね。夢のある物語を作りたくなるんですよ」

王「物語、ねえ。俺としては現実に勝る物語はないと思うが」

戦士「……ボクも正直そう思いますよ。
    でも、だからこそ、物語って存在してるんだと思うんですよ」

王「そうなのか? 俺は創作なんてしたいことないからわからんが。
まあ時間があったら見せてくれよ」

戦士「喜んで」

側近「ちなみに、君の作っている物語っていうのはどんなものなんだい?」

戦士「んー、詳細は話せませんけど」

戦士「ちょっとおバカで、決して強くない、でも仲間想いの勇者の物語です」

715 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 05:58:09 Jb7I645I



竜人「まさかあなたが見送ってくれるとは思いませんでした」

魔法使い「あらそう? 逆に私以上に適した人間はいないと思ってたけど」

竜人「……」

魔法使い「どうしたの?」

竜人「いえ……あの、ひょっとしてアルコール飲みました?」

魔法使い「ふふふっ……もちろん。今後会うことなんて、そうないだろうし。
     このモードじゃないとしっかり話せないと思ってね」

竜人「本当に別人みたいですね」

魔法使い「よく言われるわ。でも、この状態を見れる人ってそういないのよ?」

竜人「昨日の酒の席で見たばかりなのですが」

魔法使い「あなた、すごい幸運ね。誇っていいわよ」

竜人「はあ……」

716 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 06:00:32 Jb7I645I
竜人「しかし、予想していたのとだいぶちがう訪問になりましたね」

魔法使い「でしょうね。竜人、あなた途中から小間使いみたいになってたものね」

竜人「私は密使のはずなんですがね」

魔法使い「陛下もすごくあなたには感謝していたわ」

竜人「ええ。本人からここに残らないかって、何度も言われましたよ」

魔法使い「よかったわね。とっても気に入られているじゃない」

竜人「まあ……嬉しくないわけではありませんけど……」

魔法使い「困るわよね」

竜人「ええ、さすがにちょっと」

717 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 06:02:16 Jb7I645I
竜人「……ひとつ、質問いいですか?」

魔法使い「どうぞ」

竜人「今後、我々魔族とあなたがた人間は、共存できると思いますか?」

魔法使い「すでに魔界では、できてるじゃない。人間と魔族の共存」

竜人「アレはまたべつの形だと思います。
   魔界の人間とこちらの人間では、色々とちがいがありますしね」

魔法使い「そうね。簡単な話ではないでしょうね。
     人間だけの世界でも、私たちのような存在がいるしね」

竜人「……やはり、難しいですよね」

魔法使い「ええ。でも、私もあなたも稀有な例をひとつ知ってるわ」

竜人「女王と魔王のことですね」

魔法使い「そう。結局彼女は利用されて災厄を起こすことになってしまったけど」

718 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 06:03:18 Jb7I645I
魔法使い「でもあの災厄は、ふたりが理解し合おうとした結果から生まれたものでもある」

竜人「そうですね。よく考えたら、とっくの昔に前例はあるんですよね」

魔法使い「それに、私とあなたもけっこう仲良しじゃない?」

竜人「え、ええ……まあ……」

魔法使い「あら? どうしたの? ふふっ……顔色が悪いわよ?」

竜人「少しショッキングな出来事を思い出してしまって……」

魔法使い「あら? それはどんなことかしら? 
     よかったら話を聞きながら、それを実行してみたいわね」

竜人「絶対に嫌です」

魔法使い「あら、残念」

竜人「まったく……妻に知られたら、なんと言われることか」

719 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 06:05:00 Jb7I645I
魔法使い「黙っていれば、絶対にばれないでしょ」

竜人「そうですけど……」

魔法使い「もう当分会うことはないって、さっき行ったけど。
     私はまた魔界へ行きたいと思ってるの」

竜人「……まだ、時間はかかるでしょうね」

魔法使い「ええ、そうでしょうね」

竜人「ですが、あなたが魔界へ来られる日を楽しみにしています」

魔法使い「じゃあ私が魔界を訪れたときは、また……」

竜人「そっち方面は遠慮します」

魔法使い「あら、残念。ではかわりに、握手をしておきましょうか」

竜人「それなら。……また会いましょう」

魔法使い「ええ、いつか必ず」

720 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:19:54 RrJFaes2



勇者「そうかあ。オレ、本当に旅に出るんだな」


僧侶「なにを今さら言ってるんだ」

勇者「いや、なんか感慨深いっていうのかな」

僧侶「……本当に嬉しそうだな」

勇者「うん、なんかすごい心臓がドキドキしてる」

僧侶「でも、今回の旅はギルドの任務の一貫として扱われてるんだろ?」

勇者「まあな」

僧侶「しかも今回は一人旅だ。くれぐれも無理はするなよ」

勇者「わかってるわかってる!」

僧侶「本当にわかっているのか?」

勇者「もちろんっ!」

721 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:20:57 RrJFaes2
僧侶「……もう少し様子を見るべきなんじゃないか?」

勇者「様子?」

僧侶「お前のからだの話だ」

勇者「でもメチャクチャ調子いいぞ?」

僧侶「……むぅ」

勇者「いや、まあたしかに、アイツがオレに力をくれなかったらヤバかったかもしれないけど」

僧侶「それならいいんだが……」

勇者「……どうして真勇者は、最期にオレを助けたんだろ」

僧侶「それは私にもわからない。
   ひょっとしたら助けた本人も、わかっていないのかもしれない」

勇者「……そういうこともあるんだよな」

722 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:22:14 RrJFaes2
僧侶「旅のプランは決まってるのか?」

勇者「いちおう大まかには決まってる、って感じかな。
   あとは王様から預かってるものがあるから、それを届けに行ったりしなきゃいけない」

僧侶「おつかいってことか」

勇者「昔お世話になった知り合いから、借りっぱなしのものとか色々あるらしい」

僧侶「あの人は本当によくわからない人だ……」

勇者「ホントだよな。でも王様には大切なことを教わったよ。
   ……本当にオレってば、色んな人のお世話になってるんだよな」

僧侶「誰だってそんなものだ。どんな人だって、ひとりでは生きていけない」

勇者「……うん」

僧侶「それより、そろそろ行かなくていいのか?
   船の時間に間に合わなくなるぞ。十分程度の遅刻なら大丈夫だと思うが」

勇者「そうだったな。そろそろ行かないと……」

723 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:23:46 RrJFaes2
勇者「僧侶、オレさ。色々経験して、勉強して成長してまた戻ってくるよ」

僧侶「……楽しみにしてる。ただ、怪我と病気だけには気をつけろ」

勇者「おう!」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……どうした?」

勇者「いや、なんか急に変な気分になったというか……」

僧侶「もしかして体調がおかしいのか?」

勇者「ちがう、そういうのじゃないんだ。なんだろ、この感覚」

僧侶「……もしかして不安になったか?」

勇者「不安?」

724 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:25:16 RrJFaes2
僧侶「初めてすることって、同時に知らないことをするってことだ。
   そういうのはやっぱり誰だって緊張する」

勇者「なるほどねえ、緊張か」

僧侶「そのほうがいいんじゃないか、気が引き締まるし」

勇者「そうだな、そう考えておこうかな」

勇者(…………ああ、もしかして)



真勇者『仲間に、会いたい……もう一度だけでいいから……』



勇者(アイツが生き返ったときにはもう、周りに誰もいなかったんだよな……)

勇者(ひとり、か)

勇者「……あのさ、僧侶」

僧侶「なんだ?」

725 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:26:23 RrJFaes2
勇者「えっと……その……なんて言ったらいいんだろ……」

僧侶「……もしかして、本当に旅が不安になったのか?」

勇者「いや、旅自体は大丈夫だと思うんだけど……その……」

僧侶「落ち着いて。あわてなくていいから」

勇者「…………真勇者の言ってたことを思い出してさ」

僧侶「うん」

勇者「アイツは封印を解かれたときには、もう仲間がいなかったんだよな。
   それを思い出したら、よくわからないけど不安な気分になって……」

僧侶「続けて」

勇者「……オレが旅から帰ったとき、みんなはなにしてるんだろ?」

僧侶「わからない。今と同じ生活を続けているかもしれない。
   そうじゃないかもしれない」

726 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:28:33 RrJFaes2
勇者「そう、だよな……」

僧侶「それは神様にしかわからないことだ」

勇者「神様、か。神様、教えてくれないかな……」

僧侶「……教えようか?」

勇者「え?」

僧侶「私は神様じゃないけど。それでも教えられることはある」

勇者「……教えてくれ」

僧侶「勇者を待ってる」

勇者「……」

僧侶「勇者が旅から帰ってきたときに、おかえりって言えるようにこの街で待ってるよ」

勇者「僧侶……」

僧侶「約束する」

727 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:29:37 RrJFaes2
勇者「……ありがとう。オレも僧侶と約束したこと守るよ、絶対に……!」

僧侶「男に二言はないからな」

勇者「もちろんっ。
   ……じゃあ、今度こそ行ってくる」

僧侶「気をつけて。いってらっしゃい」

勇者「――いってきます」











お わ り

728 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 07:30:45 RrJFaes2
ここまで読んでくれた人、本当にありがとうございました
これにてこのシリーズは完全に終わりです。

次はSFもので会いましょう

729 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 09:42:57 Yeq2jkpI
よかった

ここまで読み応えのあるssに出会えたことに感謝

730 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 10:57:55 YXq5Ed5U
乙!
勇者と僧侶はいずれくっつくのかな

733 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 16:43:24 6ULe8B82
もっと生きたいって勇者のとこで不覚にも涙が…


734 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 19:45:09 n4L8H3nQ

すげーおもしろかった

738 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/03/04(火) 04:57:38 zvNvkRnk
続きが読めて良かった

739 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/03/22(土) 10:40:22 YkVbPTgM
伏線回収ハンパねえな!
マジすげえ

735 : 名無しが深夜にお送りします : 2014/02/28(金) 22:35:09 DT2ubJMQ
最高でした!