1 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:23:45.76 ID:
蒸気機関が発明され、大量の輸送が列車により可能となった。

すぐさま工場が乱立し、製品の大量生産が求められ多くの工員が生まれた。

しかし、人々はそれだけでは飽き足らず

もっと軽量でもっとコンパクトでもっと力のある機関を開発していく。

そして、内燃機関が発明された。

内燃機関により人類の悲願であった空を飛ぶ機械が出来上がった。

そしてこれは、庶民の生活にまだ飛行機が浸透するかしないかの頃のお話。



            ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです。
no title

3 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:26:40.87 ID:
航空機メーカーが乱立し、各社が最大限の技術を注ぎ込み性能を高めていく。
けれども、まだ飛行機の方向性が決まっておらず、また性能を表す基準も無かった。

そこで各社が思いついたのが飛行艇によるレース、VIPカップへの参加。
当時はまだ、アマチュア達が自らの技術だけで参加する、いわばお祭りだった。
しかし、VIPカップの優勝者は新聞の一面に載り広く知れ渡り、近隣諸国にまでそれは及ぶ。
自社の航空機技術をアピールするために、各社の精鋭たちが腕を奮ってフラッグシップモデル開発にいそしんだ。


木の根っこのように入り組んだ川を持つニューソクシティ。
その川沿いに建っている無数の家屋の中の一つ。
というよりは、歴史はあるが風格が無いといった倉庫に二人はいた。

( ^ω^)「おいすー、ドクオ。調子はどうだお。」

4 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:28:29.49 ID:
 ('A`)「んああ?ブーンか。遅いじゃねぇか。
    せっかくエンジンのセッティングができたってのによ。」

( ^ω^)「じゃあ、早速機体に取り付けるお。」

 (:'A`)「一言ぐらい遅くなったことを詫びろよ。そして簡単に言うなよ。」

( ^ω^)「すまん、すまんだお。そんなことより、早く取り付けるお。
      今ならまだVIPカップの下見ができるお。」

少しぽっちゃりした青年はブーンという。
顔色の悪い貧相な体格はドクオだ。


この二人にはお互いに共通していることがある。
それは、彼らの一番古い記憶はVIPカップを間近で見ていたということ。

5 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:30:13.72 ID:Y7EhmVXD0
支援

7 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:30:49.07 ID:
この二人にはお互いに共通していることがある。
それは、彼らの一番古い記憶はVIPカップを間近で見ていたということ。

そのときの年齢ははっきり覚えていないが
赤い飛行艇と青い飛行艇がデッドヒートしていたことをよく覚えている。

 ('A`)「ああそうだな。もう一週間もすると立ち入り禁止になっちゃうからな。」

( ^ω^)「参加する人たちは何回も飛んでるお。
      僕達も一回は飛んどかなくちゃ本番で周回遅れになっちゃうお。」

 ('A`)「周回遅れなんてみっともなくてたまんねぇからな。
    俺らが憧れた青い飛行艇はそんな無様な真似はしないよな。」

(♯^ω^)「なに言ってんだお。僕が憧れたのは赤い飛行艇だお。
       あんな気障ったらしい青なんか憧れないお。」

 (♯'A`)「んだと。あの青色は空の色だぞ。お前、空の色を馬鹿にすんのかよ。
      そっちこそなんだよ。あんな破廉恥な色を自慢げに見せてる奴のどこがいいんだよ。」

(♯^ω^)「うっさいお。大体あのレースで優勝したのは赤い飛行艇だお。」

 (♯'A`)「なに言ってんだよ青い飛行艇に決まってんじゃねぇかよ。」

幼い頃の記憶はとても曖昧で、ほんの一瞬の場面しか覚えていない。
ブーンとドクオはそれぞれの憧れている飛行艇が、相手を抜いてるときのことしか記憶していなかった。

9 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:33:54.22 ID:
そのせいで、毎度毎度あのレースでは赤が勝った、青が勝ったと言い張っている。
いつも通りお互いを罵り合っているとき、入り口から髭を生やした男が日光と共に入ってきた。
男は鳥打帽を無造作にかぶりオーバーオールを着ている。
  _
( ゚∀゚)「邪魔するよ。お前らまたやってんのかよ。いい加減どっちでもいいじゃないかよ。」

いつも、笑っているような顔をしているのが、今日はいつにもまして頬が緩んで

( ^ω^)「ジョルジュさんこんにちわですお。」

 ('A`)「こんちわジョルジュさん。」

10 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:36:22.78 ID:
  _
( ゚∀゚)「俺が貸してやったエンジンどうよ。中々調子いいだろ。」

 ('A`)「はい。おかげで今回のレースではいい線いけそうですわ。」

( ^ω^)「マジ感謝だお。ジョルジュさんのおかげでVIPカップ出れるようになったんだお。
      エンジンは高くて買えないから今回は諦めかけてたんだお。
      絶対優勝してトロフィーをこのジョルジュ工場に飾るお。」
  _
( ゚∀゚)「そうかそうか。そいつは頼もしいな。でもな今回のVIPカップはちと厳しいかも知れんぞ。
     ラウンジとか801とかの、名の知られていない中堅どころのメーカーが、会社を上げて参加するって話だからな。
     噂だがラウンジの新型機は250キロでるって話だぜ。」

 (;'A`)「まじっすか?このエンジンだと、どれくらい出ますか。」
  _
( ゚∀゚)「そうだなぁ。これだと上手く機体と合っても220がいいとこかな。
     でも噂だから心配すんなよ。この機体だって中々よくできてるぜ。
     俺が解体した飛行艇の寄せ集めだったとしてもな。うひゃひゃひゃ。」

11 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:38:36.10 ID:
この三人が出会ったのは今から半年前のことだった。
学校帰りにいつものごとく、どっちの飛行艇が勝ったのかを言い争っていたとき
ジョルジュが話しかけてきたのだった。
そのとき、話の流れから二人はジョルジュにVIPカップへの想いを語った。

( ^ω^)「あそこは、ヒーローの集まりだお。男の夢だお。
      特に僕が見た赤い飛行艇は、最高のヒーローだお。」

 ('A`)「あれを見て興奮しないのは男じゃないですよ。
    俺が見た青い飛行艇は、俺の目標ですよ。」

それを聞いたジョルジュはどんな具合か、二人を気に入りVIPカップに参加することを促した。
訝しがる二人だったが、ジョルジュが営む飛行艇の修理解体工場に案内され言われた。
  _
( ゚∀゚)「この中から何でも、もっていっていいからよ、お前らで飛行艇作って出場してみろよ。
     エンジンは俺が持ってるのを貸してやるからよ。一から作るより簡単だと思うぜ。
     それに場所はここ貸してやっからよ。汚さなければ好きに使っていいぜ。」

そこには、ぼろぼろになった飛行艇が、山のように積んであった。
それをみたブーンとドクオは、その山から可能性を見つけ出した。
知り合ってまだ一時間足らずのことだったが、二人はすぐさまジョルジュに感謝し
VIPカップへの参加を決めた。

12 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:40:26.86 ID:
それ以来、ジョルジュとの親交ができ、今ではちょくちょくお互いの家を行き来したり
隣にあるもう一つの工場からジョルジュが遊びにきたりする。

 ノパ⊿゚)「あんたぁぁー。またこんなとこでサボってんのかぁぁぁ!
      仕事つっかえてんだから早くもどってこぉぉぉい!」

ジョルジュが開けっ放しにしておいた扉から、鼓膜を振動させるの十分な声が聞こえた。
三人が一斉に声の発生源を見つめると逆光でシルエットしか見えないものの、
広い肩幅に、色気を感じさせない大きな乳房を持ち、フライパンが世界で一番似合うであろうと思われる女
ヒートが立っているのがわかった。
  _
(;゚∀゚)「今行くよ。」

 ノパ⊿゚)「早くこぉぉぉい。でなきゃアレするぞぉぉ。」
  _
(;゚∀゚)「ひぃ、じゃあなお前ら。絶対優勝しろよ。」

挨拶もそこそこにジョルジュは出て行った、

14 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:41:03.56 ID:KGTnlW/n0
昔の飛行機って200キロぐらいなんだ

15 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:42:40.26 ID:
その場に取り残された二人は首をお互いの方向へ向けた。

(;^ω^)「相変わらずあの奥さん怖いお。」

 (;'A`)「あれは、フライパン一つで軍隊潰せるぞ絶対。」





 ノパ⊿゚)「あんたらぁぁ!ここ汚すんじゃないぞぉぉ!」

(;^ω^) (;'A`)「はっはい。」

神経を緩ませていた二人に怒鳴るヒート。
聞こえていたかと心配したが、すぐに戻っていったため安堵のため息を吐いた。

16 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:44:49.38 ID:
なぜこんなに、ヒートを怖がるのか。それはヒートに関する噂が恐怖を煽り立てていた。
代金を渋る業者の事務所に乗り込んで行き、気の荒い男10人を相手に大立ち回りをしたり
ジョルジュの浮気現場に現れ、無言でジョルジュにアイアンクローをかけて
レンガの壁に後頭部を押し当てたまま50メートル走ったりと
数えればきりが無いほどだ。


(;^ω^)「びっくりしたお。取り敢えずエンジンつけるお。」

 ('A`)「そうだな。そんで下見行こう下見。」

気を取り直して二人は寄せ集めの機体にエンジンを取り付け、燃料やスロットルなどの配線を済ませた。
倉庫の入り口とは正反対の位置にある、シャッターをあげて飛行艇を川に浮かべ
操縦席に乗り込んでエンジンテストをしつつ、会場となる場所まで運んでいった。

早く空に飛ばしたいという気持ちはあったが、この地域での飛行は禁止されている。
はやる気持ちを、ほんの一瞬だけスロットルを目一杯押し上げ、プロペラの回転速度を
わずかな時間だけ早めることでそれを抑えた。

18 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:49:27.22 ID:
会場は川が集結する場所で、そこは大きな湖といった感じだった。
周りの陸地ではすでに開催に向けて準備がなされており、屋台までもが開店していた。
出場者登録所まで飛行艇を持って行き、その場で審査をしてもらう。

 (,,゚Д゚)「おお、参加希望者かい?じゃあこの紙に名前と所属の会社名書いてくれ。」

( ^ω^)「僕ら会社で出るんじゃなくて、個人で出るんだお。」

 (,,゚Д゚)「そうか、ちょっと困ったな。今年から一応スポンサーの名前を入れるようになったんだ。
      お前らなんか手伝ってもらってる会社とか工場とか無いか?」

 ('A`)「そっすか。じゃあジョルジュ長岡工場でお願いします。」

( ^ω^)「そうするお。じゃ登録よろしくお願いしますお。」

 (,,゚Д゚)「おう、長岡さんとこか。気ぃつけてな。ほい、コース図。」

( ^ω^)「ジョルジュさん知ってるんですかお?」

 (,,゚Д゚)「ああ、よろしく言っといてくれ。わかってると思うが当日は三週だからな。
      それと下見の最高速度は100キロ以下だかんな。」

 ('A`)「了解っす。」

19 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:51:36.59 ID:
軽い応対の後、受付の男からコース図を受け取る。
それを確認してから、二人の飛行艇は300メートルほど水上を走った後、離水していった。
初フライトだったが、そのスピードからか、さほど興奮はしなかった。

( ^ω^)「うぇっうぇっ、飛んでるお。」

 ('A`)「たりめーだろ、俺が設計したんだから。」

( ^ω^)「スクラップを寄せ集めただけじゃないかお。それで設計ってww」

 (♯'A`)「お前一人で参加したいのか……」

(;^ω^)「正直すまんかった。」

伝声管を通して話す。そして、一分弱で飛行艇はコースに入った。

21 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:55:10.70 ID:
VIPカップは川に沿って飛んで行くのだが、毎年コースが違う。
はっきりとしたコースがあるわけでは無いのだが、チェックポイントをたどっていくと形式により、おのずと一つの道になる。

空中からは、工場や学校、他にも建設中なのかレンガが規則正しく山になっているのも見える。
赤や褐色といった暖色系の民家と、それと同じぐらいある灰色の工場がこれからの技術に対する期待に応えているようだった。

一週目はそういった景色に目を取られていた。
自分達が生まれて、育った町を空から一望する。
せせこましく建物が乱立し、煙を吐き、荷物を積んだ船が行きかう。
それはとても広いように思えたが、どこか寂しく、そしてどこか遠くに行ってしまうような思いが湧いて出てきた。

何か大切なもの、そう水筒なんかを忘れて遠足に出かけてしまったような不安。
そんな感覚を二人は空で味わっていた。

22 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 02:57:50.30 ID:
何回も飛び回り、気を取り直したドクオが、コースの特徴をノートにつけていく。
そして何週目か回ったとき、ある場所が目についた。
川から陸にコースが変わる場所なのだが、船を通すためのトンネルがある。
飛行艇が一機通れるぐらいの狭いトンネルだった。
コースを一周し、またそこにきたときドクオがブーンに伝える。

 ('A`)「おいブーン、ちょっとここで着水してくれ。」

( ^ω^)「おっ、どうしたんだお。」

 ('A`)「いいから、着水してくれ。確かめたいことがある。」

ドクオの言葉を聞き、わけのわからないまま着水する。
少し水しぶきが顔にかかった。


 ('A`)「なあ、ここのトンネルってさ、どこに続いてんだちょっと進んでみようぜ。」

( ^ω^)「了解したお。」

飛行艇を川に浮かべたままトンネルの中へと入っていく。
エンジンの轟音とプロペラの空気を切り裂く音がこだまして、皮膚を刺激する。
10分程、右に左に曲がっているトンネルを進むと、前方に太陽の明かりが見えてきた。
明かりの見える方向へと機体を進ませる。

24 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:00:18.79 ID:YdQW3+zG0
複葉機なんかの時代か
第一次大戦の頃の飛行機のイメージだわ。

この時代にゼロ戦とか持ってったら大騒ぎだなwww

25 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:02:01.32 ID:
トンネルを出るとそこは、レースのチェックポイントだった。
まさかと思いドクオが慌てて地図を確認すると、大幅にショートカットができる。

それに気付き、少し興奮し早口になりながらもブーンに伝えた。

 ('A`)「おいブーン。ここかなりタイム縮められるぞ。
     川に沿っていくと、大きく回る所だけどここ入っていけばショートカットになるぞ。」

( ^ω^)「マジかお。でもそれだったら、ここに入らなくても上を飛んでけばいいんじゃないかお。」

 (;'A`)「お前大丈夫かよ、ルールブックぐらい読んどけよ。建物の上を飛ぶのは禁止されてるだろ。」

( ^ω^)「そうだったお。忘れてたお。」

本当に忘れていたのか元から知らなかったのか、ドクオには判別の仕様が無かった。
しかし、それよりもこの発見はそれを咎める隙間も無いぐらいにドクオの頭を占めていた。
優勝する気持ちはあるものの、実際は初参加の自分達が可能とは思っていなかった。
だからこそ、優勝への近道であるこの発見は大きかった。

26 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:04:34.20 ID:
 ('A`)「ここ、通っていけば俺らの飛行艇でも優勝できるんじゃないのか。」

考えを自分から切り離して、より客観的なものにしようとブーンに尋ねる。
だけれども、ブーンの返答はドクオにとって意外なものだった。

(;^ω^)「ドクオこそ大丈夫かお。飛びながらあそこ通るなんて自殺行為だお。
      僕はアクロバティックの操縦者じゃないんだお。」

 (;'A`)「ん、そういやそうだな。いやいやでも物は試しじゃないか。
      どうだブーン。俺見ててやっからお前ちょっと飛んでこいよ。」

(;^ω^)「いやいやいや。そんなこと言うドクオこそ飛んできたらいいお。」

 (;'A`)「いやいやいやいや。出場するのはブーンだろ。」

結局、飛ぶには狭すぎるということでこの案は却下になった。
もう1週ほどして空を見上げると、日が落ちる方には薄く雲が広がっている。
雲は夕暮れ時のオレンジ色した光を受け、それを伝えようとしているかのように
自身がオレンジ色に染まり空の青さと混じっていた。

28 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:08:03.56 ID:
( ^ω^)「そろそろ帰るお。」

 ('A`)「んだな。もう10分もすれば沈むな。」

飛行艇を川に着水させ、タキシングしながら戻っていく。
青から紫、そしてオレンジに色を変えていく空を見ながらゆるゆると進んでいく。

二人は機体の上から町並みを眺めていた。
大きなフランスパンを袋から覗かせる人。
ボールを持って走り回る子供達。
少しだけ背を丸めながら、バーに入っていく男。


今いる場所と、それを飾る時間に、どこか違う世界へ来てしまいもう戻れない風景を眺めるような
そんな郷愁的な気分になりながら二人は倉庫へと帰っていった。

30 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:11:02.11 ID:
次の日の学校。ブーンとドクオの教室は違う。
ドクオは休み時間も授業も、ボゥっと窓から空を見ていた。
今度の日曜日にはVIPカップに出れるのだという期待もあったが、何故かいつも話している友達とは話す気になれなかった。


特に学校でこれといった出来事も無く、また何をしたのかもわからないまま下校の時間になった。
鞄にノートや教科書をしまいこんで、のろのろと席を立つ。
開け放しにしてある教室の扉を出て、ブーンを迎えに行こうとしたとき、クラスの女子が話しかけてきた。

 (*゚ー゚)「ねぇドクオ君。昨日さ飛行艇に乗ってたよね。青い奴。」

 (;'A`)「えっ、んああ、はいそうです。」

31 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:14:47.47 ID:
急に声をかけられ敬語になってしまったドクオ。
こういう場合、次からどんな口調で話せばいいか大いに迷う。
このまま敬語を貫こうか、さっきの返事を無かったことにしようか
少し宙に目を泳がせて思案していると、しぃがドクオに話しかけた。

 (*゚ー゚)「ねぇ、もしかして今度のVIPカップ出るの。」

 ('A`)「ああ、でるよ。何で知ってるの?」

取り敢えずさっきの失態はどこか遠くに追いやって返事をする。
だけれども、しぃはその微妙な違いを逃さなかった。

 (*゚ー゚)「あははは、ねぇさっき敬語になってたよね。
      何で急にぶっきらぼうになっちゃたの?」

 (;'A`)「いや、ほらあれだよ。急に話しかけてきたからさ。そういのってあるじゃん。」

 (*゚ー゚)「またさっきと同じ顔になっちゃった。だけど今度は普通だね。
      ねぇねぇ、それよりもVIPカップに出るの本当?」

わずかな会話だが、ドクオはすでに主導権をしぃに握られた。
これからなにを言っても、しぃには敵わないんだと漠然と感じ情けない自分を少し恥じた。

32 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:15:55.11 ID:Y7EhmVXD0
支援

33 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:16:40.02 ID:
 ('A`)「出るよ、なんで知ってんの?誰にも言ってないのに。」

 (*゚ー゚)「昨日友達と見たの。日が落ちるぐらいのときに青い飛行艇にドクオ君が乗ってるの。
      それでもしかしたらなと思ったんだけど、やっぱりそうなんだ。ねぇ見せてよ。どこにあるの?」

 ('A`)「ん~、まぁいいかな。でもちょっと待って。隣のクラスのブーンって奴に一言、言ってくるから。」

一応断っておこうと考え、ブーンの教室に顔を出そうとした。
そのとき丁度ブーンが、ドクオを見つけ廊下に出てきた。

(;^ω^)「ごめんだおドクオ。ちょっと今日は補習で遅れるお。
      悪いけど先にいっておいてくれお。」

それだけ言い、教室に戻っていった。
クラスの中を覗き込んでみると、ブーンを含め何人かの生徒が残っており、黒板には大きく補習という字が書かれている。

34 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:20:14.64 ID:
 ('A`)「なんか、ブーンの奴補習らしいから先に行こうか。」

 (*゚ー゚)「いいの?置いていって。」

 ('A`)「いいよ、じゃ行こうか。」

二人が、校内を出てガレージへと足を進めていく。
ドクオはよく考えれば女の子と二人っきりというシチュエーションは初めてのことだと気付いた。

横にいるしぃとは教室では何回か話したことはあるけれども
それはお互いクラスメイトという距離があったからこその会話だった。
こんな状況ではどう接すればいいのか見当がつかない。

気まずい空気を一人で漂わせていたドクオだが、しぃを見るとそんな素振りはなかった。
学校のことを小出しに話しながら歩き、ガレージに着いたときは、自分の居場所を見つけたかのよう
ほっとした。

36 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:23:40.78 ID:
シャッターを開けて、中に入っていく二人。
カーテンを開けると、太陽の光が差し込んできて青い機体の存在を確かめるかのように照らした。

 (*゚ー゚)「すごい。」

太陽の光の演出のおかげか、それだけ呟く。
ドクオはそんなしぃを見てどこか誇らしい感覚を抱いた。
これ俺が作ったんだよと、自慢したい気持ちを押さえつける。

 (*゚ー゚)「ねぇ、ちょっと乗ってみていい?」

 ('A`)「いいけど、乱暴にしないでくれよ。」

 (*゚ー゚)「了解、了解ー。」

しぃは機体に足をかけて前席へと滑り込むように入っていく。
スカートと白く細い太ももの隙間から、下着がドクオの目に映った。
そのとき、外で車が事故を起こした。

38 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:26:22.57 ID:
別段、珍しいことではないが、後年ドクオはこのときのことをこう語った。

 ('A`)「二人っきりで女の子といるのは初めてでとても緊張しました。
    ましてや、よく知らない子です。ただ、まったくというわけではなく、ほんの少し時間を共有しただけ。
しかし、薄暗いガレージということが、私の陰徳な感情を刺激しました。
思春期ですからふしだらな妄想をよくしましたが、それが目の前にあるのです。
    さらに、スカートの中を見せられて私のボルテージはMAX、そして破裂寸前。
    燃え盛る私の煮えたぎる体を鎮めれるのは、若い女性の曲線しかないと思いました。
    もし、外で車の衝突音が聞こえなければ私はしぃを襲っていたでしょう。」

我に返り、誰から言われたわけでもないが、自分に与えられた痴漢の烙印を甘んじて受けた。

40 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:28:45.52 ID:
 (*゚ー゚)「ねぇー、操縦間が無いよ。どうやって飛ぶのこれ?」

 ('A`)「操縦席は後ろだよ。前は人が入れるようにしただけ。」

 (*゚ー゚)「じゃあ、後ろ行く。」

今度は機体の上を四つんばいになって、操縦席へと進む。
女豹という単語がちらついたが、そこまで肉感的ではなかった。
ただ、それでもドクオの目には十分刺激的であった。

 (*'A`)(あんなこと~、こんな~こと~あーったでしょ~)

昔覚えさせられた、歌。
多分今が、あんなことなんだろう。
こんなことは、一体いつやってくるのかなと思った。

 (*゚ー゚)「ねぇ、これ動かしてもいいの?」

 (*'A`)「ん、ああはい。いいよ。」

 (*゚ー゚)「また、敬語になった。ドクオ君っておかしいね。」

42 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:29:59.55 ID:/F3Utz01O
なんか紅の豚のイメージ

43 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:32:16.86 ID:
しぃが操縦桿をいじくり回し、それに合わせてラダーやエルロンが上下左右に振られる。
そのうち、どう動かせばどこが動くのかがわかったようで、大分満足したように見えた。

 (*゚ー゚)「これさ、飛ばさせてよ。どう動くかわかったし。」

 (;'A`)「駄目。ちょっと触ったくらいで操縦できる筈無い。空中に上がると結構振れるんだから。」

 (*゚ー゚)「いいじゃん。ちょっとだけ。お願い。」

 (;'A`)「駄目、絶対。もし壊れたらVIPカップ出れなくなる。」

 (*゚ー゚)「けち。じゃあさ。せめて前の席でいいから乗らせてよ。
     一度でいいから乗ってみたかったんだ。それならいいでしょ。」

 (;'A`)「えっ。俺が操縦するの?」

 (*゚ー゚)「操縦できないの。自分で作ったものなのに?」

実際、ドクオは操縦できなった。
ブーンは小さい頃に少しだけ操縦したことがあり、それを体が覚えていたからできた。
しかし、ドクオは昨日まで一度も乗ったことがなかった。まして操縦なんてできない。

44 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:39:15.02 ID:
 (;*゚ー゚)「もしかして、本当に操縦できないの。」

さっき言ったのはドクオに対する挑発だったのだろう。
ただ、ドクオの顔には不安と迷いの表情が深く表れていた。
しぃはそれを見て、まさかという目つきでドクオを見る。

 (;'A`)「俺が作ったんだぜ。できるに決まってんじゃん。
     いいよ、乗せてやるよ。ちょっと待ってろ。準備するから。」

自分が作ったものなのに、自分では使えない。
それでは一体何のために作ったんだろう。
少しばかりの見栄と、大きな疑問が浮かんだ。
そして表に現れたのは見栄の方だった。

操縦ができるかわからないまま、川へのシャッターを開けて川に浮かべる
そしてエンジンをかけて、操縦席へと戻る。

47 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:42:11.00 ID:
辺りに弾性のある音が響く。

 (;'A`)「よし、じゃあいくぞ。ベルトはしたか。」

 (*゚ー゚)「いいよー。」

 (;'A`)(大丈夫、落ち着いてやればできる。)

機首を、川の流れに合わせてスロットルを押しあげる。
プロペラが回転速度を増した。

徐々に加速していき、川の波がまるで地面の凹凸のように感じる。
操縦桿が震えだし、押さえつけるために全身の力を込めた。

離水速度に到達するも、失速が不安で操縦桿を引けない。
もう十分な筈だった。飛べる速度だ。

 (*゚ー゚)「まだとばないのー?」

しぃが声をかけるが、轟音にかき消されるまでもなく、ドクオには聞こえなかった。
握る力を少し緩めるだけで、操縦桿が手から飛び出してしまうように思えた。

48 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:43:06.37 ID:
 (;'A`)(飛んだ途端に失速しないよな……)

あと少しだけ速度を出そう。そう考えて、スロットルをさらに押し上げる。

 (;*゚ー゚)「ちょっ、ちょっと。もうすぐ川の合流地点よ。」

後百メートルぐらいで、船が交差しあう場所に出る。
当然、そこにはいつも何隻かの船が川に浮かんでいる。
しぃの目にはすでに三隻の船が見えていた。
瞬きするほど船は大きくなっていく。
このままの速度でぶつかったらと想像をする。助からない。そう感じた。

50 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:46:30.19 ID:
 (;*゚ー゚)「とばないの?ねぇ?どうしたの?」

後50メートル。

 (;'A`)(大丈夫だ。ギリギリまで……)

後40メートル。

 (;*゚ー゚)「冗談だよね?ここで一気に飛ぶんだよね?びっくりさせるんだよね?」

後30メートル。

 (;'A`)(速度はもう離水速度なんだ。後はこれを思いっきり引くだけだ。)

後20メートル。

 (;*゚ー゚)「ねぇ、さっきのこと怒ってるの?ごめん。謝るからもうやめてぇ!」

後10メートル。

 (;*∩∩)「ぃやぁああああああああああああああああああああああああ!」

後5メートル。

 (;'A`)「ぅおりゃあああああああああああああああああああああああああ!」

51 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:49:00.41 ID:
全体重をかけて操縦間を引いた。
機首は一気に持ち上がり空を向く。
一気に上昇し、体にGが目一杯かかる。

 (;'A`)「飛んだ飛んだ飛んだぞー!」

ほとんど地面と垂直になっている。
勢いが重力で殺されて、徐々に速度が落ちる。
今度はゆっくりと操縦桿を押す。
水平飛行に入った。

 (;'A`)「はぁ、なんとかなったな。」

 (*;ー;)「ふぇ、えっぐ……」

しぃは恐怖で泣いてしまった。
その声を聞いてドクオの心に罪悪感が芽生えた。
自分のせいで不安な思いをさせた。

52 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:50:37.64 ID:
どうしようもないかも知れないが、一応声をかけてみる。

 (;'A`)「あー大丈夫?」

 (*;ー;)「大丈夫なわけないじゃない!殺す気?!ばっかじゃないの、ちょっと挑発されたぐらいでこんなことするなんて。」

 (;'A`)「いや、ごめん。本当は俺……ぅお!」

謝ろうとしたそのとき、鳥が真横からドクオの顔を襲った。
突然のことに、操縦桿を倒してしまうドクオ。
機体は右にロールしつつ、高度を下げていく。

 (*;ー;)「いやぁああああ!」

しぃの叫びが空に伝わる。
操縦桿を左に倒し、機体が水平になったところで、今度は高度を取るために引く。

 (*;ー;)「もういい加減にしてよ!下ろしてよ!」

 (;'A`)「わ、わかった。ちょっとまって……ぅお。ぬおおおおおおおお!」

さっき顔に当たった鳥が、座席の中にいる。
鳥は、そこから抜け出そうと狭い座席の中で暴れまわった。
もう一度、機体がロールしつつ飛んでいった。

 (*;ー;)「いやぁああああああああああああ!」

54 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:52:58.19 ID:
その頃学校では。

 ( ゚д゚ )「つまりだな、蒸気機関の発明以降……」

( ^ω^)(あ~あ。退屈だお。早く飛びたいお。)

ブーンは窓際の席で、ミルナ先生の言葉を右の耳から左の窓へと飛ばすことに専念していた。
ミルナ先生の目を盗んで時折、空へと視線を向ける。
ゆっくりとため息を吐こうと視線を落としたとき、ブーンの目に青い飛行艇が映った。
川の上を猛スピードで走っている。

 ( ゚д゚ )「おい、ブーン聞いてるのか。お前留年してもいいのか。」

(;^ω^)「まずいお、もう飛んでもいいお。」

 ( ゚д゚ )「そうだまずいな。しかし、こっち見て喋らんか。第一なにが飛んでるんだ。」

(;^ω^)「はっはい。失礼済ましたお」

(;^ω^)(ドクオが飛ばしてるのかお。あいつ操縦したこと無いのに。)

55 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:54:49.44 ID:Y7EhmVXD0
支援

56 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:55:48.09 ID:
 ( ゚д゚ )「それでだなあ、蒸気機関は産業に大いに恩恵をもたらしたわけだ。」

(;^ω^)「だぁ、急上昇しすぎだお。」

 ( ゚д゚ )「そうだ、急激に成長しすぎたために、経済のバランスが崩れてしまった…」

(;^ω^)「だぁあぁ、きりもみになってるお!!」

 ( ゚д゚ )「そう、まさにきりもみ状態だったわけだ。よく聞いてるのは嬉しいがいちいち叫ぶな。」


 ( ゚д゚ )「そうしてだな、政府のとった政策により何とか立て直したわけだ。」

(;^ω^)「ああ、よかったお。」

 ( ゚д゚ )「うむ。まさにそのおかげで、安定した社会が育ったわけだからな。しかし、今度は内燃機関の……」

(;^ω^)「あああぁ、ループしてるお。」

 ( ゚д゚ )「そのとおり。歴史は繰り返すってやつだな。何か革命的なものができれば急速に成長していく。これは昔からずっと変わらない。」

57 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 03:59:21.76 ID:
やっとのことで、鳥を座席から追い払い着水した。
あれから何度か曲芸まがいのことをし続け、しぃはずいぶん前に気絶してしまった。
飛行艇をガレージに入れてから、震える足で地面へと降り立った。

 (;'A`)(上手く歩けねぇ……)

しぃが座席で気絶している。抱きかかえて下ろすことは、膝が笑っているドクオには無理だった。
とにかく、気を落ち着けようとポケットから煙草を取り出してそれを咥える。
マッチを擦る。
震える手のおかげで、いつもより火が大きいように見えた。
煙を大きく吸い込み、肺に刺激を与える。
鼻腔を通して煙を吐く。戻ってきたんだなと、渦を巻く煙を見ながら、そう実感した。

58 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:01:11.66 ID:
少したち、ガレージ内に薄い雲が形成された頃にしぃが目を覚ました。
ドクオは、翼に震えの収まった足をかけ、しぃの顔を覗き込む。
寝起きの少しぼやけた、現実と夢の狭間にいる虚ろな顔をしていや。

 ('A`)「だいじょう…」

声をかけようとしたドクオにしぃが抱きついた。
よほど怖かったのか、生きている喜びか、大きな声で泣きドクオの胸に顔を押し付けた。

 (*'A`*)「……」

柔らかい肉、異性の異性を惹きつける香り、肌をくすぐる髪。
それらが織り成してつくる、至福の感情を味わっていたドクオは、黙って抱き付かれていたが、突然しぃの束縛が無くなり体が軽くなった。
一瞬だけ見えた。般若のような顔が。
ドクオの視界が右に90度ずれた。

 (♯*;ー;)「この馬鹿!死ぬかと思ったじゃない。」

 (♯)'A`*)「ごめんなさい」

59 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:02:49.01 ID:NWbGR8FT0
これはいいDQN女

61 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:03:53.49 ID:
 (♯*;ー;)「だいたいねぇ、できないならできない……ん」

 (♯)'A`)「えっ」

 (*;□;)「オボェエェェェェエ」

抱きつき、平手打ち、嘔吐。
女性と何年間か付き合ってから見れるすべてを、ドクオは30秒で済ませた。

 (*つー;)「着替え持ってきなさいよ。汚れちゃったじゃない。」

 (♯)'A`)「はい。」

翼から降り、急いでガレージの中にあった着替えを持ってくる。
それを、しぃへと渡した。

 (*゚ー゚)「……見ないでよ。」

 ('A`)「見ねぇよ。」

しぃに背を向けて、また煙草を取り出し火をつける。
衣擦れの音がする。
普段なら異性のその音で興奮するところだが、今はそんなことなかった。

63 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:06:40.15 ID:
よいしょという掛け声のあとに、タタンと歯切れのいい音が響いた。
しぃは粗末なテーブルと、すえた匂いのする椅子をガレージの隅から持ってきた。

 (*゚ー゚)「服洗うから乾くまで居させてよね。」

 ('A`)「ああいいよ。」

叩かれて、怒鳴られて、吐瀉物を吐きかけられて、崩れた泣き顔を見せられて、命令されて。
つくづく女とはよくわからん生き物だと感じた。
そしてほんの十数秒、いや、多分数秒の沈黙。その沈黙の間にしぃの目が変わっていた。

 (*゚ー゚)「これ、ありがとね。それと叩いたりしてごめん。」

薄汚れた作業着を抓まんで、伏目がちに感謝の言葉を口にする。
自分の行為に許しを乞うニュアンスではなく、自分を恥じているような言い方だった。
つい先程までの激しい感情の起伏は、一時的なものだったのだろうか。
とにかくドクオは、悪い気はしなかった。

 ('A`)「いや、気にしてないよ。」

そしてまた沈黙。

64 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:08:06.91 ID:
ドクオは1秒、2秒、3秒と、沈黙の時間を数えてみる。
8まで数えたとき、しぃがドクオの方に首だけ向けてゆっくりと話し出した。

 (*゚ー゚)「ドクオ君てさ、本当は操縦できないんでしょ。」

 ('A`)「うん。」

 (*゚ー゚)「見え張ったの?」

 ('A`)「そう。俺もごめん。くだらない見栄で危ない目にあわせた。ごめん。」

 (*゚ー゚)「うん、ほんと怖かった。」

 (;'A`)「ごめん。」

 (*゚ー゚)「なんで、男の子ってそういう見栄張るの?」

 ('A`)「さあ、なんでだろうな。じゃあ何で女の子は化粧するの?」

 (*゚ー゚)「ん~、やっぱかわいく見られたいからかな。」

 ('A`)「男もそうじゃないかな。格好よく見られたいから見栄張るんじゃないかな。」

 (*゚ー゚)「ふ~ん。まあ似たようなもんかな。でも迷惑かけないだけ女の子の方がましね。」

唇のふちを心持ち上げてドクオを流し目で見つめる。
そのままの口ならフルートが綺麗に吹けるんじゃないかなとドクオは思った。

66 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:10:27.73 ID:
ドクオから視線を外したしぃは、自分の服へと向かった。
服は日光に当たる所に干してある。それを触り感触を確かめる。
まだ湿っぽいのか、日光に当てる方向を変え、またドクオの方へ戻ってきた。

 (*゚ー゚)「もう少し居させてね。」

ドクオの返事を待たず、椅子をわずかだけ引いて座った。
そんな一連の仕草が、急に女性らしさを取り戻したかのようで、ドクオは少し見とれた。


 (*゚ー゚)「ブーン君遅いね。」

 ('A`)「んっ、ああそうだね。」

 (*゚ー゚)「ねぇ、何でブーン君が出るの。ドクオ君はVIPカップに出たくないの?」

 ('A`)「俺か、俺は別にいいんだ。あいつを飛ばしてやりたいんだよ。」

 (*゚ー゚)「何で?」

 ('A`)「あいつさ、親がパイロットで小さい頃乗せてもらうのが好きだったんだって。
    でも、ブーンが小さい内に死んじまったんだ。その所為か知んないけど
    あいつ、空を見るときすげえ遠くを見るんだ。いっつも、へらへらしてっけどさ。」

 (*゚ー゚)「遠く?」

 ('A`)「そ、遠く。焦点が定まってるけど、他人からはどこを見てるのかわからない感じ。
    だから、そこに連れてってやりたいなって思ってさ。まっ、叔父さんの影響かな。」

67 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:11:12.71 ID:Y7EhmVXD0
支援

68 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:12:12.95 ID:
そのとき話しているドクオも、自分では気付かずに、今言ったような遠くを見ていた。
曖昧なようで、それでもどこか、視線が一本の張り詰めた糸の先を見る目。
糸の先は見えないが、それでもその先を見つめようとする目。

そんなドクオを見ながら、しぃは言った。

 (*゚ー゚)「それは見栄?」

 ('A`)「なんのこと?」

視線を糸の先からしぃへと移し変えて、ぼんやりとした目で見る。
その変化にしぃは気付いたようだった。

 (*゚ー゚)「ふ~ん。そういうのカッコいいね。」

 ('A`)「へ?」

突然の言葉に声が出せず変わりに、吐く息がすっとぼけた音を出した。

 (*゚ー゚)「だから、そういうのカッコいいねって。」

 (;'A`)「ななな、何が?」

 (*゚ー゚)「あはははは、なにびっくりしてるのよ。」

69 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:14:30.99 ID:
ドクオはしぃの言葉の意味が理解できなかった。
容姿について言われたのだと思ったが、自分では中の下だと考えていた。
だから、しぃの言葉にそんなわけあるか、と、戸惑いどう返事を返せばいいのかに困った。

 (;'A`)「そ、そういうしぃだって可愛いじゃん。」

多分、褒められたのだからお返しにと思いしぃの容姿を褒めた。
特に、意味は無い。挨拶をされたから挨拶を返したようなもの。

 (*゚ー゚)「!」

しぃにとって、ドクオの言葉は予期しないものだった。
ドクオの場合とは逆に、ストレートにその意味を取った。

 (;*゚ー゚)「な、なに言ってるのよ急に。」

 (;'A`)「いやいや、本当本当。かわいいと思うよ。うんかわいいよ。」

とにかく場を取り繕うと必死でしぃの容姿を褒める。
しぃが恥ずかしげに俯いた。
ドクオはしぃの動きを怒りの表れだと解釈し、その感情を逸らそうとまた口を開く。

 (;'A`)「クラスのみんなも言ってるしさ。かわいいと思うよ。
     髪型もよく似合ってるし、女の子らしいし顔も整ってるし。
     正直今日声かけてもらったのっだって嬉しかったし。それにそれに……」

70 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:17:08.90 ID:
まだ続けようとするが言葉が中々でてこない。
ドクオは次の文句を言おうと口をもごもごさせていた。

 (*゚ー゚)「……本当?」

頭だけをドクオの方に向け、俯いた顔を少し上げ上目遣いで尋ねる。
怖がっているような、それでも確かめたいような。目にうっすらと水分がコーティングされていた。

ドクオはその顔を見て、今言ったことが、しぃについて自分が考えていたことだと思った。
そして、しぃの方に顔を向けて、目を見ながら言った。

 (;'A`)「うん、本当。」

さっきとは違う種類の沈黙が流れる。
お互いに視線から相手の顔をはずす。

71 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:18:42.95 ID:
ガレージ内に肌を震わせる音が充満した。
床をこすりながら、しぃの椅子がドクオの椅子に近づいたからだ。

しぃの体温や息遣い、心臓の鼓動が聞こえてくる。そんな気がした。

どちらも口を開かない。
一秒、二秒。また時間を数えてみる。

三秒、四秒。しぃの顔を見てみる。
それに気付きしぃもドクオの顔を見る。

五秒、六秒。お互いに目を見つめあう。

七秒、八秒。しぃが目を閉じた。

九秒、十秒。ドクオもゆっくりと閉じる。

十一秒。二人の距離が縮まる。

十二秒。お互いの目標到達まで二十センチ。

十三秒。しぃの息がかかった。次の瞬間には目標到達。

十四秒。ガレージに外の風が入った。

二人は同時に同じ方向を向いた。

73 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:20:07.72 ID:




( ^ω^)「おいすー。遅れてスマンお!!」

76 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:26:27.60 ID:
閉じていた目を、今度はこれ以上ないくらいに大きく開いた。そこにはブーンの姿が。
何回も挑戦し完成することのなかったトランプタワーが、完成間近で壊されたような気分だった。

 ('A`)「はぁ……」

止めていた息を一気に吐き、新しい空気を吸い込んで言った。

 ('A`)「お前死ね。」





 ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです      前編終わり

79 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 04:29:50.82 ID:S5j7D1TA0

wktkして待ってるw

82 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 05:09:06.90 ID:06jT9wZv0

いやーなんつーか素朴でシンプルな味わいがあって面白いなあ
続きマジで期待してるよ

85 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/06/30(土) 07:31:22.33 ID:sfM8Orkk0
これはいい

161 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 19:47:21.23 ID:
( ^ω^)「ん、どうしたお。」

 ('A`)「なんでもねぇよ。」

 (*゚ー゚)「あの、こんにちは……」

( ^ω^)「おっ、こんにちわだお。」

軽く挨拶を交わし、ガレージの中へ進むブーン。
何も考えていないような顔が、ドクオの目には無表情でひょうきんなピエロに見えた。

( ^ω^)「こちらは誰だお?」

 ('A`)「俺と同じクラスのしぃさん。で、こっちがブーン。」

 (*゚ー゚)「よろしく。」

( ^ω^)「おっ、よろしくだお。それよりもドクオさっき勝手に飛ばしてたお。
      学校から見てたけど滅茶苦茶びっくりしたお。なに考えてんだお。」

少し鈍く思い口調でドクオを咎める。



            ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです 後編

165 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 19:49:25.82 ID:UIE15IWc0
wktk

166 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 19:49:57.96 ID:
( ^ω^)「こちらは誰だお?」

 ('A`)「俺と同じクラスのしぃさん。で、こっちがブーン。」

 (*゚ー゚)「よろしく。」

( ^ω^)「おっ、よろしくだお。それよりもドクオさっき勝手に飛ばしてたお。
      学校から見てたけど滅茶苦茶びっくりしたお。なに考えてんだお。」

少し、鈍く重い口調でドクオを咎める。

 ('A`)「まあいいじゃねぇか。お前がこなかったから退屈だったんだよ。」

( ^ω^)「もぉ~、ドックンたら寂しがり屋なんだからぁ。」

妙なしなをつくり、腰をくねらせた。
もともと怒っていたわけではなく、ただ心配だっただけなのだろう。


 (*゚ー゚)「そろそろ、服も乾いたし私行くね。」

169 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 19:52:19.35 ID:
しぃは、宣言するかのようにそう言い、干してある服のもとへと向かった。
軽く手で触り濡れ具合を確かめてから、ドクオとブーンから見て飛行艇の裏へとまわった。
今度は、覗かないで、とは言わなかった。

フロートの間からしぃの足が見える。
すとんと作業着が落ち、それを飛行艇に無造作にかけた。


( ^ω^)「ふひひひひひ。」

卑猥な笑いと声を押し殺しているブーンが、静かに、そして滑らかに飛行艇に近寄る。
それを見たドクオはブーンを羽交い絞めにして、わざと大げさに叫んだ。

 ('A`)「おい、しぃ。ブーンが覗こうとしてるぞ!早く着替えろ!」

171 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 19:54:37.31 ID:
(;^ω^)「ちょ、ドクさん。」

ブーンがドクオを振り返ると、意地の悪い笑みを浮かべたドクオの顔が目に入った。



 (*゚ー゚)「そんなに見たいなら来てもいいよ~」

(*^ω^)「そうですかお。じゃ遠慮なく。ほれドクオ、我のやんごとなき体に触れるでない。」

 (*゚ー゚)「あなたー、早くきて~ん。」

少し躊躇してドクオはブーンから手を離す。
どうしたものか迷っていると、ブーンは足音を隠さずに近づいていった。

機首の方から回り込もうとしていたブーン。
距離を置いているドクオからは、逆方向からしぃが出てくるのが見えた。

(*^ω^)「ふひひひひひ、こーんにーちわー。」

( ^ω^)「おっ?」

顔だけのぞかせるように、ブーンが体を傾ける。だがそこには何もいなかった。

172 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 19:57:08.51 ID:
ブーンの後ろにしぃが忍び寄る。


 (*゚ー゚)「わッ!!」

しぃは大声と共に、自らの膝でブーンの膝裏を勢いよく押し出した。
驚き、支える場所を失ってがくんと膝を床につくブーン。

( .ω゜)「ひぎっ!」

 (*゚ー゚)「あはははは、ばーかばーか。じゃあねドクオ君。また明日。」

 ('A`)「お、おう。」

それだけ言ってしぃは足早にガレージを後にした。

残されたのは、正座のまま足を立てているブーンと、それを見ているドクオ。
ドクオは、しぃがさっきのこと怒ってたのかなと想像するも、答えは見つからなかった。

173 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:00:25.56 ID:
(;^ω^)「なんなんだおあの女?」

 ('A`)「いや、お前が悪い。それと俺も帰るわ、今日はもう疲れた。日も沈みかけてるしいいだろ。」

( ^ω^)「いいお。僕はちょっと人と会うからここにいるお。」

 ('A`)「わかった。じゃあの。」

( ^ω^)ノ「バイブー。」

ドクオがガレージから出て行き、扉を閉めた。
それから、20秒もしないうちに、ほとんど入れ違えでブーンの客が入ってきた。

 ξ゚⊿゚)ξ「こ~んに~ちは~」

中にいる人を確かめるかのように、語尾を延ばしてガレージ内を見渡す。
2.3秒してからブーンが声をかけた。

( ^ω^)「ツン、こっちだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ居たのね、間違えたかと思ったじゃない。」

( ^ω^)「わざわざ着替えてこなくてもいいのに。」

そう言いつつも、制服姿でないツンの姿に、わずかだけ気持ちが傾いた。
幼い頃はよく見ていたけれども、最近はあまりツンのそういった姿を見たことがなかった。
ブーンは珍しいものを見るのと同じ感覚かなと考える。

174 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:03:01.99 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「ふん、別にいいじゃない。そんなことより早く乗せてよ。もうすぐ暗くなっちゃうわよ。」

( ^ω^)「いいお。じゃ、悪いけど準備するからちょっと待っててお。」

ガレージのシャッターを開けて、川への道をつくる。
ドクオがやったのと同じく飛行艇を川に浮かべ、ツンに座るよう促す。

( ^ω^)「じゃあ、前に乗ってお。」

ξ゚⊿゚)ξ「ようやく、果たしてくれるのね。」

( ^ω^)「そうだお。約束したお、ツンを飛行艇に乗せるって。僕は約束は忘れないし破らないお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そ、じゃあたしも守らなきゃね。」

何がと聞こうとしたブーンを背に、ツンがフロートの上に乗った。飛行艇の重心がずれる。
ツンはそれに気付き慌てて、前席へと体を入れた。慌てている姿を見ながら、ブーンも少し誇らしげな気持ちになった。

175 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:03:13.46 ID:rMFedEhj0
お、やっときたか支援

176 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:05:07.10 ID:
( ^ω^)「ツン、出発するお。」

ξ゚⊿゚)ξ「りょーかい。」

エンジンの回転速度を上げて、推進力を作り出す。機体は、ゆるゆると前へ進んでいった。
5分ほど経ち、速度を上げないことに疑問を持ったツンが声を出す。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、いつ飛ぶの?」

( ^ω^)「もうちょっと先で加速するお。この辺は飛行禁止区域なんだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだ。そのときになったら教えてね。」

( ^ω^)「おっおっ、了解だお。」

太陽の、地面に近い所が沈みかかった空を見た。思えば遠くへ来たもんだと感じる。
いつだったか、小さい頃ツンに約束をしたことがあった。ツンは覚えているだろうか。

飛行禁止区域を出てからスロットルを押し上げて加速する。
エンジン音が徐々にやる気を出していくかのように、だんだんと滑らかな高音になっていった。
フロートの終端から水しぶきを上げて、機体が浮かんだ。

177 : これ中篇だった : 2007/07/12(木) 20:06:37.38 ID:
通りすがりの船や、川岸の船乗り場から笑いながら手を振る人もいた。
それに応えるようにブーンとツンは、狭いコックピット内から手を出して左右に振った。

川に沿ってゆっくりとカーブを繰り返しながら、海上へと出る。
振り返ると、独立して、個々のものとして建っていたものが、空からは一つのものに見えた。
ブーンがそう思っていると、それを見透かしたかのごとく、ツンの声が聞こえた。

ξ゚⊿゚)ξ「なんか一杯の建物があって、一つの町って感じね。実際そうなんだろうけど。」

( ^ω^)「そうだおね。」

ξ゚⊿゚)ξ「今日は無理かな。あれ。」

( ^ω^)「あれ?」

ξ゚⊿゚)ξ「覚えてない?雲海を見せてくれるって約束。小さい頃したじゃない。」

( ^ω^)「そうだったかお?」

なんとなく、そんな約束をした気もした。夢を見た後はっきりと思い出せない、靄の中に包み込まれている感覚。
何かのきっかけさえあれば、一気に記憶の底から浮上する類の思い出。
だから、いくら頭の中を探してもどうしても思い出すことはできなかった。

178 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:07:17.93 ID:ZMl6ZZxw0
ずっと待ってた支援

181 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:12:15.82 ID:
ξ♯゚⊿゚)ξ「まさか忘れたって言うの?さっき自分で言ったじゃない。」

急に声が低くなったツン。大事なことだったのかなと考えるけど、ブーンは思い出せない。
けれども今日は雲海は見れない。空を見ればすぐにわかることだ。だから悪びれもせずに言った。

( ^ω^)「ツンを乗せてあげるって約束は覚えてるお。他はよく覚えてないお。
      でも、まあいいじゃないかお。今日は雲がかかってないから無理だお。」

ξ♯゚⊿゚)ξ「……」

ツンは無邪気に話すブーンに、圧力を伴なった無言の空気で返した。
しかし、そんなことは露知らずブーンは飛行艇の操縦を楽しげにしている。

東の空はまだ青い。
しかし西の空は赤が濃くなっていき、段々と夜に変わろうとしている。

( ^ω^)「ツン、そろそろ帰るお。」

ξ゚⊿゚)ξ「ええいいわよ。雲海はまた今度見せてね。」

( ^ω^)「まかしとくお。今度は絶対に見せるお。」

機首を自分達が住む町のほうへと向けて、ゆっくりと高度を落とした。
海へ出たときと同じコースを辿り、また川に沿って飛んでいく。

182 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:14:24.31 ID:
右手の方角にまだ沈まない太陽が見えた。
ツンは右手で頬杖をつき、すっと目を細めて見ている。
ツンの顔が赤く染まり、赤と黒のほんのわずかだけのグラデーションができた。
頬にはまつ毛が影を落としている。革の頭巾から出ている長い髪が空に流れていた。

それを見たブーンは一回だけ心臓が大きく波打った。
ふいに前にいるのが誰かと思って、自分の中のツンを探ってみる。

そう、いつも自分に悪態をつくツン。気に入らないことがあると怒るツン。
そして尻を蹴っ飛ばすツン。尻餅をついた自分を笑うツン。

でも、陰口を叩かないツン。僕の悪口が出ると反駁するツン。
最近は減ったけどいつも口喧嘩をするツン。小さい頃の約束を律儀に覚えてくれるツン。

だけれど、それらが合わさっても、目の前のツンには今考えた一つも当てはまらない気がした。
ブーンも、首を捻り真っ赤な太陽を見てみる。ツンが何を見ているのかが気になったから。

けれども何を見ているのかわからなかった。目線を追ってもはっきりとわからない。
2、3回ツンと太陽を見比べたけれど、やっぱりわからない。

( ^ω^)「ねぇツン。何を見てるんだお?」

183 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:15:40.19 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「ん~、別に。あっちの方見てただけ。」

( ^ω^)「あっちって太陽の方かお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。綺麗じゃない。赤から段々と紫になっていくのが。」

ブーンはもう一度首を捻ってみる。
ツンの言ったとおり赤色の空と青色の空が交わるところは紫色の空だった。

首を元の向きに戻してツンを見る。やっぱりどこか曖昧でもやもやしている視線。
だけれども、ブーンにはそれが紫色の空よりいいものに見えた。

ぼーっとツンの横顔を見ているとプロペラの羽音と、エンジンの連続的な爆発音と、なにかが聞こえた。機体は僅かずつ下降し

ξ;゚⊿゚)ξ「ヘビャシ!」

(;^ω^)「ヘグッ!!」

唐突に、機体が水面を水きり石みたいにバウンドした。
その衝撃で体が上下に揺すぶられ、そのせいで目の前のものがぶれて見える。

184 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:18:50.24 ID:
ξ;゚⊿゚)ξ「ブレーキブレーキ!!」

(;^ω^)「おうおうおうおう。」

焦りのため、目一杯エアブレーキをかけるブーン。
水面に接触すると同時にかけてしまったため、衝撃が一層強まる。

ξ;゚⊿゚)ξ「ファイ!」

(;^ω^)「シャウ!!」

機体が前のめりになりつつ水上を滑る。正面に川の水面が見え、勢いよくしぶきを上がる。
前後どっちに倒そうかと少し迷ってから、体ごと操縦桿を引いた。
歯切れのいい水を叩く音があたりに響いて、機体は通常より速いままタキシングにはいった。

スロットルを下げ、徐々に速度を落として、行き交う船と同じ程度で進む。
途中船に乗っている男から、二人っきりで空中散歩か、と声をかけられた。
ツンは軽く微笑んでいたが、ブーンは顔を赤らめて苦笑し手を左右に振った。

186 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:24:25.53 ID:
ガレージの前まで来て、エンジンを切った。ボフンボフンと二回音を立てて停止する。
機体を包み込んでいた振動の幕が消え去り、耳鳴りと共に周囲の音が聞こえた。
どこかで、モペッドについた小さなエンジンの音が鳴っている。

ξ;゚⊿゚)ξ「なにやってるのよ!お尻がシェイクされたじゃない。
       あたしの真っ白でプリティなお尻が、今はお猿さんのように真っ赤っかよ。」

(;^ω^)「す、すまんお。僕もお尻がシェイクされて真っ二つだお。」

ξ;゚⊿゚)ξ「ばっかじゃないの。もとから割れてるでしょ。それにあんたのは割れてなくても割れててもどうでももいいのよ」

(;^ω^)「ヒドスだお。」

ξ゚⊿゚)ξ「もお、せっかくあたしもブーンとの……ああ、もういいわ!」

( ^ω^)「おっおっなんだお?そういえばツンとの約束ってなんだったかお?
      一緒に空を飛ぶことと、雲海を見せることと、あと何かあったかお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんでもないわよ。気にしなくていいのよ。」

( ^ω^)「?」

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、早くしまいなさいよ。もうすぐ暗くなるわよ。」

ツンに促されガレージ側のフロートに足を降ろすブーン。
それに続いてツンも、同じフロートに乗っかった。フロート部がいつもより多めに沈む。

189 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:28:11.58 ID:
ブーンが川岸に飛ぼうと機体から手を離ししゃがみこんだ。
跳ぼうとして脚に力を入れたとき、それを阻止するためツンが口を開く。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとまった。」

( ^ω^)「なんだお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンが約束果たしてくれたから、あ、あたしもブーンとの約束果たすわよ。
      いい、約束したからだからね。あたしがしたいって訳じゃないのよ。」

走っていたモペッドのエンジン音が途絶えた。
川の流れによる浮き沈みのため、ブーンの手は機体を掴んだ。

( ^ω^)「約束ってなんだお?教えてくれお。」

ξ;゚⊿゚)ξ「教えてあげるから目を瞑りなさいよ。いい開けちゃ駄目よ。」

(;^ω^)「わかったお。でも、川に落とすとかは無しにしてくれお。」

ブーンが目を瞑り、バランスを取る基準がないため、機体を掴む手に力を入れた。
風が熱されたエンジンから熱量を奪って、生ぬるい温かさになり二人の間を通り過ぎる。
ブーンの唇にこそばゆい何かが触れた。すぐにツンの髪だと気付き、近くに居るんだとわかった。

190 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:29:59.39 ID:
もう一度、風がふき、唇にあたる髪が多くなった。真正面にツンがいる所為か顔に風があたらない。

( -ω-)「なにするんだお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「黙ってなさい。」

さらにもう一度、風がふき、焦げた匂いの中に、甘い香りがした。
唇に髪が触れなくなった。

(;-ω-)「ツン、近いお……」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいから黙ってて。」

風は、ブーンの体にほとんどあたらなかった。そのかわりツンの体温と思わしきものが感じられる。
今はもう、甘い香りしかしない。

191 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:32:32.44 ID:
 ( ゚д゚ )「うぉーい。お前らなにやってんだ」

192 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:34:16.43 ID:
( -ω-)「お?」

聞き覚えのある声がし、ブーンはその発生源を見ようと目を開こうとした。
うっすら開けたまぶたの間から、ツンの顔が大きく入っている。何事かと思う隙もなく

ξ;゚⊿゚)ξ「そりゃ、せっい!」

(;^ω^)「ぬお!」

ツンがブーンの肩を鷲掴みにして、多分少し冷たいぐらいであろう川へと倒れこむ。
四方に水しぶきを飛ばし、二人の体はそれと逆に沈んでいった。

とにかく明かりのあるほうへと考え、ぼやけて見える水の中で必死に水面を探す。
手を振り、足を振り、水面から飛び出していった。ツンに文句を言うため、大きく息を吸い込み周りを見渡す。

(;^ω^)「なにすんだお?!」

ξ;゚⊿゚)ξ「うっさいわね、いきなり声をかけられたから足が滑ったのよ。」

(;^ω^)「それにしてはわざとっぽいような気もするお。」

ξ;゚⊿゚)ξ「なによ、あたしも落ちてんのよ。わざとなわけないじゃない。」

(;^ω^)「確かに……」

193 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:36:24.35 ID:
ツンの言う通り、わざとと言い切るには無理があると考えた。
しかし、それでは一体何のためだったのだろうか。
そう思ったとき先ほどの声の主が二人に呼びかけた。

 ( ゚д゚ )「なにやってんだ、お前ら?まあいい。ブーンよく聞け。
       今度の日曜日お前追試だから学校にくるんだぞ。」

(;^ω^)「そ、そんな。今度の日曜は駄目ですお。」

 ( ゚д゚ )「馬鹿もん。自業自得だろうが。赤点ばっかり取りやがって。
       もし来なかったら留年確定だからちゃんとくるんだぞ。」

用件だけを伝え、近くに止めてあったモペッドに乗って、去っていった。
二人はお互いの顔を口を開いたまま見合い、ブーンは小さく、どうしようと呟いた。



    ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです  中篇終わり

194 : ドックン番外編 : 2007/07/12(木) 20:38:01.83 ID:
 ('A`)「ちっくしょう。なんだあいつは。せっかくの機会を台無しにしやがって。
    ああいったものはその場の雰囲気というものが大事であって、簡単にはできないんだぞ。
       それをあいつは、いとも簡単にぶっ壊しやがった。許せん。」

似たような語句を何べんも繰り返し、ぶつぶつと呟きながら歩いていた。
通りすがる人が訝しげな目をおくるが、そんなことには気付かない。

 ('A`)「くそ。」

 ('∀`)「でも、あれ……」

 ('∀`)「うひひひひひ。」

 ('A`)「それをあいつは……」

思い出しては喜んで、深く思い出すほど腹が立つ。
そんな記憶の階段を昇り降りしていたら、いつのまにか自宅へと着いていた。

195 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:39:07.11 ID:ZMl6ZZxw0
普通に面白いから頑張れ。

196 : ドックン番外編 : 2007/07/12(木) 20:39:20.75 ID:
 ('A`)「ただい……はっ!!」

ドアを開けた瞬間に、ドクオのシナプスが急激にネットワークを構築した。
今日ガレージから帰るときに女の子とすれ違ったのを思い出したのだ。
見たことのある顔だと今になって気付く。ドクオのインスピレーションは今マックスだ。

 ('A`)「もしや。在り得る。あの状況、あの場所、あの二人。



                                高確率だ」

家のドアを力いっぱい閉め、走り出す。
お前にだけ、そんなことはさせない。絶対邪魔してやる。
それが友達だろブーン。

197 : ドックン番外編 : 2007/07/12(木) 20:40:46.66 ID:
とにかくさせない、やらせない。絶対にだ。そんな気持ちが拡大した。
とはいえ、悪意のあるものではなく、むしろ悪戯をしに行く気分だった。

それでも、後ろめたさがあったのか、はては予想する罪悪感の所為か
落ちそうになる気分を盛り上げるために、復讐者などと悪役を気取ってみる。

 ('A`)「俺はトラだ、悪いトラだ。そうだ。幸せを食ってやるんだ。そのために生まれてきた。」

走って息切れしながら、吐く息と共に自家製の呪いの言葉を唱える。
しかし、ガレージについた頃にはすでに二人はおらず、飛行艇もなかった。

 ('A`)「ふっ、いい度胸じゃねぇか。楽しんできな。絶対に邪魔してやるぜ。」

二人がいないことにドクオは望みを絶たなかった。
いや、むしろ料理のスパイスにきつい香辛料を入れて味を引き立てるかのごとくに感じた。
そして、それはとてつもない美味だと確信した。

198 : ドックン番外編 : 2007/07/12(木) 20:43:02.69 ID:
しかし、飛行艇が着水するのはここではない。飛行可能な場所に行かなければいけない。
ただ、そうなると範囲が広くなる。とりあえずガレージを出て考えてみる。

ドクオの横を一台のモペッドが通り過ぎた。それに大声で呼びかける。

 ('A`)「ミルナ先生―。」

 ( ゚д゚ )「ん、おう、ドクオだっけか?」

モペッドが停止し、搭乗者が自分に言うかのように呟く。

 ('A`)「先生協力してください。ブーンがまずいんです。このままじゃ奴は暗黒面へと堕ちてしまいます。
    是非とも先生の協力が必要なんです。ブーンを探してください、お願いします。」

 ( ゚д゚ )「なんだ知ってるのか?俺もブーンに言いたいことがあるんだ。どこにいるか知ってるか?」

 ('A`)「いえ、いまはわかりません。でも、青い飛行艇に乗っています。もうすぐ日が落ちますから
    すぐに戻ってきます。」

 ( ゚д゚ )「そうか、青い飛行艇か。よし、見かけたら近くによってみよう。じゃあなドクオ。」

199 : ドックン番外編 : 2007/07/12(木) 20:44:33.37 ID:
ミルナは5、6メートル走ってからモペッドを始動させ、角を曲がっていった。

ドクオはとりあえず、飛行禁止区域から出るところに行こうと思い、歩き出した。
目的地に着いて、辺りを見回してから煙草に火をつける。

何本か吸い終わった後、空に黒い点が見え、そしてエンジン音が聞こえた。
吸っていた煙草を川に放り投げ、ランナーズハイの走者よろしく素晴らしい笑顔で飛行艇を追った。

 ('∀`)「ひーひっひっひー。させねぇ、させねぇぜブーンちゃん。絶対にナー!!」


ドックン番外編  ~おわり~

200 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:44:53.89 ID:48ZOQoFl0
ドックンなにやってんだwwwwwww

201 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:50:31.98 ID:0+wKmd2m0
暗黒面wwww
スターウォーズかww

203 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/12(木) 20:54:38.13 ID:fulikivnO
ブーンも惜しいところでwとか思ってたらドクオのせいかw

209 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:00:14.95 ID:
 ('∀`)「さてさて、まずは様子を窺ってと。」

ドクオは全力疾走にもかかわらず、息一つ切らしていない。
飛行機の墜落と同じように、高ければ高いほど粉々に砕け散る。
そう思って、今か今かと二人が頂点に達するのを待っていた。

扉の窓から覗き見ると、ずぶ濡れのブーンと、同じくずぶ濡れのツンがいた。
そのまま観察を続け、ガレージ内の空気が変わる瞬間を感じ取ろうと五感を集中させた。

 ('∀`)「よし、そろそろだな。」

人外の力を持ってして人にはわからぬ何かを感じとったドクオ。
なるべく自然に、そしてあくまでそ知らぬ顔で行かねばならぬと思い
顔の筋肉をほぐして、普段どおりの顔を作ろうと努力した。



     ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです  中篇2

211 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:02:06.96 ID:
 ('A`)「ん、ん。よし。さりげなく。」

ドクオは、中の二人が気付くようにわざと音を立てて扉を開ける。


 ('∀`)「よぉーっす!!いやーすまんすまん。忘れ物しちまってよ。
    あれブーンさん、その女の子は何ですか?隅に置けないですなぁ。
    こんなとこで二人っきりなんて、いやいや自分の口からはそんな卑猥なこと言えませんよ。
    ええ卑猥ですともそうですとも。そんなけしからんこと。ねぇブーンさんどうしたんですかい?
    落ち込んだ顔しちゃって、まるで……いやいやだから自分の口からは言えないでやんすよ。ねぇ。
    だってそうでしょ、やっぱりそういう男女の秘め……おっとっとなに言わすんですかい。まったく。
    上手いですねぇ、そうやって口を開かせるのが。そっちの方の口……ややや、またブーンさんの術中に嵌まるとこでしたよ。
     ねぇ、そう思うでしょ。おっとっと、そうそう忘れ物だった。えっ何を忘れたかって?
     決まってるでしょ、思い出を忘れたんですよ。思い出。大事なもん忘れちゃったよ。」

213 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:03:13.91 ID:
 ('∀`)「あれれー、ずぶ濡れでどうしたんですかい?まるで服着たまま……だからその手には乗りませんよ。」

扉を開けるときの意気込みはどこへやら、といった具合に喋りまくる。
しかし、そんなドクオを一瞥しただけで視線を床に落とす二人。
普段なら、なにかあったかなと疑問に思うだけの頭はしていたのだろうが
今はただフラグクラッシャーの鬼と化していた。

 ('∀`)「あんれぇ、どうしたんですか?元気ないですねぇ。
     ねぇねぇ、どうしたの?どうしたの?教えてよ。今どんな気持ち?」

( ´ω`)「……ごめんだお、ドクオ。」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

214 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:05:33.77 ID:+//THD0FO
wktk

215 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:06:55.19 ID:
ブーンとツンの顔を見て、ようやくフラグクラッシャーの鬼から戻ったドクオ。
先ほどまでの勢いを若干残しつつ、落ち込んでいるわけを聞こうとした。

 ('A`)「なに?どしたん?なにかあったん?」

重苦しい雰囲気にとうとうドクオの憑き物が落ちた。
口を開きかけてはまた閉じる。そんな動作を4、5回繰り返した後ブーンがようやく声を出した。

( ´ω`)「今度の日曜、追試だお。それに出なかったら留年だってお。」

 ('A`)「えっ?なんとかなんねえのそれ?」

( ´ω`)「多分無理だお。とにかく受けなきゃ留年になっちゃうお。
     僕ん家トーチャンいないし、そんなにお金に余裕無いから留年はできないお。」

 ('A`)「それじゃ……」

( ´ω`)「僕はこれから勉強するお。だからVIPカップにはドクオが出てくれお。
      じゃ、僕はもう帰るお。ほんとにごめんだお。」

濡れた服のまま、水の足跡を残してブーンはガレージを出て行った。
泣いていたようにも見えたが、全身ずぶ濡れで判断のしようがなかった。
ドクオの中のブーンからは想像できないほどに、その背中は寂しげだった。

217 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:09:13.53 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ドクオ君。頑張ってね。あたしはブーンの勉強見るから。じゃ、あたしも帰るね。」

 ('A`)「ああ。」

ツンも濡れた服のまま帰って行った。そのままでいいの?と言おうとしたが、ツンを引き止めることは出来なかった。

重力に逆らうことをやめた様に、入れていた力を解放して椅子に座る。ドン、と音がした。
頭の中が真っ白になり、とりあえず煙草を吸おうとポケットから取り出す。
火を点けて自虐的に思いっきり吸い、目一杯、口の中に煙を溜め込み一気に吸い込んだ。
むせて咳をするが、そのたびに喉が痛み、粘膜がやられているような感触がする。

ドクオは落ち着かなかった。何回もそれを繰り返し、喉が慣れたところで煙草を投げ捨てた。

 ('A`)「クソが……アホか……」

床に罵倒の言葉を吐きかける。けれどもその相手は床でもなければ、ブーンでもない。自分だった。
ブーンが出場できないのは自分の所為だと思った。自分がミルナを呼びとめ、そしてあんなことを言った。だからこんな事態になったと。
別段、ドクオの所為ではなく、ブーンの自業自得だが、さっき自分がブーンに対し思っていたことが重くのしかかった。

219 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:10:56.91 ID:
もう、日が沈んでどこも真っ暗になっている。ガレージ内に明かりはついていない。
ドクオが投げ捨てた煙草の火が、赤くほんの僅かだけの周囲を照らしていた。

煙草を拾って、灰皿にねじ込み火を消す。
ブーンに対する罪悪感を連れて、ドクオはガレージを出て行った。

その日、ドクオはどうしようか考えているうちに夢の中へと入っていった。
夢の中では自分がVIPカップで優勝しトロフィーを抱えている、そんな夢だった。
自分の思いとは裏腹にそんな夢を見ることに自己嫌悪した。自分はブーンが飛べなくなって喜んでいるのかと自問自答をする。
しかし、いったん寝ると頭の中が整理されていた。ブーンのためにやることがわかった。


学校。先日と同じように授業は全く耳に入らなかった。
そして、ブーンに会わせる顔がなく、行きたいトイレもギリギリまで我慢した。
しぃはというと、ドクオを避けているような雰囲気だった。

221 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:12:59.81 ID:
放課の時に、ミルナをつかまえて談判をした。
多分だめだろうが、少しでも可能性があるならやっておきたかったからだ。

 ('A`)「ミルナ先生、お願いがあります。今度の日曜にどうしてもブーンをVIPカップに出してやりたいんです。
    だから、お願いします。追試の日程をずらしてもらえませんか。」

 ( ゚д゚ )「それはできんな。無理というものだ。」

きっぱりと言い放つミルナ。それでもドクオは食い下がる。

 ('A`)「お願いします。今までやってきたことが無駄になるんです。
    そんなの教育として間違ってるとは思いませんか?」

 ( ゚д゚ )「なにを言っている。他の者達にも予定や何やらがあるんだ。
       一人だけ特別扱いするわけにはいかん。」

 ('A`)「でも、親の死に目とかには特別に許される場合があるじゃないですか。」

 ( ゚д゚ )「あのな、そういう場合は他人のための都合だ。自分の都合では無理だ。
       それにちゃんと授業を受けてれば追試なんて滅多にならん。
       ブーンには残念だが日曜に追試を受けてもらう。もっとも留年したければ受けなくてもいいがな。」

授業が始まる鐘が鳴り、それ以上は話を続けずミルナとドクオは別れた。
だがこれではっきりもした。ブーンは出れないと。ドクオは次の案に移ろうと決心した。

223 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:15:45.08 ID:
その日最後の授業が終わり、皆が帰ろうとしている中、ドクオはしぃに近寄り話しかけた。

 ('A`)「あの、しぃ。ちょっといいかな。」

 (*゚ー゚)「な、なに。」

しぃは昨日のことを思い出し、ドクオに今までどおり接すればいいのかどうかわからなかった。
思春期の青年らしい悩み。しかし、ドクオはそんなことは気に留めず、昨日のことがある前の接し方をした。

 ('A`)「あのさ、手伝って欲しいことあるんだけどいいかな。」

しぃにとって予想外に自然体だったドクオ。それを見てしぃは寂しさを覚えつつも安心した。

 (*゚ー゚)「なに?」

 ('A`)「今日さ、暇だったら手伝って欲しいんだ。」

 (*゚ー゚)「なにを?」

 ('A`)「あのさ、ブーンがVIPカップ出れなくなったから俺が変わりに出るんだけど
    はっきり言って自信ないんだわ。それで、なるべく慣れておきたいしコースの曲がるポイントとかを調べたいんだ。
    んで、しぃを前に乗せるから俺が喋ったことノートにとってほしいんだ。」

224 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:15:56.40 ID:V/nYSK+60
支援

225 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:16:29.96 ID:
 (*゚ー゚)「ん~」

しぃは少し考え

 (*゚ー゚)「昨日みたいに危ないことしないよね。」

 ('A`)「しない。」

 (*゚ー゚)「じゃあいいよ。今日からやるの?」

 ('A`)「そう。明日までしか飛べないから。残りの1日はボートでも出すつもり。」

 (*゚ー゚)「わかった。じゃ、いったん着替えてくるね。昨日のガレージ行けばいい?」

 ('A`)「ありがとう。俺は先に行って準備してるよ。」

ドクオはしぃと別れた後、ガレージに向かう途中に新品のノートとペンを買った。
紙袋に入れてもらい、歩きながら、さらにそれを鞄に入れた。

ガレージの扉を開けて、機体に近寄り軽く点検をしてみる。
特に問題はなかったが、昨日のこともあり増締めだけはやっておいた。
丁度、増締めを全体にやり終わったとき、しぃがやってきた。

 (*゚ー゚)「おじゃましまーす。」

ガレージ内に声が響く。ドクオは振り返りしぃの方を見て、ん、と一言だけ言った。

228 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:17:37.24 ID:
 ('A`)「じゃあ、これ。」

鞄から紙袋を取り出し、さらに紙袋からノートとペンを取り出し渡す。
しぃはそれを受け取り、飛行艇に振り向こうとするドクオに声をかけた。

 (*゚ー゚)「なんか元気ないね。」

しぃの言葉にどう答えようか迷い、考え、そして回答ができる自然な時間が過ぎた。
このことも、今のドクオには自己嫌悪の対象として、十分すぎるほどの意味を持った。
しぃの独り言として済ませればいいのだが、それもできない。すべてが自分の所為に思える。

そんな自分の性格にうんざりしたが、それでも、とにかくやれることはやろうと思った。

 ('A`)「うん、大丈夫。ちょっと緊張してるだけ。」

 (*゚ー゚)「えっ?」

 ('A`)「いやなんでもない。」

しぃはドクオの独り言だと受け取り、それ以上その言葉に意味を求めなかった。
その日は、日が暮れるまでコースを回り、どこで舵をきるかなどを綿密に調べた。

231 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:20:54.43 ID:
一般的より少し小さくほこりっぽい家の中で、ブーンとツンは差し向かいに座っている。
ブーンはノートを広げ、教科書を開いているものの頬杖をつき、見かけからはやる気のかけらも見うけられない。

J( 'ー`)し「ごめんねぇ、ツンちゃん。こんな馬鹿チンの勉強見てもらって。はいコーヒーとお菓子。」

ξ゚⊿゚)ξ「いえ、いいですよ。私も復習になりますから。」

J( 'ー`)し「えらいねぇ。ほらブーン。もっとシャキっとしなさい、それが教えてもらう態度?」

( ´ω`)「わかったから早く行くお。」

J( 'ー`)し「はいはい。しっかりね。」

カーチャンは軽く叱咤をして、部屋から出て行った。
それから、十分ほどが過ぎたが、ブーンはその間にため息を15回つきその度に窓から空を眺めた。

235 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:22:40.40 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「それでね、ここに代入すると……」

( ´ω`)「はあ。」

もう何度目かわからないため息。その、ため息の数はブーンの知らないところで
ツンの怒りとして蓄積されていき、そしてそれが限度に達した。

ξ♯゚⊿゚)ξ「あんたねぇ、いい加減にしなさいよ!!」

( ´ω`)「お?」

ξ♯゚⊿゚)ξ「なんであたしがここにいると思ってんのよ?!言ってみなさいよ!」

( ´ω`)「僕に勉強を教えるためだお。」

ξ♯゚⊿゚)ξ「そうよ、そのためよ。なのに、なんであんたはやろうとしないのよ!?」

( ´ω`)「ごめんだお。やる気はあるお。でもそれがすぐにしぼむんだお。
     今までやってきたことが無駄に終わったと思うと今やってることもそうじゃないかと思うんだお。」

俗に言う燃え尽き症候群。ブーンはこれにかかっていた。ただ、不完全燃焼だったため
まだ燃えるものが残っている。そして、ブーンはその燃え残ったものを手放せずにいた。

237 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:24:48.83 ID:
ξ♯゚⊿゚)ξ「あんたねぇ、あんたがやってきたことが無駄だと思ってんの?!」

( ´ω`)「そうだお。自分の所為だけど、なんか急に色んなことのやる気がなくなったんだお。全部が無駄のような気がするんだお。」

ξ♯゚⊿゚)ξ「もぉ!あんたは何がしたかったのよ?飛行艇作って何がしたかったのよ?」

( ´ω`)「僕は、かっこよくなりたかったんだお。昔憧れたヒーローになりたかったんだお。」

ξ♯゚⊿゚)ξ「じゃあ、もうそれは終わってるじゃない。もう達成したじゃない。」

( ´ω`)「お?」

ξ♯゚⊿゚)ξ「あたしがあんたのことかっこいいと思ったじゃない。それじゃ駄目なの?!」

( ´ω`)「どういうことだお?」

ξ♯゚⊿゚)ξ「わかんなかった?あんたに乗せてもらったときね、すごい嬉しかったんだよ。
        小さい頃の約束叶えてくれて。そりゃちょっと違ったけど。でもね、それでもあんなに綺麗なところ連れてってくれて嬉しかったし
        そんなことをしてくれるあんたはものすごくかっこよかったわよ。それじゃ駄目なの?
        今じゃ何よ、ぐじぐじして厭世家気取っちゃって、すごくかっこ悪いわよ!」

( ´ω`)「本当かお?」

猜疑心を丸出しにした上目遣いでツンに尋ねる。
けれどブーンもこの状態を何とかしたかった。だからツンの言葉にすがるように
また、それが本当であって欲しいと思うように、聞きなおした。

239 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:27:25.07 ID:
ξ♯゚⊿゚)ξ「うっさいわね、本当に決まってるでしょ。嘘ついてどうすんのよ。
        嘘だと思うなら目を見てみなさいよ、それから自分の目を鏡で見てみなさいよ。」

ツンの言うとおり、目を見た。目を見て本当か嘘かわからなかったが、信じたくなるような自信を持った目だった。
そして、鏡で自分の顔を見た。目を背けたくなるほどの陰気で鬱屈した表情だった。
どちらを信じるかと言われたら、自分と答えるはずもない程だ。

( ´ω`)「やな顔してるお。こんな顔自分でも見たくないお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。わかった。そんな顔されてたんじゃこっちだって嫌よ。」

( ´ω`)「ちょっと待つお。」

ブーンは、手のひらを顔に押し付け、擦り付け、揉み解し、普段の顔にしようとした。
鏡を見ずともまだどこか顔の筋肉がたるんでいるのがわかった。

( ^ω^)「これでいいかお?」

ξ゚ー゚)ξ「それでいいわよ。」

それから、ブーンはため息をつくことをやめた。
ただ、窓から空を見ることはやめなかった。それに対しツンは何も言わずにいた。

240 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:28:17.38 ID:V/nYSK+60
支援

241 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:28:49.80 ID:
日曜日。VIPカップ開催の日。ブーンとドクオは朝早くからガレージにいた。
まだ、陽が上りきってはなく、約束もしていなかったが自然とそこに二人はいた。

( ^ω^)「ドクオ、今日は頼んだお。」

 ('A`)「おう。正直自信ないけどな。お前追試何時終わる?」

( ^ω^)「終わるというより、始まる時間がVIPカップの30分前だお。」

 ('A`)「そうか。まあないとは思うけど間に合うようだったら来てくれよ。
   俺に飛行艇の操縦はあわねぇ。整備したり修理したりの方が俺にはあってる。」

( ^ω^)「努力するお。」

ブーンがそう言うと二人は片頬をあげて、虚ろな笑いを相手に投げかけた。
まだ、早い時間なので二人は椅子に座り飛行艇を眺めた。

244 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:31:20.33 ID:
素人にしては上出来。玄人にしては荒さが目立つ。そんな機体を、機首から機尾まで眺め
今度は逆の手順でそれを繰り返す。
ブーンは相方を見てみるが、その相方は片手に煙草を持って同じことをしていた。

( ^ω^)「どうかお。慣れたかお?」

 ('A`)「なんとかな。しぃに手伝ってもらってどこで舵をきるかなんかもまとめたし、何とかなるんじゃねぇの。」

( ^ω^)「そうかお。じゃ僕はもう行くお。学校で勉強してるお。」

 ('A`)「おう。頑張れよ。」

( ^ω^)「お互い様だお。」

最後にほんのわずかだけ笑い合い、ブーンはガレージを後にし、ドクオは座ったまま灰皿を満杯にし
ガレージ内に陽の光が差し込んできたところで会場へ向かう準備をし始めた。

245 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:33:16.66 ID:
校舎のいつもの教室で、一人勉強をしていると他の追試組がやってきた。
あと20分ほどで追試が始まる時間だ。

( ><)「たくっやってらんないんです。」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぉ。めんどくさいょぉ」

( ^Д^)「お前ら留年したらプギャーしてやるよ。」

( ><)「ふん。僕はちんぽっぽちゃんに教えてもらったから大丈夫なんです。」

室内が急に騒がしくなった。いつもの活気が戻ったかのように。
ブーン以外の三人はミルナ先生が来るまで不満と冗談を言い合った。

248 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:35:10.43 ID:
開始の時刻よりも15分早くミルナがやってくる。
やかましい三人を見て、首を左右に振った。

 ( ゚д゚ )「オラお前ら。静かにしろ。ていうか勉強しとけよ。
       おっブーンは真面目にやってるじゃないか。他の奴らも見習えよ。」

(=゚ω゚)ノ「うるさいょぅ。さっさと始めるょぉ」

( ^Д^)「そうだそうだ。早く終わらせようぜ。」

( ><)「今日はちんぽっぽちゃんと一緒にVIPカップ見る約束だったんです。早く終わらすんです。」

(=゚ω゚)ノ「僕もだょぅ。なんでわざわざこの日なんだょぉ。」

( ^Д^)「俺だって見に行く予定だったんだ。早く終わればゴールの瞬間は見れるかも知れないだろ。
     さっさとやっちまおうぜ。」

口々に文句を言う。ブーンもそれに混じりたかったが、その気持ちを抑えて最後の復習をする。
ミルナ先生はそんな生徒達を見て悪戯っぽい眼つきで笑った。

 ( ゚д゚ )「そうか、そんなに見たいか?」

251 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:38:05.17 ID:
(=゚ω゚)ノ「当たり前だょぉ。」

( ><)「当然なんです。見せろなんです。」

( ^Д^)「プギャー。」

 ( ゚д゚ )「落ち着けお前ら。ブーンは今日出場する予定だったのに来てるんだぞ。」

( ><)「本当なんですか?ブーン君残念なんです。」

( ^Д^)「プギャー。ついてないなブーン。」

 ( ゚д゚ )「そうだ。折角出場できるのに来たんだ。お前らが文句言ってどうする。
       ところでブーン。お前まだ出たいか?」

ミルナがブーンに問いかけた。その問いにブーンは率直ながらもトーンを落として答えた。

( ^ω^)「正直言えば出たいお。でも今まで勉強をサボってきた自分のせいだお。
      だから仕方ないと諦めてるお。」

254 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:39:48.54 ID:
それを聞くとミルナはさっきの悪戯っぽい眼つきをして話した。

 ( ゚д゚ )「確かに勉強は大事だ。それを否定するのは出来ない奴かやろうとしない奴だ。
       でも、自分のやりたい事をするために努力するのも大切だ。
       そこでだ、ブーン。今からならまだ間に合うだろ、行ってこい。」

( ^ω^)「おっ?」

 ( ゚д゚ )「気にすんな。どうせ来週に延びるだけだ。ほれ。」

驚いた表情をしているブーンにキーを放り投げるミルナ。
チャラという音をたててそれはブーンの手のひらに収まった。

 ( ゚д゚ )「表に俺のモペッドが置いてある。早く行って来い。」

255 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:39:58.20 ID:TqMInpPCO
215km/h……
船の速度で言えば398.18knot/h

支援

257 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:42:26.07 ID:
ミルナは顎で教室と廊下を隔てる扉を示した。出て行ってもいいという合図だ。
そして、その意味を理解したブーンは目を大きく開かせ勢いよく立ち上がる。

( ^ω^)「先生ありがとうございますお。」

 ( ゚д゚ )「事故るんじゃないぞ。」

ミルナ先生の言葉を背中に受けて、ブーンは教室から飛び出していった。
そして、傍観者となっていた三人が、また当事者になって戻ってきた。

(=゚ω゚)ノ「ずるいょぉ」

( ^Д^)「そうだそうだ。俺たちも出て行かせろ。」

( ><)「大体来週にするんならブーン君はテストの内容知ってるんです。不公平なんです。」

当然の不満をいい募る三人。だがミルナ先生は片眉を大きく上げておどけた顔をつくった。

 ( ゚д゚ )「あー、最近ストレスたまってな。独り言いいたいんだよな。よし言っちまうか。
    この前ツンとブーンがキスをしそうになったんだよなぁ。俺はびっくりした。」

259 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:44:28.64 ID:
(♯><)「そ、そんな、不潔なんです。僕だってちんぽっぽちゃんとまだ……」

(♯=゚ω゚)ノ「ふざけてるょぉ!」

(♯^Д^)「本当かよ?あの野郎俺のツンちゃんをたぶらかしやがって。」

不満のベクトルがミルナ先生の言葉によって捻じ曲げられ、教室内の空気が一変した。
プギャーは机を拳骨で何度も叩き、ビロードはわかんないんですわかんないんですと呟き、ぃょぅは窓に向かいブーンの姿を探した。
ぃょぅが窓に乗り出してすぐに、モペッドのエンジン音が聞こえ、必死にこいで貧弱なエンジンを手助けするブーンが見えた。

(♯=゚ω゚)ノ「事故って死んじまえょぉ!!」

その言葉が空気を伝いそして、誰も見たことがない神に通じたのか、言葉が恨みによって意志をもったのか
ブーンの乗るモペッドはカーブを曲がりきれず壁に激突し、派手に転倒した。

(♯><)(♯=゚ω゚)ノ(♯^Д^)「いーーやっほーーーー!!!」

叫びにネガティブな喜びをはきちれんばかりに詰め込んだ。
ミルナ先生は一人本当にネガティブになった。

261 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:47:30.86 ID:
喜びを三人で分かち合った後、沈んだ顔をしているミルナに詰め寄る。
ミルナ先生はちょっと待てといい、廊下を大げさに覗いた。
見ている者に今から秘密の話をするんだと言わんばかりの行動。

 ( ゚д゚ )「いいか、お前ら。ちょっと集まれ。流石に見てしまったからには教師として邪魔をしなければいけないと思った。
     だが、もう年頃だ。少し可哀相なことをしたと思ってる。そこでだ。お前らに密名を授ける。集合だ早くしろ。」

手招きをして三人を一箇所に集める。誰も聞いてはいないのだがそうしたほうが気分を高めるのには十分な効果を発揮する。
ミルナは三人の顔をゆっくりと滑らかに見て、ある計画を口にした。

(=゚ω゚)ノ「それはいいょぉ。」

( ^Д^)「ミルナ先生やるじゃねぇか。見直したぜ。」

( ><)「賛成なんです。恥をかかせてやるんです。」

 ( ゚д゚ )「タイミングを間違えるなよ。ほれ早く行動を起こせ。」

( ><)ノ(=゚ω゚)ノ( ^Д^) ノ「ハイルミッルナー!!」

263 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:49:51.79 ID:
威勢のいい掛け声を出し、ミルナが来るまでの陰鬱な表情を、期待という感情で跡形もなく消し飛ばした。
三人は我先にと教室を飛び出し、校舎内に大きな足音を響かせていった。

教室に残ったミルナは窓に寄りブーンがぶつかった壁を見つめる。
ふっと息を漏らし、懐かしい過去を覗くように、振り返るように
ブーンたちの年頃そのものの青い空を見上げた。

 ( ゚д゚ )「やりすぎかもな……ま、いいか。」



         ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです 中篇2 終わり

264 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 20:50:33.95 ID:V/nYSK+60
乙乙

269 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/18(水) 21:00:23.25 ID:KaUS4n3EO

毎回楽しく読ませて貰ってるんだぜ

272 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:26:43.05 ID:
以外に長くなったからサブタイつける。

前編  青空万歳 一話
中篇  夕暮れ万歳 二話
中篇2  曇り空万歳 四話

ドックン番外編 夕立万歳 3話
 
五話 太陽万歳 投下

274 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:29:04.78 ID:
甲高い音がする2ストロークのエンジンを目一杯回して、さらに自分の足で漕ぐ。
モペッドならではの走行方法。二輪駆動の自転車。漕ぐ漕ぐ漕ぐ。ひたすら漕ぐ。

(♯^ω^)「ぬぉおおおおおおお。」

流れていく景色の中、遠くにある大きな時計台が目に入った。
VIPカップ開催まで後20分。まだ間に合う時間だ。だから漕ぐ。

さっき転倒したときに腕を擦ったが気にしない。とにかく漕ぐ。
VIPカップの会場から青空に白い煙と、爆発音がなった。景気付けの花火。
もうすぐ始まるという合図に、ブーンの心は焦り、ペダルを漕ぐ足にさらに力を入れる。
レンガ造りの家に声が吸収されまいと、ワケのわからない対抗心を持って、叫んだ。

(♯^ω^)「イッパァーツ。」

276 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:31:06.44 ID:
(*゚∀゚)「うぁわ。かっこいいー。」

 / ,' 3「うひょひょひょ。珍しい形じゃの。」

(*゚∀゚)「つー、この赤いの応援する。だって一番かっこいいんだもん。」

すでにブーン達の機体を含め、出場する10機が桟橋を挟んで2列5行に集められていた。
カラフルなものから、シンプルなもの。社名を前面に押し出すもの。
そのなかで、ひときわ目立つ機体があった。それには801のマークが小さく描かれている。
  _
( ゚∀゚)「あー、ついに出ちゃったか。801の新型機が。」

('A`)「あの一番前の赤いやつですよね。あれ速いんですか?なんか、回りの機体から浮いてるような気がするんですけど。」
  _
( ゚∀゚)「ばっか、目ん玉ひん剥いてよく見てみろあの流れるようなフォルム。
     今回はあれが優勝掻っ攫っていくな多分。」

ドクオはジョルジュの遠慮のない言葉に幾分かむっとした。
プロペラが機体の後部についている珍しいタイプの機体だが確かに綺麗なフォルムをしている。
造詣に関しては認めたが、その性能については懐疑的だった。というよりわからなかった。

277 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:31:20.88 ID:achakuc/0
おせーよ!
人を待たせんな!wktk!!!!!

278 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:33:18.92 ID:
 ('A`)「でも、新しいからって言っても失敗作だったら意味ないですよね。」

皮肉を込めたドクオの言葉に、赤ん坊を見るように優しい目で見るジョルジュ。
生意気なドクオの発言に、頼もしくも若者らしい意地をみたからだ。

川 ゚ -゚)「ふん言ってくれるな。そういうお前さんの機体はどれだ?」

 (;'A`)「むおっ」

ドクオが口を尖らせ機体を見ていたら、急に肩を後ろから掴まれ前後に揺すられる。
振り向くと、長身の女性が真後ろに立っていた。
  _
( ゚∀゚)「おお、クーじゃないか。何年ぶりだ?」

川 ゚ -゚)「よお、アレ以来じゃないか。あの後私はすぐにこの地から離れたからな。」
  _
( ゚∀゚)「そうか、懐かしいな。紹介するぜ、こいつはドクオ。
     今回VIPカップに出ることになったドクオだ。ホントはパイロットが出れなくなって換わりに出るんだけどな。」

('A`)「どうも、ドクオです。」

川 ゚ -゚)「君が出るのか?まあ今回は残念だったな。今年は我が801が優勝するからな。」

('A`)「どうっすかね、始まらなきゃわかんないっすよ。」
  _
( ゚∀゚)「そんなつっかかんなよ。ところであの機体どれくらい出るんだ?」

279 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:35:46.78 ID:
ジョルジュが機体の最高速度を尋ねると、クーは待ってましたといわんばかり笑い顔をした。
その顔はすぐさま消え去ったが、それの余韻の残る表情で口を開いた。

川 ゚ ー゚)「801の最高速度は286キロだ。」
  _
( ゚∀゚)「マジかよ?そんなに出るのか?エンジンなに使ってんだよ?何気筒だ?」

川 ゚ ー゚)「どれも最高のものだ。そろそろ私は行こう。
      ああそれとその鳥打帽似合ってないぞ。脱いだ方がいい。」
  _
(;゚∀゚)「うるせーな、気に入ってんだよ。」

クーは手をひらひらと宙に振り自分の居場所へと歩いていった。

('A`)「ジョルジュさん、あの人と知り合いなんですか?」
  _
( ゚∀゚)「ああちょっと古い知り合いでな。ここで会えるとは思わなかったぜ。
    しかし286キロとは以外だな。直線だとぶっちぎりじゃないか。」

ノパ⊿゚)「ふん、あんなのたいしたことないに決まってる。どうせ法螺に決まってるさ。」

366 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 01:06:53.17 ID:
  _
( ゚∀゚)「おお、今来たのか。お前は相変わらずあいつが嫌いだな。いい加減いいじゃないか。」

ノパ⊿゚)「いいや絶対許さんね。あいつのおかげで私がどれだけ枕を涙で濡らしたことか。」

281 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:37:59.67 ID:
川 ゚ -゚)「お前が泣くとは想像もつかんな。」
  _
(;゚∀゚)「お前、行ったんじゃないのか?」

川 ゚ -゚)「なにヒートが見えたからな。挨拶しておこうと思って。
      それと今、そこの可愛らしい少女から顔色の悪い君に渡し物を頼まれたんだ。ほい。」

('A`)「え、ああどうも。」

クーから紙袋を受け取った。
関係者以外立ち入り禁止の柵がある方を見ると、しぃが手を振っていた。
袋を開けると、手作りの金属製のお守りが入っていた。裏に簡単な応援のメッセージが書いてある。

川 ゚ -゚)「久しぶりだな。ヒートもジョルジュと同じぐらい振りか?」

ノパ⊿゚)「私はあんたと喋ることなんてないね。さっさと自分のとこ行けばいいさ。」
  _
( ゚∀゚)「冷たいな、もう昔のことじゃないか。」

ノパ⊿゚)「うるさい!!」

ヒートの声で一瞬四人が沈黙した。
会話に入れなかったドクオがその隙を縫って割り込む。

('A`)「なにかあったんですか?」

282 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:41:03.97 ID:
('A`)「なにかあったんですか?」

川 ゚ -゚)「ああ、昔な…何年前だっけ?」
  _
( ゚∀゚)「もう数えるのやめちまったからな。忘れちまったよ。」

ノパ⊿゚)「お前ら喧しい!!その話をするな!!」

川 ゚ -゚)「なんでそんなに嫌がるんだ?」
  _
( ゚∀゚)「ちょっとワケありでね。クーも黙っててくれるか。」

川 ゚ -゚)「まあいいだろう。もう行こう。じゃあなまた後で。
      ドクオといったなそろそろ機体に乗ったほうがいいんじゃないか?」

('A`)「そうですね、じゃあジョルジュさんヒートさん。カッコいいとこ二人に見せますよ。」
  _
( ゚∀゚)「おう、期待してるぜ。」

ノパ⊿゚)「みっともない真似さらすんじゃないぞ!!」

ジョルジュとヒートの言葉を背中に受けて、クーと一緒に乗り場へと歩いていった。
ヒートが見ているため一緒に歩きたくないと思ったドクオだが
クーの言葉に嫌味さを感じさせない人柄に少なからず好感を持った。

284 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:42:09.91 ID:1dEXeMbW0
こういうのよく書けるよなぁ。と思う

287 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:43:56.59 ID:
('A`)「あの、昔何かあったんですか?」

川 ゚ -゚)「あの二人を知らないのか?」

('A`)「知ってますよ。」

川 ゚ -゚)「じゃあいいじゃないか。
      ところで、お前はあまり飛ぶことに興味はないだろ?」

('A`)「ん、ええ、本当はブーンって奴が乗るはずだったんですけど来れなくなって。
    実のところ俺はあんまり飛ぶことに興味はないんですよね。飛ばすほうがいいです。」

川 ゚ -゚)「だろうな。空を見るときあんまり憧れが見えなかったからな。
      それよりも、機体を見てるときのほうが真剣な目をしていた。」

('A`)「そうですか?」

川 ゚ -゚)「ああ、それでよく出ようと思ったな。」

('A`)「VIPカップに出るのは夢だったんですけどね。」

緊張のためかドクオは口が軽くなっていた。
それをほぐす為に半年ほど前にジョルジュに
初めて会ったとき言ったことをほとんどそのまま伝える。

すると突然クーがその顔を緩ませ笑い出した。

290 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:46:01.26 ID:
川 ゚ ー゚)「そうか、そういうことか。いや納得言ったよ。どうりでヒートが私を嫌うわけだ。」

('A`)「?」

川 ゚ ー゚)「優勝は譲らんが頑張ってくれ。いい色だなお前らの飛行艇は。じゃあな。」

ドクオの疑問顔を無視して、自分の機体へと歩いていくクー。
ドクオはしぃから貰ったお守りを握りしめ、自分の、ブーンとの機体に乗り込もうとした。
コックピットに座り、計器類を確認した後、どこで曲がるかをまとめた紙を確認しお守りをかける。

回りの機体を見渡すとそれぞれがエルロンやラダーを動かして最後の確認をしている。
皆緊張しているんだなと思い少し安心するも、来るはずのないブーンがきてくれることを願った。

スタートの時間まで後五分ほど。狭いコックピット内でじっとしていることができず
何度もノートのまとめを見直したり、他の機体を見てみる。

そのとき、ふと気付いた。他のパイロットも自分と同じくどこかうずうずしていると。
だがドクオはスタートがもっと遅くなればいいのにと考えているのに、回りは早くスタートしないかなという顔だった。
それを見て、ああ、やっぱり自分は向いていないんだなと感じる。

せめて、いい順位を取りたいと願うがすでに萎縮してしまった。
あまりやりたくなかった秘策をやるしかないようだ。

292 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:47:34.72 ID:1dEXeMbW0
普通に面白いw

293 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:48:25.58 ID:
「スタートまで後3分です。」

拡声器を使った放送が響く。
もう一度辺りを見渡すと、観客席にしぃの姿が見えた。
目があったのがわかり、笑顔で手を振ってくる。
それに肘だけ少し上げて返した。

「スタートまで後2分です。エンジン始動させてください。」

後2分か、と、もっと先延ばしにしたい気持ちになった。
エンジンをかけベルトをする。
ベルトの締め付け具合が自分を守ってくれるようで頼もしかった。

十機のエンジン音が低く唸る中、甲高いエンジン音が聞こえた。
2ストロークかなと考える。
歓声がエンジン音を越えてやってくる。しかしそれは重圧にしかならなかった。

296 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:49:41.63 ID:
(♯^ω^)「イッパァーツ。」

( ^ω^)「ドクオー間に合ったおー!」

急に見たいつもの顔に安堵するドクオ。
なぜここにいるかを考えてすぐにその疑問を口に出す。

('∀`)「よお、来たのか?追試はどうしたよ?諦めちまったのか?」

「スタートまで後1分です。ゼッケン9番の青い機体。パイロット以外はどいてください。」

('∀`)「なんだなんだ?ええおい。間に合ったのかよ?出れるのか?正直緊張しまくってたぜ。」

時間が無いのに、ドクオは緊張が解けてべらべらと喋りだす。
ドクオがベルトを外すと、焦るブーンはそのドクオの体を持ち上げて水の中へ叩き込んだ。

(♯^ω^)「やかましぃ!さっさとどけお!」

誰もいなくなったコックピットに乗り込み、ベルトをする。
計器類を確認する暇もないままスタートを告げる花火が鳴り一気にスロットルを押し上げた。
一気に図太いエンジン音が耳の中で反響する。

299 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:52:45.85 ID:
二列に五行で並んだ十機の機体が同じ加速度で走っていき、先頭の二機から順に空へと上がって行く。
観客席が大きく賑わった。
その中でクーの赤い機体が、群れを離れてどんどん加速していく。

(;^ω^)「あの機体速すぎだお。」

来たばかりのブーンはその異形な飛行艇を見て呟いた。
十機全部が空に浮かび、レースが本格的に始まろうとしている。

まずブーンは、いいポジションをとろうとした。
これはカーブの際に大きく影響してくる。
それぞれが躍起になって牽制している中、ブーンはいとも簡単に最高のポジションを獲得した。

301 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:54:54.07 ID:
ブーンの20メートル先ではカーブに入る前の争奪戦で、8機が入り乱れている。
その中にブーンの機体は入っていけなかった。スピードが違いすぎた。



('A`)「落とすことねぇだろ。」

ドクオは水の中で顔だけ出してブーンが飛んでいくのを見ていた。
そのあとずぶ濡れで桟橋に上がり、ジョルジュたちのもとへ歩いていった。
  _
( ゚∀゚)「よお、いい男になっちまったな。こりゃガチホモがほっとかないぜ。」

('A`)「そんなことはどうでもいいですよ。それよりも、何でブーンあんなに遅いんですか?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、お前ら運がなかったな。多分ありゃ全部がそれぞれの新型エンジンだろ。
     何ヶ月か前だったらいい勝負してたんだろうけどな。俺のエンジンはもうすでに旧型だよ。」

ジョルジュの話を聞いてブーンの機体へと目を戻した。
すでに50メートルほど差がつけられていた。直線で。
ドクオはそれを見て、瞬時に結果を悟った。

303 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:57:23.20 ID:
(♯^ω^)「クソ、もっと回れお!」

スロットルを前回にしてキャブレターに大量の空気を流しても追いつけない。
それどころか、じわじわと確実に離されていく。

前方の8機が翼を傾けて、コーナーを曲がっていく。ほとんど速度は落としていない。
それに10秒ほど遅れてブーンの機体が曲がっていった。同じく速度を落としはしなかった。
ここからは会場の観客からは見えなくなる。まず第一のチェックポイント。

カーブを曲がり終えて、また離されていることに気付く。
エンジンが高い悲鳴を上げているのがわかったが、スロットルは絞れなかった。
今でさえ離されているのに、それを助長することは出来ない。


会場の観客に向けた放送が流れる。各チェックポイントからの情報だ。

( ・∀・)「えー第一チェックポイントより入りました。
    トップはゼッケン2番の801社。搭乗者はクーです。
    二位以下を大きく離しすでに独走態勢でいる模様です。」

観客がどよめいた。通年ならここで熱いデッドヒートが約束されていたからだ。
隣の者同士で話し始める人も少なからずいた。放送がもう一度入る。

( ・∀・)「えー、二位以下は8機の飛行艇が入り乱れていて正確な順位は不明。
      その8機から10秒遅れてゼッケン9番のジョルジュ長岡工場。登場者ブーンです。
      このブーン氏は友人らと飛行艇をつくった今大会では唯一の出場者です。」

304 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/23(月) 23:57:27.72 ID:1dEXeMbW0
久々の良話

307 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:00:53.39 ID:
なんとか、くらいつこうと最高の軌跡を残して飛んでいく。
しかし、それでも牽制しあいながら飛んでいる前の8機には追いつけない。

(♯^ω^)「なんで今年はこんなにレベルが高いんだお!!」

第二チェックポイントに入る手前。今大会の肝ともいえるカーブの連続地帯に入った。
ここからは川幅が狭まり、横に3機並んで通れるか通れないかの幅になる。
ポジション取りに勝った飛行艇が前につき、後ろの飛行艇が狭いながらもそれを抜こうと上下に左右に飛び、機を狙う。

ブーン機はそれから20秒遅れていた。
高速の連続コーナー。
操縦桿を右にきり、ラダーを動かす。
スロットルを絞ってエンジンブレーキだけで減速する。
旋回していると景色の流れが速いように見えた。

似たような行動を何回も繰り返しようやく連速コーナーから抜け出した。
差はさらに広がっている。エンジンの回転数を限界まで上げる。
第二チェックポイントを通り越した。

310 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:03:16.99 ID:
( ・∀・)「第2チェックポイントから情報が入りました。
      一位は以前ゼッケン2番の801社クー氏。それからかなり遅れて8機が団子状態。
      こちらは先ほどと同様に正確な順位がわかっていません。かなり接戦のようです。
      さらに遅れてゼッケン9番のブーン氏。差はどんどん広がっています。
      去年ならなかなかのタイムですが、どうやら各社のフラッグシップモデルにかなり苦戦している模様です。」

観客席にいるミルナが放送に聞き入っていると、密名を授けた三人が寄ってきた。

(=゚ω゚)ノ「ぃょぅ、集めてきたょぉ。」

( ^Д^)「俺も集合かけてきたぜ。」

( ><)「僕もなんです。」

三人はミルナの命により、観客席にいるクラスメイトを探して一箇所に連れて行った。
その報告として告げたのだが、ミルナは浮かない顔をしている。

312 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:07:05.02 ID:
( ^Д^)「おいどうしたんだよミルナ先生。暗い顔して。ほとんど全員とツンも集めたぜ。」

( ゚д゚ )「ん、お前らか。計画は中止かも知れんな。」

( ><)「どうしてなんです?首尾は上々なんです。」

( ゚д゚ )「お前ら放送聴いてないか?ブーンは今10位だ。しかも大分離されてな。
      このままだとゴールする頃にはかなり差がついているだろう。
      そうなると、俺たちの計画はブーンにとって残酷な仕打ちになってしまう。」

(=゚ω゚)ノ「せっかく集めたのにそれはないょぉ。」

思いもよらない事態に、四人はこれからのブーンの活躍によって計画が成功することを願った。

316 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:08:51.42 ID:
(♯^ω^)「くそ!!」

ブーンの目にはもう参加者の飛行艇は映っていない。
第3チェックポイントの前にある、Rの大きなひょうたん型の高速コーナーで離されてしまった。
エンジンはほとんどいつもフルスロットルだ。
これ以上離されたくはないが、油温を見て少し絞る。

景色が粒になって後ろに流れていくかのように見える。
目の処理速度からこぼれた残像が、ブーンの脳に今の速度を知らせる。
第3チェックポイントが見えた。

318 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:10:06.44 ID:
( ・∀・)「第3チェックポイントより入りました。
      ゼッケン2番、801社のクー氏が二位以下をさらに離して独走。
      2位以下は依然として8機による団子状態。
      どうやら会場内を飛ぶ直線でかなりの見もののようです。」

ノパ⊿゚)「ブーンはなにやってんだ。」

( ・∀・)「第3チェックポイントよりさらに入りました。
      ゼッケン9番ジョルジュ長岡工場のブーン氏が今通過した模様。
      どうやら個人出場のブーン氏はかなり苦戦しているようです。」
  _
( ゚∀゚)「あいたー。こりゃもう駄目だな。ここまで開いちゃな。」

ジョルジュは率直な感想を言った。
それを聞いたドクオだが、その通りだと思った。
差が開きすぎている。

321 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:12:33.55 ID:
( ・∀・)「第4チェックポイントより入りました。
      ゼッケン9番クー氏がもうすぐ会場の直線に入ります。
      おっともう見えました。真っ赤な機体。後部プロペラ。
      間違いありません。クー氏です。」

多くの観客が集っている会場に異形の飛行艇が見えた。
空気の隙間を縫うフォルム。スカイブルーに混じって映える赤。
まだ小さな点だが、観客はその姿に声を上げた。

( ・∀・)「速い速い速い。
      機体情報によりますと最高速度はなんと286キロを記録しています。
      他の機体に比べ圧倒的な速さを誇ります。さあ来ました。」

放送席からスピーカーを通して興奮が伝わってくる。
観客の目から見て、右から左へと飛んでいく。
今まで見たどんな飛行艇より速いその機体は歓声の的となり一瞬にして過ぎ去っていく。
何百人もの人間が一斉に首を振る様は機体への注目を示していた。
赤い機体は観客の前を通り過ぎるときに、くるっとロールをしてその旋回性の良さをアピールした。
  _
( ゚∀゚)「かぁー、速えなあ。さすがに後部プロペラにしてねえな。」

( ・∀・)「おっと、ここで団子状態になっている8機が会場内を突っ切ります。
      この8機の最高速度は横並びで250キロ程度です。
      さあ、どんな激戦を私達の前で繰り広げてくれるのでしょうか。」

324 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:16:23.62 ID:gYPk953r0
時速215km支援

326 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:17:41.57 ID:
クーの機体が観客から見えなくなると、ほぼ同時ぐらいに8個の点が見えた。
まだ遠くだが、8機全部が上へ下への空中戦みたいに飛んでいる。
それを確認した観客は、クーのときの静かな期待とは違い、熱い期待を胸にした。

( ・∀・)「これでは機体とゼッケンを呼ぶことは出来ません。
      二位だったものが八位になったり、前でヒートしている二機の隙を狙って抜いたりと
      これでは実況のしようがありません。しかし実況などなくても皆さんは楽しめるでしょう。
      それだけ熱いデッドヒートを、それも8機が繰り広げてくれているのです。」

混戦の8機による重厚なメロディーと、それを支える低いエンジン音が響き渡る。

一機が上がろうとすると、それを阻止するために軌道を防ぐ飛行艇。
右から抜かそうとフェイントをかけて左にロールする飛行艇。
だがその空いた空間から違う飛行艇が獲物を掻っ攫っていく。
さらに一機が周りの飛行艇から距離をとろうとロールを繰り返して領域を確保しようとする。

328 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:19:38.55 ID:
フラッグシップモデルに乗る熟練のパイロット達はその腕を遺憾なく発揮し続けた。
観客は自分の贔屓の機体を応援するもの。華麗に抜く機体に賞賛の声をかけるもの。
それらが渾然となり会場内は熱気と声援と興奮に包まれた。
  _
( ゚∀゚)「くっはぁー見ろよおい。見たか今の?」

ジョルジュもその興奮に包まれて誰ともなしに口を開く。
ドクオは通り過ぎていく八機をみて落ち込み、空から目を離した。
人を魅了する、ここまでの人間とここまでの機体が出る大会なんだと感じた。
そして、ここまでの人間と機体をも軽く凌駕するものも出ている。

('A`)「俺らが出ていい大会じゃなかったんですね。」

ドクオが呟いた。
その声は会場の歓声に消されて、ドクオの耳にすら届かなかった。

330 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:21:58.98 ID:
ダントツの最下位。
しかもたった一人っきりの飛行艇の座席。
会場からの視線が怖かった。
いくらスロットルを押しても針が指す最高速度は……215キロ。
直線に差し掛かる前のカーブで、ブーンは速度計を何度も凝視した。

(♯ ω )「なんで……」

ブーンにとって唯一の救いは機体の色がブルーということ。
誰にも気付かれずに通り過ぎたかった。
しかしそんなわけにはいかない。
ブーンは目を閉じて下を向きながら長い直線を飛んでいった。

( ・∀・)「遅れながらもブーン氏が飛んで行きます。
      綺麗なブルーカラーに身を包んだ機体。
      去年なら白熱したデッドヒートを見せてくれたでしょう。
      今年は運がなかったとしか言いようがありません。」

ノパ⊿゚)「もっとスロットルを上げんかぁーー!!」

ヒートが叫ぶ。ブーンに届くようにと。
  _
( ゚∀゚)「アレで限界のはずだぜ。エンジンが悲鳴あげてる。
     あのエンジンであのスピード出せればなかなかのもんだ。な、ドクオ。」

ジョルジュが慰めるかのように声を出す。
ブーンとドクオの機体を弁護し、ドクオを元気付けようとした。
だけれども、それは観客にはわからない。あちこちでおこるため息の音をドクオは聞いていた。

332 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:24:01.81 ID:gYPk953r0
なんか俺もくやしい支援

333 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:24:49.94 ID:
観客からは飛んでいく飛行艇が真横から見える。
先ほどの速度に慣れていたため、ブーンの青い機体の細部まで見えた。

( ^Д^)「なんだよ、これじゃあまりにも酷すぎてプギャーできねぇジャンかよ。」

( ><)「ブーン君もっと頑張るんです。」

(=゚ω゚)ノ「おそいょぉ。かっこわるいょぉ。」



全機体が二週目にはいった。
ほとんど一週目と変わらなかった。
クーの独走も。8機による混戦も。ブーンの最下位も。
かわったのは、クーがさらに差を広げ、ブーンが遅れを広げるということだけ。

336 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:26:38.54 ID:
ブーンは何度も座席の上でクソと呟いた。
せめて一機でも墜落してくれればと思った。
そうすれば最下位の汚名はきせられない。

しかし、いくら墜落して脱落したからといってブーンの遅れは決定的だ。
そういったことにさえ、頭が回らないほどになっていた。

せめてドクオの憧れていた青を汚したくない。
自分をここに連れてきてくれたドクオに最高のブルーを見せてやりたい。
それだけだった。

少しの直線の合間に空を見上げる。
空は眩しいほどの綺麗なブルースカイだった。
乗っている飛行艇の青がこの世のものとは思えないほど汚く見えた。

二週目の最後の直線。
ブーンは一週目と同じように目を瞑って飛んだ。
観客は一部を除いてもうブーンに興味がなかった。

339 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:30:17.95 ID:
( ・∀・)「ブーン氏が二週目を他から圧倒的に離されてきました。
     クー氏はすでに三週目の第四チェックポイントを通過しました。
     個人出場にしては健闘したと思われます。」

ξ゚⊿゚)ξ「なによあの言い方。ブーンだって頑張ってるんだから。」

(*゚ー゚)「そうよ。あんなに速いので出場するなんて反則よ。」

ブーンの機体が飛んでいく。
ほとんどはそれを目で追いはしなかった。
すぐ後に来る、クーのゴールシーンを見るためだった。

少ししてクーの真っ赤な飛行艇が現れた。
後部プロペラの異形さをすでに憧れと受け入れ、会場は祝福の嬌声と興奮の叫びを持って、クーの機体を迎えた。

( ・∀・)「さあ、今大会で最高速度を記録し、他者をまったく寄せ付けずにゴールしようとしています。
      あの機体をここで見るのは三度目ですが、何回見ても慣れません。速すぎます。
      残像という赤い粒を彗星のごとく尾を引いて、たった今ゴールしました。」

赤い点はスカイブルーと白い雲を切り裂くかのように加速していく。
わかりきった結果を誰もが興奮を抑えて見守った。
流麗なフォルムと突き刺すほどの赤に誰もが魅了されていた。

340 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:31:42.45 ID:
そしてクーは最後まで手を抜かずに機体の持てる最高速度でレースの終焉を迎えた。
観客のボルテージが一気に高まる。叫ぶもの褒め称えるもの。
そして隣同士でクーと801社の偉業を興奮して語る者ばかりだ。

( ・∀・)「あれ?クー氏スピードを落としません。
      通例ならウイニングフライトは栄光の機体を見せるためゆっくり飛ぶはずです。
      どうやら最後の最後までその圧倒的な速さを我々に見せてくれるようです。
      おっと、このままだとブーン氏の機体を抜いてしまうかもしれません。」

342 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:34:06.35 ID:
川 ゚ -゚)「どうせだ、801の技術力をもっと焼き付けてやろう。」

クーは801の高性能さをアピールするために速度を落とさなかった。
青い機体にはには悪いと思ったが、周回遅れにさせるつもりだった。
直線を終えて、始めに来るカーブを高速で曲がりブーンを追いかけていく。


三回目の第一チェックポイントを通り過ぎたブーンはもうスロットルを全開にしてはいなかった。
前半からの無理がたたり、油温が大分前からレッドゾーンに入っていたからだ。
それでもあげれるだけギリギリの速度で飛んでいく。
最後まで手を抜かないことしかブーンにはできなかったからだ。


( ・∀・)「おっと第一チェックポイントより入りました。
     ゼッケン9番最下位のブーン氏の後ろにクー氏が追いついたようです。
     ブーン氏の機体はどうやら前半で回しすぎたため速度を落としているようです。」

('A`)「くそ、嫌味なことしやがる。」

ノパ⊿゚)「フンあいつはそういう奴なのさ。人の心を平気で踏み潰す性格さ。」
  _
( ゚∀゚)「おいおいそりゃいい過ぎだ…」

ノパ⊿゚)「あんたは黙ってろぉ!!」
  _
(;゚∀゚)「ひぃ、はい!!。でもまあブーンが帰ってきたら暖かく迎えてやろうぜ。
     今頃すげえ落ち込んでるだろうさ。」

344 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:36:06.47 ID:
ブーンはエンジン音に注意を払っていた。
油温はどうにか正常値に下がっているものの、肝心のエンジン内部の状態を知りたかった。
少し高い音がしていたようだが、熱の所為でそうなっているのだと判断した。

スロットルを上げ下げしても滑らかに回転数が変わるため異常はないと思った。
そして、せめて最高の軌跡でもってラストの周を回ろうとしていた。
それが自分に出来るせめてもの贖罪だと感じていた。

注意を耳から目へと移そうとしたとき、エンジン音に以上があった。
ダブって聞こえる。急に音が大きくなった。
おかしいと思い後ろを素早く振り返ってみる。
そこにはスカイブルーに映える赤いクーに機体があった。

(;^ω^)「そんな、もう周ったのかお?」

ブーンの問いかけに答えるかのごとく赤い機体は翼を左右に振った。
そして、ダブって聞こえたエンジン音が真っ二つにされた。

川 ゚ -゚)「悪いが恥をかいてもらおう」

345 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:38:57.42 ID:mGR22BIZO
普通に良作

346 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:39:06.01 ID:
あわてたブーンが前を向いたとき、すでに、赤い機体が並んでいた。
そんな馬鹿なと自分の常識を疑ってみたがどうみても横にいる。
そしてブーンが軌道を防ぐ間もなく赤い機体が前に躍り出た。

目の前の赤い機体が減速した。ブーンと同じ速度で飛んでいる。
周回遅れになってしまった。
最下位という不名誉と鈍足という恥を両方持ってしまった。

(♯^ω^)「クソ!!」

歯切れのいい罵倒の言葉と同時に、右手で思いっきりコックピットの側面を叩いた。
小指からジーンと振動が伝わってくる。

赤い機体はまるでブーンを笑うかのように
ロールを繰り返したり、半円を描く飛び方をしている。

明らかにブーンを馬鹿にしていた。
もし、もう少し速度が出ればいつでも抜かせられるだろう。
だが、向こうはそれが出来ないことを承知しているはず。
相手の行動によって、言葉を聞かずともその意図が明確にわかった。

349 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:39:59.93 ID:gYPk953r0
こんなにムカつくクーは初めてかもしえん

350 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:40:25.65 ID:
( ・∀・)「おっと第二チェックポイントから入りました。
      クー氏がウイニングフライトでブーン氏を抜かした模様。
      ブーン氏の前で子供をもあやすように飛んでいるそうです。」

この放送をきいた大多数の観客は失笑を漏らした。
今年がいくらレベルが高かろうとも出場した以上は嘲笑の対象にもなる。
そしてそれは紛れもなくブーンだった。

( ゚д゚ )「あーお前ら中止だ。」

(=゚ω゚)ノ「やっぱり中止かょぉ。」

( ゚д゚ )「ああ。最下位でも接戦だったらよかったけどここまでいくとちょっとな。
      多分ブーンは今日誰にも会いたくないだろう。」

( ><)「わかったんです。皆には適当に言っておくんです。」

( ^Д^)「流石の俺でも今日ばっかりはプギャーできねぇよ。」

353 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:46:29.10 ID:
第二チェックポイントの手前、高速カーブが連続するところでもクーはブーンの前にいた。
カーブのたびにブーンの前から姿を消すのだが、減速して再び前に来る。
ブーンは、せめて赤い機体を焦らすぐらいのことをしたかった。が、不可能だった。

(♯^ω^)「クソ!!ぜってぇー抜いてやるお。どっちが恥をかくか勝負してやるお。」

ブーンはレースに熱中していた。
ここで自分が少しでも赤い機体を抜けばそれは観客に伝わる。
自分がたとえ最下位の周回遅れだろうとも、それに抜かされた一位がいる。
そうなれば、それこそ嘲笑の対象になるであろう。そう思ったのだ。

赤い機体がまた加速した。
エルロンとラダー、エレベータを傾け曲がっていく。限りなく滑らかに曲がっている。
しかしそれを凝視するわけにもいかない。次に曲がるのは自分だ。

赤い機体が見えなくなった。カーブの間に離されてしまう。
そしてまた前に来る。自分に見えるようにわざわざ減速して。

ブーンにとってカーブの連続するここしかチャンスはなかった。
直線では勝てない。そうなればカーブが続いて同じぐらいの速度になる、ここでしか抜かせはしない。
だが、ブーンの予想に反して赤い機体は速かった。
もしブーンの機体で同じ速度を出していたら曲がりきれない。

354 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:48:02.88 ID:
( ・∀・)「第二チェックポイントよりはいりました。
      クー氏がブーン祖を従えたまま連続するコーナー地帯を抜けました。
      ブーン氏にはどうやら鬼気迫るものがあるようですが
      しかし、それをクー氏はいとも簡単に跳ね除けています。」


(♯ ω)「ごめんだお。ジョルジュさん、ドクオ。」

カーブ地帯を抜けてもう自分に出来ることはにないと悟った。
ここから先はエンジンパワーとお互いの駆け引きによって飛ぶところになる。
ブーンの機体はその両方を持っていなかった。

少し幅広になったところで、ブーンは泣いた。
どうしようもできない自分が歯がゆくて、大口を叩いた自分が憎くて
もしかしたら優勝できるかもしれないと思っていた自分が恥ずかしくて。

( ;ω;)「……」

滲んでいる視界がクリアになった。
俯いているブーンから涙がコックピット内に落ちた。
クリアになった視界の先に紙を発見した。

356 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:50:14.17 ID:
それをみてより泣けてきた。足元に貼ってあるのはドクオが書いた、コースの攻略図だった。
どこで舵をきるか、どこで加減速するか。
詳細に距離やカーブのRまで書いてあった。

ドクオは優勝しようとここまでしていたんだ。
それに比べて自分はなんだ。
ドクオの好意に甘えて出させてもらって
そのくせろくに勉強もしないでそれを自ら破ろうとして。
今だって諦めていて。しかしどうしようもなかった。

たとえドクオの通り飛んだとしても順位はこのままだろう。
しかしドクオは自分の出来ることをやっていた。

己のふがいなさに打ちのめされていた。
息を吸うとしゃくりあがってしまう。
鼻を啜って喉をごくりと鳴らした。

もう一度足元を見ると攻略図の裏があることがわかった。
まだ直線は続く。ブーンはそれを手にとってみた。

359 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:53:53.51 ID:
直線100メートル。右にR120、75メートル。
左にR80、200メートル。そのまま左にR100、70メートル。
それは始めてコースを下見したときドクオが発見したトンネルの内部だとわかった。

ドクオ自身、自分の腕では優勝はおろかろくな順位を残せないと思っていた。

このメモを見てブーンは思い出す。
今朝ドクオが言った「なんとかなるんじゃねぇの」を。

( ;ω;)「ドクオ。ここまでしてたのかお?」

もうすぐ第三チェックポイントの手前にあるトンネルにつく。
ブーンはここを飛ぼうかと考えた。そうすれば多分、遠回りになる赤い機体を抜かせるだろうから。

しかし本当に飛べるのだろうか。
まだ30秒ほど余裕があったのでとにかくトンネル内部の道を覚えようとした。

思ったほど複雑な曲がり方はしていなかった。
だが、もし翼の端が触れたりしたら確実に大破するだろう。
ドクオの気持ちの応えてやりたかったがそれがブーンの決断を鈍らせる。

360 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:55:24.67 ID:VE0Lv1aJO
支援

362 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:58:30.67 ID:
後10秒で通り過ぎる。
ブーンはもう一度何かないかと足元を見る。
もう何も無かった。ドクオがかけたであろうお守り以外。

( ^ω^)「あいつお守りとか信じない筈じゃ。」

ふと気になり手に取ってみる。
ドクオには似合わない乙女チックな造形だった。
裏も見てみる。
そこには簡単なメッセージと、簡略化されたドクオの似顔絵があった。

363 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 00:59:16.77 ID:
自分を信じて




                                           ('A`)b




(♯^ω^)「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

操縦桿を前に倒し機体を傾ける。
機種をトンネルへと向けた。


               五話 太陽万歳  ~終わり~

365 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 01:05:01.17 ID:gYPk953r0
いいねえ
乙!

367 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 01:08:06.94 ID:cV+URHiX0
乙~

371 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 17:50:59.88 ID:
小さな入り口が近づく。いつまでたっても小さな入り口だ。
操縦桿を握る手が振るえ、それにまかせて方向を変えようとする。

左手で押さえつける。
逃げ出したい。
右手が逃げようとする。

思いだ出す。ミルナ先生に宣告されたときを。
呪った。なんでこんな目にあうのだと。
やってきたことが台無しだと。
自分の責任から逃げようとした。
それに気付き矮小な人間に思えた。



       最終話 ブルースカイ万歳

372 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 17:54:37.07 ID:
ドクオは逃げなかった。
飛行艇を飛ばし勝とうとした。

もしここで操縦桿を引いたら。

また自分が矮小に感じるだけだ。
皮膚がゴムで中身は空っぽ。
虚勢で体積を膨らませるだけの存在。

空を見上げる。
見たくもない。
すぐにトンネルに視線を向ける。

373 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 17:55:09.20 ID:0xq2TAHe0
支援

374 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 17:56:29.83 ID:
あのトンネルをくぐれたらどんな空だろうか。
胸を張って綺麗だと、憧れていると言えるだろうか。
そして、この飛行艇も素晴らしい青になるだろうか。
ドクオはその青をどんな気持ちで見るだろうか

五臓六腑に空気を肺というポンプで送りこむ。

(♯ ω)「直線100メートル。右にR120、75メートル。
    左にR80、200メートル。そのまま左にR100、70メートルぅうう!!」

(♯ ω)「ドクオーー!!!最高のブルーを見せてやるおー!!」

375 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 17:58:34.60 ID:
一気に視界が暗転した。
速度は180キロに落としている。

一秒、二秒。正確に数えれば100メートル。右に切る。

一秒、半。これで75メートル。左に切る。ビビるな。

一秒、二秒、三秒、四秒。さらに左に倒す。

一秒、二秒、半前。前方に明かりが見えた。

左に倒れている機体を立て直す。後は直線。スロットルを押し上げる。
こだましていた音が、前方に向かって逃げていくのがわかる。
出口から空を覆う青が見えた。

そこにはかつて、いつか、これまでずっと、憧れた空が広がっているはず。

376 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:00:30.01 ID:
(♯^ω^)「っどっどっど童貞ちゃうわー!!
       じゃなくてどんなもんじゃーーい!!」

真っ暗なトンネルから抜け出して太陽の光が機体に降り注ぐ。
ガッツポーズをする。
右手を操縦桿から離し何ども前後に動かして興奮を発散させる。

少し落ち着いたところで赤い機体がいるか辺りを見渡す。
いた。自分の後方に真っ赤な機体がいた。猛烈な速度で近づいてきている。

(♯^ω^)「ばーかばーかおちんちんびろろーん!!」

ブーンは第三チェックポイントを通過した。
赤い機体にもわかるようにチェックポイント係に親指を立ててやった。

377 : >>8の前にこれを : 2007/07/24(火) 18:01:47.09 ID:
川 ゚ -゚)「ふぬ、ちょっとやりすぎたかな。」

801社の技術力を見せるためには抜かすだけでよかった。
しかし、つい遊び心が出て青い機体をからかってしまった。
可哀相なことをしたかなと反省し、連続コーナーが過ぎたところで加速した。
青い機体がついて来れないように速度を上げてひょうたん型の高速コーナーを飛んだ。

川 ゚ -゚)「ちょっと子供染みたことをしてしまったな。後で謝っておこう。」

座席の上でそう呟き後方を振り返った。
そこには青い機体はなかった。
少し後味の悪さを感じつつ視線を前方にもどす。

川;゚ -゚)「なっ!!」

前方に例の青い機体が飛んでいた。
一体どうやって?いつ抜かされた?
ありえないはずの事態に出会い驚愕したクー。
しかし、それでもすぐに状況を把握した。
とにかくこのままでは抜かされたことになってしまう。
それだけは避けなければと考えた。

378 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:06:13.77 ID:
( ・∀・)「第三チェックポイントより入りました。」

放送が流れた。が、もう皆はあまり興味がなくなっていた。
今まで結果を知るために聞いていたが、もうすでにわかっている。
聞かなくても大差はないと思って、もうすぐ来る8機の機体に注目していた。

(;・∀・)「えっこれは……」

放送者が呟いた。
それを聞いた観客は少しだけ、期待をもうすぐ来る8機から外す。

(;・∀・)「第三チェックポイントより入りました。
     ひょうたん型の高速コーナーをブーン氏が抜けました。
     その際に、係りのものに親指を立てたそうです。」

いったん区切りを入れて息を吸い込む。
観客は何があったかと耳を傾け始めた。

380 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:07:07.89 ID:
(;・∀・)「どうやらブーン氏がクー氏を抜いた模様です。
     何十メートルか離して飛んでいるとのことです。」

途端に会場内が湧き上がった。
赤い機体の速さは眼の前で見ている。
ブーンの遅さも聞いている。さっきまで馬鹿にしていた。
それが逆転している。憶測と予想が一気に飛び交った。

( ^Д^)「ミルナ先生聞いたかよ?抜いたってよ。」

( ><)「どういうことなんです?あんなに速い奴をなんです。」

(=゚ω゚)ノ「どういうことだょぉ?赤いの故障でもしたのかょぉ?」

( ゚д゚ )「わからん。お前ら取り敢えず計画は続行だ。」


  _
(;゚∀゚)「どういうことだよ?なんでだ?クーの機体、調子悪くなったのか?」

ノパ⊿゚)「よくわからんがよくやった!!そのまま抜いたままでこーい!!」

騒ぎの中ドクオだけは知っていた。
あそこで抜かしたんなら間違いがない。
そう思うと自然と口がにやけた。

('A`)「やるじゃねぇかブーン。まさかやるとはな。俺だって迷ってたのに。」

381 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:09:54.21 ID:
赤い機体が追ってくる。
このままでは、また抜かされてしまう。
しかし、さっきとは違う。気付いている。

(♯^ω^)「そのまま僕のプリティなお尻を眺めてろお。」

後ろに注意しながら飛ぶ。
右に来れば右に。
上昇すればそれに合わせる。
緩やかなカーブで追いつかれたがそっちの方が都合がよかった。
直線だと一気に抜かれてしまう。
真後ろにつかれていればそれが出来ない。
ブーンは赤い機体を前に出さない。

382 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:11:40.01 ID:
川♯゚ -゚)「クソ!!カーブのときに無理にでも抜くべきだった。」

このままだと今日築いた801社の名誉が地に堕ちる。
それだけは避けたい。絶対に。
抜かすべく右に出る。かぶせられた。
ならば上から。これもだ。

近づきすぎているからこそ抜けないことには気付かず
クーは目の前の敵を抜かすべく必死で操縦桿を動かした。

川♯゚ -゚)「どけぇええええええええ!!」

383 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:12:58.86 ID:
会場の観客から見える長い直線。その手前にある第四チェックポイント。
ここでブーンは自分がやられたことをお返ししてやろうと思った。

チェックポイントを通り過ぎる際に赤い機体の前で素早くロールしてやった。
いかに自分が余裕かを見せ付けるために。

(♯^ω^)「気分はドウデスカァア?!」

ブーンの叫びが聞こえたのか、クーも座席の上で叫ぶ。

川♯゚ -゚)「なめやがって!!抜かぁす!!」

384 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:13:33.06 ID:1hcVieUa0
支援

385 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:15:33.98 ID:
(;・∀・)「第四チェックポイントより入りました。
      ブーン氏がロールや蛇行飛行などをしてクー氏の機体をからかっているようです。
      まだ、クー氏はブーン氏の後ろにいます。まもなくここから見えるようになります。」

放送が入るたびに湧き上がる歓声。
すでに観客は二機の行方に心を奪われていた。

その雰囲気を感じ取ったミルナは手下どもに命令を下す。

( ゚д゚ )「お前ら、開始しろ。」

( ^Д^)「でも、まだわかんねーじゃん。」

( ><)「そうなんです。抜かされたら可哀相なんです。」

(=゚ω゚)ノ「ばっか、周りをみろょぉ。すでにブーンはヒーローになってるょぉ。」

( ゚д゚ )「ぃょぅの言うとおりだ。空気が変わった。
    これなら結果はどうあれブーンは注目の的だ。ホラ、行け。」

( ><)ノ(=゚ω゚)ノ( ^Д^) ノ「ハイルミッルナー!!」

386 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:17:04.33 ID:
(;・∀・)「来ました!!紛れもなくブーン氏とクー氏の機体です。
     赤と青。対立する二つの色が飛行艇となって飛んでいます。」

会場からは機体の機種が見える。
どちらが前かはわからないが、動きから察するに青が勝っていると推測できた。
  _
( ゚∀゚)「うおおお、マジだブーンの奴やりやがった。」

ノパ⊿゚)「いけぇ!!抜かされるなー!!」

(♯'A`)「いっけっぇええ!!そのままゴールしちまえ!!周回遅れ何ざかんけいねぇ!!」

一番古く一番興奮した記憶が目の前にある。
自然と声が腹から出て大きくなる。

387 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:20:08.05 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン!!いっけぇ!!」

(*゚ー゚)「ちょっとツン。あれドクオ君が作ったんだよ。」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってるわよ。でも乗ってるのはブーンじゃない。」

(♯*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「皆―あれドクオ君が作った機体なんだよぉー!!」

ξ♯゚⊿゚)ξ「……」

周囲にいる友達にわかるように大声を張り上げた。
まわりは応援をやめて、うそぉなどと言っている。
ツンは口を尖らせ、流れを戻そうとしぃに負けない声で叫ぶ。

ξ♯゚⊿゚)ξ「ブーンがんばってぇえ!!!」

388 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:21:28.44 ID:
 / ,' 3「うひょひょひょひょ。何年前だったかのう。
    前も赤と青があんな風になってのう。」

( ,'3 )「覚えてますよ父さん。あの時と同じですよ。」

 / ,' 3「うひょひょひょ。こんなに燃えるのは何年ぶりかのう。」

(*゚∀゚)「おじいちゃん。前ってなに?」

 / ,' 3「十何年も前じゃ。お前はまだうまれてなかった。
     そのとき今みたいに、熱いデッドヒートがあったんじゃ。」

(*゚∀゚)「そのときはどっちが勝ったの?」

 / ,' 3「忘れたわい。」

( ,'3 )「どっちが勝ったのかなぁ。俺も覚えてないな。
    ところでつー。赤と青どっちが好きかい?」

(*゚∀゚)「青いの。だってドベでかっこ悪かったのに、かっこいいんだもん。」

 / ,' 3「うひょひょひょひょ。じゃあ応援しなきゃな。」

(*゚∀゚)「うん。青―!!がんばれぇ!!」

389 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:23:14.27 ID:
(♯^ω^)「もってくれよエンジンちゅわ―ん!!」

遠いがもうゴールは見えている。
この状態をキープできれば最下位だが間違いなく最高だ。
後少しエンジンがもってくれればいける。
常にフルスロットル。最高速度は……215キロ。

(♯^ω^)「させるか右ぃ!!」

赤い機体が前よりも果敢にせめてくる。
右に倒しこみそれを防ぐ。
あたかも空中戦で逃げている機体と後ろにつく機体だった。
上下左右に飛び回る。
あと少しだ。

391 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:26:13.06 ID:
川♯゚ -゚)「クッ!!私は馬鹿か!!」

いくらフェイントをかけてもこの近さでは抜かせない。
旋回性は勝るとしても、エンジンほどではない。
ならばエンジンで勝負すればいいだけのこと。
得意分野で勝負すればいい。相手と同じ土俵に立つことはない。
ギリギリになるが、いったん離れるべきだと考えた。
速度計を見る。215キロ。
相手のエンジン音から悲鳴が聞こえる。
このあたりが限界だろうと予測する。

川♯゚ -゚)「215キロ。それがお前の限界だ!!」

クーもフルスロットルにしエンジンに空気と燃料を大量に送る。
最新型の801エンジンがやる気を音にして表してくれる。
そして、加速する前にエアブレーキを使った。

川♯゚ -゚)「801エンジンのな……最高速度は286キロだ!」

392 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:27:35.14 ID:
(;・∀・)「おっとクー氏が離れました。どういうことでしょう。」


(;^ω^)「えっ?何でだお?」

赤い機体が離れたことによっていくらか冷静になった。
もう操縦桿やフットペダルを動かさなくていいからだ。
そして、離れた理由を考えてみる。
エンジン音は変わらないのに離れていっている。
すぐに悟った。その意図を。

(♯^ω^)「そうはイカの金玉ァ!!」

ブーンはわずかに操縦桿を引いて上昇する。
速度を殺さないためにすこしづつ。
焦る気持ちを抑え、速度計と高度計を凝視した。

393 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:29:07.45 ID:
加速するのに十分な距離をとった。
エアブレーキをしまう。
エンジンの回転数はレッドゾーンに入っている。

余分な抵抗がなくなり、ブースターのように加速する。
200キロ。
205キロ。
210キロ。
215キロ。
速度計は青い機体の最高速度と並び、さらに加速する。

川♯゚ -゚)「貴様の最高速度など簡単に抜かしてやる!!」

394 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:31:17.83 ID:
(;・∀・)「どうやらクー氏、距離をとったのは加速するためのようです。
      旋回では近すぎると判断したのでしょう。
      だが抜かせるのか?いや速い。追い上げる。これは抜かせれるでしょう。」

(;・∀・)「しかしブーン氏何故高度をとったのでしょうか。
      大会の制限ギリギリまであがっています。」


赤い機体よりも少し上空にいる。
急に会場内が静まり二機のエンジン音が聞こえるようになった。
どちらも悲痛な叫び声を発している。
そして赤い機体が速度をさらに上げ追いついた。
赤の上に青。青の下に赤。
赤はまだ加速する。ゴールのラインまで後10秒もあればたどり着く。

川♯゚ -゚)「フン!上にいるから勝ったつもりか?!残念だったな!!」

(♯^ω^)「おらぁ!!」

万力を回すようにじわじわと空間が無くなっていく。
早くやりたい気持ちを抑える。タイミングが重要だと。
赤い機体が真下に来たとき、ブーンは操縦桿を押し倒した。
心地いい浮揚感と共に落下していく。
そう、それが狙いだった。

395 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:32:31.72 ID:
観客からは急に落下する青い機体と、速度を増し続ける赤い機体が見える。
そしてほんのわずかな時間でそれを理解したものが何人か叫んだ。

('A`)「あいつ落下で速度を稼ぐつもりだ。!!」
  _
( ゚∀゚)「そうか、そういうことか。」


(*゚∀゚)「青が速くなったぁ。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、そうかやりおるのう。」

観客全員に一瞬で伝わり、歓声が一段と大きくなる。
今日の大会で起きたどれよりも声に興奮が混じっている。
皆がそれに負けじとさらに声を荒げる。

ξ゚⊿゚)ξ「いけぇえ!!」

(*゚ー゚)「抜かしてぇ!!!」

( ^Д^)「ブーンプギャー!!!。」

( ><)「行くんです!!」

(=゚ω゚)ノ「かっちょいいょぉ!!」

396 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:34:17.44 ID:
(;・∀・)「おっとブーン氏落下して速度を上げます。
      クー氏の加速を越せるのか?ゴールは目の前です。」

川♯゚ -゚)「なめるなぁ!!」

(♯゚ω゚)「ぶるぁああああああああああ!!」

ゴールまで十数メートル。
誰もが瞬きをせずにいる。
上空から奇襲するかのように青が突っ込む。
赤はそ知らぬ顔で加速する。
もう数メートル。
赤と青が混じった。
そしてゴール。

398 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:38:41.88 ID:hHaZkjpc0
もはやクールとかじゃねぇw

401 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:48:03.24 ID:
眼前にはスカイブルーを映し揺れる水。
それを避けるために操縦桿を引き急上昇にいれる。

(;^ω^)「だぁっと!」

フロートが水をかすり高く跳ね上げた。
今度は本物のブルースカイ。
ブーンはついでとばかりに、ロールをしてから宙返りに入る。
フロートについた水がロールの勢いで辺りに散る。
太陽の光が翼に反射し、それは観客をねめ回すように
観客達の視力を一瞬だけ奪った。

まるで勝者が自らの栄光を誇るかのように。

403 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:49:46.39 ID:
正式な順位は明らかだが、観客はこの勝負の行方を知りたがった。
自然、大会の放送をまつべく誰も声を発しない。
しかし、青い機体が水の祝福を受け、垂直に上昇し、自分達に太陽光を反射させた意味を想像するものがいた。


(*゚∀゚)「青が勝ったー!!」


その言葉を皮切りに、いたる所で同時に空気が揺れた。
賞賛するもの。自信の興奮を見知らぬ隣の人に伝えようとするもの。
それを聞いて自分の興奮を語るもの。

どっちが勝ったのかに誰も疑いを持たなかった。
ブーンの宙返りを全員が勝利の証と受け取った。
判定はともかく、勝者を皆が悟った。

404 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:50:19.87 ID:ICrV9+xM0
らにやにが止まらない

405 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:51:40.01 ID:C3uPfB76O
良作だな

406 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:52:18.15 ID:
クーはゴールと同時に減速してその後、着水し
会場のざわめきから勝負の行方を知ろうとした。
その時、放送が入った。

( ・∀・)「えー皆さんにお伝えします。
      ブーン氏が10位に入り、クー氏もウイニングフライトを終えました。
      これをもって、VIPカップのすべてが終わったことをお伝えします。
      なお、今のブーン氏とクー氏の結果ですが、それはお伝えしません。」

( ・∀・)「なぜなら順位とは関係のないことですのでお伝えする必要がありません。
      どちらが勝ったかは皆さんが存分に話し合ってお決めください。
      以上でVIPカップの放送を終えます。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、粋なこといいよるわい。」

( ,'3 )「よく思えば赤の方が速かった気がするけどな。」

(*゚∀゚)「青だもん。絶対青だもん。」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンが勝ったに決まってるじゃない。」

(*゚ー゚)「そうよ。絶対そうよ。」

( ^Д^)「いや、やっぱり赤の方が速くなかったか?」

( ><)「僕は見たんです。プロペラの分だけブーン君が速かったんです。」

(=゚ω゚)ノ「同時じゃないかょぉ?」

407 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:54:04.00 ID:
クーはゴールと同時に減速してその後、着水し
会場のざわめきから勝負の行方を知ろうとした。
その時、放送が入った。

( ・∀・)「えー皆さんにお伝えします。
      ブーン氏が10位に入り、クー氏もウイニングフライトを終えました。
      これをもって、VIPカップのすべてが終わったことをお伝えします。
      なお、今のブーン氏とクー氏の結果ですが、それはお伝えしません。」

( ・∀・)「なぜなら順位とは関係のないことですのでお伝えする必要がありません。
      どちらが勝ったかは皆さんが存分に話し合ってお決めください。
      以上でVIPカップの放送を終えます。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、粋なこといいよるわい。」

( ,'3 )「よく思えば赤の方が速かった気がするけどな。」

(*゚∀゚)「青だもん。絶対青だもん。」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンが勝ったに決まってるじゃない。」

(*゚ー゚)「そうよ。絶対そうよ。」

( ^Д^)「いや、やっぱり赤の方が速くなかったか?」

( ><)「僕は見たんです。プロペラの分だけブーン君が速かったんです。」

(=゚ω゚)ノ「同時じゃないかょぉ?」

409 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:57:26.09 ID:
ブーンが着水して細長い桟橋に機体を止める。
ドクオや他の知り合い、ブーンを見ようとする観客が走って近寄ってきた。
ブーンは最下位ということが思い出されてしまい、表情に影を落とす。

('∀`)「よぉよく通ってこれたな。俺なんてやろうかどうかビビってたのに。」

( ´ω`)「ごめんだおドクオ。最下位だったお。」

('∀`)「気にすんな。聞いてみろよ。この騒ぎの半分はお前に向いてんだぜ。」

( ´ω`)「でも……」

ドクオに対して顔を見せれなかった。
そうはいっても最下位というのがのしかかる。

('∀`)「ばっかどうでもいいよそんなこと。思い出してみろよ。
    お前むかしに……ぶぇっぷ!!」

ノパ⊿゚)「いつまでぐじぐじするつもりだぁ!?」

410 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 18:58:54.25 ID:
ドクオ言葉を遮りついでに地面とのバランスも遮ってヒートが喧しすぎる声を出す。
その直後、ドクオが水に落ちた音が響いた。
ブーンは申し訳なさでヒートの顔を見れず、俯く。

ノパ⊿゚)「いいかよく聞け。明日や明後日ならわからん。
     でもな、何年後か、五年後か十年後にな、この大会で覚えてるのは優勝者の名前じゃない!!
     ブーンお前の名前だぁーー!!」

水の中からひょっこりと頭だけ出してドクオが口を挟む。

('A`)「そうだブーン。俺たちの憧れてた飛行艇だってどっちが勝ったかなんてしらねぇ。
   でも、いつまでも覚えてるのは絶対に優勝者じゃない。」

('∀`)「赤と青の飛行艇だ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「なにしょぼくれた顔してんのよ。聞きなさいよこの騒ぎ。」

( ^Д^)「ブーンプギャー!!」

( ><)「かっこよかったんです。」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぉ!!」

411 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:00:00.27 ID:ICrV9+xM0
プギャーwww

412 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:01:04.45 ID:
( ^ω^)「おっおっ」

観客達の覚めやらぬ歓声と嬌声。
ヒートとドクオのそして周りの言葉。それらを聞いて考える。
ブーンが見てきたVIPカップの中で最高の騒ぎとなっていたのがわかった。

( ^ω^)「じゃあ僕は喜んでいいのかお?」

('∀`)「当たり前だ!!」

ブーンはベルトを大急ぎで外し、翼の上に足を乗せる。
そして、手を強く握り締めスカイブルーに向かって突き出し叫んだ。

( ^ω^)「いーーーやっほぉおーー!!」

叫ぶと同時に大きくジャンプして水の中へと飛び込んだ。
とにかくはしゃぎまわりたかった。この歓声が自分のものだと思うと、とにかく動きたかった。

413 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:02:04.17 ID:1hcVieUa0
いーーーやっほぉおーー!!

414 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:04:49.46 ID:
  _
( ゚∀゚)「言うねぇヒート。まったく。あいつが言うと重みが違う。」

飛行艇の周りに集まって騒いでいるのを眺めながらジョルジュが感慨深くもらす。

川 ゚ -゚)「ん、どういうことだ?」

それを聞いたクーが後ろからジョルジュに声をかける。
ジョルジュはヒート達の方からクーへと振り返った。

  _
( ゚∀゚)「ありゃ、何しにきた?」

川 ゚ -゚)「いや、からかったことを謝ろうと思ってな。
     それよりも、ヒートがどうしたって?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、覚えてるか、昔俺が赤い飛行艇でお前が青い飛行艇でデッドヒートしたの。
     あいつらそれをずっと言っててさ、今回出たのだってそれに憧れたんだって。」

川 ゚ -゚)「ああ、レースが始まる前にきいた。
     でも少し疑問なんだがあのときの優勝者はヒートのはずだろ。
     ヒートがそれで私を嫌うのはわかったが、あいつ等は何故ヒートでなく私達なんだ?」

415 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:07:22.90 ID:
  _
( ゚∀゚)「ああそうよ優勝者はヒートだ。でもな、覚えてるのはヒートのことじゃない。俺たちのことなんだ。
    そういうことさ。誰も覚えていないんだ。」

川 ゚ -゚)「なるほど。でもお前言ってやればいいのに。何故教えないんだあいつ等に?」
  _
( ゚∀゚)「だってさ、あいつらいっつも喧嘩すんだぜ。赤が勝ったとか青が勝ったとか。
     それ見てるとさ言えねぇよ。手放しで俺を褒めるんだぜ。悪い気しねぇよ。
     それにさ、ヒートもそれで泣くんだぜ。あの時優勝したのはこの私だーって。
     ついそれがかわいくてな。あいつ自分からは言うのはみっともないからって黙ってるんだけど。」

ジョルジュは一息に喋るとクーの顔が自分の後ろを見ているのがわかった。
クーの無表情な顔から何があったのか推測できず、気になり首だけで振り返る。

ノハ ? )「ふーん。そういうことか。」
  _
(;゚∀゚)「きいてらっしゃったの?」

ノハ ? )「このド外道がー!!」

瞬間ジョルジュの視界範囲からヒートが消えた。
そして足首に圧力を感じる。下を向こうとした次の瞬間そこには空があった。

416 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:11:52.89 ID:
ノハ ? )「オラオラオラオラオラオラー!!」

ヒートはジョルジュの足を持ち盛大に回転している。
当然ジョルジュはそれに伴ない頭部に行くほど高速回転になった。
  _
(;゚∀゚)「勘弁してください!!帽子が取れるぅ!!」

両手で頭部を保護する、というよりは鳥打帽が取れないようにおさえている。
だが、頭に血が昇り朦朧としてきたところで、ついにレッドアウトした。
手がブランと回転によってふらふらし、おさえていた鳥打帽が飛ばされていった。
ヒートの手には白目をむいて頭の頂点が禿げ上がったジョルジュ。

  _
(  ∀ )

418 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:13:06.02 ID:
川 ゚ ー゚)「なんだ、あの後頭部は。まだ禿げる年じゃないだろ。」

ノハ;?;)「こいつが浮気したときにやってやった。ちくしょー!!
     なんで誰もあのときの優勝者を覚えてないんだ!!
     私はそれがくやしぃ!!」

川 ゚ ー゚)「いいじゃないか。私とジョルジュが覚えている。」

ノハ;?;)「うるさい!!私だってもっとジョルジュのようにあいつらから言われたいんだ
      なのにあいつ等ときたら調べればすぐわかることを調べもしない。
      さあわかったらお前も行け。また始まるんだ。私が抜いた、ジョルジュとお前の褒めあいがな。」

くすくすとクーは笑っている。
ヒートはクーのそんな顔を見たことがなかったので一瞬だけ戸惑った。
だがすぐに戻り大きな地声を出す。

ノハ;?;)「どうした。はやくいけぇ!!」

川 ゚ ー゚)「いや、案外お前の泣き顔はかわいいと思ってな。」

ノハ;?;)「う、うるさい!!お前があいつ等の言い合いを聞いていい気になるのは気にいらん!!」

川 ゚ ー゚)「わかったわかった。じゃあな元気でな。」

419 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:15:51.77 ID:
クーが立ち去ると、今まで回して鬱血させたジョルジュを大空へと放った。
ジョルジュは虹のように綺麗な放物線を描いて雲の向こうへと、頭に後光をたずさえ旅立った。

表彰式が始まりブーンとドクオの飛行艇の周りには学校の知り合いとミルナ、
それにブーンを間近で見ようとする人間で一杯になっていた。さながら表彰式のように。
みんながブーンのことを話す中、ミルナがそっと三人に呟いた。

( ゚д゚ )「いいか、タイミングが重要だ。自然にな。」

( ><)ノ(=゚ω゚)ノ( ^Д^) ノ「ハイルミッルナー。」

小声で言った後、三人はばらばらに散った。
二人は左右に。一人はツンの後ろについた。
そしてミルナの合図を待つ。

420 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:17:45.99 ID:hHaZkjpc0
支援
( ><)ノ(=゚ω゚)ノ( ^Д^) ノ

421 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:18:18.65 ID:
騒ぎが下火になった頃ミルナがブーンに声をかける。
手下はこらえきれずにニヤニヤと笑った。

( ゚д゚ )「さて、ブーン皆がこうやって集まってくれてる。
      丁度いいからそこに立って挨拶したらどうだ。」

ミルナは顎で飛行艇を指した。
そこに乗ってということだろう。ブーンは素直にそれに従い皆を少し見下ろす感じになった。

( ^ω^)「えー集まってくれた皆さん。今日は本当にありがとうございますお。
      結果は散々でしたが最後に何とか一泡吹かせれたことにまあ満足していますお。
      けれどもこうして出場で出来たのもあそこにいる……」

( ^Д^)「おいブーン!!ツンが言いたいことあるってよ。」

ξ;゚⊿゚)ξ「なに言ってるの急に。ちょ、ちょっと押さないでよ。」

ブーンの演説を遮って、無理矢理ツンを翼の上まで押していった。
青い飛行艇の上にバランスとバツが悪そうに二人が立っている。

422 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:20:04.99 ID:
('A`)「おうおう、いいこったな。ヒーロー。」

集団から少しはみ出していたドクオが軽く毒づく。
しかしその言葉はとても小さく、顔も皮肉な笑いがつくってあった。
誰かに聞かせるためではないが、ちゃんと聞いている者もいた。

(*゚ー゚)「ブーン君があそこにいるのドクオ君のおかげじゃない。私は知ってるよ。
    それじゃ駄目なの?」

(*'A`)「いや、いい。」

ツンは青い翼上、透き抜ける青空の下で困惑していた。
なんで、ここに押し上げられたのだろうと。期待が視線となって降り注いだ。

423 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:21:12.91 ID:
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと。話すことなんてないわよ。」

そんなツンにブーンが助け舟を出す。

( ^ω^)「折角あがったんだから何か一言いったらいいお。」

ξ;゚⊿゚)ξ「そう?えーっと、小さい頃の夢をかなえておめでとう。
       他にもあるような気もするけど、取り敢えずこんなところで……」

語尾を濁しそれを終わりの合図とした。
それを受け取った皆は拍手で迎える。

いわれのない賞賛に頬を赤くして俯いた。
拍手がまばらになったところでミルナが大声をかける。

( ゚д゚ )「おーい、それだけか。せっかく上がったんだからもう少し何か言ったらどうだ。」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、別に言うことないわよ。」

ツンは何十もの視線に限界を感じ早く降りたいと思った。
緊張のためかミルナの微笑には気付かずにいた。

潮を含んだ風が流れ、ツンの髪が宙に泳いだ。
それを幸いと手持ち無沙汰の右手で撫で整える。
全員がツンに何かを期待し沈黙しているなか、一つの声が聞こえた。

(=゚ω゚)ノ「キース、キース。」

425 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:23:03.06 ID:
その小さな声は弱弱しく周囲のものが、ちらと視線を向けただけで終わった。
しかし、集団の対極にいる一人が手拍子と合いの手を入れる

( ><)「キース、キース。」

二人の周りが一緒に音頭をとろうかどうか迷い始めた。
腕を胸まで上げてみんなの方向性を探った。
すると集団の真ん中にいる人間が大きな声で囃し立てる。

( ^Д^)「キース、キース。」

( ><)「キース、キース。」

(=゚ω゚)ノ「キース、キース。」

(*゚∀゚)「キース、キース。」

( ,'3 )「こらつー。やめなさい。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、いいじゃないか。それキース、キース。」

( ,'3 )「父さんまで。」

三人の声は次第に大きくなり周囲のものを巻き込んだ。
そしてその周囲の周囲が巻き込まれ、弱弱しかったキスコールは次第に
大きくなり全員がそれを待ち望んだ。

426 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:24:09.39 ID:
(;^ω^)「ちょ。」

ξ;゚⊿゚)ξ「なによこれ?」

二人は多勢の人数からキスを強いられた。
祝福の強要。
それを見ておこぼれを授かろうとする者。

ξ;゚⊿゚)ξ「や、やめなさいよ。やるわけないじゃない。」

ツンの声は大多数の圧力によって消された。
なにが起こっているのか把握できず、助けを求めて見渡す。

( ゚д゚ )

ミルナがいた。この騒ぎをやめさせようと声をかける。
聞こえはしないが唇の動きでわかる筈だ。

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

(゚д゚ )

目を逸らした。

429 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:30:05.74 ID:U1UM2ntW0
  _
( ゚∀゚)「接吻!!接吻!!」

427 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:26:29.18 ID:
誰もがコールしている。
意地悪な、それでいて悪意のない目で。
しぃや他の友達もコールしている。

ξ♯゚⊿゚)ξ「……」

全員が自分に恥をかかせて笑いものにするという総意に腹が立った。
こうなったら堂々と見せ付けて、笑いものに出来なくしてやる。
そう思い、ブーンの顔を見る。

ブーンも困った顔をして集団の中にいる知り合いに救援の視線を送っている。
大またで胸を張りブーンに近づく。

視線がツンに集まりコールがやんだ。ブーンもそれに気付き首を回しツンを見る。
一つは困惑の目で一つは意地の目で。二人がすっと見つめ合う。

428 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:29:55.61 ID:
目の前には、
照れたように微笑む、
彼女の顔。

切れ長の目。
その中にある二つの瞳が、
こちらを見据えている。

その青の先に、

俺は、

十年前の夏、
『キスしたげる』と言って手を差し出した彼女の笑顔、


その『スカイブルー』を見た。



    ( ^ω^)ブーンがスカイブルーを見るようです  -了-

431 : >>428を信じるな : 2007/07/24(火) 19:31:34.14 ID:
雰囲気を察知し誰もが目じりを下げる。
戸惑っているブーンの頬を両手で押さえる。
見つめ合う瞳、その時間は1秒未満。
ツンが力を込めブーンの首を前に戻した。

そして、一気に距離を縮め、手をどかした頬に唇を押し付けた。

一秒。

二秒。

ツンがブーンの頬から唇を離すと胸を膨らませ大きく息をした。
拍手が沸き起こり、嬌声が聞こえる。
そのとき、表彰式の花火が鳴った。最下位への表彰式と頬への小さなトロフィー。

432 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:33:07.90 ID:C3uPfB76O
あああああああ!!!!!

433 : >>428を信じるな : 2007/07/24(火) 19:33:15.83 ID:
(*^ω^)「……」

ξ//⊿/)ξ「なんて顔してんのよ!!」

ツンは鼻の下は伸ばした間抜け面を川へと叩き込んだ。
また湧き上がる集団。どう収集をつけようか迷っているとついにミルナが皆をまとめた。

( ゚д゚ )「よーし引き上げるか。」

鶴の一声で静まり、帰り支度をしだす。
集団の合間を縫ってツンはミルナに詰め寄った。

ξ♯゚⊿゚)ξ「もっと早くまとめなさいよ!!」

こっちを見ているミルナを、ブーンと同じく川の中に叩き込む。
手をバタつかせながら落ちていくさまが滑稽だった。

434 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:34:34.17 ID:
('A`)「おうおう全く。」

(*゚ー゚)「羨ましいの?」

ドクオはしぃの問いにそっぽを向いた。
するとしぃは素早くドクオの顔向きに合わせ目の前にいく。

('A`)「べっつに、うらやましくも…」

ドクオの言葉が途切れる。
しぃの唇によって塞がれた。
といっても触れるか触れないかの淡い口付け。

離れて漏れる素直な感想。

(*'A`*)「いぃ…」

(*//ー/)「な、なにが、いぃ、よ。」

照れ隠しかドクオを突き飛ばす。
バランスを失ったドクオはそのまま川へと落ちた。

435 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:36:34.75 ID:
(*゚∀゚)「つーもおよぐぅ。」

川に入るブーンたちを見て勘違いしたつー。
父親の肩から飛び降り、桟橋からジャンプした。

( ,'3 )「つ、つー上がってきなさい。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、わしもじゃ。今行くぞつー。」

爺が飛んだ。

( ,'3 )「父さんも何やってるんですか……でぇーい!!」

男も飛び込む。

川にいる人数が増えた。
だれかが、せーの、と言い全員が頷く。
百人あまりが一斉に川に飛び込んだ。
しぶきが空高く舞い上がり、虹が一瞬だけ見えた。

上に青。その下に赤。
すぐさま消えた。
最下位への表彰式はこれで幕を閉じた。




       最終話 ブルースカイ万歳       ~終わり~

436 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:37:14.14 ID:VZRAlPHk0
乙!!!

438 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:39:40.09 ID:C3uPfB76O

最高に楽しかったぜ

443 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 19:49:06.47 ID:HE23BeoM0
乙。盛大に楽しませてもらった。次回作書いてくれるよう祈る

451 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 20:27:07.90 ID:lFjlOAjSO
乙!
思えば日曜の変な時間から始まったこの話。予想よりも楽しませてもらった。
次回作に期待するよ

450 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 20:19:19.24 ID:1hcVieUa0
乙……これで最後か、悲しいな……

447 : 名無しにかわりましてVIPがお送りします。 : 2007/07/24(火) 20:02:42.23 ID:3QHSQCG5O