1 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:01:25.31 ID:
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むかしむかし、隠岐(おき)の島に1羽のウサギがおりました。

ある日ウサギは、この狭い島を抜け出して、広い本土に行ってみたいと思いました。

しかし本土までは遙か向こう。

なんと50キロもあるのでした。

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2 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:02:46.72 ID:
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3 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:03:38.53 ID:

こうしてウサギは、真冬の日本海に裸一貫で飛び込みました。

荒れ狂う白波を両手で掻き分け、進む、進む。

トビウオも舌を巻く、伸びのある優雅なバタフライでした。

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4 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:04:41.44 ID:

そして10キロほど渡ったとき、事件は起こりました。

なんとお腹をすかせたワニザメが、ウサギの行く手をさえぎったのです。



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売り言葉に買い言葉。

もはや後退の文字はなく、闘いのゴングを待たずして真っ向から2体は激突します。

とはいえ海はワニザメの独壇場。

さすがのウサギもなす術がありません。

5 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:05:36.36 ID:

……と思いきや、意外や意外。

ひごろ鍛えたマッスルパワーで、ウサギはことのほか健闘します。
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そして30分にも及ぶ、もつれにもつれた死闘の果て。

ついにワニザメが叫びました。

6 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:06:36.43 ID:
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7 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:07:31.53 ID:

するとどうでしょう。

ウサギの周りにウヨウヨと、右も左もサメ、サメ、サメ。

これはたまらん、多勢に無勢。

肉片となる未来が脳をよぎりました。
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8 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:08:31.12 ID:
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9 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:09:22.41 ID:

ウサギは粘り強く交渉を続けました。

ある時は美味しい話をチラつかせ、またある時は筋肉をチラつかせ、

最終的にはとうとうワニザメたちに決闘を承諾させました。
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10 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:10:27.12 ID:

「では仲間を集める」

ウサギはそそくさと元来た海路を引き返しました。

その後ろをワニザメたちが油断なく続きます。

もしウサギに少しでも妙な素振りがあったなら、すぐさま取って食うつもりでした。
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4つの視線に背中を刺されながら、もう1時間は泳いだでしょうか。

ようやく地に足が着いたとき、ウサギはようやく生きた心地が込み上げてきました。

「しばらく待っていろ」

そう言い残し、ウサギは脱兎の勢いで砂を蹴りました。

後ろから何か言われた気がしましたが、耳を畳んで全力で内陸まで駆け抜けました。

11 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:11:23.70 ID:

さて、一命は取り留めたものの、これからが大変です。

なぜならワニザメと真っ当に闘える者など、彼以外には1羽もいなかったからです。

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ワニザメは陸まで上がってはこれませんから、このままふけてしまえば助かるでしょう。

しかしウサギには、最終的に本土へ行くという目的があります。

つまり、いずれはまた海路を行かなければならないのです。

そこで再びワニザメに出会ったが最期。

今度こそ命はないでしょう。

12 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:12:26.36 ID:
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ウサギは腹をくくりました。

13 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:13:19.31 ID:
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ワニザメたちは青ざめました。

「おい、ヤベーぞ!」

「お前ら兵隊集めてこい!」

「サメとつくならこの際なんでもいい!」

彼らはほうほうの体で沖に散り、西へ東へ仲間を求めて泳ぎました。



そして1時間後…………。

14 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:14:10.28 ID:
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15 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:15:10.29 ID:

こうしてまんまと本土への道を作ったウサギは、軽快にワニザメの上を飛んでゆきました。
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16 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:16:03.59 ID:

そしてとうとう、夢に見た本土の砂を踏んだのです。

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17 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:16:55.78 ID:

     おいコラ、行き過ぎだ

     戻ってこい

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18 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:17:48.39 ID:
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19 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:18:39.54 ID:
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20 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:19:30.26 ID:
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21 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:20:22.56 ID:
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22 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:21:21.79 ID:
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23 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:22:19.76 ID:
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24 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:23:16.67 ID:
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25 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:24:13.04 ID:
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ウサギはついにやりました。

本土に渡る。3万のワニザメを屠る。その不可能とも言える両立を。


知恵、勇気、そして筋肉。

三位一体の勝利の波動が、爪先から耳の先まで満ち、溢れ、

ウサギはしばし腕を突き出したまま、その余韻に心をただよわせました。

26 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:25:12.23 ID:

ですがそのツケはやってきます。

10キロの遠泳、30分に及ぶワニザメとの格闘、

そのまま10キロ泳いで戻り、さらにワニザメの背中を3万回跳躍。

最後には全霊を込めたエネルギー波を放ったのですから、

ウサギの体はとうに限界を越えていたのでした。

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ウサギはペタリと尻を着きました。

アドレナリンが弱まるにつれ、

全身にバーベルが1つ、また1つとくくり付けられていくように思えました。

乳酸の蓄積は果てしなく、体はそのままなす術もなく押し潰されてゆきました。

27 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:26:02.40 ID:

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28 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:26:59.85 ID:

長い耳がキュッキュッと鳴る音を捉え、ウサギをまどろみから呼び覚ましました。

その方向へ首をもたげると、八十神(やそがみ)の一行がウサギに向かって進んでいました。

キュッキュッ。

キュッキュッ。

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ぼうと眺めるうちに、その音が彼らの足元から出ていることに、

すなわち砂が鳴っている音なのだと気がつきました。

29 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:27:50.57 ID:

「なんだアレは?」

八十神の1人がウサギを指差しました。

「動物のようだな」

「見たことないヤツだ」

「ケガをしているのか?」

「よしよし、それならいい事を教えてやろう」

別の1人が歩み出て、ウサギの耳にこう吹き込みました。

「かわいそうに。

 海の水で体を洗い、風の吹きさらす丘の上で寝ているがいい。

 そうすればお前のケガはすぐに良くなるだろう」


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30 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:28:30.45 ID:
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31 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:29:44.01 ID:

騙されたウサギは、逃げまどう八十神の首根っこを片っぱしから掴んで千切っては投げ、千切っては投げ、

たちまち海岸を血の色に染め上げました。

潮風が赤く腫れ上がった皮膚を逆撫でし、爆発したウサギの怒りに、よりいっそうの油を注ぎ続けます。

そして2分。

周りから動くモノが消えるまで、たったの2分しかかかりませんでした。
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32 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:30:59.19 ID:

しかしその2分が大国主(おおくにぬし)の明暗を分けました。

彼は八十神の荷物持ちをさせられていたため、海岸には少し遅れて到着したのです。

そこで目に飛び込んだのは、千切って投げられた兄神たち。そして怒り静まらぬ荒れ狂うウサギ。

大国主は大きな袋を取り落として、腰を抜かしました。

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33 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:31:49.56 ID:

こうなったらやられる前にやるしかありません。

大国主は一心に念じました。


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34 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:32:38.18 ID:
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こうしてウサギは無数の力に分けられました。

それ以来ウサギは、小さく、臆病で、寂しがり屋な動物になったといいます。


サメには勝てなくなりましたが、彼らは本土で幸せに暮らしましたとさ。

35 : ◆AzKGRC7u2KHh : 2017/02/01(水) 21:33:16.14 ID:
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39 : 名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします : 2017/02/01(水) 22:02:43.19 ID:JKCeRoECo
わろた

36 : 名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします : 2017/02/01(水) 21:36:32.40 ID:4hISXXUd0
久しぶりに面白いAA絵本を読んだ
童心に帰れそう

37 : 名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします : 2017/02/01(水) 21:36:34.37 ID:YjDHCzcso
兎は戦闘種族だったのか…

41 : 名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします : 2017/02/01(水) 22:50:20.13 ID:bkX9KAx1o
なんだこりゃ(褒め言葉)
おつでした!

42 : 名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします : 2017/02/03(金) 10:44:02.04 ID:TKBccq5/o
隠岐に島流しにされていたのか…
この荒唐無稽さ、意外とそれっぽくて困る