1 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:52:16.019 ID:
「おっ、おいしそ~」
駅前行列三十分のとんかつ屋。
長い時間並んだ甲斐もあって、本当においしそうだ。
目の前の彼氏も満足気な表情で、声を出した。

「あっ! ちょっと待って」
危ない危ない、大切なことを忘れてた。

「え、なに?」
「写真、撮らせて」
せっかく来たんだ、しっかり撮らないといけない。
no title


2 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:52:34.780 ID:
「別に撮らなくてもいいじゃん。冷めちゃうよ」
「だめ、撮らなかったら来た意味がないでしょ?」

パシャ――
ああ、だめちょっと角度が悪い。
もう一枚。
パシャ――
あ、指入っちゃった。
もう一枚。もう一枚。もう一枚……

「うん、これならいいかな」
アングルも、光も、位置も完璧。
納得の一枚だ。

3 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:52:54.987 ID:
「もういい?」
「待って、投稿しないと」
彼はうんざりそうな顔でこちらを見ていた。
まったく、少しくらい待ってくれてもいいのに。

まあいいや、早く投稿しちゃおう。

駅前行列のとんかつ屋
塩で食べるといいらしい
おいしそ~

はいOK
お、早速、いいね来た。いいね!

4 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:53:23.005 ID:
「じゃあそろそろ食べようか」
「ああ」
少し不機嫌そうな彼と一緒に、私はようやくとんかつを口に運んだ。

5 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:54:03.821 ID:


「ねぇ、次あそこのパンケーキ屋さん行こうよ。あそこも今人気らしいよ、写真もいい感じに撮れそう」
帰り道彼に機嫌を直してもらおうと、私は提案した。

「ごめん、俺今ちょっと金欠で……無理かも」
「えー」
「それとさ……」
「なに?」
「写真ばっか撮るの、やめたほうがいいと思うよ。写真撮りにご飯食べに来てるわけじゃないんだからさ……」

6 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:54:45.968 ID:
「なんで?」
なんでそんなこと言うんだろう。
写真撮らなかったらいいねもらえないじゃん。
そんなの食べに来た意味がない。

「なんでって…… ごめん、もう俺帰るわ」
「勝手にしたら」
なんだか腹が立ってきた。
なんで彼にこんなことを言われなきゃいけないのか、理不尽だ。

7 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:55:17.462 ID:
彼が帰ってからも怒りは収まらず、そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか知らない道に入っていた。

「ここ……どこ?」
と思わず声を漏らしてしまう。
なんだか不思議な雰囲気のある通りだ。
少し不気味。
そんな気持ちとは裏腹に、何かに導かれるように、体がどんどん勝手進んでいった。

8 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:55:43.434 ID:
古物商……八重樫?
気づくとその看板を掲げた店が目の前にあった。
古めかしい建物は怪しい雰囲気を纏っている。

それなのに私の手は吸い込まれるように、扉へとかかっていた。

9 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:56:37.151 ID:
「いらっしゃい」
店の中に入ると綺麗な声が聞こえた。

「古物商の八重樫 桜です。よろしく」
声の主はどうやら店主だったようだ。
歳は二十代くらいだろうか? 背が高く髪の長い女性だ。
こんなに若いのに、なぜ古物商をやっているんだろうか。

10 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:57:09.567 ID:
「それでご用件は?」
「……いや、あの、用ってわけでは……」
「何かお困り事があるんですよね?」
「……えっ」
思わず言葉に詰まってしまう。
困ったことなんて別に……

「ここはそういう店ですから。なにか悩みを抱えた人しか辿り着けない。そういう風になっているんです」
なにを言っているんだろうか?
わけがわからない。

11 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:57:49.330 ID:
もうこの店とこの人の怪しさはカンストしている。
それなのにいつの間にか、なぜか私は自分の話を始めてしまっていた。

12 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:58:23.008 ID:


「……なるほど、SNSに写真を投稿したいのに、お金が足りないと」
「はい、食べ物をあげるにも化粧品をあげるにも、お金が……」
「でしたら投稿をやめては?」
「駄目。そんなことしたらいいねがもらえなくなっちゃうじゃない」
そんなの駄目だ。

13 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:59:15.859 ID:
「……そうですか」
そういうと八重樫さんは、立ちあがって奥の部屋に入っていった。
「ではこちらは、どうでしょうか?」
戻ってきた八重樫さんはインスタントカメラのようなものを手にしている。

「なんですか? それ」
「カメラです」
「わかってますけど……今時そんな……」
このスマホの時代にインスタントカメラなんて…… さすがは古物商とでも言うべきなのか。

14 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 21:59:41.539 ID:
「このカメラただのカメラではありませんよ。まずスマホに同期できます」
「はぁ……」
だからなんだって言うんだ。そんなの元からスマホでとればいい。

「では、早速撮ってみてください」
「いや、別にいいです」
「そう言わずに、ほら」
そう言って八重樫さんは私をテーブルまで引っ張った。

15 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:00:19.776 ID:
「ほらって、こんななにもないテーブルを撮ったって仕方ないじゃない」
「でしたら……あなたが食べたがっていたパンケーキを想像して撮ってみてはどうでしょう?」
「なに言ってるの? なにが悲しくてそんな虚しいこと……」
「いいから、ほら」
有無を言わさぬその態度に、私は仕方なくなにもないテーブルにカメラを向けた。

16 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:00:48.590 ID:
パンケーキ。
丸くてふわふわで、生クリームがかかってて、あとシロップも……

カシャ――

次の瞬間私は目を疑った。
そこには信じられらない光景があった。
私が撮ったなにもなかったはずの空間に、私が想像した通りのパンケーキが置いてあった。

「スマホ、確認してみてください」
戸惑う私に、八重樫さんは淡々と話す。
言われるままにスマホを取り出すと、アルバムには同じようにパンケーキが写っていた。

17 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:01:27.148 ID:
「驚きましたか?」
「何なんですか! これ!?」
一体私の眼の前でなにが起きたのか、見当もつかない。突然なにもない空間から、パンケーキが生み出された。どういう原理で?

18 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:01:59.509 ID:
「これは想像したとおりのものを、実際に生み出すことのできるカメラなんです」
「は?」
わけがわからなかった。
いや、実際に私の目の前で起きたことはその通りなんだけど、それでもそんなことがあり得るのか。
なにかのトリックじゃ……

「トリックではありませんよ。実際に食べてみては?」
私の心を読んだかのように、八重樫さんは話す。

そうしてパンケーキを口に入れると、それは紛れもなくパンケーキで、もう何が何だかわからなかった。

19 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:02:35.142 ID:
「どうですか?」
「おいしいけど…… 何なんですかこれ、一体どういう仕組みで……」
「べつにいいじゃないですか、仕組みなんて。ここにはそういうと不思議なものが時々流れ着いてくるんです。……それより欲しいですよね? それ」
「まあ」
欲しくないといえば嘘になる。
これがあればいくらでも、写真を投稿できる。

20 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:02:53.059 ID:
「差し上げます」
八重樫さんはことなげにそう言った。
「でも……高いんじゃ……」
「お代は結構です。その代わり一つだけ約束してください」
「約束?」

「このカメラで出したもの絶対に捨てないでください。食べ物ならしっかり食べ切る。化粧品なちゃんと使い切る。他のものも同様です。守れますか?」
そんな簡単なことで、このカメラをもらえるなら答えは簡単だった。
もらわないはずがない。

21 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:03:09.124 ID:
「では、どうぞ」
八重樫さんは少し不思議な笑みを浮かべて、カメラを渡した。

そうして私はこのカメラを手に入れた。

22 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:03:47.492 ID:MmBY9j4c0.net
ドーン!されそう
no title


23 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:04:10.646 ID:


このカメラを使えばどんな写真でも撮れた。
まずはじめにさっきのパンケーキ。
いいね!
クレープ、いいね! マカロン、いいね! チョコレート、いいね! ドーナツ、いいね! ステーキ、いいね! 串カツ、いいね!
食べ物だけじゃない。
バッグ、いいね! 口紅、いいね! ネックレス、いいね! イヤリング、いいね! 指輪、いいね!
いいね! いいね! いいね! いいね! いいね!

24 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:04:29.719 ID:
携帯を開けばいいね!の山が私を迎えてくれる。
なんて最高なんだろう。
心がどんどん満たされていくのが、よくわかった。

このカメラがあれば私はなんでもできる。
私は無敵だ。

25 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:05:04.232 ID:


「最近筆坂さん調子に乗ってない?」
「ああ、確かに~ なんかあれだよね、いろんなもの食べに行ったり、高級品買ったりね」
「でも、あれ一人で行ってるらしいよ。彼氏とも別れたんだって」
「ほんと! それでSNSで高級品自慢か~ 寂しい人生だねー」

26 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:05:24.684 ID:
ある日会社の更衣室から、後輩たちがそんな話をしているのが聞こえた。
何? 寂しいって、寂しくなんかない。
彼氏? あんなのこっちから振ったの。
なんで私が憐れまれるの?
ふざけないで。

彼氏なんか別に……いくらでも……
そうだ、いくらでもつくれる。

27 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:05:48.601 ID:
カメラを構えて、かっこよくて、優しくて、スタイルがよくて、そんな彼氏を想像する。

パシャ――

はい、彼氏の完成。
ほら、私のどこが寂しいの?
そんな想いを込めて彼との写真を、SNSに投稿した。

ほら、少しすればすぐにいいね!の山が……

28 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:06:18.973 ID:
おかしい。
どうして?
どうしていいねが来ないの?

少ない。全然足りない。こんなんじゃいいね!が足りない。
もっと、もっといいね!が欲しい。

ああそっか、こいつが悪いんだ。
こんな彼氏じゃ全然ダメ。

もう一回カメラを構えて、何度でも何度でも。
ほら、いいね!をもっと、もっと、私に……

29 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:06:46.862 ID:


これならきっと完璧だ。
七人目にしてようやく最高の彼氏。
それに最高の化粧品、服、宝石……

私にはなんでもある。
なんだってあるんだ。
私、いいね!

30 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:07:15.291 ID:
「約束、破りましたね」
突然声が聞こえた。淡々としたあの声。
振り向くと八重樫 桜がそこにいた。

31 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:07:41.981 ID:
「何の話? 別に私は……」

パチン――

と彼女が指を鳴らすと、見慣れた男が六人現れた。

32 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:08:07.277 ID:
「あなたが捨てた彼氏たちです」
「捨てたって、別にそんなつもりじゃ……」
そうよただ別れただけ。
「駄目です。言いましたよね、このカメラで出したもの最後まで捨ててはいけないと」
「だから何? それでどうしようっていうの? 何ならあなたにあげるわよ、そいつら。あんなとこで古物商なんてやってないで、幸せになりなさいよ」

33 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:08:25.549 ID:
「残念ですがお断りします。彼らの面倒は最後まであなたにみてもらいます」

パチン――

と、また彼女が指を鳴らす。
何だか意識がくらむ。

遠のく意識の中、彼女の冷たい笑顔がみえた気がした。

34 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:08:46.851 ID:


「おぎゃぁぁー、おぎゃぁぁー」
耳をつんざくようなうるさい声で、私は目を覚ました。

目を開くとそこには見慣れた天井がある。
どうやら自分の家まで帰ってきたらしい。

そうして辺りを見渡すと、そこにとんでもない光景が広がっていた。

35 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:09:10.319 ID:
「なに……これ……」
私の周りには七人の赤ん坊が、うるさく泣いている。

「あなたの彼氏たちですよ」
いつの間にか八重樫 桜がいる。
「は? なに言って――」
「赤ん坊になってしまいましたが、しっかり面倒をみてあげてくださいね? お母さん」

お母さん? 私が、なに言ってるの?
ふざけないで、そんなの絶対に嫌だ。

36 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:09:33.958 ID:
「何で私がそんなことしなきゃ……」
「ルールですから」
一切の笑みもなく彼女はそう言い放った。

「嫌よ、絶対に」
「駄目ですよ。もうあなたは七人の赤ん坊のお母さんなんですから。あなたが面倒みるしかないんですよ」

37 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:09:58.284 ID:
「そんな、どうして……」

「ほら、写真撮ってあげますよ、お母さん記念です。子育てブログでもやったらどうですか?
じゃあ撮りますよ。……はい、チーズ」

パシャ――

という音が耳に響く。

これからどうすればいいの?
絶望する私を、八重樫 桜はただ冷たい目で見ていた。

39 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:10:58.776 ID:


筆坂さんは残念でしたね。
せっかく道具を差し上げたのでのですから、もう少し上手く使って欲しかったのですが……

SNSはとても便利なものです。
正しく使えればの話ではありますが。

幸せを探さずに、幸せに見える何かを探すのは虚しいですよね。
いいね!の数は幸せの数ではありませんので、みなさんもどうかご注意を。

41 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:12:02.768 ID:
‪これでこの話はおしまいです‬
‪ここまで読んでくださった方がもしいたらありがとうございました‬

‪いまみたいな不思議な道具の話をオムニバス形式でお送りする「八重樫 桜は笑わない」をカクヨムにて連載中です‬
‪ぜひ読んでみてください‬
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882926885

‪何かありましたらツイッターまでお願いします‬
https://twitter.com/yuasa_1224

‪また前に書いた「最適な時間の戻し方」「十年前から電話がかかってきた」「夢で出会った子に恋をした」などもよろしくお願いします‬

※十年前から電話がかかってきた
http://www.2monkeys.jp/archives/49976269.html


38 : \(^o^)/でVIPがお送りします : 2017/04/15(土) 22:10:07.172 ID:ugqL813R0.net
自己満足の数