529:2012/12/13(木) 07:06:09 ID:


―8:00

幼母「ずいぶん早いのね」

幼母「出て行くのは、今日だった?」

幼「・・・ううん。明日・・・」

幼母「ああ、そうだったかしら」

幼母「でも学校には、もう行かなくていいんでしょう?」

幼母「どこかへ出かけるの?」

幼「あとで、少し・・・」

幼母「どこへ行くのもあなたの勝手だけど、わたしに迷惑だけはかけないでね」

男「ぼくには、幼馴染がいる」

529:2012/12/13(木) 07:06:09 ID:


―8:00

幼母「ずいぶん早いのね」

幼母「出て行くのは、今日だった?」

幼「・・・ううん。明日・・・」

幼母「ああ、そうだったかしら」

幼母「でも学校には、もう行かなくていいんでしょう?」

幼母「どこかへ出かけるの?」

幼「あとで、少し・・・」

幼母「どこへ行くのもあなたの勝手だけど、わたしに迷惑だけはかけないでね」
530:2012/12/13(木) 07:07:12 ID:
幼母「あの人とは正式に別れて、あなたとも他人になったけど・・・」

幼母「いまは立場上、わたしがあなたを預かっていることになっているから」

幼母「あなたが問題を起こしたら、わたしの責任になるの」

幼母「それくらいは、わかるわよね?」

幼「・・・・・・」コクリ

幼母「大事な時期なの」

幼母「わたしはね? あの人と一緒になって、女として幸せになりたいだけ・・・」

幼母「あなただって、一応女なんだから。そういうこと、わかってくれるでしょう?」

幼「・・・・・・」
531:2012/12/13(木) 07:08:05 ID:
幼母「あと一日、できればこの部屋でじっとしていて欲しいくらい」

幼母「お願いだから、馬鹿なことはしないでね」

幼母「少なくとも明日、あの人のところへ行くまでは・・・いいわね?」

幼「うん・・・」

幼母「それから念押ししておくけど、荷物はちゃんと全部片付けてね?」

幼母「あとで面倒くさいのは、勘弁してもらいたいから」

幼「・・・わかってるわ」

幼母「もしなにか忘れて置いて行っても、ゴミと一緒にするだけだから」

幼母「間違っても、こっちに戻ってきたりしないでちょうだいね?」

幼「うん・・・大丈夫・・・」
532:2012/12/13(木) 07:10:46 ID:
幼母「それじゃ、さようなら」スタスタ

幼「お母さん」

幼母「・・・あのね」クルッ

幼母「わたしは確かにあなたを産んだけど・・・」

幼母「もう、あなたの母親じゃないわ」

幼「っ・・・」

幼母「ずっと、必死に我慢してたの」

幼母「子育てなんて・・・!」
533:2012/12/13(木) 07:11:42 ID:
幼母「でも、まあ・・・」

幼母「あなたは、中でも外でも、それなりに『良い子』で助かったわ」

幼母「わたしの血が流れているだけあって・・・気には障ったけどね」

幼母「だから最後に、一つだけ忠告をしてあげる」

幼母「ダメな男に引っかからないように、注意しなさい」

幼「・・・・・・」

幼母「男、といったかしら?」

幼母「とても想われてるみたいだけど・・・」

幼母「それであなたの環境グチャグチャにしてたら、世話ないじゃない」
534:2012/12/13(木) 07:12:52 ID:
幼母「幼父だって、まだ仕事だけは人並み以上に出来たけどね?」

幼母「そういうのも、期待できなさそうだし」

幼母「やめておきなさい。将来性は、大切なことよ」

幼母「わたしのようになって、人生を無駄に消費することになるのが嫌ならね」

幼「・・・お母さんが・・・」

幼母「わたしのことを、お母さんと呼ぶのはやめて」

幼「お母さんが、どんなに変わってもね?」

幼母「変わったんじゃないわ!」

幼母「もともと、こういう風に思っていたの。ずっと前から・・・」

幼母「あなたのこと重荷だって。そう、心の中では思っていたのよ」
535:2012/12/13(木) 07:13:38 ID:
幼母「・・・わたしのところへ付いて来るって、あなたが言ったとき、正直勘弁してって思った」

幼母「小さい頃から、何か病気に罹ればいちいち医者に診せに行って・・・」

幼母「また何時かみたいに癇癪を起こされたら堪らないから、誕生日にプレゼントだってあげることにして・・・」

幼母「家のこととか・・・本当ならしたくもないことに、時間をたくさん費やしてきたのよ!」

幼母「あなたの母親でいることは、とても苦痛だった」

幼母「あなたがいなければ、わたしはもっと早くにあの人と別れることができたのよ!?」

幼「・・・・・・」

幼母「どうして黙っているの?」

幼母「わかる? あなたのこと、大嫌いだって言ってるのよ?」
536:2012/12/13(木) 07:14:30 ID:
幼「・・・うん」

幼「できれば、お母さんに愛してほしかったけど・・・」

幼「ごめんなさい。わたしの頑張りが、足りなかったのよね」

幼母「ッ・・・!」

幼母「あなたの頑張りがどうとか、そういうことではないわよ!」

幼母「いい!? 本当は、子供なんて産みたくなかったの!」

幼母「なのに・・・!」
537:2012/12/13(木) 07:15:10 ID:
幼「・・・それでも、やっぱり・・・」

幼「わたしのお母さんは、お母さんだけだよ」

幼母「・・・・・・」

幼「心配してくれてありがとう」

幼母「心配なんてしてないわ!」

幼「でもね・・・」

幼「男は、大丈夫だから」

幼「・・・もともとメチャクチャだったのよ」

幼「男がわたしに内緒で、お父さんとお母さんと話したせいでこうなったんじゃないわ」
538:2012/12/13(木) 07:15:45 ID:
幼「それでもね? それでも、誰かが悪いのだとすれば・・・」

幼「それは、わたしたち三人ともよ」

幼「好きでもないのに結婚した、お父さん」

幼「そんなお父さんとの子供を、産みたくないのに産んだ、お母さん」

幼「そして、必要じゃないのに生まれて来ちゃった・・・わたし」

幼母「・・・・・・わからない」

幼母「どうして、そういう考え方ができるの?」

幼母「誰に似たの? わたし? それとも、幼父?」

幼母「・・・いいえ、違う。幼馴染、あなたは・・・」

幼「・・・・・・」

幼母「・・・・・・あの、男の子・・・・・・?」
539:2012/12/13(木) 07:16:05 ID:
幼「わたしは・・・」

幼「お母さんのようには、ならないわ」

幼母「・・・・・・そう」

幼母「どうせ、他人のわたしには関係ないことよ」

幼母「そこまで言うのなら、好きにしたらいいわ」

幼「はい」

幼母「!」

幼「そうします」ニコ

幼母「っ・・・」
540:2012/12/13(木) 07:16:31 ID:
幼「こういうのって、親子喧嘩っていうのかしら」

幼「・・・初めて、できた」

幼「あのね、お母さん?」

幼「・・・お母さん、今日までね・・・」

バタン!!

幼「・・・・・・・・・」

幼「今日まで育ててくれて・・・」

幼「・・・ありがとうございました」ペコリ
541:2012/12/13(木) 07:17:45 ID:


―15:00

男「・・・・・・オフクロ」

男「行ってくるよ、ぼく」

男「『もし』とか『たら』とか『れば』とか・・・」

男「もう、そんな風に自分に言い訳はしない」

男「『時間は万能薬』って言葉は、もう忘れる」

男「幼が、自分は幸せだって、胸を張って言えるようにする」

男「それが、ぼくのしたいことだよ」

男「だからオフクロ・・・」

男「こんどはきっと、やり遂げるから」

男「空の向こうから、ぼくのこと見ててくれ」
542:2012/12/13(木) 07:18:22 ID:
・・・・・・

ゴソゴソ

男父「おう・・・行くのか?」

男「うん」

男父「そうか・・・」

男「ねえ、オヤジ」

男父「なんだ?」

男「ぼくさ、今まで自分のこと、あんまり好きじゃなかったんだ」
543:2012/12/13(木) 07:19:41 ID:
男「軟弱で臆病で、肝心なところで勇気が持てない」

男「勢いと口だけが達者の、見かけ倒しな子供・・・」

男「それだって、幼が行っちゃってからは、他人が決めたことにフラフラ付いてくだけになってさ」

男父「・・・・・・」

男「幼を見てて、いつも思ってたんだよな。不公平だなぁって」

男「おんなじ人間なのに、なんでこんなに違うんだろって・・・」

男「だから、こんど生まれ変わってくるときはさ。運動も勉強も出来て、スタイルもビシッとしててさ」

男「ぼくじゃない、ぼくに・・・」

男「幼みたいな人間に、絶対生まれ変わろうと思ってたんだけどさ・・・」

男「今はさ、つぎに生まれ変わってくるときも、また『ぼく』でいいかなって思ってるんだ」
544:2012/12/13(木) 07:20:34 ID:
男「勉強が出来なくても、運動が出来なくても、格好よくなくっても・・・」

男「幼は『ぼく』のことを好きだって言ってくれたんだ」

男「幼を好きになって、ぼく、自分のことも好きになれた」

男「人をさ、好きになるってことはさ、愛する人と一緒に・・・」

男「自分も変わろうと、祈ることなんじゃないかな」

男父「・・・・・・フフ」

男父「子は親の知らぬところで・・・、か」

男「なんのこと?」

男父「昨日は大人になれ、などと偉そうに言ったが・・・」

男父「親が思ってる以上に、子供の成長というのは目覚しいものだの」
545:2012/12/13(木) 07:20:54 ID:
男父「おまえはもう立派な、一人前の男だ」

男父「こりゃ、いつまで子供扱いしていたら、男母に怒鳴られるかもしれんな」ハハ

男「お、オヤジ・・・?」

男父「行ってこい。しっかりと、胸を張ってな」

男父「幼ちゃんを引っ張ってこい。それで・・・」

男父「誕生日パーティーの、やり直しをしよう」

男「・・・うん」

男「行ってきます!」

男父「ああ、行ってらっしゃい」ニコ
546:2012/12/13(木) 07:21:39 ID:


―15:30

幼「だいぶ、日が傾いてきたわね」

幼「もうすぐ、日が暮れる・・・」

幼「約束の時間まで、あと少し」

幼「・・・・・・」

幼「少し、早く来すぎちゃったわね・・・」

幼「・・・・・・男」

幼「・・・・・・」
547:2012/12/13(木) 07:22:18 ID:
幼「いろいろ、あったな・・・」

幼(わたし・・・)

幼「もう迷わないよ」

幼「男と一緒なら、わたしはなんでもできる」

幼「男と一緒なら、わたしはいくらでも変われる」

幼「だから・・・」

幼(ずっとそばにいてねって、言うね)
548:2012/12/13(木) 07:22:58 ID:
幼「男と初めて会ってから今まで、わたしがどういう風に考えてたとか、想ってたとか・・・」

幼「東京へ引っ越してからの、わたしのことも」

幼「みんな、知って欲しい」

幼(それで・・・)

幼「わたしの知らない男のことも、たくさん聞かせてね」

幼「みんな、教えてね」

幼(男・・・)

幼「早く、会いたいな」
549:2012/12/13(木) 07:24:27 ID:
コロン、コロン・・・

幼「? ボール?」ヒョイッ

子供「あっ!」

幼「・・・きみの?」

子供「ぅ、うん」

幼「はい」スッ

子供「!」

幼「失くさないようにね?」ニコッ

子供「ぁぅ・・・~~~!」トテテテ、ササッ

父親「こらこら、ちゃんとお姉ちゃんにお礼は言ったのか?」

子供「・・・・・・」モジモジ
550:2012/12/13(木) 07:25:07 ID:
父親「どうも、すいません」ペコ

幼「いえ、そんな」フルフル

幼「パパと、ボール遊びしてたのよね?」

子供「・・・」コク

幼「楽しい?」

子供「・・・!」コクコク

幼「ふふっ・・・」
551:2012/12/13(木) 07:25:50 ID:
幼「パパのこと、好き?」

子供「だいすきっ!」

父親「なんだなんだ? 家ではそんなこと言ってくれないのに」

子供「おやすみの日に、いっしょにそとであそんでくれるパパはすき!」

父親「オイオイ、現金なやつだなぁ」ハハ

幼「仲良しなのは、とってもいいことよ」ニコッ

子供「・・・・・・いっしょに、あそぶ?」

幼「え?」
552:2012/12/13(木) 07:26:41 ID:
子供「三人で、あそぼ・・・?」

幼「あ・・・でも、わたしは・・・」

父親「ほら、お姉ちゃんが困ってるぞ?」

子供「でも・・・」

子供「・・・あ! ママ!」

母親「二人とも、まだ遊んでたの?」

母親「夕飯の支度があるから、少しだけって言ったじゃない」

子供「ママ~っ!」ダキッ

父親「スマンスマン。この子が、あとちょっともうちょっとって、ねだるもんだからさぁ・・・」

母親「もう、甘いんだから・・・」クスッ
553:2012/12/13(木) 07:27:32 ID:
子供「ごはんできたの?」

母親「まだよ? これから作るの」

子供「なにつくるの?」

母親「今日は、子供の好きなハンバーグよ」

子供「わー! ママのハンバーグだいすきー!」

父親「・・・おまえだって甘いじゃないか」

母親「わたしはいいの、母親だから」フフン

父親「ずるいなぁ」ハハ
554:2012/12/13(木) 07:29:32 ID:
子供「ぼくもママのこと、てつだいたい!」

母親「あら、嬉しい。ほんとうに?」

子供「うんっ!」

母親「じゃあ、帰っておてて洗って、うがいしてからね?」

子供「はーい!」

幼「・・・・・・」

子供「おねーちゃん!」

幼「!」

子供「またねぇ~!」フリフリ!
555:2012/12/13(木) 07:30:11 ID:
母親「いつの間に、あんなにきれいなお姉ちゃんとお友達になったの?」

子供「さっき! ボール拾ってもらったのー!」

母親「あらあら・・・」クスッ

子供「こんどは、いっしょにあそぼーね!」

幼「・・・うん・・・」フリフリ

父親・母親「・・・」ペコリ
556:2012/12/13(木) 07:30:43 ID:
幼「・・・・・・」

幼「・・・・・・いいなぁ」

幼(わたしも・・・)

?「あんなだったらなぁ・・・って?」

幼「え? おと――」クルッ

バヂッ!!
557:2012/12/13(木) 07:31:59 ID:


―16:00

男「まだ、来てないか・・・」

男「一時間前・・・ちょっと、早かったかな」

男「・・・・・・」ゴソッ

男(六年前、引っ越していく幼を、ぼくは引き止められなかった)

男「ぼくがもっと、勇気を持てたら・・・」

男「・・・・・・」

男「これは、そいつの代わりだ」
558:2012/12/13(木) 07:35:07 ID:
男「幼が受け取ってくれたら・・・」

男「ぼくはもう、幼の手を離さない」

男「・・・・・・」

ピリリリリ、ピリリリリ!

男「携帯の着信・・・幼からかな?」ゴソゴソ

男「・・・後輩・・・?」

『家族って、そういうもの・・・なんですか・・・?』

『そんな勇気、ない!』

男「・・・・・・」
559:2012/12/13(木) 07:36:42 ID:
ピリリリリ、ピリリリリ!

ピッ・・・

男「・・・もしもし」

後輩『・・・・・・』

男「・・・どうした?」

後輩『出てくれないかと思いました』

後輩『電話・・・』

後輩『あたし、先輩にひどいこと・・・』

後輩『・・・あんなことしちゃったから』
560:2012/12/13(木) 07:37:12 ID:
男「ありがとうな」

後輩『え?』

男「お見舞い、来てくれたんだろ? ・・・果物、美味しかった」

後輩『そんな・・・』

男「ぼくの方こそ、悪かった」

男「ちゃんと拒まなきゃいけなかったんだ」

男「弱いから、誰かに甘えようとしてしまった」

男「幼から逃げようとした」

男「ひどいことをしたっていうのなら、一番はぼくだ」
561:2012/12/13(木) 07:37:53 ID:
後輩『・・・・・・先輩は、やっぱりすごいです』

後輩『とっても強い人です』

男「ちがうよ」

後輩『え・・・』

男「ぼくは、強くなんてない」

男「弱くて情けない、ダメな人間だ」

男「でもな? だからってもう、前に進むのを怖がったりはしない」

男「ぼくは何もできない、無力な子供かもしれないけど・・・」

男「何も出来ないんだと決め付けて、何もしなかったら・・・」

男「本当に何もできない。何も、変えられない」
562:2012/12/13(木) 07:40:00 ID:
男「そうやって、後悔ばっかり繰り返していたらさ」

男「自分のことも嫌いになっちゃうだろ?」

後輩『・・・・・・』

男「泣いて俯いて、ただ時間が痛みを忘れさせてくれるのを待つのは、もうゴメンだ」

男「忘れる努力も、忘れたフリも、もうしたくない。しない」

男「・・・話したことだって、そんなになかった」

男「ぼくばっかりが話して・・・いつだって幼は冷たかったって思ってたけど・・・」

男「それでも、ぼくの話はずっと聞いてくれていた」

男「会話はしなくても、幼はぼくを、自分の世界にちゃんと置いてくれてたんだ」

男「たまたまぼくしかいなかったから選んでくれただけだって、そうは思わないから」
563:2012/12/13(木) 07:40:23 ID:
後輩『・・・先輩のウソつき』

男「え?」

後輩『先輩は、弱くなんてないです。情けなくなんて・・・』

後輩『誰かのために、頑張り続けることが出来る人です』

後輩『強くはなくても・・・』

男「・・・・・・」

後輩『あたしも、もっと早くに気付けてたら・・・』

後輩『それで、自分の気持ちにウソつかなかったら・・・』

後輩『先輩みたいに、頑張れたかな?』
564:2012/12/13(木) 07:41:18 ID:
男「・・・終わったことみたいに言うなよ」

男「覚えてるか?」

後輩『・・・なにをですか・・・?』

男「初めて会った時のこと」

男「あの大会の応援、友に連れられて行ったんだよな」

男「あの時、友と後輩と・・・二人の話す姿を見てさ」

男「幼のこと、思いだしたんだ」
565:2012/12/13(木) 07:42:05 ID:
男「ショックだったよ」

男「ぼくはもう、忘れることが出来たって思ってたから」

男「・・・羨ましいって」

後輩『先輩・・・』

男「友は、後輩のことずっとからかってたけど・・・」

男「きっと友なりに、後輩のことを心配してたんじゃないかな」

後輩『友ちゃんが、あたしのことを・・・?』

男「後輩は、そんな風には思えないか?」

男「ぼくよりも、ずっとずっと付き合いは長いはずだろ?」

後輩『・・・・・・・・・』
566:2012/12/13(木) 07:42:58 ID:
男「ありのままの気持ちを伝えることって、簡単じゃないよな」

男「すごく力の要ることだと思う」

男「少なくともぼくは・・・」

男「好きだって。たった一言を言うのに、何年もかかった」

男「後輩はどうだ?」

後輩『あたしは・・・?』

男「友に、好きだって言うんだ」

後輩『言えないよ・・・そんな勇気、あたしには・・・』
567:2012/12/13(木) 07:43:50 ID:
男「勇気ってさ」

男「きっと、みんなが持ってるものなんだよ」

男「『使う』か『使わない』かっていう選択肢が、あるだけなんじゃないか、って・・・」

男「ぼくもたったいま、そう思ったんだけど」

後輩『・・・・・・』

男「・・・緊張してたよな」

後輩『?』

男「ぼくは覚えてる」

男「あの時、一人になった後輩が、小さく震えながら漏らした言葉」

男「『なんであたし、こんなところにいるの?』って・・・」

後輩『・・・・・・』
568:2012/12/13(木) 07:44:38 ID:
・・・・・・

男「キミが望んだから、ここにいるんじゃないの?」

後輩「だって、みんなが・・・周りがそうしろって言うから」

男「水泳、嫌いなの?」

後輩「・・・わかりません」

後輩「昔は好きでした。でも今は・・・」

後輩「・・・なんであたしは、こんなに頑張らなきゃいけないんだろ」

後輩「ずっと一人きりで・・・」

後輩「目標もなくって、流されるだけで・・・」
569:2012/12/13(木) 07:45:26 ID:
男「・・・・・・」

後輩「一人で頑張るのって、辛いです」

後輩「・・・辛いですよ・・・」

男「・・・・・・」

男「誰かのために・・・じゃないのかな」

後輩「え・・・・・・」

男「応援に来てくれた友達でも、家族でも・・・」

男「憧れにしてる選手でも、水泳教室のコーチでも、顧問の先生でも・・・」

男「一人で頑張るのが辛いなら、目標がないなら」

男「これからは、誰かのために頑張ってみたらどうかな」

後輩「だれかの・・・」
570:2012/12/13(木) 07:45:50 ID:
・・・・・・

男「あの時、後輩は『誰のために』頑張ったんだ?」

後輩『あたしは・・・・・・』

男「それが、後輩の勇気じゃないか?」

後輩『・・・・・・』

後輩『・・・海に』

後輩『海に、行ったんです。小さい頃、あたしたち』

後輩『友ちゃんの家族と、あたしの家族とで・・・』

後輩『・・・楽しかったなぁ・・・』
571:2012/12/13(木) 07:46:14 ID:
後輩『友ちゃんと、一緒に泳いで・・・』

後輩『泳ぐの上手だねって、褒めてくれたの』

後輩『すごいねって・・・』

後輩『・・・・・・だから、あたしは・・・・・・』

後輩『・・・・・・』

後輩『あはは・・・単純だなぁ』

男「きっと、そういうものだよ」

男「・・・幼馴染ってさ」
572:2012/12/13(木) 07:47:20 ID:
後輩『先輩。あたし、言います』

後輩『友ちゃんに、好きって』

男「・・・うん」

後輩『もしダメだったら・・・』

後輩『抱きしめて、慰めてくれますか?』

男「は?」

後輩『・・・なぁんて、冗談ですよ』

男「そういう冗談は・・・!」

後輩『はい、ごめんなさい』
573:2012/12/13(木) 07:47:56 ID:
男「・・・・・・」

後輩『あの人にも・・・』

後輩『幼馴染さんにも、ちゃんと謝りたいです』

後輩『許してくれなくても』

男「・・・・・・そうだな」

男「こんど、一緒に謝ろう」

後輩『・・・・・・はいっ』
574:2012/12/13(木) 07:48:27 ID:
後輩『これから、幼馴染さんと会うんですか?』

男「うん。17時に公園で待ち合わせなんだ」

後輩『そうですか・・・』

後輩『あたし、応援してます』

男「ありがとう」

後輩『それじゃあ、そろそろ・・・』

男「うん・・・って、・・・え?」

後輩『先輩? どうかしました?』
575:2012/12/13(木) 07:48:48 ID:
男「これ・・・・・・」

男「幼の携帯だ。なんで、こんなところに落ちて・・・」

後輩『携帯電話が、どうかしたんですか?』

男「公園に落ちてたんだ。これ・・・」ピッ

男「! 間違いない、幼のだ・・・先に来てたんだ!」

男「・・・もしかして、なにかあったんじゃ・・・!?」

後輩『先輩、落ち着いてください!』

後輩『なにか、心当たりはないんですか?』
576:2012/12/13(木) 07:49:02 ID:
男「心当たりって言っても、幼の東京での交友関係なんてわからないし・・・!」

男「でも、少なくともこっちに戻ってきてからは、ずっとぼくと一緒で・・・!」

男「だれかの恨みを買うことなんて・・・!」

男「それに、もう明日にはここから引っ越すんだぞ!?」

後輩『そ、そうですけど・・・』

男「・・・・・・・・・だから、か?」

後輩『?』

男「明日にはもう、居なくなってしまうから?」
577:2012/12/13(木) 07:49:19 ID:
男「でも、そんなことどうやって?」

男「学校? いや、引越しの日程なんて学校だって・・・」

男「知ってるのは、ぼくとオヤジと・・・幼の両親」

男「それに、オヤジから事情を聞いた後輩だけ」

後輩『・・・・・・あの、先輩』

男「なんだ?」

後輩『実は、友ちゃんも・・・』

男「友も?」
578:2012/12/13(木) 07:50:18 ID:
後輩『友ちゃんから訊かれたんです・・・メールで』

後輩『幼馴染さん引っ越すって本当か、いつなんだ、って。だからあたし・・・』

後輩『ごめんなさい、勝手に・・・』

男「いや・・・けど、友が?」

男「なんで引っ越すことを知って・・・」

後輩「学校で訊いたんじゃないですか?」

男「でも、日程まで気にするなんて・・・」

男「たしかに、友には幼のこと訊かれたことがあったけど・・・」

男「・・・・・・」

男(あの時、友はぼくになんて訊いた?)
579:2012/12/13(木) 07:51:03 ID:
男「・・・・・・後輩・・・・・・」

後輩『はい』

男「教えてくれ」

男「友の両親は、離婚するって言ったな?」

後輩『はい。でも、それがなにか・・・』

男「原因は?」

男「仲が悪いって言ってたけど、それだけじゃないだろ?」

男「なにか・・・・・・」

男「決定的な理由が、あったんじゃないのか?」
580:2012/12/13(木) 07:52:25 ID:
後輩『あたしも、詳しいことは・・・・・・ただ』

後輩『友ちゃんのお父さんが、他の女の人と、その・・・不倫していたみたいです』

後輩『それがバレて・・・』

男(不倫・・・愛人・・・離婚・・・?)


   『俺のは単に・・・・・・プライベートな問題だよ』

            『自分では、もう・・・・・・手が付けられないほどにさ』

『幼さんのお母さんって、どんな人なんだ?』

                        『会社の上司よ』

              『相手の家庭を壊してまで、自分の願望を優先するのか』

      『友ちゃんのお父さんとお母さん・・・離婚するんだって・・・』
581:2012/12/13(木) 07:52:46 ID:
男「そんな・・・」

後輩『先輩? 友ちゃんが、どうかしたんですか?』

男「・・・まさか」

男「・・・・・・」

後輩『先輩? 先輩!?』

男「・・・・・・・・・友」
582:2012/12/13(木) 07:53:13 ID:


―16:30

幼「・・・・・・」

友「事情がわからないって顔してるな」

友「でも、混乱してるわけじゃなさそうだ」

友「落ち着いてる。もしかして、こういう経験アリ?」

友「それとも母親に似て、神経図太くできてんのかね」

幼「・・・・・・」
583:2012/12/13(木) 07:54:09 ID:
友「ここさ、見晴らしいいだろ?」

友「坂をガッツリ登ったトコにあるし、周りに建物ないから、町がよーく見えんだ」

友「それに、あそこ・・・ペンギンのオブジェわかる?」

友「あの周り、だいたい20メートル四方くらい?」

友「昇降式になってて、毎日決まった時間なると持ち上がるんだ」

友「さすがに展望タワーとはいかないけど、あれが上がりきった先の風景が、すごい好きなんだよね」

友「幼馴染さんも昔はここに住んでたんなら、知ってたかな?」

幼「・・・・・・」
584:2012/12/13(木) 07:54:32 ID:
友「ほら。あそこが、俺たちが通ってる学校」

友「・・・じゃなかった。通ってた、だな」

友「ここからこうして見ると、感慨深くならない?」

幼「・・・・・・」

友「小さい頃から、嫌なことがあるとココに来てたよ」

友「ここでボーっと町を眺めてると、色んなことがどうでもいいやって思えてさ」

友「ま、現実逃避だけどな」

友「べつに、いいよな。誰だって、苦しいことからは逃げたいだろ?」

友「嫌な事は嫌だし、したくない事はしたくない」

友「幼馴染さんだってそうだろ?」

幼「・・・・・・」
585:2012/12/13(木) 07:54:53 ID:
友「なんか、俺が喋ってばっかりだな」

友「口は自由にしてあるから喋れるだろ?」

友「ただ、一番初めにも言ったけど・・・この辺、人住んでないから」

友「大声上げても意味ないぜ」

幼「・・・・・・」

友「それでも、叫んだら布でもガムテープでも噛ませないとならなくなる」

友「ああ、それともアレ? 俺とは喋りたくないってやつか」

幼「・・・・・・」
586:2012/12/13(木) 07:55:38 ID:
友「そんなに嫌わないでくれよ」

友「俺たち、兄妹みたいなもんじゃん?」

友「それに、被害者同士だ」

友「親に振り回された、さ・・・」

友「仲良くできると思わねえ?」

友「男となんかより、ずっとさ・・・」

幼「・・・あなたは、男と一緒に居た・・・」

友「そうそう。なんだ、ちゃんと覚えてたのか」
587:2012/12/13(木) 07:56:06 ID:
友「あん時はビビったよ」

友「俺を・・・家族をメタクソにした糞親父の、不倫相手の子供が目の前にいたんだから・・・」

幼「・・・!」

友「さすがに今のこと言ったらわかるよな」

友「・・・つまりそういうこと」

友「あんたの母親と、俺の糞親父が不倫してんの」

友「不倫っていうか・・・ナニ? 結婚すんだって?」

友「はっはっはっは・・・・・・」

友「ふざッ、けんじゃねえッ!!」

幼「!?」ビクッ
588:2012/12/13(木) 07:56:23 ID:
友「たしかによ、仲睦まじいってわけじゃなかったけどよ?」

友「それでも、それなりに普通の家族やってたんだよ・・・そのはずなんだよ!」

友「それが・・・!」

友「突然そんなこと言われたってよ!? ハイソウデスネってわけにいくか!?」

友「そのことが発覚してからは、毎日毎夜顔つき合わせるたんびに、けんかケンカ喧嘩!」

友「おんなじやり取り繰り返してばっかりで・・・」

友「そのうち、メシだってロクに作りゃしなくなって・・・!」

友「俺はいいさ。自分の食い扶持くらいはバイトで稼いでる」

友「でも妹は・・・!」
589:2012/12/13(木) 07:56:58 ID:
友「毎回、揉めてる二人の間に割って入って・・・」

友「やめて。仲良くしてよって・・・」

幼「っ・・・!」

友「バカだ。そんなもん、まともに聞いてくれるわけねぇのによ・・・」

友「案の定・・・二人は、どうしたと思う?」

幼「・・・・・・」

友「あんたのせいだ、お前のせいだって、こんどは妹を責めるんだ」

友「たった一人の妹だ。そうなりゃ、俺が庇ってやるしかねえじゃねえか」
590:2012/12/13(木) 07:57:46 ID:
友「糞親父には殴られ、母親には手当たり次第に物を投げつけられて・・・」

友「毎日・・・! 毎日だぞ!?」

友「枕もオジャンになったから、買い換えて・・・」

友「なあ、教えてくれよ」

友「俺が何をした? 妹が何をしたんだ?」

友「それが親のすることか?」
591:2012/12/13(木) 07:57:58 ID:
友「・・・ただまあ・・・」

友「俺は、思いの他早く順応できたんだろうな」

友「そのうち、二人のことなんて何とも思わなくなった」

友「親だとは思わないことにした」

友「妹のことは、後輩に押し付けた」

友「・・・あいつには、感謝してもしきれない」

幼「・・・・・・」
592:2012/12/13(木) 07:59:11 ID:
友「それから俺は、調べることにした」

友「相手の女のことだ・・・人の家族を平気で壊そうとするくらいだから、まともな神経の持ち主じゃないと思ってたが・・・」

友「俺の知りたいことは、糞親父の携帯とか見ても、ちっともわかりゃしなかった」

友「わかったのは、名前とケーバンだけ」

友「なもんだから、興信所に依頼することにした」

友「利用すんのは初めてだったし、それまではこんなトコにお世話になる機会なんて、人生であるわけないって思ってたのにな」

友「まあ、とにかく。言われた金だけ用意したら、きっちり調べてくれたよ」

友「住所に年齢、血液型、職歴に血縁関係・・・」

友「結婚して、子供がいること」
593:2012/12/13(木) 07:59:40 ID:
友「べつに何とも思いやしなかったよ」

友「今年18になる一人娘がいるんだなってだけ・・・」

友「ああ、相手の女にもちゃんと家族があるんだって。そんだけ」

友「べつにその時から、こんなことしようとか考えてたわけじゃないんだぜ?」

友「向こうは東京・・・住んでるところだって離れてるわけだしな」

友「何より傑作だったのは、旦那の方も浮気してるっていうじゃねえか」

友「こりゃ俺が何もしなくても、すっかり壊れてると思ったわけ」

幼「・・・・・・」
594:2012/12/13(木) 08:00:11 ID:
友「で、だ・・・」

友「大金払って調べて貰ったあと、なにか違うと思った」

友「スッキリしない・・・喉の奥に、小骨が刺さったような不快感だ」

友「調べたのはただの好奇心だったはずだし、俺は二人のことは、とうに親だなんて思ってなかった」

友「じゃあ、なぜかって・・・ずっとわからないままだったんだが・・・」

友「あんたの顔を見て、やっとわかった」

友「あの瞬間、これは『運命』だと思った」
595:2012/12/13(木) 08:00:32 ID:
友「俺は、わからせてやらなきゃいけないんだって」

友「俺らのこと見向きもしない、親の義務を放棄したクズ共に・・・」

友「『おまえらとんでもねぇことしてんだぞ』って」

友「だからさ、あー。今更になるけど、俺はあんたのこと恨んでるとかじゃないぜ?」

友「母親のこともな・・・」

友「ただ、なんつうの? 理解は出来ても、納得は出来ないんだよな」

友「自分のことばっか延々と・・・大人だってんならよ、責任取らないと」

友「子供産んじまった責任だよ。そうだろ? なあ?」

友「というわけだからさ、協力してくれよ」
596:2012/12/13(木) 08:01:08 ID:
幼「協力・・・?」

友「取り当たっては、写真を取らせてほしい」

友「出来れば裸がいいんだが・・・どうしても嫌なら、下着でもいい」

幼「なッ・・・。なんで、わたしがそんな・・・!」

友「そいつをさ、この町中にばら撒く」

友「あとは、二人の職場にも大量に送ってやるんだ」

友「適当に煽り文でも添えてさ」

友「援交してます、でも。レイプされました、でもいい」

友「あの二人が、二度と外を歩けないようにしてやるんだよ」
597:2012/12/13(木) 08:01:28 ID:
友「いくら籍を出て、他人になったってさ・・・子供を産んだ事実はなくならないんだ」

友「本人が他人ですって喚いたところで、世間はそう認識しない」

友「血の繋がりってのは、そんな簡単に切って消えるもんじゃない」

友「ああ。もちろん、写真のデータは責任を持って消すぜ?」

友「送った分とか、ばら撒いた分はどうしようもないけどな」

友「お互い引っ越すんだし、顔はわからないように細工するし、大丈夫だって」

幼「・・・・・・イヤ」
598:2012/12/13(木) 08:02:02 ID:
友「あんただって、親のすることに納得なんてしてないだろ?」

友「そうだよな? でなきゃ、さっきの親子を、あんなに羨ましそうに見たりしないもんな」

友「腹が立たないのか? 遣る瀬無いだろ? どうにかしてやりたいって思わないか?」

幼「思わない」フルフル

友「どうして? あんたなんて、片親どころの話じゃないじゃないか」

友「あんな家で・・・ぶっ壊れた家族の中で、ずっと一人だったんだろ?」

友「親らしいことなんて、一つもして貰えなかったんじゃないのか?」

友「なのによ・・・」
599:2012/12/13(木) 08:03:33 ID:
幼「してもらったわ」

幼「誕生日、お祝いして貰ったもの」

友「は? そんなもの・・・」

幼「そんなものが!」

幼「わたしには、大切なことなの・・・!」

幼「他の人は当たり前だって思うことが、わたしには特別なことなの!」

幼「嫌なこととか、苦しいことだってたくさんあったけど・・・」

幼「それでも・・・っ、それだけじゃなかったから・・・」

幼「楽しくて、嬉しかった思い出だって、わたしにはあるんだもの・・・っ」

幼「幸せだって思ったことが、ちゃんとあったもの!」
600:2012/12/13(木) 08:04:42 ID:
幼「・・・お父さんとお母さんが、わたしのこと嫌いでも・・・」

幼「わたしは、二人のこと嫌いになんてなれない・・・なれないよ!」

幼「恨んだりなんて・・・っ」

幼「だって・・・」

幼「二人は、わたしのお父さんとお母さんだもん」

幼「代わりなんてどこにもいない・・・」

幼「これからもずっと、わたしのお父さんとお母さんだから・・・っ」

幼「あなただって!」

友「違う!!」
601:2012/12/13(木) 08:05:23 ID:
友「親がするべきことをしてないんだ!」

友「誰が親だなんて思うかよ!」

友「あんなヤツらと同じ血が流れてるかと思うと、反吐が出る・・・ッ」

幼「・・・・・・」

友「でも、幼馴染さんがそこまで言うなら・・・」

友「いいよ、わかったよ」

幼「じゃあ・・・!」

友「俺のやりたいように、やらせてもらう」

幼「!?」
602:2012/12/13(木) 08:05:56 ID:
友「実のところ、幼馴染さんがYESって言ってくれる気はしなくてな」

友「騙したようで悪いんだけど、初めからこうするつもりだった」

幼「こうする、って・・・」

友「幼馴染さん引っ越すって言うからさぁ、急がないとダメだろ?」

友「安直かもしれないけど、幼馴染さんは女だし定番かなって」

友「ただ、今日の今日まで、自分でそれを実行する踏ん切りがつかなくってさ」

友「まあ、なんだ。幼さんに色目は使わないって、男に言った気がするし」

友「人をたかって、そいつらに犯ってもらうことにしたよ」

幼「な・・・っ」
603:2012/12/13(木) 08:06:39 ID:
友「・・・せっかく男に言ってやったのによ」

友「目を離すなって。友人の忠告を無視するから・・・」

友「・・・こんなことしちまったら、もうダチでも何でもねえか」

友「せめてもの罪滅ぼしってわけじゃないけど・・・」

友「事が済んだら、俺は警察に行くよ。自首する」

友「それで幼馴染さんの気が晴れるとは、到底思わないけどな」ゴソゴソ

友「・・・ほら、これで歩けるようになったろ」

友「さ、移動しようか」グイッ

幼「・・・と、・・・」ボソ
604:2012/12/13(木) 08:07:28 ID:
友「ん? なんて?」

幼「お・・・とこ・・・っ」

友「ああ、男?」

友「来るわけないだろ」

友「俺がこの場所によく来るなんて、教えたことないし・・・」

友「それに、知ったって来れねえよ、アイツは」ハハ

友「たかが幼馴染一人のためによ」

幼「くるもん・・・」
605:2012/12/13(木) 08:08:35 ID:
幼「おとこは、くるもん・・・っ」

幼「ヒーローなんだから!」

友「ヒーローって・・・あいつが?」

友「ははっ、そりゃなんの冗談だ?」

友「俺は小学生以前のあいつのことは知らないけどさ」

友「中学に入って、初めて知り合った時の第一印象は『暗いヤツ』だったよ」

友「何をするにも人の顔色を伺うし、付き合いは悪いし、とにかく自分に自信がない」

友「それでも、波長っていうの? 不思議と居心地悪くなかったんで、つるむ機会もそこそこあって・・・」

友「ある日、聞いたんだ」
606:2012/12/13(木) 08:09:45 ID:
友「自分には幼馴染がいて、その子のことが好きだったのに、何も言えないまま離れ離れになった」

友「その事を、ずっと後悔してるって」

幼「・・・!」

友「呆れたね」

友「女なんて、星の数ほどいるってのに。その中の、たった一人のためにさ」

友「・・・・・・でも・・・・・・」

友「そういうこと言えるヤツだから、ダチになれたのかもな・・・」

友「俺も、あいつみたいに言えたらって・・・」

友「・・・まあ、もう遅いけどな」
607:2012/12/13(木) 08:11:11 ID:
幼「たす、けて・・・」

友「はは・・・そうだな。いいや、呼んでみたら?」

幼「助けて・・・っ、男・・・!」

友「ぜんぜん聞こえねえぞ?」ハハ

幼「助けてぇ! 男ぉっ!」

友「ほら、もっと大きな声で叫ばないと」

幼「っ・・・~~!!」

幼「たすけてっ、男ぉーーー!」

友「そうそう、その調子その調子」
608:2012/12/13(木) 08:12:11 ID:
幼「おとこぉーーーっ!!」

・・・

友「・・・ほら見ろ。来るわけないだろ?」

・・・ぁ

幼「!」ピクッ

ぉ・・・ぁ・・・

友「来るわけ・・・ないんだよ」

・・・さな・・・ぁぁぁ
609:2012/12/13(木) 08:12:53 ID:
幼「・・・っ、ぅ、ひっく・・・!」

友「くる、わけ・・・」

おさ・・・ぁぁっ

友「そんな、まさか・・・」

おさなぁぁぁぁッッ

友「男!?」
610:2012/12/13(木) 08:14:28 ID:




男「幼ぁぁぁぁぁっっ!!」

友「まさか本当に・・・男!?」

友「どうしてこの場所が・・・!」

友「くそっ、来い!」グイッ!

幼「ぁぅ・・・!」

男「!? 幼ーーーーッ!!」
611:2012/12/13(木) 08:15:22 ID:
友「まだ、ここに着いてから三十分も経ってないだろ!?」

友「どうやって追いついて・・・!」

友「あんな・・・ッ」

友「たかがママチャリでか!?」

男「ママチャリじゃない!」

男「トライマグナムシャイニングスピンソニック号・・・ッ」

男「だあああああっっ!!」バッ
612:2012/12/13(木) 08:16:09 ID:
飛び上がる。
扱ぎ手を失った自転車が、速度に乗ったまま、友の進行方向へ滑る。

友「・・・ッ!!」

途中、小石によってタイヤを跳ね上げられた自転車が、勢いはそのままに傾きながら友の右側へ倒れこむ。

友「!?」

友が、半身を引いて躱す。

自転車はそのまま、金属音を立てながら地面の上を小さく滑った。
前輪が、カラカラと空回る。

体勢を崩した友が、尻餅を。

その向こうに、彼女の姿。
613:2012/12/13(木) 08:18:01 ID:
男「幼ッ!!」

一歩。

友「・・・・・・」

遮るように。

男「・・・幼!」

幼「お、おと・・・こ」ポロポロ

男「ぼくはきたよ!」

幼「・・・、・・・っ」コクコク!

ぐらっ。
地面が小さく揺れた。
昇降機が作動し、ぼくたち三人の立つ足場が持ち上がる。
隅から囲むように、安全保護用の鉄柵がせり出す。

――――17:00
614:2012/12/13(木) 08:19:56 ID:
男「友・・・」

男「どうして・・・!」

男(幼に、こんなことをしたんだ!?)

男「どうして・・・!」

男(ぼくたちは、こんなことになっちゃったんだ!?)

友「男・・・」
615:2012/12/13(木) 08:20:43 ID:
友「人生に、理不尽や不公平を感じたことはないか?」

友「わけもわからないまま、状況に揉みくちゃにされる」

友「否が応にも従わざるを得ない」

友「抗うことは決して出来なくて・・・」

友「最悪というものがあったとして、まさにそこに行き着くように全てがお膳立てされるような・・・」

友「言い換えるなら、運命といっていいもんだ」

男「運命・・・」

友「俺はある。あるんだよ」
616:2012/12/13(木) 08:21:24 ID:
友「俺たちに、選択権はない」

友「いつだって、『選択させられる』のが俺たちだ」

友「俺たち《子供》とあいつら《親》と・・・なにがちがう?」

友「同じ人間のはずだ。平等であるべきだろ?」

友「理不尽には、怒りを覚えるのが人間なんだ」

友「嫌なことに嫌だと言って、何が悪い?」

友「どうにも出来ないのなら、せめて仕返しをしようと思うことの、何が悪い?」
617:2012/12/13(木) 08:21:59 ID:
友「向こうだって好き勝手やってるじゃないか」

友「それに倣うことの、何が悪い?」

友「俺は間違ったことはしていない」

友「親の都合なんて関係あるか!」

友「これは、個人が持つ正当な権利だ!」

友「なのに・・・それをおまえが邪魔する理由はなんだ?」

友「俺はな、正しい事をしているんだ!」

友「おまえだって、そう思うだろう!?」
618:2012/12/13(木) 08:24:07 ID:
男「・・・友は、いま幸せなの?」

男「ぼくは、比べてばかりだったよ」

男「けど、これからは胸を張ってそう言いたい」

男「もう・・・さよならはたくさんだ」

男「友が正しいのか間違ってるのか、ぼくにはわからない」

男「でも、一つだけ。たしかに言えることがある」

男「現実を受け止められなかったのは、自分の責任だ」

男「誰の責任でもない。そう、親は関係ないよ」

男「逃げ出したのは、友が弱かったからだ」
619:2012/12/13(木) 08:25:30 ID:
男「ぼくはもう、子供でいることはやめる」

男「大人になるんだ。すぐにはなれなくても・・・」

男「これからは、そうなるための努力をしていく」

男「・・・理由?」

男「惚れた女を助けに来るのに――」





男「理由がいるもんかぁぁぁぁッ!!」
620:2012/12/13(木) 08:26:13 ID:
幼の元へ駆ける。
力強く。
友も、こちらへ向かってくる。
手にはスタンガン。

ぼくは、自分を過小評価も、過大評価もしない。
だから。

男(こういうことだってやってみせる!)

掴みあげる。
倒れた自転車のハンドルを。

そのまま、力任せに――。

男「あああああッ!」

友「な――――!?」
621:2012/12/13(木) 08:26:38 ID:
投げつけた自転車が、正面から友の体を薙ぎ倒す。

一歩。

男(友、幼を泣かせたな!)

男「この一発は・・・ッ」

男「謝らないぞ!」

腰を屈めて、思い切り。
殴られたことはあっても、殴った事なんてないから、加減なんて利かない。

そして、一歩。

彼女は、もうすぐそこだ。
622:2012/12/13(木) 08:27:33 ID:
男「幼っ・・・!」ギュッ

幼「おとこ・・・ひっく、おとこ、男ぉ・・・!」ポロポロ

幼「・・・こわかった・・・こわかったよぉ・・・っ」

男「大丈夫。もう、大丈夫だ!」

男「どこも怪我はない!? いま、手を自由にするから!」

幼「来てくれるって、信じてた・・・っ、男・・・!」

男「よし、解けた! あとは――」

幼「――!? 男、うしろ・・・っ!」

男「え?」

バヂッ!!
623:2012/12/13(木) 08:29:13 ID:
男「ぎッ、ぁ゛・・・~~!?」

友「べつに、謝らなくていいぜ・・・」

男(いたい・・・いたいイタイ痛い!)

友「謝るのは、むしろ俺のほうだ」

友「悪いな。ヒーローごっこは、これで終わりだ」

男(やっぱり、漫画やドラマのようにはいかないか・・・)

ヂヂヂッ・・・!

男(くそォ・・・!)

幼「っ・・・~~~!!」


―ただ泣いて、ヒーローの助けを待つだけのヒロインは・・・!
624:2012/12/13(木) 08:30:02 ID:
幼「! だめえええぇぇッ!!」

幼が、友に頭からぶつかってゆく。

友「!? 何を・・・!」

男(! う、ご・・・ッ)

男「けええええええッ!!」

幼の首筋にスタンガンを押し当てようとする友に、もたれ込むようにして体当たりする。

友「なんで・・・ッ!?」

幼「男・・・っ!」

男「幼・・・っ!」

男・幼「あああああああぁぁーーーッッ!!」
625:2012/12/13(木) 08:31:18 ID:
幼は左腕。
ぼくは、スタンガンを握る友の右腕に絡み付いたまま。
二人で体を持ち上げるようにして、友を押し退けていく。

目を瞑って、力の限り、ひたすらに。

衝撃。
友の背中が、鉄柵にぶつかる。
すかさず、友の手に組み付いて、スタンガンを取り上げようとする。

友「! くそったれぇッ!」ドガッ

男「ぐ・・・っ!」

脇腹を、思い切り蹴り飛ばされて転ぶ。
友の手から零れたスタンガンを、目で追いかける。
まだ痛みが尾を引く体に鞭打って駆け寄り、鉄柵の向こうへ蹴り飛ばす。
626:2012/12/13(木) 08:32:41 ID:
友「! この・・・ッ」

男「幼、もういい! こっちに・・・!」

幼「だめ!」

幼「離さない・・・!」

幼「わたしが離したら、この人はまた一人だもの!」

友「!?」

男「幼・・・」

友「・・・はなれろ・・・」

友「離れろおおおッ!!」ブンッ
627:2012/12/13(木) 08:33:45 ID:
幼「きゃあッ!」ガンッ

男「幼!」

鉄柵に頭をぶつけた幼が、力を緩める。
それでも友は、腕を振り回す。

その結果――。

幼「―――ぇ」

幼の体は、鉄柵に乗り上げて。

友「ぁ・・・・・・?」

そのまま、下へ。

友「―――!」

友が手を伸ばすが、裾を掠めただけ。

幼の顔が、ぼくの視界から。
628:2012/12/13(木) 08:37:08 ID:
男「―――!!!!」

反射的に、ぼくは飛び出した。

鈍い痛みは、一瞬で吹き飛んだ。
躊躇うことなく、鉄柵の向こうへ飛び降りる。

幼「・・・! ・・・!」

男「掴めッ!!」

幼の目が大きく開き、涙が溢れる。

両手が伸びた。

必死に手を伸ばす。

手繰り寄せる。

幼の頭を抱え込むようにして、抱きしめる。

強く、抱きあった。
629:2012/12/13(木) 08:37:44 ID:
・・・・・・

幼「男・・・っ、男・・・!」

幼「ねえ、返事してよぅ!」

男「・・・聞こえてるよ、幼・・・」

幼「!? 男・・・!」

幼「ぅ・・・、ぁ・・・っ」

幼「ぁ~~~~っっ!!」ガバッ

男「・・・怪我は、ない?」

男「・・・痛いところは・・・?」
630:2012/12/13(木) 08:38:36 ID:
幼「あちこちぶつけて、すごく痛いけど・・・」

幼「わたしは、ぜんぜんへいき」

幼「男が、庇ってくれたから・・・っ」

男「そっか・・・」

男「・・・よかったぁ・・・」ニコ

幼「でも、男が・・・!」

幼「たくさん、怪我して・・・っ」

幼「み、みぎうで・・・いっぱい血が・・・!」
631:2012/12/13(木) 08:39:21 ID:
男「枝とか・・・色んなとこに引っ掛けたから・・・」

男「でも、だからこうして助かったんだろうね」

男「落ち所が良かった・・・」

男「反対側だったら・・・。下、何にもないから・・・やばかった」

男「まったく・・・ぼくを出家させるつもりか?」

幼「っく・・・ぐす、ひっく・・・」ポロポロ
632:2012/12/13(木) 08:40:07 ID:
男「・・・15メートルくらいかな・・・」

男「昇降機で上ってた分と、坂下の急傾斜も併せて・・・」

男「子供の頃は、もっとずっと高く感じたけど・・・――」

男「! ゲホッ、ゲホッ・・・ッッ~~!?」

幼「男!?」

男「ーーッ・・・ぶっとい枝にぶつかった時、かな・・・一回・・・」

男「背中、ひどく痛めたみたい」ハハ

幼「ごめん・・・ごめんなさい・・・!」

幼「わたしのせいで・・・っ」
633:2012/12/13(木) 08:40:41 ID:
男「謝るのはナシだよ」

幼「でもぉ・・・っ」ポロッ

男「こんなの、なんてことない」

男「体中・・・熱いし、痛いし・・・右腕と左足は折ちゃったのか動かないけどさ・・・」

男「痛みを感じるうちは・・・まだ、正常に生きてるってことだから・・・」

幼「すぐに、救急車を呼ぶからね!」

男「ううん・・・その必要はないよ」

幼「ど、どうして!?」

男「それは・・・」
634:2012/12/13(木) 08:41:10 ID:
幼「! この音・・・」

男「ここへ来る前に、呼んでおいたんだ・・・それと、パトカーも一応・・・」

幼「男が?」

男「いや、後輩に頼んで・・・」

男「きっとここに友がいるだろうってことも、後輩に聞いたんだ」

幼「・・・・・・」

男「そしたら、さ」ニコ

男「さすが、幼馴染だよね、ハハ・・・痛ッ・・・!」
635:2012/12/13(木) 08:42:08 ID:
幼「わたし行って・・・誰か呼んでくるね!」

幼「すぐに人を連れてくるから。すぐだからね!?」

男「待って、幼・・・」

男「その前に、伝えたいことがあるんだ」

幼「そんな・・・! あ、後で聞くから!」

男「だめだ」

幼「だって!」

男「いまじゃないとダメだ」

男「いま、幼を守れたぼくじゃないと・・・」
636:2012/12/13(木) 08:42:42 ID:
幼「・・・・・・」

男「ぼくの・・・上着の内側・・・」

男「ジャケットの内ポケットに、箱が入ってるから取ってくれる?」

幼「うん」コク

男「ごめんね。体動かすの、ちょっと辛くって・・・」

ゴソゴソ

幼「これ・・・?」

男「やっぱり箱は潰れちゃったか・・・」
637:2012/12/13(木) 08:43:06 ID:
男「開けてみて」

幼「・・・・・・」カコ

幼「・・・・・これ・・・・・・」

幼「ゆび、わ・・・?」

男「それ、幼につけていてほしいんだ」

男「これから、ずっと・・・」

幼「・・・・・・」
638:2012/12/13(木) 08:43:52 ID:
男「・・・あの、もしイヤなら・・・」スッ

幼「!」バッ

幼「あ・・・っ///」

男「ありがとう」

男「・・・左手を貸して」

幼「・・・・・・」ソッ

男「・・・ぅ、ぎ・・・!」ググッ

幼「! 男、わたし自分で・・・!」
639:2012/12/13(木) 08:44:14 ID:
男「ぼくが、つけてあげたいんだ。自分の手で・・・」

男「・・・お願いだよ」

幼「・・・・・・うん」

男「・・・・・・」

幼「・・・・・・ぴったり・・・・・・」

男「サイズ、オヤジの言った通りだったかぁ・・・借りが出来ちゃったな」

幼「男・・・わたしね・・・」
640:2012/12/13(木) 08:44:41 ID:
男「好きだよ」

幼「!」

男「ずっと。これからも、世界で一番好きだ」

男「・・・引越しなんてするな」

男「もう幼と離れたくない」

男「幼が、ぼくの勇気なんだ」

男「ずっと、そばにいてくれ」

男「ずっと、ぼくの横で笑っててくれ」

男「ずっと、ぼくのことを照らしていてくれ」
641:2012/12/13(木) 08:45:25 ID:
男「どこにも行かないでくれ」

幼「・・・・・・」

男「ぼくの、お嫁さんになってくれ」

幼「・・・っっ」ポロッ

男「これだけのことを言うのに・・・ずいぶん、遠回りしちゃった」

男「待たせて、ごめんね」

幼「・・・・・・・・・ばか」

幼「ばかだよ、男は」
642:2012/12/13(木) 08:46:01 ID:
エンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
643:2012/12/13(木) 08:46:01 ID:
幼「でも・・・ありがとう」

幼「とっても嬉しい・・・」

幼「わたしいま、すごく・・・すごく、幸せ」ニコッ

幼「だけど・・・」

幼「もうあんまり無茶・・・しないでね」

幼「わたしは、自分よりも男が傷付くことの方が辛いの」

幼「男がいなくなったらわたし・・・とても生きていけないよ・・・」

幼「だから、ね?」

男「・・・わかった」

幼「本当に、お願いだよ?」
644:2012/12/13(木) 08:46:21 ID:
男「・・・それで、その・・・」

幼「?」

男「返事は・・・」

幼「・・・・・・うん」

幼「男がそう言うなら・・・そうする」

幼「男の・・・そばに、ずっといるね」
645:2012/12/13(木) 08:47:12 ID:
遠くから、ぼくを呼ぶ声がする。
先輩、と。

幼は立ち上がると、息を吸い込み、声を張り上げた。

幼「こっちです! 怪我人がいます、早く来てください!!」

二度三度叫ぶと、幼は膝を付き、そっとぼくの胸に耳を寄せた。

ぼくの鼓動を感じるように。

ぼくが、確かに生きているということを噛み締めるように。
646:2012/12/13(木) 08:48:29 ID:
大勢の気配が、慌しく近づいてくる。

ぼくはゆっくりと目を閉じた。
ぼくの左手を、幼が包むように握る。
そこにハッキリと伝わる、指輪の感触。

冷たいはずの指輪が、ぼくにはとても温かいものに感じられた。


そして翌日。
幼は、東京へと引っ越していった。

さよならは、なかった。
647:2012/12/13(木) 08:50:42 ID:
えっ
648:2012/12/13(木) 08:50:42 ID:


――――

――――――

それでも、時は巡り続ける。
ふと気が付くと、木枯らしは過ぎ、積もった雪も解けて。

おぼろ雲が、空を泳ぐ。

日向に、タテハチョウが舞う。

花が咲き、山が笑う。

風が、春の匂いを運んでくる。
649:2012/12/13(木) 08:51:15 ID:
三月。
卒業式の日。

体育館に、歌声が響く。
別れを惜しみ、新たな門出を祝福する。

『仰げば尊し』

今日、ぼくはこの学校を卒業する。
650:2012/12/13(木) 08:51:51 ID:
あれから。
ぼくは二週間の入院、一月半の通院を課せられた。
原因は、全身の打撲に裂傷。

左足の骨折は、問題なかった。
ギプスで固めていたら、勝手にくっついた。

若さって素晴らしい。

だけど、右腕の方には問題があった。
神経系が軽度の損傷を受けたとかで、完全に元通りになるのは難しいと診断された。
651:2012/12/13(木) 08:52:11 ID:
具体的には、握力が落ちた。
といっても、今のところ日常生活に支障はない。

つまるところは、柔道やテニスをするのが難しくなっただけだ。
あとは、本格的にギターをするとか、ボーリングで極端に大きいボールを投げるとか。

男「ああ、それだけですか」

医者はしばらく面食らっていた。
652:2012/12/13(木) 08:52:31 ID:
ただ、オヤジには謝った。

男「勝手に傷つけて、ごめん」

男父「おまえが自分で決めて、自分で行動した結果だ」

男父「それを責める理由は、ワシにはない」

男父「だが、その体はオマエの財産だ。・・・本当の親から貰った、な」

男父「これから先も、一生付き合っていかなくちゃならんモンだ」

男父「大切に使ってやらんとな」ポン

そう言って、頭を撫でられた。
いつか、幼い頃にそうしてもらったように。
653:2012/12/13(木) 08:52:58 ID:
いつの間にか、校歌斉唱、閉式の言葉と過ぎ、いよいよ卒業生退場。
式に参列した人たちからの拍手に見送られる。

体育館を出て、校舎と結ぶ連絡通路へ進むと、在校生が掲げる花のアーチ。

後輩「・・・・・・」

目が合う。
654:2012/12/13(木) 08:53:26 ID:
結局友は、当初の予定通りに引っ越すことになった。
ただし、父親にも、母親にも付いて行くことはしなかった。

一人で暮らして行くことを選んだ。
もちろん妹も一緒に。

高校を卒業して、働く。
独り立ち。

それが、友の・・・友と、後輩の選択だった。
655:2012/12/13(木) 08:55:18 ID:
あの日、警察への説明に、ぼくは足を滑らせたて転んで怪我を負ったと主張した。
幼も、何も言わずぼくに追随してくれた。

警官「そんなわけあるか!」

そりゃそうだ。
ぼくだってそう思う。

後日、退院間際という頃になって、友が後輩に連れられてきた。
656:2012/12/13(木) 08:56:04 ID:
友「・・・なんで本当のことを言わなかった」

男「言ってほしかったの?」

友「そうすりゃ、俺は・・・!」

男「悪いけど、楽なんてさせないよ」

男「友の思うようにはさせない。してやるもんか」

男「ぼくはともかく、幼を危険な目に遭わせたんだ」

男「償いはしてもらう」
657:2012/12/13(木) 08:56:54 ID:
友「俺に・・・どうしろってんだ?」

友「いまさら俺に・・・!」

友「俺にはもう、何にもねえんだ・・・ッ」

パシン!

友「ぇ・・・」

後輩「何にもないなんて・・・そんなこと言わないでよ・・・」

後輩「友ちゃんは、まだ生きてるんだよ!?」

後輩「ここに・・・あたしのそばに、ちゃんといるじゃん・・・っ」グスッ
658:2012/12/13(木) 08:57:47 ID:
後輩「あたしがいるじゃん!」

後輩「あたしに、友ちゃんがいるみたいに!」

後輩「ずっと、友ちゃんのそばにいるから・・・!」

後輩「友ちゃんが、この先どこへ行っても、何をしてても・・・っ」

後輩「だから・・・っ、だか、らぁ・・・ッ」ポロポロ

後輩「自分には何にもないなんて、そんな寂しいこと言わないでよぉ・・・っ!」

そう言って、後輩が友の顔を抱き寄せる。

見つめあって・・・。

二人で、号泣した。
659:2012/12/13(木) 08:58:38 ID:
友「必ず償う。一生をかけて、必ず」

男「なら、ぼくが・・・」

男「『ぼくたち』が望むのはたった一つだよ」

男「これからは自分のことを・・・」

男「幸せだって、胸を張って言えるようになってほしい」

男「後輩と、一緒にさ・・・」
660:2012/12/13(木) 08:59:52 ID:
これから先、友と後輩がどうなるのか、ぼくにはわからない。
誰にもわからない。
二人にもわからない。

だけど二人は。
少なくとも、信じて生きていくはずだ。

『自分たちは、幸せだ』と。

男(そうだよな?)

後輩は、口元に小さな笑みを作って頷く。
ぼくは、力強く頷き返してから、アーチをくぐった。
661:2012/12/13(木) 09:01:07 ID:
昇降口から、中庭へ。

そして、幼は。

幼とは、あれから連絡を取っていない。
電話も、メールも一件も送っていない。

彼女は何も言わずに、ぼくの前から姿を消した。

悲しいとは、思わなかった。

寂しいとは、思わなかった。

なぜなら、ぼくは、信じていたから。
きっとまた、すぐに逢えると。

あの日誓った、彼女の左手に懸けて。
662:2012/12/13(木) 09:01:45 ID:
中庭の先、校門の横の、桜の大樹。
それを見上げる、女の子。

肩にかかった黒髪が、春風に流れる。

ひらりと。
花びらが、ぼくの視界を掠める。



春が、来ていた。
663:2012/12/13(木) 09:03:03 ID:


男「綺麗に咲いたね」

横に並ぶ。肩が触れるほどに。
自然に、そうすることが出来た。

幼「・・・・・・」

男「髪、切ったんだね」

幼「願掛け、みたいなもの」

幼「・・・たくさん・・・たくさん、時間がかかった」

幼「でも、わたし頑張れたわ」

幼「今日まで・・・あなたに勇気をもらったから」

左手の薬指を、愛しげに撫でる。
664:2012/12/13(木) 09:04:05 ID:
男「もう、どこにも行かない?」

幼「・・・・・・」

相変わらず無口で。

幼「返事、まだちゃんと言ってなかったから」

男「・・・・・・」

幼「『ごめんなさい』」

幼「友達には、なれない」


――結婚を前提に、友達になってくれないかな
665:2012/12/13(木) 09:05:15 ID:
幼「それから・・・」

幼「『よろしくお願いします』」


――ぼくの、お嫁さんになってくれ


幼「これからは・・・」

幼の手が、ぼくの右手を握る。

幼「わたしが、あなたの右手になるから」

指を絡めて、しっかりと繋ぎあう。
666:2012/12/13(木) 09:06:23 ID:
幼「あなたのこと、ずっと守るから・・・だから・・・」

幼「わたしを・・・男の太陽で、いさせてくれますか?」

幼「・・・もう、男と離れたくない」

幼「ずっと、わたしのそばにいてください」

男「もちろん」

男「でも・・・」

右手に、力を込める。
限界まで。
これがいまのぼくだって。

そして。
667:2012/12/13(木) 09:07:02 ID:
男「幼は、『こっち』」

手を牽き、左側に立たせる。
絡み合った指を解いて、左手で繋ぎなおす。

男「惚れた女を守るのは、男の仕事だよ」

男「幼はそこにいて、ぼくのことをずっと見てて、離さないでいて」

男「そうすれば、ぼくは真っ直ぐに歩き続けられるから」

男「ずっと、どこまでも・・・」

男「幼が居れば、ぼくは幸せだって、胸を張って言える」ニコ
668:2012/12/13(木) 09:08:08 ID:
幼「・・・っ」

幼の顔がくしゃっと歪んで、閉じた瞼から涙が零れる。
ぼくは、それを優しく拭う。

右手で。

そして、彼女の頬を撫でる。

男「愛してる」

幼「・・・・・・」

そっと、目を閉じる。
相変わらず過激で。
669:2012/12/13(木) 09:09:47 ID:
唇同士が触れ合うだけの、フレンチキス。
幼の顔は、真っ赤になっていた。
たぶん、ぼくの顔も。

気付けば、周りは人だらけ。
卒業生、在校生、保護者、教職員に来賓の人たち。

肩を寄せ合って立つ、友と後輩の姿も。

みんな、卒業式に参列した人たちだ。
それなら、ついでに祝ってもらおう。

ぼくたちの門出に、どうか祝福を。
670:2012/12/13(木) 09:11:00 ID:
二度目の口付け。

幼「男・・・」

花が咲く。
ぼくにとっては、どんな花よりも価値のある花だ。

この花を、枯らさないようにしよう。
心に誓う。
671:2012/12/13(木) 09:14:46 ID:
幼「髪、また伸ばすから」

そう、ぼくには・・・――。

幼「お料理も、もっと勉強するから」

誰よりも愛しくて、何よりも大切な。

幼「男がいれば、わたしは幸せだって、胸を張って言えるから」

かけがえのない、ぼくだけの太陽。



幼「だいすきだよ!」ニコッ


――・・・ぼくには、幼馴染がいる。

Fin
672:2012/12/13(木) 09:17:31 ID:
最後まで読んで下さった方、お付き合いありがとうございました。
進行中、乙や支援をくれた方、とても励みになりました。

前作は女が男を救う話だったので、今回はその逆でした。
本当は、きまぐれオレンジ☆ロードとRANGEMANを足して割ったような話を考えてました。
うん。面影ないね。
×女(お嬢様)×幼馴染ときたので、次の機会があるなら×妹かな。
もうすでにマンネリ感が半端ないけど。
最後に野島先生、また台詞お借りしました。
673:2012/12/13(木) 10:16:09 ID:
乙!

ちなみに、フレンチキスは所謂ディープキスのことだぞ
674:2012/12/13(木) 10:24:17 ID:

楽しめた

ただ糞親どもには何らかの制裁が欲しかったけどな
677:2012/12/13(木) 17:40:27 ID:
いやー
面白かった
679:2012/12/13(木) 18:33:56 ID:
お疲れ様でした
久しぶりに更新が楽しみなSSでした
やっぱりエンターテインメントの基本は笑顔とハッピーエンドだね
683:2012/12/14(金) 21:29:49 ID:
乙乙

面白かったよ!!

682:2012/12/14(金) 00:46:06 ID:
乙!
2人が幸せになってくれてよかったわ
元スレ: