1:2015/12/02(水) 19:40:37.98 ID:
あさ、朝だ。朝が来たのだ。

アラームの自己主張が耳に痛い。

外は明るいのだろう。

太陽が昇ったから朝なのか、朝になったから太陽が昇ったのか。

それが問題だ。

……問題?


2:2015/12/02(水) 19:43:16.86 ID:
鶏が先か、卵が先か。

空に黄身のような丸い光が浮かんでいる。

白身はどこに行ったのだろう。

地球に浮かぶ大きな蛍光灯、その紐をひく仕事に就きたい。

眠い。

やっぱり寝坊できないのは辛いから退職したい。

3:2015/12/02(水) 19:44:59.48 ID:
夢の世界からもぞもぞと這い出る。

そろそろ起きないと。

もう朝だから。

布団が私を呼んでいる。

瞼が重い。

まだ朝だから。

4:2015/12/02(水) 19:46:38.18 ID:
今日は休日だ。

窓辺のプランターに水をやる。

ラベンダーの香りが広がった。

サボテンのトゲトゲが痛い。

いつもの日課。

5:2015/12/02(水) 19:49:09.95 ID:
コーヒーミルを回す。

くるくる

豆を挽く音が体に響く。

ごりごり

イチゴ色になったトーストと一緒に朝食。

苦くて甘くて美味しい。

ようやく頭も回ってきた。

くるくる

6:2015/12/02(水) 19:52:08.89 ID:
そうだ、休日だ。

今日は一日何をしよう。

時間はあるし、二度寝してしまおうか。

それよりも有意義に過ごしたい。

読んでいない本が何冊か積んである。

見たいと思ってチェックした映画は幾つあったっけ?

……。

……。

………………。

………………良い天気。

散歩にいこう。

7:2015/12/02(水) 19:54:28.46 ID:
歯ブラシをくわえながらクローゼットを開く。

どの服で出かけようか。

少し寒くなってきたけれど、歩くのならちょっと薄着でもいいかな。

天気予報もその考えに太鼓判を押した。

個の青いワンピースとかどうだろう。

…………。

……違うな。

8:2015/12/02(水) 19:57:01.06 ID:
準備を整えて外に出る。

思った通り暖かい。

悩んだ結果、アイボリー色の薄手のセーターとワインレッドのフレアスカート。

散歩にはちょっと似合わないかな?

まあいいか。

よし。

気合を入れて―……。

出発!!

……あ、ケータイ忘れた。

9:2015/12/02(水) 19:59:44.04 ID:
さて、まずはどっちに向かおうか。

家の前のT字路で悩む。

右は良く知った道。左はあまり通らない。

うーん。

特に目的地のない旅が、開始で躓くとは。

どうしようか。

躓くついでにそこの小石に決めてもらおう。

10:2015/12/02(水) 20:03:33.78 ID:
道端の小石を拾い、掌から地球に帰す。

さぁどっちに転がる。

右か左か。

大地と再会を果たした小石の判定は、まっすぐ進んで側溝の中へ。

……。

……。

…………なるほど。

大きく三歩踏み出す。

目の前の電柱に軽くタッチ。

これでよし。

未だ見ぬ世界に向け、取り舵いっぱーい。
11:2015/12/02(水) 20:06:59.61 ID:
並木道の真ん中、のんびり、てくてく。

こうやってあてもなく歩くのは好きだ。

遠く遠く、トランペットの音が聞こえる。


ぱーーーーぷーーー


へたっぴな口笛を重ねて、二人だけのアンサンブル。


ぷーーーーぱーーー
ぴゅー


へたっぴ過ぎて楽しくなってきた。

コンクールなら銅賞ものかな。

12:2015/12/02(水) 20:11:36.73 ID:
少し冷たい空気が通り抜ける。

街路樹の傘を風が揺らして、地面が木漏れ日で濡れた。

見上げると、一枚の葉っぱがひらひら落ちてくる。

……あれを落ちる前につかめたら良い一日になる。

舞い降りる葉っぱを両手が追う。

躍るようにひらひら逃げられ、悪あがきも虚しく地面に着いた。

伸ばした手の行き場をなくし、その場で固まる。

……今のは練習。次が本番。

結局3回の練習の果てに、今日は素晴らしい日になることが決した。

13:2015/12/02(水) 20:15:45.16 ID:
幾つものお店が並ぶ道に出る。

小さな商店街、ちょっとワクワクしてくる。

家の近くにこんな所があったなんて。

右に左に目をやると、大きなガラスの中の私と目が合った。

今日の服装はちょっとフェミニン?

二人の私がくるりと回る。

自分と睨めっこをしていると、ガラスの奥でお店の人がクスリと笑っているのが見えた。

は、恥ずかしい……。

真っ赤な顔は、きっと朝のイチゴジャムのせい。

14:2015/12/02(水) 20:17:57.63 ID:
顔の熱を冷ましながら商店街の散策再開。

どこのお店も開店したばかりみたい。

お客さんを迎えるように戸口が開いている。

店先にたくさんの小物が飾ってあるお店が目に入った。

あそこの雑貨屋さんに入ってみようかな。

15:2015/12/02(水) 20:21:07.02 ID:
入り口をくぐる。

中は所狭しと色々な物が置いてあった。

ペンダント、首飾り、ネックレス。

アロマキャンドル、鉢植え、掛け時計。

他にも本棚やロッキングチェア、身長程もあるペンギンの置物まで。

自分が小さくなって、おもちゃ箱に迷い込んだみたい。

16:2015/12/02(水) 20:23:32.38 ID:
雑貨屋さんで一つだけ買い物をしてお店を後にする。

さっきまで無かった、針金で編んだ熊が鞄で揺れている。

次はどこに行ってみよう。

更に通りの奥へと進む。

のんびり、てくてく。

左手に興味を引かれる看板を発見。

これは、映画館?

17:2015/12/02(水) 20:26:33.92 ID:
重い扉を引いて館内に入る。

ちょっとカビ臭い。

受付の人に話を聞く。

どうやら一昔前の "B級映画" を上映しているらしい。

今週はアクション、恋愛、ゾンビホラーの3つ。

怖いもの見たさでチケットを購入。

ポップコーンは無いのかな?

18:2015/12/02(水) 20:29:32.75 ID:
劇場に入る。意外と広い。

先客は誰もいないみたい。

部屋の真ん中、特等席に座る。

今の時間はゾンビホラーをやるらしい。

……怖かったら途中退出も出来るよね?

一人だけの劇場に、チープなブザーが鳴り響く。

予告も広告もなく、本編が始まった。

19:2015/12/02(水) 20:33:34.85 ID:
……。

……。

………………おかしい。

ホラー映画を見ていたはずなのに。

物語は中盤。

なんで主人公たちはゾンビの闊歩する街中で、……その……○○○なことをしているんだろう。

えっ、うぁ、そんなことまで?

ていうかこのシーン長くない?

自分以外劇場に誰もいないのに、何だか気まずい。

いたたまれなくなり、思わず両手で顔を覆う。

指の隙間から光が漏れているのはわざとじゃない。しょうがない。

20:2015/12/02(水) 20:36:25.24 ID:
上映終了後、逃げるように外に出る。

もちろん基本的にはゾンビ映画だ。

被り物の動く死体はどことなくコミカルで、予想とは違う面白さだった。

でも、やっぱりこりごりかな。

ここには二度と来ないことを誓う。

さて。

お日さまが空のてっぺんで輝いている。

どこかでお昼にしよう。

21:2015/12/02(水) 20:40:10.47 ID:
十字路のかど、小さな喫茶店。

メニューの一番上にあったオムライスを注文。

席で大人しく料理を待つ。

天井で大きなシーリングファンがゆったり回っている。

控えめに流れるジャズが心地良い。

窓の外を眺めながら、小さなあくびを一つ。

手持ちぶさたにグラスを弄んでいると、良い香りが近づいてきた。

22:2015/12/02(水) 20:42:44.84 ID:
真っ白なお皿の上に、鮮やかな黄色、アクセントの赤。

目が覚める思いで姿勢を正す。

いただきまーす。

スプーンを優しく突き立てる。

中からオレンジ色のチキンライスが顔を出した。

昔ながらのオムライス。

小さく盛ったそれを口に運ぶ。

……。

……。

おいしい!

23:2015/12/02(水) 20:44:40.75 ID:
甘酸っぱい味に心を奪われ、すぐに食べきってしまった。

満足感でいっぱいな体が、少し重い。

水を飲みながらしばしの休憩。

突然目の前にチーズケーキが置かれた。

あれ、デザートなんて注文したっけ?

24:2015/12/02(水) 20:46:29.23 ID:
店主のおじさんはニコニコして言う。

あんまり美味しそうに食べてくれたから。

うぅ。

そんなにがっついて見えたかな。

今日は恥ずかしいことばかりだ。

それに結構お腹いっぱいなんだけど……。

……。

……。

おいしい!

25:2015/12/02(水) 20:48:31.32 ID:
おじさんに何度もお礼を言って外に出る。

また今度来る約束をして。

少し歩きながら大きく伸び。

んー。

……。

よし。

気になったお店、全部回ってみよう。

26:2015/12/02(水) 20:54:22.91 ID:
古書店に入る。

懐かしい絵本に目を奪われた。


洋服屋に入る。

新作コートと財布の中身との狭間で1時間程うなった。


果物屋に入る。

口の中が痛いほどパイナップルの試食をさせてもらった。


画廊に入る。

抽象的すぎる抽象画に首をひねった。


楽器屋に入る。

バイトのお兄さんにおすすめのジャズバンドを教えてもらった。


もう一度洋服屋に入る。

根負けしたのか店員さんが3割引きにしてくれた。


珈琲屋に入る。

オリジナルブレンドを飲みながらマスターの半生に聴き入った。




いつの間にか、青かった空には朱が混じり始めていた。

27:2015/12/02(水) 20:56:37.39 ID:
そろそろ家に帰ろうか。

赤く色付く空を見上げる。

最初はちょっとした散歩のつもりだった。

それでも、気がつけば一日過ごしていた。

んーーーっ。

……。

……。

楽しかった。

28:2015/12/02(水) 21:01:17.71 ID:
名残惜しさに後ろ髪を引かれながら帰路に就く。

空は綺麗な茜色。

足元に目をやると、猫が一匹丸くなっていた。

手を伸ばす。逃げる様子はない。

優しく背中に手を置く。

迷惑そうな顔をしながらも、されるがままで動かない。

ご褒美にあごの下も撫でてやろう。

29:2015/12/02(水) 21:07:31.48 ID:
思う存分撫でまわす。

手のひら越しに少し高い体温を感じる。

近くのベンチに座ると、膝の上に登ってきた。

人に慣れすぎじゃないかな。

ほどよい重さと温かさが心地良い。

二人の世界を夕日が照らす。

にゃあ

しばらくすると一声あげ、ピョンと飛び降りて去っていった。

あの子も今から帰るのかな。

遠くの丘の上に、一番星が輝いた。

30:2015/12/02(水) 21:11:06.94 ID:
孤独に歩く並木道。

今日の出来事を思い出しながら。

いろいろ詰め込まれた一日だった。

藍色が増した空を見上げる。

……お日様が沈むと、なんで寂しくなるんだろう。

胸の中を、小さな寂寥感が通りすぎた。

今日の事すら遠く感じる。

ノスタルジックな世界に一人。

ちょっと寒くなってきたかな。

31:2015/12/02(水) 21:20:27.95 ID:
寂しさを抱えながら歩く。

だってあまりにも今日が楽しかったから。

そんな一日が、終わって、しまう。

ーーー。



どこか暖かい風が、ふわりと頬を撫でた。

ひらひら落ちる葉っぱが一枚。

……………………。

………………。

…………。

……。

よし。

4回の練習の果てに、次の休日はもっともーーっと良い日になることが決した。




今度はどこに行ってみようかな。

未来の日々に思いをはせて。

               【おわり】

32:2015/12/02(水) 22:14:04.21 ID:
面白い!
33:2015/12/02(水) 22:29:23.48 ID:
乙!
34:2015/12/02(水) 22:53:55.67 ID:
感想大変うれしいです

最後は3レスに分けた方が良かったですかね…

↓は過去作です。時間があればどうぞ

猫「・・・・・・」
http://www.2monkeys.jp/archives/51302060.html

少年「こんばんは、お月さま」
http://www.2monkeys.jp/archives/51334743.html
元スレ: