1:2008/01/01(火) 22:33:27.37 ID:
 
 

人生は遊びかも知れない。

だけど人生はゲームじゃない。
 
 
 
 

4:2008/01/01(火) 22:37:35.52 ID:
はてさて、どこかで見たことあるぞこのスレ
5:2008/01/01(火) 22:37:45.81 ID:
・はじめに

この作品は、

( ^ω^)「ブーンたちの世界が最後を迎えるようです」
http://www.geocities.jp/vipperweb/world_end_b.html

のリメイクです。
作者さんへの連絡は完了しています。万が一問題があるようでしたら、逐一申し付け下さい。
つーか今日現行多いなぁwwwwwwwwww
8:2008/01/01(火) 22:47:00.83 ID:
あれ?何か懐かしいスレタイ……。

あぁリメイクですかそうですか。
本当に許可貰ったのか?
7:2008/01/01(火) 22:45:12.32 ID:


日常とは日がな一日刻々と変化していっているものであり
平穏とは脆く絶えがたいものであり、何気なさの中にそこ、真価がある。

けれど当たり前を、突きつけられた非日常の上で理解するには僕らはまだ幼すぎた。
そして同時に"突きつけられた非日常"そのものが突然すぎたのだと思う。



60億いる僕らに告げられた言葉。




第一話 『 「絶望しろ」と、神様は囁いた  』



1/13  23:00  ブーン宅



瞼の重さと肩にかかった疲労感を軽減する為、両手を突き上げて背伸びする。
腰から上げた手にかけて、疲れが天へと抜けていくイメージだ。
あまり意味の無い行為だとは思うけど、それでもなんとなくしてしまうから人間不思議なもんだお。
9:2008/01/01(火) 22:55:35.00 ID:


( ^ω^)「今日もエロ画像見まくって落としまくってブーンは満足だおwwww」


目の前にはかれこれ2年の付き合いになる電子箱。
コイツにはデータ版青春の汗と涙となんだかよくわからない汁っぽい物が目一杯詰っている。
友人のドクオには「僕が死んだら親が見る前にデータの処理を」との連絡も完了済みなパンドラの箱だ。

パソコンの中に入れたままのCDロムを見ながら、


( ^ω^)「明日ドクオあたりに自慢してやるかおwww」


口元に浮かべた笑みをさらに深めた。
……明日の学校で起るであろう展開について想像を膨らませてみる。


(*'A`)『いいなぁいいなぁいいなぁコラ!』


ドクオから向けられる、自分への羨望の眼差し。


おっおっおっ。想像すると、また笑みが零れているのが解った。
10:2008/01/01(火) 22:58:52.63 ID:


( ^ω^)「さて、と……そろそろ寝ないと明日遅刻するお。あー、ツンがうるさいおー」


門前で鈍間だとかアンタは亀だとかいっそ気持ちがいいほど罵倒しくさるご主人さ……
いや幼馴染の姿が容易に思い浮かんだ。


ツンを待たせたら、何を言われるか解ったもんじゃないお。


んん、最悪の場合――……


そこまで考えてから、猛烈な眠気に襲われた。
これ以上起きていれば本気で遅刻すると脳より先に体が判断を下したのだろう。
よろよろとベットに近づいて、ボクサーブーンは流れるような動作でリングにひれ伏した。
ボフッ。と音がし、ずぶすぶと自分の体が埋まるのを感じる。



このまま船を漕ぎ出すのは容易な事だろう。



それでも何となく――何故かブーンはベットの上に置いてあったテレビのリモコンが気になった。
12:2008/01/01(火) 23:14:19.38 ID:
セカオワwwwwwwwwキタ━━━━━(゚∀゚)キタ━━━━━(゚∀゚)キタ━━━━━(゚∀゚)キタ━━━━━(゚∀゚)キタ━━━━━(゚∀゚)キタ━━━━━(゚∀゚)キタ━━━━━(゚∀゚)
13:2008/01/01(火) 23:21:05.09 ID:
セカオワwww懐かしいwwwww
32:2008/01/02(水) 09:52:06.67 ID:


( ´ω`)「何か嫌な予感がするお――……」


リモコンを手に取り、テレビを付ければ解消される不安なのかどうか、ブーンには判断できなかった。
それでも、押してくる好奇心に負け、ブーンは何気なく、
『いつも通り』の日常でそうするように電源スイッチを押した。




プツン、ブラウン管が温まる音。





               そしてそれが、『さようなら』の合図だった。




35:2008/01/02(水) 09:57:53.10 ID:


音がした。


テレビの電源が付いた音だと理解するまでそう時間は掛からなかった。
しかしそれは後から――、全て終った後から考えれば、
『それ』はブーンが『日常』の中で聞いた最後の音だったのだろう。


呆気ないと思う。味気ないと思う。


物事なんて往々にしてそんな物だとどこかで心得ている部分もある。
世界の構築要素は、普段意識しているよりも実の所、驚くほど粗野で簡素なのだと。
そこまで理解すれば、あとは諦観に近い感情のせめぎ合いだしか残らないのだと。


ああ、思えば幸せだったあの頃は――、なんて言う戻れない故の回顧しか残らない。




――テレビからは映像よりも先に、音声がスピーカーから流れてきていた。
それをベットの中で薄ぼんやりとブーンは聞いた。枕に顔を埋めながら、一欠けらの意識で。
37:2008/01/02(水) 10:01:22.15 ID:


「Today is……」


あ、これ英語だお……?

目を瞑りながら思った。



…………はて、可笑しい。どこかが決定的に可笑しいはずだ。


まどろみながら、ブーンは考えてみる。



――今の時間帯、2ちゃんで英会話教室なんかやってたかお?


そこでふと、違う。脳味噌の深い部分が否定した。
このチャンネルは、2ちゃんねるじゃないはずだ。と言うか――それはありえない、と。
そもそもテレビのチャンネルと言う物は、消した直前に見ていたチャンネルで写るはず。
確か、自分はつい2時間程前テレ西でじゃぱねっと田代を見ていたはずだ。

あの売り文句の口調が耳についてはなれないと愚痴も零した。
38:2008/01/02(水) 10:03:35.37 ID:




―――――じゃあ、この番組は何なんだお……?




枕から顔を起し、目を開け、ブーンはテレビを見た。
"そこに写っているもの"を見た。


白いテロップが画面の下に延々と流れているのが見えた。
青白い顔で翻訳の女性が言葉を選んでいるのが見えた。
アメリカ人の男性が鬼のような形相で雄弁を振るっているのが見えた。


「本日、NASA本部は……大彗星の衝突が――地球であると発表を全世界に向け――
またその件に関して国連常任理事国は――またすい星の衝突時刻は……今から凡そ20時間後と予測され……」


翻訳の女性の、震えた声が聞こえた。


弱弱しいビブラート。審判のラッパか、悪魔の笑い声か。
ガラガラと大げさな音を立て、日常が、平穏が、何気ない繰り返しの日々が崩れ落ちる音を聞いた。
39:2008/01/02(水) 10:08:06.79 ID:


( ^ω^)「――――…………」



テレビを見つめたまま動けなくなくなった。
全ての関節が溶接されたようだ。古臭い表現を使うのであれば、ベットの上には石像が一体。


三文映画だ、三文芝居だ。これは酷いお。
脚本家は誰だお――――変な、夢だ、お。




―――――――――― 夢?




(; ^ω^)「そ、そそそ……そうだお! こ、これ夢だおっっ!? じゃなかったら下手な芝居だお! 
こんな世にも珍妙な物語のシナリオにも起用されないようなベタな内容――テレ西ドラマも地に落ちたおね」



自分自身を納得させているような独り言を呟いた後、リモコンで再度電源スイッチを押した。
暴走しそうになる心を、屁理屈のような、駄々のような論理で無理矢理に押さえつけた。
40:2008/01/02(水) 10:11:20.19 ID:


そうでもしないと、今この場で発狂しそうだ――いや、してしまえば楽になるか?


自分の中の誰かが扉を大きく叩く。
それでもそれに気付いてはいけない。どこか直感染みた、確信染みた思考が巡り、



( ^ω^)「……もう、寝るお。ツンが煩いお――……ツンは恐いお」



覚醒しそうになる意識を羽交い絞めにして、ブーンは眼を堅く瞑った。
夢と現実の渡し人の尻を叩いて意識を沈み込ませる。



また起きれば、どうでもいいような朝が戻ってくるお。



これは悪い夢か、冗談にもならないようなドラマだお――
明日ドクオとの会話の種にでも使うお――


――テレビ欄の確認は、出来ないけれど。

                    第1話【 「絶望しろ」と、神様は囁いた 】終 →第2話へ
41:2008/01/02(水) 10:16:58.83 ID:


どんなに幸福でいようが どんなに絶望していようが、朝と言う物は平等に訪れる。
それは太陽と月が巡るこの世に置いて、唯一絶対な不変の原理だ。


ブーンにとっても、世界中の人たちにとっても、それは一寸の狂いもなく訪れる。



無論、今日とても。



第二話 『 確認すべきだ、と誰かは言う 』



1/14 7:30 ブーン宅



もぞもぞ。もぞ。もぞもぞ。
でかいミノムシ、もとい布団が動いた。


目覚める瞬間とは、なんとも微妙な間であるなとブーンは思う。
無意識と意識の間。半覚醒の淵に身を投げる気分にはいつになっても慣れない。
42:2008/01/02(水) 10:18:52.81 ID:
布団の中で丸まり、ブーンは重い瞼を擦った。
睫毛についた目やにを採取しながら、何時であるかを確認。


7時30分。ああ、イイ目覚めだ。



( ^ω^)「――ふぇ……お、ぉお……良く寝たお。……何か変な夢見たお」



うわ言のように呟きながら、噛み殺す事無く大きな欠伸を欠いた。


っせーの……


脚を頭の方へ上げ、腰を浮かせて、掛け声一発。


( ^ω^)「とぉぉぉぉおおう! ブォォォォオオン!」


そのまま一気に起き上がる。
43:2008/01/02(水) 10:21:51.31 ID:


( ^ω^)「……ふっ。今日もいい調子だおwwwww満点だおwwww」


着地の際にちょっとよろける。



( ´ω`)「……勃ち上がり世界選手権の道は遠いお」



春先のひんやりとした気温が、露の湿気のように徘徊する廊下に出、下に降りた。


自分の存在を誇示するようにわざと大きい音で駆け下りる。


意味は無い。他意も無い。

けれど一刻も早く、どうしたの慌てて、と笑ってくれる母の姿を、
眉根をしかませながら新聞紙を捲る父の姿を確認したかった。
44:2008/01/02(水) 10:26:53.76 ID:



( ^ω^)「……母ちゃん! 起きたお!! 朝飯くれおー!」



腹から声を出す。
いいから返事してくれお……!

日常に縋る。そして願う。理由は解からないが、縋り、願い、手を伸ばす。
心ばかりが焦っていた。どうしようもなく、狂おしいほどに。



( ^ω^)「かあちゃ…………お……?」



リビングや台所に眼を配らせるが、誰もいない。
どうしたの慌てて、と笑ってくれる母も眉根をしかませながら新聞紙を捲る父の姿もいない。


何なんだお。何なんだお、何なんだお何なんだお……!?


45:2008/01/02(水) 10:27:35.01 ID:
支援
47:2008/01/02(水) 10:33:25.66 ID:


( ^ω^)「だ、誰も、いないのかお。……とりあえず、コーシーでも飲むかお」



落ち着け、落ち着けばいい。大丈夫だ。
まだ寝てるか、偶然、外出してるんだ。


独り言を呟きながら、ブーンは台所を見回した。
何か一息つけるものが欲しい。




――しょうがないから親父が大切に保管してた直挽き飲むおwww




この内容でスレでも立てられるかな。なんて頭の隅っこで考えつつ、
珈琲カップを食器棚から出してそれの中に粉末のインスタントコーヒーの元を入れ、保温瓶から湯を出した。
湯気が立ち上り、瞬く間にコーヒーの芳しい香りが台所に広がる。
51:2008/01/02(水) 10:44:49.23 ID:


( ^ω^)「……ちょっと……ぬるいお……母ちゃん、親父。何してるんだお……早く帰ってこいお……」


いつもは舌火傷するほど熱い湯が入っているはずなのに。やはり今日はどこか何かおかしい。
……まあこれも今日に限ったことだろう、と仮定を切り捨てるブーン。



( ^ω^)「にしても直挽きコーシーうめぇwwwwww」



食欲ツヨスwwwwww
そうやってほくそえみながら、緩んできた緊張感に自分でも気がつかない程小さく、しかし確かにほっと一息漏れた。
コーシーの魔力に感謝しながら、ブーンはこの嫌な感覚にトドメをさす為、テレビの電源をつけた。



――――――――それが逆に、この日常への終止符を打つ事になるとも知らずに。



53:2008/01/02(水) 10:50:22.85 ID:

何の支障もなくテレビはついた。
親父の趣向で、リビングのチャンネルはいつだって2ちゃんねるだ。


( ^ω^)「……」



瞬間、リズムが崩れた。
"世界終ったな" ブーンの中の誰かが言った。




「――皇太子一族も今朝、地球を発った模様です。
また国内の各空港には、短い余生を国外過ごそうとする人がごったがえしている様子で、混乱に陥っております。
また警察庁ではくれぐれも単身で屋外に出ないようにと市民の皆様への呼びかけを強化しており――」




のりの貼った背広、キリっ、としめたネクタイ。
理性を醸し出す黒ぶち眼鏡と実績と経験をつんだが故に刻まれた額の皺。


全部、ありふれたものたちのはずなのに―――――――――――――――
54:2008/01/02(水) 10:52:45.13 ID:


「えー、また無差別投票によって選ばれた10~30歳までの5万2千人、
また推薦枠で予め決められていた有能な人材はすでに地球を発った模様です」


口から発せられる言葉が、紡がれる言霊が。
全て、全部、日常から、平穏から、繰り返しの日々からかけ離れていた。


「火星での最低限の生活機能をもった今、人類はどこまで生き延びれるのでしょうか」

( ^ω^)「な……何でだお……!! こう言うことって、こんな大変な事、
解ったら即報告があるはずだお!!! なんで今になって!!!!!!!!!」


ブーンの中にあった全ての憤慨や怒りや不満が爆発した。
握りこぶしを机に叩きつける。鈍い音がして、カップの中のコーヒーが揺れた。


そうだ。一体何を抜かしてるんだ。この男は――――!!


一つ、ブラウン管の表面でニュースキャスターは息をついた。
それらから、ブーンの浮かべた疑問と希望への、いや、日本中、世界中の人が思ったであろう言葉への回答を。
絶望への引導を、無表情のまま述べた。
56:2008/01/02(水) 10:58:51.57 ID:

「これは、世界の――国連の選択です。一国のメディアがどうしようも無いことでもありました。
確かに、すい星の衝突が判明したのは1週間前のことで御座いました。
しかしこれは、余計な混乱や暴動を招かない為にアメリカを中心とした常任理事国、
並びに非常任理事国が全会一致で採択した結論なのでございます。
全世界一斉報告だと決まったのは、日本時間の23時――――」


(#^ω^)「ふ……っ……ふざけるなぁぁぁッッ!!!!」


絶望からの叫び声が静かな世界に孤独に響いた。
これなら何も知らないほうが良かったじゃないか。なんなら衝突が決定した時に知らせて欲しかった!




たった8時間ぽっちのタイムリミットで――
 僕に、世界中の人間に、何を成せと言うんだ――!!??



「……報告は以上です。さて、これでわたしの仕事も終わりです」



ニュースキャスターの顔に、この時初めて笑顔が浮かんだ。
腹を決めた清々しい男の顔だ。
58:2008/01/02(水) 11:02:43.01 ID:
立ち上がったニュースキャスターの全身を見た時、
ブーンはこれ以上ないほどの吐気と頭痛に襲われるのを感じた。


胸から下、調度腹のあたりが血に染まっていたのだ。
座っていたから解からなかっただけなのだろう。
多分、ではあるが――ニュースキャスターの物ではない血と、黄色い胃液が目立つ吐射物。

胸に当てた手は、血に濡れていた。
その赤黒い肌だけが、明らかな間違いを組み込まれたパズルのピースのように異様に栄えて見える。



「日本のテレビ史上、最後の放送を担わせて頂いたことを幸福に思います」


何が担わせて頂いた、だ。――アンタ、自分でもぎ取ったんじゃないのかお。


「みなさま――お先に、失礼を」


アカペラの、なんともお粗末な君が代が流れた。
唄い終わってから、件のキャスターはどこからともなく拳銃を取り出して、迷いもなく口に含んだ。

そのまま引き金に手をかけ――――
62:2008/01/02(水) 11:07:59.78 ID:
キャスターらめぇぇぇぇ…支援(^з^)Chu!
61:2008/01/02(水) 11:07:43.99 ID:


( ^ω^)「…………ッ!!」


スピーカーから銃声が漏れる前にブーンはテレビの電源を、と言うよりコンセントをぶち抜いた。
ブツン、と音を立てて画面がすぐさま暗転。けれどそれと同時に、ブーンの中の何かも切れたようだった。



(#^ω^)「う……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉッッッッツ!!!!!」


叫びながら、テーブルの上に置いてあった物を全てなぎ倒す。
新聞紙も、タオルも。一輪挿しも、中身の入ったコーヒーカップも全て。
しばらく、ブーンの家のリビングには意味の無い破戒音が続いた。



(#^ω^)「…………っはぁ……ハッ、ハッ……くぉ」


――気がついた時には、全て終わっていた。
自分の手にはいつのまにか金属バット。眼下に広がったのは、敷き詰められた純粋な暴力と破壊の後。

リビングにあったもので原型を留めている物は殆どないな。

流れるように切れ目無い、どこか場違いな思考。
64:2008/01/02(水) 11:11:12.63 ID:
しばらく肩で息をしていたブーンが、床に落とした新聞紙の上に
何かがあるのに気付いたのは、それから5分たった頃だった。


先刻よりは幾分か落ち着いてきた気分で、
ブーンは新聞紙の上にあったそれ、茶封筒を手にとり、中身を見た。



( ^ω^)「……これはなんだ、……お?」



かさり、と紙の触れ合う音が聞こえる。



中身を確認した。




……ああ、そういう事か、と諦めに似た感情を持つ。


それからブーンは、中に入っていた白い手紙を見た。
おおよその予測は付いている。これが全部現実なのだとしたら、多分ここに書かれているのは――
66:2008/01/02(水) 11:14:36.30 ID:



――  状況は理解できたか? このお金は我が家の財産の一部だ。
最後の日くらい、自分の好きなように生きてみろ  ――



宛名も書き名もない。けれど一目でわかった。
達筆なこの字は、父のものだ。

たったの2行だけだけど、父の威厳や思いやりがひしひしと伝わってくる。

このそっけなさがいっそ彼らしいともブーンは思った。
最後の最後まで、親父は親父として在ったのだと思うと身内の事ながら少しだけ誇らしかった。



かさり。父の手紙に重なっていたもう一枚にも目を通し、やがて声に出して読み始めた。



( ^ω^)「……ブーンへ、状況は理解できたようですね。
残念ながら、これはもうどうしようもない事のようです。
お前の成人姿が見れなくて母さんは少しだけ寂しいです。
父さんの言う通り、私達のことは気にしなくていいから好きに生きてください。

伝えたいことは、沢山あるけれどただ、最後に……――」
67:2008/01/02(水) 11:18:00.96 ID:
息をのみ、言いよどんだ。くしゃ、と強く手紙を握り締める。


――……なんで、どうして。


                 母ちゃん。




―― 最後に、一つだけ言っておきたい事があります。
私は、貴方を生んでよかったと思っています。
こんなことになるならいっそ、とは思っていません。そんな事、絶対に思うものですか。

貴方が笑ってくれた事。貴方が泣いてくれた事。
貴方が私を母さんと呼んでくれたこと。全部、幸せな思い出なのです。

ごめんね。母さん、身勝手だよね。最期の時に一緒にいられないのに、こんなの駄目だよね。
でも――ありがとう、ブーン。私の息子でいてくれて、ありがとう。生まれて来てくれて、ありがとう ――



父、母より、と言う部分が涙で滲む。
封筒の中身はこの手紙と、2つの札束。200万ペソの現金だった。
69:2008/01/02(水) 11:19:41.28 ID:
いや現金は意味が無いだろw
68:2008/01/02(水) 11:18:19.57 ID:
この小説しらん……
支援するわ
70:2008/01/02(水) 11:22:41.94 ID:
( ;ω;)「……う……あぁ……あぁああ……」

押し殺した声は、やがて表に出ていた。


涙は枯れることを知らずただ流れつづける。


膝をついて、肘もついて。ブーンは誰にはばかる事無く大声で泣いた。
床に落ちた手紙の文面を何度もなぞる。父と母からの言葉を噛み締める。

嗚咽。呵責。そして渇望する。
暴力と破壊の後に残っていたのは、一欠けらの愛情だった。



( ;ω;)「生きよ…………生きよう」


確かな声量でブーンは言った。
涙浮かんだ顔を乱暴に拭き、前を見る。


生きよう。泥水を啜ってもいい。這いつくばってもいい。
71:2008/01/02(水) 11:25:54.91 ID:





( ^ω^)「生きるお!」





それは宣言。決意の表明。
いい終わり、ブーンはおかしくなって少しだけ笑ってしまった。
いつだって正解は近くにあった。だけど僕は、いつだって遠回りしてしまうんだ。



( ^ω^)「……そろそろかお」



言うと同時か、位のタイミング。
インターホンの軽い音がブーンのいたリビングに響いた。


                    第2話【 確認すべきだ、と誰かは言う 】終 →第3話へ
73:2008/01/02(水) 11:30:20.96 ID:


私たちの低落を嘆きなさった神様は、
私たちから唯一無二の明日を取り上げたんだ。



第三話 『 カゲロウの日だ、と彼女は呟いた 』



1/13 23.30  ドクオ宅


テレビ放送を見た後、ドクオは無言で立ち上がってテレビの電源を落とした。
PCでVIPの様子でも覗こうかと思ったが、
報告と同時(もしくは、それの前後)にサーバー自体が死んだらしい。

飛んだ、ではなく死んだ。もう生き返ることは無いだろうと踏む。
ザオラルも不死鳥の羽も、所詮はご都合主義で塗りつぶされた0と1の世界でしか在り得ないのだ。

お気に入りに入れてあったページの大半で表示された
404ページを思い出し、少しだけ苦笑いを漏らした。
75:2008/01/02(水) 11:33:41.59 ID:
そんな最中も、ドクオは驚くほど静かな心でいられた。
もっとも、ドクオの持つその感情は冷静というよりは虚無に近いものだった。

生への執着も、死への渇望も。何も無いのだ。
何かのきっかけ、この場合は世界終了の知らせだがとにかく、
テープラインが切られた瞬間にドクオの中で無が生まれ、
それまでその中で渦巻いて、堂堂巡りだった一切の感性や感情を消しのだ。


――――いや、そもそも最初から自分は何も持っていなかったのかも知れないけれど。


ベットに座り、ドクオは揺れるカーテンをぼんやりと見ていた。
空は相変わらず黒く、雲は相変わらず白い。
世界はその形を変えていないようにも思える。




――それをただの幻想だと打ち棄てるにはドクオは未だ弱すぎるし、強くも無かった。



76:2008/01/02(水) 11:34:05.01 ID:
見たことある気がするなぁ
77:2008/01/02(水) 11:35:01.17 ID:
見たことあるって言ってるやつは>>5参照
78:2008/01/02(水) 11:36:58.85 ID:





――もし明日、世界が滅びるとしたら、君は何をする? 何をしたい?





その問いかけが、ただの妄想や理想で無くなった瞬間なんて



('A`)「笑えないジョークだな」



ただ一言そう呟いて、ドクオは横になった。
口に含んでいた常備薬でもある睡眠薬を嚥下する。通常の3倍程多めだ。

そのまま腕を目隠しのようにして、硬く目を瞑った。
このまま逝けるならしめたものだし、無理なら無理でベットの上で死にたいなぁ、
とだけ無気力に思って、意識を手放した。
79:2008/01/02(水) 11:42:30.82 ID:
1/14 8:00 ドクオ宅

ドクオを現実へ引き起こしたのは、控えめなノックの音だった。
規則的に叩かれるそれは、確実にドクオの部屋の入り口から発せられていたものだ。


寝返りを数回打ってから、ドクオは1度大きな欠伸をした。
時計よりもまず窓を見て今が朝であると言うことを確認し、失笑を漏らす。


まだ図太く自分は生きているのか。と。


('A`)「誰」


ぶっきらぼうに、つっけんどんに。たった一言の単語。それから、


('A`)「母ちゃん?」


確認作業に移った。
だるい体に鞭打って起き上がり、ドアに近づこうと腰を上げた。
が、部屋の中の雰囲気が動くのが解ったのか、ドアの前の人物は軽く息を呑んでそれを制止した。
80:2008/01/02(水) 11:43:50.18 ID:
「――――っ、待ってくれ。ドアは、あけなくていい。すぐ、済むから」


ドア向こうから聞こえてきた凛とした声の主を探し当てる過程で、ドクオの中で何秒かの巡廻があった。

無論、それには理由がある。
最有力候補としてあがっている人物が、今、この場に居る可能性は足り得ないからだ。


今この場にその人がいる訳がない。
しかし声そのものは自分がよく見知るものだ。


だから余計、混乱する。


('A`)「――っぁあ……」


今扉一枚挟んだ所にいる人の名。
喉に詰った、一匙の"そうであって欲しい"の思い。


('A`)「――クー、姉さん?」


呼ぶ。
83:2008/01/02(水) 11:58:42.76 ID:


川゚-゚)「ああ」


扉の向こうから、やはり凛とした、あの声で返答が来た。
その瞬間、ドクオの顔に光が宿り、背筋が伸びる。


('A`)「やっぱりクー姉さんだ! どうしたの? いつコッチに戻ってきたの!?」


ドクオはそう言うとドアに向かって歩き出した。
ギシリ、フローリングの床が軋む。

『クー姉さん』

久々に口にした、懐かしい響き。
キシリ、ドクオの心のどこかが軋む。


川゚-゚)「……こっちに来るな!!」

強い拒絶。え。と、ドクオの脚と思考が、止まった。
ギシリギシリ。フローリングの床とドクオの心自体が軋む。
84:2008/01/02(水) 12:06:43.63 ID:


('A`)「――え? ど、どう言うことだよ、クー姉!?」



折角会えたのに! ドクオの感情の揺れ幅が大きくなる。
"折角"と言う言葉には、色々なニュアンスが含まれていた。
それもそうだドクオとクーは、もう10年にもなるか――
それほどの月日の間を開けて、今日。世界が終る今日に、久々に会ったのだから。
原因は両親の離婚にあるのだが――そう言う深いところの話は、また後の事としよう。

扉向こうのクーが、大きく息を吸った。
そうして、発する一言一言に言霊を含めるみたいにあの声で――言う。


川゚-゚)「最後、だから。最後の、挨拶に来たんだ。
もう、帰ってはこないだろうから。顔は、見せないでいいから」


"別れがつらくなる"から"決心が鈍る"から。
言わずとも、ドクオには、クーがそう言いたいのだろうなということは容易に汲み取れた。
やはり、兄弟なのだなと思う。深いところで、繋がっているのだなと。
85:2008/01/02(水) 12:08:19.00 ID:
('A`)
86:2008/01/02(水) 12:09:42.08 ID:


('A`)「――だったら、余計、じゃないか。クー姉さん。一緒に逝こうよ。
俺、もう腹に決めてるからクー姉ちゃん一人に背負わせるわけにはいか「そうじぁ――なくてッッ!」


ドクオの言葉を割って、クーがはっきりと大きく声を張り上げて否定した。
え。と、再びドクオが戸惑う。


川゚-゚)「私は一人で大丈夫だから」


『それ』はクーなりのオブラートに包んだ、だけれどもドクオにとっては、強かな"拒絶と否定"だった。

ドクオなりに要約すれば"お前はいらない"という事だ。
クーもそれを解っているハズなのに。


自分がどれだけ死にたがっているのか、ということ。
自分がどれだけ生きていたくないか、ということ。


兄弟、だから。解ってくれると思ってた。のに。
87:2008/01/02(水) 12:12:00.05 ID:



川゚-゚)「ドクオ。お前には、姉らしい所なんて見せたことなかったな。すまなかった」



つらつらとクーが述べる言葉は、全て過去形で。


孤独感と、突き離された裏切りによる憤りの中で、
ドクオは今までの自分の人生を振り返っていた。

苛められ、ボロボロにされ、グチャグチャになり、
唯一見つけた縋る相手にさえ、土壇場で裏切られたドクオの人生。

ただ寂寞感ばかりが自分の周りを徘徊し、
やがてそれさえも自分の周りから去っていった感じだ


詩人のような考えを貼り巡られたドクオの瞳に、一筋の水が伝った。
それを涙だと言うには、言葉はあまりにも粗末だ。

その水にはドクオの感情が篭もっていない。

ただ数滴、嗚咽も漏らさず声にも出さず、ドクオは頬を伝う水を
自分の物ではない、他人のものだと言うように静かに受け止めた。
88:2008/01/02(水) 12:14:46.83 ID:


それらを一通り流し終った後、ドクオは自分の中で何かが壊れる音を聞いた。


――もしかするとドクオの流した水は涙ではなく、
ドクオの中に僅かに残っていた希望の水だったのかも知れない。



今はもう、そう関係無いことだが。



辞世の句を述べるクーの方向へ、ドクオは黙って歩を進めた。
逃げるなら逃げればいい。逃げなければ、このまま辱めでも受けさせて首でもしめればいい。
そんな最悪な思考回路。


引き戸である部屋のドアを勢いよく開け、廊下に正座する姉、
クーの姿を認識した瞬時、ドクオは強い眩暈を覚えた。

89:2008/01/02(水) 12:18:35.71 ID:
('A`)「クー姉さん…………?」

川゚-゚)「だから――来るな、と言ったのに」


くらくら くらり。


何だコレは。誰だコレは。


――これが。この人がクー姉ちゃん……?


クーを見下ろす形で、ドクオは首を小さく傾げた。
ただ純粋に、彼女の姿が――重ならない。あの、凛々しくも美しいあの人に。


川゚-゚)「君にこんな姿は、見せたくなかったんだよ」


落ち込んだように、ニヒルな笑いをしてみせたクーに対して、
ドクオは何の反応も示せず、首の位置を戻す事すら出来なかった。

イレギュラーだ。
完全完璧に、完全無欠なまでに、疑問が解けない。
絶対零度の氷のように思えた。絶対に、何があっても溶ける事が無い塊だと。
90:2008/01/02(水) 12:20:48.98 ID:


川゚-゚)「ドクオ君。そう言う、ことだ。
さて――私はそろそろ逝くよ。ありがとう、さようなら。君は生き」


立ち上がったクーが紡ごうとした「ろ」の言葉を、ドクオの唇が摘んだ。
クーが目を張る。クーの髪の毛にドクオの手が絡まる。
鋭利な刃物か何かで切られた、短くなったその髪へ。


川;゚-゚)「ちょっ……! ドクオく――」


服を破る必要は無かった。彼女をぐちゃぐちゃにする必要も無かった。
彼女は、クーはもう――自分がそうしようとしていたそれになっていたのだから。

それでもクーは、ドクオに会いに来た。
どんなにされようとも、気も強くもち自分に会いに来た。
矜持を粉々にされ、その肌に汚らしい男の手が触れても。

そんなことを思えば――ドクオはこの時初めて、泣きそうになった。
叫ぶ事無くドクオは一度、静かな涙を流した。

自分のためではなく、クーの為に。只一度の初恋の人のために。
91:2008/01/02(水) 12:25:59.47 ID:







愛してると言えるはずなどない。


ただ相手の柔かい唇の感触だけが、ドクオにとっての世界の全てになった。






92:2008/01/02(水) 12:26:41.69 ID:
刹那のキスが終わり、どうしようもない静寂が二人を包み。
やがてそれはドクオの心へ落ちていった。


川゚ー゚)「お別れのキスか? 何だか、ロマンティックだな」
クーがくすくすと笑う。


焦燥と動悸。強い眩暈。


('A`)「ク、クー姉、クー姉さん。お、おれ、俺は――――」


じわりじわり。目頭が熱い。


半身を失う? クーがいなくなる?
これまであるのが当たり前だった物がこんな意図も容易く?


明日を失っても良かった。自分がどうなろうが知ったことではない。
彼女さえ居てくれれば、彼女のいる世界があればそれで良かった。

それが一瞬で。この一瞬で、目の前で崩壊する。
ふざけるな――そんな、そんなそんなそんなそんなそんな――そんなこと、認められるか――
93:2008/01/02(水) 12:27:39.82 ID:


川゚-゚)「泣かないでくれ、ドクオ。死に心地悪いからな」


どうゆう言葉だよ。それ。


川゚-゚)「泣かないでくれ、ドクオ。私より一日でも、一秒でも永くでいいから笑っててくれよ」


それでも今から死ぬのか。私。コロコロとクーが笑う。


('A`)「何で――なんでそんなに。クー姉さんは――ッ」


笑ってられるの?

言おうとした言葉が、クーの人差し指に詰まれた。
そうして彼女は穏やかに笑った後に言う。
94:2008/01/02(水) 12:29:02.57 ID:



川゚ー゚)「             ?」



聞こえなかったよ、何。と言いながら、ドクオは目を張り、クーの口元へ耳を持っていった。
そうする間際、ドクオの唇に掛けられていた手がはらりと落ちる。


('A`)「――――――――……」


舌に雑草が絡まっていく。言葉が枯れる。
そうして全てが、奪い去られていく。

自分が何か率先し様とする瞬間に、蹂躪するように掻っ攫われていく。
あっけない幕引きだった。道化だ。まったくもって味気なさ過ぎる。
そこにはなんのカタルシスもロジックもない。ただクーと言う一人の人間の灯火が消えた。それだけだ。

なのになんで。

('A`)「…う――う、ぅぅう……うぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁぁああッッッ!!!!」

心が、欠落するのか。

クーが言った言葉をドクオが聞くことは遂に無かったと言う。

                    第3話【 カゲロウの日だ、と彼女は呟いた 】終 →第4話へ
95:2008/01/02(水) 12:31:51.24 ID:



だから僕は、明日の為の種を撒く。




第三話 『 仮令そうだろうが歩こう、と彼は広言した 』




1/14 8:30 ショボン宅



(´・ω・`)「彗星は地球と僕たちにひどいことしたよね」



砂嵐ばかりのテレビを見つけながら、虚勢を重ねショボンが呟いた。
誰からの反応もないのは、重々解っている。

この家にはもう、誰もいない。
96:2008/01/02(水) 12:31:55.99 ID:
支援
97:2008/01/02(水) 12:33:52.79 ID:
ショボンは三人家族だった。父と、母と、自分。
多分、何処にでもある平凡な家庭だっただろう。

典型的で平均点な、そんな家族だっただろう。
世界の終わりよりも前に、ショボンの家は終っていたのかも知れない。
それももうどうでもいい事だ。と擦り寄ってきた思考をショボンは切り捨てる。


自分が発した言葉が空中に消えていくのを確かに感じ、どうしようもない寂莫に襲われた。
無言のまま、ショボンは手にもったリモコンでテレビチャンネルを順繰りに回した。


やはりどれも砂嵐だ。


国民テレビとして名高いNHKさえ、その有様だった。

98:2008/01/02(水) 12:35:13.97 ID:


(´・ω・`)「受信料払ってなかったのが仇だったかな――はははは……はぁ」


そう自嘲気味に笑うと、途端に怒りのような悲哀のような様々な感情が、
胸の中から噴出してくるような感覚を覚えた。

蓋をしていた汚いものたちが、一気に溢れ出してくる。


――これは何だろう。なんの感情なのだろう。


怒り? 悲しみ? 喜び? いや――――多分、これは


(´・ω・`)「憤り、か………」


ただただ純度の高い感情。
支配されることに対する不満。自分のタイムリミットを制限される鬱憤。

 

99:2008/01/02(水) 12:38:40.57 ID:





ふざけるな。





(´・ω・`)「諦めないのは、確かに格好悪い。でもね――」



独言、と言うよりもむしろ宣言するようにショボンがまた虚無に呟いた。
チチチ。鳥の鳴き声がする。
これから変わるのかも知れないが、何も変っちゃいないんだ。


(´・ω・`)「それが生きる事へのものだったら、僕は諦める事を放棄してやる」


そう言い切った途端、ふつふつと沸騰するようにショボンの腹の底から、
何か湯のような物が胸にせりあがって来た。

例えるならそれは静かな激流だ。
それが少しの間胸に点在し、その残りが喉仏まで来た。吐き出そうかどうかをショボンは一瞬迷った。
100:2008/01/02(水) 12:39:33.71 ID:


どうする。


そうして肝心な時に過ぎりやがる、両親の顔。


(´・ω・`)「…………」


ショボンは少しわざとらしく、逆に言えば彼らしく口の端を吊り上げると、


(`・ω・´)「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉおお!!!!」

咆哮。
負け犬の遠吠えと誰かが言うなら、それでいいと思う。
犬だろうが何だろうが、まだ生きている。負けていても、生きているんだ。
聞こえてるか、皆。僕はまだ生きている。アンタだって、生きてるんだ。
生きろ、生きろ、生きろ、生きろ、生きろ


生きろよ。


101:2008/01/02(水) 12:40:26.40 ID:
そう思いながら、自身の息が切れるまでショボンは叫び続けた。
急な運動で肺は軋んで鈍痛を生むが、言うなればそれさえもショボンがまだ生きている証だ。







ああ、ほら、解かるか。遊びはまだ終っちゃいない。










102:2008/01/02(水) 12:41:58.88 ID:
同時刻、ブーン宅

( ´ω`)「…………」


チャイムの無機質な機械音で、ブーンの意識は完全に引き戻された。


( ^ω^)「……だれだお?」



大仰にブーンは立ち上がると、玄関の方へ歩いていく。
インターホンで出ないあたり、ブーンらしいと言うか。
けれども一応、金属バット片手なのだが、とにかく。


( ^ω^)「……お?」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」


ドアを開けるとそこには俯いたツンの姿があった。

ブーンの思考回路は一瞬止まった。ちぐはぐだと、思ったのだ。
ツンが私服ではなく制服だったからだ。
紺の学生標準服。自分が着るブレザーと同じ色合いの、それ。
103:2008/01/02(水) 12:43:31.88 ID:
その所為だろうか、ブーンにはツンがどこかブレて見えたのだ。
自分が切望していた、『日常』がそこにあったからだろうか。


ξ゚⊿゚)ξ「……遅いわよ。バーカ」


第一声、ツンはそう言った。
あ、あぁぁぁ……ブーンの心が、芯から奮える。
多分、『これ』はツンなりの、不器用な、心配りなのだろう。
彼女は必死で『いつものブーン』に呼びかけてくれているのだ「早く用意しなさいよ。学校遅れるでしょ?」 と。



( ^ω^)「……ごめん……」



ブーンが弱弱しく呟いた。拳を握り締める。指先が白くうっ血し始めていた。
この謝罪は、勿論「遅くなってごめん」と言う意図の謝罪ではない。
「もう戻れない」と言う意味の、ごめん。なのだ。
ツンも、そのトーンで理解したのだろう。フン、と鼻をならして、腕を組み、


ξ゚⊿゚)ξ「バーカ」


そうやって、笑ったのだった。
104:2008/01/02(水) 12:46:20.49 ID:
え……と、ブーンが弾かれたように顔を上げた。
鳩が豆鉄砲食らったような顔でツンを見つめた。


ツンは笑っている。
ブーンの目の前で笑っている。

『非日常』の中で『日常』的に、気丈に、優雅に、それでいて彼女らしく勝気な笑みで。

( ^ω^)「え……」

ξ゚⊿゚)ξ「解ってるわよ。もう戻れない事ぐらい。
推して察しなさいよ、馬鹿ブーン。これは冗談。社交辞令のただの挨拶」


ツンがため息をついて、まだ情けない顔のブーンを思い切りドついた。ジャンケン、グー。ドーン。
ガスンとかドコォとか、そう言う在り来たりな擬態音ではなく、
メシッ、と、人として大事な骨が軋む音が耳の奥で響いた。


(;; ^ω^)「っ…………ってぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえ!! 何すんだお! 酷いお!!
人が激しく落ち込んでる時にそんなことやるのかお!? ツンの血は何色だおォォおッッ!?」

頭抱えてもんどりかえる。
痛みはリアルだ。実直だ。素直だ。目の前のコイツと全然違う。
105:2008/01/02(水) 12:47:46.01 ID:


大体、メリケンで人を殴るなんて正気の沙汰とは思えまセン。


ξ゚⊿゚)ξ「っ……あははは! あははは!! その調子その調子!」


お猿の籠屋状態である。

(* ^ω^)「な に が だ お !!」

立ち上がり、両手で頭蓋骨抱えながらツンに講義し様として、止まった。


( ^ω^)「……ツン?」

ξ゚⊿゚)ξ「……何やってんのよ。早く、私に突っかかってきなさいよっ!」

彼女の目から、何滴か、涙が流れていた。


( ^ω^)「…………」


そこで初めて、ブーンはツンがくれた真の心配りと鈍感な自分を感じて、
悲劇のヒーローぶっていた自分自身を激しく恥じた。そうだ。辛いのは、自分だけじゃない。
悲劇のヒーローやヒロインは、自分だけじゃないんだ。
106:2008/01/02(水) 12:49:53.65 ID:


( ^ω^)「……ごめん」


ブーンが謝罪する。
どんな意図で、なのかはきっと理解してくれたのだろう。
ツンが鼻を啜る音がしてから、フン、と、彼女のリアクション芸当である鼻ならしが聞こえてきた。


沈黙が蚊帳のようにおりてから、何秒かして、ツンが切り出した。


ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと一緒にきてもらえない? 当然学校は休みでしょ、どうせ誰も来てないし」


見れば、ツンは恥かしげにそっぱを向いている。
こう言うところはかわいい奴だとブーンは思う。彼女のそんな一面を、もっと見たかったとも、思う。


( ^ω^)「デートかお?」


首をかしげながら、ブーンが言う。
…………往復合戦。先刻の復讐である。
107:2008/01/02(水) 12:54:42.59 ID:


ξ*゚⊿゚)ξ「ち、ちち、ちがうわよっ!! 私はアンタは一人さびしいだろうと思っ……」

( ^ω^)「ツン、ちょっと待っててくれお」


はいはい、となだめてからブーンはツンの抗議を止めた。
何よ! と振りかぶった彼女の右手を見て冷や汗をかきつつ、ブーンはリビングへと戻っていく。




リビングの有様は、先刻言ったようなものだ。
ぐちゃぐちゃで、乱雑でただ純粋な破壊で埋め尽くされていた。


( ^ω^)「…………」


それを背徳の念を込めて見つめ、ブーンは中央のテーブルへと足を進めた。
封筒を手にもち、手紙を制服のズボンに捻じ込んで、
早くとか鈍間亀とか悪態をつくツンの元へと駆け足で戻った。
108:2008/01/02(水) 12:56:04.22 ID:
( ^ω^)「ツン。これで遊びにいくお」


そういうと、ブーンは200万ペソの入った封筒を差し出した。
ツンが両手でそれをとって、中身を見てから、目を見開いた。


ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、何よこのお金……」


ツンが明らかに戸惑っている。当たり前だろう。
学生自分の身には200万ペソなんて大金過ぎる。
はわわ……と、ツンがうわ言のように何語ともつかない言葉を漏らしていた。


( ^ω^)「ブーンの全財産だお…これで一緒に遊びにいくお」

ξ*゚⊿゚)ξ「ふ、ふん、どうせお金で遊べるものも無いのに馬鹿じゃないの? でも……」


ツンが言いよどんだ。
じわりじわり。彼女の目に涙が浮かぶ。
109:2008/01/02(水) 12:57:04.26 ID:


( ^ω^)「……お?」

どうしたのかお? ブーンが覗き込もうとして、

ξ*;⊿;)ξ「そ…その…私のためなんかに…ウ…ウワァアアアン」

ツンに抱きつかれた。
しっかりと抱きとめながら、大丈夫だお。と何回も何回も繰り返し言葉をかけた。



ブーンが思ってたよりずっと、彼女の背中は小さかった。




                   第4話【 仮令そうだろうが歩こう、と彼は広言した 】終 →第5話へ
110:2008/01/02(水) 13:00:00.07 ID:


それでも世界は終わらなかった。



第四話 『 そう言う容をした物なだけだ、とお前は笑った 』



それ所か今も自分の目の前にある。
でかい面して自分を絡めとって行っている。笑っちゃうよな、泣きたくなるよな。
『ふざけるな』って怒鳴ってやりたくなるよな。


('A`)「クー姉さん」


ドクオはクーを呼んだ。
ドクオの腕の中でまぶたを落とし、呼吸をせずしかし薄く微笑んでいる彼女の名を呼んだ。
それしか言葉が出なかったと言う方が正しいのかもしれなかった。
111:2008/01/02(水) 13:01:32.49 ID:
叫びたいのに、泣き叫びたいのに、
姉さんを亡くした辛さで押しつぶされそうなのに、
その名を呼ぶしかできなかったといったほうが正しいのかもしれない。


クーがいなくなれば、それと一緒に自分や世界は消えて無くなると思っていた。


――それでも現実は酷く実直で、変わらずに存在し続けた。
しぶとくも強大に継続していた。何も変わっちゃいなかった。



腕の中のぬくもりも、変わらない。



112:2008/01/02(水) 13:10:05.50 ID:
クーとドクオの別離には、親の離婚が大きな理由としてあった。
ドクオが小2、クーが小6の時のことだ。

元々ドクオの両親仲は険悪で、何かにつけては口論と喧嘩を繰り返していた。
それは今日の親父の浮気からご飯の炊き加減まで、仕様もないことから複雑なことまで色々な範囲に及ぶ。


大抵、ヒステリックな母親の叫び声から始まる。


最初の内はドクオが泣き喚き、無理やりその喧嘩を終結させていたのだが、
その内、幼心ながらもその行為は無駄だと判断したのだろう。
最後あたりは母親のその声を聞くなり適当な本や漫画を持って
クーの部屋に非難することを平然とやってのける様になっていた。


その点に関してはクーは正反対だった。


親の喧嘩に関与することを半ば執拗に拒んだ。
醜い争いは見たくないんだと渋い表情で言い続けた。
ドクオが本片手に自分の部屋に入ってくるのを見てはその整った顔を歪ませ、無言のままドクオに手を差し伸べた。

握ってくれ、という意味だ。

ドクオは易々とそれに応える。
同じように自分もクーに手を差し伸べて、その小さな手で包み込むようにクーの手を握る。
113:2008/01/02(水) 13:10:13.24 ID:
支援
114:2008/01/02(水) 13:11:19.88 ID:
その時はまだ、そうする理由が何故だか分からなかった。
ただクーの手の、自分のそれより少しだけ低い体温を感じながらくだらない喧嘩が終わるのを二人して待った。


('A`)「…………」


ドクオは一度だけ、クーの手を強く握りながらバイバイ、と言った。
クーの遺言を守ろうとそう決意した瞬間だった。


そして今ようやく分かった。
クーが自分に手を差し伸べた意味。そうし続けた意味。



きっとクーは、クー姉さんはそうすることによって救いを求め、
そうすることによって救いを与えていたんだ。


自分自身に、ドクオ自身に。
115:2008/01/02(水) 13:12:59.75 ID:
どろどろと胸の氷が溶けていく。


ドクオとクーはつがいだった。


ただの兄弟ではなく、相互依存と言う関係だった。
そうすることによって自我を保って、そうすることによって自分の輪郭の半分を手に入れていたのだ。
そして今、クーの死によってドクオはもう半分の輪郭を手に入れた。

半分なくなってしまえば、全て消えると思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。

糧にした、と言えば聞こえがいい。
実の所はただ自分の芯の部分が生に対して貪欲だっただけなのだ。
もしかするとクー姉さんがくれたのかも知れないとドクオは思った。


今はそうとしか思えなかった。

116:2008/01/02(水) 13:14:27.97 ID:
冷たいフローリング。歩きなれた自分の家。廊下。
クーの遺体を抱きかかえたままドクオは立ち上がり、自分の部屋へと足を進めた。
ベットの上に彼女を乗せる。ベットのスプリングが軋む。


クーの体は覚悟していたより随分と軽かった。



ギシ ギシ。


胸の音はもう聞こえなかった。
ドクオは立ち上がり、クーの表情を見てから少しだけ微笑む。
バイバイ。ありがとう。だからさようなら。俺は生きるよ、クー姉さん。

ドアノブに手を掛け、一気に引く。


「いってらっしゃい」


最後の最期、そんな凛とした声が聞こえたような気がした。
ドクオは振り返らなかった。

117:2008/01/02(水) 13:15:21.28 ID:
1/14 8:50 ショボン宅

(´・ω・`)「ああいった手前、どうするかね」

自室の中央で大の字で寝転び、天井を見つめたままのショボンが呟いた。
上体だけ起こして、部屋の時計で時間を見る。

8時50分。
秒針が12を通り越した。51分。


(´・ω・`)「参ったな…特にする事がない」


いや、本当に参った。


生きてやると高らかに宣言した癖に、やることがないとはとんだお笑い種じゃないか。
このままダラダラと部屋にいるには、エネルギーが有り余っているし。
そう思いながら、ショボンは床に手を着いて腰を浮かせる。立ち上がろうとして、


そして止まった。
119:2008/01/02(水) 13:16:07.26 ID:
ショボンは視線の先にあったそれを手にとり、握り締めた。
ボトルキープの時に使い、ビンに掛けるキーホルダー。



銀の装飾、草書の英文字で刻まれた自分の名前。
握る力が強くなる。



ショボンはそのまま立ち上がって、無言のまま部屋を見渡した。
もうこの部屋には帰ってこない。
そんな覚悟とともに、住み慣れた自分の部屋の風景を刻み込む。



(´・ω・`)「ああ、そう言えば部活の仕上げ……まだだったっけな」



パソコン部の、自分たちの卒業式用に作った(と言うより作らされた)
安っぽいプロモーションビデオだ。
年間行事で撮ったビデオや写真をつぎはぎして作った、チープさ満点のものだが、
120:2008/01/02(水) 13:17:17.67 ID:
(´・ω・`)「まあ、部長だし、下手にこの世に未練も残したくないしねぇ……」

弁解するようにショボンが呟いた。

最後の『作・情報科学部』の文字入れがまだすんでいないだけだ。
そのまま放置しても一向に構わない。


それでも。


使命感感じる柄ではないけれど、自分の使命は真っ当したかった。
中途半端に終わらせるのは、癪に障った。


理由なんて些細なことだと思う。
この気持ちの根源を探ろうとも思わない。

ショボンは扉の方を見て、歩を進めた。
部屋のドアノブに手を掛けて。最期へ繋がるドアノブを引いて、扉を開いて


自分がまだパジャマ姿であること気付いてまた閉じた。
 
121:2008/01/02(水) 13:18:22.65 ID:
同時刻、ブーン宅

ツンの泣く仕草なんて見たことが無かった。だから途惑った。
ブーンの中にあるのは、負けず嫌いで勝気でいつも強いツンだから。
彼女の弱い部分なんて、見たことが無かったから。


今日限りで、世界はその有り様を急速に変えていっている。
自分に降りかったであろう向こう50年の変化が今日いっぺんに来たのかな、とブーンは思った。

そんな事を思いつつ、玄関でツンを宥め続けるのも何だか悪い気がして来た
ブーンは玄関に座り込む彼女を立たせ、リビングに誘導した。


――――再三言う用ではあるが、リビングの惨状はあの通りである。
とにかく無茶苦茶だ。散らかっているとかそう言うレベルではない。


テレビの画面は金属バットでぶん殴った所為でひび割れてるし、
テーブルの椅子の4脚中2脚はバラバラに分解され、

奥にある食器棚の中身はことごとくひっくり返され、
床に皿だかコップだかの破片を散らばらせて、ほとんどは原型を留めていない。
観葉植物なんかは横倒しにされて土や石が床に広がっていた。
122:2008/01/02(水) 13:18:59.41 ID:
( ^ω^)「…………」
ξ*゚⊿゚)ξ「……、……」
( ^ω^)「…………」

ツンもあっけにとられているのだろう。
今時の泥棒でもこんな手荒な真似はしない。
続く沈黙にブーンの顔が引きつった。冷静になって考えてみるとこれは酷い。


壊して何が残ったと言うのだろう。


ξ*゚⊿゚)ξ「……普段ちゃんと掃除とかしてる?」
( ^ω^)「してないお」


そう言う問題では無いだろうとも思うのだけれど。


ξ*゚⊿゚)ξ「……バーカ」


今日何度目かの馬鹿発言が、リビングに響いた。
123:2008/01/02(水) 13:20:48.66 ID:
しえん
124:2008/01/02(水) 13:23:23.73 ID:
幸いな事に、椅子はまだ2脚残っていた。

自分と向い側の席にツンを付かせて、ブーンは生き残っていたカップを二組取り出し、
それに親父が重宝していた直挽きコーシーを入れる。


椅子に座って、俯き黙り込みながら涙を抑えるツンの姿を
苦々しげに見てから、右手のカップを差し出した。


( ^ω^)「これでも飲むお」


掛けるべき言葉が見つからなくて、ツンに会話の発端を預けた。
コーシーに自分の顔が移りこむ。やはり苦々しげだった。

ξ*゚⊿゚)ξ「ごめんねブーン。その……いきなり泣き出しちゃって」

( ^ω^)「いいお。そりゃあ、こんな事になるなんて僕も思ってなかったお。
ツンが辛いのは、僕もよくわかr「違うのよ!」

ブーンの慰めに、ツンが震えた。否定。
言葉を割り込まれて、ブーンが目を張る。またツンの目に涙が写る。
125:2008/01/02(水) 13:26:30.02 ID:


ξ*;⊿;)ξ「違うの…違うのよブーン」


コーヒーが揺れていた。
ブーンの顔も歪んでいた。
ツンは呟きつづける。


ξ*;⊿;)ξ「違うの。ブーン、私ね嬉しかったの。
       私なんかの為に、って。だけどね。――――私は」

そういって、ツンが顔を上げた。鼻は赤く、目元が腫れている。
出来る事なら、一生、彼女にこんな顔はさせたくなかった。

ブーンにはどうにもツンの表情の中にある心情を察することが出来なかった。
ツンの発言を考え直してみると、ツンのそれには辛さよりも嬉しさの方が勝っているように思える。

そして、贖罪の念が、こもっているように思える。

ツンが自分に謝ることなどあるのだろうか?
むしろ自分がツンに謝らなければならないことの方が、多いように思えるのだけれど――


何秒かの沈黙があって、ツンがぽつりと呟いた。
127:2008/01/02(水) 13:27:42.70 ID:




ξ*;⊿;)ξ「知ってたの。この世界が、終わること」





――――――?



ブーンの思考が止まる。
何、だって? 今、なんて? そう聞く間もなく、ツンが口を開く。



ξ*;⊿;)ξ「騙してて、ごめんね」
 

 


                   第5話【 そう言う容をした物なだけだ、とお前は笑った 】終 →第6話へ
128:2008/01/02(水) 13:28:26.89 ID:
私の家は、この界隈じゃあ、知らない人間はいない程の名家だ。
それに加えて、両親も結構名を馳せた名士であるらしく、自慢ではないけれど私は上流階級の子だと思う。
だからこそ、なのかも知れないけれど
私の基準はいつだって『あの家の子』と言うサークルの中にあった。


私が何か功績を挙げれば『流石あの家の子』

私が何かしくじれば『あの家の子なのに』

父も母も、事あるごとに『私の娘』『お父さんの子』


私は親の体面のために生まれてきたのだろうか?


誰も。大きなサークルの中にある小さな『ツン』と言う私を見てくれない
私の意識を、私の存在を、見てくれない。
129:2008/01/02(水) 13:29:56.64 ID:
いや――見てくれないだけではなかったのかもしれない
私が見せなかったのもあるのかも知れないのか
私が見せなくなかったのもあるのかも知れないのか

きっと 失望されるから  私を――『ツン』を知ったら

きっと 目の色を変えるだろうから

多分、私でさえもあの家と言う殻に閉じこもって安心しきっていたのだろう。


ブーンと出会う

あの日までは



第六話 『 アナザーマインドさ、と君の言葉が 』



人を疎遠している、と言うよりは徹底的に拒んでいたのだろうと思う。
そうする事で、少しでもボロを出さないようにして、私は高貴な生まれの女の子を演じていた。
130:2008/01/02(水) 13:30:29.56 ID:
結局はその仮面も


( ^ω^)「……? ツンは、笑えないんじゃなくて笑わないだけじゃ、ないのかお?」


中学1年。始業式の日。


偶然同じ幼稚園出身で
偶然席が隣になったブーンに
いとも簡単に引っぺがされてしまったのだけれど。


ブーンと一緒のクラスになって、そして席が隣になったのが運のつきだった


アイツはいつだってそう。今だってそう。
笑いながら、私に触れてくる。
サークル領域に足を踏み入れて、不可侵だったツンと言う存在を見てくれる。
131:2008/01/02(水) 13:32:19.61 ID:
ブーンの性格は、あの通りだ。
黙っていても天性の気質からか、あのほにゃほにゃした雰囲気からか、おのずと人が寄ってくる。
その能力は授業中だろうが休憩時間だろうが昼休みだろうが発揮されていて、
その為に私は、アイツと隣の席だったが故に私は
疎遠すべきだった人との交流を嫌が応にもすることになった。


でもそれに、心地良さを感じる私も居て



『ツン』を見てくれている人が居る事に安心している私も居て



だけど、もう戻れはしない。
どんな形であれ、私はブーンを裏切った。
私の目の前で、困惑している彼が。
数日前のブーンが日常の中で笑っている所を私は2.3歩引いた所から、冷めた目で見つめてしまった。
だから私に、もうその資格はないのに、
何故こうも未練がましく、アイツの姿を見て安心してしまっているんだろう?


私が行ったのは、原罪に等しい裏切り行為なのにも関わらず。
132:2008/01/02(水) 13:33:54.85 ID:
( ^ω^)「……ツン? それ、どう言うことだお? 知ってた……って」

ξ゚⊿゚)ξ「…………………」

( ^ω^)「ツン。黙ってないで、何とか言ってくれお…!」


ブーンから出されたコーヒーに、私の顔が映っていた。

醜い。

何て醜い顔をしているんだろう。目もとが腫れて顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


これが報いなのだろうか?


そう思うと、また涙が浮かんで来た。必死で押える。


ξ゚⊿゚)ξ「…………ブーン」


声に出すけれど、それは震えていて。
コーヒーの水面が揺れた。世界が歪む。
133:2008/01/02(水) 13:34:42.51 ID:
(; ^ω^)「な、何だお」

返事を出すブーンの声も、また震えている。
この真相を伝えたら、ブーンは何と言うだろう。
私を殴るのだろうか。椅子を蹴り倒して怒鳴り散らすのだろうか。


伝えたくない

伝えなくちゃ


ξ゚⊿゚)ξ「――抽選、って知ってる?」

( ^ω^)「……あの、無差別に選ばれた人たちが火星移住する、って言う奴かお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。それで――私の両親はそれに選ばれたの…… ううん」


一旦区切って、コーヒーカップを手に取った。
じんわりと伝わってくる、暖かな液体の温度。


言わなくちゃ
134:2008/01/02(水) 13:35:56.08 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「正確には、私の両親はその推薦枠で通ったの」

優秀な人材として選ばれた。言わば現代版、ノアの箱舟に。

( ^ω^)「……ツンは? 通った、って言うんなら、ツンはどうしてここにいるんだお?」

ブーンが訝しげに聞いてきた。声のトーンが、若干落ちてきている。
その質問で、私の中でせき止められていたものが取っ払われたらしい。
俯いたまま自嘲気味に笑い、言う。


ξ゚⊿゚)ξ「私はね、捨てられたの。両親に」


(; ^ω^)「………なっ!!!?」

私の言葉にブーンが息を呑んだ。
喉が嘶くようにキュルキュルと音を立てる。

ξ゚⊿゚)ξ「聞いちゃったのよ、全部。5日前の夜にね。
 彗星衝突の話、推薦枠で通った、って話。私が見捨てられる話」

( ^ω^)「ツン!?」

ツラツラと淀みなく真実を話す私に、ブーンが戸惑ったように私の名前を呼んだ
それでも、私は言葉を続ける。伝えなくちゃいけない。これは私の責務。
135:2008/01/02(水) 13:37:08.90 ID:

ξ゚⊿゚)ξ「それなのに、私は。私はずっとブーンたちを裏切ってた
全部知ってて、全部知らないフリして――
何事も無かったみたい皆と一緒にただ笑ってた! 私は全部知ってたのに!!」

顔を上げて、ブーンを見た。
この時初めてブーンを真正面から見た形になる。

ブーンの顔は歪んでいた。
私の目に溜まった涙のせいだった。



( ^ω^)「ッ……もういい!」


その言葉と共に、ブーンがテーブルに拳を叩きつけた。
肉がぶつかる音がして、その拍子に肩を揺さぶる


ξ*;⊿;)ξ「ブーン…!? でも私ッ!」

( ^ω^)「もう、いいんだお……」


ブーンが顔を逸らした。ゆらゆら揺れる真っ黒なコーヒー。
顔を逸らしたまま、ブーンが言葉を紡ぐ。
136:2008/01/02(水) 13:39:18.52 ID:
支援っぽい言葉が浮かばないので支援
137:2008/01/02(水) 13:44:53.06 ID:


どうしようもない私に、救いの言葉が掛けられる。




( ^ω^)「ツン、ワシントンと桜の話、知ってるかお?」




あ、それなら知ってるわよ。と、私は言葉を漏らし、
うる覚えの話の内容を記憶の端を辿りながら言う。


ξ*;⊿;)ξ「ワシントンが父親の桜の木の枝切っちゃったやつでしょ?」


うん。と、ブーンから肯定の相槌が打たれた。
私はブーンの言葉を待つ。
138:2008/01/02(水) 13:45:21.39 ID:


( ^ω^)「でもそれを自分がやったんだと正直に告白して謝ったら、
        父親は怒るどころか、その行為を誉めてくれた。ってやつだお」


ブーンの顔がこちらを向いて、目があった。
真直ぐな視線こう言う時のコイツの視線に、私は弱い。


ツン何でか、解る?


瞳の奥にそんな言葉があった。
139:2008/01/02(水) 13:46:04.95 ID:
ξ*゚⊿゚)ξ「ワシントンがまだ手に斧持ってたからじゃない?」

( ^ω^)「…………」

沈黙。
ち、違うお。
弱弱しくブーンが否定した。グゥ。


( ^ω^)「父親は、ワシントンの正直な心を誉めたんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「……正直な、心」


私が反芻する。
ブーンがそうだお。と、また優しい声で肯定した。


( ^ω^)「やってしまった事は、もう戻れないけど。
 どうあれ、ツンは僕に打ち明けてくれたお。本当のことを、話してくれたお」

ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン……」

( ^ω^)「それに、この部屋…実は僕がやってしまったんだけど……」


ブーンが私から視線を外して、部屋を見渡した。
最初に見た時も驚いたけど、部屋の中はぐちぐちゃで、誰かに襲われたのかとも思ったけど――
140:2008/01/02(水) 13:47:09.26 ID:


( ^ω^)「壊しても。何も残らなかったんだお。
       ただ、――ただ虚しいだけだったんだお」


それと同じだお。


目を細めさせて、ブーンが言った。
そしてまた私と目を合わせて、こう言うんだ



( ^ω^)「僕は。ツンがそうやって僕に言ってくれたことが、嬉しいお」


ありがとう。ツン。


ξ*゚⊿゚)ξ「ッ……!」

( ^ω^)「さ。落ち着いたら、どこか遊びにいくお! 後悔ないように、パーッとやるお!」


ブーンが勢いよく立ち上がって、私の方へ手を差し伸べた。
141:2008/01/02(水) 13:49:09.28 ID:
カラカラと笑う。幸せそうにブーンが笑う。
だからつられて私も笑った。そう言う気分だったんだ。

殴られると思った。怒鳴られると思った。
例え殺されても、文句を言う筋合いはないと覚悟していた。


でもブーンは、笑って私を許して、
それどころか、お礼まで言って来た。


だから、私も笑えた。


ξ゚⊿゚)ξ「うん……ありがとう。 そうだ、ブーン」


涙をふき取って、提案する。行きたい場所を言ってみる。
世界の最期を彼と過ごす。――素晴らしいじゃないの。


ξ゚⊿゚)ξ「学校、行ってみない?」


                   第6話【  アナザーマインドさ、と君の言葉が  】終 →第7話へ
142:2008/01/02(水) 13:49:54.80 ID:
蛇足の話。

( ^ω^)「外は危ないお ニュースでもそう言ってたし……何か武器をとは思うんだけれど」

ξ゚⊿゚)ξ「どうするの?」

( ^ω^)「僕はバットかトンファーでいいお。そう言えば、ツンの武器、何だったんだお?」


まさか素手で来たわけでもあるまい。


ξ゚⊿゚)ξ「ええこのメリケンを」

(; ^ω^)「それは凄い武器を…」


……って、それで僕殴られたのかお!?(第4話参照)


(; ^ω^)「あのちょっとコツ掴んだわよって感じにヒットしたことから察するにまさか……此処に来る前何人か!?」

ξ゚⊿゚)ξ「ふ~ん♪ ふふ~~~ん♪」

( ^ω^)「ツン…恐ろしい子……!!」
143:2008/01/02(水) 13:50:44.86 ID:
ツンwひでぇww
144:2008/01/02(水) 13:51:33.63 ID:
実際こんな状態になったらかなりヤバいだろうな

152:2008/01/02(水) 14:18:05.45 ID:
こんな状態になったら間違いなく略奪が起こるな
153:2008/01/02(水) 14:41:50.82 ID:
>>152
すでに起こってるな。
155:2008/01/02(水) 14:56:44.66 ID:
六話まではなるべく決意とか生きる事への構え方とかそう言う部分だけ書こう、
「汚い部分」を出さないようにしようとしたから、
「世界の状態」について不足分がある事はたしかです。
情報規制と略奪については出さなきゃドクオとクーの話とか
わけが解からなかったからちょいと顔を覗かせてますが。


後半にかかる12話まではどろっどろなのが見れると思うんだぜ。
世界系(笑)
166:2008/01/02(水) 17:19:27.67 ID:


ありとあらゆる汚い感情を、思い浮かべてみろ。

理解できるか。

それが、僕たちを成す材料の全てだ。




第六話 『 だからこそ愛おしいのだ、と貴方は抱きしめる 』





冬初めのこの時期、明日が来ようが来まいが例外なく寒い。
その上時折吹く北風は、芯から体温を奪い去っていくようだった。

(; ^ω^)「さ、寒いお……」

ξ゚⊿゚)ξ「手袋マフラーに加えてコートで完全防備の人間が何を抜かすの」

( ^ω^)「ブ、ブーンは寒がりなんだお」


言ってから気付いた。そうだ。寒いもんは寒い。
所々で煙が立ち昇っていたり、それまであった家が焼け落ちていたり、
そこら辺に誰の物かもわからない血液が付着してようが。
167:2008/01/02(水) 17:20:38.88 ID:


やっぱり、寒いのだ。


消防署のサイレンは聞こえてこない。
どうせ逃げたか職務放棄だろうし、義務を追求する気にもなれない。


――町は混沌としていた。


ただそれだけだった。
外は驚くほど静かで、そしてそれでいて混沌とした無秩序が大きな面をして横たわっている。
乱暴で横暴。杯に満たされているのは静寂と暴力と背徳。
ジャリジャリと、二つ分の摩擦音が響いていた。焦げ臭いにおいが鼻をつく。


そんな雑然とした心でブーンは思った。


これが世界のあるべき姿だとでも言うのだろうか。
こんな乱雑とした世界が本来の姿とでも言うのだろうか?
168:2008/01/02(水) 17:21:36.81 ID:
汚辱にまみれた、こんな姿の世界が、真の人間味とでも言うのだろうか。


( ^ω^)「……お? ツン、寒そうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「……そりゃ寒いわよ。あー、ムカツク。人の隣でぬくぬくと」


しきりに手を擦り合わせるツンを見て、ブーンが声を掛けた
ツンのドスの効いた声を耳に届けてから、一歩横に飛んだ。


(; ^ω^)「い、痛いのは嫌だお!?」

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿じゃないの。バーカバーカ」

( ^ω^)「ひ、酷い!」

ξ゚⊿゚)ξ「こう言う時は気使いなさいよ。この木偶の坊役立たず。馬鹿」

散々な言われ様だ。


( ^ω^)「うぅ……いつにも増して言葉攻めが激しいお………お?」


こう言う時は気を使え?
169:2008/01/02(水) 17:22:32.02 ID:
……。

…………。

ブーンが何秒か思案する。そして行き着いた結論を租借して、何秒か思考が固まった。
相変わらず鼻に付く、焦げた匂い。


( ^ω^)「…………うっ……うはははははははwww」

ξ#゚⊿゚)ξ「な、何よ何よ何なのよ!!?」

ツンが噛み付くように言う。ブーンはまだ笑っている。
うはははwwwwwうははwwww心底嬉しそうな顔で笑い続けている。


ツンが思い切り不機嫌そうな顔をして眉を顰めた。
照れ隠しだとわかったブーンにはそれこそ微笑ましい。
ニタニタしながら、コートのポケットを軽く叩いた。


( ^ω^)「いらっしゃい」

171:2008/01/02(水) 17:25:17.83 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「…………」

( ^ω^)「ほら。ツン。はーやくしないと閉めちゃうぞ」


なっぱはっぱーくさった豆腐。
懐かしいメロディだ。これでもかと言うほどに不安感を煽ってくれるメロディでもある。


ξ゚⊿゚)ξ「あー! もう!!」

ツンが腹を括ったように、でも怒鳴った。


ξ#゚⊿゚)ξ「おじゃまするわよ! なんか文句でもあるの!?」

( ^ω^)「ないおないお。全然ないお」


あー!ムカツク!
二ヤ二ヤと笑いつづけるブーンに、ツンがそう言って開いた左手の方でパンチをかます。
鳩尾に綺麗にヒット。ちなみにツン初期装備・メリケン。


( ^ω^)「あべしッッ!?」

思わず悶えた。
172:2008/01/02(水) 17:27:57.37 ID:



(    )「……なんて言うか、安心する、を通り越して君たちには呆れるね」



この夫婦漫才。
その光景を見ていたのか、呆れた声が二人の背後から入ってきた。


――終焉へのピースはそろい始めていた。
そしてまた一欠けら、ブーンやツンにとってかけがえのない大切なものが戻ってくる。


( ^ω^)・ξ゚⊿゚)ξ「「っ……!?」」

二人は息を呑んでから振り返った。
反転する視界に入ってくるのは、いつもの住宅街。
そして男の後方――繁華街の方角から立ち上る、いくつもの狼煙。

ξ゚⊿゚)ξ「ああ!」

ツンの表情が輝いた。
174:2008/01/02(水) 17:31:16.01 ID:
( ^ω^)「ショボン!?」

(´・ω・`)「やあ。奇遇だね」

いつものブレザーで、クラスメートで大切な友人のショボンが笑っていた。
右手をひらひらと振りながら、いつものように、いつもじゃない風景の中で笑っている。


どこからともなくけたたましいロードノイズと誰かの悲鳴が聞こえていた。


(´・ω・`)「世界が終わるって言うのに登校かい? エレキセントリックだ」


呆れた、と笑いながらそう言うショボン。
……とか言って、とツンが切り出した。


ξ゚⊿゚)ξ「そういうショボンだって……」

(´・ω・`)「ああ、エレキセントリックだね」


僕も学校に登校です、と彼は笑う。所詮は僕ら、同じ穴の狢だったって話だ。
175:2008/01/02(水) 17:34:54.45 ID:
( ^ω^)「ショボンは学校に、何にしに行くんだお?」

(´・ω・`)「何、言う程の事じゃないさ」

ニヒルな仕草で髪をかきあげ、ショボンは今だ繋がれたままの
ブーンとツンの手をみた。じぃいと。なんか解からないけど羨ましげに。

ξ゚⊿゚)ξ「っ……!」

真っ赤になりながらツンがブーンの手を離す。
……ちょっと残念。そう思うと、切れたナイフのような視線でツンに睨まれた。

人の心を透視するのはやめなさいお。


( ^ω^)「た、旅は道連れ世は情け、ショボン、一緒に学校行くお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ!」

(´・ω・`)「別に僕に気を使わなくてもいいんだよ? 2人で楽しんできなよ」


そう言い、ショボンはじぃと再度手を見た。ただし今度はブーンの手だけだ。
ぞわり、とブーンの背筋に冷たい汗が通る。……な、何。何故尻の穴が痛む――ッ!?
176:2008/01/02(水) 17:38:08.82 ID:
( ^ω^)「ブ、ブーンたちも正直どうしていいかわからないお」

(´・ω・`)「他には知り合い見なかったかい?」


( ^ω^)「ああ、それどころか、ここに来るまで人っ子一人とも会わなかったお」


(´・ω・`)「――繁華街の方は酷い有様だったよ」


ショボンの家から学校までは、どう足掻いても町の中心街を通らなければならない。
ともすればショボンの言葉の信憑性は確かなものだ。
しかしその地獄を通って来ても無傷と言うのは……な、何。何故尻の穴が痛む――ッ!?  しかも二回目っ!


ξ゚⊿゚)ξ「それはそうね現にあの煙……」


と煙が立ち上る方向をツンが見た。
キキィ、とまたタイヤのノイズがどこかで響いた。
177:2008/01/02(水) 17:39:29.97 ID:
支援
178:2008/01/02(水) 17:40:15.77 ID:
( ^ω^)「そうかお……やっぱり人が集まる場所は危険だおね」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと考えたんだけど、生き延びる方法って考えたことない?」

しばしの沈黙があり、

ξ゚⊿゚)ξ「……ごめんなさい」

(´・ω・`)「いいんだ。何もしないよりかは有益だろう。
……どういう生き方をするかは、別だけどね」

ショボンが苦々しげに呟いた。


『どういう生き方をするか』


その言葉は、意外にも重く二人の腹に落ちてきていた。


ξ゚⊿゚)ξ「私は……」

(;^ω^)「ブーンは……」


独言するように、弱々しげな確認の言葉が漏れた。誰かの叫び声。
181:2008/01/02(水) 17:50:49.71 ID:
1/14 9:20 商店街

閑散としたアーケードをドクオは一人歩いていた。
100メートル先まで、閉め切れられたシャッターや降ろされた鉄格子がグダグダと続いていた。
前方の中華料理屋だけが気丈に看板を出し、営業していた。
略奪や強奪の危険性も考えたが、ここの辺りに住む人間のモラルはそこまで落ちていなかったらしい。



ただ――貴金属屋や質屋なんかは饒舌しがたい残状だった、とだけ言い含めておく。



世界終了の宣言から一夜明けた町の風貌は、
『正常と異常が混ざり合っている』と言えばそれで全てが片付いた。


なんの変わりない風景がある。自分のいた住宅街とかがそうだった。
全てが様変わりしていた風景がある。貴金属や質屋とかがそうだった。


多分、ふるいに掛けられたのだろう。
奪う価値があるものか、ない物か。
そしてお目通りされたものだけがぐちゃぐちゃにされただけなのだとドクオは思った。
182:2008/01/02(水) 17:58:50.40 ID:


('A`)「……クー姉さん」


呟き、ドクオは視線に気づき、愚鈍な動作で前方を見た。
アーケードの出口。屋根と色鮮やかなタイルが切れたその先。


('A`)「……お前は、」


見間違うはずなどない。
ドクオは踵を返すかどうか一瞬迷った。それでも最後の最後までこいつから逃げ出すのは嫌だった。
かすかな、ちっぽけな矜持がドクオの足を前へと進ませた。

人間の行動原理なんて、掘り返せばそんなものなのだろうとドクオは悟る。

アーケードの終点に立っていた人物は、

(*゚ー゚) 「あんた、ドクオ……?」

('A`)「……」

クラスメートのしぃだった。
184:2008/01/02(水) 18:03:42.54 ID:
(*゚ー゚) 「一人なの?」

('A`)「……」


ドクオはこの女が嫌いだった。
クラスでは相当ひどい仕打ちや屈辱を受けた。快楽まがいに人を苛め抜いた。
さも自分は『強制されている』ような雰囲気を出しながら、
心の底では自分を見下していた事をドクオは知っていた。


鈍感な奴ほど敏感なのは、人間の真理だろう?


(*゚ー゚) 「ああ、私も一人。もう死のうかな、って思ってるんだけどね」

('A`)「……」

『こいつはもう駄目だな』と、瞬時にドクオは判断した。
世界の半分くらいは、きっとそう言う人間で溢れるだろうと薄々ドクオは感づいていた。

自分は何回も世界の終わりを想像してきたのだ。
もし『そうなった場合』世界が終わると同時に、
世界と一緒に心中する――自分自身で体ではなく心を殺す人間が出るだろうと思っていた。

そして現に、そんな人間がドクオの目の前にいる。
185:2008/01/02(水) 18:06:14.80 ID:

無言で去ろうとするドクオに、


(*゚ー゚) 「ドクオ!」

しぃの声が掛けられる。
最後の最後までこの女は俺の事を笑うのだろうか、と振り返れば




(*゚ー゚) 「ドクオ、ごめんね。クラスの立場の為だけに、あんたをいじったりして」



それは予想もしない、謝罪の言葉だった。
いじる? お前らがやって来たことはそんな生易しい単語じゃ済まないだろうが。
心に氷片を浮かべ、ドクオは出来るだけ冷たい視線で相手を見た。

('A`)「……」

(*゚ー゚) 「私ほんとはそんなことするのは嫌だったんだ……だから、ごめんなさい」
186:2008/01/02(水) 18:07:40.10 ID:
ドクオ、これは罠だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
というわけで支援
187:2008/01/02(水) 18:10:02.15 ID:


('A`)「……」

なるほど。お前は結局「いい人」で死にたい訳だ。――しぃの偽善は響かない。
だってそうだろう? 何かをジャッジする為のふるいなら、ドクオだって持っているのだ。
興味がない、と踵を返したドクオの背中に掛けられる死者からの言葉は。


(*゚ー゚) 「アンタから! アンタから取り上げたあの本」

('A`)「……!」

(*゚ー゚) 「……学校にあるから、三階の、情報処理室の隣の女子トイレに!」


ドクオは振り返る事無く、そのまま立ち去った。
しばらく歩き、どこに行こうか、なんて迷いはドクオから消えていた。


('A`)「……学校、か」


呟き声は低いながらも、確かな意思を持っている。
189:2008/01/02(水) 18:24:01.87 ID:
1/14 10:40  公立VIP高校 三階情報処理室前

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……これからどうするつもり……?」

( ^ω^)「ううん、本当に思いつかないお。
遊ぶ場所もほとんど閉鎖だし……そもその町がこんな状態だお……?」


(´・ω・`)「なあ、10分くらいでいいから、君たちの時間を僕にくれないか?」


ショボンが情報処理室の扉の前に座り込んだ。
それからポケットからなにやら取り出し、ガチャガチャと鍵穴を弄る。


( ^ω^)「え? あ、そっか。ショボンも元々、何か目的があって来たんだおね」

ξ゚⊿゚)ξ「もちろんいいわよ。……ってショボン、さっきから何して、」


ツンが聞くよりも早く、
扉の前に座り込んみ、こんにゃろ、やらふもっふ、やら呟いていたショボンが振り向いた。
ガチャ、とあの音がして、横にスライドさせる形の扉を開ける。

(´・ω・`)「ピッキング☆」
190:2008/01/02(水) 18:28:09.89 ID:


( ^ω^)・ξ゚⊿゚)ξ「「…………」」


微妙な沈黙。
そして響いたのは、水道の流れる音だった。
音は確実に隣に併設されている女子トイレから聞こえてきた。
三人が眼を張り、各々の武器へ手を伸ばした。

もしも出てきた人物が、自分たちに敵意を持っていたとすれば……?

ツンがメリケンを装備する。
……ぞわ、と来た悪寒に、ブーンが危うく金属バットを取り落としそうになった。


キィ、と女子トイレの扉が開いた。


('A`)「ふぃぃー。きーえるひこうきぐ、もぉぉぉおおお!!!!??」


メキョ。炸裂するツンの拳。
……とりあえず合掌。
191:2008/01/02(水) 18:36:07.17 ID:
1/14 10:45  公立VIP高校 三階 情報処理室内



ξ゚⊿゚)ξ「納得の行く弁解を聞かせてもらえるかしら?」



パソコンラックが並ぶ情報処理室内、その中央でドクオがツンによって正座させられていた。
納得の行く弁解、とは即ち女子トイレから出てきた満足な理由と言う事だ。
ドクオはカタカタと震えながら言葉を選んでいた。


('A`)「ち、違うよ。僕はただ女子トイレで排泄したら、もしかすると
なんだか興奮するかも知れないと思ったんだよ……
変態じゃないよ仮に変態だとしても、変態という名の紳士だよ!!」


それを遠巻きにみるギャラリー一名。
ショボンは前方の教師ようのパソコンで何やら作業をしていた。


( ^ω^)「クマ吉自重wwwww」
195:2008/01/02(水) 18:53:34.10 ID:
(´・ω・`)「今度はトリオ漫才か……飽きないね、君たちは」

ξ゚⊿゚)ξ「そう言うショボンは何してんのよ」

(´・ω・`)「わ、そんな怖い目で見ないでくれよ。……ほら」

とショボンが前方のプロジェクターを指した。
スクリーンに光が点り、それから



「「「…………?」」」



三人が小首を傾げると、少し遅れて音声と映像が入ってきた。
――――――誰ともなく三人は息を呑んだ。


スピーカーから流れてくる、沢山の笑い声。
197:2008/01/02(水) 18:59:10.65 ID:
4円
198:2008/01/02(水) 18:59:22.73 ID:
それは、自分たちの三年間の、日常の記録だった。
テンポのいい流行曲とざわざわと忙しない幾つもの声たち。



(´・ω・`)「…………」



各々が緊張した面持ちの入学式。
アンカーが軽やかにゴールテープを切った体育祭。
製作が遅れて先生にどやされながら作った文化祭の壁画。
寝てる人間が目立つ授業風景。理科室。サッカー部の活動風景。



( ^ω^)「…………」



幸せそうな笑い声。
全部、もうなくなった物だ。手が届く事のなくなった過去だ。

白い画面に『作・情報科学部』の文字が写ってムービーが終わるまで、僕らはただ無言だった。
200:2008/01/02(水) 19:08:28.19 ID:


( ^ω^)「みんな、あの、さ……」


切り出して、軽率な行動をブーンは悔やんだ。
あのまま黙っていたら重圧に圧死すると思ったから切り出したけど、何か言う事でもあるのかよ。
部屋の中央に集まった三人の視線が、ブーンに集まる。

ξ゚⊿゚)ξ「……ね、ちょっといい?」

( ^ω^)「お?」


ξ゚⊿゚)ξ「突然だけど、皆の最大の思い出ってなに?」

( ^ω^)「う~ん……」

(´・ω・`)「僕は中学時代のの……」

('A`)「卒業遠足……かな?」



ξ゚⊿゚)ξ「そう、中学の最後に行ったわよね。もしよかったら、あの場所に行かない?」


ツンは立ち上がり、両手を広げた。
教室の中央で車座になって四人は暫く考え込んだ。
201:2008/01/02(水) 19:09:59.46 ID:
( ^ω^)「鎌倉、かお?」

(´・ω・`)「ここからだとちょっと遠いかな……」

ξ゚⊿゚)ξ「でもでもっ、確か学校の駐車場に車残ってたわよね……?」

(´・ω・`)「ああ、確かにそうだけど。でも誰が運転するんだい?」

('A`)「そもそもキーがないんじゃ駄目だろ?」


ξ゚⊿゚)ξ「―― 一台だけ、職員室の学校専用車があるの」

('A`)「そうか、なら決定だな。運転は……」


ξ゚⊿゚)ξ「ブーンよ」


( ^ω^)「おおっ!? ブーンかお?」

('A`)「命預けるぞ」

笑いながら肩を叩いてくるドクオ。
んな大げさな、とブーン。
203:2008/01/02(水) 19:15:41.04 ID:
('A`)「……全会一致、って言うことでいいんかね」

ドクオが立ち上がり、それに吊られてブーンも腰をあげた。
扉へ向かう三人を呼び止めたのは、他ならぬショボンだ。


(´・ω・`)「なあ」


座ったままそう言ったショボンは、三人が振り返るのを確認してから立ち上がり
一息だけ、か細く肺からの空気を吐き出した。
視線を落とし、しかし力強い声で言った。




(´・ω・`)「ごめん、僕は君たちとは行けない。」




と。


                   第7話【 だからこそ愛おしいのだ、と貴方は抱きしめる 】終 →第8話へ
216:2008/01/02(水) 19:41:25.38 ID:
がんばれー
219:2008/01/02(水) 19:44:47.09 ID:



僕は汚い。

でもだからこそ、そんな汚い自分自身に胸を張れる様、今は笑おう。



第六話 『 幸多からんことを、とお前は願った 』


空気が凍った。
扉を開ける為に伸ばした手が固まってしまった。
ツンがショボンに駆け寄るのを見、僕もそれに付いて行く。
ドクオは振り返ったままの姿勢で固まっていた。


( ^ω^)「ショボン、一体、」

ξ;゚⊿゚)ξ「どう言う事よ、一緒に行けないって……!」


ブーンの台詞の後半を掻っ攫い、ツンが立ったままだったショボンの襟首を掴んだ。
ショボンに抵抗の色はない。
222:2008/01/02(水) 19:48:58.57 ID:


(´・ω・`)「…………ごめん。君たちに『やるべき事』があるように、僕にもあるんだ」



頭を垂れたまま、ショボンは言った。
何秒かの沈黙の後、ツンがショボンの首元から手を離した。
慣性の法則でショボンが尻餅を付く。


( ^ω^)「ドクオは……ドクオは何も言わないのかお?」

あくまで静観を突き落としていたドクオにブーンは話を振る。
今だ振り返ったままの姿勢で立っていたドクオが、僅かに首を振る。



('A`)「……ああ、ショボンの言うこと、解かるからな」

( ^ω^)「そうだおね……」



もともと、学校に来た理由も僕らはバラバラだったんだ。
ならこれから先の方向性だって当然違う。ショボンの言葉を借りれば、
『どういう生き方をするかは、別』なのだ。
224:2008/01/02(水) 19:51:29.63 ID:
じゃあ、と踵を返し歩を進めた三人に再度ショボンが声を掛けた。
今度は少しだけ、笑いが含まれていた。

(´・ω・`)「ちょいまち。なんでここでバイバイな流れになってんの?」


( ^ω^)・('A`)・ξ゚⊿゚)ξ「「「はい?」」」






(´・ω・`)「途中までは一緒に行くよ。旅は道連れ世は情け、だろ?」






カラカラと座り込んだまま笑うショボン。
こんの天邪鬼、とツンが毒づく。……まったく持って同意です。と二人は頷いた。
225:2008/01/02(水) 19:58:46.11 ID:
1/14 12:00 車内



(´・ω・`)「事故ったらぶち殺すぞ」



後部座席に座るショボンが低い声で言う。これ不謹慎な、と嗜める人間はいない。
ショボンの横に座っているドクオは、我関せずとばかりに本を読んでいる。



('A`)「それにしてもすごい運転だな……」

(; ^ω^)「おっ…おっおっ…」



暴れ馬ハンドルを必死に調教するが、どうも上手くいかない。
流石にPSコントローラーとは要領が違うらしい。これがグランツーリスモなら今頃僕は鈴鹿の王だ。



ブーン達の車は荒れ果てた道路を走っていた。目的地は鎌倉である。



226:2008/01/02(水) 19:59:32.30 ID:
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと、こっちで方向あってるの!?」


(´・ω・`)「そんな事言っても衛星もないし、ナビは使えないよ?」





('A`)「――ん、あ。そうそう。車の中に地図があったぞ」




(#^ω^)ξ#゚⊿゚)ξ(´・ω・`)「「「そういう事は先に言えッ!!!!」」」


ξ゚⊿゚)ξ「って……ブーン、ちょっとまって! 次右折だわ!」


(; ^ω^)「ちょwwwwまっておwwww」


荒れた町に荒れた運転、生きて鎌倉にたどり着けるだろうか……?
231:2008/01/02(水) 20:10:32.65 ID:
1/14 15:00  高速路 パーキングエリア

(; ^ω^)「き、奇跡だお……」

バン、と運転席のドアを閉めたブーンが呟いた。
空を仰ぎ、空気を吸い、生き心地をやっとの事で味わうのだった。

ξ;゚⊿゚)ξ「……本当、奇跡だわ」

遅れて助手席からツンが出てきた。
手に持ったままの地図本に刻み込まれた真新しいいくつものシワは、
思い通りにならない運転手への怒りを一身に受けた跡だった。
ナビゲーター役は身体よりもむしろ精神に来るらしい。心なしかブーンよりも疲れた表情だった。



(´・ω・`)「いやあ、ETC付いてないのに料金所突破しちゃったね」

('A`)「それよか俺はここに来るまで一台もすれ違わなかった事が不思議だよ……」



続いて後ろのドアが開き、二人が出てきた。
3時間のぶっつづけ運転でやっと道のりは三分の二に来ていた。
不慣れながらもブーンが頑張った証拠である。
232:2008/01/02(水) 20:21:03.90 ID:
(; ^ω^)「鎌倉まで……あと1時間くらいかお」
('A`)「ああ。何回死ぬかと思ったかね」
(; ^ω^)「大きなお世話だお!」

東京の方面からずっと海岸線を沿っての運転だったが、そのゴールも見えてきた。
治安が悪いと評判が高かった神奈川県であるが、乱れたような感覚は受けなかった。
多分ここにいた『悪い奴ら』は、遊びなれたここでは飽き足らず、県外に散らばっていったのだろう。


(´・ω・`)「ははは。ああ、まったく君たちのトリオ漫才は面白いね。――さて、と」


しなやかな猫のように、ショボンは背伸びをした。
青空を見上げ、微かに笑う。この際の展開の予想はおおよそ付いている。
元々ショボンは鎌倉市に程近い金沢区、この場所の生まれた。
ショボンの父のお店――バーボンハウスと言ったか――それがあるのもここだといつか聞いた事がある。
きっと、だけどショボンは親父さんに会いに行くのだろう。それを問えば、彼は何、言う程の事じゃないさと笑うのだろう。

ツンが頷いた。ドクオが気恥ずかしげに頬を掻き、僕はショボンを見つめていた。
扉を閉めてから、ショボンはこの時初めて屈託のない笑みを浮かべて、浮かべながら



(´・ω・`)「そろそろ、お別れだ」


と言った。
233:2008/01/02(水) 20:24:13.77 ID:
追い付いた
頑張れ>>1
234:2008/01/02(水) 20:25:36.20 ID:
ドクオとブーンは知っていた。いつかこの時がくるのを。
ツンは解かっていた。ショボンの決意の重さを。


だからこそ三人は尊敬した。


せめて誇れるように、と最後まで気高くあろうとする友人を。


('A`)「――ああ。元気、でな」

(´・ω・`)「ドクオ、それすっごい皮肉」

ξ゚⊿゚)ξ「皮肉家なのはアンタの方でしょ」

(´・ω・`)「君を弄るのは楽しかったよ」

ξ#゚⊿゚)ξ「なぁ!?」

(; ^ω^)「ちょ、ツン落ち着いて! ショボンも何故にそこまでツンを煽る!?」


(´・ω・`)「ブーン」


( ^ω^)「…………お」
235:2008/01/02(水) 20:28:14.11 ID:
ツンを押さえつけていたブーンが、ショボンを見た。
車のボンネットに顎を預けながら、彼は少年のように笑っている。
皮肉家で悲壮家で、いつだって彼らしくあったショボンが花のような笑みで言うのだ。







(´・ω・`)「元気でね」








その言葉をただの皮肉だ、と一蹴する訳にはいかなかった。
だからこそブーンは笑い、力強く相槌を打つ。ショボンも元気で、と意味を込めて。
237:2008/01/02(水) 20:35:23.83 ID:
エンジンがスタートし、ガスの排出が始まる。
三人はショボンを残し、車へと乗り込んだ。


(´・ω・`)ノシ「…………」


ブーンはフロントガラスに映る、いつまでもこちらに手を振る友人を前方と交互に見ていた。


( ^ω^)「…………」


涙腺は緩みっぱなしだ。
向こう三年の涙は出し尽くたっぽいのに、まだ出るか。


ξ゚⊿゚)ξ「私は、泣かないからね」

('A`)「俺もだ」

( ^ω^)「うん……」


もしかしたら皆泣くのかな、と言う予想を察されたのか、ツンは強がってみせた。
空は、いつもと変わらず宇宙まで突き抜ける青色だった。


                   第9話【 幸多からんことを、とお前は願った 】終 →第10話へ
238:2008/01/02(水) 20:38:06.14 ID:
原作じゃショボンは違う死に方してるけど、ちょっとひねってみた。
原作好きの人はすまん。
死に際を書くんじゃなくてフェードアウトさせるのがじんわり来て好きなんだ。
ショボンが向かったバーボンハウスでの出来事は各自保管でよろしくお願いします。
なんか正直ショボンの性格がめんどくさい。めんどうくさすぎるこいつ。


次ドクオ編第十話投下いきます。
246:2008/01/02(水) 21:03:11.79 ID:
>>238
今原作読んだがこっちの方が好きだ
がんばれよ!
242:2008/01/02(水) 20:46:47.15 ID:


これが私の宝物です、と彼女が掲げ、抱きしめたのは、


高価な金塊でも煌びやかな宝石でもなく、何もない空間だった。



第十話 『  そしてそれが愛になる、と汝は紡いだ  』


最後まで鎌倉を目指そう、とブーンは言った。

当たり前よ、とツンは返した。

後部座席に座りながら、ドクオはそんな二人を見、いつかの時を思い出していた。


『えーーーん えーーーーん』


泣いている糞餓鬼がいる。
ひたすら泣いている。それで問題が解決できるはずもないのに、贖罪のように餓鬼は泣くのだ。


『どうしたんだ? どこか、痛むのか?』


柔らかく愛しい声が振っている。餓鬼は途端に笑った。
243:2008/01/02(水) 20:52:58.16 ID:
('A`)「クー姉ェの顔見たら、吹っ飛んだよ!」

川゚-゚)「そうか、それはよかった」


彼女は笑う。幸せそうに笑う。
ああ、そうか。これは記憶だ、とドクオは思った。
これは自分が陽だまりのような箱庭にいた時の記憶だ、と。


('A`)「クー姉、クー姉さん!」


いつだってそうやって、自分は姉のクーに縋ってきていた。
それによって彼女がどんな困るかを知りもせず、ただ子供心ながらに陽だまりを求めたのだ。


('A`)「クー姉さん」

川゚-゚)「ドクオ、プレゼントをあげよう。それからお前は、これからは一人で歩かなくちゃいけない」


ドクオが小2、クーが小6の時のことだった。
クーは突然、こんな事を言い出した。クーも察していたのだろう。自分の家がもう限界だという事が。
体面や体制の問題ではなく、もう終わっているのだと。
そしてそれ故に、ドクオと離れることも見越していたのだろう。
245:2008/01/02(水) 21:00:26.98 ID:
('A`)「…………でも、クー姉ェ」

嫌だ、と駄々を捏ねるドクオにクーはその双眸を伏せた。
それから、ドクオが気に入っていた――両親の喧嘩が始まる度に持って行き、
クーに読んで貰った、ある小説の一説を静かに読み上げた。


川゚-゚)『カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ。どこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば、
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない』


それからドクオの頭を軽く撫ぜ、本――銀河鉄道の夜をドクオに託した。
あのときは、『これは手切れ金なのだ』としか思えなかった。だからこそ憎憎しいものでもあった。

けれど。
けれど、今になって思えば、それも違うのだと理解できる。
彼女は夫婦喧嘩の時のように、自分に手を差し伸べてくれたのだ。この本を渡すことによって。


('A`)「……本当に、糞餓鬼だったんだな、俺」


走る車。流れていく風景に視線を投げながら、ドクオは呟いた。
247:2008/01/02(水) 21:05:18.82 ID:
しぃの言うとおり、この本は女子トイレにあった。
掃除用具要れの中から見つけたときは年甲斐もなく泣きそうになったものだ。


ただ取りに終わった後、猛烈に小便などをしたくなり、
その事後出て行くとツンに殴られるなんて言うハプニングはあったもののこの本は、今ドクオの手にある。



( ^ω^)「ドクオ、なんか言ったかお?」

('A`)「いや、何もない」



首を振り、ドクオは胸元の本をぎゅうと抱き寄せた。



('A`)「何もないんだ」



前方にある標識に書かれてあった文字が見えた。


『この先100メートル 出口 鎌倉市』


目的地は、すぐそこに迫っている。
248:2008/01/02(水) 21:10:15.91 ID:
1/14 16:15 鎌倉


( ^ω^)「つ…………」


料金所を降り、車を止めたブーンがハンドルにもたれ掛かった。
はぁぁぁぁぁぁぁあ、と長いため息を吐き、



( ^ω^)「ついたお……」


焦燥しきった顔で言った。


ξ゚⊿゚)ξ「そうね」

('A`)「……」


ツンが笑いながら同意し、ドクオも頷いた。
車内の雰囲気も、心なしか和やかである。
249:2008/01/02(水) 21:12:49.46 ID:
( ^ω^)「ドクオ……元気ないお?」

('A`)「――俺はもう充分だ。あとは2人で楽しんでいてくれ」

そう言い、ドクオはドアノブに手を掛けた。
躊躇なくそのまま引き、外にでる。

(; ^ω^)「な、ここまで来て」

窓から顔を出したブーンが静止しようとするが、
ドクオは車に戻ろうという素振りを見せない。


('A`)「いいんだよ。ありがとな、ブーン。今までのこと全部ひっくるめてお礼言う。ツンも、ありがとう」


ただやんわりと首を横に振り、深々と礼をしてみたせだけだった。

ξ゚⊿゚)ξ「紳士という名の変態ね」

('A`)「変態じゃねぇよ。仮に変態だとしても」


( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ('A`)「「「変態という名の紳士だよ」」」


声がそろい、三人は笑う。トリオ漫才だ、とショボンがいれば言う所だろう。
250:2008/01/02(水) 21:15:14.70 ID:


('A`)「ばーか」


そういうと、ドクオは走っていった。
振り返りはしない、とその背中に彼の決意が書かれているようだった。

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ……」

( ^ω^)「……行こう、ツン」



ブーンは言い、アクセルを踏む。
生きる道は様々なのだ。それでいい。それがいいんだ、とブーンは呟いた。
どこぞの皮肉家から貰った受け売り言葉のようだな、と思った。


253:2008/01/02(水) 21:19:14.52 ID:
1/14 16:30 鎌倉


('A`)「さあ……俺ももう死ぬか。俺にしてみれば、充分なタイムだろ?」


独言するように呟き、ドクオは崖の上に一人立っていた。
この時期、冬の関東の風は身を切るようでもある。
本を握り締めながら、ドクオは夕焼けの空を仰いだ。

('A`)「俺には、もう思い残すことなんてないんだから」



『ドクオ。ドクオ』



そんな凛とした声が背後から繰り返し繰り返し聞こえたような気がした。
ドクオは振り返らなかった。


そして彼は、そのまま崖から飛び降りた。


その顔には、安らかな笑顔すら浮かんでいたという。


                   第10話【 そしてそれが愛になる、と汝は紡いだ 】終 →第11話へ
252:2008/01/02(水) 21:17:15.26 ID:
原作がワカラネェ
支援
265:2008/01/02(水) 22:06:28.72 ID:


喜んだ。怒った。哀しんだ。楽しんだ。
笑った。泣いた。怒った。嘆いた。



けれども、誇れた。



最終話 『 「希望しろ」と、神様は囁いた 』



1/14 17:30 鎌倉


ブーンたちを乗せた車は鎌倉の中心街を走っていた。のろのろとした低空走行。
それでも最初にしてみれば慣れたものな運転をしつつ、三年前に見た、古い城下町である鎌倉の風景を彼らは眺めていた。


( ^ω^)「あ、そういえば、ここでツンが――」

ξ゜⊿゜)ξ「あーっ!! 何? 何か言った!?」


( ^ω^)「……なんでもないです」

266:2008/01/02(水) 22:13:11.75 ID:


ξ゚⊿゚)ξ「あ、ブーン! ここで止めて!」


ブーンの肩を叩き、ツンがブレーキを踏ませる。
緩やかな速度で走っていた車は、やはり緩やかな減速を重ね、やがて止まった。

扉を開け、弾き出るように公園の中へと走って行くツンをブーンも慌てて追った。
ツンは中央で立ち止まると、端整な顔をくしゃくしゃにして、公園を見渡した。



ξ゚⊿゚)ξ「……覚えてる? ここで記念写真とった事」


( ^ω^)「ここで……?」


何せ三年前のことだ。思い出すまでに、何秒か要した。
あ、と気がついたブーンが頷き、ツンに笑いかけた。
樹木や花壇に記憶の齟齬はあるものの、公園の片隅に設置されたベンチに、見覚えがあ。


ξ;⊿;)ξ「ええ、ここで……」

( ^ω^)「ちょっと休むかお……」


ツンも頷き、2人は公園のベンチに腰掛けた。
267:2008/01/02(水) 22:16:53.19 ID:
暫く無言が続き、ふいにツンが堰を切ったかのように喋りだした。

ξ;⊿;)ξ「なんで、なんで私達が死なないといけないの?」

( ^ω^)「…………」

ξ;⊿;)ξ「もう、みんな居ないじゃない、ショボンも、ドクオも……」

( ^ω^)「――もういいお、ツン。怖いなら、考えるのはやめよう」


膝の間に頭を埋め、うめくように言うツンにブーンが掛けれたのは、そんな言葉だけだった。
非量産的だ、とショボンは笑うかもしれない。
理解出来るがな、とドクオは渋い顔つきで言うかも知れない。
それでもやはり僕らは子供で、僕らに突きつけられた非日常そのものが突然すぎたのだ。


もしも神様がいるのだとしたら、とブーンは思う。


そいつは今、どう言う気持ちなのだろう?
270:2008/01/02(水) 22:19:44.16 ID:
ξ;⊿;)ξ「ブーン、どこか行きましょう? ここに居てもしょうがない、から」

( ^ω^)「あ、うん……けど、お店もどこもやってないお」


立ち上がったツンを見上げる形のまま、ブーンが言った。
辺境とも言えるブーンたちのVIP市の商店街でさえあの有様だったのだ。
その観光地で満足な供給は受けられないお、とブーンの言葉に、ツンは緩やかな動作で首を振った。







ξ゚⊿゚)ξ「私にはアンタが居ればそれでいいのよ」








――ああ、その響きは、今この時に聞くには、どうしようもなく残酷な音をしている。
272:2008/01/02(水) 22:28:02.20 ID:
1/14 17:50 鎌倉:八幡宮

観光地でもあり、『神様』が住む場所でもある神社の荒廃様は、
町のそれに比べれば幾分も落ち着いていた。
とは言っても、破壊がない訳ではない。芥川龍之介が描いた羅生門が、ちょうどイメージと合致した。



『神様』へ責任転嫁する人間だって、少なからずいると言う事だ。



( ^ω^)「こうやって人が作り上げてきたものも一瞬で消え去るのかお――」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね」


( ^ω^)「人は死んだら天国にいけるのかおね」

ξ゚⊿゚)ξ「さあ…」


当然の疑問に、ツンが優しく答える。見たことのないものはわからない、と彼女は目で語っていた。
そりゃあそうだ、とブーンが納得しかけた所へ、2人の様子を見ていたのか、
どこからともなく現れた老人が話し掛けてきた。


/ ,' 3「若い衆でまだ生きているなんて珍しいな。ワシの知ってる奴らはみな自殺してちまったわい」
273:2008/01/02(水) 22:32:42.03 ID:
『生きている』事を感心するかのように、老人は何度もそうか、そうか、と繰り返していた。
老人は優しげな瞳をしていた。その老人は、荒巻と名乗った。

( ^ω^)「どうもだお」

/ ,' 3「わしは年老いてから毎日毎日此処に来ていたんじゃがな」


( ^ω^)「……」

/ ,' 3「それも今日で最後だ」


荒巻は笑い、それから空を仰いだ。日没が近い。
そして日没が近い、と言う事は

( ^ω^)「おじいさんは死んだら天国にいけると思いますか?」

/ ,' 3「さあなぁ。死んでもない人間がわかるはずも無いよ」

( ^ω^)「そうだですおね……なら、ブーン達はまだしぶとくいきつづけるお!」


元気に宣言したブーンをそりゃあいいなぁ、と荒巻はつぶらな眼で見た。
まるで全部を見透かされている気分になるお、とドギマギするブーンであるが、
その不安でさえも沈静化する力を荒巻は持っていた。知らずの内に心拍数は落ちて行く。


荒巻は尚も朗々と笑っていた。
275:2008/01/02(水) 22:38:57.32 ID:
支援
276:2008/01/02(水) 22:39:22.98 ID:

/ ,' 3「たしか21時だったっけな、この世界の終わりは」

荒巻はブーンとツンを交互にみた。
そしてあの眼のまま、問うた。

/ ,' 3「神様がいるとして、殺してやりたいと思うかい?」


ξ゚⊿゚)ξ「……」

( ^ω^)「…………」


荒巻が訊いたのは、突拍子もない、けれど考えなかった訳ではない思考だった。
ブーンとツンは見つめあい、笑いあった。2人の答えは決まっていた。


( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ「「そんな訳、ないじゃないですか」」


/ ,' 3「…………ほお?」


荒巻の顔に、何かしらの感情が宿ったのをツンは見た。人生経験が浅い自分には、その色の正体を探る事が出来ない。
けれどたしかに、荒巻は慶んでいた。心の底から湧きあがってくる感情は、
誰であろうが完全に隠す事は出来ない。かすかに漂ってくる荒巻の明るい感情。ブーンは言葉を紡いだ。
277:2008/01/02(水) 22:42:14.61 ID:
( ^ω^)「そりゃ、憎いっちゃ憎いですお」
ξ゚⊿゚)ξ「出来る事ならまた皆で無邪気に遊んで、笑って、叫んでたりしたいです……」

( ^ω^)「けどコレがなければ、僕らは絶対に気付かなかった」
ξ゚⊿゚)ξ「日常とは日がな一日刻々と変化していっていること」
( ^ω^)「平穏とは脆く絶えがたいものだと言うこと」



( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ「「何気ない日常の真価に」」



重なった声に、荒巻が笑う。
やはりそうか、そうか、と何度も繰り返した。それから何秒か笑い続け、

/ ,' 3「わしはそろそろ家に戻るとするよ。最愛の人も待ってることだしな。
ほっほっほっ……最後に良い若者をみたような気がするよ。はっはっは」

荒巻は豪快に笑った。

( ^ω^)「さよならだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます……!」


そう言い、二人は荒巻と分かれた。
278:2008/01/02(水) 22:45:13.75 ID:
1/14 20:00 鎌倉:某所

海岸線を歩きながら、2人は空を見上げていた。
西の空を彩る奇妙な七色の光の緒は、この世界の終わりにしてはとても綺麗なものだった。


( ^ω^)「さて……空に白い物体、あれかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「もう涙もでないわよ。最後くらいはブーンと一緒にいたいんだけど、いい?」

今更なにを、とブーンは笑う。
砂浜の砂を足で蹴りながら、ツンはそうね、と笑った。

ξ゚⊿゚)ξ「最後にちょっと話そう?」

( ^ω^)「お……」


残された最後の時間、2人はいろいろ話した。

小学校時代に喧嘩したこと

中学時代ツンが鎌倉でブーンとキスしたこと

ブーンがツンと同じ学校に行くため必死で勉強したこと。

ショボンのこと。

ドクオのこと。
279:2008/01/02(水) 22:45:31.30 ID:








全部話した










280:2008/01/02(水) 22:46:40.13 ID:




ξ゚⊿゚)ξ「この思い出が消えてなくなるなんて、ちょっと信じられない話ね」






( ^ω^)「そうだお。一生の思い出、いや。これは永遠の思い出だお?」





ξ゚⊿゚)ξ「ねえブーン、わた、」







世界は予定より5分早く終わるお話はここで終わり。

281:2008/01/02(水) 22:47:08.53 ID:










/ ,' 3「じゃと、思うだろう?」














283:2008/01/02(水) 22:48:11.76 ID:
1/14 7:30 ブーン宅


もぞもぞ。もぞ。もぞもぞ。
でかいミノムシ、もとい布団が動いた。

目覚める瞬間とは、なんとも微妙な間であるなとブーンは思う。
無意識と意識の間。半覚醒の淵に身を投げる気分にはいつになっても慣れない。

布団の中で丸まり、ブーンは重い瞼を擦った。
睫毛についた目やにを採取しながら、何時であるかを確認。


7時30分。ああ、イイ目覚めだ。


( ^ω^)「――ふぇ……お、ぉお……良く寝たお。……何か変な夢見たお」


うわ言のように呟きながら、噛み殺す事無く大きな欠伸を欠いた。
っせーの……
脚を頭の方へ上げ、腰を浮かせて、掛け声一発。


( ^ω^)「とぉぉぉぉおおう! ブォォォォオオン!」


そのまま一気に起き上がる。
284:2008/01/02(水) 22:48:51.90 ID:


( ^ω^)「……ふっ。今日もいい調子だおwwwww満点だおwwww」


着地の際にちょっとよろける。



( ´ω`)「……勃ち上がり世界選手権の道は遠いお」



春先のひんやりとした気温が、露の湿気のように徘徊する廊下に出、下に降りた。


自分の存在を誇示するようにわざと大きい音で駆け下りる。


意味は無い。他意も無い。

けれど一刻も早く、どうしたの慌てて、と笑ってくれる母の姿を、
眉根をしかませながら新聞紙を捲る父の姿を確認したかった。
286:2008/01/02(水) 22:49:04.19 ID:


( ^ω^)「……母ちゃん! 起きたお!! 朝飯くれおー!」



腹から声を出す。
いいから返事してくれお……!

日常に縋る。そして願う。理由は解からないが、縋り、願い、手を伸ばす。
心ばかりが焦っていた。どうしようもなく、狂おしいほどに。



( ^ω^)「かあちゃ…………お……?」



リビングや台所に眼を配らせるが、誰もいない。
どうしたの慌てて、と笑ってくれる母も眉根をしかませながら新聞紙を捲る父の姿もいない。


何なんだお。何なんだお、何なんだお何なんだお……!?

288:2008/01/02(水) 22:51:28.03 ID:
「あらブーン、どうしたの慌てて」

ジャー、とトイレの流れる音。
そして母ちゃんの間の抜けた声が響いた。

( ^ω^)「へ……?」

「どうしたんだい、まったくこの子は」


( ^ω^)「な、なんで生きてるんだお?」

「私しんだのかい?」

(; ^ω^)「……や、べつに」


訳がわからなくなってブーンはあたりを満たした。
テーブルにあった昨日の新聞紙を手にとり、テレビ欄の確認をした。
『~世にも珍妙な物語り~』



…………あれれ?
289:2008/01/02(水) 22:52:55.30 ID:
「……まったく、早く支度しなさい! ツンちゃんがくるわよ!」

母ちゃんの怒声がリビングに飛んだ。
はいはい、とブーンは洗面所へと足を運んだ。髭剃りの終わり、リビングへと帰還する途中だった父と眼が合う。


「おはヨーグルト」



くだらねぇ。
294:2008/01/02(水) 22:56:20.04 ID:
>>289
おはヨーグルトwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ナツカシスwwwwwwwwwwwwww
297:2008/01/02(水) 23:12:02.58 ID:
続き続き
298:2008/01/02(水) 23:13:18.41 ID:
>>289
で終わったんじゃないの?
299:2008/01/02(水) 23:13:52.44 ID:
いやいやいや、待とう。
300:2008/01/02(水) 23:24:55.81 ID:


人生は遊びかも知れない
だけど人生はゲームじゃない


「長いか短いか60年。さてはて、君はどう生きる!」


荒巻は笑う。神様は笑う。


終わり
301:2008/01/02(水) 23:27:13.95 ID:
・あとがき
大団円を書きたかったんです。
ハッピーエンドとか好きですから。
……本当すみません。楽しかったでし。すごぶる。
まとめサイトにおかれましては、もうズババーン! とまとめてください!
ではでは、そろそろ名無しに戻ります
13時間弱のお付き合いありがとうでした!
303:2008/01/02(水) 23:28:10.17 ID:
なるほど
神社で荒巻に神を殺したいと言っていたら、崩壊していたんだな

とか勝手に妄想してすみません

>>1乙です
新年早々良いものをありがとう
307:2008/01/02(水) 23:32:28.15 ID:
乙w
>>303
やっと理解できた
304:2008/01/02(水) 23:29:07.67 ID:
いいもの見た 乙
305:2008/01/02(水) 23:29:35.98 ID:

いいリメイク作だったよ!
309:2008/01/02(水) 23:42:35.41 ID:
乙でした
すごい面白かったです
310:2008/01/02(水) 23:48:40.85 ID:
ハッピーエンドでいいじゃない!!

すみません。叩かれるの承知で開き直ります。

本当はラスト、原作通りにするつもりだったんですが、爺の登場場所が神社だったもんで、
何と言うかピピーンと来まして行き当たりばったりに変更しました。


見る方が見れば、甘いと笑われるかも知れません。
それでも俺は優しい話が大好きなので、生優しくとも安い話でこの幕を下ろします。
本当に長い時間ありがとう! んじゃな、みんな!
314:2008/01/03(木) 00:00:27.32 ID:
乙です!
原作と比べ、人物の掘り下げ方が良かったと思いました。
自分としては破滅エンドを期待してましたが…
まぁとにかく新年早々良い作品をありがとうです!
318:2008/01/03(木) 01:17:25.28 ID:
読み終えた!
>>1
今から原作見てくるノシ

( ^ω^)「ブーンたちの世界が最後を迎えるようです」 
http://www.geocities.jp/vipperweb/world_end_b.html 
321:2008/01/03(木) 03:09:57.76 ID:
ありがとう>>1
317:2008/01/03(木) 00:33:06.83 ID:
それでは皆さん、良い終末を
元スレ: