1:2009/08/25(火) 21:05:55.21 ID:
デザート類の廃棄を終えて店の壁掛け時計を見上げると、
もうすぐ日付が変わろうかという頃だった。

('A`)「月曜日か………」

誰もいない、閑散とした店内。
俺の漏らした呟きが、やけに大きく聞こえる。
雑誌コーナーの付近で騒いでいた若者が何も買わずに店を後にし、
ようやく深夜のコンビニらしい雰囲気になっていた。
夏になるとああいう馬鹿が増えて困る。

休日と平日の境目。
普通の人ならば、この時間帯の夜勤は避けたいと思うだろう。
しかし大学生とはいえ実際フリーターと大差ないこの俺にとって、
客の少ないこの時時間帯に夜勤に入ることは楽なものだった。

2:2009/08/25(火) 21:06:51.72 ID:
俺はいわゆるコミュニケーション力というものが不足している。
そのため居酒屋やファミレスの店員といった接客に適していない。
かといって授業料のバカ高い私立大学に通わせて貰っている分、
少しでも親の負担を減らすためにアルバイトはしなければならない。
ある程度楽で、ご飯が出て、近場で、なるべく人と関わらなくて、高時給。
俺が考えられる範囲では、コンビニの夜勤しかなかった。

うちは基本的に夜勤は一人で入るので初めは不安だったが、
働き始めて半月も経てば自然と慣れてしまった。
時期的に夏休みということもあり客数は増えているが、それでも楽だ。

サラリーマンと思われる中年男性がドアを押して入ってくる。
レジ前までの距離をさぞ面倒くさそうに歩き、煙草の銘柄を注文する。
初めは割り当てられた番号で言ってくれなんて思っていたが、
今では銘柄で場所を完全に把握している。

('A`)「300円になります」

('A`)「ありがとうございましたー」
3:2009/08/25(火) 21:07:51.25 ID:
給料を貰っているのだから、最低限マニュアル通りの接客はこなす。
真心なんざ一片たりとも込めちゃいないが、そんなもんだ。
自分でも愛想のまるでない、気の抜けた声だと思う。
中には五月蝿い客もいるがそんなものは少数で、
ほとんどの客はコンビニ店員に愛想なんて求めていない。
深夜ともなれば、なお更だ。

('A`)「ふう」

時計をチラリと見る。そろそろ雑誌が来る頃かな。
夜勤の仕事は、主に運ばれてくる商品の検品や品出しだ。
それらをこなしながらレジをするのはなかなか骨が折れる。
おまけに月曜日は雑誌の量が多い。

なぜなら、あれがくるからだ。
4:2009/08/25(火) 21:09:50.70 ID:
('A`)「どれにしようかな、と」

俺は廃棄の中から適当にプリンを選ぶと、
レジの下からスプーンを取って事務所に向かう。
うちは持ち帰りさえしなければ廃棄に手をつけることは許されている。
初めは管理体制の無さに面食らったが、今では適当な店でよかったと思う。
雑誌が運ばれてくる前に、食べきってしまおう。

プリンの封を切りながら、ふと机の上にあるモニターに目をやる。
防犯カメラの映像がいつも通り人気のない店内を映してると思いきや、
いつの間にか客と思われる若い女性がレジ前に立っている。
しまった、待たせてしまったか。

('A`)「すいません」

申し分程度に謝りつつ、事務所を出る。
客が店内に入ると音で知らせるはずだが、よく調子が悪くなるので気にもしない。
壊れているのを知っていて放置しているのも、うちの店の適当さが出ている。
5:2009/08/25(火) 21:10:41.94 ID:
川 ゚ -゚)「ジャンプありますか?」

関口一番、女はそう言った。ストレートの黒髪に白いワンピース、
そしてそれに負けないくらい白く、細い手足が覗いている。
年齢は同い年か少し下くらいだろうか。
この場合ジャンプといえばピョンピョン跳ねることではなく、
友情努力勝利を三大原則に掲げる週刊雑誌のことだろう。

('A`)「………はあ」

川 ゚ -゚)「ジャンプありますか?」

('A`)「そろそろ来る頃なんですけど」

川 ゚ -゚)「まだですか」

('A`)「そうですね」

川 ゚ -゚)「そんな」

なんだこれ。
6:2009/08/25(火) 21:11:37.31 ID:
支援
7:2009/08/25(火) 21:11:39.99 ID:
('A`)「………あの」

川 ゚ -゚)「はい?」

('A`)「いつまでレジの前にいるんですか?」

俺はつい思っていた疑問を口にしてしまった。
言い終わってから失礼だったか、と思ったが
いつくるかも分からないのにここで待たれても困るというものだ。

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

なんだこいつ。
8:2009/08/25(火) 21:12:54.06 ID:
('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「もしかして、ジャンプ来るまでそこで待ってるつもりですか」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

その沈黙は肯定か。
そこにいられたら、俺も裏に行くことができない。
俺はまだプリンを一口も食べていない。
うちは立ち読みを禁止していないから、
雑誌コーナーで待っていればいいものを。
10:2009/08/25(火) 21:14:29.05 ID:
('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「………遅いっすね」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

くそ、話しかけてやったのに無視かよ。
業者よ、早く来てくれ。それか他の客だ。
こいつを追っ払う口実になる。
11:2009/08/25(火) 21:15:30.55 ID:
('A`)「あのー……」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「今週は休刊とか……」

川 ゚ -゚)「それはない」

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………と思う」

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

なにこの人、怖い。
はじめはストレートの黒髪も、白い肌も、
整った顔立ちも美人だと思えたが、今では幽霊の類に見えてしまう。
白のワンピースが、だんだん白装束に見えてきた。
雪女なんてぴったりだ。
12:2009/08/25(火) 21:16:19.58 ID:
('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

カウンターを挟んで向き合う二人。
事務所にあるモニターには、さぞ奇妙な絵が映っていることだろう。
うちの店は適当なのでカメラのチェックなんざしてないだろうが、
もししたとすれば、店長に何が起こっていたんだと問い詰められそうだ。

('A`)「………」

川 ゚ -゚)「………」

こんな雪女……いや、女でもジャンプ読むんだな。
14:2009/08/25(火) 21:18:10.15 ID:
川 ゚ -゚)「おい」

('A`)「はい、なんでしょう」

川 ゚ -゚)「立っているのに疲れた」

('A`)「はぁ」

川 ゚ -゚)「きみはさっきまでどこにいたんだ」

('A`)「はぁ、ちょっとそこの事務所に」

面食らいながらも、俺は指で奥のドアを指す。
勝手に待っていてそれで疲れたとは、こいつ馬鹿なんじゃないか。
これ以上関わらないほうがいいかもしれない。

川 ゚ -゚)「そこに椅子はあるか」

('A`)「ありますけど」

川 ゚ -゚)「よろしい」
15:2009/08/25(火) 21:19:40.22 ID:
期待しよう
17:2009/08/25(火) 21:20:33.39 ID:
川 ゚ -゚)「では、失礼して」

と言ったかと思うとするりとカウンターの内側へ入り、
俺の脇をすり抜けて、俺の人差し指の先、事務所へと歩いていく。
ドアを開け、長い黒髪をなびかせて中へ入ってゆく。

('A`)「………」

その間、約5秒。俺はフリーズしていた。

(;'A`)「お、おいちょっと」

なんだこれ。何が起こってるんだ。
あまりにも堂々とした態度のせいで静止が遅れた。
店の事務所は当然、関係者以外立ち入り禁止だ。
もしかしたらこれって強盗じゃないのか?
18:2009/08/25(火) 21:22:20.50 ID:
('A`)「お、おいお前……」

川 ゚ -゚)「おお、これは楽だ」

そいつはあろうことか勝手に椅子に腰掛けている。
それだけならまだいい。そいつの手には、

('A`)「お、お、俺のプリン……!」

川 ゚ -゚)「はむ。まだ口をつけてなかったようだが」

('A`)「こ、これから食べようと……」

川 ゚ -゚)「はむ。おお、これはうまい」

(#'A`)「てめぇ………」

これは一体どういう状況だ。
19:2009/08/25(火) 21:23:12.27 ID:
やっぱドクオが主人公っていいなぁ
支援
20:2009/08/25(火) 21:23:19.87 ID:
川 ゚ -゚)「まあそう怒るな、ほれ」

('A`)「えっ」

川 ゚ -゚)「食わんのか、ほれ」

('A`)「………はむ」

川 ゚ -゚)「どうだ、うまいだろう」

('A`)「ああ、うまい」

川 ゚ -゚)「そうだろ」

間接キッス………じゃなくて。
なんだろう、この状況。
腹も立たなくなった。
22:2009/08/25(火) 21:24:33.45 ID:
川 ゚ -゚)「商品がタダで食えるとはいいな」

('A`)「まあそれがなきゃやってらんないですよ」

川 ゚ -゚)「お前は一人なのか」

('A`)「まあ……夜勤の人は大抵そうだけど」

川 ゚ -゚)「一人は、寂しくないか」

('A`)「………」

正直、またか、と思った。
バイトはコンビニの夜勤だと言うと、決まってこの質問がくる。

確かに仕事の量や防犯上の点からして、朝まで一人というのは大変だろう。
だが一人でいることやその時間が苦じゃない、
どちらかというと好きな俺みたいな人間には、
これほど打って付けの仕事は無い。
23:2009/08/25(火) 21:26:11.48 ID:
('A`)「………べつに」

こんなこと、見ず知らずの人間に言っても仕方ない。
だから俺は三文字で済む便利な言葉を選択する。

川 ゚ -゚)「ふーん」

女は自分で聞いておいてさほど興味がないのか、
満足のいく返事が得られることを最初から期待していなかったのか、
再度、プリンの続きに神経を注ぎ始めた。

そのとき、俺の耳が聞きなれた音を捉えた。
あれは業者のトラックがバックから駐車スペースに入る音だ。

('A`)「あ」

川 ゚ -゚)「いうえお」

女はスルーするとして、俺の目線はドア越しに見える駐車場だ。
見覚えのあるトラックが、俺の待ち受けていたものが、ようやく来た。
24:2009/08/25(火) 21:27:45.59 ID:
( ´ー`)「おはよーっす」

('A`)「おはようございます!」

( ´ー`)「遅れてすまないだーよ」

('A`)「いえいえとんでもございません!」

( ´ー`)「………? はいじゃあ、判子宜しく」

これでようやくあの女とおさらばだ。

( ´ー`)「あざーっした」

('A`)「どういたしまして!」

俺は本棚の前に山となって詰まれた雑誌の封を破り、
真新しいそれを取り出した。
こいつか、こいつが俺の苦悩の原因か。
26:2009/08/25(火) 21:30:34.48 ID:
('A`)「こちらでよろしかったですか?」

俺がそれを持ってレジへ行くと、女もいつの間にか
事務所から出て、レジの前で待機していた。

川 ゚ -゚)「うむ、確かに」

('A`)「250円です」

川 ゚ -゚)「いいだろう」

('A`)「ちょうど頂きます」

川 ゚ -゚)「くるしゅうない」

('A`)「有難うございましたー」

川 ゚ -゚)「どいたまー」

女はレシートも袋も受け取らず、
はだかの雑誌を抱きしめるようにして受け取り、帰っていった。
28:2009/08/25(火) 21:32:14.09 ID:
ようやく変な女から開放された。
俺は事務所に直行し、灰皿を出して煙草に火をつけた。
たかだかバイト風情が事務所で喫煙なんて他では考えられないだろうが、
まあ店には俺しかいないし後片付けさえちゃんとすればバレはしない。

('A`)y-「ふぃー」

俺は一人でこうして煙草をふかしているときが好きだ。
煙草はゆっくり一人で落ち着いて楽しむもの、というのが持論だからだ。
だから大学の喫煙所みたいな騒がしい所は大嫌いだ。
単に他の人間が苦手というのもあるが。

('A`)y-「あー至福」

煙草の煙のように、俺の気持ちも浮かび上がる。
我ながら上手い表現だとにやつきながら目線を下げると、
デスクの上に置かれた空になったプリンの容器があった。
俺の気持ちは、一気にどん底まで沈んだ。
31:2009/08/25(火) 21:35:18.35 ID:
('A`)「お疲れ様です」

そして朝、パートのおばちゃんと引継ぎを終え、
俺は制服をロッカーにかけ店を後にする。
夜勤明けの開放感ほど清々しいものはない、と思う。
俺の住むアパートは坂の上にあり、コンビニはその中腹にある。
だから俺は朝陽に目を眩ませつつ、毎朝こうして坂を上るのだ。

('A`)「?」

その道中にあるゴミ捨て場で、ふと違和感を覚える。
普段なら気にもとめないのだが、捨ててあるのは見覚えのある雑誌。
今日の日付変更と共に売り出されたばかりの今週号だ。
まだ新品に近い状態で、無造作に捨ててあるというよりは、
大事な物のように置いてあるように見える。
こんな朝早くに捨ててあるなんて珍しい。
夜中の内に買った誰かが読み終わって捨てたのか。
32:2009/08/25(火) 21:36:58.46 ID:
雑誌の表紙でありえないポーズで笑顔を見せている
キャラクターと睨めっこしている内、ふとあの女のことを思い出す。
別に頬に傷のあるそのキャラクターが女に似ていた訳ではない。
あいつは、なんだったんだろう。
もしかして、また来週も来るんだろうか。

('A`)「……まさかなぁ」

今まで来なかった客だ。
ここらに住んでいる訳ではないだろう。
昨日だけたまたまうちに来たに違いない。
雑誌を求めて町中のコンビニを回っていたのかもしれない。
もう、二度と会うことはないだろう。

('A`)「………」

俺は無意識の内、プリンの味を思い出していた。
33:2009/08/25(火) 21:37:29.54 ID:
死ぬ気で支援する
34:2009/08/25(火) 21:38:22.24 ID:


川 ゚ -゚)「ジャンプありますか」

('A`)「………」

だが、そいつはまたやって来た。

36:2009/08/25(火) 21:39:44.72 ID:
次の週も。

川 ゚ -゚)「ジャンプはあるか」

その次の週も。

川 ゚ -゚)「ジャンプよこせ」

そしてまた次の週も。

川 ゚ -゚)「いつものまだか」

さらに次の週も。

川 ゚ -゚)「今日もプリンあるか?」

そいつはやって来た。
次第にあつかましさが増しているのは気のせいではない。
38:2009/08/25(火) 21:42:13.41 ID:
川 ゚ -゚)「え、大学三年生なのか」

('A`)「まあね」

川 ゚ -゚)「就活はないのか?」

('A`)「まああるだろうね」

川 ゚ -゚)「お前はしないのか」

('A`)「まあなるようになるよ」

そう、なるようになる。
例えば、部外者であり赤の他人であるこの女が
勝手に事務所に入ってきて廃棄のプリンを食べているような、
この状況にすっかり慣れ親しんだように。
日付を跨いだ頃に現れる、月曜日の使者のような女。
毎度同じ時間にやってきて、ジャンプないかと尋ね、
ないと分かるやずかずかと事務所に乗り込んでくる。
俺の中では、もうバイトの一環のようなものになっていた。
40:2009/08/25(火) 21:46:02.36 ID:
('A`)「………」

だが一つ、気になることがあった。

ゴミ捨て場に置かれた雑誌。
あれから毎週、バイト明けに確認すると、決まって同じ位置に雑誌はあった。

('A`)「なあ、ジャンプでどの漫画が好き?」

平然さを装って質問を投げかける。
もしかしたら………といった程度の疑問だが、
それはグルグルと渦を巻いて俺の中で蠢いている。

川 ゚ -゚)「そうだな、ツーピースだな」

('A`)「ほほう」

長期連載、看板ともいえる代表作だ。
雑誌を読まない俺でも知っている。
41:2009/08/25(火) 21:47:44.66 ID:
俺の考えすぎだろうか。
こう毎週毎週こんな時間に起きて
雑誌を買うためだけにここへ通うような奴が、
それに目を通すことなく捨てるなんてありえないもんな。

その時、店の外でいつものトラックの音。
今日は俺よりも先に、こいつが反応した。

川 ゚ -゚)「きたか」

('A`)「ついに聞き分けがきくようになったか」

川 ゚ -゚)「どれだけここにいると思ってる」

('A`)「その言い方だとここで働いているみたいだな」

まったく、妙な関係だ。
42:2009/08/25(火) 21:48:43.04 ID:
ブーンやショボンは出るのだろうか
支援
44:2009/08/25(火) 21:50:46.40 ID:
川 ゚ -゚)「私の仕事はお前の話し相手だろうが」

('A`)「え?」

川 ゚ -゚)「こんな夜更けまで一人じゃ寂しいだろう」

('A`)「………」

突然のことで、俺は立ち上がろうとした動きを止めた。
いま、事務所の椅子を占拠し、プリンを食べているこの女。
真っ直ぐな瞳。なんと答えていいか分からない。
俺には人間関係のスキルが足りていないのだから。

だから俺は、またこの言葉に頼る。

('A`)「………べつに」
46:2009/08/25(火) 21:52:00.02 ID:
( ´ー`)「どーもだーよ」

('A`)「ご苦労様です」

運ばれてきた山の封を切り、雑誌を一つ取り出し、
それを持ってレジへ行く。そこには既にあの女が待っていて、これを買って帰る。
何処へ帰るんだろう。ここの近所なんだろうか。
その疑問が浮かんだとき、俺はとっさに新品の雑誌をめくり、
適当なページを選んでレシートを挟んだ。
先ほど自分用のコーヒーを買ったとき、なんとなくポケットに入れたものだ。

('A`)「おまたへ」

川 ゚ -゚)「なんじゃそら」

レジを通して代金を貰う。目当ての雑誌が手に入ると女はすぐに帰る。
49:2009/08/25(火) 21:53:35.94 ID:
俺は事務所へ戻り、椅子に腰掛ける。
女が座っていた温もりをズボン越しに感じる。

('A`)「俺は、なにやってんだ………」

どうでもいいことだろう?
あの女が、雑誌を読んでいるかいないかなんて。
金さえ払えば、あれはあいつのものなんだから。

何故か震える指で、煙草に火をつける。

('A`)y-「………」

吸い込んだ煙は、ひどく不味かった。
52:2009/08/25(火) 21:55:52.67 ID:
バイトしてれば出会いがあると思っていた時期が俺にもありました…
54:2009/08/25(火) 21:58:46.16 ID:
良作の予感......!!
53:2009/08/25(火) 21:56:57.46 ID:
そしてバイト明け。
引継ぎを終えた俺は坂を上っている。
坂の途中に、ゴミ捨て場が見えてくる。

('A`)「………」

いつもと同じように、雑誌が横たわっている。
俺は拾い上げ、パラパラとページをめくる。
犬の散歩をしている中年のおっちゃんが、
訝しげな顔をしながら横を通り過ぎる。

その時、俺の足元にハラリと落ちたものがあった。
BOUS 120円と書かれたレシート。

('A`)「………」

この感情は、なんだろう。
別に裏切られたとかそういうわけではない。
何ともいえない気持ちだった。
57:2009/08/25(火) 22:02:08.86 ID:
そして次の週。
夏もいよいよ終わりを迎えようとしている。
夏が秋へと引き継ぐことに名残を惜しんでいるかのような
おそらく最後の熱帯夜、女はいつもと同じ時間に現れて、
やはりいつもと同じように事務所に乗り込んできた。

川 ゚ -゚)「なんだ、今日はプリンないのか」

('A`)「まあね」

川 ゚ -゚)「がっかりだ」

('A`)「そうだな」

川 ゚ -゚)「何かあったのか?」

('A`)「………べつに」

一瞬ドキリとしたが、俺の口から出たのは
やはり例の便利な言葉だ。
59:2009/08/25(火) 22:05:38.77 ID:
川 ゚ -゚)「そんなことはないだろう」

('A`)「なにもねーよ……」

川 ゚ -゚)「私に遠慮なんかいらないぞ」

( A )「………ってんだろ」

川 ゚ -゚)「なんたって私はきみの話しあいt」

(#'A`)「なにもないって言ってんだろ!!」

川;゚ -゚)「………ッ」

まさか怒鳴られるとは思っていなかったんだろう。
女が始めて動揺を見せる。それはそうだ。
俺自身、何故こんなにイライラするのか説明がつかない。
60:2009/08/25(火) 22:06:59.68 ID:
ただ、分かることは、


('A`)「お前に、俺の何が分かるってんだよ……」

川;゚ -゚)「いや……私は………」

( A )「帰れよ……」


もう今更謝っても、どうにもならないということ。


川 - )「……すまなかった」

川 - )「きみにとって、私は、不愉快な存在だったんだな」


何を言っても、もう元通りにはならないということ。
63:2009/08/25(火) 22:08:27.28 ID:
川 - )「さようなら」

川 - )「きみとの時間は……楽しかったよ」

('A`)「………ッ」

女は静かに立ち上がると、そのまま音も無く事務所を出て行った。
俺は目線を床に下げたままだった。
悔しかったのか、それとも恨めしかったのか。
女の後姿を目で追うこともなく。


それきり、女は来なかった。
64:2009/08/25(火) 22:08:32.81 ID:
(´-ω-`)
65:2009/08/25(火) 22:12:03.63 ID:
それから俺は独りになった。

デザート類の廃棄を終え、事務所でプリンを食べ、
運ばれてきた雑誌を陳列する。

前からこれが当たり前だったんだ。
違ったのは、ほんの数週間だけ。
けどあの時間が、独りじゃない時間があったから。
急に世界が、色褪せてしまった。

あの女さえ来なければ、こんな思いをしなくて済んだ。
あの女がいたから、こんな思いをしなくちゃいけない。
あの女がいたから。


俺はいま、こうも寂しい。
68:2009/08/25(火) 22:15:44.12 ID:
('A`)「お疲れ様です……」

(´・ω・`)「大丈夫? 元気ないんじゃない?」

('A`)「大丈夫っす」

今日は珍しく店長との引継ぎだった。
いつも来るパートのおばちゃんが急用で来られなくなり、
上がるのは朝よりも昼の方が近い時間になってしまった。
さっさと帰る準備をする。

(´・ω・`)「無理しないで休み取ってもいいんだよ?」

本当に大丈夫です、ちょっと夏バテ気味なだけなんで、と念を押す。
無理やり笑顔を作ってみたけれど、かえって逆効果だったようだ。
いよいよ真剣に、次の夜勤は他の子と代わってもらえと言われた。
そういや俺は普段、笑顔なんか見せる奴じゃないもんな。

身体がひどく重い。胸のあたりがモヤモヤする。
70:2009/08/25(火) 22:18:14.96 ID:
世界はそれを愛と呼ぶぁ
71:2009/08/25(火) 22:18:55.30 ID:
これが恋か…
74:2009/08/25(火) 22:20:36.89 ID:
急勾配で長い坂がひどく恨めしい。
畜生、なんで俺の家は坂の上にあって、
俺のバイト先はその中腹にあるんだ。

さらに太陽は空気の読めない奴で、
もう夏も終わりだというのにしぶとく最後の抵抗をみせ、
弱っている俺にギラギラと照りつける。
くそ、俺はイソップ童話の旅人じゃないってのに。

('A`)「………」

半分程上ったところで、ふとゴミ捨て場に目をやってしまう。
分かってる。今日は雑誌が置いてあるはずがない。
しかし代わりに、見覚えのある人影。

('A`)「あ………」

川 ゚ -゚)「やあ」

何週ぶりか分からないが、あの女が、そこに立っていた。
75:2009/08/25(火) 22:24:15.02 ID:
川 ゚ -゚)「随分と体調が悪そうだな」

('A`)「べつに……」

悟られまいと俺はあらぬ方向に頭を振ったが、内心驚いていた。
何故、今更ここに?

川 ゚ -゚)「一緒に来てほしいところがあるんだ」

('A`)「一緒に来てほしいところ?」

何を言ってるんだこいつは。
俺がお前にしたことを、忘れたってのか。

川 ゚ -゚)「いいだろ? 客のよしみじゃないか」

客。
その言葉が、ひどく残酷なものに聞こえた。


('A`)「わかったよ」
76:2009/08/25(火) 22:27:59.57 ID:
坂を上り切ると、信号のある通りに出る。
俺は普段ここで右に曲がるのだが、女は真っ直ぐ信号を渡った。
家とは逆方向だが一度肯定してしまった手前、俺も後に続く。
何処まで行くのか聞いていいか迷っていると、
ある建物の門の前で女は足を止めた。

『美布園』と書かれたプレートが下がっている。
その鉄の門は中央から左右に2分されるような形で開閉するタイプで、
ところどころ塗装が剥げ落ちている。建物も相当古い。
建物の中からは子供たちの騒ぎ声が聞こえてくるが、
保育園や幼稚園にしては設備が滞っていないように思える。
だとすれば、考えられる候補はあと一つ。

('A`)「孤児院か」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだ」
77:2009/08/25(火) 22:29:57.29 ID:
('A`)「ここに何の用があるんだ」

川 ゚ -゚)「いいから、先に入ってくれないか」

南京錠がぶら下がっているが、施錠はされていない。
とりあえず片方を押してみると、きいい、と音を立てる。
庭へ足を踏み入れると、靴の裏に芝生の感触。
しかしそれ以外の雑草も伸び放題で台無しだ。

('A`)「知り合いでもいるのか……って」

言いかけて、背中越しに今まで感じた気配が遠のくのを感じ、立ち止まる。
振り返ると、女は立ち止まった場所から一歩も動いていない。
いや、動こうとはしているようで、足が震えている。
しかし彼女の意思に反するように、一歩も動かない。
門と庭、アスファルトと芝生の境界線。
女はどうしても一歩が踏み出せないようだった。
78:2009/08/25(火) 22:32:34.95 ID:
川 ゚ -゚)「………」

('A`)「……おい、どうしたんだ」

川 ゚ -゚)「やはり……駄目だったか」

('A`)「え………」

川 ゚ -゚)「きみと一緒なら、中まで行けると思ったんだがな……」

('A`)「は?」

何を言ってるんだこいつは。
80:2009/08/25(火) 22:33:01.36 ID:
わくてか
81:2009/08/25(火) 22:33:37.42 ID:
川 ゚ -゚)「でも、ここまで来ることが出来た」

川 ゚ ー゚)「それだけで……きみに、感謝だ」

不可解な笑顔。


川 ゚ -゚)「私一人では、あそこまでが限界だった………」

('A`)「おい」

一体何の話をしているんだ。
何がなんだか分からない。
82:2009/08/25(火) 22:35:18.95 ID:
その時、今まで遠かった騒ぎ声がすぐ後ろで聞こえて、
俺は弾かれたように降り返る。
子供たちが中庭へ出てきた。外で遊ぶ時間なのだろうか。
五歳児くらいの子供に手を引かれ、
柔和な顔立ちをした若い女性が中庭へ降りてくる。
職員だろうか。だったら見つかると面倒かもしれない。
いや、というかこんなに見ていたら気付かれて、

(*゚ー゚)「あら?」

('A`)「あ………」

思ったそばから気付かれた。
まあこれだけ見てりゃ嫌でも視線に気付くか。

(*゚ー゚)「面会? それともボランティアの方かしら……」

('A`)「いや、俺は……」

こいつに連れられて、と振り返る。
そこにいたはずの女の姿が無い。
87:2009/08/25(火) 22:40:15.33 ID:
('A`)「な………」

そんなばかな。
門はぴたりと左右が合わさるようにして閉まっている。
音も気配もなかった。俺が視線を外した時間なんてごく僅かだ。

(*゚ー゚)「何かご用?」

('A`)「あ……いや、俺……」

いかん、このままじゃ俺は明らかに不審者だ。
このご時勢ならお上の世話になること疑いなし。
もしこの人があの女の知り合いなら、何とか乗り切れるだろうが、
あいつの名前なんだっけちくしょう。
そういえばお互いまだ名乗っていなかった。
こうなれば特徴をあげるしかない。
88:2009/08/25(火) 22:43:55.43 ID:
('A`)「髪が黒くて長い、ええと、白いワンピースを着た女に連れてこられて」

(*゚ー゚)「え………」

('A`)「えーと、それで今はちょっと居ないんですけど……」

(*゚ー゚)「クー!? そんなまさか……」

('A`)「………はい?」

思わぬ剣幕にキョトンとしてしまう。

(*゚ー゚)「いいえ……そんなはずは……」

と、思いきや片手を唇に持ってゆき、
一人でぶつぶつ言い始める。忙しい人だな。
91:2009/08/25(火) 22:50:04.42 ID:
('A`)「ええと、クーってのは………」

(*゚ー゚)「あ……その、黒髪で白いワンピースの女の子です」

なるほど、あの女はクーって名前なのか。
なかなか顔や雰囲気と合って……って、着目するべきはそこじゃない。

('A`)「ええと……あなたは」

(*゚ー゚)「私は『美布園』園長の孫のしぃです」

('A`)「しぃさん……俺は、そのクーに連れられて」

(*゚ー゚)「いえ、そんなはずありません……」

('A`)「え……?」


(*゚ー゚)「彼女は、半年近く目を覚まさないの」
92:2009/08/25(火) 22:56:53.16 ID:
なんだって。

('A`)「そんな馬鹿な……」

じゃあ、毎週月曜、店に来ていたのは誰だ。
事務所に上がりこんで、プリンを食っていたのは誰だ。
雑誌を買っていったのは誰だ。
ここに俺を連れてきたのは誰だ。

(*゚ー゚)「ちょっと来て下さい」

そう言ってしぃさんは、玄関の方へ歩いていく。
断る理由がないので俺も続く。
しぃさんは外用と思われるサンダルを脱いできちんと揃え、
俺もその隣に靴を脱いで揃える。
そしてしぃさんの出してくれた客用のスリッパをお借りした。
93:2009/08/25(火) 22:57:41.51 ID:
玄関入ってすぐ、ドアが開けっ放しになっている部屋があり、
そこでうずくまるように何かをしている少年がいた。

(,,゚Д゚)

他の子供たちは表で遊んでいるのに、
その子だけ床に座り、熱心に何かを描いている。
見たところ小学校低学年だろうか。
絵を描く、というよりも白い画用紙に、
クレヨンで殴るように何かを塗りつぶしている。
やはり開け放しの窓から子供たちの遊び声が聞こえてくるが、
それ以外の事には、まるで興味を示していないようだ。
94:2009/08/25(火) 22:58:23.42 ID:
支援
96:2009/08/25(火) 23:03:28.31 ID:
(*゚ー゚)「ありました」

事務室と思われる部屋から、しぃさんが出てくる。
手にはアルバムらしき冊子。

('A`)「あの子は……」

(*゚ー゚)「ああ、ギコ君……」

('A`)「あんなとこで独りぼっちで……」

寂しくないのか、と言い掛けて俺はやめた。
あれだけ言われて嫌だったこと。
子供の頃から、中学、高校、大学に上がる過程で、
周りから投げつけられてきた、大嫌いな質問。
97:2009/08/25(火) 23:07:02.45 ID:
(*゚ー゚)「これを見てください」

しぃさんはアルバムをめくり、あるページで止める。
ここの中庭でバーベキューをしている写真。
あの女が、子供たちに囲まれて映っていた。

('A`)「この女性です……」


('A`)「じゃあ今さっきまでここにいたのは……」

(*゚ー゚)「説明していただけますか……?」


(*゚ー゚)「いつ、どこで、どうしてクーと知り合うことが出来たのか……」

俺は話した。
俺が坂を下りた所にあるコンビニで深夜にバイトをしていること。
彼女はここ最近来るようになった客で、よく話をしたこと。

そして、
99:2009/08/25(火) 23:09:02.72 ID:
('A`)「彼女は、毎回ある雑誌を買っていました」

(*゚ー゚)「雑誌……!」

('A`)「?」

(*゚ー゚)「あの、その雑誌というのはまさか」

('A`)「ジャンプですが……」

(*゚ー゚)「………やっぱり」

('A`)「どういうことですか?」

(*゚ー゚)「………」

しぃさんは一度、言うのを躊躇った。
いや、ショックを受け、立ち直るのに
僅かながら時間がかかったのかもしれない。

(*゚ー゚)「彼女は、学生ボランティアの方でした」
100:2009/08/25(火) 23:13:59.87 ID:
(*゚ー゚)「彼女はボランティア期間が終わっても通い続けてくれました」

(*゚ー゚)「職員以上に子供たちから慕われていました」

(*゚ー゚)「ある日、さっきのギコ君がジャンプが読みたいと言って……」

(*゚ー゚)「彼女、ギコ君と約束したんです」

(*゚ー゚)「今度来るとき、買ってきてやる、って……」

(*゚ー゚)「彼女らしいですよね」

('A`)「………」

俺は何も言えず、しぃさんの話に耳を傾けていた。
101:2009/08/25(火) 23:14:48.11 ID:
いいよいいよ
102:2009/08/25(火) 23:15:56.64 ID:
(*゚ー゚)「ギコ君はこどもたちの中で一番元気な子だったんです」

(*゚ー゚)「だけど……事故のことを聞いたんでしょうね」

(*゚ー゚)「それ以来、ずっと、一人で絵を描いてるんです」

(*゚ー゚)「クーは……いまも、病院で闘っているはずです」

(*゚ー゚)「でも……ギコ君との約束を守ろうとしてるんだわ………」

俺はしぃさんの顔を見ていられず、
逃げるように視線をギコ君へ向けた。
さっきは何を描いているか分からなかった絵。
今はありえないポーズで笑顔をみせる、あの頬に傷のあるキャラクターに見えた。
103:2009/08/25(火) 23:16:57.20 ID:
支援する…ッ!
まだまだ…まだ泣かんよ…ッ!
104:2009/08/25(火) 23:17:20.38 ID:
しぃさんに挨拶をして、俺は『美布園』を後にした。
考えるのは彼女のこと、ギコ君のこと。
彼女は意識を失っても、気に病んでいた。
約束を守ってあげられなかったことを。
だから雑誌をあんなに求めていた。
しかし坂を上り切ることはできなかった。
俺の力を借りても、中に入ることはできなかった。

彼女は、二つのことに闘っている。
一つは意識を取り戻すこと。
一つは約束を果たすこと。

('A`)「やっぱり……独りは寂しいよ」

門をくぐったところで俺は立ち止まり、天を見上げる。
澄み切った夏の空に、俺は彼女の名前を重ねていた。
105:2009/08/25(火) 23:18:54.63 ID:
あれ?なんか飛んでない?
106:2009/08/25(火) 23:20:16.30 ID:
これは汗だからね

汗だからね
107:2009/08/25(火) 23:20:29.89 ID:
そしてまた日曜日の夜勤。
もしかして、と思っていたが、クーは来なかった。
もう俺の前に現れないのかもしれない。

今日も店長との引継ぎだった。

(´・ω・`)「本当に大丈夫なのかい?」

('A`)「大丈夫ですよ、失礼します」

店のドアをくぐろうとして、あることを思い出す。

('A`)「あ、それと」

(´・ω・`)「?」

俺は雑誌コーナーへ向かう。
これを買わないとな。
108:2009/08/25(火) 23:22:31.93 ID:
そして俺はいつもと同じ坂を上る。
途中にあるゴミ捨て場を通り過ぎる。
上りきったところでいつもは右に曲がる交差点を、
信号を渡ってさらに真っ直ぐ進む。
少し歩くと、『美布園』の門が見える。

しぃさんは見える所にいないが、構わないだろう。
今日用があってきたのは、別の理由だ。
俺は建物に上がり、やはり開け放しの部屋へ入る。
やはり目的の人物はそこにいて、背を向ける形で
一心不乱に画用紙に向かっている。
見ず知らずの俺が入っても反応を見せない
その背中に、俺は声を掛けた。

('A`)「お待たせ」
109:2009/08/25(火) 23:23:24.23 ID:
(,,゚Д゚)「……?」

振り向いたところに、さっき買った雑誌を差し出す。

(,,゚Д゚)「こ、これ……」

('A`)「クーって女の人から預かったもんだ」

(,,゚Д゚) 「クー姉ちゃん………?」

('A`)「君への、プレゼントだ」

(,,゚Д゚)「え……」
113:2009/08/25(火) 23:26:51.58 ID:
これは…汗だ…
心の汗なんだ…ッ!
114:2009/08/25(火) 23:27:26.52 ID:
('A`)「それと、ひとつ伝言を頼まれてる」

('A`)「遅れてゴメン、あと直接渡せなくてゴメン」


(,,゚Д゚)「………」


('A`)「これからきちんと毎週届けるから」

('A`)「だからみんなと遊ぼう」

('A`)「事故のこと……責任感じなくていいんだよ」


('A`)「私は、大丈夫だから」


(,,;Д;)「うん……」
115:2009/08/25(火) 23:28:43.75 ID:
「すまない」

門をくぐったとき、彼女の声が聞こえた。
ここが見える所に、彼女は立っていた。
あれからずっといたんだろう。

しかし彼女の身体はぼやけてしまっている。
後ろの景色が透けて見えている。

まるでこのまま、消えてしまうかのように。

「長い間、暗い道を歩いていた」

「そしたら光を見つけた」

「コンビニの光だった」

「そこに、きみがいた」

「きみには、私が見えた」
118:2009/08/25(火) 23:31:47.96 ID:
('A`)「いつか………」

('A`)「いつか、君が目を覚ますときまで」

('A`)「ギコ君に……直接渡せるときまで」

('A`)「俺が、ギコ君にジャンプを届けるよ」


('A`)「約束する」
119:2009/08/25(火) 23:33:23.13 ID:
彼女の身体は蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている。
もう間もなく消えてなくなってしまうだろう。
だが、肉体は別のところにちゃんとある。
このまま消えてなくなることはない。

何故なら彼女は闘っているのだから。
だからいつか、また、会える。
ギコ君に、しぃさんに。

そして俺にも。
いつもと同じ時間、あのコンビニで。


「………ありがとう」

最後に彼女は、笑った気がした。
120:2009/08/25(火) 23:35:59.23 ID:
それから俺は毎週ジャンプを買い、
バイトが終わるとギコ君の元へ届けた。
クー姉はどうした、いつ会える等と聞いてこないあたり、
ギコ君も本当のことは分かっているのかもしれない。

何度もそれを繰り返し、月日が流れた。

季節は変わり、店の売れ筋は肉まんやおでん、
ホットコーヒーといった、温かいものへと様変わりしている。

そしてホット商品も需要が無くなったころ、また夏がやって来る。
122:2009/08/25(火) 23:38:26.11 ID:
今日は日曜日。もうすぐ日付変更線をまたぐ。
そして、また月曜日がやって来る。

俺は廃棄の中からプリンを選び、
レジの下からスプーンを取って事務所に向かう。
座って封を切り、さあ一口を食べようというとき、
防犯カメラの映像に、誰かがドアを押して入って来るのが見えた。
同時に、店の来客を告げる電子音が鳴る。


俺は事務所から出て、レジへ向かう。
浮かんだ笑みを隠すことができない。
そして、お決まりの台詞。
123:2009/08/25(火) 23:39:45.50 ID:
('∀`)「いらっしゃいませ!」

すると真っ直ぐレジに来た女は、こう言うんだ。



川 ゚ ー゚)「ジャンプありますか?」





('A`)とジャンプのようです


124:2009/08/25(火) 23:40:08.44 ID:
125:2009/08/25(火) 23:40:16.73 ID:
乙!ええねえ
126:2009/08/25(火) 23:40:56.99 ID:
良い短編だったぜ乙
129:2009/08/25(火) 23:41:55.21 ID:


泣いてなんかないもんねー
ないもんねー
143:2009/08/26(水) 00:02:33.71 ID:
感動した
乙!
135:2009/08/25(火) 23:44:19.23 ID:
>>1
何か清々しい気分になった
141:2009/08/25(火) 23:58:19.84 ID:
久々に素晴らしい作品に出会えた…泣いた…


GJ!!
元スレ: