1:2009/02/22(日) 22:30:11.22 ID:

**はじめに**

この作品はオムニバス形式です。
テーマは「バス」。
一本一本の関係性はないのでお気を付けください。

それでは、バスが発車します――――。


2:2009/02/22(日) 22:32:08.18 ID:

  ('A`)は飛び乗るようです

4:2009/02/22(日) 22:34:00.47 ID:

大きく、どこまで伸びているのか分からない壁に囲まれている国。
それに触りながら一周しても扉などといったものは無いと誰かが言っていた。

俺はそこで生まれて、今まで育てられてきた。

この国で生まれ育った人間からしてみたら囲まれているのが普通だ。
みんないつもと同じように動き、暮らしている。

この壁がどうなっているのかは分からないし、知ろうとも思わなかった。
そう、ついこの間までは――――。

「ドクオ」

後ろから声をかけられ、はっとして振り向く。

(´・ω・`)「やあ」

('A`)「・・・ショボンか」

5:2009/02/22(日) 22:36:00.53 ID:

(´・ω・`)「何ぼーっとしてるのさ」

('A`)「別にそういうわけじゃないけどさ・・・」

ショボンは「そう」と呟き俺の隣に座る。
二人で公園のベンチに座っているが会話は無い。

というよりこの前のことが頭から離れなかった。

(´・ω・`)「何か隠してるでしょ?」

ショボンが意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。
おれの唯一の友達は勘が鋭い。

今回は俺が顔に出しすぎていたのかもしれないのだが。


7:2009/02/22(日) 22:38:00.57 ID:

('A`)「絶対笑わないか?」

ショボンはこくりと頷く。

上を見上げれば灰色。
囲んでいる壁を見ても灰色。

俺は肩をすくめ、ゆっくりと話し始める。
この前起きた出来事を。

とても信じられなかったが、頭から離れないそれを。

8:2009/02/22(日) 22:40:00.94 ID:

2日前の深夜、俺は目を覚ました。
この国は夜になると街灯以外の明かりが無くなる。

誰もが建物に入り、次の日まで深い眠りにつくのだ。
だから音は聞こえない、というより音は「無い」。

だけど俺は何かの音を聞いて目を覚ました。
鈍く響くように聞こえてきたそれになぜか興味を覚えてしまい、俺は外に出ることにした。

ぽつぽつとある明かりは道をつくるように光っていた。
まあ、街頭だからあたりまえなのだが。

('A`)「ん?」

唯一聞こえる音を頼りに道を進む。
歩いた先にあったのはバス停。

だが、そこには信じられないものが停まっていた。
9:2009/02/22(日) 22:42:00.83 ID:

バスが停まっている。

この時間は誰も家から出ない。
バスだって運行していない時間なのだ。

しかも停まっているバスは本来のものではない。
普段ここらを通るバスは黒に近い緑をした車体に、金色のラインが入ったもの。
だが、目の前に泊っているバスは白い車体に黒のラインが2本入っているものだった。

明らかに異質。

街灯に照らされるそれは不気味な雰囲気を漂わせていた。
だけどなぜだか、怖くない。

('A`)「なんだよこれ・・・」

一歩ずつ近づいてみると、プシュー、という音とともに扉が開く。

(;'A`)「うわぁ!」

情けない声を出しながら尻もちをつく。
そして扉から一人の男が出てくきた。

10:2009/02/22(日) 22:44:00.51 ID:

/ ,' 3 「このバスは外界行き。乗りますか?」

しっかりとした服装の老人に急に訪ねられ、頭に疑問符を浮かべる。
訳が解らなかった。
外界行き?何を言ってるんだ。

/ ,' 3 「あなたはあの壁の向こう側が気になりませんか?」

/ ,' 3 「ここは閉ざされた世界なのです。出てみたいとは思いませんか?」

(;'A`)「え、どういうこと?」

/ ,' 3 「冷静になる時間が必要ですね。あなたは違和感を感じませんか?」

老人は指をさしてみせる。
灰色で、終わりのない壁に向かって。

/ ,' 3 「さて、時間がきてしまいました。近日中にもう一度会うことになるでしょう。
     日付は・・・そうですね――――」

老人は日付を付け足すとバスの中に入っていく。
そしてバスはゆっくりと走り出す。

(;'A`)「ちょっと待て、そっちは」

バスは灰色の壁に突っ込む。
思わず目を閉じてしまったが、音も何もしない。
11:2009/02/22(日) 22:46:00.67 ID:

('A`)「目を開けてみたらバスは無かった、ってお話」

一通り話し終え、ショボンに視線をやる。
ショボンはどんな表情をしているだろうか。

その瞬間だった。

(´゚ω゚`)「寝言は寝て言えくそがっ!!」

(;'A(#)「ぶべらっ」

ビンタが飛んできた。
話せと言ったのはそっちだろうが。

(´・ω・`)「あ、わりぃ。で、また会うときっていつ?」

全く反省の色を見せていないがまあいい。
こいつは俺をよく知っているし、俺もこいつをよく知っている・・・はずだ。

('A`)「それが今日の夜なんですよー」

もう一発ビンタが飛んできた。
痛い。
12:2009/02/22(日) 22:48:00.73 ID:

そして、夜はやってくる。
街からは例の如く明かりが消える。

あの後の話し合いの結果、ショボンが俺の家に泊まることになった。
バスが来るかどうかを確かめたいのだそうだ。

ショボンはその程度の気持ちで良い。
だが俺はそれでは駄目なのだ。

灰色の国、ここの外がどうなっているのかがとても気になる。
少し気味が悪いという気もするが、バスに乗ってみようか。

('A`)「おい、ショボン」

かなり眠い、しかし起きていないと。
ショボンに呼びかけてみるが反応は無い。

すでに寝ているようだった。
ああ、畜生、俺も眠く――――。

13:2009/02/22(日) 22:50:01.58 ID:

――――何か聞こえる。

なんだよ五月蠅いな。
こっちは寝てるんだ、静かにするのが常識・・・。

あれ?
音が聞こえ――――。

(;'A`)「おい!ショボン起きろ」

ショボンの体を何度も揺する。
寝るつもりはなかったのに、睡魔には勝てなかったようだ。

(´-ω-`)「なんだよー」

ショボンは目を閉じたまま体を起こす。
バスが来たことを教えると、めんどくさそうにしながらも起き上がる。

(´・ω・`)「来てなかったらただじゃおかない」

とにかく二人で家を出てバス停に向かう。
頼むからいてくれ。

14:2009/02/22(日) 22:52:00.54 ID:

(;´・ω・`)「嘘でしょ・・・」

ショボンが息をのむのが分かる。
俺だって最初に見た時は驚いたさ。

白い車体に黒のラインが2本、間違いない、あのバスだ。
それを眺めていると扉から老人が下りてくる。

/ ,' 3 「決まりましたか?・・・そちらの方もお乗りに?」

ショボンは何も言わない、話を信じていなかったのだろう。
だが俺は違う、十分に考えた。

('A`)「乗らせてもらうよ」

(;´・ω・`)「はぁ?何言ってんだよ?」

ここが囲まれていると知ってしまった以上、俺は出てみたい。
あの先に何があるのか。

('A`)「もし何かあったらすぐに戻ってくればさ――――」

俺の言葉を遮るようにして老人が言う、「それはできません」と。

(;'A`)「どういうことだよ?」

15:2009/02/22(日) 22:53:42.16 ID:
銀河鉄道の夜思い出した

カムパネルラとジョバンニ

支援

16:2009/02/22(日) 22:54:00.88 ID:

/ ,' 3 「正しく言うと可能です。ですがそれは誰もしたがりません」

/ ,' 3 「このバスに乗った人は、この国に居なかったことになります。記憶が消えるのです」

(;'A`)(;´・ω・`)

絶句。
2人の状況を表すにはそれが一番だった。

/ ,' 3 「この国は何不自由なく暮らせる場所です。しかし、たまにいるのです。
     嫌気、と言いますか・・・。何やら不満を感じる人が」


          「このバスはそんな人の元に訪れるのです」


そんな国に戻ってきたがる人がいますか?誰一人自分のことを知らないのに。
老人はそう言うと選択を迫る。
乗るか、乗らないか。

('A`)「あの囲いの外には何があるんだ」

俺は老人に尋ねる。

/ ,' 3 「空というものが広がっております」

17:2009/02/22(日) 22:56:00.20 ID:

空、初めて聞くものだ。
広がっているとはどれくらいなんだろうか。
この国より広いのだろうか。

(´・ω・`)「馬鹿らしい。帰ろうドクオ」

ショボンは老人に冷たく言うと踵を返す。

(´・ω・`)「この国に不満を感じるわけないだろう。さ、ドクオ」

ショボンが言った言葉に俺は立ち止まる。
ショボンは少し焦ったようにして声をかけてくる。

肩を揺するショボンに、俺はどんな風に映っているのだろうか。

「ドクオそんなことできるのかよ」「すごいな」

「やってみたらできたわ」「俺もー」

俺に出来ることはたいてい人にできた。
人が出来ることは俺にはできないのに。

いじめがあったわけでも何でもない。
ちょっとずつ人と話すのが嫌になったんだよな。
一人でいるのが楽になって・・・。

18:2009/02/22(日) 22:58:00.83 ID:

('A`)「俺は行くよ」

この一言にショボンはい驚いていた。
ああ、お前そんな顔もするんだ、結構笑えるよ。

(´・ω・`)「自分が何言ってるのかわかってるの?」

睨むようにして言うショボンをじっと見つめる。
俺だって自分がどんなに馬鹿な事を言っているのか分かってる。

だけど。
もう知っちゃったんだ。
まだ広い世界がきっとあるんだ。

(#´・ω・`)「勝手にしろ!!」

ショボンは怒鳴り声をあげて走っていく。
ああ、そうやって面と向かって言ってくれるのはお前だけだったよ。

/ ,' 3 「・・・よろしいのですか?あなたについての記憶は彼からも消えてしまいますよ」

('A`)「乗るよ。ただちょっと待ってくれ」

かしこまりました、老人は優しい笑みを見せてくれた。
俺は振り返り走る。
最後に言わなくちゃいけない、あいつとこんな終わり方は嫌だ。
19:2009/02/22(日) 23:00:05.74 ID:

行った先は公園。
確信は無い、けどきっとそこに居る。

公園の門をくぐるとブランコに乗っているショボンが見えた。
ショボンもこちらに気づいたようだがすぐに顔をそらした。

('A`)「・・・ショボン」

隣のブランコに座り、話しかける。
なんだよ、と今にも消えてしまいそうな声が返ってくる。

('A`)「俺さ、一人の方が気楽だな、って思ってたんだけど違ったよ」

('A`)「そう思い込んでただけだった。だから、話しかけてくれた時嬉しかったよ」

ショボンにしてみたら同情だったかもしれない。
でも、たとえ同情であろうと、救われたのは確かだった。

('A`)「じゃあな、ショボン。俺は・・・行くよ」

結局まともな声は聞こえなかった、それも仕方ないか。
とぼとぼと歩き、バス停に向かう。

20:2009/02/22(日) 23:02:00.64 ID:

その時だった、後ろから大きな声が聞こえる。

「ドクオ!!!」

('A`)「ショボン・・・」

(´;ω;`)「・・・どんな所か教えろよ」

('∀`)「把握した」

ショボンに背を向けるようにして足を進める。
俺はいつの間にか泣いていた。
嬉しかったのか、悲しかったのか、両方かもしれないな。

/ ,' 3 「それでは行きましょうか」

老人はハンカチを差し出してくれた。
それで涙をふくように、と。

('A`)「ショボンありがとうな」

独り言のように呟いて老人に続く。

22:2009/02/22(日) 23:04:00.40 ID:

俺はバスに乗った。
少しも後悔をしていない、と言えば嘘になる。

だけど、俺は乗った。
空がどんなものかも気になる、何よりこんなことほとんどの人にできないじゃないか。

どうなるかなんて知ったことか。

バスは進んでいく。
まだ見たことのない世界へ。

きっとこの先には大切な人にも見せたい風景が広がっている。



('A`)は飛び乗るようです END
23:2009/02/22(日) 23:05:53.16 ID:

    ( ^ω^)はバスを追うようです

24:2009/02/22(日) 23:08:00.87 ID:

ζ(゚ー゚*ζ「好きです――――」

告白の言葉に僕は驚いた。
放課後に呼び出されたから、何となく予想はついたけども。

彼女は昔からよく遊んでいるデレ。
正直、彼女が僕のことをこんな風に想っていたのは分からなかった。

( ^ω^)「・・・ごめん」

僕が重々しく放った言葉に彼女は「やっぱりか」と小さく呟く。
それを聞いて、思わず「え」と声を漏らしてしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンはクーのこと好きでしょう?」

飛行機が青い空に一本の線を引く。
そんな中、彼女は僕にそう言った。

25:2009/02/22(日) 23:10:02.01 ID:

(;^ω^)「え?何故それを・・・」

デレはやれやれと大袈裟にアクションを取り、僕に背を向けた。

「私がブーンを見てる時、ブーンはクーを見ているから」

( ^ω^)「・・・」

スカートを翻しながら彼女は振り返る。
そして僕との距離を縮めて目を覗き込んでくる。

すると、また背を見せる。
きっと落ち着かないのだろう。

――――僕だってそうだ。

26:2009/02/22(日) 23:11:52.30 ID:
こういうの好きだ支援
27:2009/02/22(日) 23:12:12.16 ID:

そして沈黙を破ったのはデレ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、これからも仲良く友達ということで」

( ^ω^)「これからもよろしくだお」

結局、家が近いということもあって途中まで一緒に帰宅した。
話は不思議と途切れることはなく自然と出ていた。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあね、ブーン」

( ^ω^)「・・・」

ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたの?」

なぜ僕がクーを好きなことを知っていて告白したのか。
それを話題にしたくないのは分かるが、僕は聞いてしまった。

デレは少しむっとした後、しょうがないなぁ、と言って答えてくれた。
28:2009/02/22(日) 23:14:00.64 ID:

ζ(゚ー゚*ζ「後悔するのは嫌、これが一番の理由かな」

( ^ω^)「・・・ありがとう」

お礼を聞くと彼女は笑顔を見せた。
そして手をふりながら帰路に着いた。

その日の夜、僕は何とも言えない気分だった。
告白は嬉しいものだし、デレのことだって嫌いじゃない。

だけど、それをいくら考えた所で何も変わらない。
きっとデレは明日も笑って話しかけてくれる。

だから僕もたくさん話せるように――――。

29:2009/02/22(日) 23:16:02.37 ID:

――――り。

―――りり。

(  ω )「・・・お?」

じりりりりりりり。

( ^ω^)「あー。朝かお」

考えながらも寝れるとは大したものだと思う。
自分は図太い神経をしているのだと実感する。

「今日は終業式だっけ?」

母親の問いに軽くうなずき、仕度をする。
準備ができるとちょうどいい時間だ。

( ^ω^)「行ってくるお」

僕は靴を履き学校へ向かう。
30:2009/02/22(日) 23:18:00.51 ID:

  _
( ゚∀゚)「夏休みだなー」

終業式をさっさと終えて僕は帰路に着いた。
隣で一緒に歩いているのは親友のジョルジュ。

親友という言葉はあまり好きじゃない。
なんだか軽く言っているようで嫌になる。

それでも僕らの関係を表すにはそれがちょうど良かった。
  _
( ゚∀゚)「あそこ行くかー」

( ^ω^)「いいお」

「あそこ」と言うのは僕とジョルジュが前に見つけた避暑地。
そこは少し複雑になっていて人はあまり入ってこない。


31:2009/02/22(日) 23:20:00.83 ID:

  _
( ゚∀゚)「ああー。生き返るぜ」

二人で川に足を突っ込む。
ワイシャツは汗で張り付いていて気持ち悪い。

( ^ω^)「ジョルジュ・・・」
  _
( ゚∀゚)「どしたー?」

僕はデレに告白されたことを話した。
ジョルジュはあまり興味がないように相槌を打っていた。
  _
( ゚∀゚)「で、お前はクーに告白するの?」

( ^ω^)「・・・」

僕が黙っているとジョルジュは興味を無くしたようで川に目線を落とす。
そんなこんなで時間は流れ家に帰ることになった。


32:2009/02/22(日) 23:22:04.19 ID:

その晩、僕は昨日よりもぼんやりとしていた。
これから始まる夏休みがちっとも楽しそうに思えない。

結局夕飯を取ることすらしなかった。
と言うより、食べる気がおきなかった。

そして時間は3時になりかけていた。
恐ろしくも、その時間まで僕の目はさえていた
そこで、急に携帯が鳴り始める。

(;^ω^)「おおお?」

いきなりのそれに驚くも携帯を手に取る。
ディスプレイに映し出された名前。

――――デレ。

僕は少し気分を沈ませながらも、それに出る。
33:2009/02/22(日) 23:24:00.67 ID:

「もしもし?」

( ^ω^)「どしたお?」

「ブーンに伝えなくちゃいけないことがあって」

( ^ω^)「なんだお?」

デレの声はいつもと違う。
告白が終わった後のそれより、明らかに重い。

「実は――――」

34:2009/02/22(日) 23:25:38.58 ID:
しぇーん
35:2009/02/22(日) 23:26:00.43 ID:

(;^ω^)「――――ッ!」

朝の四時、僕は全力で走っていた。
辺りはぼんやりと霧で覆われている。

田んぼに囲まれた道を懸命に進む。

『――――転校することになったの』


(;^ω^)「ふざけんなお!まだ言いたい事が山ほどあるお!!」

体が重い。
それでも前に足を出す。

もっと、もっと速く。

ようやく見えてきたバス停。
そこに彼女はいた。

36:2009/02/22(日) 23:28:00.48 ID:

(;^ω^)「クーさん!」

僕はバスを待つ彼女に声をかける。
と言うよりも叫ぶと言った方が正しい。

川 ゚ -゚)「内藤君・・・。なぜ君がここに?」

彼女は珍しく驚いているようだった。
表情は相変わらず崩さないけども、声が少し上擦っていた。

息を整えている間に、遠くからバスが来るのが分かる。
今しかない。

大きく息を吸う。
そして言わなくちゃいけない。

37:2009/02/22(日) 23:30:00.27 ID:

――――。

蝉の声が休むことなく耳に入ってくる。
川に足をつけながら僕は横になる。

目を細めてみる太陽は白く輝いている。

『好きですお!だから、僕と――――』

格好いいことなんて何も言えなかった。
思った通りの言葉を伝えた。

普段、うまく声をかけられなくて、ぎこちない会話をして。
それでも嫌そうにしない君が好きだった。

それを楽しいと言ってくれた君のことが。

ふいに足音が聞こえた。
ここに入ってくるのはジョルジュだろうと思い、そのまま空を眺めていた。

38:2009/02/22(日) 23:32:00.95 ID:

ζ(゚ー゚*ζ「奇遇ですね」

陽を遮るようにして僕の顔を覗き込んだのはデレだった。
僕は驚き急いで顔を上げる。

そして額がぶつかり合う。

ζ(゚ー゚;ζ「いったー」

額を抑えるようにしてデレは屈んでいた。
夏服の制服は涼しげに見える。

(;^ω^)「ご、ごごご、ごめんお」

彼女は僕の隣に座り、裸足になる。
そして僕と同じように川に足をつけていた。

39:2009/02/22(日) 23:33:37.40 ID:
いい…

2度目の支援
40:2009/02/22(日) 23:34:00.56 ID:

(;^ω^)「ど、どうしてここに?」

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君に聞いたんだ」

( ^ω^)「だったら奇遇じゃないお」

ζ(゚ー゚*ζ「それもそうだ・・・」

二人で顔を合せ軽く笑う。
そしてお礼を言う、教えてくれてありがとう、と。

ζ(゚、゚*ζ「・・・お礼なんて言わないでください」

彼女とクーは、それこそ僕とジョルジュの関係のようだった。
だから彼女が転校するのも知っていたのだろう。

ζ(゚、゚*ζ「・・・本当は教えるかどうか迷ったんです」

僕は黙って彼女の話を聞く。
彼女はぼんやりと水面を眺める。

42:2009/02/22(日) 23:36:00.60 ID:

ζ(゚、゚*ζ「クーが転校するの、もっと前から知ってたよ」

ζ(゚、゚*ζ「でも、ブーンには教えようか迷った」

ζ( ー *ζ「私は、こんな人間だから。振られちゃうのも仕方ない」

デレが初めて悲しそうな顔を見せた気がする。
もしジョルジュが僕の前からいなくなったら。

そう考えただけでもつらいのにデレは――――。

( ^ω^)「でもデレは教えてくれたお」

それが何よりだった。

( ^ω^)「誰かさんが言ってたお。後悔はしたくない、って」

ζ( ー *ζ「後悔してないの?」

(;^ω^)「ぶっちゃけちょっとしてるけど・・・」

ζ(゚ー゚*ζ「だめじゃん・・・」

43:2009/02/22(日) 23:38:00.09 ID:

( ^ω^)「でも、きっとこれは良い後悔だお」

後悔に良いも悪いもあるか、と言ってしまえばそれまでだが。
でも、前程のもやもやは無い。

むしろすっきりしている。

ζ(゚ー゚*ζ「私たち、振られた者同士だね」

(;^ω^)「言っちゃ駄目だお」

蝉の鳴く声に笑い声が混じる。

夏はこれから本格的に暑さを増すだろう。
きっと、これからも沢山の物を好きになる。

ζ(゚ー゚*ζ「まだまだ子供だね、私たち」

( ^ω^)「・・・うん」

空は青く光る。
バスは大好きな人を乗せて走って行ってしまった。
正直、これをきっかけにバスを嫌いになりそうだ。

44:2009/02/22(日) 23:40:01.11 ID:

「私が転校する時も、追いかけてきてくれる?」

「・・・さあ」

「ああっ!酷い!!」

「冗談だお」

もし君が乗ってしまうのなら、また僕は追うだろう。
こんな僕の話を何よりも楽しそうに聞いてくれる人はここにもいる。

けど、それは誰かの代わりとかではなくて。
本当に、その人だけとして。

そうだな、君がそのバスに乗るんだったら僕も乗ってみよう。
そうすればもっと話せるんだ。

バスは地面を走っている。
行けない所に行くわけではないのだから。



    ( ^ω^)はバスを追うようです END
46:2009/02/22(日) 23:42:54.97 ID:
うっ・・・なんだろうこの気持ち・・・
45:2009/02/22(日) 23:42:02.54 ID:

(-_-)君のいないバス停のようです
47:2009/02/22(日) 23:44:01.08 ID:

「なあ、今日も行かないのか?」

扉の向こうから声が掛けられる。
毎日毎日飽きないのだろうか。

月、火、水、木、金。
平日はいつもこの声が聞こえる。

(-_-)「・・・」

ずっと黙っていると再び声が掛かる。

「じゃあ、バス停で待ってるから」

そう言うと足音が遠ざかってゆく。
誰も頼んでなんかいない。

いつまで友達ぶっているつもりだろうか。

48:2009/02/22(日) 23:46:00.48 ID:

「また行かないの?」

まるで割れ物を扱うかのように母親がたずねてくる。

(-_-)「行かないよ」

その一言を聞いてしばらくすると、あいつと同じように離れていく。
どうせみんなそうなんだ。

特に取柄もない。
声を出せば雰囲気を崩してしまうような男。

こんなのと関わりたがるやつがいるはずがないんだ。

家からでなくたって良い。
すこしすると、めったに部屋からでなくなっていた。

49:2009/02/22(日) 23:48:00.64 ID:

それでも、僕を毎朝迎えに来るやつがいた。
近所に住むギコと言う男だ。

昔から学校に通うときは一緒だった。
小学校、中学校。
そして、現在の高校も。

毎日僕が学校に来ないと分かっていながらも必ず迎えに来る。
ひどい時は休日にも「遊びに行こう」といって扉をノックする。

(-_-)「なんなんだよ・・・」

正直構わないでほしい。
なぜそこまでして構うんだよ。

外に出たっていいことなんかない。
僕はそれを知っている。

50:2009/02/22(日) 23:48:19.70 ID:
俺は寝るがどっかのまとめで読むよ。
しかしすごい良作な感じなのに人いないなw
51:2009/02/22(日) 23:50:00.39 ID:

次の日も、案の定やつは来た。

「なあ、たまには行こうぜ」

(-_-)「・・・」

「おーい?聞いてるか?」

(-_-)「・・・」

「なあ、ヒッキー」

(#-_-)「ああ、わかったよ!」

しつこさに痺れを切らし扉に怒鳴りつける。
それに臆することなく返事が返ってくる。

「本当か?じゃあ待ってるからすぐ支度しろよ」

(-_-)「バス停で待ってて」

「おう!ちゃんと来いよー」

52:2009/02/22(日) 23:52:01.50 ID:

明るい声が聞こえて足音は遠ざかる。

(-_-)「行くはずないのに・・・」

いつも通りパソコンの電源を入れて、それに向き合う。
部屋にはカタカタとキーボードの音が響き渡る。

(-_-)「どうせ時間が来たら勝手に行くだろ」

大した心配もしてなかった。
どうせ向こうも待つほど馬鹿じゃないだろうし。

迎えが来るのは7時50分。
8時頃のバスに乗るためだ。

パソコンの時計を確認する。
表示は8時40分になっていた。

するとイヤホンから流れる音楽を遮るようにして音が響く。
それは本当に「響く」といった表現が正しかった。

(-_-)「煩いな・・・」

ボリュームを上げる。
そうすると外からの音は完全に断ち切られた。

55:2009/02/22(日) 23:54:00.59 ID:

* * *

バス停に女性が一人いた。
屈むようにして花束を置いている。

こちらに気がつくと声をかけてきた。

(*゚ー゚)「知ってますか、2年前のこの日、ここで事故があったんです」

よく知っている。
死亡者は2名。

運転手とバス停に居た少年。
名前は――――。

(*゚ー゚)「詳しいんですね」

ゆっくりと頷くと、彼女と同じように花の前で拝む。
彼女はとても寂しそうだった。

(*゚ー゚)「彼、いっつも落ち込んでバス停に来てました」

(*゚ー゚)「でも、その日だけはとっても喜んでるみたいでした」

その日――――。
引きこもりの弱虫がバス停に行くと言った日。


56:2009/02/22(日) 23:55:03.38 ID:
支援
57:2009/02/22(日) 23:55:59.90 ID:

(*゚ー゚)「その日、私は初めて彼と話しました」

『今日、大切な奴がバスに乗るんだ!』

(*゚ー゚)「すごく嬉しそうで、思わず笑ってしまいました」

だけどその少年はバスに乗らなかった。
大切な人が来なかったから。

(*゚ー゚)「来るって言ってたから、もう少し待つよ。彼はそう言ってバスを見送りました」

そこで一息つくと、再び言う。

(*゚ー゚)「バスが、空にまで人を連れていくとは思ってもいませんでした」

そこでバスが来た。
最後に女性は一言だけ言って乗車した。

「その人は来たのでしょうか」

バスが見えなくなってから、ゆっくりとベンチに腰を掛ける。
恨めしいぐらい晴れ晴れとした天気。

あの日も丁度こんな感じだった。

58:2009/02/22(日) 23:58:00.19 ID:

(-_-)「なんで待ってたんだよ。誰も頼んでないじゃないか」

(-_-)「馬鹿みたいだ。来ないことぐらい分かるだろうが」

(-_-)「何喜んでんだよ」

頬を何かが伝う。
それが何なのか、認めたくはなかった。

顔を手で覆い何度も言ってやる。
馬鹿、阿呆、間抜け。

「いつもみたいに迎えに来いよ・・・」

「お前が来ないからさ、結局一人できちゃったじゃんか」

花なんて似合わないもの貰ってんなよ。
お前は僕と馬鹿をやる方が似合ってる。

62:2009/02/23(月) 00:00:02.09 ID:

『今日も一日、元気に行こうぜ』

今では聞こえなくなった笑い声が耳に響く。
僕が乗りたいバスはいつまでも迎えに来ない。

どこに行くにも、君が乗ればそのバスの行き先は目的地になった。
君が乗らなければ、そのバスに意味がない。

僕は来るはずのないバスを待っている。
それは目的地に行けるバス。


たったひとり、君のいないバス停で――――。



(-_-)君のいないバス停のようです  END

66:2009/02/23(月) 00:03:24.15 ID:
vipでやるには勿体無い構成力。
だがvipでやれ、支援。
63:2009/02/23(月) 00:02:00.55 ID:

(´・ω・`)いつもと違うバス停のようです
67:2009/02/23(月) 00:04:00.45 ID:

朝は6時に起床。
朝食を作り、それを食べる。

歯を磨いてトイレに入る。

着替えて、自転車にまたがる。

僕のいつも通りの日常。

68:2009/02/23(月) 00:06:05.18 ID:

7時30分、会社に到着。

掃除やら何やらの雑務を済ませる。

朝礼も終われば本格的に仕事が始まる。

怒られる。

こんなのも僕の日常。

70:2009/02/23(月) 00:07:54.68 ID:

昼休み。

昼食を持ってきていない僕は外に食べに行く。

近くの喫茶店。

あまり流行っていないが僕は好きだ。
もしかすると流行っていないから好きなのかもしれない。

コーヒーとサンドイッチのセットを頼む。
背の低い女性店員が「かしこまりました」と告げてこの場を去る。

黒い髪に、少しのそばかす。

まだ学生だろう。
だとしても僕といくつ変わるわけではない。

72:2009/02/23(月) 00:10:01.86 ID:

仕事も終えて帰宅する。

自転車は風を切って進む。
手が冷たい。

家に帰って風呂を沸かす。
簡単な夕食を作って食べる。

風呂に入って、そのあとビール。

(´・ω・`)「よし」

今日も何事もなく終わる。
これがいつも通りだ。

75:2009/02/23(月) 00:11:18.54 ID:
何なんだこの気持ちは・・・
76:2009/02/23(月) 00:12:06.53 ID:

六時に起床。

外は止みそうにない雨が降っている。
たったそれだけのことなのに家から出るのが億劫になる。

いつも通りはつまらない。
怒られる、そのために自転車をこぐのだ。

いっそ休んでしまおうか。
小心者の僕にはそんなことできるわけがない。

(´・ω・`)「はぁ」

傘を差し、バス停に向かう。
悩んだ結果、会社に行くことにした。

歩くのはやめて、バスで。

77:2009/02/23(月) 00:14:05.60 ID:

ぐちゃぐちゃと込み合うバスに入る。
もわっとした空気に包まれ、気分が悪くなる。

(´・ω・`)(休めばよかった)

バスは大っ嫌いだ。
知らない人たちと同じ所にぎゅうぎゅうに詰められて。

心の中で文句を言っているとバス停で停まる。
やっとで解放される。
そして次からはまたいつも通りだ。

怒られるに違いない。
自分に非がなかったとしても、だ。

(;´・ω・`)「うぇ」

降りてから鞄が無いのに気づく。
バスの中だ。

こちらの気持ちなんて知りはしない。
バスの扉は音を立てて閉まる。

79:2009/02/23(月) 00:16:02.19 ID:

(;´・ω・`)(どうしよう)

傘をさした状態で立ち尽くす。
惚けながら眺めてると、バスが止まる。

一人の、小柄な女性が傘をささずに走ってくる。

僕の忘れた鞄を持って。

「はい、忘れ物ですよ」

バスはこの子を置いて走り出す。
黒い髪の、そばかすがある女の子。

(´・ω・`)「ありがとう」

「バス行っちゃいました……」

80:2009/02/23(月) 00:17:41.02 ID:
こんな優しい子現実にはいない
81:2009/02/23(月) 00:18:01.51 ID:

僕は傘のない彼女を送ることになった。

もう少し歩いた場所にある学校まで。
空は晴れていた、けれど僕らは並んで歩いていた。

きっと遅刻で叱られる。

いつも通りの日常は簡単に崩れさた。

でも、そんなことはどうでもいい。
こんな冒険が出来るのなら、バスに乗るのも悪くない。



(´・ω・`)いつもと違うバス停のようです END

82:2009/02/23(月) 00:19:46.46 ID:
短いのにグッとくるな。
いや、短いのが味を出してるっていうのかな?
83:2009/02/23(月) 00:20:01.00 ID:

( ・∀・)バス停に咲くようです

85:2009/02/23(月) 00:22:00.36 ID:

川 ゚ -゚)「今度はあれが欲しいんだけど・・・」

雪が積もった街中を彼女と二人で歩いていた。
何か会話をするたびに「あれが欲しい」「これが欲しい」に辿り着く。

( ・∀・)「・・・わかったよ」

それを断らず、釈然としないながらも承諾する。
いつもこうだった。

何かを言われては自分の意志を持たずに流される。

川*゚ -゚)「ありがとう」

こんな時ばかり人の体に触れてくる恋人。
あまりいい気分ではない。

87:2009/02/23(月) 00:24:00.50 ID:

そんな時だった、少し気を抜いて転んでしまった。
下は雪道なのだから仕方がない。

その瞬間、懐かしい声が思い浮かぶ。

『そこ、滑りますよ』

ほんの少しの笑いが混じった声。
いつからか行かなくなったバス停で聞いた声だ。

( *・∀・)「いやー恥ずかしい」

冗談交じりに立ち上がる。
通りすがる人たちはみな自分を見て笑っていた。

こんなことはどうってことない。
少なくとも「僕」は。

89:2009/02/23(月) 00:26:08.23 ID:

川 ゚ -゚)「・・・」

彼女は少し苛っとした表情をしている。
さっさと立って、と冷たく一言を残しさっさと歩いていく。

彼女は人をブランド感覚で見ている所があるのだろう。
少しうんざりしながら彼女の後を追う。

そして、また彼女の財布代わりとなる。

少しして着いた場所はファミレス。
時間も昼時を大きく過ぎているため、人気が少なかった。

ある程度彼女の買い物に付き合い、充分だと思ったがそうではないらしい。
どこか不機嫌そうだ。

川 ゚ -゚)「話があるんだけど」

よほど空気が読めていない奴じゃない限り一発で分かるだろう。
重く言い放たれた言葉から、これから何を言われるか悟った。

90:2009/02/23(月) 00:28:09.17 ID:

「わかれよう」

ほらきた。
店員はこの空気の重さを気にもせず料理を持ってくる。

どうも、と小さな声で伝える。
店員はお辞儀を返し、他のテーブルを拭き始める。

川 ゚ -゚)「聞いてる?」

( ・∀・)「・・・うん」

少しうんざりしていたとはいえ、流石にこたえる。
とりあえず食べよう、彼女にそう言うとそれを無言で食べ始める。

( ・∀・)(恐らくこっちの意見は聞いてくれないよな)

そんなことを考えながらも食事を進めた。
彼女は食べ終わり、こちらを見つめる。

それは恋人に向けるようなものではなかった。
冷淡な目を、ただただ向けてくる。

91:2009/02/23(月) 00:28:10.21 ID:
ちょっと切ない。それが良い。
92:2009/02/23(月) 00:30:00.35 ID:

( ・∀・)「どうしても別れなくちゃダメなの?」

食事を終えて最初の言葉がそれだった。
彼女は、表情ひとつ変えることなく頷く。

流石に店員も気づいたようで、ちらちらとこちらを見てくる。
ばればれだってば。

それから十分程の無言が続き、
彼女は「そういうことだから」と告げて店を出て行った。

( ・∀・)「・・・またこっちが払うのか」

最後ぐらいは割り勘でもいいじゃないか。
心の中で文句を言ってみるが空しい。

( ・∀・)「あ、すいませーん」

店員を呼ぶと、はっとしたような顔をしてすぐに駆けつけた。

( ・∀・)「コーヒーひとつお願いします」

窓の外は再び雪が降り始めていた。
そして思い出すのは、3年前のできごと――――。

94:2009/02/23(月) 00:32:00.79 ID:

* * *

大学2年の冬、大学に通うためバスに乗っていた。
空はうす暗く、白い雪が、窓に張り付いては溶けるを繰り返していた。

バスから見える風景も、最初こそは新鮮だった。
しかし毎日見ていると流石に何も感じなくなる。

( ・∀・)(今日は人いるかな)

このバスはいつも人がいないバス停を通る。
人通りも少なく、誰も乗らないのだ。

しかし、その日は少し違っていた。
バス停のベンチに人が座っていたのだ。

建物とはとても言い難く、本当に雨風を防ぐためだけの物。
そこのベンチに人。

珍しいこともあるものだと思い、じっと見つめる。

ζ(゚ー゚*ζ

制服を着た女の子。
マフラーを首に巻いていた。

97:2009/02/23(月) 00:34:05.96 ID:

ところが、バスが停まってもその子は乗ってこない。
少し経つとバスは扉を閉め、再び通路に戻る。

次の日もそのまた次の日も、それは繰り返された。

このバス停は、人の乗り降りが全くない。
ここからどこかに用事がある人がいないのだろうし、
ここに用がある人もいないからだろう。

だからこそ、この日、バスの常連客は驚いた。

( ・∀・)「あ、降ります」

運転手すら驚いていた。

金を払いバスから降りる。
それが再び道に戻るのを確認すると少女に近づいた。

そこで、世界が反転する。

98:2009/02/23(月) 00:36:00.43 ID:

(;・∀・)「いたた・・」

腰を押さえて尻もちをつく僕に、目の前の少女は笑いながら答える。

ζ(゚ー゚*ζ「そこ、滑りますよ」

普通転ぶ前に言うもんだろう。
苦笑いをしながら彼女の隣に腰を掛ける。

ζ(゚ー゚*ζ「なんで降りたんですか」

少女は不思議そうに訊く。
こっちからみたら君の方が不思議なんだけどね。

そこで気づく、明らかにこっちが不審者だということに。

(;・∀・)「えっと、あのね、怪しい者じゃないんですよ」

彼女はポカンとした後、腹を抱えて笑いだした。
笑い終えた後には、目を滲ませていた。

ζ(;ー;*ζ「怪しい者って言ってるみたいですよ」

( *・∀・)「・・・はは」

何故だか楽しくなってくる。

99:2009/02/23(月) 00:37:53.58 ID:
どれも短いのにぐっとくるものがあるな・・・
支援
100:2009/02/23(月) 00:38:01.01 ID:

その日から僕はそこでバスを降りることが増えた。
彼女がたまにいる、そんな時は決まって降りるようになった。

ζ(゚ー゚*ζ「またサボりですか?いけないんですよ」

( ・∀・)「君に言われるとは思わなかった」

そんな事を言うと目が合う。
それがたまらなくおかしくて二人で笑う。

ζ(゚ー゚*ζ「私だって、学校が嫌いなわけじゃないんですよ」

彼女はどこか遠くを見るように言う。

( ・∀・)「どういうこと?」

訪ねてみると、「しょうがないですね、特別ですよ」と言って教えてくれた。

102:2009/02/23(月) 00:40:00.93 ID:

ζ(゚ー゚*ζ「友達だっています、先生とだって仲いいんですよ。
      勉強も大変だけど、嫌いじゃないです」

だったらなおさらサボる理由が分からなかった。
彼女はどこかしんみりとした声で再び話す。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、たまーにそれが全部息苦しく思えるんです。
      痛い子だと思われても仕方がないですよね」

僕にはそれのどこが痛い子なのか分からなかった。
構ってちゃんなどとは明らかに違う。

( ・∀・)「別にいいんじゃないかな」

彼女は少し俯く。
別に嫌な気持ちになったのではないようだ。
口元が笑っているのが見える。

ζ(゚ー゚*ζ「それに、私がいないと転んじゃう人もいますし」

彼女は胸を張りながら答える。
恥ずかしながら言い返せなかった。

103:2009/02/23(月) 00:42:01.05 ID:

春になると彼女はバス停に来る回数が減った。
高校三年生になり、受験が近づいたからだろう。

それでもたまにはバス停に居たし、僕もそれに合わせて降りていた。
そんな関係が大好きだったし、彼女と話すことは僕にとって何よりの楽しみだった。

そして、季節は流れる。
一年はあっという間に過ぎた。

彼女と出会い二度目の春。
僕はそのバス停で降りた。

ζ(゚ー゚*ζ「私、明後日卒業ですよ」

彼女がどんな学校に行くのかは知らない。
だけど、結構離れた場所に行くのだとは聞いた。

雪ではなく桜が散っている。
彼女は心なしか頬が赤い。

わかってる、こんなロマンチックな雰囲気。
そして男女だ。

でも、僕にはたった一言が伝えられなかった。
105:2009/02/23(月) 00:44:00.82 ID:

ζ(゚、゚*ζ「意気地がないんですね」

彼女は少し拗ねたように言う。
黒く、少しウェーブがかかった髪が風に揺れる。

( ・∀・)「・・・また今度」

その今度がいつかは分からなかった。
何より僕のことなんてすぐに忘れるだろうということでの発言だった。

ζ(゚ー゚*ζ「言いましたね」

彼女はしてやったりという表情でこちらを見ている。
卒業して遠くに行ったらどうせ忘れてしまうだろうに。

そして彼女はこの街を離れていった。
それ以来、僕はそのバス停で降りることは無くなった。

106:2009/02/23(月) 00:46:01.34 ID:

* * *

コーヒーを飲みほし、二人分の代金を払い店を出る。
まだ午後の3時になっていない。

あまりにも中途半端な時間だ。

何もすることのない僕はそこらへんをうろつき始める。
そしてふと思う、あのバス停に行ってみよう、と。

どのバスに乗るかは忘れていない。
一度電車に乗り、隣の駅まで行く。

バスの時間がちょうど良かったため、それに乗り込む。
時間も昔とは違うため知らない顔ばかりだ。

別に彼女がいるなんて期待しているわけではない。
ただ、行ってみたくなったのだ。

109:2009/02/23(月) 00:48:00.74 ID:

昔、彼女がいたバス停は何一つ変わっていなかった。
降りる人もいなければ乗る人もいない。

そこで僕は降りる。

誰もいないベンチに僕は腰掛ける。
雪は止み、少しずつ陽が射してくる。

買い物に付き合わされていたせいか、気持ちの変化が起きたせいか。
はたまた、心地のよい天気のせいなのか、僕はうとうととしていた。


ほんの数分眠っていたのか、もっと眠っていたのかは分からない。
寝ていたという事実に驚き急いで立ち上がる。

時刻表を見ようとするが、下は雪道。
そう、あの時と同じだ。

世界はくるりと姿を変えた。

112:2009/02/23(月) 00:50:01.30 ID:

「ふふ」

( ・∀・)「・・・え?」

起きたばかりで気づかなかったのだが隣に誰か座っていたようだった。

「そこ、滑りますよ」

ゆっくりと振り返る。
黒く長い髪で、少しのウェーブ。

ζ(゚ー゚*ζ「私がここに居ないと誰かさんは転んじゃいますね」

いつも思うんだ。
君は言うのが遅いよ。

もっと早く言ってくれなきゃ対処できないよ。
優柔不断で、どうしようもない男なんだから。

114:2009/02/23(月) 00:53:36.63 ID:

( ・∀・)「僕はよく転ぶ人間らしいよ。ここに来る前も転んだ」

彼女は笑う。
それにつられて僕も一緒に――――。

振られたというのも転んだうちだろう。

( ・∀・)「でも、誰かが手を取ってくれたら転ばない気がする」

ζ(゚ー゚*ζ「あなたは、その人も一緒に転ばせそうですけどね」

恥ずかしながら言い返せない。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、そういうのも悪くないかもしれないです」

彼女はゆっくりと歩み寄ってきて僕の目の前でしゃがむ。
僕は尻もちをついたまま。

ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ」

風が吹く。
彼女の髪はゆっくりと揺れる。

雪が積もるバス停にきっともうすぐ春が来る。
差し出された小さな手を、僕はゆっくりと掴んだ。


( ・∀・)バス停に咲くようです END
115:2009/02/23(月) 00:53:51.71 ID:
表現が上手いな・・・
117:2009/02/23(月) 00:55:07.18 ID:

バスは今日も進む。
それは誰かに別れを告げる。

バスは今日も進む。
不安な気持ちを抱えたまま。

バスは今日も進む。
人はそれに乗る。

122:2009/02/23(月) 01:00:12.30 ID:

私はバスを待っていた。
海岸沿いの、綺麗なバス停で。

鳥が海の上を滑るようにして飛んでいるのがよく見える。
海面に陽の光があたり、キラキラと砕ける。

ξ゚⊿゚)ξ「・・・まぶしい」

まだ暑い夏。
終わることがなさそうな暑い夏。

私は実家に帰ってきていた。

126:2009/02/23(月) 01:02:16.49 ID:

父が亡くなった。

その連絡を受けて、少し前に帰省していた。
死に顔は安らかなもので、本当に眠っているだけに見えた。

葬儀の最中、私はずっと母を支えていた。
罅の入ったガラスのように、少し目を離したら割れてしまいそうで。

辛いけども、泣くわけにはいかないと思った。
それが何故なのかは知らない。

長女としてしっかりしようとでも思っていたのかもしれない。

そんな私を見て聞こえてくる言葉は「しっかり者」。
だけどそれと同時に「冷たい子」と言うのも聞こえてきた。

そう言われても仕方がないのかも、と開き直ってみるが少し辛い。

127:2009/02/23(月) 01:04:18.66 ID:

すべてが終わると、家に残るのは私と、弟と、母の三人。
騒がしかった家は恐ろしいほど静かになった。

いつもの四人家族は、もう無い。

(`・ω・´)「お茶淹れてくるよ」

そう言って弟のシャキンは席を立つ。
部屋に残るのは私と母だけ。

静けさが増したようにも思える。

('、`*川「ねえ、ツン」

母が弱々しくこちらを向く。
「どうかしたの?」と出来るだけ気を使って返事を返した。

('、`*川「アルバム、見ない?」

129:2009/02/23(月) 01:06:09.83 ID:

ξ゚⊿゚)ξ「おー・・・」

('、`*川「ちょっと、これ見てよ」

(`・ω・´)「え?これ俺なの?」

いくつかのアルバムをゆっくりと捲っていく。
生前、バスの運転手をしていた父の趣味は写真撮影。

だからほとんどの写真に父は写っていない。
それでも、父をとの思い出を振り返るには十分だった。

ところどころにある、家族四人の写真。
私は恥ずかしがってそっぽを向いて、母は微笑んで。
シャキンは満面の笑みで、父はどっしりと構えている。

('、`*川「あの人写真撮るのは巧いのに写るのは駄目ねー」

母の一言に笑いがこぼれる。
そのいつもより小さな笑いが寂しさを増やした気がした。

130:2009/02/23(月) 01:06:29.40 ID:
なにこの良作 なんでこんな時間にやるの?神なの?
131:2009/02/23(月) 01:07:34.54 ID:
やべぇwwwおもしれぇwww
支援
132:2009/02/23(月) 01:08:28.40 ID:

(`・ω・´)「じゃあ、俺そろそろ行くよ」

シャキンの一言に母は少し塞ぎ込むが、すぐに微笑み返した。

(`・ω・´)「何かあったらすぐ呼んで構わないから」

ひらひらと手を振りながら影を小さくしていく。
母は手を振り終えると、やはりどこか寂しそうにしていた。

('、`*川「あなたは行かなくていいの?」

ξ゚⊿゚)ξ「ん・・・もう少ししたら行くわ」

('、`*川「だったら、私とお父さんの話聞いてみる?」

そういえば馴れ初めだのは一度も聞いたことがない。
私はすぐに頷き返し、母は照れくさそうに話を始めた。

133:2009/02/23(月) 01:09:01.77 ID:
これ最後っぽいな・・・
136:2009/02/23(月) 01:10:41.18 ID:

そして私はバス停に居る。
これは帰り道じゃない。

むしろ反対。

だけど、母の話を聞いたらここに来たくなった。
海沿いのバス停。

父が運転していたバスが走っていた場所。
それがここだった。

ξ゚⊿゚)ξ「もう少しか」

バスが来るまでまだ時間がある。
少し想い出に耽ってみることにした。

父がいた生活。

138:2009/02/23(月) 01:12:58.30 ID:

初めて好きな人が出来た。
バレンタインに向けて必死でチョコを作ったりもした。

余ったものは父と弟にくれてやった。
父は「本命貰った!」などとはしゃいでいた。

余り物だと教えると涙を流して食べていた。


反抗期に冷たくしたら、熱を出して寝込んでいた。
うかうか反抗期にすら入っていられなかった。

中学の卒業式、声を出して泣いていた。
恥ずかしかったので他人のふりをした。

高校に入学する時、力強く抱きしめられた。
苦しくて、恥ずかしくて、「やめてよ」などと言ったが凄く嬉しかった。

一人暮らしを決心した時、誰よりも悩んでくれたのは父だった。
出る時には顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

139:2009/02/23(月) 01:14:30.71 ID:
イイチチダナー支援
140:2009/02/23(月) 01:14:35.35 ID:
こういう感じの短編集の本が読みたい。
141:2009/02/23(月) 01:15:15.28 ID:

ξ-⊿-)ξ「今思うと、かなり変な人だったわ」

だけど、大好きだった。
それを面と向かって言ったことは無いけど。

言えばよかったのかな、なんて考えてるとバスが来た。
私はそれに乗り、窓から外を眺める。

ゆったりとした大きなカーブを、綺麗な曲線を描いて走る。
客は私を含めても4人しか乗っていない。

客と運転手、それが母と父の関係だったらしい。
母はいつもこれに乗っていた。
父はいつもそれを運転していた。

『私は、ここを走っている時の風景が大好きなんです』

二人がまだ客と運転手だったころに、父が母に言った言葉だそうだ。
だから私はこのバスに乗ってみようと思った。

大好きな父の大好きな風景が見たくて。

143:2009/02/23(月) 01:17:51.26 ID:

ξ゚⊿゚)ξ「・・・」

バスからは少しずつ人が降りて行く。
一人、また一人。

最後には私一人になってしまっていた。

ここまでに見た風景、父が好きだと言ったのも分かる。
そして、そう思った瞬間にようやく涙を流した。

ξ;⊿;)ξ「・・・」

窓を少し開けて風を浴びる。
眺める景色は少しずつ動いていく。

そんな父の愛した景色に、私は寂しさを覚えた。
145:2009/02/23(月) 01:20:06.41 ID:

終点まではどれくらいなのか知らないけれど、このまま乗っていよう。
私はそう考えていた。

空は曇ることを知らないような顔をしている。
そこを、飛行機が我が物顔で通過する。

父がいなくたって、世界は廻る。
私が居なくなったってそれは変わらない。

だからバスは走り続ける。
私たちなどお構いなしに。

最後のバス停で私はバスを降りた。
その際、運転手に訪ねてみた。
なんでバスを運転しているのですか、と。

「このバスを運転してる時に見える風景が好きなんです」

恥ずかしそうに答える運転手の答えが、誰かの答えと重なった。
変ですよね、と彼は言う。

私はそうは思わない。

147:2009/02/23(月) 01:21:56.47 ID:

ξ゚ー゚)ξ「とっても素敵だと思います。私の好きな人もそう言ってましたから」

運転手はポカンとしていたが、すぐに笑顔になった。

「また、乗ってください」

その一言に強く頷いて私はバス停を離れた。

今度はきっと、もっとこの景色を好きになれる。
その次はそれよりもさらに。

ξ゚⊿゚)ξ「お父さん・・・。ありがとう」

素敵な景色を見せてくれて。
バスは長い道のりを、綺麗に走って行く。

149:2009/02/23(月) 01:24:44.62 ID:

バスは今日も走る。
それは新たな出逢いを生む。

バスは今日も走る。
新たな期待に胸をふくらませて。

バスは今日も走る。
人はそれに乗る。

151:2009/02/23(月) 01:26:26.74 ID:

ξ゚⊿゚)ξバスは走るようです  END

153:2009/02/23(月) 01:28:36.41 ID:
激しくよかった乙
他に描いてるのはないの?
156:2009/02/23(月) 01:31:13.55 ID:
>>153
現在はキミニヨバレテを書いています
154:2009/02/23(月) 01:29:28.63 ID:

<あとがき>

読んでくださった方、ありがとうございました
これにて「ξ゚⊿゚)ξバスは走るようです」を終わらせていただきます

短編集と言うことで話を無理やり終わらせている所もあります
それは、もう御免なさい

どうせ短編なんだから手を出したことも無いジャンルに挑戦しよう。
この考えが浅はかでした。
恋愛物とか無理なんです。

何はともあれ終わらせることができました。
多くの支援ありがとうございます。


質問や意見・感想をいただけたら幸いです。


それと、これを気に入ってくれた方に、「バス走る。/佐原ミズ」という作品をお薦めします。
漫画ですが、同じく「バス」をテーマにした短編集です。

162:2009/02/23(月) 01:34:09.11 ID:
>>156
名前は知ってるけど読んだことないや。
今度漫画含め読んでみる。
158:2009/02/23(月) 01:31:57.17 ID:
凄い良かった
163:2009/02/23(月) 01:35:41.35 ID:
乙。
暖かくなったよ。
164:2009/02/23(月) 01:43:02.30 ID:
乙。
なんだかすごく穏やかな気持ちで眠れそうだよ
165:2009/02/23(月) 01:46:50.25 ID:
楽しんでいただけたのなら何よりです
みなさん風邪を引かないようお気を付けください

それでは
168:2009/02/23(月) 01:52:15.63 ID:
才能溢れすぎだろ…
171:2009/02/23(月) 02:15:47.66 ID:
乙です

オムニバスはうまい人が書くと本当面白い