1:2011/02/06(日) 02:59:34.49 ID:

中学時代。

僕はいじられキャラ。

自虐ネタで笑いをとる。

大勢の中では人気者。

2人っきりだと避けられる。


このジレンマから抜け出したかった。

3:2011/02/06(日) 03:00:45.24 ID:
乙、いい話だった
4:2011/02/06(日) 03:01:14.36 ID:

僕には好きな人がいた。

◆陸上部
◆顔は普通
◆黒いブラ

特筆すべきは声。“一聞惚れ”。

人と話すのは苦手だけど、

頑張ってみることにした。
5:2011/02/06(日) 03:02:48.81 ID:

彼女とはそこそこ仲良くなれた。

楽しく会話もできるようになった……けど、


2人っきりだと続かない。

会話が途切れて脳内からっぽ ((((;゜Д゜)))ア..ア...ア

沈黙パニック。何を話せば喜ぶの……?


なんとも気まずい雰囲気。

このままだと彼女は去ってしまう。

なんとしても引き止めなきゃ!!
7:2011/02/06(日) 03:04:17.33 ID:

僕は話題作りのため、ネタを捏造した。

「オ、オレ1000円払って9000円お釣りもらったことあるんだw」

「へぇ、そうなんだ……ちょっとごめんね」ガタン


彼女は楽しそうな別のグループへ行った。

大失敗。嘘つくとか最低。内容も最低。

何でいつもこうなるんだよ……。


彼女とはそこそこ仲良くはなれた。

3人以上いれば彼女はそばにいてくれる……けど、


2人っきりだと避けられる。
8:2011/02/06(日) 03:05:40.00 ID:

ある日。

僕の恋が友達にバレた。

バレたというかバラした。


友達が“つまらなそう”だったから

友達を引き止めるために

イジられるのを覚悟で

僕は自分の恋をネタにした。

孤独だけは嫌だから……。


友達は新鮮なネタに喜んだ。


……友達って何なんだ。
9:2011/02/06(日) 03:07:52.65 ID:

次の日、背黒板には

≪〇〇は△△が好き≫

みたいな事が書かれていた。

友達は僕の反応を楽しみにしてる。


背黒板とはいえ、サイテーな奴ら。


だが僕の仕事は笑いをとること。

友達を退屈させてはいけない。

黒板消しで“それ”を消すなんて論外。
10:2011/02/06(日) 03:09:06.89 ID:

「うぉおおおおおいwww」

……と、大声でつっこむ。

クラスのみんなが背黒板に振り向く。

その中には“あの子”もいた。


友達は手を叩いて笑う。

「ハハッwww 大声出したらバレるってwww」


馬鹿。これでいいんだ。

僕はピエロとしての仕事をしただけ。

僕は身を削ってでも笑いをとるんだ。


明るく振舞えばそれは“イジリ”。

俯いてしまえばそれは“イジメ”。


“いじめられっ子”にはなりたくなかった。
11:2011/02/06(日) 03:10:37.57 ID:

さぁ、自虐ネタを加速しようか。

僕は自分の不幸さをネタに置き換え、

次々と新しいテイストで表現していく。


男子全員、愉快そうに笑っていた。


笑いをとると気持ちいい。

泣きたい気持ちが中和され、

「これでいいんだ」って思えてくる。


一方、“あの子”は耳を赤くして見て見ぬふり。

多分、僕のこと嫌いになったと思う。


僕は恋愛を捨て、友情をとったのだ。
12:2011/02/06(日) 03:11:38.25 ID:

恋愛自虐ネタのバイタリティは強い。

おかげでハブられることなく、
“卒業式”を迎えることができた。

好きな子を傷つけてでも集団に縋りたかった。

それは孤独が嫌だっただけ。

だから奴らは友達でも何でもない。

僕は高校で“真の友達”を見つけると誓った。


……さて、“最後の仕事”に取り掛かろうか。

悪夢の中学生活から抜け出すために。


◆要求されたミッション◆

“あの子”に告れ。

尚、告白時はケータイを通話状態にすること。
13:2011/02/06(日) 03:13:16.05 ID:

僕はまだ“あの子”のことが好きだった。

だから告白するのは別に構わない……

でもさ、

ケータイの件は納得いかないだろ。

『告白した証明』のためらしいけど、

何でお前らに証明しなきゃならねんだよ。


……でも、僕はピエロ。

客のリクエストにはお応えするよ。

客に見捨てられたくないから。

孤独なステージは嫌だから。
14:2011/02/06(日) 03:14:46.50 ID:

携帯電話のマイク感度をMAXにして、

僕は“あの子”に声を掛けた。

「ちょっと話いい?」


最後のピエロ・オン・ステージは緊張するぜ。

“あの子”に告白というだけで緊張するのに……。

心臓が爆発しそうで息苦しい。


この場合の“最高のパフォーマンス”とは

【斬新な告白】⇒【大成功】⇒【友達とのハイタッチ】

のシナリオと僕は確信していた。

僕的にも、ピエロ的にも。
15:2011/02/06(日) 03:16:16.56 ID:

「3年間ずっと好きだった。オレと付き合って欲しい」

あぁ……なんてこったい。
僕は極めて“普通”の告白をしてしまった。
あまりの緊張にピエロを演じる余裕がなかったのだ。

そして彼女は冷静に答える。

「ごめん」


マジで3文字。僕はショックを隠せず口走った。

「あ…やっぱそうだよねwww 実はコレって命令なんだwww」


あの瞬間、僕は地球上で最もカッコ悪い男だったに違いない。

彼女は何も言わず、その場を後にした。
16:2011/02/06(日) 03:18:03.77 ID:

ふと、自分の立場を思い出す。

ピエロとしてステージに立っていることを。


僕は様々な感情をこらえて、

「やべぇふられたwwww」

と携帯電話のマイクに叫ぶ。

… … … … …。

携帯のディスプレイには止まった通話時間。

ピエロのスベりっぷりに客は帰ったのだ。

会場には化粧の剥がれたピエロが一人だけ。

その正体は、唯の仮性コミュ障害者だった。

恐れていた孤独が一気に押し寄せる。

僕は目を潤わせながら、早歩きで帰宅した。
17:2011/02/06(日) 03:19:37.80 ID:

家に到着。叫んだ。号泣した。

奴らからメールが届いていた。

「ドンマイ(^_^;)」
「フラれたからって俺らのせいにすんなよなw」
「残念、次は期待してるぞ!」
「まあ人生辛いこともあるさ」

↑こんな感じのメール。

携帯投げつけて、壁殴って、果てるまで泣き続けた。


集団と孤独、どちらが正解だったのかな。

最初から孤独を選んどけば幸せだったのかな。
18:2011/02/06(日) 03:21:25.34 ID:

高校時代。

知ってる奴のいない高校。

ちょっと遠めの工業高校。

ここから新しい人生が始まるんだ。


でも…僕は気づいていた。

知ってる奴がいないから、

自分から友達を作らなきゃならんわけで。

つまりコミュニケーション能力がうんたらで。


だけど僕は相変わらずの、

人と話すのが嫌い、その上孤独も嫌いという、ワガママ人間だった。
19:2011/02/06(日) 03:23:00.22 ID:

僕のクラスには大きく分けて2種類の人間がいた。

≪オタク≫ or ≪リア充≫

それぞれがグループを作り、楽しそうだった。


で、僕はどちらに分類されるかというと、

≪どちらでもなかった≫


アニメは大好きだけど、リアルでオタ扱いはされたくない。

リア充の会話にはついていけるけど、受動的&愛想笑い。


非常に中途半端な人間。
20:2011/02/06(日) 03:24:51.86 ID:

僕は“リア充”と友達になろうとした。

しかし他人以上、友達未満の関係が延々と続く。

どうしても友達になって欲しいから、
自宅で明日何を話すか考えたりしてた。

でもやっぱり

2人っきりだと続かない。

2人っきりだと避けられる。

日々ネガティブが悪化するばかり。

やがて2人っきり以外でも発言力を失って、

集団に金魚の糞のようにくっついていく。

リア充達にとって僕の存在はウンコ以下。

靴紐を結び直す間、誰も僕を待ってくれない。


そして限界は早くも訪れた。

Ready。僕は“孤独”を選んだ。
21:2011/02/06(日) 03:28:43.94 ID:

リア充A「メシ食いに行こうぜー」
リア充B「おう。今日の定食なんだろなw」
リア充C「やっべぇ。金忘れたッ」
リア充D「しゃーねぇな。貸してやんよ――」


僕「…」


この日、僕は集団に付いて行かなかった。

しかし奴らは至っていつも通りだった。

僕なんか居ても居なくても同じだから。

寧ろいない方が楽しめるんじゃない?


僕は一人で昼食をとった。

初めて自分のペースで食べた。

そして“便所飯”の素晴らしさに感動する。
22:2011/02/06(日) 03:31:18.32 ID:

僕は学校で全く喋らなくなっていた。

一人最高、気楽すぎワロタ。

でも休み時間になると苦しくなる。


リア充の雑談は耳障りで吐きそうだしwww

オタどもの会話もニワカで笑い方キメェしwww


一方、僕は寝たり、寝る格好したりする疲労者っぷり。

5分前には教科書とノートを机の上に用意する優等生っぷり。

毎回ロッカーを整理整頓する几帳面っぷり。

必ずトイレに行って用を足す神経質っぷり。

戻ると僕の席にリア充が座ってたりする大人気っぷり。

自分が座れなくても待っててあげる超寛容っぷり。

そして授業が始まると苦しみは和らぐんだ。


別に寂しくなんかないよ。
23:2011/02/06(日) 03:33:28.31 ID:

「2人組作ってください」←「死ね」

「隣の人と相談してください」←「死ね」

「リア充なりてー。リア充爆発しろ」←「死ね」

「研修旅行の班は自由で構いません」←「死ね」

「友達とか彼女、家に連れてきていいのよ」←「死ね」


こんな世界嫌だ。

僕が何をしたっていうんだ。

コミュ障とかいうなら生活保護よこせ。


僕が“生(せい)”を感じる時間は≪ゴールデンタイム≫、

夜9時から夜中2時までの“アニメ”、“ネット”の時間だけだ。
24:2011/02/06(日) 03:35:53.31 ID:

アニメは現実逃避にうってつけ。

アニメの世界は非現実的で興味深く、

目と耳さえあれば誰でも行けるのだ。

口は要らないから喋らなくても生きていける。

そして何よりこの世界では僕が絶対的な神。

電源を切るか切らないかは僕次第。

キャラは常に僕の掌上で生活している。

だから孤独なんてものも感じない。


インターネットも同じである。

用途を限れば口の要らない、目と手だけの世界。

だからコミュニケートも苦ではない。


この2つの世界を徘徊する≪ゴールデンタイム≫。

これがないと僕は死ぬ。
25:2011/02/06(日) 03:38:11.08 ID:

≪ゴールデンタイム≫が5時間に対して、

≪リアルタイム≫は12時間もある。

学校での孤独感と嘔吐感は日々増すばかりで、

僕は現実に殺されてしまいそうだった。


そんなある日のこと。

VIPが僕を救ってくれた。

とあるスレにて、


『妄想楽し過ぎ』


…と。
26:2011/02/06(日) 03:39:19.05 ID:
俺もアニメは見るがこの考え方はなかったわwww
27:2011/02/06(日) 03:41:01.74 ID:

僕は17才のイケメン高校2年生。不定期通学。
学校生活を味わってみたいという理由で変則編入。

教会育ち。過去にトラウマ有り。

Google、Facebook他の創設者。

数えきれないほどの特許をもつ。

世界一の歌唱力。演奏力。絵画力。料理腕。プログラマー。etc。

数学における予想問題を次々とQ.E.D.。

長者番付、2位に1700億ドル差。

00年以降の神曲と呼ばれるアニソンの6割を作詞作曲。
また、自身もパンクバンドを組んでおり空前絶後の大ヒット。

特技は声帯完全模写。コピーバンドも結成。声優の代替役も。

16リンガル。

如何なる場にも完璧に対応する笑いのセンス。

隔月刊雑誌にて漫画を連載中。空前絶後。

莫大な資産の使い道は、
バーチャル世界創世の研究。
28:2011/02/06(日) 03:43:25.16 ID:

翌日から電車通学中、授業中、休み時間……

ほとんどの≪リアルタイム≫で妄想した。

妄想の世界は想像力だけのロジックワールド。

目を閉じるだけで凄まじい設定の自分がいる。

常に誰かが自分を求めている世界。

皆々僕を尊敬する世界。


でも、0℃の世界。


目を開けると必ず冷たい涙がこぼれてくる。

だけど妄想はやめない。

やめたら死ぬ。
29:2011/02/06(日) 03:45:18.76 ID:
俺も一歩間違えばこうなってたかもしれない
30:2011/02/06(日) 03:46:09.82 ID:

大学時代。

僕は隣県の工業大学に進学した。

もちろん妄想癖は続いていた。

言うまでもなく友達は諦めている。

アニメ、ネット、音楽鑑賞で十分。

“孤独”も現代文明の前じゃ怖くねーぜw


そう、怖くない……はずだった。


だが突然あの日、何かが僕を襲ったのだ。

そして僕の日常は劇的に変化する。
31:2011/02/06(日) 03:49:03.24 ID:

◆大学2年。2010年12月17日(金)◆

その日は恐ろしい夢から始まった。

『声が出なくなる夢』


まあこんな生活してたら

そんな夢をみてもおかしくはないけれど。


苦しいけど誰にも伝えられず、

絶望の果てに声を失い、

結局は殺される。

そんな夢をみた。
32:2011/02/06(日) 03:51:36.73 ID:

僕は仄暗い蝋燭部屋で仰向けに横たわっていた。

『“顎”“舌”“喉”以外』の神経は麻痺しており、死体のごとく動けない。

そして周囲には何本ものクリスマスツリーが飾ってあった。

どこからか、「jingle bell. jingle bell. jingle bell...」と複数の囁きが聞こえてくる。

すると突然、ツリーが次々と光り、目の死んだ異国人達がうっすら現れた。

その正体は異常な雰囲気を漂わせる、イカれたサンタクロース集団だった。

彼らはボソボソと、「jingle bell. jingle bell...」と唱えながら、

僕の眼球や鼻、陰茎、指、内蔵、腎臓をえグリ削ぎ、絶え間なく僕に喰わせてくる。

『“顎”“舌”“喉”以外』は痛みを感じないので、ショック死することもできない。

僕は助けを乞うために、ひたすら自分を味わい、喰らい続けるしかない。

喰い尽くせば、口が解放され、声を出せるから……そして僕は完食した。

だが叫ぼうと“喉”を開いたそのとき、奴らは僕の“のどちんこ”をブチ抜いた。

「ガァァアアアアアアアアアアアアアッッッッ……!!」

僕は“声”を失った。……「jingle bell」とはそういう意味だった。

サンタ達は終焉のベルに満足し、僕の心臓を引きちぎり靴下に放り込んだ。
33:2011/02/06(日) 03:53:17.61 ID:

「ウァァアアアアアアアアアアッッ……!!」

僕は目を覚ました。

そして次の瞬間、“金縛り”に襲われた。

冷や汗が止まらない…。怖い……。

すかさず目を閉じ、「助けて」と声をあげようとする。

しかし声にはならず、すかさず口も閉じた。

ああ……金縛りってやつはどうして
誰かががそこにいるような気がするんだろう。

ソイツはサンタクロースかもしれない。

目を開けたら殺されるかもしれない。

口を開けたら喰わされるかもしれない。


早く、朝になってくれ……。
34:2011/02/06(日) 03:56:24.48 ID:

■12月17日(金)AM7:10 - 起床■

あぁ…喉がカラカラだ。

気分も悪い。

食欲なんてあるわけない。


今日は講義をサボろう。

でも親には大学へ行く素振りを見せないとダメ。

つまりは外出必須なのだ。

どこへ行こうか。


僕は水をがぶ飲みし、家を出た。

母さんはいつも通り僕を見送る。
毎日、毎日、うぜぇんだよ。
35:2011/02/06(日) 03:59:57.47 ID:

本日の天気、雪。

とりあえず電車に乗ることにする。

寝不足で、一刻も早く寝たいからだ。

電車ほど快適なベッドルームはないからな。

そこそこ田舎なので通勤ラッシュの心配もないし。

ある駅を越えると、もはや貸切状態になるし。


……にしても、今日は一段と寒いなぁ。

付加装備に、「ニット」「ヘッドホン」「マフラー」「ダウン」「グローブ」。

モコモコすぎてダサい? まぁオシャレなんてどうでもいいけどね。

とにかく防寒対策は完璧。どこか遠くにでも行こうか。


10分程で駅に到着。

今日はやけに人が多いな。
36:2011/02/06(日) 04:02:25.51 ID:

「本日は電車が遅れてしまい、誠にご迷惑をお掛けしております」


マジかよ。電車で座れなかったらどうすんだ?

電光掲示板を見上げると、次の電車は30分後だった。

遅れすぎだろ……。

寒さで眠気は覚め、同時に腹が減ってきた。

コンビニで惣菜パンと缶コーヒーを購入。

空腹を満たし、音楽を聴いて待っていると

電車がノロノロとやってきた。
37:2011/02/06(日) 04:04:37.78 ID:

ガタンゴトン…ガタンゴトン。

車内は混んでいて、座れなかった。

人が多いのは遅延が原因だろう。

電車も止まりがち運転でイライラするぜ。

僕は揺られながらケータイを弄っていた。


なんとなく受信メールBOXを開く。

メルマガや広告が9割をしめ、
残りの1割が母親という、九死に一生、後遺症って感じ。


ついでに送信メールBOXも開く。

高校の頃のメールが余裕で残ってる。
返信のなかったメール達、疑問形で終了もザラ。
39:2011/02/06(日) 04:07:00.31 ID:

衝動的に全メールを削除した。

このままどこか遠くへ行きたい。

雪の所為もあり、そんな気分が一層高まる。


今朝の夢は何だったんだろう?

僕から僕への潜在的メッセージだったのかな。

『声が出なくなり』、『助けを乞えず』、『孤独死する』。

……僕にどうしろと。

現実で僕に友達を作れってか?
中学、高校でそれは“不正解”って結論出たろ。

人と接してコミュニケーションとれってか?
もう既に“真性”コミュ障害者だっつーの。

さもないとサンタが“声”を狩りに来るってか?
構わねーよ。いらねんだよ声なんてよ。

僕は今後一切、助けなんて乞わない。
自分が潜在的に“何”を望んでようが、

孤独は僕の背負っていく運命なんだ……。
40:2011/02/06(日) 04:09:43.31 ID:

「○○。〇〇です。お降りの方は足元に気をつけて――」

いつもこの駅から電車はほぼ貸切になる。

そして今日もリーマン達がゾロゾロと降車していった。

僕は空いた席に座り、外を眺める。

雪って何でこんなに綺麗なんだろ?
汚れを知らない純白、飛び込んだら洗われるかな?

そんなこと考えてる自分に少し酔ったりする。
アニソンを『R-09HR』で再生し、『Edition8』で聴きながら。

僕は大学に入ってから音楽鑑賞の“環境”に興味を持った。
オーディオビギナーとして大学生にしては頑張ってる方だと思うよ♪

プレーヤーとヘッドホン、合わせて20万したんだぜw

※『R-09HR』:プレーヤー(高音質レコーダー)
※『Edition8』:ヘッドホン
41:2011/02/06(日) 04:11:40.16 ID:

今聴いてるアルバムは『CLANNAD ORIGINAL SOUNDTRACK』。

先日クリアした『CLANNAD』のサントラだ。

もう涙がボロボロ、感動したよっ……!!

他者とのコミュニケーションを嫌っていた主人公が、
ハンデにも負けず真っ直ぐに生きる女の子に出会い、
次第に影響され、共に歩み、変わっていく過程で
家族や友達の大切さに気づき、実感する、そんな作品。

伝わりすぎて泣いた。

『CLANNADは人生』

僕だって分かってるよ。

本来、人生はそうあるべきなんだ。

僕だって本当は……。
42:2011/02/06(日) 04:16:04.75 ID:

僕はそっと目を閉じた。

次に目を覚ます時が電車を降りる時。

例え定期範囲外でも、その駅で降りることにしよう。

『何かを見つけるために』


J-POPによくある抽象的代名詞だな。

正直、ちょっとカッコつけたいだけ……でも、


『孤独が運命』って決め込んでるけど、

心のどこかでまだ諦めてないのだろう。

自分を変える“キッカケ”探しの旅。

行き先はダーツに委ねる。


……僕は目を閉じた。
43:2011/02/06(日) 04:20:28.41 ID:
え、リアル話ぽくて怖い
44:2011/02/06(日) 04:20:41.62 ID:

ムニャムニャ。

目を覚ますと、窓外には知らない風景が広がっていた。

『まもなく△△駅です』、という電光表示。

聞いたこともない駅名だな。

定期範囲外なのは間違いないみたいだ。

……さぁ、僕の旅は始まった。


「△△。△△です。お降りの方は足元に気をつけて――」


只今9時40分。雪は既に止んでいる。

降車すると、冷たい強風が頬を突き刺した。

風に負け、顔をしからめ、目を細めると、

同時に自分以外にも降車客が“一人”いることに気づく。

そして僕は風の隙間に、

“一人の少女”を見たんだ。
45:2011/02/06(日) 04:22:57.92 ID:

隣の車両から降りてきた彼女は、
その小さな体で風を受け止めていた。

セミロングの黒髪が靡いている様は
まさに理想を描いたような美しさだった。

年は僕より2、3年下だろうか。

風が通り過ぎ、彼女の顔が浮かんでくると

僕の中で時間が止まった。


“一目惚れ”は初めてだった。


一般的に大絶賛される程の顔ではないと思う。
少なくとも“ミス日本”における“美しさ”からは程遠い。

飾っていない素朴で自然な美しさ。
整った顔立ち、その愛くるしい童顔からは
どこか田舎っぽさ、懐かしさを感じる。

僕にとっては間違いなく、
この世で最も美しく、可愛い女の子だった。
46:2011/02/06(日) 04:24:59.50 ID:

音楽を止めろ。

冷静に考えろ。

こんな気持ちは何年ぶりだ?
≪リアルタイム≫で心臓の昂りを感じたのは。

彼女は2次元でなく3次元。

未知なる奥行きがあるんだぞ?

何を考える必要があるんだ!?

今後一切、助けを乞わないって誓ったろ!?

いつも通り人と目を合わせるな。
傷つかないよう、隅っこを歩け。

避けられるぐらいなら、避けるのが僕じゃないか。

なのに何でこんなに迷うんだよ……。

『人が迷うのは後悔したくないからである』

そんなのは知ってるって!
47:2011/02/06(日) 04:28:21.23 ID:

もしかして、
この僕が女の子に話しかける?

コミュ障害者が
異性と2人っきりで?

できるわけないだろ。
会話が途切れて涙目オチだ。


……でも、僕は何しにココへ来たんだ?


わざわざ遠くまで来た理由は?

まだ知らない何かを探しに来たんだろ?

その“手掛かり”はそこにあるんじゃないのか!?

僕は自分を変えに来たんだろッ!!
48:2011/02/06(日) 04:32:24.33 ID:

深呼吸して、何度も咳払いをする。

「あーあーあ…」

良かった、声はまだ出る。

僕は彼女に声をかける!
タイトルを付けるなら、『はじめてのなんぱ』!

孤独が嫌なのは変わってない!

たとえそれが運命なら抗えばいい!!

神を創った人間には、神に逆らう権利があるんだ!!


「あの…!!」
49:2011/02/06(日) 04:37:33.11 ID:

女「!」ポカーン

だ、大丈夫。
今の僕なら言える!

僕「ひ、、一目惚れしましたっ!!」

女「……」

僕「僕と……友達になってくださいッ!!」

女「……」

僕「……」

女「……す、すみません」

彼女は動揺したせいか、
トーンのずれた声で僕に謝った。

中学のフラれた記憶が蘇る。

なんともいえない虚無感が僕を包み込む。

その正体は生きることへの絶望。

弛緩した涙腺からは涙が零れた。
50:2011/02/06(日) 04:41:27.65 ID:

女「私、耳が聴こえないんです」

え…。

彼女は、≪私は 聴覚障害者 です≫
と大きく記されたカードを僕に提示する。

女「お役に立てなくてすみません……」

やはり少し音程の外れた声。
僕の覚悟と勇気は、届いてすらいなかった?
まさか、そんな――。

女「失礼します……」タタタ

ちょっと待ってよ。
こんな形で失敗するのか?
答えを聞くことすらできないのか?

女(……何であの人、泣いてたんだろう?)

女(ヘッドホンにニット帽ってめずらしい人……)
52:2011/02/06(日) 04:46:27.13 ID:

「ま……待って…!!」

僕は呼びとめようと叫んだ。

しかし、彼女はどんどん遠ざかる。

聞こえてないのなら当たり前だ。

僕は走って追いかけようと踏み出した。

しかし、“ストーカー”という概念が頭を横切る。

足が急に重くなり、やがて止まった。

嫌われるくらいなら、僕は追いかけない。


……でも、それじゃ昨日までの僕と同じだ。

僕は自分を変えに来たんだろッ!


彼女が遠ざかるにつれ、後悔が近づいてくる。

再び足を動かすと、彼女しか見えなくなった。


走れッ!!
53:2011/02/06(日) 04:49:12.58 ID:
悪くない
むしろ良い
54:2011/02/06(日) 04:52:05.58 ID:

僕は彼女の肩をポンと叩いた。

女「!」

僕はケータイを取り出して、
文章を打ちこみ、それを彼女に手渡す。

彼女が怪訝そうに受け取ると、
僕はその場から離れた。逃げた。

もう耐えられなかったのだ。

だって女の子を走って追いかけ、
せき止めるという積極的行動に加え、
いきなり自分のケータイを相手に渡すという、

相手にとっては理解不能な出来事だからだ。


……でも、そんなの分かりきってただろ。

その上で行動に移したんだ。自分を変えるために。

なのに僕はギリギリで逃げた。どこまでもヘタレ……。


改札を出ようとすると、“ピーッ”、と警告音が鳴り響く。

同時に僕を逃がすまいと、2枚の板が僕をせき止めた。
55:2011/02/06(日) 04:55:34.98 ID:

(何で私にケータイなんか渡したんだろ……?)

(これ私の落し物じゃないよ?)

(誰かと勘違いしてるのかな?)

(でも電車からは私と“ニットホン”さんの2人ぐらいしか降りてないし……)

(それより早く学校に行かないと)

(えーっと…今日は大雪警報のせいで10時スタートだから……)

(あと15分か……ん?)

≪ブー、ブー、ブー、ブー≫

ケータイのバイブレーションが突然鳴り響く。

“ニットホン”さんを見ると、改札の方で慌てふためいていた。


ケータイのディスプレイには、

『From:自分 件名:僕の告白、聞いてください!!』
56:2011/02/06(日) 04:59:37.24 ID:

(え……? 何かメール来た……)

(送り元が“自分”になってるけど、これって……私に?)

(だから私にこのケータイを渡したの?)

(……告白って何……?)

(私、耳聞こえないって言ったよね……)

(普通、それ聞いたら……避けるもんでしょ……?)

彼女は恐る恐る、メールを開いた。

◆本文◆

初めまして!
一目惚れしました!
思い切って告白しました!
そしたら耳が聞こえないって言われました!
でも、そんなこと一目惚れには関係ないです!

君さえよければ

僕の初めての友達になってください!

根本 優
57:2011/02/06(日) 05:01:28.19 ID:
根本wwww
58:2011/02/06(日) 05:01:37.62 ID:

(一目……惚れ?)

(私と……友達になりたい?)

(こんな私と……)

改札の方を見ると、彼は乗越精算機の前にいた。

(待ってよ…このケータイ、あなたのでしょ?)

(私なんかと……友達になってくれるんでしょ?)

(じゃあ何で私を置いてっちゃうの?)

(もう……孤独は嫌だよ)


「……根本君ッ!!」
59:2011/02/06(日) 05:04:32.57 ID:

僕「…」

機械にお金を入れる手が止まった。


女「こんな私で、君さえ良ければッ…!!」


たかが友達になるという告白のために……。
一時の恥から逃げてしまった僕なんかのために……。
自分に聴こえない声を張り上げてまで……。


女「私と…友達になってくださいッ!!!」


お互いに辛い過去があるのだ。

彼女の叫びで、そう悟った僕は

涙を堪えることができなかった。
60:2011/02/06(日) 05:06:56.81 ID:

◆初めまして◆

木下 優 っていいます(・∀・)
名前同じで驚きましたッ!!

友達ができて嬉しいです!

いきなりで申し訳ないんですが
あと7分以内に学校に着かなきゃいけません…(´・ω・`)


◆Re:初めまして◆

すげぇ、ほんと一緒だっ。

僕も木下さんに出会えて本当に良かった!

てか学校やばいね。
雪が積もって危ないから送ってってあげるよ!
道案内してくれる?


◆Re:Re:初めまして◆

ほんとですかっ? ありがとうございます!
じゃあ私がナビしますから、

手、お願いしますねっヽ(*`・ ・)
61:2011/02/06(日) 05:09:03.03 ID:

僕は彼女に違和を感じていた。
それが何かはまだ分からないが。

……まぁ今はとりあえず
差し出された彼女の手を、僕が導かなきゃ。

今までの僕なら女の子に触れるなんて論外だった。
だけど、ここに来てからは僕は変わりつつある。

『女の子を学校まで送る』
こんな凄いことをサラッと言えちゃうんだから。

……何でだろう? まあいいや。

ここに来て本当に正解だった。


僕はグローブ越しに彼女の手を握る。

「行こう!」

その声は彼女には届いていない。
62:2011/02/06(日) 05:13:11.45 ID:

僕は右手に彼女の荷物を、

左手に彼女の右手を握りしめ、銀世界を2人で歩いた。

転ばないように、でも遅刻しないように、若干急ぎ気味で。

「次の角、左です」
「こっちの方が近道ですよ」
「そこ滑りやすいから気をつけてください」

会話は全て一方通行だった。

僕の言葉は彼女には届かない。

それでも僕は、

「了解」
「O.K!」
「木下さんも気をつけて」

と笑顔で言葉を返す。

届かないけど意味はあるはずだ。
63:2011/02/06(日) 05:13:36.64 ID:
3行で
65:2011/02/06(日) 05:19:47.98 ID:
>>63
コミュ障害者の主人公が
耳の聴こえない女の子に出会うという
おはなし
64:2011/02/06(日) 05:17:43.13 ID:

どうやら学校に着いたようだ。

『○○市立△△養護学校』

普通の学校じゃないみたい。
まあ当然といえば当然か。

先生A「あら、優ちゃん、おはよう」

僕「おはようございます……あっ」

とっさに挨拶をしてしまった。
自分の名前を呼ばれたと思ったからだ。

……メガネを掛けた、リッチマダムって感じの女性。
50歳くらい。先生だろうか?

先生A「今日は雪、大変だったねぇ……あら?」
先生A「あなたはどちら様で?」

僕「いや、あの、その……」

……僕の悪い癖だ。
66:2011/02/06(日) 05:23:27.89 ID:

女「A先生、おはようございます」
女「彼は私の友達なんです」

木下さんは耳が聴こえないのに、
僕よりそれらしい回答をした。

先生A「あら、そうなの」
先生A「優ちゃんを送ってくれたのね」

僕「あ…は、はい……」
僕「あ、あの木下さんはここの生徒なんですか?」

先生A「いいえ。違いますよ」
先生A「優ちゃんはここでボランティアしてくれてるんです」

僕「ボランティア…ですか?」

女「わたし、皆のところに行ってますね」
女「根本くん、送ってくれてありがとう」
67:2011/02/06(日) 05:27:55.17 ID:

先生A「転ばないように気をつけるのよー」

僕「せ、先生は行かなくても大丈夫なんですか?」
僕「もう10時ですけと……」

先生A「ええ、私は大丈夫よ」
先生A「せっかく優ちゃんのお友達が来てくれたんだもの」

僕「はぁ」

先生A「優ちゃんは、今年で20になったんだけどね……」

え……? 僕と……同い年だ……。

先生A「普通の大学に行けないのは分かるでしょ?」
先生A「だから高校を中退してから、ここに通ってるわ」

僕「高校を……中退ですか?」
68:2011/02/06(日) 05:32:31.54 ID:

先生A「耳が聴こえなくなったのが高校2年生の時よ」
先生A「彼女は音声言語獲得後に聴力を失ったの」

先生A「だから読み書き発音は不自由なくできるんだけど……」

僕「どうして……聴こえなくなったんですか?」

先生A「……彼女はここに来るまで、ずっと孤独だったわ……」
先生A「極度のストレスも原因の一つよ……」

先生A「……そしてあの事件……」ボソボソ

僕「あの事件って?」

先生A「何でもないわ」
先生A「せっかくだから中の様子見に来る?」

僕「え? …あ…はい…」
69:2011/02/06(日) 05:35:23.01 ID:

清し この夜 星は光り ~♪

救いの御子は 馬槽の中に ~♪

眠り給う いと安く ~♪


僕「あの……これって一体……」

先生A「あぁ、もうすぐクリスマスでしょう?」
先生A「だからクリスマス会に向けて演奏を練習してるの」

先生A「これは“きよしこの夜”よ」

僕は教室の中を覗く。

障害を抱えてる生徒達が
トーンチャイムでそれを演奏し、
メロディーに合わせて先生方が歌詞をのせていた。

そこには木下さんもいた。


※トーンチャイム:
70:2011/02/06(日) 05:38:12.75 ID:

なんて綺麗な音色なんだろう。

ここまで心に残る音楽は初めてだ。

木下さん……君は何でそんな楽しそうな顔してるの?

君にはこの音色が届いてないんだろ?

聴かせてやりたいよ。

過去に辛いことがあったのなら、尚更。


演奏が終わると僕は一人で大きな拍手をした。

恥ずかしかったけど、精一杯気持ちをこめた賛美を贈った。

先生たちも僕につられて拍手する。

生徒達はとても嬉しそうだった。
71:2011/02/06(日) 05:41:19.26 ID:

先生B「では2曲目を練習しましょう」


僕「もう1曲あるんですか?」

先生A「ええ。全部で2曲よ」

僕「楽しみだなぁ!」

僕「!」

昨日までは現実に無関心だった。
でも今はこんな小さなコンサートに大興奮している。
この矛盾は……いや、僕は変わってるのか?

木下優に出会って、僕は一つの壁を乗り越えた。

壁を乗り越え続けたら、いつか どこか に出れるのだろうか。

そこには僕の探していた 何か があるのだろうか。


先生B「……では心を込めて演奏しましょう。“ジングルベル”の歌♪」
72:2011/02/06(日) 05:44:50.10 ID:

僕「えっ……」


Oh, jingle bells, jingle bells ~♪

Jingle all the way ~♪

Oh, what fun it is to ride ~♪

In a one horse open sleigh ~♪


先生A「私は“ジングルベル”の方が好きだわ」
先生A「だって楽しk…

僕は喉を抑え、その場にしゃがみ込んだ。
同じトーンチャイムの音色が今度は不協和音に聴こえる。

僕「やめて……やめて……」

先生A「どうしたの君?」

僕「ぐ、あ……がっ……たすけ……」バタッ

先生A「C先生! この子、保健室に連れて行くの手伝って!」
73:2011/02/06(日) 05:48:10.14 ID:

■保健室■

目を覚ますと、ベッドに横たわっていた。

隣で木下さんが僕を心配そうに見ている。

僕はケータイを取り出した。

メールを送信すると、僕は彼女に笑顔をみせた。


◆もう大丈夫◆

ちょっと怖い夢のこと思い出しただけだよ。
あぁ…小学生みたいでカッコ悪いなぁ…(´;ω;`)

傍にいてくれてありがとう


◆Re:もう大丈夫◆

そうなんだ、良かったぁ~(> <)
でも、しばらく安静にしててくださいよ!

さっきの拍手、ありがとうございましたッ(*^▽^*)
あんな大きな拍手初めて聞きました。
生徒達、みんな喜んでましたよ!

それでは、そろそろ皆のところに戻りますねヾ(。・ω・。)
74:2011/02/06(日) 05:50:11.91 ID:

拍手にお礼されるのもなw

ていうか拍手の大きさとか分からんだろうに……。
こんなに優しい所見せられたら、ますます傍に居たくなる。

時計は12時を回っていた。

確かに、腹が減ったな。
でもメシまでお世話になるわけにはいかない。

僕は先生にお礼と用件を伝え、学校を出た。


出たはいいが、ここって田舎驀地だな。

どこかに食処はないのだろうか。

とりあえず雪道を歩いてみることにした。

ざっと1時間程だろうか。僕は一件の古いラーメン屋を見つけた。

【屋号】『うんめーら』

嫌な予感を振り払い、暖簾をくぐった。
75:2011/02/06(日) 05:52:41.58 ID:

ガラガラ。

「みらっそい」

いらっしゃい、くらいちゃんと言えよ。

店員は爺さん一人だけか……。

てか、客が誰一人としていない。
お昼時にこの様じゃ閉店も間近だな。

爺「なんそ?」

僕「え? あ…あの…う…兎ラーメンを…一つ」

この店は“兎ガラ”、つまり“うさぎ”のラーメンしかないみたいだ。

客がいない理由に納得。

あぁ、食べたくない……。
76:2011/02/06(日) 05:56:03.31 ID:

古い店ということもあり、

『ボンカレー』の看板や、
『吉永小百合』の若かりし頃のポスターがある。

その中で、僕はとある新聞記事を見つけた。

≪夫婦が行方不明≫

張紙の中では、比較的新しいものだった。

日付は2007年8月8日、3年前だ。

僕が高校2年生の頃か。

ってことは木下さんも……。


……まあ関係ないだろう。
77:2011/02/06(日) 05:58:52.51 ID:

爺「おまつど」

うわっ、マズそう。
何か邪悪ものを感じる。

僕「うぅ…いただきます……」

ジュル、ジュルルルルル。

をっぅえ。塩辛ぇえ。

ジュル、ジュルルルルルル。

おうぇ。でも麺は意外と好きかも。

ゴクゴクゴク……。

コクがない癖に、あっさりしないスープ。
それに加えて、喉が異常に乾く。

あぁ、不味かった。

僕「ごちそうさまでした!」


……あれ、嘘だろ。自然に挨拶が出た。
78:2011/02/06(日) 06:01:19.84 ID:

ゲテモノを食べきった達成感からか?

それともこの場に他の客がいないからか?

でも爺さんが目の前にいるじゃないか。

やはり僕はココに来てから、徐々に変わってる。

潜在的に望んでいた方向へ、少しずつ……。


爺「……創業後40年間でおめぇが初めてじゃ」

僕「え?(普通に喋れるのかよ)」

爺「兎ラーメンを完食した奴はな」

僕(40年間よく潰れなかったもんだ)

爺「まあ兎ラーメンは3年前からのメニューだがのw」

僕(……3年前?)
79:2011/02/06(日) 06:01:23.03 ID:
すばらしい
80:2011/02/06(日) 06:06:04.41 ID:

僕「……あ、あの、もし違ってたら申し訳ないんですが……」
僕「“3年前”ってそこの“新聞記事”と関係あるんですか?」

爺「…」

僕「“兎ラーメン”とか……普通じゃないですよ」
僕「しかもメニューがそれだけなんて……」

爺「……それがどうした?」

僕「いえ、なんとなく……」

爺「じゃあ聞くんじゃねぇ」

僕「……すみません」

爺「さっさと金払って帰りな」
81:2011/02/06(日) 06:08:07.66 ID:

只今の時刻、2時少し前。

雪は相変わらず溶ける気配はない。

さて、今度は違う道を通って学校へ戻ろう。


……3年前か。

一体何があったんだろう。


僕は帰り道、“普通”のラーメン屋を見つけた。

ちくしょう。
行きしなにこの道を選んどけば、
『兎ラーメン』なんて食わずにすんだのにな。

多分完食できたのは、
今朝の夢の所為ってのもある。

自分の肉を喰うよりかマシだからな。
82:2011/02/06(日) 06:11:16.99 ID:

■PM3:00 - 養護学校着■

教室の中を覗くと、保護者も来ており、生徒は帰る準備をしていた。

腕をぶんぶん振りまわす生徒もいれば、
「あうあう」、と奇声を発する生徒もいる。

ギャーギャーと泣き喚く生徒もいれば、
目と口を開けたまま俯いてる生徒もいる。

そして全員が車椅子に縛られていた。

無性にやるせなく、居た堪れない気持ちになった。

≪“自称”コミュニケーション障害者≫、の自分が許せなくなった。

ただ単に、自分から逃げていただけの自分を。

……僕は絶対に変わらなければならない。

そのために、この地へやって来たんだ。

もはや潜在的ではなく、全身全霊、顕在的にそう感じた。

僕は強く再決心し、木下さんの方を見る。

…え? あれ? 何故…?

彼女は唇を噛み締め、涙目になっていた。
83:2011/02/06(日) 06:14:34.69 ID:

保護者と生徒達が帰ると、

木下さんが大泣きしながら僕に飛び込んできた。


「何で急に居なくなっちゃうんですかぁ!」グスン

「私に一言、言ってくれたっていいじゃないですかぁ!!」

「根本君……保健室に行っても居ないからぁ……!」グスン

「私嫌われて……もう帰っちゃったかと思いましたぁ!!」


「…もう……孤独は嫌……」ヒック


その時、彼女に感じた違和の正体が分かった。
彼女も孤独が嫌で、無理な明るさを演じて僕を引きとめようとしていたのだ。

そう、中学の頃の僕みたいに。

誰も抱きしめたことのない僕が、彼女を無意識に抱きしめた。
84:2011/02/06(日) 06:17:47.35 ID:

僕は嫌われるのが怖くて、“友達”になりませんか、と告白した。

それ以上の距離を求めれば、遠ざかるような気がしたから。

だけど、彼女を抱きしめてみて思った。

大きさは違えど、孤独の苦痛を経験してきた僕らは、
予想以上に近い距離でこの出会いを待ち続けていたのかな。

運命(笑)な僕だったけど、それ以外の言葉が見つからないです。
僕らには言葉はいらないから、探す必要ないけどね。

……ふぅ、何言ってんだ恥ずかし。

でも、これだけは言える。
今この瞬間、僕と彼女の鼓動はぴったり。

僕はケータイを取り出した。

◆◆
僕が彼氏でよければ、
僕の彼女になってください。

◆Re:◆
はい。
喜んで。
85:2011/02/06(日) 06:21:14.29 ID:

■PM4:00 - △△駅待合室■※“〒≪~≫”:メール内容※

女〒≪“ニットホン”さん改め“ゆーくん”≫

僕〒≪“ニットホン”? ヘッドホンの上にニット被ってるから?≫

女〒≪そうだよ。この辺じゃあんまり見かけないからね≫

僕〒≪…ま、ファッションなんてどーでもいいけど≫

女〒≪だめだよ。今度私がコーディネートしてあげよっか?≫

僕〒≪じゃあ、お願いしようかな。お礼も考えとくよ≫

女〒≪ほんと? 楽しみにしとく♪ それにしても名前も年も同じだったなんてね…≫

僕〒≪運命(笑)?≫

女〒≪ばかにするなぁー! これって凄いことなんだよっ≫

僕〒≪まぁ確かに凄いよね。 でも僕は何て呼べばいい? “優ちゃん”とか?≫

女〒≪ゆーくんには“優”ってよんでほしいな≫

僕〒≪了解≫
86:2011/02/06(日) 06:25:12.76 ID:

“彼女を学校まで送る”

何故こんな凄いことがいきなり出来たのか。

彼女と一緒にいるとその答えが分かってきた。


彼女との空間は、僕の得意な“声のいらない世界”。

強制的に“喋り”を要求されることはない。

コミュニケーション手段の殆どが“メール”,“表情”,“ボディータッチ”。

そして何より、この世界はとても暖かい。

まさしく僕が望んでいた世界なのだ。


……でも甘えてばかりはよくない。

僕は変わりに来たのだから。

向上心を失えば探し物は見つからない。
87:2011/02/06(日) 06:30:33.18 ID:

僕「 ゆう 」

僕は口を精一杯使って、彼女の名前を表現した。

女〒≪…うん、いい感じ。幸せすぎる…。 …でも、本当にこんな私でいいの?≫

僕〒≪それは言わない約束≫
僕〒≪優は僕にとって初めての友達で、初めての恋人なんだ≫
僕〒≪絶対に代わりの利かない、僕にとって一番大切な人だよ≫

女〒≪本当にありがと…。信じていい?≫

僕〒≪約束する。何があっても僕はどこにもいかない≫
僕〒≪誰かに置いてかれる苦痛は誰よりも分かるから≫

女〒≪…うん、絶対だよ? 昼みたいに急に居なくなったら嫌だからねッ≫

僕〒≪はいはいw そうだ、昼で思い出したけど…≫
僕〒≪『うんめーら』ってとこで僕、『兎ラーメン』食べたんだ…(´・ω・il)≫

女「えっ」

僕「ん?」
88:2011/02/06(日) 06:33:39.47 ID:
支援
89:2011/02/06(日) 06:34:21.01 ID:

女〒≪“うんめーら”って私のお爺ちゃんの店だよ……≫

僕「えぇェエ!? うそだろっ!?」

僕〒≪もしかして、そこに住んでるとか?≫

女〒≪うん、3年前から。 ごめんね、私のお爺ちゃん変人だったでしょ?≫


3年前、とある夫婦行方不明。
3年前、優は爺さんの家に住み始めた。
3年前、優は音を失った。
3年前、“兎ラーメン”登場。


とある夫婦が優の両親なのは、恐らく間違いないだろう。

なんてこった。繋がってしまった。


女「ゆーくん?」

僕〒≪あのさ……今日、優の家に寄っていいかな?≫
91:2011/02/06(日) 07:17:23.84 ID:

女「!」

女〒≪そんな、私まだ心の準備ができてないよっ…///≫

僕「ち、違うって! 出会って7時間で、どんだけ急展開だッ!」

女「?」

僕〒≪…優のお爺さんと話したいことがあるんだ≫

女〒≪あ、そうなんだ…。 お爺ちゃんと仲良くなったんだ?≫

僕〒『まあそんな感じw ちょっと切符買いなおしてくるよ』

女〒≪××駅だから320円だからね≫

僕〒≪おk≫
92:2011/02/06(日) 07:21:01.16 ID:

■PM4:30 - 木下家門前■

“うんめーら”の隣には小さな一軒家があった。

表札には“木下”って書いてある。

何でさっき気付かなかったんだろう。

“うんめーら”の戸に掛かっている札が
“商い中”から“仕込み中”に変わっている。

どうやら11時から15時までの営業らしい。

つまり、爺さんは今この家に居るってこった。

僕と優が付き合ってることを報告しなきゃ。

そして彼女には聞くに聞けない、

“3年前”のことを教えてもらうんだ。
93:2011/02/06(日) 07:24:31.25 ID:

ガラガラ……。

優は横開き扉を開いた。

女「ただいまぁ、お爺ちゃん」

爺「…ん?」
爺「何でおめぇがいるんじゃ?」

僕「あ、あの…」
僕「あ、改めまして根本優と申します!」
僕「優さんとお付き合いさせて頂くことになったので…」
僕「その…挨拶とご報告に参りました!」

爺「おめぇが優と?」
爺「何で昼来たとき言わんかった?」

僕「いえ、そのときはまだ……」
僕「それにお爺さんと優さんの関係もついさっき知ったんです…」

爺「……後悔はしないと誓うか?」

僕「はい! もちろんです!!」

爺「あがれ」
94:2011/02/06(日) 07:26:48.55 ID:

■客間■

僕「…」

爺「そんなに緊張せんでもいい」
爺「堅苦しいのもやめてくれ」

僕「あ、はい」

爺「優のこと、どこまで知ってるんじゃ?」

僕「…過去に辛い思いをし、」
僕「3年前に耳が聞こえなくなって」
僕「現在は養護学校でボランティア活動をしている」

僕「そして両親がいない…」

僕「そこまでしか知りません」

爺「…そうか」


爺「優の父親は、優を虐待していた」
95:2011/02/06(日) 07:29:13.49 ID:

僕「虐待……」
僕「父親ってお爺さんの子供ですか?」

爺「違う。ワシらの子供は母親の方だ」
爺「そしてその母親も父親に暴力を受けていたんじゃ」

僕「なんて非道い父親だ……」
僕「もちろん離婚したんですよね?」

爺「いや、何度も訴えたんじゃが離婚は認められなかった」

僕「どうしてですか!? 暴力は証拠が残るでしょう!?」

爺「あぁ。現に母親も優も身体はアザだらけじゃったよ」
爺「だが父親は暴力を一向に認めずに…」
爺「自分の家族愛の大きさだけを裁判で力説した」

爺「実際に家族旅行をしたり、プレゼントを与えたりしていたからのう……」

僕「そんなの全く信用できないじゃないですか……!!」

爺「うむ、その通りだ。恐らく賄賂が動いていたんじゃろう」
爺「母親はやがて病気がちになり、行動する気力も無くなっていった」
96:2011/02/06(日) 07:30:55.07 ID:

僕「警察もダメだったんですか?」

爺「あぁ。いくら取り合っても無駄でのう」

僕「……父親の役職は?」

爺「一応、大手企業の平社員じゃ」

僕「それほど多額の賄賂を、平社員が賄えるはずないですよ」
僕「……恐らく裏で何者かが糸を引いていたと思います」

僕「父親にもそこまでしてDVをする理由があったはずです」
僕「わざわざ家族旅行等のカムフラージュを施すほどの理由が」

爺「…」

僕「と、ところで優の学校生活はどんな感じだったんですか?」

爺「……優は父親からは暴力を受け続け」
爺「放心状態だった母親には甘えることすらできなかったのじゃ」
爺「優は必然的に無口でネガティブな子に育った」

爺「だから学校では友達ができず、優はいつも“孤独”じゃった……」
97:2011/02/06(日) 07:33:20.98 ID:

爺「ワシらに出来たことは“うんめーら”の夜の営業を廃止して」
爺「たまに遊びにくる優との時間を設けてやることぐらいじゃった」

僕「“たまに”ですか……?」

爺「父親が出張の時や、特別に許されたときぐらいじゃ……」
爺「だからワシらは……」

僕「あ、あの!」

爺「……なんじゃ?」

僕「“ワシら”って先刻から仰られてますけど……」
僕「あの、お爺さんの“奥さん”は…?」

爺「…」
爺「記録上では3年前に行方不明になっておる」

僕「えぇェエッ!? お婆さんがですか!?」

爺「あぁ。“記録上”じゃがの」

僕「それってどういう……」

爺「婆さんはずっとこの家にいるよ」
爺「紹介してやるから付いて来な」
98:2011/02/06(日) 07:34:54.43 ID:

僕は爺さんに付いて行った。

客間を出て、階段を上る。

2F。

爺さんは突き当たりの押入れを開けて、
奥から何かを取り出そうとしている。

この時僕はアルバムか何かを想像していた。

しかし取り出されたのは大きな箱で、

蓋を開けると砂のようなものがドッサリと詰まっていた。

そして爺さんはその中から

“はちみつ瓶”らしきモノを取り出した。


それを見て僕は口を抑えた。


瓶にはドロドロに液状化した何かが入っている。
100:2011/02/06(日) 07:39:58.93 ID:

爺「コイツがワシの女房じゃ」
爺「こんな姿で申し訳ねぇが、勘弁してくれ」

僕「…あ…あ…ぁ…」ガクガク

爺「どうした?」

僕「狂ってる…」ガクガク

爺「あ?」

僕「どうして普通で居られるんですか…」ガクガク
僕「まさか…お爺さんが…」ガクガク

爺「違うわこのボケがッ!」
爺「…この瓶は3年前の8月に送られてきたんじゃ」
101:2011/02/06(日) 07:42:11.55 ID:

僕「差出人は…?」

爺「あるわけないじゃろ」
爺「まあ婆さんを殺した犯人じゃろうけどな」

爺「特殊なバイオ消臭剤にこの瓶を埋めて送ってきたわい」

僕「どうして…それが…お婆さんだと分かったんですか?」

爺「今では液状化してしまってるが」
爺「当時は婆さんの『心臓』と『左手』がハッキリ分かるように封入されてて…」
爺「左手の薬指にワシが婆さんへ贈った『結婚指輪』がハメてあったからの」

爺「…ほら、今でも白骨化した左手の薬指にあるじゃろ?」

僕「…見たくないですッ」

爺「まぁワシだってこんな姿の女房をあまり見せたくないからのう」
爺「だから警察にはこの箱と瓶は見せずに」
爺「捜索願だけ出しておいたんじゃ」

爺「警察なんかに“婆さん”を見せたら“没収される”に決まってるじゃろ?」

僕「でもそれじゃ犯人を見逃すことに……」

爺「ワシは警察を信用しとらん」
104:2011/02/06(日) 08:00:31.18 ID:

僕「お婆さんが最後にココを出たのはいつですか?」

爺「2007年の8月6日だよ」
爺「『ちょっと人に会ってきますね』『遅くても明日には帰るから』」
爺「『心配しないで、お爺さん』…と言い残しての」

僕「それっきり帰って来なかったんですね……」


爺「あぁ。それで夕方に△△養護学校のA先生が来て…」


僕「A先生ですか!?」

爺「知ってるのか?」

僕「えぇ、まぁ。でも何故です?」

爺「その先生が優をこの家に届けてくれたんだ」
105:2011/02/06(日) 08:01:53.27 ID:

〓〓〓〓〓〓〓〓〓 3年前 8月6日 夜 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

先生A「私、△△養護学校のAと申します」
先生A「ご両親からこの子をコチラへ送るように頼まれて…」

爺「そうなんですか。わざわざすみません」

先生A「……優ちゃんをしばらくコチラで預かってほしいそうです」

爺「本当ですか!? やったなぁ、優!!」
爺「……ん、優? 顔色が悪いぞ?」
爺「どうしたんじゃ優!! どうして返事をしないんじゃ!?」

優「…」

先生A「あの…ご両親曰く、優ちゃんは耳が聴こえないそうなんですが…」
先生A「お爺さんはご存知なかったのですか?」

爺「……耳が聴こえない? そんなわけあるかっ」
爺「この前だってちゃんと会話できてたんだぞッ!!」

先生A「私に言われても分かりません……」
先生A「……私はただ、耳の聴こえなくなった優ちゃんをこれから」
先生A「私どもの養護学校に通わせて欲しいと頼まれただけです…」

爺「嘘じゃろ、優? 何があったんじゃ!? 優!! 優!!!」ユサユサ

優「…」
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
106:2011/02/06(日) 08:03:22.64 ID:

僕「そうだったんですか……」

爺「あの後、優の家に行ってみたんじゃが……」
爺「既にもぬけの殻じゃったわい」

爺「それで娘のことが心配になって」
爺「捜索願を出したってわけじゃ」

僕「あの“新聞記事”のことですね」

爺「あぁ」

僕「…それで、“お婆さん”が送られてきたのはいつなんです…?」

爺「翌朝…8月7日の朝には家の前に置いてあったよ…」

僕「そして今度はお婆さんの捜索願を出したわけですね…」

爺「そうじゃ。警察に“またお前か…”って顔されたわい」

僕「その日からずっと優と二人暮らしですか?」

爺「あぁ。……じゃけど優は…」


爺「…ショックで半年以上全く喋らなかった」
107:2011/02/06(日) 08:06:48.58 ID:

爺「本当に辛かった……」
爺「ワシは何もしてやれなくて……」

僕「…」

爺「分かるかッ!? 自分の声すら聞こえないんじゃぞ!?」
爺「ある日突然、世界から音がゴッソリ消えてしまうんじゃ…」
爺「音を知ってる人間にとって、それがどれだけの苦痛か…」

爺「しかも両親も友達も、唯一仲の良かった婆さんも居ない…」
爺「…“孤独”なんてもんじゃねぇよ」

僕「…」

次元が違いすぎた。
勘違いにも程がある。
“孤独”は僕ごときに許される言葉じゃなかった。

爺「だからワシは精一杯の恨みを込めて“兎ラーメン”を作った」

爺「耳の聴こえない優のために、耳をアピールする“その動物”を…」
爺「何者かに騙された婆さんのために、詐欺の代名詞の“その動物”を…」
爺「行方不明になった娘のために、人を異世界へいざなう“その動物”を…」

爺「皮を剥いだ兎を塩スープでグツグツ煮込むんじゃ」
108:2011/02/06(日) 08:12:05.66 ID:

僕はようやく気づいた。

一見普通に会話ができる爺さんだが、
既に精神がボロボロであることを。

娘と孫が暴力被害。
アザができるまで。
しかし離婚失敗。
警察も役立たず。
暴力は続く。

娘、放心状態。
孫、中途失聴。
妻、殺される。

妻、肉片。
娘、行方不明。
孫、孤独。


……だが、黒幕の目星は付いた。

関係ない第三者の癖に、
爺さんすら知らない情報を
その人物は口走っていたからだ。
109:2011/02/06(日) 08:15:17.32 ID:

僕「…お爺さん、こういうのはどうです?」

爺「何じゃ?」

僕「兎の代わりに、卵を入れるんですよ!」
僕「“卵”の目玉を取ったらどうなります?」

爺「白身だけ残る」

僕「その通りです」
僕「でも“卵”という漢字にも目玉がありますよ」
僕「人間と同じように2つ…」

爺「…“卯”か」

僕「そうです。いわゆる“うさぎ”のことです」
僕「来年は卯年ですしピッタリだと思いますよ」

爺「なるほどねぇ…」

僕「だから本物の兎を使うのは…もうやめませんか?」
110:2011/02/06(日) 08:17:12.32 ID:
なにげにwktk
111:2011/02/06(日) 08:17:53.21 ID:

爺「……じゃが“白身だけ”ってのは手間が掛るのう」
爺「それに“目玉”を取るなんてワシにはできん…」
爺「優の手前じゃ縁起が悪いじゃろ…」

僕「じゃあ目玉を取らなきゃいいだけです」
僕「ラーメンにゆで卵をのせるだけでいいんですよw」

爺「……ぷっ」
爺「ハッハッハ!」
爺「テキトーな奴めw」

僕「(*^ ^)ゞ」

僕「だからお爺さんはもう戦わなくていいんです」
僕「じっくり休んで、後は僕に任せてください」

爺「なんか少し気が楽になったよ」
爺「おめぇ頼りになるな」

僕「……初めて言われました」

爺「意外じゃな。ワシがここまで喋ったのも…」
爺「…お前に魅力があるからじゃと思うぞ」
112:2011/02/06(日) 08:20:34.55 ID:

正直、ここまで自分が喋れると思わなかった。

この僕が、お爺さんといえど、2人っきりで。


≪余計なことを考えなかったから?≫


こう話したら相手がこう言って~……とか、
何を喋ったら、一番喜んでもらえるか……とか、
僕なんかが喋っても意味がない……とか。

余計なことを考えずに
真剣に相手の話を聞いて、
自分の思いのまま話したから
自然な会話になったんだろうか?

自然な会話は楽しい。
楽しいと自然に会話が続く。

この螺旋こそがリア充への階段なのかもしれない。


もちろん爺さんとの会話の内容は悲惨で許せないものだ。
だから今これに気づくのは少し不謹慎といえる。

でも、今の僕なら“奴”と戦える気がする。
113:2011/02/06(日) 08:24:19.73 ID:

■只今の時刻PM7:00 - 天気:大雪■

僕「もう7時か…そろそろお暇します」

爺「おい、外は大雪だぞ。金曜だし泊まっていきな」

僕「いいんですか? …あ、でも優に聞いてみないと……」

爺「…そうか。優も大歓迎じゃと思うが」


■優の部屋(ドア前)■

コンコン…。

あ、ノックは意味ないか。

携帯…。

いや、家では充電中かも…。

…ふぅ…。

ごめん、優!

ガチャッ。
114:2011/02/06(日) 08:27:37.61 ID:

女「zZZ…」

着替えてるパターンかと思ったが、

優は布団でスヤスヤと昼寝をしていた。
ほぼ等身大の抱き枕を抱きしめて。

抱き枕は少し湿っていた。

そっか、僕が爺さんとばかり喋ってたから…。

ごめんね…優。

僕は慣れない手付きで彼女の頭を撫でた。

愛情を込めて、何度も何度も。

しばらくすると
彼女は少し目を開けて、

また何も言わずに目を閉じた。

幸せな夢でも見てるのだろうか?

彼女は少し嬉しそうだ。
126:2011/02/06(日) 11:42:42.61 ID:

部屋を見渡してみる。

綺麗に片付けてある机。

ぬいぐるみは10体以上。

優と爺さんと…多分婆さんの3人の写真。

もはやインテリアと化したオーディオコンポ。

ラックには数十枚くらいCDがある。

もしかして音楽好きだったのか?
確かに音楽は孤独を紛らわせてくれるけど……。

だとしたら……悲しすぎる…。


……おっと、お目覚めのようだ。
127:2011/02/06(日) 11:43:51.10 ID:

彼女はニコリと微笑んだ。

僕もそれに応じたが、胸が苦しかった。

どうして君は、笑うことができるの。

10人中9人は自殺するような境遇で。

その強さの糧は一体何なんだ。

教えてくれよ…。

悲壮感が込み上げ、
僕は彼女を抱きしめた。

涙を見せないように。

彼女は僕を心配し、
背中をさすって慰めてくれた。

泣きたいのは彼女の方なのに。

僕が泣いてどうすんだ…。
僕が励まされてどうすんだ…。
128:2011/02/06(日) 11:44:26.14 ID:
>>56の名前が消防のときの友人と同じなんだがまさかな…
129:2011/02/06(日) 11:46:13.75 ID:

涙を腕で拭って、彼女の肩に手を置く。

「もう大丈夫」、と笑顔を見せた。
そしてメールを送信する。

僕〒≪明日、デートしよっか!≫

女〒≪うん!≫

彼女は満面の笑顔をみせる。

僕〒≪行きたいところある?≫

女〒≪ゆーくんに任せるよ≫

僕〒≪そっか。じゃあ任しといて≫

女〒≪やったー! 楽しみだなぁ~≫
女〒≪今夜はもう遅いし、泊まってってよ≫

僕〒≪ほんと? じゃあお言葉に甘えるよw≫

女〒≪一緒にお風呂入ろっか≫

僕「え…ええぇえあ、え!?」

女〒≪冗談だよw ゆーくん可愛いなぁ~≫

優は笑っていた。なんて強い女の子なんだろう。
130:2011/02/06(日) 11:47:59.65 ID:

僕〒≪明るくなったね、優≫
僕〒≪今朝は無理をしてる感じだったけど≫
僕〒≪今じゃ自然な明るさを感じるよ≫

女〒≪凄いね。…違い、分かるんだ…≫
女〒≪私もゆーくんが初めての友達で…≫
女〒≪最初は“引き止める”ことばかり考えてたの≫

僕〒≪その気持ち、凄く分かる≫

女〒≪でもゆーくんが抱きしめてくれて…≫
女〒≪“傍にいる”って言ってくれて…≫
女〒≪もう、無理しなくていいんだ…って≫
131:2011/02/06(日) 11:49:03.55 ID:

僕〒≪優は本当に強いね≫
僕〒≪並の人間じゃ、優みたく真っ直ぐ生きられないよ≫
僕〒≪…優が苦境でも頑張れるその理由、知りたいな≫

女〒≪…明日を信じてるからだよ≫
女〒≪今日頑張れば、明日は良い日になるって信じてるから≫

女〒≪明日は仲の良かったお婆ちゃんが帰ってくるかもしれない…≫
女〒≪明日は元気になったお母さんが戻ってくるかもしれない≫
女〒≪明日は養護学校で皆が笑ってくれるかもしれない…≫
女〒≪明日は素敵な出会いがあるかもしれない…≫

女〒≪…そう信じてるから、今日を頑張れるの≫
女〒≪明日には何度も裏切られたげど、≫
女〒≪明日がある限り、私は信じ続けるよ…≫

……馬鹿。そんなこと、普通できるかよ。
お前はどんだけポジティブ思考なんだ……。

それに、優は婆さんが死んだことを知らないみたいだ。

これだけは、真実を知らない方がいい…な。
132:2011/02/06(日) 11:50:26.81 ID:

僕〒≪一緒にお風呂入ろっか≫

女「!」

彼女は顔を赤らめて、僕を叩いた。
さっきは自分が誘った癖になw

女〒≪さっきのは冗談ッ!≫

僕〒≪えへへ。良い反応ゲットw さっきのお返しだw(∀)w≫
僕〒≪…でも、隣で寝るのはいいかな?≫

女〒≪もうッ! それも嘘でしょ!?≫

僕〒≪いや、これはホント≫

彼女は僕をじぃ~っと疑う。

女〒≪…何もしない?(-ω- )≫

僕〒≪うん≫

女〒≪…じゃあ、いいよ。私もゆーくんと1秒でも長く居たいからねっ≫

僕〒≪ヤターーーヾ(*ΦωΦ)ノ!!≫

女〒≪…目から理性が感じられないんだけど…≫
133:2011/02/06(日) 11:51:11.38 ID:

■PM8:00■

あれから3人で夜ご飯を食べた。

いつもは優が作るらしいが、

今日は僕がいたから、
買い物に行けなかったらしい。

だから僕が明日のデート帰りに
一緒に買い物しよう、と提案すると、

優は目をキラキラさせて喜んだ。
どーやらそれが長年の夢だったらしい。

その材料で
優の手料理を食べたいとメールすると、

今度は目をウルウルさせて喜んだ。
『絶対おいしいの作るねッ』と、燃えていた。

食卓は、音に関してはそんなに賑やかではなかったが、
3人の心の中では、大盛況パーティーそのものだった。

爺さんも『メール、頑張って覚えてみるかのう…』とか言ってた。

今夜はその爺さんが作った塩ラーメン。
麺も素晴らしかったが、スープが最高においしかった。
134:2011/02/06(日) 11:53:41.27 ID:

■PM9:00■

風呂から上がって3人でトランプをした。

トランプは耳が聴こえなくても十分楽しめる。

爺さんは意外にも多種類のトランプゲームを熟知していた。
昔から優と一緒にトランプをしていたらしい。

僕らは2時間近くゲームに熱中した。

自然な笑い、自然な驚き、自然な悔しさ。

ゲームは余計なことを忘れさせてくれる。
だから、盛り上がるのかもしれない。
楽しいは作るものではなく、生まれるもの。

トランプ大会は大成功に終わった。

優の性格は明るいが、あまり発言をしたがらない。
恐らく自分の声が聴こえないのが不安だからだろう。
だから僕のメールにメールで返事をするのだ。

……そんな優が不安定な声でこう言った。

「今度はお婆ちゃんとお母さんも一緒にできたらいいねッ!!」

爺さんは笑顔で頷いた。
135:2011/02/06(日) 11:55:21.83 ID:

■PM11:00■

母さんにメールしなきゃ。

『今日は友達の家に泊まります』、と。

そして、すぐ返信が来た。

『友達と遊ぶのってめずらしいね』
『お母さん寂しいけど、嬉しいよ』
『またその子のお話聴かせてね』

いつも母さんのメールは流し読みしてたけど、
いつも僕のことを心配してくれてたんだな、と思った。

今までの母さんのメール、消しちゃってごめん…。
でも、このメールは一生大事にするよ。

『いつもありがとう』と、照れくさいが返信した。
136:2011/02/06(日) 11:56:28.07 ID:

受信メールボックスを開くと、
母さんの今のメールが一通。

そして、残りのメールは全て、優のものだった。

≪…僕と優の“会話”は記録に残ってるんだ…≫

いつでも優の言葉を“再生”できる。
過去の言葉に返事をすることもできる。
アルバムのように2人で楽しむこともできる。

……さぁ、そろそろ優の部屋へ行くか。


■優の部屋(ドア前)■

僕〒≪コンコン♪≫

優〒≪どーぞ♪≫


ガチャ。
137:2011/02/06(日) 12:00:13.62 ID:

僕「あれ、布団が1枚しかない…」

女「?」

僕〒≪布団が1枚しかないけど…?≫

女〒≪…うん…布団これ以上無かった≫
女〒≪もしかしたら2階の押入れにあるかもしれないけど≫
女〒≪あそこはお爺ちゃんに近づくなって言われてるから…≫

女〒≪……この布団で一緒に寝よっか≫

僕〒≪えっ、いいの?≫

女〒≪うん。さっき何もしないって約束してくれたしね♪≫

僕〒≪ははw もちろん分かってるよ≫
138:2011/02/06(日) 12:01:05.35 ID:

僕は優と布団に入った。

流石にちょっと狭いけど、どうでもいい。

優は一つしかない枕を譲るかわりに、
僕の腕枕で寝たいと甘えてきた。

◆おやすみ◆
今日は最高の一日だった。
優と出会えて幸せだ。
これからよろしくね。

大好きだよ、優。

◆Re:おやすみ◆
私もゆーくんと出会えて幸せ。
幸せすぎてちょっぴり怖いよw
生きてて本当に良かった。

ありがと、ゆーくん。

大好き。
139:2011/02/06(日) 12:02:07.99 ID:

優はケータイを充電器に戻し、
部屋の電気を薄暗いオレンジ色にした。

そして優は僕の腕枕に横になった。

僕は軽く抱きしめる。

優は本当に幸せそうだった。

彼女が寝たのを確認して、

僕も目を閉じ、眠りについた。
140:2011/02/06(日) 12:03:24.62 ID:

■12月18日(土) - 天気:晴れ■

天気は良いが、雪はまだ薄く積もっている。

今日は優との初デートに出かけた。

最初は僕の大学へ。
優は初めて入る大学に、興味深々だった。

休日だが、ちらほらサークルが活動している。

その中に同じ学科のYがいた。

Y「あれ、お前…根本だよな」

僕「うん。同じ学科だよな」

Y「お前、彼女いるんだ。すんげぇ可愛いなw」

僕「昨日出来たんだよ」

Y「マジかよ。死ねよぉ」

僕「超幸せ。んじゃ、デート中っすからw」

Y「今度写メ送れよな」
141:2011/02/06(日) 12:04:37.33 ID:

女〒≪いまの人、友達?≫

僕〒≪違うよ。初めて喋った≫

女〒≪へぇ。何て言ってたの?≫

僕〒≪優が可愛いだって≫

女〒≪え…お爺ちゃん以外に初めて言われた≫

僕〒≪僕も言ったよ≫

女〒≪絶対、言ってないッ!≫

僕〒≪そうだっけ?≫

彼女はポカッと僕を叩いた。

少しふくれた顔の彼女に、
お詫びにお菓子を奢ると約束する。
142:2011/02/06(日) 12:05:43.59 ID:

大学を出て、近くのケーキ屋に行く。

シュークリームとクレープを買って、
噴水の前のベンチで食べた。

彼女はクレープを食べるのが初めてらしい。

目を丸くして、喜んだ。
あまりにも美味しそうに食べるから、
僕のクレープを半分あげた。

それもペロリと完食。

続けてシュークリームもペロリ。
身体を揺らすほど美味しかったみたいだ。

口周りについたクリームを拭いてやると
彼女は顔を赤くしてショボーンとなった。
それを見て、僕が笑う。

噴水の前で写メをとり、ショッピングモールへ。
143:2011/02/06(日) 12:06:34.84 ID:

このショッピングモールには、
クロージングストアが結構入っている。

彼女はセンスのない僕に、
一生懸命選んでくれた。

1時間半も服を選ぶなんて僕には考えられない…。

それに服ごときに2万2000円も使ってしまうなんて…。

財布残金は2万6000円。

僕は詳しくないから分からないけど、
彼女は僕の服に満足してるようだ。

まあ、いい買い物だったのかな?


お昼をモール内のイタリアンで済ませ、

僕らは次の場所へ。
144:2011/02/06(日) 12:07:37.23 ID:

ビリヤード。
ゲームセンター。
ペットショップ。
ネタ雑貨ストア。

彼女はどこに行っても新鮮な反応を見せる。
一秒一秒が楽しそうで、笑顔が絶えない。
僕も心の底から彼女とのデートを楽しんだ。

楽しい時間はあっという間に流れ、

街のクリスマス雰囲気を味わいつつ、
僕らは帰路についた。

そして途中、地元のスーパーへ立ち寄る。

女〒≪ゆーくんは何が食べたい?≫

僕〒≪優の一番得意な料理が食べたいな♪≫

女〒≪う~ん…肉じゃがだけど、ちょっと地味かな…?≫

僕〒≪そんなことないよ! 肉じゃが大好きo(≧▽≦)o≫

女〒≪ほんと!? じゃあ肉じゃがに決定~ッ♪≫
145:2011/02/06(日) 12:08:29.77 ID:

■12月18日(土) - PM6:00 - 木下家■

トントントン…と料理する優の背中。

幸せだなぁ、と染み染み感じる。

爺さんも、今日は3人も客が来たと喜んでいた。

早く40年も続いた人気店に戻れるといいな。
そしたら兎ラーメンで居なくなった常連もきっと戻ってくるよ。

食卓に、白米、味噌汁、焼き魚、そして肉じゃがが並ぶ。

女「召し上がれ~」

僕「いただきまーす♪」

んんッ…うまい…うまい…!!
箸が止まらない。

僕「最高だよッ!! 優!!」

女「(〃⌒ー⌒〃)」

彼女は照れ笑いを見せた。

僕「おかわりッ!!」
147:2011/02/06(日) 12:09:46.66 ID:

■PM8:00■

女〒≪今日は本当に楽しかったよ♪≫

僕〒≪僕も。それに優の肉じゃが、本当に美味しかった!≫

女〒≪良かったぁ~。嬉しいな。また食べてくれる?≫

僕〒≪もちろん。じゃあ…そろそろ帰るね≫

女〒≪本当に泊まっていかないの…?(´・ω・`)≫

僕〒≪うん。でも、ケータイさえあれば会話はできるよ≫

女〒≪……そうだね。今度はいつ会えるかな?≫

僕〒≪大学があるから…次の金曜日かな≫

女〒≪寂しいな…≫

僕〒≪じゃあ今度は二泊していい?≫

彼女は笑顔が戻り、明るくなった。

女〒≪うん!! 楽しみにしてる!≫
149:2011/02/06(日) 12:23:44.82 ID:
優ちゃんカワユス
151:2011/02/06(日) 13:00:48.24 ID:

ココに来て、僕は変わった。

コミュニケーションの大切さを本当の意味で理解した。

『何かを探す旅』は大成功に終わったのだ。

僕は帰り道、古い神社の前を通り過ぎる。
すると、どこからか声が聞こえた。

≪何かを見つけたみたいだな≫

僕「え…?」

≪ではどうするべきか、分かるだろう?≫

僕「だ、誰ですか!」

≪お前に『コレ』を授ける≫

僕「『コレ』…って?」

≪『ソレ』をどう使うかは自分で考えろ≫

僕「…『コンナモノ』、信じられない!!」

≪『ソレ』を“信じるか”、“信じないか”は、お前次第だ≫
152:2011/02/06(日) 13:01:40.09 ID:
どんどんアチャーになっていく・・・
153:2011/02/06(日) 13:02:54.34 ID:

……今のって神の声ってやつか?

『コンナモノ』を信じるとか、ふざけてんのか!!

僕は絶対に信じないからな。

クソッ……。


■PM11:00■

僕が家に帰ると、母さんが迎えてくれた。

「ただいま」と言ったことが嬉しかったみたいだ。

「今まで心配掛けてごめん」と謝る。

母さんは素直になった息子の前で、
声をあげて泣き出した。

前の僕は家族に挨拶などしなかった…。
家族揃っての食卓でも、何も喋らなかった…。
食べ終わると、すぐに自分の部屋に閉じこもってた…。

でもこれからは違う。
154:2011/02/06(日) 13:03:41.35 ID:

■12月20日(月)■

大学で僕は積極的に人と関わろうとした。

最初は、「え? 何いきなり…」

みたいな反応だったが、気にしない。

2年間の溝がそう簡単に埋まるはずないけど、
火曜日も水曜日も、僕は自分をハッキリ出した。

無理をせず、思ったことを話す。

やがて、向こうも自然に接してくれるようになり、
学校生活が苦ではなくなってきた。

別にリアルでオタ扱いされても構わない。
楽しけりゃ何だって良いや。
オタクでも明るければリア充だ。

最近はそーいう奴も増えてるんだ。
155:2011/02/06(日) 13:04:31.55 ID:

■12月23日(木) - 休日■

学校は昨日で冬休みに入った。

今日は祝日で休みらしい。
すっかり忘れてた。

優とどこかへ遊びに行こうとメールしたが、

≪もうお店を手伝う約束しちゃったよ~ヽ(*`д´*)/≫

と、怒った感じで返信がある。
まぁ、楽しみは明日にとっておこう。

……だから今日は“奴”に電話をすることにした。

深呼吸して、受話器を取り上げる。
そして奴の自宅へ電話する。

Prrrrrrrrrr....Prrrrrrrrrrr

先生A℡≪はい、もしもし≫

僕℡≪こんにちは、木下優の友人の、根本です≫
156:2011/02/06(日) 13:05:20.50 ID:

先生A℡≪あら、あの時の。電話番号差し上げてましたっけ?≫

僕℡≪いえ、すみません。B先生からお聞きしました≫

先生A℡≪…そうなの。それで何の御用かしら?≫

僕℡≪先生が仰った“事件”のことをお聞きしたくて≫
僕℡≪あの時は聞きそびれてしまったので…≫

先生A℡≪…≫

僕℡≪とぼけるのはダメですよ?≫

先生A℡≪…いいわよ。明日の夜6時、学校に来てくれる?≫
先生A℡≪特別に教えてあげるわ≫

僕℡≪ありがとうございます≫

先生A℡≪あなただけ、特別に教えてあげるんだから≫
先生A℡≪一人で来てくれるわよね?≫

僕℡≪……分かりました。では失礼します…≫ガチャ
157:2011/02/06(日) 13:06:34.33 ID:

僕「怪しすぎる…」
僕「でも、行くしかない…」

僕の作戦はこうだ。

『R-09HR(>>40)』には“レコード機能”がある。
実は音楽を聴くより、こっちがメインの機能なんだが…

とにかく、24bit/96kHzという最高音質で録音できるのだ。

奴から“事件”の真相を引き出し、
それを録音して、警察へ突き出す。

警察は相手にしてくれないかもしれない。

……それでもやってやるんだ。
158:2011/02/06(日) 13:07:38.29 ID:

■12月24日(金) - PM6:00 - 養護学校、校庭■

先生A「……1人で来たみたいね」

僕「えぇ。クリスマス会の方は大丈夫なんですか?」

先生A「大丈夫よ。クリスマス会は中止にしたから……」

僕「……え?」
僕「生徒達は教室に集まってるじゃないですか」

先生A「ふふっ。“先生達には”、“中止”と伝えたのよ」

僕「……じゃあ優は来てるんですね!?」

先生A「えぇ、教室の奥に縛られてるのが見えるかしら?」

僕「…何ッ…!?」

優は教室でロープに縛られ気絶していた。

僕「クソッ!! やはりお前が優から音を奪った犯人か!!」
159:2011/02/06(日) 13:08:41.06 ID:

先生A「フフッw そうだけど?w」

僕「てめぇ…自分が何したか分かってんのかッ!?」

先生A「あらやだ。段々言葉が汚くなってるわよ?w」

僕「黙れッ!!!」

先生A「だってムカツクじゃない?w」

僕「何だとぉ…!?」

先生A「篤弘さんの血を継いでるなんてw」

僕「あ? 誰だよソイツ!?」


先生A「…そう、全ては篤弘さんへの復讐なのよwww」


僕「だから誰なんだッ!?」
160:2011/02/06(日) 13:09:42.06 ID:

先生A「“うんめーら”っていうラーメン屋を知ってるわよね?」

僕「あぁ……それがどうした!?」

先生A「あそこの店主の木下篤弘はね、私と結婚するはずだったのよ!!」

僕(あの爺さんとコイツが?)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓 40年前、うんめーら開店当初 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

篤弘「お嬢ちゃん、いつもありがとね」

A「お兄ちゃんの塩ラーメン、おいしーよ」

篤弘「そうかぁ。でも、お客さんが全然来ないんだよ…ハハ」

A「私がいるじゃん!」

篤弘「ありがと。その通りだ…」

A「私、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するの…///」

篤弘「ハハハ…じゃあこの店が人気出たらね」

A「やったーッ!」

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161:2011/02/06(日) 13:11:54.38 ID:

先生A「篤弘さんが27才で、私が9才のときの話よ」

僕「…それだけか?」
僕「たったそれだけのことで…」

先生A「何よそれだけって!! 私は本気だった!!!」

僕「……まさか、婆さん…篤弘さんの嫁を殺したのもあんたか?」

先生A「えぇ、そうよwww」
先生A「私の“婚約者”を、たった数ヶ月で奪いやがったからwww」
先生A「孫の手前で殺してやったのよwwww」

僕「……孫って優のことか!?」

先生A「そうよw 優の父親を金で操って殺させたわッ!!」
先生A「自分の父親が、大好きなお婆ちゃんを殺してるのを見て…」
先生A「かなりのショックを受けただろうねwww」
先生A「その時の記憶を失うほどにwww」

僕「こいつ…ッ」

先生A「まずはババアの爪を一枚一枚剥がすのよwww」
先生A「その時のババアの悲鳴といったら快感そのものwww」
先生A「そして次は“忌まわしき指輪”を嵌めた『左手』を削ぎ落としたのwww」
先生A「優はその時の断末魔を聞き、多大な精神ダメージを受けただろうねwww」
先生A「耳が聞こえなくなるほどにwww」
165:2011/02/06(日) 13:18:18.44 ID:
早くしてくれ
全部読んでるから
167:2011/02/06(日) 14:01:29.75 ID:

先生A「そしたら優は何をしたと思う?w」


先生A「自分の父親を“殺した”のよッwww」


僕「…そんな…馬鹿…な…」

先生A「ありゃ傑作、笑わしてもらいましたよwww」

僕「てめぇ…!!!」

先生A「その後、私は精一杯の“皮肉”を瓶に込めて…」
先生A「篤弘さんにババアの“心臓”と指輪を嵌めた“左手”を送ってやったわwww」

僕「優の父親を多額の金で釣って、優やその母親に暴力をさせたのもアンタだな…」
僕「裁判所や警察に賄賂を渡したのも…」

先生A「あら、知ってたのねwww」

先生A「さぁ、今の気分はどうかしら?」
先生A「愛してる人が殺人犯でも、あなたは愛し続けられるかしらッ!?」
168:2011/02/06(日) 14:02:34.97 ID:

僕「僕は優を信じてる」

先生A「ッ!!」

僕「彼女の強さを知ってるから」

先生A「アァァアアアアアッ!! 腹が立つッ!!」
先生A「お前がアイツを捨てれば…」
先生A「またアイツを孤独で苦しめられるのよぉッ!」
先生A「それは篤弘さんへの復讐にもなるッ!!」

先生A「何でいつも思い通りにならないのよッ!!!」

僕(狂ってる…)

先生A「アンタ達、パーティーを始めるわよッ!」

僕「え?」

ガンッ!!

僕は後ろから何者かに殴られ、気を失った。
169:2011/02/06(日) 14:04:48.15 ID:

僕は仄暗い蝋燭部屋で仰向けに横たわっていた。

「ここは…教室?」

周りがよく見えないが、クリスマスツリーがたくさんある。
これらは生徒達がこの日のために飾り付けしたものだ。

自分の両手両足、胴体、首はロープで縛られていた。
ロープの数は全部で18本、身動きが全く取れない。

さらに、何やらボソボソと声が聞こえてくる。

次の瞬間、ツリーが次々と光だした。

目が正気を逸してる、サンタの格好をした生徒達が浮かび上がる。

そしてロープの先は18人の生徒の車椅子へ繋がっていた。

先生A「お目覚めかい?w」

僕「これは一体…」

先生A「ソイツら池沼どもは既に洗脳されているw」
先生A「頭が足りないから、催眠で簡単に玩具にできるのwww」

僕「クソッ! それが教育者の言うセリフかよッ!!」

先生A「黙りなさいw」
先生A「さぁ、クリスマスパーティーを始めるわよッ!」
170:2011/02/06(日) 14:08:58.57 ID:

「jingle bell... jingle bell...」
「jingle bell... jingle bell...」

奴の開始の合図とともに、
普段会話の難しい生徒たちが、
ひたすらに「jingle bell」と呟き始める。

リズムも滑舌も悪く、殆ど聞き取れない。
だが、もはや「jingle bell」がトラウマな僕にとって、それは拷問。

僕「やめろぉおおおおおおおッ」

先生A「アハハハハwwww 何故かあなたは苦手なようね!」
先生A「先生はこの歌、だあいすきよwwwwwwww」

Oh, jingle bells, jingle bells ~♪
(さぁ、ベルを鳴らせ、鳴らすんだ)

Jingle all the way ~♪
(永遠に鳴り響かせろ)

Oh, what fun it is to ride ~♪
(ああ、楽しさいっぱい)

In a one horse open sleigh ~♪
(一頭立ての馬ソリ遊び)
171:2011/02/06(日) 14:12:20.12 ID:

奴は僕の爪を一枚一枚剥がす。

僕「ぐあああああああああああああああああああッッ」

僕のベルが教室に鳴り響く。

僕「やめろぉオオオオオオオオオオオオッッ」
僕「がぁああああああああああああッッ」

女「いやあああああああああああッッッ」

教室の角で縛られた優が目を覚ます。
彼女は頭を抱え、叫び続ける。

まさか…記憶が蘇ったのか?
婆さんのときに酷似したこの状況を目の当たりにして…。

サンタ達は「jingle bell」と囁き続けている。
トナカイである僕を車椅子というソリに縛り付けて。

先生A「ひゃははははははwwww」
先生A「ソリ遊びの醍醐味はソリチュードの苦しみを与えることwww」
先生A「イカれたサンタどもに囲まれて、一頭のお前は孤独を味わうのwww」
先生A「終焉のベルを鳴らすまで、ひたすら拷問に苦しめばいいわwww」
173:2011/02/06(日) 14:16:09.44 ID:

この前の夢そのものだ。
声は出せるが、その声は誰にも届かない。

耳が聴こえないという障害。
夢で言うと、自分の肉が声の障害になってる状態だ。

でも、この後少しの希望が生まれるはず。
夢でいうと、自分の肉を完食した瞬間だ。

だがその直後、希望は儚くも絶たれるはず。
夢でいうと、“のどちんこ”をブチ抜かれる悲劇……。


―― いや、誰がそんなこと決めた?


あの夢は、過去の僕の夢。
そう、「声なんていらねぇ」と言っていた頃の僕。

だが、僕は変わったんだ!

今の僕はコミュニケーションの大切さに気づいた。
今の僕は声の大切さに気づいたんだ。


そう、優と出会えたから。


今の僕なら、その幻想をぶち殺せるッ!
174:2011/02/06(日) 14:21:05.75 ID:

僕「誰かッ!! 助けてくださいッッ!!!!!」

僕「この声が届いたのならッ!!」
僕「この声が聴こえる部屋へ!!」

僕「助けに来てくださいッッッッ!!!!!!」

先生A「ひゃははははははwwww むだむだむだぁwwwww」


ガラガラガラッ!!

警官A「警察だッ、大人しく表へ出ろッ!!!!」
警官B「大丈夫か、君達!!」

先生A「…あら? あなた達、何してるの?w」
先生A「私の夫、○○党の代表なの忘れた?」
先生A「アンタらにどれだけ金払ってるか分かってんの?w」

警官C「何のことだかさっぱり分からないな」

???「あなた3年前に別居してから夫と会ってないみたいね」
???「今朝のニュースを見てないのかしら?」
175:2011/02/06(日) 14:24:16.10 ID:

???「警察庁長官が収賄で逮捕されたのよ」
???「そして、あなたの夫も報道に名前が上がったわ」
???「もうあなたを守るものはない」

先生A「!!」

警察A「オラ! 大人しくしろッ!!」

先生A「…何で、何でアンタがいるのよッ!!」
先生A「あの日、ババアを連れて逃げただろうがッ!!」

???「逃げたんじゃないわ、アナタを潰すために動いてたのよ」
???「あれから3年、ようやく収賄の証拠を見つけたわ」
優の母「もう逃げられないわよッ!!」

女「おかあ…さん…?」グスン

母「ゆう…今までごめんね…」

僕「あなたが優さんのお母さん…?」

母「えぇ。優を守ってくれてありがとね」

そして後ろから、左手のないお婆さんが出てきた。

婆「優ちゃん、大きくなったね…」
176:2011/02/06(日) 14:25:59.45 ID:

女「お婆ちゃんッ!!」グスン

僕「え…何でお婆さんがッ!?」

婆「アンタは誰だい?」

僕「僕は…根本優っていいます…優の彼女です」

母&婆「まぁ!」

僕「いやそれより、お婆さん生きてたんですか!?」

婆「? 何か勘違いしてるわね?」

僕「だってアイツが…そう言ってたんで…」
僕「それにお爺さんに“心臓”と左手が送られてきたし…」

婆「?」
婆「とりあえず、3年前のこと、教えてあげるわ」
177:2011/02/06(日) 14:27:12.13 ID:
彼女かそうか
179:2011/02/06(日) 14:30:32.32 ID:

2007年8月6日。

私と母親、優の3人は父親にある場所へ呼び出されたの。

そこには父親の他に、新しく養護学校の先生になったAがいたわ。

先生とは言っても、学校では金の力で実質トップ。
何せAの夫はあの有名な政治家だったからね。

話を聞くと、Aが父親に娘と孫を虐待させてたそうなの。
父親はその虐待写真をAに送ることにより、多額の報酬を得ていた。

Aの動機は私の夫、篤弘さんを私に取られたから。

私たちが結婚して、
Aはすぐ東京へ転校したらしいわ。

そして例の政治家と結婚して、財力を手に入れた。

その頃、私たちには既に孫がいたわ。

それを知って“虐待”を思いついたらしい。

母親には“欝”を、優には“孤独”を与えることにより、
血の繋がった篤弘さんを復讐として苦しめたの。
180:2011/02/06(日) 14:34:29.27 ID:
なるほど、圧力をかけられているなら離婚が認められないのも納得いくな
182:2011/02/06(日) 15:00:25.38 ID:

そして、私達が呼び出されたその日。

彼女は私に“死”を与えることで、
篤弘さんに最大の復讐をすると言ったわ。

父親はまず、私を苦しめるため私の爪を剥いだ。
本当に痛かったわ、死ぬかと思って叫んだの。

母親は放心状態から目を覚まし、優は泣いていた。

娘達が必死に「やめてッ」と叫ぶ中、彼女は次の命令を下した。

父親は少し迷いながらも、私の左手を切断したわ。
その時の叫びで、優は音を失ったんだと思う。

次に彼女は父親に“殺せ”と命令したのよ。

だけど意外にも父親は「できない」と言った。

何とあの男、血がダメだったのよ。
それに「殺しだけはできない」とかぬかして、私を開放した。

それを見た彼女は発狂したわ。

母親は私を抱えて、
「優、逃げるわよッ!!!」と泣き叫んだ。
183:2011/02/06(日) 15:06:47.85 ID:

母親は動転していて、左手のない私に精一杯だったよ。
溢れ出る血をハンカチで止めながら、担いで必死に逃げた。

そして、たまたま近くに救急病院があったお陰で、
4時間の手術の末、私は一命を取り留めることができたの。

でも母親は病院で気を失ってたわ。
もう精神的に限界だったのよ。

だから、優が居ないことに気づけなかった。
気づいたときには遅すぎた。

……でも、優が殺されない根拠だけはあったの。

私達がいなくなった今、
優までいなくなると、篤弘さんへの復讐が終わってしまうから。

だから私達はあえて優を一人にした。

優がAに殺されないように。

そして私達はAを潰すべく動き始めたの。
184:2011/02/06(日) 15:08:16.49 ID:

僕(すげぇな…この親子…)
僕(優が強い理由が分かった気がする…)

婆「優の耳が聴こえなくなったと聞いたときは本当に辛かったわ…」

僕「え? 誰に聞いたんですか?」

婆「B先生よ」

母「今日の夜、優達が危ないって知らせてくれたのも彼女よ」
母「Bは私の昔からの親友で…辛い時は何度も励まされたわ」

先生B「明確な理由無しでクリスマス会が中止って言われたからね…」
先生B「でも、本当に“何か”起こるとは思ってなかったよ…」

母「…でもほんと、無事で良かった…」


女「お母さん!! お婆ちゃん!!」グスン

優は目を潤和せて、2人に飛び込んだ。

母「ゆう…本当に会いたかった……」
母「これからはずっと一緒にいようね…」

婆「…今まで寂しい思いさせてごめんね」

3人は涙をこぼし、抱き合った。
185:2011/02/06(日) 15:09:05.75 ID:

奴は既にパトカーの中に入っている。

警官C「あの、お二人にも事情聴取を受けてもらいたいのですが…」

僕「……すみません、あと10分だけ…9時00分まで待ってもらえますか?」

警官C「……分かりました。我々は車の方で待ってますね」


……僕は優のことが大好きだ。

△△駅で初めて出会った時から、今までずっと。

だからこそ、優には幸せになってもらいたい。

たとえそれが、優を裏切ることになっても。


だから僕は『アレ』を認める。

神様から授かった『コレ』を僕はここで使わせてもらう。
186:2011/02/06(日) 15:12:50.23 ID:

僕「B先生、お願いがあります」

先生B「……え!? ……了解。ふふ、任せといて♪」

母&婆「?」


僕は優を教室の真ん中に呼び出す。

優はポカンとした表情を浮かべている。

僕はふぅ~っと深呼吸をした。


周りは静まり返っている。

そして彼女に最後のメールを送った。


◆僕の告白、聞いてください!!◆

今から、告白をします。


女「え…?///」
187:2011/02/06(日) 15:17:27.99 ID:

僕は優を抱きしめ、


彼女の唇にキスをした。


彼女は一瞬、驚いた素振りをみせたが、

すぐにリラックスした表情になった。

そして、僕は『ソレ』を使った。


そう。『ソレ』の正体は、『一つだけ願いが叶う魔法』。

その願いは、


『優に音をプレゼントすること』


服を選んでくれたお礼、そしてクリスマスプレゼント。

唇から離れると、僕はこう言った。


「僕と結婚してください」
188:2011/02/06(日) 15:19:37.08 ID:

彼女には聴こえただろう。

女「え…私…聴こえる…」
女「ゆーくんの声が…」


女「え…?」


清し この夜 星は光り ~♪

救いの御子は 馬槽の中に ~♪

眠り給う いと安く ~♪


綺麗なトーンチャイムの音色が教室に響く。

その音はきっと彼女にも届いたはずだ。

生徒達も笑顔で演奏している。


女「きれい…」

彼女は涙を零した。
190:2011/02/06(日) 15:22:53.60 ID:

1分程の演奏が終わり、

彼女は感激のあまり零した涙を拭い、答えた。


「……はい。……喜んで…」


教室にいた全員が拍手を送ってくれた。

……でも、僕は……行かなきゃいけないんだ。


女「…でも何で耳が聴こえるように…?」

僕「…僕は優と出会って、変わることができた」
僕「そしたら神様は僕に……『魔法』が使える力をくれたんだ」

僕「…『一つだけ願いが叶う魔法』を…」

女「…どういうこと?」
192:2011/02/06(日) 15:25:15.78 ID:

僕「だから僕は…優の耳を聴こえるように…」グスン

女「何で泣いてるの?」
女「ほら、わたし、耳が聴こえるようになったし…」

女「それにたった今、新たな“根本優”が誕生したんだよ!」

女「あははw 同姓同名の夫婦って凄いよね…!」
女「…ねぇ…何で…泣いてるの?」

僕「…だから魔法を使ってしまったんだ…」
僕「…優を愛してるから…優に幸せになって欲しいから…」グスン

女「わたし幸せだよ? きっと、奇跡が起こったんだって!!」

僕「…僕は魔法の力を借りて、魔法を認めてしまったんだ…」

女「現実でも魔法みたいな奇跡があったっていいじゃない!」
193:2011/02/06(日) 15:27:24.77 ID:

僕「…現実に…魔法なんて存在しないんだ…」

僕「…存在しちゃいけないんだ…」

僕「…だから…魔法を認めるということは…」

僕「…この世界が…“現実じゃない”と認めることで…」グスン

女「ゆーくんが何言ってるか分からないよッ」グスン

僕「…つまり…」


僕「僕はこの世界の住人じゃなかったんだ…」


女「…え?」
194:2011/02/06(日) 15:29:58.26 ID:
え?
197:2011/02/06(日) 15:32:51.60 ID:
えっ?
202:2011/02/06(日) 16:01:01.55 ID:

僕「……僕は帰らなきゃならない」

僕「もうすぐ“僕の生きるべき世界”から迎えが来ると思う」


僕「だから……これでお別れだ」


女「何…言ってるの…?」

女「今日と明日は泊まってくれるんじゃないの…?」
女「“5人”でトランプするんじゃないの…?」
女「私と結婚してくれるんじゃないの!?」

女「何があっても、どこにもいかないんじゃないのッ!!?」グスン


僕「ごめん、優には幸せになって欲しかったんだ…」
僕「過去のことなんか忘れてしまうぐらいに……」
僕「だから魔法を使って、耳を聴こえるようにしたんだ…」

僕「でも使っちゃったから、僕は帰らなk…


女「もう聞きあきたよッ!!」グスン
203:2011/02/06(日) 16:02:36.62 ID:

僕「優のお陰で…僕は変わることができた…本当にありがとう」

女「…そんなの嬉しくないよッ!!」

僕「変わったからこそ、僕はこの世界で甘えてちゃいけないんだ」

僕「ちゃんと“現実”を見つめて、“現実”で生きていかなきゃ」

女「……じゃあ何で結婚しようだなんて……」

僕「この世界は僕の心の中にあるんだ」
僕「だから、離れ離れになるわけじゃないから…」
僕「会えなくても、心の中から僕を支えてて欲しいから…」

女「…置いてかれる……私の身にも…なってよ…」グスン

僕「ごめん。でもお爺さん、お婆さん、お母さんがいる」
僕「それに音も聴こえる。もう優は孤独じゃないんだよ…」


≪…起きて…さい…≫


僕「…迎えが来たようだ」
204:2011/02/06(日) 16:06:30.71 ID:

女「……私のこと…忘れないでね……」グスン

僕「うん…絶対に…忘れない…!」

≪…起きてください…≫

女「……最後にお願いしていい…?」

僕「いいよ…言ってみて……」グスン


≪…お…さ…起きてください…≫


女「…抱きしめて」

僕「…」ギュッ


≪…お客さ…起きてください…≫


女「…ゆーくん…大好き…」グスン

僕「…」


女「…バイバイ…ゆーくん……」
205:2011/02/06(日) 16:07:29.48 ID:

「お客さん、起きてください!」

僕「…」

「…回送に変わりますので…」

目を開けると冷たい涙が零れてくる。

「あの…大丈夫ですか?」

僕「…はい…大丈夫です」


僕は電車を降りた。
206:2011/02/06(日) 16:08:33.81 ID:

ケータイの画面には、

2010年12月17日(金)11:30。

4時間近く電車に乗ってたみたい。

僕は受信メールボックスを開いた。


―― 受信メールはありません ――


優との会話の記録は消えていた。

送信メールボックスも。

噴水の前で撮った二人の写真も。
207:2011/02/06(日) 16:11:14.24 ID:

雪は溶けていた。

そこはかなりの田舎で、

視界には緑溢れる田畑が広がっている。

空気を名一杯吸込み、誰かに届くように叫ぶ。


「俺は変わったぞおおおおッッッ!!!!」


駅に僅かにいた人間が俺の方をみる。

50メートルは離れた人もこっちを見てる。


何だ、大声出せるじゃん、俺。
208:2011/02/06(日) 16:12:41.80 ID:

俺は反対車線の電車に乗った。

電池の切れた『R-09HR』に新しい電池を入れる。

電源を入れると、“録音時間が3時間”の謎のオーディオトラックがあった。

少し気になって再生してみる。

『ザァアアアアア……』

雑音が響く、いくら早送りしても変わらない。

「間違えて録音したのかな?」

……削除しようと思ったその時、

2時間50分の辺りから何かが聴こえた。


清し この夜 星は光り ~♪

救いの御子は 馬槽の中に ~♪

眠り給う いと安く ~♪


トーンチャイムのメロディーが全身に染み渡る。
209:2011/02/06(日) 16:14:47.11 ID:

『きよしこの夜』…それは誕生を祝う歌。

俺は今朝の夢を思い返した。

>>32の夢には矛盾がある。

自分は最初、サンタに“眼球”を抉られた。
その時点で失明してるはずだ。

なのに俺はサンタが“心臓”を“靴下”に放り込むところを“見ている”。

声を奪われ死んだ“僕”と、それを見ていた生きてる“俺”。

そう、あの夢には自分が2人いたんだ。

本当の自分はどっちか。それは生きてる“俺”だろう。

そして靴下とはプレゼントを入れる袋だ。

空っぽの存在だった俺に、サンタは“心臓”を入れてくれた。

俺に生命を与えてくれた。

少し早めのクリスマスプレゼントだった。
210:2011/02/06(日) 16:17:10.66 ID:

2010年12月17日(金)

今日は“俺”の誕生日。

帰ったら、「ただいま」と言おう。

そして家族と団欒をしよう。

大学では友達を作ろう。

そして友達との会話を楽しもう。


俺は窓外の空を見上げた。

眩しい太陽の光が俺を照らす。


「そして僕は生まれ変わった」


~fin~
212:2011/02/06(日) 16:18:51.18 ID:

面白かった
213:2011/02/06(日) 16:19:01.03 ID:
少し強引かなあ
215:2011/02/06(日) 16:20:41.94 ID:

面白かったぜ
216:2011/02/06(日) 16:29:19.34 ID:
8回さるった。
でも皆さんのお陰完走できました。

ありがとうございました。
218:2011/02/06(日) 16:34:14.49 ID:
無理に夢オチにしなくても良かったんだぜ?
220:2011/02/06(日) 16:39:51.32 ID:
後半が多少強引だったけど
面白かった
とにかく乙
221:2011/02/06(日) 16:42:57.03 ID:
投下速度も中身もいいSSは久しぶりです
223:2011/02/06(日) 17:02:48.04 ID:
書き忘れてた
爺さんに送られてきた心臓は父親のものです
優でなく、A先生に殺されました
A先生は嘘つきです
224:2011/02/06(日) 17:17:02.97 ID:

これを書こうとしたきっかけは?似たようなことでもあったのかな
229:2011/02/06(日) 20:31:35.78 ID:
>>224
オールフィクションです。
何かの役に立てばと思って書きました。
10回目のサルで代行してもらってます。

でも、書ききって良かったです。

隅っこで生きてた僕ですが、
真ん中で生きれるようになりました。
千里の道も一歩から、だと思います。
226:2011/02/06(日) 17:56:27.68 ID:
熱中した
乙!
228:2011/02/06(日) 19:22:27.88 ID:
盛大に乙だ~~
227:2011/02/06(日) 18:09:54.67 ID:
話に引き込まれたわ 乙
またなんかかいてくれ
元スレ: