5:2007/07/14(土) 21:47:15.00 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第六話



朝の日差しが、カーテンの隙間から漏れてくる。

( ´ω`)「あと5分……いや10分ぐらい……」

もう少しだけ寝ていようと思い、タオルケットを掛け直す。
―――――すると、耳元で誰かの声がした。

ξ#゚⊿゚)ξ「さっさと起きなさい!!」

(;゚ω゚)「アッ―――!!」

ツンに思いっきり水をぶっかけられた。
うとうととした意識が一気に現実に引き戻される。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、もう朝ごはんよ。あんたが来ないと私たちが食べられないんだからね!」

(;^ω^)「分かったお。今すぐ起きるお」

目を覚ますと、びっしょりと寝汗をかいていることに気が付いた。
僕はそそくさと服を着替え、みんなの待つ一階へと下りて行った。

※前スレ→( ^ω^)と夏の日のようです

8:2007/07/14(土) 21:49:44.81 ID:
朝食を済ませて縁側で涼んでいると、戸を叩く音が聴こえた。

('A`)「ういーす。ブーンいるかー?」

玄関に行ってみると、そこにはドクオさんが立っていた。

( ^ω^)「ドクオさん、おはようございますおー」

('A`)「おう、おはようさん」

玄関先で軽い雑談をする。
どこまでも青い空を、二匹のシオカラトンボが駆けているのが見えた。


('A`)「ところでよ、お前、釣りに興味はあるか?」

( ^ω^)「お?」

話の途中でドクオさんが突然切り出した。

( ^ω^)「興味も何も、やったこともありませんお」
9:2007/07/14(土) 21:51:48.29 ID:
('A`)「そうか、そいつぁ丁度いいな」

ドクオさんは煙草を一本取り出し、火を点けながら言った。

('A`)「どうせ今日も暇だろ? 今から釣りに行かねぇか」

( ^ω^)「本当ですかお! ぜひ行きたいですお!」

('A`)「よっしゃ、そうと決まったらさっさと行くぜ」


ドクオさんが「何も持ってこなくていい」と言うので、手ぶらで家を出た。
釣りなんてしたこともなかったけど、海に出てみたいという気持ちはあった。

照りつける太陽の下、海沿いの道を歩いていく。
潮の香りが風に乗って運ばれてきた。
10:2007/07/14(土) 21:54:17.83 ID:
船着場に着くと、ドクオさんが誰かに声をかけた。


('A`)「よぉジョルジュ、アジ釣りに行くから船出してくれや」
  _
( ゚∀゚)「あ゛ーっ!? ふざけてんじゃねぇ、おめーが船出しゃあえぇやろが!」

いかにも漁師、といった感じの男の人がドクオさんに文句を言う。
タンクトップから日焼けした肌を覗かせている。


('A`)「ばっきゃろい、俺の船は聖域だ。そんな簡単に人を乗せられるかよ」
  _
( ゚∀゚)「ほれやったら俺の船は何なんや!?」

('A`)「気にするな。実はよ、こいつを海に連れて行きたいんでな」

そう言って、ドクオさんが僕を前に出した。
男の人が僕を訝しげにじろじろと見てくる。
12:2007/07/14(土) 21:57:08.70 ID:
しばらく睨み続けた後、男の人は口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「おい、おめー名前は何て言うがか?」

(;^ω^)「お、内藤といいますお。ブーンと呼んでくださいお」
  _
( ゚∀゚)「おめーが海に行きたいっていうんか?」

(;^ω^)「そ、そうですお。初めて釣りをしに来たんですお」
  _
( ゚∀゚)「なんな、ほんなことなら最初っから言わんけ!」

不満そうな顔がいきなり笑顔に変わった。
  _
( ゚∀゚)「ほーかほーか! ほしたら船出したるけんのぉ! 若ぇもんに海見せたるわ!!」

男はそう言って船のロープを外す。どうやら許可を頂けたようだ。
13:2007/07/14(土) 21:58:03.52 ID:
支援
14:2007/07/14(土) 21:59:38.86 ID:
船着き場を後にし、沖へと向かった。
きらきら光る海面を、僕たちを乗せた船が滑走していく。
  _
( ゚∀゚)「海はええぞー! 海には浪漫があるけんのー!」

舵を取る男の人の名前はジョルジュと言うらしい。
ドクオさんと同じでこの辺りで漁師をやっているそうだ。


('A`)「あいつ頭おかしいからな。あんまり関わるんじゃねぇぞ」

(;^ω^)「……というか何を喋っているのか分かりませんお」

('A`)「あいつの方言はきついからな……あんな古い言葉使ってんのあいつぐらいだぜ」

ドクオさんが呆れ顔を作りつつも、最後にこう付け加えた。


('A`)「でもよ、あいつの海に対する情熱だけは、本物だぜ」
17:2007/07/14(土) 22:02:29.22 ID:
1時間ほどの船旅の末、船は目的の沖に到着した。
日差しはきつく、潮風が肌に染みる。

  _
( ゚∀゚)「よっしゃ、ほしたら始めよか!」

開口一番、ジョルジュさんは用意した仕掛けを海に落とした。

  _
( ゚∀゚)「――――ほれ来た!」

勢いよく竿を引くと、仕掛けには二匹のアジがかかっていた。
ジョルジュさんは針を手際よく外していく。

( ^ω^)「凄いお! 僕もやるお!」

僕は竿を構え、釣り糸をたらした。
頭の上を飛ぶウミネコの鳴き声が、潮騒に混じってこだまする。

心地よい船の揺れを感じながら、魚がかかるのを待ち続けた。

19:2007/07/14(土) 22:05:13.21 ID:
('A`)「よーし喰った」

ドクオさんがリールを巻き、アジを釣り上げる。

('A`)「うし、今日の海はご機嫌だな」

そう言ってクーラーボックスにアジを放り込む。
その中には、既にたくさんのアジが入っていた。


(;^ω^)「……全然釣れないお……」

一方僕はと言うと、未だに一匹も釣れてなかった。
巻いては投げ、巻いては投げを繰り返すだけだった。
20:2007/07/14(土) 22:07:34.27 ID:
  _
( ゚∀゚)「あ゛―ちげぇちげぇ! サビキはそうやってやるんじゃねぇが!」

見かねたジョルジュさんが僕の元にやってきた。
  _
( ゚∀゚)「ええか? サビキってのは仕掛けを落としたらそこで止めるんよ」

僕の竿を使って釣りをする。
  _
( ゚∀゚)「んでカゴの餌をまいたら、後は竿に集中せぇ」

サビキ釣りというのは枝分かれした釣り針を使う釣り方のことだ。
そこにサビキカゴという撒き餌入れを繋げて、餌をばらまいて魚を呼び寄せる。

そして、魚が針にかかるのをひたすら待つ。これがポイントらしい。

  _
( ゚∀゚)「ほぅれ、かかったぞー!」

手に伝わる引きを感じ取り、ジョルジュさんは釣り糸を勢いよく巻き上げる。
数匹のアジが海からあがり、空中でぴちぴちと跳ねた。
21:2007/07/14(土) 22:10:07.62 ID:
  _
( ゚∀゚)「ほれ、やってみんか!」

ジョルジュさんは僕に竿を渡し、「おっしゃー引いとるわ!」と叫びながら戻っていった。


( ^ω^)「……よし」

僕は竿を握り、波立つ海に仕掛けを落とした。
波に揺られ、カゴの中の撒き餌が広がっていく。
教えてもらった通り、アジがかかるまで竿に集中した。


( ^ω^)「……お?」

しばらくの間じっと待ち続けていると、釣り竿が、くんっ、と反応する。

握りしめた手に、確かな引きを感じた。
23:2007/07/14(土) 22:12:51.29 ID:
('A`)「おいっ、ぼさっとするな! 引いてるぞ!」

(;^ω^)「おおおおおおっ!?」

ドクオさんの声を聞いて急いで糸を巻き上げる。
重い手ごたえが伝わる。間違いない、仕掛けに魚がかかった。

('A`)「よし、あげるぞ!」

ドクオさんが網を用意し、海面に浮いてきたアジをすくいあげた。


(*^ω^)「やったお! 初めて釣れたお!」

('A`)「見てみろよ、5匹も釣れてやがるぜ」

見ると、仕掛けに付けられた5本の針全部にアジがかかっていた。


('A`)「すげーじゃねぇか。いきなり5匹とはな」
  _
( ゚∀゚)「おぉーやるのう! 才能あるんじゃねぇか!?」

(*^ω^)「ふふふだお」

僕は、素直に嬉しかった。

24:2007/07/14(土) 22:15:11.60 ID:
一度コツを攫んでからは、入れ食い状態だった。
仕掛けを落とすたびにアジが釣れる。

いつの間にか、僕のクーラーボックスはアジで溢れかえっていた。

  _
( ゚∀゚)「おーし、そろそろ飯にするけ!」

1時を過ぎたところで、ジョルジュさんが声を上げた。

('A`)「お前に海の男の料理、食わせてやるよ」

(*^ω^)「楽しみだお!」

26:2007/07/14(土) 22:18:01.58 ID:
釣り上げたアジを、ジョルジュさんが華麗な手つきでさばいていく。
厚めに切られたアジの身を、大皿に豪快に並べた。

まずは一品目、アジの刺身。


さらにジョルジュさんは、「これがうめーんだ」と言いながら残ったアジの身をタタキにした。
それを熱々のご飯にのせ、ネギとしょうがをのせたら醤油をぶっかけて食らいつく。
漁師めし、ってやつらしい。

(*^ω^)「やべぇwwwwww超うめぇwwwwwwww」
  _
( ゚∀゚)「ほぉやろが! かーっ、たまんねぇなこいつぁ!」

僕は夢中でがっついた。
口いっぱいに新鮮なアジの甘味が広がる。
とれたてのアジの身は風味もよく、脂の乗りも抜群だった。
27:2007/07/14(土) 22:20:53.09 ID:
('A`)「ほれ、こっちもできたぞ」

僕たちが先に食べていると、ドクオさんが鍋を運んできた。

('A`)「つみれ汁だ。遠慮せずに食ってくれ」

(*^ω^)「ありがたくいただきますお!」


蓋を開けると、美味しそうな匂いの湯気が立ち上った。
味噌ベースのだしにアジの旨みがじんわりと溶け込んでいる。
つみれに歯を入れると、ほんのりとしょうがの香りがした。


(*^ω^)「UMEEEEEEEEEEEE!!!!」
  _
( ゚∀゚)「ええ食べっぷりやのぉ! ばんばん食えや!」

(*^ω^)「もちろんですお!」


僕たちは少し遅い昼食を夢中になってがっついた。
海の上での食事は初めてで、ちょっとだけ興奮した。
29:2007/07/14(土) 22:21:51.78 ID:
つみれって、あのザラザラした舌触りがうまいよな支援
30:2007/07/14(土) 22:24:00.58 ID:
昼食を終えて、僕たちは釣りを再開した。
空が赤く染まる頃、僕の隣にジョルジュさんがやってきた。
  _
( ゚∀゚)「よぉ釣るのー。どや、漁師にならんか?」

(;^ω^)「さすがにそれは難しいですお」
  _
( ゚∀゚)「かーっ! そんだけ釣っといてよぉ言うわい!」

ジョルジュさんが肩をばんばんと叩く。
僕たちは大声で笑いあった。


( ^ω^)「でも、海は楽しいですお! 浪漫がありますお!」
  _
( ゚∀゚)「おっ、俺の言葉じゃねぇか」


そう言うと、豪快に笑っていたジョルジュさんは少し複雑そうな顔をした。

  _
( ゚∀゚)「でもよぉ、本当のこと言うとよぉ、俺の海には浪漫なんかねぇんだわ」

( ^ω^)「お?」

32:2007/07/14(土) 22:25:10.83 ID:
みんな書き込まないのはきっと邪魔がしたくないからだ
がんがん書いてくれ

支援
33:2007/07/14(土) 22:26:37.29 ID:
それまでとは違う雰囲気で、ジョルジュさんは語りだした。
  _
( ゚∀゚)「浪漫なんてのぉ、結局は失敗した時の都合のいい言い訳なんだわ」

  _
( ゚∀゚)「俺の海にはよ、『成功』しかねぇ」
  _
( ゚∀゚)「最初っから『失敗』なんて考えねぇ……ほぉやろが?」


僕はジョルジュさんの言葉を噛みしめる。

最初から、『失敗』なんて考えない。
ただひたすらに『成功』を追い求める。

僕にはそれがとても大切なことのように思えた。


( ^ω^)「僕も、その通りだと思いますお」
  _
( ゚∀゚)「はっはっはっ! ほーかほーか!」

さっきまでのように、ジョルジュさんは陽気な声を上げた。
僕たちは沈んでいく夕日を眺めながら、しばらくの間船に揺られていた。
35:2007/07/14(土) 22:28:55.81 ID:
( ^ω^)「今日は、ありがとうございましたお!」


岸に戻った後、僕はドクオさんとジョルジュさんに感謝の言葉を述べた。

('A`)「喜んでもらえてよかったぜ」
  _
( ゚∀゚)「また来ーや! いつでも連れてっちゃるけんのー!」

( ^ω^)「楽しみにしてますお!」


二人に見送られながら、クーラーボックスを担いで家路についた。

辺りは薄暗くなってきている。

船の上から見た夕日は、もう思い出になってしまった。
思い出の中の夕日はどこか切なくて、僕の心をきゅっと締め付けた。
37:2007/07/14(土) 22:30:00.42 ID:
以上で6話はおわりです
10分後に7話を投下します
38:2007/07/14(土) 22:32:00.55 ID:
海の男に惚れた支援
40:2007/07/14(土) 22:39:18.31 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第七話



今日の太陽はまた一段とご機嫌だ。
朝のニュースによると、この夏一番の暑さらしい。

地面から立ち上る熱気を感じながら、僕たちは川を目指して歩いていた。

(;゚ー゚)「今日は暑いねー」

(;^ω^)「全くだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ゛ー、もうだめ……」

あまりの灼熱に、三人そろって顔を歪める。


( ・∀・)「姉ちゃんたち情けないなー!」

ただ一人、モララーだけはうきうきとした顔をしていた。

この子はいつだって元気だ。この元気を分けてもらいたいな、と思った。
41:2007/07/14(土) 22:41:44.78 ID:
僕たち4人は、暑さにやられて部屋でへばっているのも良くないだろうと考えた。
そこで「川に泳ぎに行こう!」というモララーの提案を受けて、川に行くことに決めた。


川に着くまでに、僕はシャワーで濡れたように汗をかいていた。
肌にぺたりと張り付くシャツが気持ち悪い。

(;^ω^)「ようやく到着だお」

この美しい川にやってくるのはもう4回目だ。

ツンに教えてもらって以来、ここは僕にとって特別な避暑地になった。
川の清流はどこまでも透き通った音色を奏でている。

僕たちは川沿いを歩き、下流を目指した。
44:2007/07/14(土) 22:44:12.85 ID:
何匹もの蝉の声が響き渡る。
石の足場は不安定で、照り返しがきつかった。

( ・∀・)「兄ちゃんは25m泳げる?」

( ^ω^)「もちろんだお。100mぐらいまでなら泳げるお」

( ・∀・)「うわー凄いなぁ! 僕なんか50mも泳げないのに」

(*゚ー゚)「息継ぎが下手だもんね」

( ・∀・)「うん……」


( ^ω^)「努力すればきっと出来るようになるお! 神様は見てくれているお!」

僕は励ましの言葉をかけた。
いつも元気をもらっている分、少しでもモララーを元気づけたかった。


ξ゚⊿゚)ξ「……へぇ、たまにはいい事言うじゃない」

( ^ω^)「おっおっおっ」
47:2007/07/14(土) 22:46:55.85 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「この辺りなんかいいんじゃない?」

歩いていくうちに、流れの緩やかな場所に辿り着いた。
川幅も水深もちょうどよく、ここなら泳ぐのにうってつけだろう。

( ・∀・)「よーし。じゃあ、さっそく泳ごうよ!」

言うが早いか、モララーが服を脱ぎ捨てて川に飛び込む。
弾けた水が僕にかかり、その冷たさが気持ち良かった。


(*゚ー゚)「ちゃんと準備運動しないとダメでしょ!」

( ・∀・)「だって我慢できなかったんだもん! すぐ泳げるよう水着も穿いてきたし!」

水の中からモララーが大声を出す。
その顔は、いつにもまして晴れやかな笑顔だった。
48:2007/07/14(土) 22:47:30.65 ID:
キャラ全員に魅力あるよなぁ

支援
49:2007/07/14(土) 22:49:21.56 ID:
(*゚ー゚)「じゃあ、私たちも着替えようか」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね……いい加減暑いし」

気持ち良さそうに泳ぐモララーを見て、女子組は木々の間に入っていった。


ξ゚⊿゚)ξ「そこの茂みで着替えてくるから」

ξ゚⊿゚)ξ「――――――覗いたら、殺す、わよ」

(;^ω^)「め、滅相もございませんおっ」

ツンに凄まれ、覗く気もないのにうろたえてしまう。
ただ一人残された僕は、そそくさと木の影で着替えを済ませた。
52:2007/07/14(土) 22:52:08.73 ID:
( ^ω^)「おー! 気持ちいいお!」

十分に準備運動を行って、僕は川に飛び込んだ。
深さは腰のあたりまであったが、川底が驚くほどくっきりと見えた。
ひんやりとした水に頭をつけると、体全身に溜まった熱がさっと逃げて行った。


(*゚ー゚)「二人ともお待たせー♪」

( ^ω^)「おっ?」

しぃの声を聞いて、僕は振り返った。

(*^ω^)「(おおっ! スク水おにゃのこktkr!!)」

そこにいたのは、スクール水着姿のしぃ。
今じゃ滅多に見られなくなった旧型のスク水を着た少女に目を奪われる。
ああ、これが「ときめき」ってやつか。僕は心の中で神様に感謝した。


(;゚ー゚)「お、お兄ちゃんなんか変……」
53:2007/07/14(土) 22:54:21.73 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「――――変っていうか、変態じゃないの?」

真っ白なビキニにパレオを巻いたツンが呆れた様子で僕を見ている。
素朴な情景には不似合いなほど、洒落た格好だった。


( ・∀・)「あれ? なんでツン姉ちゃん、今日は学校の水着じゃないの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「なっ!? こっ、この馬鹿、馬鹿!!」

(;・∀・)「痛いっ! 痛いって!」

(;^ω^)「…………」
55:2007/07/14(土) 22:56:13.90 ID:
水上にぷかぷか浮かんでいると、しぃが川底を見つめているのに気がついた。

( ^ω^)「しぃ、何やってるんだお」

(*゚ー゚)「あっ、お兄ちゃん。あのね、あそこにお魚さんがいるの」

しぃの視線の先を見てみると、確かに川魚が数匹石影で休んでいた。

( ^ω^)「よし、捕まえてくるお!」

(*゚ー゚)「えー大丈夫かなぁ」

( ^ω^)「任せるお!」


水の中に入り、魚が逃げないように近づいていく。
距離を詰めたら、そこから一気に―――――。

(;^ω^)「おぉっ!?」

―――――手を伸ばそうとしたら、苔石に足を取られて転んでしまった。
頭から水に突っ込んで、一瞬何が起こったのかと思った。

(*゚ー゚)「あははー♪ お兄ちゃんおかしぃー♪」

情けない僕の姿を見て、しぃは無邪気に笑った。
56:2007/07/14(土) 22:58:25.16 ID:
支援
57:2007/07/14(土) 22:59:37.49 ID:
精根尽きた僕は水から上がり、しばらく休むことにした。
肌に付いた水滴は、あっという間に乾いていった。


( ・∀・)「兄ちゃん、兄ちゃん」

川辺で休む僕の所に、モララーが平たい小石を持って近寄ってきた。

( ・∀・)「水切りで勝負しようよ!」

( ^ω^)「いいお。ただし、勝ったらお弁当のウィンナーいただくお!」

( ・∀・)「望むところだ!」


モララーの挑戦を受けて僕は川辺の石を拾う。
なるべく平たく、そして程よい大きさのものをじっくり吟味した。

選んだ石は日に焼けていて、握る手に熱を感じた。
58:2007/07/14(土) 23:01:36.02 ID:
( ・∀・)「よーし、いくぞー!」

先にモララーが川に向けて石を投げた。
放たれた石は水面を滑るように跳ねていく。
石は飛沫を散らし、勢いがなくなったところで、静かに沈んだ。

( ・∀・)「うーん、16回かぁ」

モララーが残念そうに呟く。


( ^ω^)「今度は僕の番だお!」

僕は右手に石を構え、左足を前へ踏み出す。
低い弾道で飛ばすことを意識して、肘を引き手首のスナップを利かせる。
往年の名投手山田○志のイメージを持って、僕は石を力強く投じた。
59:2007/07/14(土) 23:03:51.65 ID:
1……2……3…4…5、6、7、8。

僕の投げた石は真っすぐに進んでいく。

9、10、11…12…13……。

13回を過ぎたところで勢いが弱まってきた。

( ^ω^)「あと少し、がんばるお!」

14……15……。


石はそこで沈んだ。

最後に上がった水しぶきは、ろうそくの炎のように、ぽんと跳ねてすぐに消えた。


(;^ω^)「負けたお……なんという僅差…… 」

( ・∀・)「やたっ! ウィンナー、ウィンナー♪」

僕に勝利したモララーがはしゃぐ。
負けたことは悔しかったが、不思議といやな気はしなかった。
60:2007/07/14(土) 23:06:15.81 ID:
12時を過ぎたころ、僕たちは川辺に腰掛けてお弁当を食べた。
今日の主食はサンドイッチ。
ハムやレタス、瑞々しいトマトが一度に味わえる。

(*゚ー゚)「今日はね、私たちもお弁当作り手伝ったんだよ!」

( ^ω^)「おっ、そうなのかお?」

(*゚ー゚)「うん。お姉ちゃんは不器用だから包丁握らせてもらえなかったけど……」

ξ;゚⊿゚)ξ「だーっ! よしなさいっ!」


談笑しながら、4人でランチボックスを囲む。
外でみんなと食べるごはんは、いつもよりも美味しく感じた。

もちろん、モララーにウィンナーをあげるのも忘れなかった。
62:2007/07/14(土) 23:09:02.34 ID:
( ^ω^)「いやー楽しかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、でもちょっと日焼けしちゃった」

少しだけ赤くなった肌を見て、ツンは呟いた。


( ^ω^)「でも意外だったお。ツンが不器用だったなんて……」

ξ#゚⊿゚)ξ「がーっ、うるさいわねっ! 生まれつきなのよ!」

(;^ω^)「怒ることはないでしょうお」
63:2007/07/14(土) 23:11:05.30 ID:
昼食を済ませ、少しの間泳いでから帰ることにした。
しぃとモララーがじゃれあっているのを、僕とツンは川岸で見ていた。


( ^ω^)「いやー楽しかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、でもちょっと日焼けしちゃった」

少しだけ赤くなった肌を見て、ツンは呟いた。


( ^ω^)「でも意外だったお。ツンが不器用だったなんて……」

ξ#゚⊿゚)ξ「がーっ、うるさいわねっ! 生まれつきなのよ!」

(;^ω^)「怒ることはないでしょうお」
64:2007/07/14(土) 23:13:23.76 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「……でもね、いつかはちゃんと出来るようになりたいの」

ツンが、ぽつりと漏らす。

ξ゚⊿゚)ξ「女の子なんだし、料理ぐらい出来ないとね……」

( ^ω^)「ツンならきっと上手くなれるお!」

ξ*゚⊿゚)ξ「そっ、そうかな」

( ^ω^)「神様は、見てくれているお」


ツンと二人、空を見上げる。
太陽はてっぺんで輝き続けている。
あんなに聴こえた蝉の声も、今の僕たちの耳には届かなかった。
65:2007/07/14(土) 23:14:09.16 ID:
以上で7話は終了です
またちょっと間を空けて8話を投下します
68:2007/07/14(土) 23:20:21.06 ID:
一旦乙

八話頑張れ
69:2007/07/14(土) 23:21:00.61 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第八話



穏やかな風薫る昼下がり。
僕とツンは、まどろみながら縁側から海を眺めていた。

ξ゚⊿゚)ξ「……暇ね」

( ^ω^)「……暇だお」

ξ゚⊿゚)ξ「……何か面白いことないの」

( ^ω^)「……ないお」

ξ゚⊿゚)ξ「……眠い」

( ^ω^)「……同意だお」


叔父さんと叔母さんは、今朝から隣町まで買い物に行っていた。
しぃとモララーは二階で夏休みの宿題をしている。

残された僕たちは、二人、夢と現実の間を漂っていた。
71:2007/07/14(土) 23:23:31.94 ID:
( ^ω^)「……お?」

ξ-⊿-)ξ「すー……すー……」

気がつくと、ツンは横で寝息を立てていた。
安らかな寝顔に胸がどきどきしてしまう。
生温い風が、そっとツンの髪をなでた。


( ^ω^)「僕も寝るかお……」

僕はツンの隣に寝転がった。
目を閉じると、今すぐにも眠れそうだった。


眠気に身を任せていると、戸を叩く音が聴こえた。
こつん、という小さな音。
僕はその音に目覚めさせられ、玄関へと向かった。
73:2007/07/14(土) 23:26:08.83 ID:
/ ,' 3「ごめんくださいな」

―――――戸を開けると、見知らぬ老人が立っていた。


( ^ω^)「あの……どなたですかお?」

/ ,' 3「むぅ、見ない顔じゃの。あんたこそ誰なのかね」

( ^ω^)「僕は内藤と言いますお。ブーンと呼んでほしいお!」

/ ,' 3「そうかそうか、ブーンと言うのか」

老人は、「ほぉほぉ」と頷きながら僕の顔をまじまじと見た。


( ^ω^)「……で、あなたは誰なんですかお?」

/ ,' 3「おお、すまなんだの」

老人が思い出したように手を叩く。
どこか掴みどころがなく、飄々とした雰囲気を醸し出していた。
75:2007/07/14(土) 23:29:14.56 ID:
/ ,' 3「わしは、荒巻スカルチノフ。この辺りを回っとる薬売りじゃよ」

( ^ω^)「荒巻さんですかお」

/ ,' 3「皆からは荒巻の爺さんと呼ばれとる。あんたもそう呼んでくれんかね」

( ^ω^)「分かりましたお、荒巻のお爺さん」

/ ,' 3「ほっほっ、それじゃ薬箱を持ってきてくれんかね」


どうやらこの老人―――――荒巻のお爺さんは薬の補充に来たらしい。
薬箱を持ってくると、背中にしょった葛籠を下ろし不足している薬を詰め込む。
僕は代金を支払った後、少し話をすることにした。

( ^ω^)「この辺りって、どのぐらいの範囲なんですかお?」

/ ,' 3「そうじゃのう、この町一帯はわしが回っとるの」

(;^ω^)「全部ですかおっ!? もうお歳なのに大変ですお」

/ ,' 3「ほっほっ、わしはまだまだ若いつもりじゃよ」

お爺さんはそう言っておどけてみせた。
履いている靴はぼろぼろで、皺の刻まれた顔は真っ黒に日焼けしている。
この仕事の大変さが、少しだけ垣間見えた気がした。
76:2007/07/14(土) 23:31:16.71 ID:
/ ,' 3「さて、そろそろ行こうかの」

( ^ω^)「次はどこに行くんですかお?」

/ ,' 3「山の家は全て回ったから、次は海沿いを回ろうかの」

重い葛籠を背負い、麦わら帽をかぶりながら、言葉を続けた。

/ ,' 3「まずはドクオのところに行こうかのぉ」

( ^ω^)「おっ、ドクオさんの家ですかお」

/ ,' 3「なんじゃ、知り合いか」

( ^ω^)「僕の人生の先輩ですお」


僕はそこで言葉を切り、すぐさま続けた。

( ^ω^)「あの……付いていってもいいですかお?」

/ ,' 3「ほっほっほっ、構わんよ」

退屈だった僕はお爺さんに付いていくことにした。
家を出ると、すぐに太陽がまばゆい光線を浴びせた。
77:2007/07/14(土) 23:33:24.30 ID:
ドクオさんの家を目指して、僕たちは山を下りていく。
木々の緑は、今日も鮮やかで美しかった。

( ^ω^)「荷物、僕が持ちますお」

/ ,' 3「重いぞ、大丈夫かの」

( ^ω^)「このぐらい余裕ですお!」

僕は背中の葛籠を受け取り、肩に紐を掛けた。

(;^ω^)「お、思ったよりも重いお」

/ ,' 3「ほっほっ、若いのに情けないのう」

背負った葛籠は見た目よりもずっと重かった。
こんなものを持って、一日中山道を歩き続ける姿を想像して嫌になった。

……僕は、お爺さんのことを素直に凄いと思った。
79:2007/07/14(土) 23:35:37.88 ID:
(;^ω^)「ひぃ、ひぃ……」

炎天下の中、背中に葛籠を担いで歩く。
僕は堪らず息を上げた。

/ ,' 3「なんじゃなんじゃ、もう疲れたんか」

(;^ω^)「お爺さんは平気なんですかお?」

/ ,' 3「わしは長くやっとるからの。要は慣れじゃよ慣れ」

(;^ω^)「そういうものですかお……」

/ ,' 3「ほっほっ、そういうものじゃよ」

足元の土から熱気が立ち上る。
遠くの景色が、少し揺らめいて見えた。
80:2007/07/14(土) 23:36:26.90 ID:
支援
81:2007/07/14(土) 23:37:56.58 ID:
( ^ω^)「……ところで、なんでお爺さんはこの仕事を始めたんですかお?」

/ ,' 3「そうじゃのぅ……そもそも、わしは元々町で薬屋をやっておっての」

僕の質問に、お爺さんがしゃがれた声で答える。

/ ,' 3「その薬屋を閉めて、こうして歩いて売っとるんじゃよ」

( ^ω^)「……でもなんでお店を辞めちゃったんですかお?」

僕は足で転がしていた石を蹴飛ばし、疑問を口にしてみた。


( ^ω^)「こうして歩きまわるより、お店で薬を売った方が儲かりそうなものですお」

/ ,' 3「ふむ、そうかも知れんのぉ」

お爺さんは少し顔を険しくした。

/ ,' 3「……じゃがの、わしはお金なんてどうでもいいんじゃよ」

( ^ω^)「おっ?」
82:2007/07/14(土) 23:40:36.52 ID:
/ ,' 3「確かに、薬屋をやっていた時はそこそこ儲かっとった」

/ ,' 3「じゃがの、薬というのは人を助けるものじゃ。決して金儲けの道具じゃない」

( ^ω^)「…………」

僕は黙って、お爺さんの言葉を聞いていた。

/ ,' 3「この町には薬屋はないじゃろう。それで困っとる人もたくさんおる」

/ ,' 3「そこでな、この辺りで薬を売り歩こうと思ったんじゃよ」

僕にはまだ理解できなかった。

( ^ω^)「だけど、割に合わないですお」

/ ,' 3「お金なんかどうでもええ。ただのお人好しでやっとるんでの」

お爺さんは微笑みながら、僕に語りかけてくる。


( ^ω^)「でも……なんでそこまでするんですかお?」

/ ,' 3「ほっほっ、理由は簡単じゃよ」

/ ,' 3「そこに、わしの薬を待っとる人がおるからの」
84:2007/07/14(土) 23:42:55.53 ID:
僕たちは歩き続けた。
山を下りると、もう夕方が近づいてきていた。
かなかなと鳴くヒグラシの声が、辺りに響き始めた。

( ^ω^)「もうこんな時間ですお」

/ ,' 3「そうじゃの。夜道を歩くのも疲れるわい」

(;^ω^)「夜も歩くつもりですかお……」

/ ,' 3「ほっほっ、もちろんじゃよ」

お爺さんの活気に、僕はただただ感服するだけだった。


僕はお爺さんの言葉を思い出す。
――――――そこに、薬を待っている人がいるから。

その言葉を、そっと心の中にしまった。
85:2007/07/14(土) 23:44:55.80 ID:
('A`)「おっ、荒巻の爺さんじゃねぇか」

ドクオさんの家についた頃には、もう日が暮れてしまっていた。

/ ,' 3「ほっほっ、何か足りないもんはあるかのぉ?」

('A`)「あぁ、たった今バカにつける薬を探してたところだ」
  _
( ゚∀゚)「おー! ブーンに爺さんじゃねぇかや!」

ドクオさんの後ろから、ジョルジュさんとクーさんが現れた。
どうやら今夜、ドクオさんの家で飲み会をやるらしい。

川 ゚ -゚)「で、薬と言うのは、こいつにつける薬の事なんだが」

/ ,' 3「ほっほっほっ、馬鹿につける薬はないとはよく言ったもんじゃの」
  _
( ゚∀゚)「んあ? 誰がバカだって?」

(;^ω^)「おっおっ……」
86:2007/07/14(土) 23:47:10.54 ID:
/ ,' 3「さて、わしはそろそろ次の家に行こうかの」

('A`)「ん、もう行っちまうのか」

背を向けようとしたお爺さんを、ドクオさんが呼び止めた。

('A`)「どうだ、うちで飯でも食ってかないか?」

/ ,' 3「うぅむ、わしはまだ仕事があるのでのぉ」

川 ゚ -゚)「なら泊まっていけばいい。明日の朝からやればよかろう」

/ ,' 3「ほっほっほっ。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかの」


('A`)「ほれ、お前も食ってけ」

(;^ω^)「えっ、僕もですかお!?」
  _
( ゚∀゚)「ほぉせぇ、ほぉせぇ! 今日はええ鯖が漁れたけんのー!」

('A`)「俺の家だ」
87:2007/07/14(土) 23:49:49.50 ID:
僕はお誘いを受けて、ドクオさんの家で御馳走になることにした。

今日の料理はさばしゃぶ。

鍋に昆布でとっただしを張り、そこに鯖の切り身をさっとくぐらせる。
2,3回しゃぶしゃぶしたら食べごろだ。

半生状態の鯖の身を、ポン酢につけて口に入れる。

熱で少しだけ引き締まった身は、ぷりぷりとして美味しかった。
少し旬から外れていたが、脂の乗りは十分で、舌の上でとろけた。
88:2007/07/14(土) 23:51:36.18 ID:
お酒の入ったドクオさんとジョルジュさんが騒ぐ。
それをクーさんが、いつものように冷静にたしなめる。

/ ,' 3「ほっほっほっ、若いもんは元気があってええのぉ」

その様子を、お爺さんは楽しそうに眺めていた。


僕は立ち上がり、窓から海を見てみる。
昼間の荒々しい海の姿はそこにはない。

真っ黒に染まった海は、静かで、穏やかだった。
90:2007/07/14(土) 23:52:25.20 ID:
以上で8話おわり
一旦休憩してから9話を投下します
92:2007/07/14(土) 23:56:38.61 ID:
この作品大好き支援
93:2007/07/14(土) 23:58:17.04 ID:
飯描写だけやけに気合が入ってるのは
気のせいなのだろうか
支援
95:2007/07/15(日) 00:05:03.67 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第九話



夏。
青い空、青い海、そよぐ風。

僕は今、軽トラの荷台の上で揺られていた。

(;^ω^)「おぉっ!?」

山の道は悪路だ。
がたん、と大きな震動が来るたびに僕は心臓が止まりそうになる。

ξ#゚⊿゚)ξ「あ゛ー、いちいちうるさいっ!」

(*゚ー゚)「お兄ちゃんびっくりしすぎだよー」

(;^ω^)「……ごめんだお」
96:2007/07/15(日) 00:06:43.13 ID:
そもそも、こういうことになったのは昨日の叔父さんの言葉が原因だった。


(´・ω・`)「明日、丘の上でバーベキューをしよう」

(;^ω^)「おぉっ、突然ですお」

(´・ω・`)「大丈夫、用意はすべて出来てるから」

先日隣町まで買い物に行ったのは、材料を買いに行くためだったらしい。
もちろん、僕は手放しで賛成した。
バーベキューなんか、やったことない。

期待に胸躍らせて、今日という日を待った。
98:2007/07/15(日) 00:09:08.00 ID:
そして今日の午後4時。僕たちは出発の時を迎えた。

(´・ω・`)「よし、それじゃ行こうか」

(;^ω^)「あの、車はどこですかお」

(´・ω・`)「何を言ってるんだ、そこにあるじゃないか」


(;^ω^)「でもこれ……軽トラックですお」

(´・ω・`)「そうだよ。ほらほら、早く荷台に乗って!」

用意されたのはファミリーワゴンではなく、農業用の軽トラだった。
叔父さん曰く、「荷物を運ぶのにはこっちの方がいい」とのこと。

荷台に材料や道具を積み込み、僕たち子どもは荷台に乗りこんだ。

( ・∀・)「アトラクションみたいで楽しいよ!」

(;^ω^)「そういうものかお……」
99:2007/07/15(日) 00:11:41.36 ID:
――――――そんなわけで、僕は今荷台の上にいる。
目に映るものすべてが飛んでいく。
夏の風を切りながら、軽トラは進んでいった。


( ^ω^)「おー、海が見えるお」

車の揺れに慣れてきた僕は、遠くを眺めていた。
海は決して視界から消えていかない。
少しだけほっとする自分がそこにいた。

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても、バーベキューなんて久しぶりね」

( ^ω^)「おっ? 前はいつやったのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「えーと、確か私が小学生のころかな……」

( ・∀・)「僕、あんまり覚えてないや」


……僕は考えた。
叔父さんは、僕のためにバーベキューをしようと計画したんじゃないかと。

( ^ω^)「(だとしたら、後でお礼を言わなくちゃいけないお)」

心の中で呟きながら、変わらずにそこに在り続ける海を眺めていた。
100:2007/07/15(日) 00:14:03.82 ID:
(´・ω・`)「さあ、到着だ」

叔父さんが軽トラのエンジンを止める。
小高い丘の上に着き、僕たちは荷物を下ろした。
海から吹いてくる風は心地よく、緑に囲まれた景色は爽快だった。

('、`*川「さっ、準備に取り掛かりましょう」

そう言って叔母さんは僕たち一人一人に指示を出した。


叔父さんとモララーは器具とライトの設置。

叔母さんとしぃは材料の切り分け。

そして、僕とツンは飯盒炊爨を任された。
どうやらツンは、また包丁を握らせてもらえなかったことが不満らしい。
102:2007/07/15(日) 00:16:54.21 ID:
(;^ω^)「ちょっ、僕やったことないおwwwwwww」

初めて見る飯盒。
僕は使い方も分からず、ただ弄っているだけだった。

ξ#゚⊿゚)ξ「あ゛ーいらいらするっ! 貸しなさいっ!」

(;^ω^)「おっおっ」

僕から飯盒を奪い取ったツンは、てきぱきとそこに研いだ米と水を入れていく。

ξ゚⊿゚)ξ「ほらっ、あんたは吊るすための木の枝でも拾ってきなさい!」

(;^ω^)「了解ですお」

言われるままに林の中に入っていき木の枝を探す。
ざわざわと木の葉の揺れる音が鳴る中、僕は何本かの枝を拾い、ツンの元へ急いだ。
103:2007/07/15(日) 00:19:14.53 ID:
( ^ω^)「ふぅ……、ツン、拾ってきたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ご苦労さま。それじゃ、地面にY字型の枝を刺して」

( ^ω^)「おっおっ、分かったお」

Y字型の木の枝を地面に突き立て、飯盒を吊るした鉄棒をセットする。
そこに余った棒を組み上げ、燃やした紙を放り込み火をつける。
立ち上る火が飯盒の底を焦がし、辺りは煙に包まれた。


( ^ω^)「これ、いつになったら炊きあがりなんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「蓋がね、ぐらぐらしなくなったら出来上がりよ」

ツンが水蒸気でぐらつく蓋を木の枝で抑えながら答える。


( ^ω^)「ツンは凄いお。僕の知らないことをたくさん知ってるお」

ξ*゚⊿゚)ξ「そっ、そんな褒められても嬉しくないんだからねっ!」

( ^ω^)「いやいや、凄いお。普通の料理はからっきしなのに……」

ξ#゚⊿゚)ξ「…………!」

(;^ω^)「ごめんお! 痛いお! だからその棒で叩くのはやめるおっ!」
105:2007/07/15(日) 00:21:58.89 ID:
他のみんなの準備は終わり、後はお米が炊けるのを待つだけだった。

( ^ω^)「長いお……」

ξ゚⊿゚)ξ「んー、もうちょっとね……」

僕たちは数十分の間、飯盒を見守っていた。
だいぶ蓋のぐらつきは納まり、溢れる泡も少なくなってきた。


僕とツンは炊きあがりをひたすら待った。
辺りは夕暮れに染まってきている。
107:2007/07/15(日) 00:24:06.41 ID:
( ^ω^)「(そう言えば、ツンと一緒に何か作業をするのは初めてだお……)」


ξ゚⊿゚)ξ「あっ、もうそろそろいいんじゃない?」

( ^ω^)「おっ?」

ツンはそう言って飯盒を下ろし、ひっくり返してお米を蒸らした。
底はススで汚れている。

ξ゚⊿゚)ξ「うまく炊けてるかしらね……」

( ^ω^)「きっとおいしく炊けてるお!」

蓋を開けると、炊きあがりの匂いと共に湯気が上った。
少しお焦げが出来ていたが、一粒一粒がつややかに光っていた。
108:2007/07/15(日) 00:26:23.03 ID:
(´・ω・`)「よし、それじゃ始めようか」

叔父さんは掛け声とともに炭に火を点けた。
黒は赤に変わり、白い灰がこぼれる。

( ・∀・)「よーし!焼くぞー!」

タレに漬けた肉を網の上に乗せる。
脂が滴り落ち、炭に当たって辺りに香ばしい匂いが漂った。

(´・ω・`)「ほら、肉だけじゃなく野菜も焼くんだ」

('、`*川「イカや海老もあるわよ」

(*゚ー゚)「うわぁ、食べきれるかなぁ」

( ^ω^)「僕も焼くお!」

割り箸を右手に、紙皿を左手に構え、バーベキューの準備は万端。
僕は空腹を堪え切れなかった。
110:2007/07/15(日) 00:29:02.76 ID:
肉、魚介、野菜を次々に網に乗せていく。
炭からは煙が立ち上り、空めがけて昇っていった。


牛肉は中まで火が通るようにじっくり焼いていく。
口に入れると、香ばしさと肉汁で口の中が満たされた。
鶏肉はピリ辛に味付けされ、ジューシーな皮が特にうまい。

魚介類もどんどん焼いた。
新鮮なイカ、ホタテ、海老。
火を通すことで甘味が増し、噛めば噛むほど旨みが広がっていく。

もちろん野菜も忘れちゃいけない。
とうもろこしはほんのり甘く、ピーマンはほろ苦い。
脂のきつい肉の箸休めに食べると、一際美味しい。

そして、ご飯。
肉を乗せ、タレが染みたお米は絶品。
自分が炊いたご飯は、より一層おいしく感じた。
111:2007/07/15(日) 00:31:06.29 ID:
この時間に料理の話をwwwww
腹が減るwwwww 支援
113:2007/07/15(日) 00:31:50.74 ID:
―――――夢中で食べ続けていると、いつの間にか夜になっていた。
叔父さんはライトを点け、なおもバーベキューは続いている。


満腹になってきた僕は一旦席を外し、少し離れた所で星を眺めていた。
都会の夜景なんかより、ずっと素敵な星空。

('、`*川「ブーン君、星に興味があるの?」

( ^ω^)「いや……そういうわけじゃないですお」

後ろから叔母さんが話しかけてきた。

( ^ω^)「ただ、きれいだなって思って見てたんですお」

('、`*川「ふふ、確かにきれいな星空ね」


僕と叔母さんは星に見とれていた。
星座なんて全く分からないけど、そんなことはどうでもいい。

ただ、星が輝いているから。

それだけで惹きつけられる理由としては十分だった。
114:2007/07/15(日) 00:34:36.29 ID:
( ^ω^)「――――叔母さん、相談がありますお」

('、`*川「あらあら、突然何かしら」

( ^ω^)「僕は……自分を変えたいんですお」

僕は、思い切って叔母さんに悩みを打ち明けてみた。
外で気分が昂ぶっていたからだろうか、よく分からないけど、そんな気持ちになった。

( ^ω^)「自分なりに、変わろうとはしていますお」

( ^ω^)「――――でも、変われたかどうかなんて、自分では分かりませんお」

('、`*川「……そうね」

叔母さんはまだ星を見つめている。


('、`*川「ブーン君、あの星が見える?」

(;^ω^)「おっ?」

予想外の答え。
叔母さんは一つの星を指差し、話を続けた。
115:2007/07/15(日) 00:36:57.27 ID:
('、`*川「あの星って、今も光り続けていると思う?」

( ^ω^)「……分かりませんお」

('、`*川「あら、どうして?」

( ^ω^)「星は、凄く遠くにありますお」

('、`*川「そうね」

( ^ω^)「だから、今見えている光は、何万年も昔の光ですお。だから……」

('、`*川「今も存在しているかどうかは分からない、ってこと?」

( ^ω^)「……その通りですお」

後ろから、モララーとしぃの笑い声が聞こえてくる。
叔母さんはまだ空を見ていた。
117:2007/07/15(日) 00:41:01.49 ID:
('、`*川「ブーン君の言う通り、星が今どうしているか、どうなったかなんて分からないわ」

('、`*川「私たちに分かるのは、今そこに光があるという事実だけ」

( ^ω^)「どういう意味ですかお?」

('、`*川「……人もね、星と同じなのよ」

('、`*川「人の心がどうなったかなんて、目で見ても分からない」

('、`*川「分かるものは、目に映るものだけ」

('、`*川「あなたが変わったかどうかなんて、目に見えなくちゃ分からないわ」

( ^ω^)「…………」

('、`*川「いい? ブーン君」

叔母さんは、星から僕へゆっくりと視線を移した。

('、`*川「あなたの『変わりたい!』って気持ち、ちゃんと見せることよ」
118:2007/07/15(日) 00:43:20.51 ID:
僕は以前、ツンを連れて出掛けたことを思い出した。
あの時、僕は自分を変えようと思ってツンを誘った。

あの時の気持ちは、ツンに伝わったのだろうか――――。


('、`*川「ブーン君、今度はあの星を見てみて」

( ^ω^)「おっ?」

叔母さんが、今度は違う星を指差した。

('、`*川「あの星はね、『デネブ』っていうの」

( ^ω^)「おー、すごく明るい星ですお」

('、`*川「でもね、余りに明るすぎて、いつかはブラックホールになるって言われているの」

(;^ω^)「そうなんですかお」


さらっとした夜風が僕の隣を通り過ぎて行く。


('、`*川「だから、あの星はね」

('、`*川「自分が消えちゃう前に、精一杯、精一杯輝き続けるの」
120:2007/07/15(日) 00:45:47.20 ID:
( ・∀・)「兄ちゃん、花火やろうよー!」

( ^ω^)「おっおっ、花火も久しぶりだお」

バーベキューを堪能した後、僕たちは花火をすることにした。
色彩豊かな閃光が暗闇を明るくする。


( ^ω^)「叔父さん、今日はありがとうですお」

(´・ω・`)「いやあ、楽しんでもらえて何よりだよ」

(;^ω^)「……やっぱり、僕のためにしてくれたんですかお?」

(´・ω・`)「どうしてだい?」

( ^ω^)「だって、バーベキューをやるのは久しぶりって聞きましたお」

(´・ω・`)「まあ、多少はそんな意味もあるかもね」
121:2007/07/15(日) 00:46:41.70 ID:
現行の中でこれが一番好きです支援
122:2007/07/15(日) 00:48:09.09 ID:
僕の持った花火は、まだ青々とした火を吹きあげている。

(;^ω^)「……だとしたら、わざわざすみませんお」

(´・ω・`)「謝る必要はないよ。これはね、僕のためでもあるんだ」

( ^ω^)「お?」

(´・ω・`)「確かに、これは君の思い出作りとしての意味もある」

(´・ω・`)「だけど君の思い出は、君と過ごした僕たちの思い出でもあるからね」


花火はそこで、燃え尽きるように消えた。
辺りを青く照らした火は、もう過去の記憶になってしまった。
124:2007/07/15(日) 00:50:44.46 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり、締めは線香花火よねー♪」

( ^ω^)「おっおっおっ」

僕たちは最後に線香花火に火を点けた。
ぱちぱちと燃える火が、ぼんやりと深い闇を照らした。

(*゚ー゚)「ねぇ、誰が一番長く持てるか競争しようよ」

( ^ω^)「それは名案だお」

( ・∀・)「僕が勝つんだもんねー!」

ξ゚⊿゚)ξ「負けないんだからっ!」
127:2007/07/15(日) 01:05:14.31 ID:
僕たちはそれぞれ、自分の花火に集中する。
最初にモララーの灯が、次いでしぃの灯がぽとりと落ちた。


後は、僕とツンの一騎打ち。


(;^ω^)「むむ、なかなかしぶといお」

ξ;゚⊿゚)ξ「あんたにだけは……って、あぁっ!?」

(;^ω^)「おぉっ!?」


二つの線香花火の灯は、ほぼ同時に地に着いた。
辺りは暗くなり、そこには月明かりだけ。

残された僕とツンは、少し照れながら、二人顔を見合わせた。
129:2007/07/15(日) 01:07:17.25 ID:
以上で9話はおわり。
休憩後10話を投下します
131:2007/07/15(日) 01:10:12.87 ID:
こういうところで夏を過ごしたいもんだねぇ
133:2007/07/15(日) 01:14:51.91 ID:
支援です。
これ大好きです。
136:2007/07/15(日) 01:20:23.04 ID:
俺にとっては名作
137:2007/07/15(日) 01:23:51.31 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十話



ちょっと背伸びして買ったジーンズ。
いつもより大人っぽいシャツ。
滅多につけない整髪料。

出来る限りのお洒落をして、僕は家を出る。
その隣に、ツンを連れて。


ξ゚⊿゚)ξ「まさか、あんたからデートに誘われるとはね……」

(;^ω^)「僕もOKしてもらえるとは思わなかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「ひ、暇だっただけなんだからねっ! 別に変な意味なんかないんだから!」


今朝、僕は思い切ってツンをデートに誘ってみた。
色々と理由を付けたけれど、どの理由も嘘だった。

僕が変わろうとしていることを、ツンに分かってもらえたくて。
そして――――自分の気持ちに、素直になりたくて。
142:2007/07/15(日) 01:26:37.46 ID:
僕たちは山を下り、停留所でバスを待っていた。
ツンは真っ白な帽子とワンピースに身を包んでいる。
涼しげな白が空の青に映えて、僕は目を奪われた。

( ^ω^)「……遅いお」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、この辺りのバスなんて一時間に一本あるかどうかよ」

(;^ω^)「それは不便だお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね……こればっかりは仕方ないわね」

ツンは溜息をついた。

( ^ω^)「……でも、ツンと一緒なら嫌じゃないお」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……あっ、な、何言ってんのよっ!」

(;^ω^)「いっ、いや、変な意味じゃないお」

ξ゚⊿゚)ξ「……ばか」

ツンの帽子が風でそよそよと揺れる。
夏の香りを乗せた風は、僕たちを包んで、どこかへ行ってしまった。
146:2007/07/15(日) 01:29:08.68 ID:
数十分待って、ようやくバスが来た。
僕たちはバスに乗り込んで、後ろの方の席に座った。

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ、クーラーが効いてて涼しー♪」

( ^ω^)「あー、生き返るお……」

僕たちを乗せたバスは、隣町を目指して進んでいく。

その速度はゆっくりで、だけど確実に目的地まで近づいていった。


( ^ω^)「おー、この道は僕が来た道だお」

今走っているのは、僕が駅から歩いてきた道だ。
来た時と少しも変わっていないのどかな風景。
きっとこの風景は、僕が子どもの頃初めて見た時から変わっていないんだろう。

そんなことを思いながら、バスの心地よい揺れに身を任せていた。
151:2007/07/15(日) 01:31:32.91 ID:
くだらない話をしているうちに、バスは隣町の停留所に到着した。
開かれたドアが外の景色を直に伝えてくれている。

( ^ω^)「おっおっ、やっと着いたお」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、お腹すいちゃった。早くお昼食べましょ」

(;^ω^)「それはまたいきなりだお……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃない。ほら、行くわよ」


ツンの希望通り、僕たちは最初に昼食をとることにした。

町と言っても、僕がいた街のような都会ではない。
店舗だって商店街まで行かないと見つからなかった。

セピア色に彩られた町を、二人並んで歩いていった。
155:2007/07/15(日) 01:34:57.62 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「うーん、どこで食べようかしら……」

( ^ω^)「どうせなら、普段食べられないものにするお!」

僕たちはお店を探すため、商店街を歩き回った。
レトロな雰囲気漂うその空間は、どこか懐かしく感じた。


( ^ω^)「――――おっ、ここにパスタのお店があるお」

しばらくして、小さな店が目に止まった。
看板には「Buona Fortuna」と、何やら難しそうな字体で書かれている。
何の言葉かは分からなかったが、下にある「Pasta」の文字でパスタのお店だと分かった。

ξ゚⊿゚)ξ「いいわね、ここにしない?」

( ^ω^)「賛成だお」

僕たちはこの店に決め、緊張しつつ中へと入っていった。
158:2007/07/15(日) 01:37:29.74 ID:
店内はやはり小さく、テーブルもたったの二つしかなかった。
だけども、内装やインテリアは洒落ていて、いい雰囲気だった。


(,,゚Д゚)「お客様、ご注文はお決まりでしょうか」

店の雰囲気を楽しんでいると、コック帽をかぶった男の人がやってきた。

( ^ω^)「おっ? このお店はウェイターさんはいないんですかお?」

(,,゚Д゚)「この店は、私一人でやっていますもので。それでは、ご注文を」

( ^ω^)「えーと、僕はこの『海鮮と青のペペロンチーノ』をお願いしますお」

ξ゚⊿゚)ξ「私は『アスパラとベーコンのアルフレッド』にするわ」

(,,゚Д゚)「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

注文を聞き終わると、早々とオーナーは厨房へ駆け込んだ。
160:2007/07/15(日) 01:41:08.76 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「……ところで『ぺぺろんちーの』とか『あるふれっど』とかって何?」

( ^ω^)「まったく分からないお」

こうした小洒落たお店に来るのは初めてだった。
適当に頼んでみたはいいものの、一体どんなものが運ばれてくるのだろう。
僕はそう思いながら料理を待った。


十数分の後、オーナーがパスタを両手に僕たちのテーブルまでやってきた。

(,,゚Д゚)「お待たせいたしました。『アスパラとベーコンのアルフレッド』でございます」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、どうも」

(,,゚Д゚)「そしてこちらが、『海鮮と青のペペロンチーノ』になります」

( ^ω^)「おー、おいしそうですお」

(,,゚Д゚)「それでは、ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

そう言ってオーナーは厨房に戻っていった。
机の上に置かれたパスタは、見た目も美しく、運ばれてくる匂いはたまらなかった。
163:2007/07/15(日) 01:43:24.67 ID:
支援
164:2007/07/15(日) 01:44:03.88 ID:
(*^ω^)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

僕は溢れてくる食欲のままにパスタを口に運んだ。
麺は少し細めで、程よい固さ。
具はざく切りの海老とブロッコリー、そして酒蒸しされたムール貝。
全てがにんにくと唐辛子の香りのオイルにまとわれ、僕の味覚を刺激する。

ξ*゚ー゚)ξ「あら、これおいしー!」

ツンの料理はクリームソースのパスタだった。
パスタと言っても、僕が食べているような麺状ではなく、短い棒状の形をしている。
一つ一つをじっくり味わいながら、ツンは満面の笑みを浮かべて頬張った。
165:2007/07/15(日) 01:46:27.10 ID:
(,,゚Д゚)「お会計、2700円になります」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、私出すわね」

( ^ω^)「いやいや、ここは僕が出すお」

ξ゚⊿゚)ξ「どうぞどうぞ」

(;^ω^)「…………」

結局僕が全額支払うことに。
でも、最初からそのつもりだった。

ちょっとだけ、ツンにいいところを見せたかった。


( ^ω^)「ところで、お店の名前……あれはどういう意味なんですかお?」

(,,゚Д゚)「ああ、『Buona Fortuna』はですね」


(,,゚Д゚)「日本語で、『幸運』という意味でございます」
166:2007/07/15(日) 01:49:14.67 ID:
僕たちは店を出た後、商店街の中をぶらぶらと歩いた。
並んで歩くツンの横顔を、嫌でも意識してしまう。


ξ*゚⊿゚)ξ「あっ、これかわいー♪」

( ^ω^)「おっ?」

突然、ツンが装飾品店の前で立ち止まった。
視線の先には、ハート形の銀のペンダント。
ツンはそれを手に取り、しばらく眺めていた。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ。これ、どうかな?」

ツンはペンダントを首に当て、僕に感想を求める。

( ^ω^)「よく似合ってると思うお」

僕はその言葉を、嘘偽りなく述べた。
本当に、ツンにぴったりだと思ったから。
169:2007/07/15(日) 01:52:15.46 ID:
数分間悩んだ末、ツンが答えを出した。

ξ゚⊿゚)ξ「―――よし、買っちゃおっと」

( ^ω^)「おっおっ、思い切りがいいお」


ξ゚⊿゚)ξ「……そうだ、あんたもこれ買いなさいよ」

( ^ω^)「へっ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、この星のデザインのやつ」

(;^ω^)「ちょwwwwwwなんで僕までwwwwwwww」

ξ゚⊿゚)ξ「思い出よ、思い出」
173:2007/07/15(日) 01:54:49.17 ID:
ツンに強引に渡されたペンダントを手に、店内のレジに向かった。
僕はレジの前で、ちょっとした冒険をしてみた。


( ^ω^)「そうだお。お互いが相手の物を買って、プレゼントしあうのはどうかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「えー、めんどくさい……」

(;^ω^)「(今、結構勇気を出してみたお! めんどくさいとか言わないでくれお……)」

ξ゚⊿゚)ξ「まあいいわ。あんたのペンダントの方が安いし」

(;^ω^)「結局、そんな理由かお……」

僕たちはペンダントを買い、その場でお互いにプレゼントをした。
あまり高価なものじゃないけれど、僕にとって、とても貴重な物になった。
175:2007/07/15(日) 01:57:50.57 ID:
当てもなく彷徨いながら商店街を巡っていると、もう夕刻を過ぎていた。


( ^ω^)「……遅いお」

ξ゚⊿゚)ξ「だから、この辺りのバスなんて一時間に一本あるかどうかだって」

僕たちは停留所で帰りのバスを待っていた。
季節外れのアキアカネが、赤い体を翻し、赤く染まった空を飛んでいる。

(*^ω^)「そうだお! ツン、写真を撮ってあげるお!」

僕は懐からカメラを取り出して、ツンにそう提案する。

ξ*゚⊿゚)ξ「なっ、何よ、いきなり」

( ^ω^)「今日の思い出だお」


カメラを構え、夕暮れを背景にツンの姿をレンズに収める。

色褪せてしまう思い出は、こうして永遠の形になる。
茜空の中のツンは、胸が締め付けられるほど綺麗だった。
176:2007/07/15(日) 02:00:30.87 ID:
帰りのバスの中には、僕たち以外に乗客はいなかった。

ξ-⊿-)ξ「すぅ……ん……」

(;^ω^)「…………」

ツンは疲れていたのか、僕の肩に頭を乗せて眠りこけていた。

僕は細心の注意を払った。
ツンを起こさないように。
そして、高鳴る鼓動が聴こえないように。


ξ-⊿-)ξ「すぅ……むにゃ……」

安らかな顔で眠るツン。
胸元には、きらりと光るハートのペンダント。
窓からは夕焼けの明かりが差し込んでくる。

バスの中には、僕と、ツンの二人だけ。
177:2007/07/15(日) 02:02:33.60 ID:
( ^ω^)「(僕の、気持ちは―――――)」


自分を変えるには、変えたいという気持ちを伝えなくちゃいけない。
僕は、自分に素直になろう。


ツン、だめだ。

やっぱり、僕は。

君のことが、好きみたいだ。


僕は心の中でそう呟きながら、窓の向こうに広がる景色を見ていた。

僕たちを乗せたバスは、長い凸凹道をゆっくりと進んでいった。
179:2007/07/15(日) 02:04:03.83 ID:
以上で10話おわり。今日はここまで
読んでくれた方ありがとうございました

批評質問とか受け付けます
180:2007/07/15(日) 02:07:59.20 ID:
乙~
181:2007/07/15(日) 02:08:18.69 ID:
どうやったらそんなに美味しそうな料理の表現が出来るの?おかげで腹減ったんだけど
182:2007/07/15(日) 02:12:24.48 ID:
>>181
作者がいいもん食べてない分、その反動で
実体験も含まれてます
183:2007/07/15(日) 02:14:38.98 ID:
そんじゃもう一つ。この話の舞台として参考にしているところある?
185:2007/07/15(日) 02:16:10.57 ID:
>>183
一応、作者のばっちゃの住んでた町がモデル
そこに多少脚色を加えて、みたいな感じです
188:2007/07/15(日) 02:46:53.07 ID:
あ、最後に
続きは来週の土日のどちらかにでも投下します

それでは、ありがとうございました
184:2007/07/15(日) 02:16:08.37 ID:
きたい支援
187:2007/07/15(日) 02:21:48.18 ID:
乙!
作者のせいで今焼きそば食うはめになってんだけど
最近腹出てきてやばいっていうのにどうしてくれんの?

※続き→( ^ω^)と夏の日のようです 3 
元スレ: