4:2007/07/08(日) 17:43:42.33 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第一話



七月末。
僕は電車に揺られながら、叔父さんの家に向かっていた。

( ^ω^)「海がきれいだお!」

都会では中々見られなかった海を見て気分が高揚する。
夏の日差しを受けて、海面がきらりと輝いている。

僕――――内藤ホライゾンは今年高校を中退した。
無理をして地元有数の進学校に進んだが、馴染むことが出来なかった。
次第に学校に行くことも少なくなり、ひきこもりがちになっていった。

そして……2度目の一学期が終わる前に僕は高校を辞めた。

6:2007/07/08(日) 17:46:09.48 ID:
( ^ω^)「おー……ようやく到着だお」

長い旅路の末、目的地に着き電車を降りる。
ここは都会の騒々しさから隔離された田舎の町だ。
目の前に広がる緑が眩しい。

( ^ω^)「今日から、この自然が僕の新しい日々を見守ってくれるお!」


僕の現状を心配した両親は、僕を田舎の叔父さんの家に預けることにした。
「大自然に囲まれて、リフレッシュしてこい」との事だそうだ。

最初は反対した。
でも、次第に僕はこう考えるようになった。
都会では味わえない、自然の中での暮らしもいいんじゃないかって。

7:2007/07/08(日) 17:47:59.64 ID:
(;^ω^)「叔父さんの家まで遠いZEEEEEEEEE!!!!!」

叔父さん一家は山の辺りに住んでいるそうだ。
駅からの道のりは遠い。
ただ、決してつまらない歩き道じゃなかった。

僕のいた街では見られなかった、青く澄んだ空。
爽やかな木々の緑は絵のように美しかった。
海から吹いてくる風が心地よい。


( ^ω^)「車が一台も見えないお……」

舗装されていない、元の姿のままの道をひたすら歩き続けた。

8:2007/07/08(日) 17:50:17.53 ID:
(´・ω・`)「やあ、ようこそ僕の城へ」

家に着くなり叔父さんが出迎えてくれた。
この人の名前は、ショボン。
歳は40歳前後だったと記憶している。落ち着いた雰囲気の人だ。

( ^ω^)「叔父さん、お久しぶりですお!」

(´・ω・`)「しばらく見ない間にブーン君も大きくなったね」

「ブーン」というのは僕のあだ名だ。
もう10年近く会っていないのに、その呼び名を覚えてくれていたことに嬉しくなる。


( ^ω^)「えと……今日から、お世話になりますお」

(´・ω・`)「はは、そんなに緊張しないでおくれよ。夏の間楽しんでいってね」

( ^ω^)「はいですお!」



9:2007/07/08(日) 17:52:28.40 ID:
叔父さんに案内されて家の中に入って行った。
家の縁側から海が一望できる。
山々の木々達が日差しを浴びてざわめいた。

('、`*川「あらブーン君、いらっしゃい」

( ^ω^)「叔母さん、こんにちはですおー」

この人は叔母さんのペニサス。軽い挨拶をした。


('、`*川「ちょっと待っててね、今子どもたちも呼んでくるから」

そう言い残して叔母さんは二階に上がっていった。

「あんた達ー、ブーン君が来たわよー」
「えっ!お兄ちゃんが来たのー!?」
「ほらほら、あなたも恥ずかしがってないで下りなさい」
「べ、別に恥ずかしいわけじゃないんだからねっ!」

(;^ω^)「……上が騒がしいお」

10:2007/07/08(日) 17:53:27.90 ID:
支援
11:2007/07/08(日) 17:54:36.01 ID:
叔母さんが子どもを連れて下りてきたのは、それから数分が経ってからだ。

('、`*川「さ、あんた達挨拶しなさい」

(*゚ー゚)「お兄ちゃんこんにちは」
( ・∀・)「こんにちはー!」

先に挨拶をした女の子はしぃ、元気に挨拶をした男の子はモララーと言う。
記憶の中ではあんなに小さかったのに、二人とも大きくなったものだ。

そして、叔母さんの隣でつっけんどんな態度を取っているのは―――――――。

('、`*川「ほら、あなたも挨拶しなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「……うるさいわね。別にそんなのする必要ないじゃない」

('、`*川「まったくこの子は……」


( ^ω^)「(お?この子は確か……?)」

13:2007/07/08(日) 17:57:05.27 ID:
( ^ω^)「ツン、かお?」

叔父さんの家でこの子――――――ツンとよく遊んでいたのを覚えている。

ξ゚⊿゚)ξ「っ!き、気安く名前を呼ばないでよねっ!!」

(;^ω^)「…………」

なぜかは知らないが怒られてしまった。
昔はあんなに素直で可愛い女の子だったはずなのに……。


(*^ω^)「(というか今でも可愛いお!)」

ξ゚⊿゚)ξ「……ちょっと、その目は何よ」

(;^ω^)「い、いえ!何でもないですお!」

14:2007/07/08(日) 17:59:08.02 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「……ふん、まあいいわ。しばらく一緒に暮らすんだし……」

ξ゚⊿゚)ξ「一応挨拶しておくわ。よろしくね、ブーン」

(*^ω^)「よろしくだお!」


やっぱり、昔から変わってないな。
僕はそう思った。

16:2007/07/08(日) 18:01:16.59 ID:
(´・ω・`)「さてブーン君、君は昼食がまだだろう」

(;^ω^)「お、すっかり忘れていたお。腹ペコですお」

(´・ω・`)「ははは、それじゃみんなで昼食にしようか」


そう言うと、台所から叔母さんがお昼ごはんを運んできた
大皿に並べられた、身の大きなお刺身。
ワカメとタコのぶつ切りの酢の物。
そしてポテトサラダ。
どれもこれもが大きな食器に盛られていた。

(´・ω・`)「今日はいいカンパチが手に入ったから、刺身にしたよ」

(*^ω^)「おいしそうですお!お刺身は大好物ですお!」

(´・ω・`)「それは良かった。それじゃみんな手を合わそうか」


17:2007/07/08(日) 18:03:27.63 ID:
(*゚ー゚)「いただきます」
( ・∀・)「いただきまーす!」
(*^ω^)「いただきますお!」

食前の儀式を済ませると、すぐに目の前の料理にかじりついた。

養殖物とは違う、すっきりした脂の乗ったカンパチの身。
その食感は水っぽさなどなく、実に歯触りがよくて何枚でも食べられそうだ。

酢の物にも手を付ける。
ポン酢で和えただけの物だが、具材が新鮮なだけあってこれまた趣深い。
コリコリとしたタコの歯ごたえとワカメの磯の香りが心地よい。

キンキンに冷やされたポテトサラダは最高の箸休めだ。


19:2007/07/08(日) 18:04:46.47 ID:
>>17
よだれが出てきた
20:2007/07/08(日) 18:05:36.91 ID:
(*^ω^)「ハムッ!ハフハフ、ハフッ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとあんた、私の分のお刺身残しなさいよ!」

( ・∀・)「兄ちゃんずるいよ!僕にも!」

(*゚ー゚)「みんな食べすぎだよー」

('、`*川「あらあら、そんなに急がなくても十分ありますよ」


大盛によそわれた茶碗を片手に夢中でおかずに箸を伸ばす。
横からツンにぐいぐいと押されるが気にしない。
こんなに美味しい料理は僕の街では味わえなかった。

22:2007/07/08(日) 18:07:44.71 ID:
(*^ω^)「ごちそうさまですお!」

あっという間に並べられた皿は空になり、みんなで食後の儀式を済ませた。

(´・ω・`)「ブーン君、よく食べるんだね」

( ^ω^)「いつもはこんなに食べませんお。でも、おいしくて止まりませんでしたお!」

(´・ω・`)「嬉しいこと言ってくれるね。あとで漁師に伝えておくよ」

そう言うと叔父さんは僕に何かを渡した。

(´・ω・`)「こんなもので悪いけど、食後のデザートだよ」

渡されたものを見ると、それは小ぶりの夏みかんだった。
叔父さんはみかん農家をやっていたのを思い出した。

( ^ω^)「ありがとうございますお!」

皮をむいてひとかけらを口に入れる。
爽やかな酸味が口の中を潤してくれる。これまたいくらでも食べられそうだ。

23:2007/07/08(日) 18:10:09.43 ID:
(´・ω・`)「それじゃブーン君、午後からは君の自由時間だ
     
(´・ω・`)「散歩に行くなり、昼寝するなり自由にしておくれ」

( ^ω^)「分かりましたお!」


叔父さんに言われたとおり、僕は山道を散歩することにした。

新緑に囲まれて清々しい気分になる。
じぃじぃ、という蝉の声が山全体に響き渡る。
この大自然の中で、今年の夏を過ごす。
今年は最高の夏になるだろう。


僕はそう思いながら、暑い夏の道を自分のペースで歩き続けた。

24:2007/07/08(日) 18:12:13.76 ID:
以上で一話は終わりです。引き続き二話を
27:2007/07/08(日) 18:16:40.22 ID:
ものすごく支援
25:2007/07/08(日) 18:14:34.49 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第二話



窓からさんさんと朝日が差し込んでくる。
陽光に目覚めさせられた僕は、うろうろと階段を下りて行った。

('、`*川「あら、おはようブーン君」

( ^ω^)「おはようございますお」

('、`*川「朝ごはんは出来てるから、早く顔を洗ってらっしゃい」

( ^ω^)「了解ですおー……」

寝ぼけた自分を叩き起すために、冷水で思いっきり顔を洗う。
微熱が冷めていく感覚が気持ちよかった。


( ^ω^)「いただきますお!」

今日の朝ごはんは卵焼きとあさりの味噌汁、キャベツの浅漬け。
甘辛い卵焼きは絶妙の味付けだった。
味噌汁をすする。あさりの出汁が口に広がった。

ごはんがおいしい。今日もいい一日になりそうだ。

31:2007/07/08(日) 18:24:11.19 ID:
むう…この作者の食事描写はなかなか食欲をそそるな!
28:2007/07/08(日) 18:16:57.15 ID:
叔父さんの家に来てから3日経ち、ここでの生活にも慣れてきた。
大自然に囲まれた暮らしは居心地よく、爽快な気分にしてくれる。


( ・∀・)「ねえ兄ちゃん!今日も宿題手伝ってよ!」

(*゚ー゚)「私も教えてほしいことがあるんだ」

そして何より、この子たちとのふれあいが楽しくて仕方ない。
モララーもしぃも、すっかり僕に懐いてくれている。

('、`*川「こらこら、あんまり迷惑かけるんじゃないですよ」

( ^ω^)「かまいませんお。二人とも、ごはんの後で部屋に来るお」

( ・∀・)「やったー!」

こう見えても勉強は得意だ。
そのおかげで進学校に行けたのだけれど、今ではもう関係ない。
だから、自分にできることなら、何でも二人にしてあげたかった。

29:2007/07/08(日) 18:19:27.13 ID:
( ^ω^)「ここがこうなって……」

( ・∀・)「あっ、そっか!」

モララーの「夏休みの友」を一緒に考える。
分数の計算は誰もが通る最初の難所だ。
僕も分子分母を理解するのに時間がかかったものだ――――――。

それにしても、毎度思うがどこが夏休みの「友」なのだろうか……。
「強敵」と書いて「とも」と読む、昔の少年漫画を思い出した。


( ^ω^)「あとは自分でやるんだお」

( ・∀・)「うん、分かったよ!兄ちゃんありがとー!」

30:2007/07/08(日) 18:22:07.16 ID:
モララーの先生を終えたら、今度はしぃの先生だ。
しぃは読書感想文の書き方に困っているようだ。

(*゚ー゚)「『走れメロス』で書こうと思ってるんだけど……」

( ^ω^)「おー、僕も昔課題作文で書いたことあるお」

感想文を書くコツは、疑問提起だ。

なぜ主人公はこんな行動をとったのか、こんな事を言ったのか。
その疑問を最初に投げかける。
あとは解決の手掛かりとなる文章を抽出し、答えを導いていく。
そして最後に自分なりの解釈を加え、文を締める。これが僕なりの定石だ。


( ^ω^)「この作品の場合、主人公の心情変化がポイントだお」

(*゚ー゚)「じゃあ、そこに注目して書いてみるね!」

33:2007/07/08(日) 18:24:41.74 ID:
しぃにポイントを教えたところで一息つく。
この子たちは本当に素直でいい子だ。
こんなに純粋な子たちは、僕のいた街にはいないだろう。


( ・∀・)「兄ちゃんのおかげで、今年の宿題はすぐ終わりそうだよ!」

(*゚ー゚)「いつもは最後の日までかかってるのにね」

( ・∀・)「うるさいなー!」

(*゚ー゚)「ふふっ♪」

( ^ω^)「おっおっ」


こうして見ているだけで、元気をもらえるような気がした。

34:2007/07/08(日) 18:27:06.08 ID:
二人の宿題を見てあげたところで、僕は散歩に行くことにした。

(´・ω・`)「ブーン君、今日も散歩に行くのかい」

( ^ω^)「はいですお。それじゃ、いってきますお!」

(´・ω・`)「ちゃんと虫よけを塗っておくんだよ」

農作業に向かおうとしていた叔父さんに挨拶をして、僕は家を飛び出した。
今日行こうと思う場所は、川だ。
昨日、ツンに「山を下りたところにきれいな川があるわ」と教えてもらったのだ。


( ^ω^)「きれいな川なんて都会じゃ見られないお!」

僕が見たことがある川は、コンクリートで囲まれていて少しもきれいじゃなかった。
だから僕は「きれいな川」を見ることにわくわくしていた。
熱い日差しが僕を照らす。まるで僕の心を焦がすようだった。

35:2007/07/08(日) 18:29:51.66 ID:
( ^ω^)「あったお!」

山を下り、小道を抜け、ようやく川に辿り着いた。

( ^ω^)「……本当にきれいだお」

流れる水は澄み渡り、ゆるやかに流れていく。
川のせせらぎが心地よい。
苔石の辺りには小さな川魚がいた。


( ^ω^)「少しここで休むお」

冷たい川の水で手を洗い、川岸の石に腰掛けた。
青空の下、光を反射して輝く水面に足をつける。
ひんやりとして気持ちよかった。

( ^ω^)「(はぁ……落ち着くお……)」


遠くで蝉が鳴いている。
蝉の声に耳を傾け、川の流れを感じながら目を閉じる。
ここは桃源郷だろうか。
だとしたら、実に素朴な桃源郷だな、と僕は思った。

36:2007/07/08(日) 18:32:32.83 ID:
何分、何時間が経っただろうか。
僕はずっとこうして川辺で休んでいた。


もう時間を忘れかけたころ、後ろで僕を呼ぶ声がした。


ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりここにいたのね」

(;^ω^)「おっ!?」

振り返るとそこにはツンがいた。
白いワンピース姿が眩しい。

ξ゚⊿゚)ξ「お昼の時間になっても帰らないから、探してたのよ」

(;^ω^)「お、それはごめんだお」

38:2007/07/08(日) 18:35:09.41 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、これ」

そう言ってツンは僕に弁当箱を渡した。

ξ゚⊿゚)ξ「お昼ごはん、一緒に食べるわよ」

ツンは僕の隣に座り、川の水に足をつけた。

ξ゚⊿゚)ξ「きゃっ、冷たーい♪」

( ^ω^)「ツン――――――」

ξ゚⊿゚)ξ「か、勘違いしないでよ!私も外で食べたかっただけなんだからっ!」

( ^ω^)「……ありがとうだお」

39:2007/07/08(日) 18:37:39.56 ID:
二人並んでおにぎりを食べた。
具は梅干し、たらこ、昆布、ちりめん山椒。
どこか懐かしい味がした。
こうしてツンと並んでいることも、どこか懐かしかった。


( ^ω^)「ツン、今日はありがとうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、いいわよ。あんたが迷子になってのたれ死なれたら困るからね」

(;^ω^)「ちょwwwwwwwwwww」


昼食後、しばらく二人で話をした。
楽しかった。こうして、ツンといることが。
僕らの喋り声以外の音は、かすかな蝉の声と、優しい川のせせらぎだけだった。

40:2007/07/08(日) 18:40:14.03 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「さっ、そろそろ帰るわよ」

( ^ω^)「お?もう帰るのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「……あんたねえ、もう夕方よ?」

(;^ω^)「おぉっ!?」

時計を見ると、いつの間にか5時を過ぎていた。
まだ明るかったから気付かなかったのかもしれない。
本当に時間を忘れてしまっていた。

42:2007/07/08(日) 18:42:45.42 ID:
(;^ω^)「もう7時間近くもここにいたのかお……」

ξ゚⊿゚)ξ「全く、付き合わされる身にもなってよね!」

(;^ω^)「本当にごめんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、行くわよ」

先に歩きだしたツンの後ろを、僕は小走りで追いかけていった。

43:2007/07/08(日) 18:44:42.11 ID:
( ^ω^)「でも、なんでもっと早く言わなかったんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「それはっ……もう!そんなのどうでもいいじゃない!」

(;^ω^)「あ、待ってほしいお!」

元来た道を帰っていく。
来た時と違うのは、一人じゃなくて横にツンがいること。
たわいもない話をしながら僕たちは歩いていった。


沈んでいく赤い夕日。
二人の長い影は、僕たちが歩くずっと先で交わった。

44:2007/07/08(日) 18:46:49.83 ID:
以上で二話は終わりです。ここまでは一度単発投下したものです

では今から、三話を投下します
45:2007/07/08(日) 18:48:10.51 ID:
wktk
46:2007/07/08(日) 18:49:37.84 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第三話



照りつける太陽が僕の体温を上げる。

(;^ω^)「暑いお……」

昼食のそうめんを食べ終えた後、僕は畳の上に横たわっていた。
ちりんちりん、と風鈴の涼しげな音色が聴こえてくる。


今日から八月。
新しい月は、新しい日々の到来を期待させる。
今日からは、どんな毎日が待っているのだろう―――――――。


48:2007/07/08(日) 18:51:59.58 ID:
('、`*川「あらあら、だらしのないこと」


寝転がっていると、叔母さんが麦茶を持ってきてくれた。

('、`*川「はい、冷たいお茶。これでも飲んでしゃんとしなさい」

(;^ω^)「ありがとうございますお……」

麦茶を受け取り、すぐさま口にする。
よく冷えた麦茶が熱っぽさを下げてくれた。
よし、これで今日も頑張れる。

49:2007/07/08(日) 18:54:16.80 ID:
( ^ω^)「お?」

居間を出ると、玄関で叔父さんが誰かと話しているのに気がついた。


(´・ω・`)「やあ、今日はどうだったんだい?」

('A`)「駄目だな……売り分しか漁れなかった」

見ると、玄関先には頭にタオルを巻いた無精髭の男がいた。
男らしくて、「格好いい」雰囲気の人だな、と思った。


51:2007/07/08(日) 18:56:32.56 ID:
('A`)「悪いが、こいつで勘弁してくんな」

(´・ω・`)「これは……ハマチかい」

('A`)「養殖組合から頂いてきた。養殖とはいえ上物だぜ」

(´・ω・`)「なるほど、確かにいいものだね」

('A`)「ま、ハマチ養殖はここの名物だからな」

男はそう言ってクーラーボックスを閉じた。
ぱちんと閉まる音が、妙に大きく響いた。

53:2007/07/08(日) 18:59:30.77 ID:
(´・ω・`)「おや?ブーン君、いたのかい」

叔父さんが僕に気づいたようだ。
僕の方を振り返り、手招きした。


( ^ω^)「えっ……と……、この人は、誰ですかお?」

(´・ω・`)「ああ、彼は地元の漁師だよ」

('A`)「おっ、お前がショボンさんが言ってた奴か!確か……」

( ^ω^)「内藤ホライゾンですお!ブーンって呼んでほしいお!」

('A`)「おお、そうだったブーンだったな!俺はドクオってんだ。よろしくな」

( ^ω^)「よろしくですお、ドクオおじさん」

('A`)「おいおい、おじさんって歳でもないぜ?」


見た目は怖そうだったが、話してみるときさくでいい人だった。
何より僕を子ども扱いせず、同じ目線で話してくれる。
本当に「格好いい」と思った。

55:2007/07/08(日) 19:00:45.10 ID:
('A`)カコイイ
56:2007/07/08(日) 19:02:21.57 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「あら?ドクオさん来てたんだ」


階段からツンが下りてきた。

今日はすらっとしたパンツルック。
夏らしい、淡い色使いのキャミソールがよく似合っていた。

58:2007/07/08(日) 19:04:47.49 ID:
('A`)「おう、ツンちゃんじゃねぇか。久々だな」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと前に会ったばかりじゃないですか」

('A`)「はっはっはっ!……ところでよ、いい加減男は出来たのかい?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ、な、何言ってるんですかっ!」

ツンが顔を赤らめる。
ツンに彼氏――――――――そんなこと、考えたこともなかった。


('A`)「へへへ、その様子じゃまだのようだな。どうだい、ここは俺の――――――」

川 ゚ -゚)「『俺の』、何なんだ?」

(;'A`)「げぇっっ!?」

59:2007/07/08(日) 19:07:22.63 ID:
知らぬ間に、ドクオさんの後ろに一人の女性が立っていた。
吸い込まれそうなほど黒いロングヘアーが映える、きれいな女性だった。


川 ゚ -゚)「帰りが遅いと思ったら……そういうことだったのか」

(;'A`)「ちっ、違うんだクー!これはほんの冗談で……!」

川 ゚ -゚)「問答無用っ!」

(;'A`)「うぼあぁっっ!?」

クーと呼ばれた女性の強烈な裏拳が、ドクオさんの顔面にクリーンヒットする。
その場にうずくまったドクオさんはまだ弁解の言葉を述べていた。


「格好いい」、なんて思うんじゃなかったな――――――僕はしみじみとそう思った。


60:2007/07/08(日) 19:07:43.69 ID:
爽やか作品支援
61:2007/07/08(日) 19:10:12.63 ID:
('A`)「―――――というわけで、誤解なんだ」

川 ゚ -゚)「むぅ、冗談なら冗談と最初に言えばいいものを……」

(;'A`)「いや、言ったじゃねぇか……」

二人は叔父さんの家に上がり、お茶を飲んでいた。
女性の名前はクーさんと言って、ドクオさんの奥さんらしい。

「海の男のドクオさんも、尻に敷かれているんだな」と思うと、少しおかしかった。


(´・ω・`)「まあまあ二人とも、今日はゆっくりしていってよ」

('、`*川「せっかくですし、いただいたお魚で晩ごはん御馳走しますよ」

川 ゚ -゚)「それは嬉しいな。ありがたく頂戴しよう」


叔父さん夫婦と、ドクオさん夫婦が仲良く談笑する。
僕とツンもその輪に加わらせてもらった。
ドクオさんの漁の話、クーさんの苦労話。

二人の話は尽きることなく、僕も飽きることはなかった。

62:2007/07/08(日) 19:12:48.34 ID:
('、`*川「さっ、そろそろごはんにしましょうか」

話し込んでいるうちに、すっかり日が暮れてしまっていた。
空高くで輝いていた太陽は、もう海へと沈んでいっていた。


川 ゚ -゚)「手伝おう、魚をさばくのには自信がある」

('、`*川「あらあら、それじゃお願いしましょうかね」


叔母さんとクーさんが台所へ向かった。
その瞬間を見計らって、ドクオさんはニヤけながらクーラーボックスを開けた。


63:2007/07/08(日) 19:14:40.58 ID:
('A`)「さっさっショボンさん、飲みましょうぜ」

(´・ω・`)「さすがだね。僕のビールの好みを熟知してる」

開けられたクーラーボックスの中には大量のビール瓶が入っていた。
キンキンに冷やされたビールを、ドクオさんは嬉しそうにグラスに注いだ。

(*'A`)「くっー!うめえっ!」

(*´・ω・`)「ああ、このために生きてるって気がするね!」

二人揃ってグラスを一気に飲み干した。
ほのかな苦みとアルコールの心地よさに恍惚の表情を浮かべている。


64:2007/07/08(日) 19:17:09.09 ID:
('A`)「ほれっ、お前らも飲め」

ドクオさんが僕とツンにもグラスを渡した。

(;^ω^)「ちょwwwww未成年だおwwwwwwww」

ξ゚⊿゚)ξ「まったく、大人ってサイテーね」

(´・ω・`)「ははは、まあビールは大人の味だからね」

そう言って叔父さんは二杯目を注いだ。


大人の味。
いつか僕にもわかる日が来るのだろうか。

僕が大人になるまでに、どんなことがあるんだろう。
嬉しそうにお酒を飲む二人を見て、僕はそう思った。


66:2007/07/08(日) 19:19:38.92 ID:
('、`*川「まったく、この男どもは」

叔母さんが大皿を持ってやってきた。
すっかり出来上がった叔父さんとドクオさんを見て、呆れ顔を作る。

川 ゚ -゚)「ほら、酔っ払いども。つまみだぞ」

後からクーさんが枝豆と唐揚げを持ってきた。
この展開を読んでいたのだろうか、ちゃんとおつまみを用意していた。
なんだかんだいって、ドクオさんのことをよく分かっているんだろう。
理解者って言葉の意味が、分かった気がした。


( ・∀・)「わー!今日はおじさんたちとご飯だー!」

(*゚ー゚)「おじさん、こんにちは」

ごはんの匂いを嗅ぎつけて、二階からしぃとモララーが下りてきた。

('A`)「おじさんじゃねぇっての」

川 ゚ -゚)「そうして顔を赤くしていては、何の説得力もないな」

( ^ω^)「早く食べるお!」

67:2007/07/08(日) 19:21:37.01 ID:
いつもより大人数で「いただきます」を言った。

まずは大皿のハマチのお刺身からいただくことにする。
養殖物らしいが、脂っこくなく食べやすい。
醤油に浮いた脂の少なさがそれを物語っている。

この土地の名産品なだけはある。うまい。

69:2007/07/08(日) 19:23:06.52 ID:
腹減ってきた…
70:2007/07/08(日) 19:24:06.99 ID:
魚肉ソーセージで我慢してる俺
71:2007/07/08(日) 19:24:16.51 ID:
(*'A`)「ほれほれブーン、刺身だけじゃつまらんだろ?」

酔っ払ったドクオさんが無理やり僕にビールを勧めてきた。

(;^ω^)「いやいや、丁重にお断りしておきますお」

(*'A`)「遠慮すんな、ほれっ」

(;^ω^)「むぐぅっ!?」

口を開けたところに、無理矢理ビールを流し込まれる。

(;^ω^)「(うぇぇぇ……)」

――――――何と言ってよいのやら、変な感覚に襲われる。

(;^ω^)「全然おいしくないお!」

(*'A`)「はっはっはっ!まだ早かったな!」

ドクオさんが満足そうに自分のグラスを傾ける。
なぜこんなものが美味しいと感じるんだろう。僕は改めて疑問に思った。

72:2007/07/08(日) 19:26:43.63 ID:
(;^ω^)「お~……」

酔いが回ったのか、頭がくらくらする。
僕は馬鹿騒ぎする大人を残して、縁側に腰かけた。
あのあと、どうやらツンも飲まされたらしい。こちらは平気だったようだ。
……情けないな、僕は。


(;^ω^)「はー、夜風が気持ちいいお」

冷たい夜風が火照った体を冷ましてくれる。
まだふらふらするが、だいぶ意識ははっきりしてきた。

ふと空を見上げると、星がきらめいていた。
こんなに美しい夜空は、ここでしか見られないだろうな、と思った。


73:2007/07/08(日) 19:29:21.87 ID:
('A`)「よおブーン、大丈夫か?」

ドクオさんが水を持って隣に座った。

(;^ω^)「酷いですお……ふらふらしますお」

('A`)「あー、すまねぇな。ほら、水飲め水」

(;^ω^)「いただきますお……」


渡された水を一気に飲む。
冷たい水が渇いた喉をすーっと潤した。


74:2007/07/08(日) 19:31:58.79 ID:
( ^ω^)「少しだけ、すっきりしましたお」

('A`)「そいつはよかったぜ」

ドクオさんと一緒に夜風に当たる。
風に乗って海の香りがしたような気がした。


('A`)「お前よぉ、気分を変えたくてこっちに来たんだって」

( ^ω^)「そうですお」

('A`)「ふーん、そうかい―――――――」


少しの沈黙の後、ドクオさんが僕の目を見て言った。


('A`)「でもよ、ブーン。お前が本当に変えるべきなのは『自分』自身なんじゃねぇか?」

(;^ω^)「おっ!?」


突然のことに驚きを覚えた。

ドクオさんは続けた。


76:2007/07/08(日) 19:34:33.67 ID:
('A`)「いやよ、今日会ったばかりの俺が言うのもなんだが……」

('A`)「お前は、ただここでうだうだと暮らすだけでいいのか、ってことだ」


(;^ω^)「どういう、ことですかお?」

('A`)「……ショボンさんに聞いたぜ。お前、高校辞めたんだろ?」

('A`)「―――――――俺なんか高校行ってねぇんだよ、漁師を継ぐためにな」


遠くを見つめながらドクオさんが語りかけてくる。


('A`)「俺さ、本当は漁師なんかやりたくなかったんだよ」

('A`)「高校行って、立派な大学行って、都会に出たかったんだ」

(;^ω^)「…………」

78:2007/07/08(日) 19:37:05.18 ID:
('A`)「でもよ、無理だった」

('A`)「結局さ、俺は自分の未来を変えられなかったんだよ」


ドクオさんは、少しだけ声に力を込めて言った。


('A`)「だけどお前はよぉ、俺と違って、いくらでもチャンスがあるじゃねぇか!」

('A`)「そのチャンスをよ、無駄にするんじゃねぇ」

(;^ω^)「ドクオさん……」


言われてから気が付いた。
僕は、ここに来てから何も変わっていなかった。

ここでの生活で気分が晴れたとしても、家に帰ればまたこれまでの生活に戻るだけだ。
自分が変わらなければ、何も変わらない。

それに気が付けなかった。

両親は、きっとそれが本当の目的だっただろうに。


80:2007/07/08(日) 19:40:39.91 ID:
暗闇の中で、ぽつんと浮かんでいる月。
僕たちはそれをただ黙って眺めていた。


('A`)「さてと……ブーン。クーがうるさいだろうから、そろそろ俺は帰るわ」

そう言うとドクオさんは立ち上がり、居間に戻ろうとした。

( ^ω^)「ドクオさん……今日は、ありがとうございましたお」

('A`)「ああ、気にするな。それより、偉そうに喋ってすまなかったな」


最後まで、僕と同じ目線で話してくれる。


川 ゚ -゚)「ドクオ、そろそろ帰るぞ」

玄関にはクーさんがいた。
僕たちの話が終わるまで待ってくれていたようだ。
本当にいい奥さんだな、と思った。

83:2007/07/08(日) 19:42:56.10 ID:
('A`)「じゃあな、ブーン」

( ^ω^)「バイバイですお」

('A`)「お前が大人になったら、一杯やろうや」

( ^ω^)「お供しますお!」


帰っていくドクオさんとクーさんの後姿を見送った。
並んで歩く姿が見えなくなるまで、僕は見送り続けた。


僕はいつの間にかドクオさんに尊敬の念を抱いていた。
本当に、「格好いい」と思った。


84:2007/07/08(日) 19:44:53.58 ID:
これで第三話はおわりです

申し訳ありませんが、飯を食ってきますので第四話以降は後で投下します
八時~九時には投下できると思います

それでは、読んでいただいてありがとうございました

85:2007/07/08(日) 19:45:20.48 ID:
乙。以降期待してるぜ
97:2007/07/08(日) 20:35:20.16 ID:
お待たせしました
それでは4話以降を投下します
99:2007/07/08(日) 20:38:17.79 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第四話



(;^ω^)「おー……」

朝を過ぎたというのに、外は灰色に染まっていた。
今日は生憎の雨模様。
こちらに来てから初めての雨。僕は少し憂鬱な気分になった。
日課の散歩に行くことができないからだ。


( ^ω^)「今日は家でじっとしておくお」

窓を閉じて机に向かい、デジタルカメラを手に取った。
最近、散歩にはこのカメラを持っていくようになった。

――――――この大自然を、余すことなくレンズに収めたい。
そう思ったのがきっかけだった。


( ^ω^)「この写真はよく撮れてるお」

メモリーに記録された、山のふもとから見た海の写真を眺める。
空の青が海の青を際立たせている。
僕のあいまいな記憶が、記録によって蘇ってきた。

102:2007/07/08(日) 20:40:58.97 ID:
しばらく写真を眺めていると、しぃとモララーがやってきた。

( ・∀・)「兄ちゃん、お出かけしようよ!」

( ^ω^)「お?雨が降ってるから今日はやめた方がいいお」

( ・∀・)「大丈夫。雨ぐらいへっちゃらだよ!」

(*゚ー゚)「ねえ、行こうよ」


二人が強引にねだってくる。
僕は誘いを断れなかった。

104:2007/07/08(日) 20:43:44.66 ID:
(;^ω^)「分かった、分かったお。でもなんでよりによって今日なんだお?」

(*゚ー゚)「実はね、自由研究をするために行くの」

( ・∀・)「やっと雨が降ったんだ!夏休みの間降らなかったらどうしようかと思ったよ」

( ^ω^)「自由研究?」

(*゚ー゚)「私たちね、雲の形の観察をしてるの」

( ・∀・)「晴れの時と雨の時の雲って違うでしょ?それをスケッチしてるんだ」

( ^ω^)「おー、そういうことかお」


よく見ると、二人は手に画材の入った鞄を提げていた。

107:2007/07/08(日) 20:46:37.81 ID:
( ^ω^)「そういうことなら、喜んで付き合うお」

( ・∀・)「やった!じゃあ早く準備してきてね!」


そう言い残すと、モララーは階段を駆け下りていった。


(*゚ー゚)「じゃあお兄ちゃん、下で待ってるね」


しぃも続いて階段を下りて行った。
外を見てみると、雨足はさらに強くなっていた。

僕は着替えを済ませ、カメラを持って一階へ急いだ。

108:2007/07/08(日) 20:49:46.08 ID:
叔母さんにお弁当を作ってもらい、僕たちは空がよく見える場所を目指した。
目に鮮やかなしぃとモララーの黄色い傘が、雨の中で一際目立っている。

( ・∀・)「もう少し上に行けばよく見えるよ!」

(;^ω^)「相変わらずモララーは元気がよすぎるお」

先を行くモララーの背中を僕としぃが追いかけていく。
水たまりを長靴で踏みつけながら、モララーは大はしゃぎで歩いていた。


(*゚ー゚)「お兄ちゃん、無理言っちゃってごめんね」

( ^ω^)「おっおっ、気にすることないお。僕もいい気分転換になるお」


今日は蝉の声が聴こえず、代わりにしとしとと雨音が響いている。
木々の葉っぱは宝石のような雫で濡れていた。

見るもの全てが新鮮で、雨の日にしか堪能できないことだった。
僕は、雨の中の散歩も悪くないなと思った。


109:2007/07/08(日) 20:52:33.38 ID:
モララーの後を付いていくと、視界の開けた場所に出た。
そこには古びた家が建っていて、雨宿りもできそうだ。

海が見える。いつもよりも波が激しかった。


( ^ω^)「ここなら雲もよく見えるお」

( ・∀・)「でしょ?さあ書くぞー!」

(*゚ー゚)「その前にお昼にしない?もう午後を回ったよ」

張り切るモララーをしぃが制止した。

( ^ω^)「賛成だお!」


廃屋の縁側に座り、お弁当を広げた。
二人の好みに合わせたのか、エビフライや粉ふきいも、プチトマト等が入っていた。
ご飯には鶏、卵、ほうれん草の三色そぼろが乗せられている。

僕も小さい頃大好きだったおかずばかりだった。


113:2007/07/08(日) 20:55:56.60 ID:
( ・∀・)「ごちそうさま!よーし、がんばるぞー」

お弁当を食べ終わるなり、モララーは手提げ鞄からスケッチブックを取り出した。
雲の様子を観察しながら、集中して鉛筆を走らせる。


(*゚ー゚)「私も始めよっと」

しぃも自由研究に取り掛かった。
しぃの描く絵はモララーよりも繊細で、雲の特徴も詳しく書き込まれていた。


雨雲は空全体に広がっていた。
何層にも積み重なったその姿はどこか気持ちを不安にさせる。

僕はカメラを構え、雲に覆われた空と、二人の様子を撮影した。

115:2007/07/08(日) 20:58:12.70 ID:
(;・∀・)「うーん、うーん」

ふと目をやると、モララーの手が止まっていた。

( ^ω^)「どうしたんだお?」

(;・∀・)「雲の色が決まらないんだよー」


スケッチを見せてもらうと、なるほど絵はよく描けている。
晴れの日の雲との違いも十分に説明されている。

ただその雲には色がなかった。


116:2007/07/08(日) 20:58:34.49 ID:
良作支援
117:2007/07/08(日) 20:59:12.93 ID:
なごむな
119:2007/07/08(日) 21:01:00.56 ID:
モララーが悩む。
自分の中の雲のイメージが表現できなくて、もどかしく感じているようだ。


(*゚ー゚)「私は黒を使って塗ってるよ」

しぃの絵は、黒の濃淡を使って巧く雲の様子が表現されていた。

(;・∀・)「お姉ちゃんは絵がうまいからいいなー」


困り果てたモララーは、仕方ないなというような顔をして色鉛筆を漁った。


120:2007/07/08(日) 21:03:36.83 ID:
(;・∀・)「もう適当に塗ろっかな……」

( ^ω^)「モララーには、雲が何色に見えるのかお?」

( ・∀・)「うーん、灰色っぽいけど、ちょっと違うかなって……」

( ^ω^)「それじゃあ、ちゃんと自分の感じた通りに塗るんだお」

(;・∀・)「でも……いい色がないよ……」

モララーはそう言って13色の色鉛筆のケースに目を落とす。


( ^ω^)「目に映るものの色なんて、最初から用意されてないお」

僕はモララーの顔を見つめて言った。


( ^ω^)「この世界には完璧に絵にできる景色なんか一つもないお」

( ^ω^)「僕はカメラを通してそのことに気付いたんだお」

( ^ω^)「だから、完璧じゃなくてもいいから、自分が感じたままに表現するんだお」


121:2007/07/08(日) 21:06:36.73 ID:
( ・∀・)「……うん、そうだね。僕の感覚で塗るよ!」

そう言ってモララーは紙一面を水色で塗った。

( ^ω^)「お?」

( ・∀・)「僕には、こう見えたんだ!」

水色がかった雲に黒の色鉛筆を薄く広げるように塗っていく。
それはまるで空を覆っていくようだった。

立ち上る煙のような雲ではなく、恵みの雨を降らせる雲を、モララーは描いた。


( ^ω^)「たった2色でこれだけ表現できるなんて凄いお!」

(*・∀・)「え……そっ、そうかな」

(*゚ー゚)「うん、よくできてるよ!」

本来は観察のスケッチなのだから、ここまでこだわる必要はないのかもしれない。
だけども、僕は二人にこの風景を忘れてほしくなかった。
僕たちの夏の思い出として。

123:2007/07/08(日) 21:08:44.75 ID:
モララー良い感性してるな・・・
色塗りが下手な俺にはとてもうらやましい
124:2007/07/08(日) 21:08:59.22 ID:
( ^ω^)「おっ?」

空を見上げると、雲の切れ間から日が差し込んできた。
気が付くと、もう雨はだいぶ収まっていた。


(;・∀・)「あっ、まだ全部出来てないのに!」

( ^ω^)「カメラに撮ってあるから大丈夫だお」

( ・∀・)「さすが兄ちゃんだ!」

(*^ω^)「おっおっおっ」

125:2007/07/08(日) 21:09:55.03 ID:
モララーをかわいいと思ったのは初めてかもしれないwwwwww

支援
126:2007/07/08(日) 21:11:01.78 ID:
雲が晴れると空に虹がかかった。

どんな筆でも表現できないだろう、幻想的な七色の橋。


僕はすぐにカメラを構えて、その姿をレンズに収めた。
淡い色をした虹は、ピントがずれて少しぼやけた。

127:2007/07/08(日) 21:12:37.66 ID:
モララーの才能にsit
128:2007/07/08(日) 21:13:31.66 ID:
第四話は以上です。ありがとうございました
今日はもう1,2話ほど投下しようと思います

少しの間、批評や質問などがあれば答えます

>>105
そうしていただけると有難いです
お手数ですが、よろしくお願いします
131:2007/07/08(日) 21:15:26.80 ID:
作者の文才にsit
137:2007/07/08(日) 21:41:34.96 ID:
wktk保守
142:2007/07/08(日) 22:01:10.83 ID:
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第五話



雲ひとつない晴れ空。
今日は一段と太陽がぎらついている。

( ^ω^)「今日も暑くなりそうだお!」

朝食を済ませた後、僕は部屋の窓を開けて空気の入れ替えをしていた。
爽やかな夏風が、僕の頬に吹きかかった。


僕は、今日はいつもと違うことをしてみようと考えた。
先日ドクオさんに言われた「自分を変えろ」という言葉を思い出す。

僕に足りなかったのは積極性だ。
受動的な僕は、見ず知らずの人ばかりの高校では友達ができずに浮いてしまった。
だけどこっちに来てからは、だいぶマシになってきたと思う。


今日は、もっと積極的になってみよう。そう決意して、僕は部屋を後にした。


143:2007/07/08(日) 22:03:52.63 ID:
( ^ω^)「ツン、ちょっといいかお?」

ツンの部屋の前にやってきて、扉をノックする。

ξ゚⊿゚)ξ「なによ」

( ^ω^)「今日は、一緒に散歩に行かないかお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……は?」

ツンは呆気に取られたような顔をした。

僕は女の子に対しては特に受け身だ。
今までは声をかけることすらままならなかった。
だから、今日はツンを誘ってみることにした。

――――――デートのお誘いってわけじゃないけど。

145:2007/07/08(日) 22:06:22.17 ID:
( ^ω^)「だめかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、ダメって言うか……大体、私が散歩なんかしても仕方ないじゃない」

( ^ω^)「ふふふ、実は昨日とっておきの場所を見つけたんだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「とっておきの場所?」

( ^ω^)「知りたかったら一緒に来るお」


僕は焦らすように言ってみた。


ξ゚⊿゚)ξ「……いいわ、暇だし。付いていってあげる」

(*^ω^)「やっただお!それじゃ、今日の夜出発だお!」


ξ;゚⊿゚)ξ「……え、夜!?」

147:2007/07/08(日) 22:08:31.93 ID:
ツンとの約束を取り付けた僕は、上機嫌で一階に下りていった。

今日のお昼ご飯は冷やしうどん。
ネギとしょうがをつゆに入れ、割り箸をうどんへと伸ばす。

コシのある麺に歯を入れて、もちもちとした感触を楽しむ。
つるつるとしたのどごしがたまらない。あっという間に食べ終えてしまった。

148:2007/07/08(日) 22:11:02.58 ID:
(´・ω・`)「ブーン君、ちょっといいかい」

食後しばらくして、叔父さんに声をかけられた。

( ^ω^)「なんですかお?」

(´・ω・`)「実はね、手伝ってほしいことがあるんだ」


見ると、叔父さんの手元にはノートが数冊並べられていた。


(´・ω・`)「先月の出荷分の売上を計算してたんだ。悪いけど手を貸してくれないかな」

( ^ω^)「お安いご用ですお」

(´・ω・`)「すまないね。じゃあハウス栽培の分の計算を頼むよ」

( ^ω^)「任せてくださいお!」

149:2007/07/08(日) 22:14:06.72 ID:
渡されたノートにはキロ単位の果実の価格や、出荷量などが事細かく記されていた。
電卓を使って一つ一つ計算し、記帳していく。
単純作業だが中々に疲れる仕事だった。

(;^ω^)「終わらNEEEEEEEEEE!!!!」

(´・ω・`)「ははは、意外と面倒な仕事だろう?」

(;^ω^)「なめてましたお。簡単なことだと思ってましたお」

(´・ω・`)「確かに一見すると簡単そうに見えるかもね」

叔父さんは机の上のお茶を飲みながら言った。

(´・ω・`)「だけどね、やってみると大変なんだよ」

(;^ω^)「分かりますお……」


叔父さんの言葉が身にしみて分かる。
早くも根をあげている自分をよそに、叔父さんはてきぱきと作業を済ませていく。
自分の不甲斐なさに腹が立った。

151:2007/07/08(日) 22:16:17.01 ID:
( ^ω^)「僕も頑張るお……」

(´・ω・`)「ブーン君、この作業は単純で、地味で、つまらない仕事だ」

(´・ω・`)「だけどね、どんなに苦しくてもやらなくちゃいけないことなんだ」

(´・ω・`)「世の中に出たら、もっと多くの苦しいことがある」

(´・ω・`)「でも、諦めちゃだめだよ。さぁ、作業に戻ろうか」


叔父さんはそう言って、またノートに目を移した。


( ^ω^)「(よし……!)」

叔父さんに諭されて、僕は再び作業を始めた。
面倒でも、がんばろう。

そう心を入れ替えて、電卓をさっきまでより強く叩いた。

153:2007/07/08(日) 22:19:44.70 ID:
計算が終わるころにはもう夕食の時間になっていた。
あんなにぎらついていた太陽も、すっかりいなくなってしまった。

日が落ちて月が空を支配し始める頃、僕たちは出発した。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇブーン、一体どこに行くって言うのよ」

( ^ω^)「それは着いてからのお楽しみだお」

懐中電灯を片手に山道を歩いて行く。


(;^ω^)「それにしても蒸し暑いお」

ξ;゚⊿゚)ξ「ホントね……夏はこれがなければいいのに……」

日が落ちても暑さは変わらなかった。ツンがじっとりと汗ばんでいる。
ツンの芳しい汗の匂いが、風に乗って流れてくる。
僕は少しだけ、変な気持ちになってしまった。

ξ゚⊿゚)ξ「……ちょっと、なんか目つきがやらしいわよ」

(;^ω^)「あうあう」

154:2007/07/08(日) 22:20:03.56 ID:
支援
156:2007/07/08(日) 22:23:07.24 ID:
家を出てから30分ほど経っただろうか。
僕たちはまだ長い道を歩き続けていた。
まだ辺りはそれほど暗くなっていない。
懐中電灯も、今は必要なかった。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、まだなの?」

( ^ω^)「もう少しだお。あと10分ほどで着くはずだお」

ξ゚⊿゚)ξ「もしかして、誰もいないところに連れ込んで襲うとか……」

(;^ω^)「そ、そんなことしないおっ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「あははっ、冗談よ♪あんたにそんな勇気もないだろうしね」

(;^ω^)「お……」


僕たちは目的地へと急いだ。
もうすぐ月が高くまで上り、暗闇が訪れるだろう。
それまでに、着かなくては。


157:2007/07/08(日) 22:26:06.57 ID:
( ^ω^)「おっ!着いたお!」

ようやく、とっておきの場所に到着した。
そこは大きな溜め池。
何か特徴があるわけでもなく、よくある池といった感じだった。


( ^ω^)「ここがその場所だお。もう少し待つととっておきが見られるお!」

ξ゚⊿゚)ξ「……あのねぇ、ブーン。言いにくい事なんだけど……」

( ^ω^)「お?」

158:2007/07/08(日) 22:28:25.75 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「あんたが見せたいものって、ホタルの事でしょ?」

ツンが僕の顔を見て、申し訳なさそうに口を開いた。


ξ゚⊿゚)ξ「だって……夜、水辺で見られるものなんて、ホタルぐらいじゃない」

ξ゚⊿゚)ξ「ホタルなら、あの川でも見られるし……ここではそんなに珍しくないの」


ξ゚⊿゚)ξ「せっかく連れてきてもらって悪いけど……」


( ^ω^)「違うお、ぜんぜん違うお」

ξ゚⊿゚)ξ「……えっ?」

( ^ω^)「ホタルみたいかもしれないけど、もっと素敵なものだお」

161:2007/07/08(日) 22:31:08.74 ID:
僕たちは岸辺に座り込んで、その時を待った。
ツンが不思議そうな顔でこちらを見てくる。


ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ホタルみたいなものって……」

( ^ω^)「もうすぐ見られるお、もうすぐ……」


時計に目をやると、もう夜の8時になろうとしていた。

辺りはすっかり暗くなってきた。

もう少し――――――――。

163:2007/07/08(日) 22:33:52.96 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「あ、星が出てきたわね……」

空を見上げていたツンが呟いた。


( ^ω^)「今だお!ツン、池を見てみるお!」

ξ゚⊿゚)ξ「?池なんか見ても……っ!?」


ツンが夜空から目を落とすと、そこにはまた夜空が広がっていた。
星がきらきらと、そしてゆらゆらと池の上で輝いている。

それはまるで、ホタルの光のようだった。


ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン、これって……」

( ^ω^)「これが、僕が見せたかったものだお!」

165:2007/07/08(日) 22:36:11.51 ID:
池に映った星が、水面の揺らぎに合わせてゆらめく。

視線を上げると、そこは満点の夜空。

上を見ても下を見ても、星がきらめいている。


その光景は幻想的で、言葉に出来ないほど美しかった。

166:2007/07/08(日) 22:38:22.64 ID:
( ^ω^)「僕はこの池を見つけたとき、凄く光を反射する池だと思ったんだお」

( ^ω^)「それはまるで鏡を見ているかのようだったお」

( ^ω^)「だから、きっと星空も映してくれると思ったんだお!」


僕とツンは、一緒に目の前に広がる光景を眺めた。

ξ゚⊿゚)ξ「きれいね……」

( ^ω^)「気に入ってもらえて良かったお」

ξ゚⊿゚)ξ「本当に、きれい……」


周りが暗くなるにつれ、星はますます輝きを増していった。

168:2007/07/08(日) 22:41:06.76 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「あっ!」

星のホタルが、すーっと水面を滑っていった。


ξ゚⊿゚)ξ「流れ星、だったのね……」

ツンが空を見上げてため息をついた。

( ^ω^)「何かお願いするんだったお」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、損しちゃったわ」


ξ゚⊿゚)ξ「でも、それ以上に得しちゃった。こんなにきれいな景色を見られるなんて」

170:2007/07/08(日) 22:43:15.98 ID:
ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン、今日はありがとうね」

帰り道の途中で、ツンは突然そう言った。

( ^ω^)「お?」

ξ゚⊿゚)ξ「また、一緒に見に行くわよ。これは命令だからね!」

(;^ω^)「おっおっ、分かったお」


今日ツンを誘って本当に良かった。
僕も少しは積極的になれたかな。
そう思いながら、懐中電灯で目の前の道を照らした。


172:2007/07/08(日) 22:46:36.37 ID:
一つの星が夜空を駆けた。

ξ゚⊿゚)ξ「あっ、また流れ星!」

( ^ω^)「(おっ!願い事するお!)」


( ^ω^)「(自分を変えられますように……自分を変えられますように……自分(ry)」


ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、何をお願いしたのよ」

( ^ω^)「……大したことじゃないお。それより、ツンは何をお願いしたのかお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、それは……ひっ、秘密よっ!」

(;^ω^)「ちょwwwwwww走らないでほしいおwwwwwww」


二つの懐中電灯の光が辺りを照らす。
柔らかな月明かりが、そっと二人に降り注いだ。

173:2007/07/08(日) 22:48:06.33 ID:
これで第5話は終わり
今日の投下分は以上です。ありがとうございました
174:2007/07/08(日) 22:48:39.68 ID:

175:2007/07/08(日) 22:48:42.58 ID:
超乙
181:2007/07/08(日) 22:51:00.88 ID:
長いあいだ乙
次も楽しみにしてる
182:2007/07/08(日) 22:51:01.09 ID:


何てうらやましい夏休みなんだ……
190:2007/07/08(日) 23:13:32.07 ID:
ツンとかモラとかしぃとかは何歳の設定?
191:2007/07/08(日) 23:21:04.12 ID:
>>190
一応設定は

ξ゚⊿゚)ξ  16歳
(*゚ー゚)  12歳
( ・∀・)  10歳

ですが基本的に見る方の自由です
193:2007/07/08(日) 23:25:59.71 ID:
乙 テラ和んだ
194:2007/07/08(日) 23:28:44.95 ID:

今年はいい夏になるといいなー

※続き→( ^ω^)と夏の日のようです 2
元スレ: