2:2011/12/30(金) 23:36:12.05 ID:
誰にでも大切な思い出はある

それは例えば学校の行事だったり
家族で旅行した時のことだったり
母親に叱られた時のことだったり
恋人が出来たときのことだったり


楽しかったことや、辛く苦しかったこと
様々な思い出があるだろう


しかしそれらは歳を重ねるごとに色を失う
そして私たちは歳を重ねるごとに、輝かしかった過去を懐かしむ


もう一度、あの日に戻れたら
毎日がキラキラしていたあの頃に戻れたら


それは小学校時代かもしれないし、高校時代かもしれない
今一度あの日に戻りたい
若返って、あの日を過ごしたい……


そんなこと出来やしないのに、私たちは過ぎ去った時間に思いを馳せるのだ―――

3:2011/12/30(金) 23:40:16.92 ID:
……―――ノパ⊿゚)が若返るようです―――……


6:2011/12/30(金) 23:43:15.53 ID:
【2010年 7月25日】


仕事帰りの電車の中、私は一人ため息をついた。
家に帰ったら、妻に「明日の夕食はレストランで食べよう」と言うだけなのに。
なんだかとても気が重かった。


(´・ω・`)(……せっかくの彼女の誕生日なのに……私がこんなのではいけないな)


明日、7月26日は妻の誕生日だ。
そのために少し高いレストランも予約した。
都心へ行ってしまった息子にも連絡を取った。
後は妻にこのことを話すだけなのだが……。


(´・ω・`)(……今さら……なんなんだ、私は……)

私はもう50だ。
妻も明日50になる。

そして私は今さらながら、家族をどれだけないがしろにしてきたのか気づいたのだ。
7:2011/12/30(金) 23:47:28.50 ID:
妻は私の幼なじみで、子供の頃からの付き合いだ。
そんな彼女を愛していないわけがない。
息子も、一人っ子ということもあり、とても大切にしていた。

しかし、当時の私にはあまり収入がなかったのだ。
私は家族のため、と家庭を犠牲にし、ひたすら仕事に打ち込んだ。

……その結果がこれである。
高卒で就職したということもあってか、結局課長止まり。
家に帰っても妻とはロクに会話をしないし、息子ともすっかり疎遠になってしまった。


(´・ω・`)(だが……今さらでも、気づけてよかったのかもな)


それでも課長となれば収入も安定するし、貯金の方も増えてくる。
余裕が持てるようになってようやく、自分の間違いに気づいたのだ。


(´・ω・`)(明日の食事をきっかけに元に戻っていけばいいが……)


いきなり元に戻ることまでは期待していない。
少しずつ妻との会話が増えて、少しずつ息子と会う機会が増えていけばいい。

降車駅のアナウンスが車内に響く中、そうなることを願った。
8:2011/12/30(金) 23:51:38.63 ID:
(´・ω・`)「ただいま」


ノパ⊿゚)「おかえり。ごはん作ってあるから、適当にチンして食べてね」


家に着くと、既に寝間着姿の妻が迎えてくれた。
だが私に夕食のことを簡単に言うと、さっさと二階に上がって行ってしまった。

……もうどれだけの間、妻とゆっくり話をしていないだろう。
明日の話もしなくてはいけない。
私は食卓に置いてあるであろう夕食に目もくれず、黙って妻の後を追い、寝室へと入った。



(´・ω・`)「ヒート」


ノパ⊿゚)「なに?」


視線は手に持つ厚めの文庫本に向けたまま、妻が答える。
おおよそ人の話を聞くものとは思えない態度に、私はなかなか話を切り出せなかった。
9:2011/12/30(金) 23:55:16.98 ID:
ノパ⊿゚)「どうしたの?」


ノハ;゚⊿゚)「まさか、会社をリストラされた……?」


ようやく本から視線を外した妻は、心底心配そうな表情でとんでも無いことを言い出した。
……勝手に話を変な方向に想像するのは彼女の昔からの悪い癖だ。
若い頃ならこのまま思い込みで暴走していただろう。


(´・ω・`)「仕事はまあ順調だから安心してくれ。そうじゃなくて、明日のことだけど……」

ノパ⊿゚)「明日?明日って何かあったかしら?」

(´・ω・`)「……覚えてないのかい?明日は君の誕生日じゃないか」


ノパ⊿゚)「私の……?」

(´・ω・`)「おいおい。自分の誕生日も忘れたのかい?明日、7月26日は君の誕生日だろう?」
10:2011/12/30(金) 23:59:41.67 ID:
ノハ;゚⊿゚)「……?」


(´・ω・`)「ヒート?」


誕生日の話を聞いた妻は、不思議そうな、意外そうな顔をした。
ここ数年、誕生日を祝う事が無かったからだろうか。
一応毎年何かプレゼントを渡してはいたのだが。


ノパ⊿゚)「え……ええ。そうだったわね。それで?」

(´・ω・`)「明日、久しぶりに家族みんなで食事でもしようと思ってね」

ノパ⊿゚)「まあ……」

(´・ω・`)「レストランの予約もしたし、モララーもその時間に帰ってくるってさ」

ノハ*゚⊿゚)「本当?嬉しい」

(´・ω・`)「そう言って貰えて嬉しいよ」

嬉しいと同時に、安心した。
ここで軽く流されたり、嫌そうな顔をされたら私は一家の柱としての自信を失っていたかもしれない。

久しぶりに見る妻の笑顔に私も胸の奧がほっこりとした気がした。


(´・ω・`)(彼女の笑顔は、昔と変わっていないな)
11:2011/12/31(土) 00:01:19.53 ID:
地の文うまいな
書きなれてる人と予想、支援
12:2011/12/31(土) 00:03:17.47 ID:
―7月26日―

その翌日、私はいい歳して朝からはしゃいでいたかもしれない。
仕事もないのに6時に目を覚まし、柄にも無く自分から朝食の準備を始めた。

今日は妻の誕生日なのだ。
少しくらい妻に楽して貰わなくては。


ノハぅ⊿゚)「……?」

(´・ω・`)「ああ、ヒート。おはよう」


目玉焼きを焼く音のせいか、その匂いに釣られたのか、
妻が眠たそうに目を擦りながらリビングにやって来た。


ノパ⊿゚)「あら……あなたが料理なんて珍しいわね」

(´・ω・`)「今日は君の誕生日だからね。座ってていいよ」

ノパ⊿゚)「誕生日……?」


昨日と同じような反応が返ってくる。
……彼女の事だ。まだ脳がちゃんと起きていないのだろう。
14:2011/12/31(土) 00:07:18.95 ID:
目玉焼きとベーコンを焼き終えたあたりでトースターから食パンが飛び出した。
それらを皿に乗せて、食卓に並べる。
あとは冷蔵庫から作り置きのポテトサラダも出しておいた。

これでいつもの朝の食卓だ。


(´・ω・`)「コーヒーでいい?」

ノパ⊿゚)「牛乳がいいわ」


(´・ω・`)「……ああ、そうだったね」


妻は小さな頃から朝は牛乳と決めていた。
理由は……よく覚えていないが、多分背が高くなりたかったのだと思う。
それで大人になってからも朝は牛乳じゃないと気が済まないようになっていたのだ。


(´・ω・`)「今日は5時頃になったら駅までモララーを迎えに行って、そのままレストランへ向かうからね」

ノパ⊿゚)「……レストラン?」

(´・ω・`)「おいおい。いつまで寝ぼけてるんだ?今日は家族みんなで食事に行こうって昨日言ったじゃないか」


ノハ;゚⊿゚)「えっ……?ああ……そうだったわね。ごめんなさい」
15:2011/12/31(土) 00:11:12.23 ID:
(´・ω・`)「?」


妻のおかしな態度に少し違和感を感じたが、その時は特に気にしなかった。
そんな事よりも、みんなで食事をするのが楽しみで、どうしようも無く待ち遠しかったのだ。

それが昔のような、仲のいい家族に戻れるきっかけになるのだ―――と。


(´・ω・`)(私のせいでこうなったんだ。私がなんとかしないと)


手遅れになる前につなぎ止めておかなければならない。
特に疎遠になってしまった息子のためにも。


(´・ω・`)(モララーは……元気にしてるかな)


高校を出て、逃げるように家を飛び出してしまったモララーとはもう随分と会っていない。
大学時代はまだ仕送りという繋がりがあったが、
研修医となってモララー自身で稼げる状態になってからはそれもなくなった。

私が知っているモララーの情報は、住所と電話番号、あとは都心の大学病院で働いているという程度だ。
自分の息子なのに必要最低限の情報しかないというのはやはり辛い。


時計を確認してみたらまだ10時だった。
妻はリビングで、忙しそうにテレビのチャンネルをコロコロと替えている。
この時間帯ではどのチャンネルもあまり面白いものはやっていないのに。
16:2011/12/31(土) 00:15:17.16 ID:
昼になり、私が昼食の準備に取りかかった時、ふと妻と目があった。
随分と顔色が悪かった。どこか体調が優れないのだろうか。


(´・ω・`)「……どうしたんだい?」

ノハ;゚⊿゚)「……え?」

(´・ω・`)「顔色が良くない。体の調子が悪いのか?」

ノハ;゚⊿゚)「そんなことはないわ。多分……寝不足、そう、寝不足よ」


そう言って妻は私の隣に立ち、昼食の準備に手を着け始める。
白く小さな手は随分と皺が目立つようになっていた。


(´・ω・`)「昼食は私が作るから君は……」

ノパー゚)「いいのよ。一緒にやりましょう?」


妻は微笑んで、私にそう言った。
彼女の体調が心配ではあるが、そんな彼女の笑顔に、私は何も言い返すことが出来なかった。
18:2011/12/31(土) 00:18:51.54 ID:
どうなってゆくんだ……
19:2011/12/31(土) 00:20:08.38 ID:
ノパ⊿゚)「久しぶりね……。こうやって一緒にご飯を作るのも」

(´・ω・`)「……そうだね」

ノパー゚)「それにしても、あなた今日はよく喋るのね」

(´・ω・`)「……!」


何気ない妻の言葉。
それを妻自身から聞くことで改めて実感する。
自分が如何に家族をないがしろにしていたかを。


(´・ω・`)「……そうかな」

ノパー゚)「えぇ。何かあったの?」

(´・ω・`)「……さぁね。ちょっとした心境の変化かな」


妻はそれに対して言及せず、笑みを浮かべたまま昼食の準備に戻った。
それからはしばらく、どちらもすっかり口数が減ったが、それでも一緒にいることは苦ではなかった。
20:2011/12/31(土) 00:24:51.44 ID:
(´・ω・`)「さて、そろそろモララーを迎えに行こうか。準備はいい?」

ノハ*゚ー゚)「えぇ」


化粧をして、少し高い服に身を包んだ妻が笑顔で答える。
こんなに楽しそうな妻を見るのも久しぶりだ。


車に乗り込み、駅へと向かう途中、おもむろに妻が口を開いた。


ノパ⊿゚)「やっぱり車だと早いわね……私も免許取りたかったわ」

ノパ⊿゚)「そうしたら買い物も楽でしょうに……」


私は電車で通勤しているから、車はほとんど使わない。
だから日中は妻が使っても構わないのだが……。

はて、彼女はなぜ免許を取らなかったのだったろうか。
22:2011/12/31(土) 00:28:42.15 ID:
途中で渋滞に引っかかったせいで、新幹線が着く時間より5分ほど遅れてしまった。
車を適当な場所に止めて、小走りで改札へと向かう。

そこでは、スーツ姿で小さなカバンを抱えたモララーが待っていた。


(´・ω・`)「すまんな。渋滞にはまって少し遅れてしまった」

( ・∀・)「……別に、そこまで待ってないし」


モララーは目を合わせようともせず、サラッと言い放った。
相変わらずモララーは私に対して素っ気ない態度を取るようだ。
予想はついていたが、やはり父親としてこれは寂しい。


(´・ω・`)「少し、背が高くなったんじゃないか?」

( ・∀・)「……高二から変わってない」

(;´・ω・`)「そ、そうか……」
23:2011/12/31(土) 00:31:11.01 ID:
スレタイがどう関係してくのか……
24:2011/12/31(土) 00:32:52.87 ID:
ノパ⊿゚)「でも、久しぶりに見るとやっぱり変わったように見えるわ。……少し痩せたんじゃない?」

( ・∀・)「ああ。痩せたよ。まだ研修医だし、勉強しなきゃいけないことはたくさんあるから」

ノパ⊿゚)「それはいいことだけど……健康には気をつけなきゃだめよ?医者の不養生で困るのは患者さん達なんだから」

( ・∀・)「わかってるよ……。内藤先生にもしょっちゅう言われるし」

(´・ω・`)「内藤……?」

( ・∀・)「……俺の上司。脳神経外科の権威で、外科のスペシャリスト。向こうじゃゴッドハンドって呼ばれてるよ」


ゴッドハンド、内藤。
書店でこの2つのワードが表紙に書かれた本を見かけたことがあるような気がする。

ゴッドハンドと呼ばれるあたり、相当な腕の医者なのだろう。
そんな人がモララーの上司にあたるのだ。

なんだか少し誇らしかった。
同時に、モララーの仕事場の事を一部だが知ることが出来て嬉しくもあった。
25:2011/12/31(土) 00:35:59.58 ID:
( ・∀・)「……俺の話はもういいだろ?車は?」

(´・ω・`)「北口の辺りに停めてあるよ」

( ・∀・)「じゃあさっさと行こう。渋滞してんなら、早めに出た方がいいだろ?」


そう言うと、モララーはさっさと歩き始めてしまった。
まるで私たちと会話するのを拒絶するかのように。

まだ妻への応対は少し柔らかかったが、私への応対は冷たく突き放すような感じだ。
……やはり家庭のことをないがしろにし続けた私に憤りを覚えているのだろう。

車のある場所まで行くと、モララーはさっさと後部座席に座った。
行きは助手席に座っていた妻だったが、それを見て彼女も後部座席へ座る。
モララーは一瞥しただけで特に何も言わなかった。
ただ、とりあえず私の隣に座りたくなかっただけだろう。


(´・ω・`)(……さっきからモララーの事を考えてばっかだ。今日はヒートの誕生日だっていうのに……)
26:2011/12/31(土) 00:40:05.65 ID:
自分もさっさと車に乗り込み、発進させる。
ミラー越しに、楽しそうに笑う妻の姿が見えた。
あんな態度であっても、久しぶりにモララーに会えた事が嬉しくてたまらないようだ。


ノパー゚)「向こうの生活はどう?」

( ・∀・)「それなりに充実してるよ。友達もいるし」

ノパー゚)「ガールフレンドはできた?」

(;・∀・)「うっ……」

ノパ⊿゚)「あら、あなたももう25なんだから、そろそろガールフレンドの1人くらい作らないと」

(;・∀・)「わかってるよ……ただ機会がないんだ」

ノパ⊿゚)「機会を待ってるだけじゃダメでしょ。男なんだから自分からそういう機会を作りなさい」

(;・∀・)「あー……うん。善処する」
28:2011/12/31(土) 00:44:35.99 ID:
後ろからは楽しそうに会話する2人の声が聞こえてくる。
モララーも嫌々会話している様子もなく、ひとまずは安心した。

それにしても、私の時とはあからさまに態度が違うような気がする。
もしかしたら私は過去に、モララーに嫌われるようなことをしたのかもしれない。


(´・ω・`)(でも、心当たりはないんだよな……)




それから一時間ほど、2人は随分と楽しそうに話し続けた。
……私がその会話の輪に加わることは一度もなかったが。

レストランまでの道はそう混んでいなかったので、予約した時間に余裕を持って到着することができた。


ノハ;゚⊿゚)「高そうなお店ね……なんだか緊張しちゃうわ」

(´・ω・`)「そんなに硬くなることはないよ。……モララーはこういう店は行くのかい?」


( ・∀・)「……そんな余裕ないし」
29:2011/12/31(土) 00:47:52.32 ID:
車内とはうって変わったモララーの態度に苦笑いしながら、店へと入った。
すぐにウェイターがやって来て、テーブルへと案内される。
慣れないためか、妻はどこか落ち着かない様子だ。
モララーは落ち着いている……というよりかは押し黙っている感じだ。

ドレスコードの指定もない、比較的カジュアルな店だが、雰囲気に圧倒されてしまっているようだ。


(´・ω・`)(そういえば、家族でこういう店に来たことは無かったな……)


家族連れで高級レストランへ来る家庭がどのくらいあるのか知らないが、
こんなことですら、家族への配慮が足りなかった私への当てつけのように感じられた。


ノハ;゚⊿゚)「いろいろあるのね……どうしましょう」

(´・ω・`)「何でも好きな物を頼みなさい。せっかくの誕生日なんだから」

ノハ;゚⊿゚)「え、えぇ……」
30:2011/12/31(土) 00:51:17.13 ID:
( -∀-)「……」

(´・ω・`)「モララーも好きな物を選びなさい」

( ・∀・)「……もう決めた」

(;´・ω・`)「……そ、そうか」




そんな空気の中で始まった夕食会。
最初はどうなるかとヒヤヒヤしていたが、料理が来たら妻の態度は一変した。


ノハ*゚⊿゚)「すごい!こんな料理始めて見たわ!」

(;´・ω・`)「ヒート、少しボリューム落として……」

ノハ*゚⊿゚)「ごめんなさい。でも、感激しちゃって……」
31:2011/12/31(土) 00:55:31.06 ID:
ノハ*゚⊿゚)「おいしい!これどうやって作るのかしら……?お肉の焼き加減も絶妙だし……」

(;´・ω・`)「ひ、ヒート……」

( -∀-)「……」


妻は本当に嬉しそうに料理を頬張っていた。
大きな声で、思った事をはばからずに口に出しながら。

その姿は若い頃の彼女を彷彿させた。

一方モララーは、口数こそ少なかったが、となりで騒ぐ妻の姿を見て、時折小さく笑うのだ。
本人が気づいているかわからないが、モララー自身もどこか楽しそうであった。


(´・ω・`)(ああ……。みんなでここに来て、本当に良かった)


楽しそうな妻と息子の姿を見ながら食べる料理は、今まで口にしたどんな物よりも美味で、
その時間は、今まで生きてきた中でも一、二を争うくらい早く、過ぎていくのだった。
32:2011/12/31(土) 00:59:38.07 ID:
ノハ*゚⊿゚)「あー、おいしかった……。また来たいわね」

(´・ω・`)「そうだね。また機会があったら来よう」

ノハ*゚ー゚)「もちろん、モララーも一緒にね」

( ・∀・)「あー……、休みが取れたらね」


(´・ω・`)「そういえばモララー。随分と荷物が少ないが……このまま帰るのか?」

( ・∀・)「……あぁ。これでもかなり忙しい身なんでね。
     今日だって、内藤先生に無理矢理休みにさせられたから来れたようなもんだし」

ノパ⊿゚)「そう……じゃあ、その内藤先生にお礼を言っておいてね」

( ・∀・)「わかってるよ」


研修医とは言え、医者は医者だ。
忙しいのも無理はない。
それなのに休みを作ってくれた内藤医師には感謝せねば。
33:2011/12/31(土) 01:02:46.30 ID:
そのまま駅でモララーと別れ、家に戻った。
結局モララーの私に対する態度は冷たいままだったが……こればかりは時間をかけて少しずつなんとかするしかなさそうだ。


ノハ*゚ー゚)「今日は本当に楽しかったわ。ありがとうね」

(´・ω・`)「喜んでくれてよかったよ」

ノパ⊿゚)「でも、ちょっと疲れちゃった。今日は早めに寝るわ」

(´・ω・`)「私もだ。久しぶりに長い間運転したからへとへとだ」


風呂にも入らず、さっさと着替えて寝室へと向かう。
妻と同じ時間に寝るのも久しぶりだ。


(´・ω・`)(今日は『久しぶり』の多い一日だったな……)


そんな今日一日はすごく充実したものだった。
私はこんなにも楽しいことを犠牲にしていたのか。
そう思うとバカらしくて笑えてくる。

幸せな日々を得るために、仕事を頑張るのではない。
幸せな日々を過ごしながら、仕事を頑張るのだろう。

今さら気づいたところでもう遅いが。
34:2011/12/31(土) 01:05:35.66 ID:
若返るのは良いことだ
記憶や知識まで若返るのはごめんだけど
35:2011/12/31(土) 01:06:24.97 ID:
ノパ⊿゚)「あ、そうそう」


妻は突然、何かを思い出したかのように呟くと、さらさらと何かを紙に書き始めた。


(´・ω・`)「どうしたんだ?」

ノパ⊿゚)「ちょっとしたメモよ。最近忘れっぽいから」


ちょっとしたメモと言う割には、随分といろいろ書いているような気がする。
やっと書き終わると、妻はそれを四つ折りにし、テーブルの上に無造作に置いた。


(´・ω・`)「いったい何を書いたんだ?」

ノパ⊿゚)「ちょっとしたメモだってば。気にしないで」

(´・ω・`)「あ……ああ」


妻がそう言う以上、私はそれ以上詮索することはしなかった。
メモの事は気にしないようにと、さっさと布団に横になる。
37:2011/12/31(土) 01:07:44.98 ID:
なんだ痴呆か
38:2011/12/31(土) 01:08:33.55 ID:
妙にリアルで怖い
39:2011/12/31(土) 01:11:15.21 ID:
ノパ⊿゚)「あなた」


(´・ω・`)「うん?」


ノパー゚)「おやすみなさい」


(´・ω・`)「ああ……おやすみ」



今日は本当に素晴らしい一日だった。
明日からももっと家庭に目を向けるようにしよう。
そうすれば、きっと―――


明日はいつもと少し違った、幸せな生活になるだろうと信じて、私は眠りに落ちた。




それからはいつもと違う、辛く苦しい生活が待っているとも知らず―――――……

40:2011/12/31(土) 01:15:23.13 ID:
―7月27日―


ノハ; ⊿ )


……翌朝、私が目を覚まし最初に見たのは、メモを片手に茫然としている妻の姿だった。


(´・ω・`)「ヒート……?」

ノハ; ⊿ )「あなた……今日は何日?」

(´・ω・`)「27日だけど?」

ノハ; ⊿ )「何月!?」

(´・ω・`)「何月……って、7月に決まってるじゃないか」

ノハ; ⊿ )「そん……な……」


はらり、と妻の手からメモが滑り落ちる。
拾い上げて、内容を確認すると、そこには信じられないことが書いてあった。
41:2011/12/31(土) 01:19:47.29 ID:
『明日の私へ

 今この文を読んでいる私は、ちゃんと7月27日の私でしょうか?

 実は、今日は7月26日……私の誕生日らしいのですが、私の中では今日は6月の28日でした

 もちろん先日、つまり7月25日の記憶はまったくありません

 主人に心配をかけたくないので黙っていましたが、今日の出来事を決して忘れたくないのでこれを書き残します

 もし、明日の私が7月27日の私で無かったら、少なくとも今日のことだけは思い出してください』


(;´・ω・`)「ヒート……?これは……」

ノハ; ⊿ )「知らないの……私、わからない……そんなもの書いた覚えは無いのよ……」

(;´・ω・`)「何日だ!お前の中で今日は何日なんだ!!」

ノハ; ⊿ )「14……」



       「6月の……14日よ」
43:2011/12/31(土) 01:21:48.58 ID:
ただの痴呆じゃないのか……?
44:2011/12/31(土) 01:24:08.88 ID:
まるで後頭部を何かで殴打されたかのような衝撃だった。
6月14日、もう1ヶ月以上前の日にちだ。


(;´・ω・`)「本当に……本当に何も覚えてないのか!?」

ノハ; ⊿ )「本当よ……」

(;´・ω・`)「昨日の事もか!?あんなに楽しそうにしてたじゃないか!!」

ノハ; ⊿ )「昨日……」

(;´・ω・`)「ほら、君の誕生日だからってレストランに行って!モララーも帰って来て!家族みんなで夕食を食べたじゃないか!!」

ノハ; ⊿ )「レストラン……?モララー……も、来たの……?」


ノハ;⊿;)「だめ……思い出せないわ……」


(;´・ω・`)「…………」
45:2011/12/31(土) 01:29:11.10 ID:
どうやら昨日の出来事も、妻の記憶には欠片すらないようだ。
ただの物忘れとは違う……異常な記憶障害。

妻はひどく取り乱していた。
だが、そのおかげで私はなんとか平静を保てっていることができた。


(;´・ω・`)「ヒート、大丈夫だから。落ち着きなさい」

ノハ;⊿;)「でも……私は……」

(;´・ω・`)「とにかく病院へ行こう。きっと治療法があるから。そうしたら、昨日のことも思い出せるさ」


そう、病院だ。
とにかく病院へ行けばなんとかしてくれるだろう。
そんな当たり前の事にようやく思い至り、急いで外出する準備をする。

今日は仕事の予定だったが……会社には休みの連絡をいれておいた。
……もう、仕事のために家族を犠牲にしたくはなかった。
47:2011/12/31(土) 01:33:22.30 ID:
病院で病状を説明すると、医者は難しい顔をしていた。
その後MRIなどの検査を行い、最終的に医者が下した診断は意外な物だった。


( ´ー`)「若年性アルツハイマーです」

(;´・ω・`)「…………は?」


( ´ー`)「……外傷は無し、脳梗塞の疑いも無し、最近強い心的ストレスを感じたということもない……」

( ´ー`)「以上のことから若年性アルツハイマーであると診断しました」

(;´・ω・`)「ちょ……ちょっと待ってください!若年性アルツハイマーで1ヶ月も記憶が飛ぶことなんてあるんですか!?」


そんな話は聞いたことがなかった。
第一妻は、ここ1ヶ月の記憶が無いという点を除けばいたって正常なのだ。
痴呆を疑う余地など、どこにも存在しない。


( ´ー`)「……様々な検査をして、あらゆるケースを想定し、当てはまらない物を消していった結果です」

(;´・ω・`)「…………」

49:2011/12/31(土) 01:37:38.03 ID:
( ´ー`)「とにかく、若年性アルツハイマーの他には考えられませんから」

(´・ω・`)「……はぁ」


医者の頑なな態度に、私はそれ以上言葉を返すことを止めた。
きっと何を言っても聞く耳を持たないだろうと、そう思ったのだ。

医者の説明を適当に聞き流し、私達はその病院を後にした。


(´・ω・`)「隣町にも大きな病院があったはずだ。そっちにも行ってみよう」

ノパ⊿゚)「……えぇ」


それから何軒も病院を回ったが、返ってくる答えはどこも同じような物だった。
痴呆症、若年性アルツハイマー症、ストレス性短期記憶欠落症……。

記憶が無いこと以外は至って健康で、しかもボケのような症状が見られないのに痴呆はありえない。
それに、1ヶ月分の記憶が無くなるような強いストレスを与えるような事も無かったはず。
それに、ストレスで記憶が抜けたとするならば、昨日の記憶が無いこともおかしい。
少なくとも昨日の時点で妻は記憶障害になっていたのだから。

……結局医者達は、こちらが理解してないのを良いことに、それっぽい病名をあげているだけなのだ。

50:2011/12/31(土) 01:42:08.59 ID:
何件目かの病院を後にしたとき……時刻で言うならば午後2時を回ったとき、
ずっと押し黙っていた妻が私に話しかけてきた。


ノパ⊿゚)「あなた……そんな暗い顔しないで」

(´・ω・`)「……」


妻は、私のことを心配してくれていた。
心配されるべきは彼女の方であろうに。

ふと横を見たら、ガラスに映りこんだ自分と目があった。
……なるほどひどい顔をしている。


ノパ⊿゚)「もう帰りましょう?あなたも少し休んだ方がいいわ」

(´・ω・`)「しかし、ヒート……」

ノパー゚)「私は心配いらないわ。記憶は無くとも、こんなに元気なんですもの」


そう言って妻はにっこりと笑うのだ。
自分自身、不安でいっぱいのはずなのに。
それなのに、私を励まし、笑みを浮かべるのだ。
52:2011/12/31(土) 01:47:06.71 ID:
(´・ω・`)(あぁ……なんて強いんだ……彼女は)


そういえば、昔から彼女は強い女だった。
少し泣き虫で、涙を見せることはあったけれども、弱音を吐いてるとこは見たことがなかった。

そして私は、いつもそんな彼女に助けられていた。


(´・ω・`)(だが……今度は私が助けてあげないと……)


彼女は私の妻で、私は彼女の夫である。
私が彼女を守らないでどうするのだ。

……そういう使命感を持ちながらも、私が出来ることは何もない。
結局私達は自宅へと戻ってきてしまった。
53:2011/12/31(土) 01:52:02.31 ID:
私は寝室へ戻り、妻が昨夜書いたメモに目を通していた。


(´・ω・`)(昨日の時点で、ヒートは週間と少しの間の記憶が無かった)

(´・ω・`)(今思えば確かに不審な態度もあったな……)

(´・ω・`)(…………まてよ、そういえば一昨日も日付をはっきりと覚えていないような感じだったな……)


もっと家庭に目を向けていたら、もっと妻と話す機会を設けていれば、
彼女の異変にももっと早く気づくことができただろう。


(´・ω・`)(本当に……何をやっていたんだ。私は……)


ふと、妻が読んでいた文庫本に目が止まった。
そういえば妻は随分長い間この本を読み続けていたような……。

確かに彼女は本を読むのが早い方ではない。
だが、私の記憶が正しければ、この本はもう1ヶ月以上も前から読み続けているはずだ。
55:2011/12/31(土) 01:56:14.81 ID:
その文庫本を手に取ってみると、違和感に気づいた。
ページの後半はすごく綺麗なのに、ページの前半部分は紙がよれよれになっていたのだ。


(´・ω・`)「これは……?」


妻が前半だけを何度も読み返していたとは思えない。
きっと読み進めている途中に記憶がなくなり、少し戻って読み進め、
また記憶が無くなり、少し戻って……を繰り返していたのだろう。


(´・ω・`)(つまり……発症したのは、この本を買って、しばらく読み進めてから……か)


時期にすればだいたい今から2~3週間前か。


……だが、発症した時期を推測したところでどうしようと言うのだ。
私は医者ではないというのに……。
56:2011/12/31(土) 02:01:31.79 ID:
(´・ω・`)「医者……?」


そういえばモララーにはまだ妻のことを教えていないな。
そう思った時、昨日のモララーの言葉が思い出された。


モララーの上司の内藤医師は脳神経外科の権威だと……。

もしかしたら、内藤医師なら妻の病気のことも何か知っているかもしれない。
私は大急ぎでモララーに電話をかけた。


(;´・ω・`)(……頼む……出てくれよ……!)


モララーが忙しいのは知っている。
まだ日も暮れていないうちに自宅の電話に出る可能性は低い。

しかし、出来るだけ早く妻を診てもらう必要があるのだ。
明日になれば妻は今日の出来事も忘れてしまうだろうから。


『―――もしもし?』
57:2011/12/31(土) 02:06:36.94 ID:
(;´・ω・`)「!!」


受話器越しに不機嫌そうなモララーの声が聞こえた。
相変わらずだ、とかなんでこの時間に、とか思うことはあるが、今はそれどころじゃない。


(;´・ω・`)「も、モララーか!?」

『そうだよ。何なのさ一体……』

(;´・ω・`)「母さんがおかしいんだ!ここ1ヶ月の記憶が無くなってる!」

『ストレスの短期記憶障害じゃないの?そのうち治るよ』

(;´・ω・`)「そうじゃない!!昨日の時点でもうおかしかったみたいなんだ!」

『はぁ……?いまいちよくわからないから、順を追って説明してよ』
58:2011/12/31(土) 02:10:36.08 ID:
私は落ち着いて、1から順に説明をしていった。
昨夜妻が書き残したメモ、今朝の妻の状態、病院で言われたこと、文庫本のこと……。

モララーはそれを静かに聞いてくれた。


『……悪いけど、僕にもわからない』

(;´・ω・`)「内藤先生に聞いてくれないか?すごい脳神経外科医なんだろ!?」

『簡単に言うけど、先生はすごい忙しいんだぜ?そんな暇は……』

(;´・ω・`)「頼む!!母さんのために!!この通りだ!!」


受話器を耳に当てたまま必死に頭をさげた。
相手は自分の息子だというのに、滑稽な話だ。

数秒間の沈黙のあと、モララーは静かに口を開いた。
59:2011/12/31(土) 02:10:42.64 ID:
もったいぶらない展開がいいな
61:2011/12/31(土) 02:14:33.16 ID:
『―――わかったよ。聞いてみる』

(;´・ω・`)「本当か!?」

『ああ。でも、先生は本当に忙しいから、いつ連絡を返せるかわからないよ』

(;´・ω・`)「わかった!頼むぞ!!」


電話を切り、受話器を置いた。
内藤医師がどんな人間なのかは知らないが、彼ならなんとかしてくれるはずと、妙な安心感があった。


ノパ⊿゚)「誰に電話してたの?」

(´・ω・`)「ああ……モララーだよ」

ノパ⊿゚)「モララーに?」

(´・ω・`)「うん。モララーの上司に、脳神経外科のスペシャリストがいるんだ。
      その人ならなんとかしてくれるんじゃないかと思ってね」

ノパ⊿゚)「へぇ……そんな人が……」
63:2011/12/31(土) 02:15:04.91 ID:
今そういう人たちばかりの施設で夜勤してる僕
64:2011/12/31(土) 02:16:45.80 ID:
>>63
ちゃんと仕事しろ!!
65:2011/12/31(土) 02:18:39.46 ID:
やはり妻は昨日のことは全く記憶にないらしい。
私の言うこと全てに、初めて聞いたというような反応をするのだ。



モララーとの通話から20分ほど経過した頃、突然電話が鳴った。


(´・ω・`)「もしもし?」

『もしもし』


電話の相手はモララーだった。
番号が違ったので、おそらく病院からかけてきたのだろう。
それにしても、随分早くに電話を返してきたものだ。


『思い当たる事があるから、大至急来てくれって。あと、なるべく母さんは眠らせないようにって』

(;´・ω・`)「診てくれるのか!?」

『そうみたい。とにかく来てよ。場所は―――』
66:2011/12/31(土) 02:20:28.47 ID:
もうちょっとテンポ早く貼ってくれると嬉しいんだが
68:2011/12/31(土) 02:22:50.05 ID:
私達は大慌てで準備をした。
幸いまだ遅くない時間だったので、新幹線や電車の時間には余裕があった。

途中、寝てしまいそうになる妻を起こしながら3時間ほど電車に揺られ、
私達はモララーの働く病院にやってきたのだ。


(´・ω・`)「VIP大学病院……ここか」

ノハ;゚⊿゚)「おっきいわねー……」


そこは思っていたよりも巨大な病院だった。
こんな大病院でモララーは働いているのか。

とりあえず中に入ると、すぐに見知った顔を見つけた。


( ・∀・)「来たね。ついてきて」


モララーは白衣を身につけていて、なんとも医者らしい格好をしていた。
……まあ、実際医者であるのだが。
69:2011/12/31(土) 02:27:00.65 ID:
(´・ω・`)「いや、でもまだ受付は……」

( ・∀・)「いいから。先生が待ってるから早くして」


さっさと歩いていってしまうモララーに慌てて着いていく。
長い廊下を歩き、エレベーターで3階に上がって、また長い廊下を歩く……。
本当に広い病院だ。


( ・∀・)「先生!母が来ました!」

「おっ、どうぞ」


通された個室で待っていたのは、私と同年代くらいの、少し太った人の良さそうな医師だった。


( ^ω^)「はじめまして。内藤ホライゾンと申しますお」

(;´・ω・`)「あ……これはどうも。息子がお世話になってます」

( ・∀・)「そういう話はいいから。先生も忙しいんだし、早くしてよ」


( ^ω^)「モララー。ここにいるのは君の両親であるけど、君の患者さんでもあるんだお。そういう発言はいただけないお」

( ・∀・)「……すいません」
70:2011/12/31(土) 02:31:31.12 ID:
(;´・ω・`)「あの……先生。妻は……」

( ^ω^)「先に2、3質問していいですかお?まず、奥さん。答えられる範囲でお願いしますお」

ノハ;゚⊿゚)「あ……はい」


( ^ω^)「まず、この1ヶ月の間の記憶は全く、これっぽっちもないんですおね?」

ノパ⊿゚)「はい……」

( ^ω^)「旦那さんの言葉になにか引っかかったりとかは……?」

ノパ⊿゚)「いえ……何も……」

( ・∀・)「昨日の夕食のことも?」

ノパ⊿゚)「……ごめんなさい……メモに大切な思い出と書いてあったのに……」

( ^ω^)「おっ。ありがとうございますお」
71:2011/12/31(土) 02:35:23.94 ID:
( ^ω^)「じゃあ次は旦那さんに伺わせてもらいますお」

(´・ω・`)「はい」

( ^ω^)「昨日、一昨日にも不審な様子があったとか」

(´・ω・`)「えぇ。一昨日は日付を把握していないようでしたし、昨日は一昨日言ったことも忘れているみたいでした」

( ^ω^)「奥さんは普段は物覚えがいい方で?」

(´・ω・`)「そう……ですね。特に何かイベントがある日を忘れているのはあまり見たことがありません」

( ^ω^)「なるほど。では、メモによると、昨日の時点で奥さんの記憶は6月28日まで、
      今日の時点では奥さんの記憶は6月14日までだったというのは本当ですかお?」

(´・ω・`)「はい」

( ^ω^)「なるほど……ありがとうございましたお」
75:2011/12/31(土) 02:38:13.45 ID:
ネレネ━━━(゜Д゜;)━━━!!!
78:2011/12/31(土) 02:40:52.21 ID:
( ^ω^)「……」

(;´・ω・`)「先生……それで、妻は……」

( ^ω^)「……まだ、推測の域を脱しませんが……」


( ^ω^)「昔、ドイツで似たような症例が初めて発見されたと聞きますお」

( ^ω^)「最初は最近の記憶が無くなり、それから徐々に昔の記憶まで無くなっていく病気」

( ^ω^)「60代の女性が、少しずつ記憶を失い、途中自分が20歳だと信じ込んでいたとの話もありましたお」

( ^ω^)「しかも驚くべき事に、彼女は誰もが忘れているような、
      彼女が20歳だったときに起こった出来事をほぼ完璧に覚えていたんですお」

(´・ω・`)「それは……一体……」


( ^ω^)「通称『若返り病』……世界でまだ10も発見されていない、原因不明の奇病ですお」
79:2011/12/31(土) 02:44:46.24 ID:
ノハ;゚⊿゚)「……若返り病?」

(;・∀・)「先生、そんな病気聞いたことありませんけど……」

( ^ω^)「無理もないお。なんせ原因も不明だし、極めて珍しい病気だから」

(´・ω・`)「その若返り病とは、一体……?」


( ^ω^)「では、縦に長い巨大なタンスを想像してくださいお」

( ^ω^)「それには記憶の引き出しが付いていて、低い位置ほど最近の記憶があるとしますお」

( ^ω^)「通常の記憶障害では、この引き出しにロックがかかり、記憶が取り出せない状況になるのですが……」

( ^ω^)「……この病気では下の段から順に、まるでだるま落としをするかのように抜けていくんですお」

(;´・ω・`)「抜けていく……?」

( ^ω^)「消失する、破壊される等言い方は様々ですが……」



( ^ω^)「簡単に言えば、眠って、記憶を整理するときに記憶自体が完全に消えてなくなってしまうんですお」
81:2011/12/31(土) 02:49:20.47 ID:
ノハ;゚⊿゚)「消える……!?そんな……!!」

( ^ω^)「……残念ですが、これが若返り病の特徴なんですお」


( ^ω^)「下の方の段が消えるから、上にあった引き出しも容易に開けられるようになる……」

( ^ω^)「そして、一番下の段の記憶が例えば30歳の時の記憶なら、まるで精神だけ当時の自分に若返ったようになる」

( ^ω^)「これが若返り病の名の由来ですお」

(;´・ω・`)「治療法は……?治す方法はあるんですか?」

( ^ω^)「はっきり言いますと、ありませんお」


(;´・ω・`)「えぇっ!?」

( ^ω^)「……ありません、が」



( ^ω^)「無いのなら作ればいいだけのことですお」
83:2011/12/31(土) 02:53:17.17 ID:
(;´・ω・`)「作る……?」

ノハ;゚⊿゚)「治療法を、ですか?」

( ^ω^)「はいですお。そのため、協力をお願いしたいのですが……」

ノパ⊿゚)「協力と言いますと……?」

( ^ω^)「とりあえず入院していただいて、様々な検査を受けることを承諾していただければと」

ノパ⊿゚)「それでしたら、大丈夫です」

( ^ω^)「ありがとうございますお。モララー、個室の手配をして、お母さんを連れて行ってあげるお」

( ・∀・)「あ……はい」

( ^ω^)「旦那さんは、もう少し残って貰ってもいいですかお?」

(´・ω・`)「え……えぇ。構いませんが……」
86:2011/12/31(土) 02:57:35.61 ID:
こうして部屋には私と内藤医師だけ残された。
先ほどまで笑顔だった内藤医師は、突然険しい顔になり、私に話しかけてくる。


( ^ω^)「……大事な話ですお。いいですかお?」

(;´・ω・`)「は……はぃ」


自分でもすごく情けない声が出たと思う。
あの時の自分はまるでガンを告知されたような気分だったからだろう。


( ^ω^)「奥さんに入院してもらった理由は、他にあるんですお」

(;´・ω・`)「……と、言いますと……?」

( ^ω^)「この若返り病の致死率は……今のところ100%なんですお」

(;´・ω・`)「ひゃ…………く……?」
88:2011/12/31(土) 03:01:49.87 ID:
内藤医師から出た言葉はあまりに衝撃的なものだった。
胃がキリキリとしてきて、そういえば今日何も食べていないことを思い出す。


( ^ω^)「その死因が、自殺なんですお」

(;´・ω・`)「自殺……?」


( ^ω^)「はい。自分の記憶と、周りの環境とのギャップに着いていけなくなり……死を選ぶ」

( ^ω^)「……そんな患者さんばかりだったんですお」

(;´・ω・`)「あ……あぁ!だから入院を!」


そこまで聞いて内藤医師の言葉の真意を知った。
病院に入院させることによって、外界と干渉する機会を減らし、
なるべく妻にかかる負担を減らそうと言うのだ。


( ^ω^)「それに際し、結構嘘をつくこともあると思うので、うまく話を合わせてくれると嬉しいですお」

(;´・ω・`)「わかりました!そういうことなら!」
89:2011/12/31(土) 03:05:19.14 ID:
( ^ω^)「おっ。ありがとうございますお」

( ^ω^)「こうやって患者さんに平気で嘘を吐くような医者だけど、よろしくお願いしますお」


いたずらに笑いながら、内藤医師は手を差し出してきた。
ゴッドハンドと呼ばれる彼のその手を……。

彼ならば、なんとかしてくれるような気がした。
これからしばらくよろしくお願いしますという意味も込めて、私はその手を握り返した。


(;´・ω・`)「おっ……ととと」


内藤医師の手を離した時、突然眩暈に襲われて、その場に尻餅を着いてしまう。
どうやら安心して疲れが一気に来たみたいだ。
92:2011/12/31(土) 03:10:22.17 ID:
(;^ω^)「だ、大丈夫ですかお?」

(;´・ω・`)「いやぁ……ははは。安心したら、ついね……。あと、今日は何も食べてないものでして」

( ^ω^)「それはよくありませんお。二階の東端に、売店がありますからそこで何か買ってくるといいですお」

(´・ω・`)「あ、ありがとうございます……」


部屋を出ようと引き戸に手をかけると、扉が勝手に開いた。
いや、反対側から開けられたのか。
顔を上げると、そこにはモララーが立っていた。


(´・ω・`)「あ……」

( ・∀・)「……」


一瞬だけ目があったが、モララーはすぐに視線を外し、部屋の中へと入ってきた。
93:2011/12/31(土) 03:12:16.03 ID:
複雑だな
95:2011/12/31(土) 03:15:23.27 ID:
( ・∀・)「5階の1505号室に入りました。今はレモナさんが世話してくれてます」

( ^ω^)「わかったお。今から僕も行くお」


( ^ω^)「というわけで、奥さんは1505室にいますから、売店へ行ったらそのままこちらへ来てくださいお」

(´・ω・`)「はい、わかりました」


一礼して、私は急ぎ足で売店へと向かった。
5階の1505号室……ちゃんと覚えておかねば。




( ^ω^)「……」

( ・∀・)「なんですか?先生……」

( ^ω^)「おっおっ。何でもないおー」

( ・∀・)「……言いたいことがあるなら言ってくださいよ」

( ^ω^)「別に?ただなーんで『5階の』1505号室なんて言ったのかなって。1505号室は5階にあるなんて僕らには常識なのに」

( ・∀・)「……怒りますよ。さぁ、1505号室に行くならさっさと行ってください」
96:2011/12/31(土) 03:17:14.95 ID:
やだモララーかわいい
97:2011/12/31(土) 03:19:50.01 ID:
(´・ω・`)「ふぅ……。ヒートはサンドイッチでよかったかな……」


売店の袋を片手に廊下を歩く。
時間も時間だし、廊下を歩いてる人はほとんどいない。

もうすぐ1505号室というところで、部屋から内藤医師が出てくるのが見えた。
一体何を話していたのだろうか。


(´・ω・`)「内藤先生?」

(;^ω^)「おぉぉう!?びっくりした!」

(;´・ω・`)「そんなに驚かなくても……」

(;^ω^)「あー……その、僕はちょっと恐がりなもので……」

(´・ω・`)「は、はぁ……」

( ^ω^)「ところで、今日はここにお泊まりで?」

(´・ω・`)「はい。そのつもりです」
98:2011/12/31(土) 03:23:24.09 ID:
( ^ω^)「では、後で一組布団を持って行かせますお」

(´・ω・`)「ありがとうございます」

( ^ω^)「では、おやすみなさいですお」

(´・ω・`)「はい。おやすみなさい」


内藤医師と別れ、部屋に入った。
妻はいつの間にか病衣に着替えて、ベッドに横になっていた。


(´・ω・`)「ちょっと遅いけど、夕飯買ってきたよ」

ノパ⊿゚)「あ……そういえば今日何も食べて無かったわね……」


少し遅めの夕食。
しかも、内容もサンドイッチと飲み物だけと、なんだか味気ない。
100:2011/12/31(土) 03:27:38.25 ID:
ノパ⊿゚)「それにしてもこの病室広いわね……」

(´・ω・`)「そうだね。さすが大病院なだけある」

ノハ*゚⊿゚)「それに個室よ!個室!なんだかすごいわ」

(;´・ω・`)「た、楽しそうだね……」


広い個室ということで、妻はなぜか楽しそうだ。
とても致死率100%の病気にかかっているとは思えない。


ノパ⊿゚)「でも……明日になったらまたいろんな事を忘れちゃうのね……」

(´・ω・`)「ヒート……」


寂しそうな妻の横顔。
笑顔なんかより、こんな弱気な彼女を見ることの方が久しぶりだ。
102:2011/12/31(土) 03:31:50.03 ID:
ノパ⊿゚)「もし……」

(´・ω・`)「ん?」

ノパ⊿゚)「……もし私が、あなたの知っている私じゃ無くなったら、どうする?」

(´・ω・`)「……何を言ってるんだ」


(´・ω・`)「一体いつから君と一緒にいると思ってるんだい?君は君だろう」

ノパ⊿゚)「そう……ね。私らしく無かったわね、ごめんなさい」

(´・ω・`)「……大丈夫だ。何があっても、私は君と一緒にいるから」


正直、弱気な妻を見るのは辛かった。
ただでさえ弱気な姿を見せない彼女だ。
それに今は『自殺』という二文字もチラつく。

普段あっけらかんとしている人ほど、落ち込んだ時が怖いのだ。
103:2011/12/31(土) 03:35:54.91 ID:
トントン、とノックの音がした。
扉を開けると、布団を持った看護婦さんが入ってきた。


|゚ノ ^∀^)「こんばんはー……よいしょ、と。布団、ここに置いときますねー」

(´・ω・`)「あ……どうも。ありがとうございます」

|゚ノ ^∀^)「いえいえー。何かあったらすぐに呼んでくださいねー。では、おやすみなさいー」


看護婦さんはニコニコと笑ったまま、部屋を出て行った。
なんだかそれだけでさっきまでの重苦しい雰囲気が軽くなったような気がする。


(´・ω・`)「……若い人だったね」

ノパ⊿゚)「そうね。モララーと同い年くらいかしら」

(´・ω・`)「モララーとはどういう関係なんだろう」

ノパー゚)「モララーの片思いの相手だったりして」
105:2011/12/31(土) 03:41:16.93 ID:
ふ、と妻の顔から自然と笑みが零れた。
私はそれだけでなぜか安心ができた。


ノパ⊿゚)「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

(´・ω・`)「そうだね」


ノパー゚)「あなた、おやすみなさい」

(´・ω・`)「おやすみ、ヒート」

ノパー゚)「明日の私によろしくね」

(´・ω・`)「……!」


(´・ω・`)「あ、ああ。わかったよ」


妻は最後に小さく笑って、ベッドへ潜り込んだ。
私も布団に横になるが、まだ寝つけそうにはなかった。
106:2011/12/31(土) 03:46:44.39 ID:
(´・ω・`)(明日の私によろしく……か)


確かに、今日の自分は明日にはいない。
そういう意味では当たり前の言葉だ。
だが、彼女が言うと途端に重く感じられる。


(´・ω・`)(明日のヒートは、一体いつのヒートなのだろう)


これから闘病生活が始まる。
一体何があるかわからないが、私は彼女を支えていかなければならない。

それに、ここにはモララーもいる。
少し理想とは違う形だが、家族全員が揃ったのだ。
せめて、父親らしいことをせねば。


(´-ω-`)(……おやすみ、ヒート)
109:2011/12/31(土) 03:48:15.00 ID:
すっげー切ない気分
113:2011/12/31(土) 03:51:54.54 ID:
―7月28日―


こうして、妻の入院生活が始まった。

その初日、私は誰かに叩かれて目を覚ました。
犯人は……


( ・∀・)「……やっと起きたか」

(´・ω・`)「モララー……?なんで……」


時計を確認すると、まだ6時前だった。
朝食の時間にはまだ早い。


(´・ω・`)「おいおい、ちょっと早いんじゃないか?」

( -∀-)「はぁ……昨日の内藤先生の話、覚えてないの?」

(´・ω・`)「昨日……?」

115:2011/12/31(土) 03:57:29.64 ID:
昨日内藤医師に言われたことといえば、妻の病状や、それに対して何をするか。
早起きしろとは言われた覚えがない。


( -∀-)「……あのさぁ、母さんは昨日の記憶が無くなるってわかってる?」

(´・ω・`)「そりゃもちろん…………あ」


そうか。
妻は昨日の記憶がないから、目が覚めた時に病院のベッドの上だと混乱するだろう。
だから私たちは妻より先に起きておいて、妻が目を覚ました時にフォローするのか。


(´・ω・`)「すまん。今理解したよ。……内藤先生は?」

( ・∀・)「もうすぐ来るよ……。それより、自分の方はいいの?」

(´・ω・`)「私の?」

( ・∀・)「仕事、今日もあるだろ?」

(´・ω・`)「……あぁ、そうだったな」
117:2011/12/31(土) 04:03:44.36 ID:
仕事のことなど、すっかり忘れていた。
少し前まで仕事一筋の人間だったのに、随分と変わったもんだ。


(´・ω・`)「だとしても、連絡するにはまだ早い。せめて7時頃でないと」

( ・∀・)「……戻って仕事に行く気はないんだ」

(´・ω・`)「母さんがこんな難病にかかっているんだ。仕事になんか行ってられるか」

( ・∀・)「…………」


( ^ω^)「おっ。2人ともお待たせだお」

(´・ω・`)「おはようございます。内藤先生」

( ^ω^)「おっ、おはようですお、ショボンさん」

(´・ω・`)「私の名前……?」

( ^ω^)「ああ、モララーから聞いてますお。いつまでも旦那さんとかお父さんだとあれでしょう?」
118:2011/12/31(土) 04:10:28.12 ID:
内藤先生はなかなかフランクな人のようだ。
それに明るく話しかけてきてくれるので、こちらも変に緊張しないですむ。


( ・∀・)「……で、先生。何と言ってごまかすんですか?」

( ^ω^)「そうだおねー……。風呂場で転倒して頭部を強打したとか」

( ・∀・)「……外傷がなかったらばれるんじゃ……」

( ^ω^)「ぶっちゃけるとまだ嘘がばれたとしてもそこまで影響は無いと思うお。
      だから今の内にどんな嘘なら通じるかテストもしておくお」


(;´・ω・`)「それって大丈夫なんですか……?」

( ^ω^)「多分大丈夫ですお。怖いのは10代~20代前半まで若返った時ですから」

(;´・ω・`)「は……はぁ……」

( ^ω^)「あ、いいですおその顔。そんな感じで『頭打って意識無くしたから心配したんだぞ!』って表情しといてくださいお」
121:2011/12/31(土) 04:17:08.94 ID:
若干心配ではあるが……一応ゴッドハンドと呼ばれる人だ。
信用しても大丈夫なはず……。


ノハ-⊿゚)「ん……?ここは……?」

(´・ω・`)「……ヒート、おはよう」

ノハ;゚⊿゚)「あなた……?えっ?ここは……?」


案の定妻は混乱しているようだ。
もしかしたらここが病院だということもわかっていないかもしれない。


( ^ω^)「落ち着いてくださいお」

ノハ;゚⊿゚)「あ、あなたは?」

( ^ω^)「初めまして、内藤ホライゾンと申しますお」

ノハ;゚⊿゚)「あの……私、一体……」

( ^ω^)「あなたはお風呂場で転倒、意識を失い、それを発見した旦那様が119に連絡して、救急車で運ばれたんですお」

ノハ;゚⊿゚)「そ、そうだったんですか……」
124:2011/12/31(土) 04:25:34.48 ID:
内藤医師はこちらにウィンクを飛ばしてきた。
どうやら妻は今の内藤医師の言葉を完全に信じたようだ。

そういえば、昔から騙されやすい性格だったような気がする。


( ^ω^)「では、お手数ですが、こちらに日付と、氏名、年齢、住所を記入していただいてよろしいですかお?」

ノパ⊿゚)「あ……はい」


ノパ⊿゚)「えぇと……5月30日……眉村ヒート……49歳……」


妻の呟きが耳に入ってくる。
どうやら、昨日からさらに二週間ほどの記憶が失われたらしい。

しかしこうやってさりげなく妻の記憶の状態を探るとは、
やはり内藤医師はすごい人なのだろう。
125:2011/12/31(土) 04:26:56.99 ID:
ふむ……
128:2011/12/31(土) 04:32:37.38 ID:
ノパ⊿゚)「ところで……どうしてモララーがいるのかしら」

( ・∀・)「え?」

(´・ω・`)「え?」

ノパ⊿゚)「たしかモララーは都心の病院にいるんじゃ……。いつの間にこっちに来たの?」

(;´・ω・`)「あぁ……えぇと、それは……」


どうやら妻はここが地元の病院だと勘違いしているようだ。
確かに、よくよく考えてみれば救急車でわざわざこの病院まで運ばれるわけがない。


( ^ω^)「彼は三日前からここに来た勤務医ですが、お知り合いですかお?」

ノパ⊿゚)「えぇ。息子です。……もう、こっちに来るなら連絡くれてもよかったのに」


(;´・ω・`)「あ、ああ!まったくだ!電話の一本くらいいれろってなぁ!」

( ・∀・)「……ほっといてよ」
130:2011/12/31(土) 04:37:46.72 ID:
内藤医師のおかげで、この場もなんとかなったみたいだ。
しかし、よくもまああんなにスラスラと口から出任せが言えるなとも思う。


( ^ω^)「では、失礼しますお。モララー、あと、旦那さんもちょっとよろしいですかお?」

( ・∀・)「はい」

(;´・ω・`)「あ、はい」




( ^ω^)「うまく行きましたおね」

(´・ω・`)「そうですね。少しヒヤヒヤしましたけど」

( ・∀・)「しかし先生、よくもああ口から出任せをペラペラと言えますね。嘘つきなれてるんですか?」

( ^ω^)「……これでも結構考えたんだお。変なこと言わないでくれお」
131:2011/12/31(土) 04:46:39.39 ID:
( ^ω^)「とにかく、これからもこんな感じでやりますお。またよろしくお願いしますお」

(´・ω・`)「あの、先生。私はどうすれば……」

( ^ω^)「とりあえず、奥さんの事を見ててあげてくださいお。
      看護婦達も事情は知ってるから、この階では自由にしてくれてまいませんお」


( ^ω^)「あ、でも外には出ないように、気をつけてあげてくださいお」

(´・ω・`)「わかりました」

( ^ω^)「モララーはなるべく、ショボンさんの補佐をしてあげてくれお。なるべく仕事は減らすから」

( ・∀・)「……わかってますよ」


( ^ω^)「あと、院内PHSも渡しておきますお。もし何かあったら303にかけてもらえれば僕が出ますお」

(´・ω・`)「あ、はい……。ありがとうございます」

( ^ω^)「では、僕はこれで」
133:2011/12/31(土) 04:55:17.37 ID:
(´・ω・`)「……本当に何から何まで、ありがたいな」

( ・∀・)「……特別だからね、母さんは」

(´・ω・`)「特別?どういうことだ?」


( ・∀・)「ここは大学病院、そして母さんは世界でもあまり例のない奇病の持ち主……」

( ・∀・)「病院側からすれば都合のいいサンプルってことさ」

(;´・ω・`)「なんだと!?」


( ・∀・)「……まぁ、内藤先生はそんな人じゃないけど、他は……ね」

( ・∀・)「よかったんじゃない?特別扱いされて。確か入院費も大学側が負担するって話だs……」



パァン!


(・∀(#)

(#´ ω `)
134:2011/12/31(土) 05:03:26.67 ID:
思わず私はモララーをひっぱたいていた。
張り手の音が廊下に響くが、幸い時間が早いためか、人はあまりいなかったみたいだ。


( ・∀(#)「……なにすんだよ」

(#´ ω `)「よかった……って、本気で思ってるのか?」

( ・∀(#)「……」

(#´ ω `)「母さんが実験サンプル扱いされて、それでよかったって本気で思っているのか!!」

( ・∀(#)「……」


モララーは何も言い返してこない。
ただ、じっとこちらを見つめ返してくるだけだった。


(´ ω `)「……会社に連絡してくる。外なら携帯を使ってもいいか?」

( ・∀(#)「……駐車場でなら」

(´ ω `)「……わかった」
136:2011/12/31(土) 05:10:28.56 ID:
( ・∀(#)「……」


( ・∀(#)「あー……、痛ぇ」


( ・∀(#)「本気でビンタしたな……あいつ」


( ・∀(#)「耳もキーンとしてやがる……鼓膜破れたらどうしてくれんだ」


( ・∀(#)「あー……」


( ・∀(#)「……」


( ・∀(#)「……初めてぶたれたな」
137:2011/12/31(土) 05:18:23.25 ID:
(´・ω・`)「……」

ノパ⊿゚)「おかえりなさい。何の話だったの?」

(´・ω・`)「ん?……ああ、お前の事だ。頭を強く打ってるからなるべく安静にするようにってさ」

ノパ⊿゚)「それだけ?それにしては時間がかかってるわね」

(´・ω・`)「ああ、会社に休みの連絡をしてたんだ」

ノパ⊿゚)「そう……」


自分でも驚くくらいスラスラと嘘を言えた。
内藤医師と話したことはもちろん、会社に休みの連絡はいれてない。

会社には辞職の旨を伝えてきた。
散々文句を言われたが、家内が緊急入院して、近い将来死ぬかもしれないと言ったら了承してくれた。


ノパ⊿゚)「元気ないわね……大丈夫?」

(´・ω・`)「心配いらないよ。君が目を覚ましてほっとしたら、疲れがどっと来たんだ」
138:2011/12/31(土) 05:23:38.82 ID:
ノパ⊿゚)「そう……、ごめんなさいね。心配かけて」

(´・ω・`)「……じゃあ、早く元気になってね」

ノパー゚)「えぇ、わかったわ」



早く元気になってくれ。
記憶を失った妻へ、なんて残酷なことを言うのだろうか。

彼女は知らないのだ、自分が原因不明の奇病にかかっていることも、
大学の貴重なサンプル扱いされていることも……。

そう思うと、自然と涙が溢れてきた。
妻に気づかれないよう、こっそり拭おうとしたとき、ノックの音がした。


|゚ノ ^∀^)「おはようございまーす。朝食を持ってきましたー」

ノパ⊿゚)「あら、ありがとう」

|゚ノ ^∀^)「いえいえ、お仕事ですから。……はい、どうぞー」
139:2011/12/31(土) 05:30:33.89 ID:
|゚ノ ^∀^)「お父さんもいりますか?」

(´・ω・`)「え?いや、僕は患者じゃありませんし……」

|゚ノ ^∀^)「大丈夫ですってー。夕食はあれですけど朝食や昼食はバレませんよー」

(;´・ω・`)「えぇぇぇ、それってマズくないですか?」

|゚ノ ^∀^)「いーのいーの。バレなきゃ大丈夫!はい!」


おおよそ医療従事者とは思えない発言をしながら、看護婦さんは無理矢理朝食のトレーを押しつけてきた。


|゚ノ ^∀^)「ごはん食べれば、元気出ますよ?」

(;´・ω・`)「!?」


|゚ノ ^∀^)「はい、では失礼しましたー」


看護婦さんは、笑顔を残して部屋を後にした。
……しかし、私はそんなにもひどい顔をしていただろうか。
確かに仕事を辞めることは多少ショックではあったが……。

病院食はお世辞にも美味しいとは言えない物だったが、少し元気が出たような気がした。
140:2011/12/31(土) 05:31:58.78 ID:
なかなか
141:2011/12/31(土) 05:36:47.91 ID:
いい
142:2011/12/31(土) 05:39:41.79 ID:
それから、10時くらいに内藤医師の回診、昼食を挟み、4時にまた内藤医師の回診があった。
ちなみに昼食もまたこっそりいただくことになってしまった。


ただ、その間モララーは一度も姿を見せることは無かった。


ノパ⊿゚)「モララー来ないわねぇ……」

(´・ω・`)「そうだね」


もしかしたら、私が叩いたからだろうか。
そんな心配をしていたら、ドアが開き、モララーが顔を出した。
まさに噂をすればなんとやら、だ。


ノパ⊿゚)「あらモララー、どうしたの」

( ・∀・)「ちょっと、ね」
143:2011/12/31(土) 05:49:09.34 ID:
モララーは部屋に入ってこようとせず、その場で手招きをしてきた。
どうやら私に用があるらしい。

廊下に出ると、モララーは無言で何かを押しつけてきた。
鍵と、地図が書かれた紙だ。


(´・ω・`)「これは……?」

( ・∀・)「……俺の家までの地図と、家の合い鍵」

(´・ω・`)「……なんでこれを?」

( ・∀・)「シャワーや洗濯の設備まで借りるわけにはいかないだろ?
     俺の家、ここから歩いて五分もかからないから使っていいよ」

(´・ω・`)「モララー……」


( ・∀・)「……あと、朝の話の続きだけど」



( ・∀・)「サンプル扱いだなんて、ふざけんなって思うさ。例えどんな待遇されようがな」


( ・∀・)「俺の……母親だから」
145:2011/12/31(土) 05:57:52.33 ID:
(´・ω・`)「モララー……」

( ・∀・)「……それだけ」


モララーはそのまま、小走りでその場を去っていった。

だが、なんだか嬉しかった。
モララーの気遣いが。
モララーも自分と同じ考えだということが。

やはりモララーは私たちの子供だ。
胸を張ってそう言える。
まだ、私に対して冷めたような態度を取るのは変わらないが、それでも私のことを気にかけてはくれているようだ。



その日はモララーの家でシャワーを借りた。
身も心もサッパリしたような気がした。
146:2011/12/31(土) 06:02:56.90 ID:
―8月3日―


妻が入院してから、一週間が経った。
今日も朝から妻を簡単に騙したのだが……。


( ^ω^)「ではここに日付と、氏名、年齢、住所をお願いしますお」


ノパ⊿゚)「はい。8月18日……眉村ヒート……」


ノパ⊿゚)「……45歳」




(;´・ω・`)「!?」

(;・∀・)「!」


( ^ω^)「……はい、ありがとうこざいましたお」
147:2011/12/31(土) 06:10:37.91 ID:
おおぅ・・・
148:2011/12/31(土) 06:12:18.77 ID:
廊下に出て、私たちは三人で顔を見合わせていた。
というのも、つい先日の妻の記憶は48歳の7月7日だったのだ。
つまり、突然1日で3年分の記憶が無くなった事になる。


(;´・ω・`)「先生……こんなこともあるのですか?」

( ^ω^)「……確かに1日で5年若返った例がありましたから……ないわけでは無いのでしょうが……」

( ・∀・)「……でも、なんで突然?」


( ^ω^)「……もしかしたら記憶の質が関係しているのかもしれませんお」

(´・ω・`)「つまり……?」

( ^ω^)「例えば、楽しかったことや、印象深かったことは記憶に残りますおね?」

( ^ω^)「そういうのを仮に質のいい記憶としますお」

( ・∀・)「それに対し質の悪い記憶は、どうでもいい、いまいち頭に残らない記憶ですか」

( ^ω^)「そうだお」
149:2011/12/31(土) 06:20:36.93 ID:
(´・ω・`)「なるほど……確かに、その時期は……」


仕事にかまけて、家族となにかすることなどほとんど無かった。
だが、それで言うなら30歳くらいから今の今までずっとそうだ。

……つまり、内藤医師の推測が正しいのならば、まだこれからも長期の記憶が無くなる可能性があるというわけだ。


( ^ω^)「でも、やはり推測の域を脱することはできませんお」


( ^ω^)「今日はCTと脳波のデータを取らせていただきましょうかお」

(´・ω・`)「それで何かわかるのでしょうか……?」

( ^ω^)「それはわかりませんお。何か有益な情報が得られたらラッキーとでも思ってもらえれば……」

(´・ω・`)「そうですか……」
151:2011/12/31(土) 06:30:12.06 ID:
……結局、検査をしてもどこにも異常は見られなかった。
どこにも異常がないということで、妻はほっとしていたようだが、
異常がないことが異常だというのには、やはり気づくはずがなかった。


ノパ⊿゚)「それにしても、転んで入院だなんて恥ずかしいわ……」

ノハ;゚⊿゚)「やっぱり、四捨五入したら50歳だからどんくさくなってきたのかしら」

(´・ω・`)「ははは……」


四捨五入しなくても50歳だよとは、決して言えなかった。
それにしても、病気が治るような手がかりがまったく見えてこない。

内藤医師を信用していないわけではないのだが、本当にこのままで大丈夫なのだろうか。
このまま大学の貴重なサンプルとして彼女は生涯を終えるのではないかと、
そんな不安が首をもたげてきた。
152:2011/12/31(土) 06:40:15.82 ID:
―8月28日―


妻が入院して1ヶ月が経った。
今朝も毎度の嘘で妻を騙したわけだが、なんだか内藤医師の様子が変だった。

モララーも朝からかなり不機嫌そうな様子だ。


(´・ω・`)(この2人……喧嘩でもしたのか?)


そう変なことを勘ぐっていたが、異変の招待はすぐにわかった。


(;^ω^)「で……、ですね……。実は、今日の10時から教授回診があるんですよ」

ノパ⊿゚)「教授回診?」


……教授回診。
ドラマなどでよく目にする、教授の後ろに大量の学生達がついてくるあの回診だ。
153:2011/12/31(土) 06:45:08.84 ID:
泣いちまったじゃないか
支援
154:2011/12/31(土) 06:51:45.35 ID:
妻は別にどうとも感じていないようだが、こちらは気が気ではない。
廊下に出てすぐ、私はそのことについて言及した。


(;´・ω・`)「何ですか教授回診って!もし、妻が記憶喪失の事を知ったら……」

(;^ω^)「……面目ないですお。今までの教授回診はなんとか避けてもらっていたんですけど……」

(;´ω`)「さすがにあの人にやめろとは言えませんお……」

(;´・ω・`)「あの人……?」


( -∀-)「旭教授。……事実上、この病院の最高権力者だよ」

(;´ω`)「……ついでに僕の師匠みたいな存在でしたお」

(;´・ω・`)「そんな人が……?」

( -∀-)「教授も気になるんでしょ?若返り病がどんな病か……」
156:2011/12/31(土) 07:02:08.56 ID:
(;´・ω・`)「でも……そんな興味本位で妻に負担をかけるようなことになっては……」

( -∀-)「俺も反対だよ。特に学生の患者を見る目が嫌いだ。患者は教材じゃねぇっつうのに」

(;´ω`)「うぅぅ……一応旭教授には念を押しといたけど……」




そして、様々な不安を抱えたまま、教授回診の時間になった。
その迫力には開いた口が塞がらなかった。

廊下からこちらへ歩いてくる大量の白衣達。
20人以上はいそうだ。

先頭を歩くのは、低身長で、すっかりはげ上がった眼鏡の男性。
年齢は60近そうだ。


(-@∀@)「やぁ内藤くん。無理を言ってすまなかったね」

(;^ω^)「本当に頼みますお……。かなりデリケートな問題なので……」

(-@∀@)「わかっているさ。生徒達にも徹底させているから安心してくれ」
157:2011/12/31(土) 07:10:19.83 ID:
( ^ω^)「失礼しますお。回診の時間ですお」

(-@∀@)「失礼」


まず内藤医師が入り、次いで旭教授が部屋に入る。
それに続いて大量の学生達が入っていき、部屋はたちまち白衣でいっぱいになった。

私とモララーはその後から無理矢理入って、隅っこで窮屈そうに立っているしかなかった。


ノハ;゚⊿゚)「あらあら大所帯で……」

(-@∀@)「すまないね。緊張するなというのは無理な話だろうが、できるだけ楽にしてくれよ」


回診が始まった。
旭教授は世間話を交えながら妻に質問をしていた。
一体何をやっているのかと思ったが、そんなどうでもいい質問の中に、さりげなく病気の核心に迫るような質問を入れていた。

妻が記憶傷害だと知らなければ、本当にただの世間話に聞こえるだろう。
158:2011/12/31(土) 07:17:22.84 ID:
そのまま世間話のような会話を続け、最後に内藤医師と小声で何かを話して回診は終わった。

そう思った時だった。


「教授、質問があるのですが……」


1人の学生が挙手をして、教授に質問しようとしたのだ。
旭教授はゆっくり振り返り、何を言うのかと思えば……


(-@∀@)「今発言した者。出ていけ」

「えっ、あの」

(-@∀@)「また喋った。次口を開いたらこの病院から追い出すぞ」

「っ…………」


その学生は、謝罪の言葉を口にしかけて、慌てて口を噤んだ。
……この教授はなかなか怖い人のようだ。
内藤医師が反抗できないのも納得だ。
161:2011/12/31(土) 07:25:32.13 ID:
そして今度こそ回診が終わり、学生達は解散させられた。
廊下に残ったのはいつもの3人……


(-@∀@)「どうだ。問題無かったろう」


……プラス、旭教授。


(;^ω^)「でもこっちはヒヤヒヤしてましたお」

(-@∀@)「なんだ、この私が失言するとでも思っていたか?」

(;^ω^)「いえ、そういう意味じゃ……」


さすがの内藤医師もタジタジだ。
だが、私はこういう人は嫌いでは無かった。


(-@∀@)「……で、君がクランケの旦那かい?」

(´・ω・`)「えっ、あ、はい。眉村ショボンと申します」

(-@∀@)「ふん。ひどい面してるな」
164:2011/12/31(土) 07:32:46.54 ID:
(;^ω^)「ちょ……いきなり何失礼な事言ってるんですかお」

(-@∀@)「君もマシにはなったがまだひどい顔をしてるぞ」

( ^ω^)「おい」


旭教授は一歩こちらへ近づき、私の肩に手を乗せてきた。
眼鏡の奥の瞳と目が合う。

なんだかすべてを見透かされそうで、少し怖かった。


(-@∀@)「君は、君の嫁がああなった原因がわかるかい?」

(;´・ω・`)「……は?」

(-@∀@)「今答えなくてもいい。考えておいてくれ」

(;´・ω・`)「は……はぁ」
166:2011/12/31(土) 07:39:44.50 ID:
旭良い奴そうじゃん
167:2011/12/31(土) 07:41:42.71 ID:
妻がああなった原因……。
原因があるとしたら、おそらく私だろう。
私が家庭をないがしろにし、その時に溜まったストレスが、このような形で表れたのだ。

答えは出来ていたが、旭教授は聞こうとしてくれなかった。


(-@∀@)「さて……じゃあ、また頼むよ」

(;^ω^)「またやるんですかお!?」

(-@∀@)「まぁね。大丈夫だ。まちがいは起こさないから」


内藤医師と旭教授は何かを言い合いながら向こうへ行ってしまった。
なんだかんだ言ってあの二人は仲がいいみたいだ。


(´・ω・`)「ところでモララー、さっきからずっと黙っているがどうしたんだ?」

( -∀-)「……あいつが嫌いなんだ」
169:2011/12/31(土) 07:49:31.43 ID:
(´・ω・`)「あいつ……って旭教授がかい?」

( -∀-)「ああ。学生時代、一度だけあいつの回診に同行したんだけど、
     あいつは患者のことをただの教材だって言いやがった。……だから嫌いだ」

(´・ω・`)「……そうなのか」


しかし、私にはそうは思えない。
妻と会話するときの彼は、どう見ても教材相手に会話しているようには見えなかった。

きっと彼の言った教材という言葉には別の意味が含まれているのだろう。


その後、妻に教授回診の感想を聞いたが


ノハ*゚ー゚)「あの人面白い人だったわね。またお話したいわ」


意外にも好評だった。
170:2011/12/31(土) 07:56:34.12 ID:
―10月15日―


残暑も消え、肌寒くなってきた頃。
ついに妻の10年分の記憶が失われた。

これからはさらに気を配らなくてはいけない時期だが……。
正直、もう疲れていた。


妻が入院して二カ月半。
失われた記憶は10年分なのに対し、こちらが得た物は……0。
まだこの病について、何の情報も得ることができないのだ。


(;^ω^)「面目ない……」


内藤医師の頑張りは知っている。
しかし、こうも何も成果が出ないと、諦めそうになるのは仕方ないだろう。
172:2011/12/31(土) 08:05:04.09 ID:
そんな中、一つ気になることがあった。


ノパ⊿゚)「モララー。お見舞いに来てくれるのは嬉しいけれど、学校行った方がよかったんじゃない?」

( ・∀・)「しょーがないだろ?心配だったんだから……」


妻の中では、ここは10年前の世界。
つまり、モララーは妻の中では15歳のはずだ。
確かにモララーは童顔な方だが、いくらなんでも15歳の少年には見えない。
なのになぜ妻は違和感を感じないのだろうか。


( ^ω^)「うーん……ちょっと哲学の話になるお」

( ^ω^)「この世に存在するありとあらゆる物にある本質がまずあって、
      それを僕たちが感じるときに形が決まるって考えがあったんだお」

(;´・ω・`)「ど、どういうことですか?」

( ^ω^)「例えばタンポポがあったとしますお」

( ^ω^)「僕らがそれを見ると、よく見るあのタンポポの形で見える」

( ^ω^)「でも本当はそこには形のないタンポポっていう概念のみが存在しているだけなんだってことですお」
177:2011/12/31(土) 08:14:35.47 ID:
( ^ω^)「だから彼女には、モララーという概念が、15歳のモララーとして形造られているのだと思いますお」


内藤医師が何を言っているのかいまいち理解できなかったが、
とにかく妻には、モララーは15歳のモララーとして映っているのだろう。


ノパ⊿゚)「心配してくれるのは嬉しいけどね、それで学校へ行かないはよくないわ」

(;・∀・)「あー……、もー……」


( ^ω^)「思春期の子供に手を焼くお母さんって感じですおね」

(´・ω・`)「そういえば、ああいう時期もありましたねぇ」


確か、仕事から帰って疲れてるのに、モララーに関する愚痴を聞かされていた気がする。
もっとも私はまともに聞く耳を持たず、適当にあしらっていたが。
178:2011/12/31(土) 08:19:00.05 ID:
今まで嫁にやり残した事、してやれなかった事を取り戻せるのか
でもそれさえも結局は失われていく…切ないな
179:2011/12/31(土) 08:23:43.24 ID:
その日の午後。
休憩所でぐったりとしているモララーを見つけた。
私は自販機で缶コーヒーを二本買ってきて、そのうち一本をモララーに渡す。


( ・∀・)「……勤務中なんだけど」

(´・ω・`)「だったらそんなとこでぐったりするな。コーヒー飲んでシャキッとしろ」

( ・∀・)「……はいよ」


コーヒーをあけて、モララーが一口飲んだ。
……そういえば、モララーとも大分打ち解けたような気がする。

ただまだ何かわだかまりが残ってはいるが……。
それが何かわかれば、きっとモララーとの関係もよくなるはずだ。


(´・ω・`)「しかし何であんなにぐったりしていたんだ。……母さんか?」

( ・∀・)「……まあね。さすがにあんなくどくど説教されたら疲れる」
181:2011/12/31(土) 08:34:01.46 ID:
( ・∀・)「……でも、懐かしかったな。もうあんなに説教されることもないだろうし」

(´・ω・`)「ははっ……それも大切な思い出か……」


自分もコーヒーを飲んで一息ついた。
自然と大きなため息が漏れる。


( ・∀・)「……なんだよ。ため息なんかついて」

(´・ω・`)「いや……少し、疲れてきてね」

( ・∀・)「疲れたって?」

(´・ω・`)「ああ……。もう二カ月以上母さんに付きっきりだけど、病気を治す方法は見当たらない」

(´・ω・`)「それでも母さんの記憶はどんどん失われていって……」

(´・ω・`)「そう考えたら、すっかり疲れてきちゃったんだ」



( ・∀・)「……それでまた見捨てるのか」
183:2011/12/31(土) 08:44:12.53 ID:
ショボン様……
184:2011/12/31(土) 08:44:30.86 ID:
(´・ω・`)「……は?」

( ・∀・)「また母さんを見捨てるのかって言ったんだ」

(;´・ω・`)「そんな、見捨てるなんて……それに私は母さんを見捨てたことなんて一度も……」

( ・∀・)「ないとでも言うつもり?それとも気づいてないの?」

(;´・ω・`)「お前はいったい何を言って……」

(#・∀・)「とぼけんなよ!母さんがすごい苦しんでた時に何もしなかっただろあんたは!!」

(;´・ω・`)「苦しんでた?いったいいつの話だ?」

(#・∀・)「俺が中学の時だよ!!あんた本当に気づいてなかったのか!?」


モララーが中学の時といえば、係長になって馬車馬のように働いていた時期だ。
残業は当たり前だし、しょっちゅう出張に出かけていた。

家庭の方に目を向ける事なんて、ほとんどなかったろう。
185:2011/12/31(土) 08:50:42.32 ID:
(#・∀・)「信じらんねーよ!!それで良く母さんの夫だって言えるな!!」

(#・∀・)「毎朝早く起きて飯つくって洗濯して、夜は毎晩毎晩あんたが帰ってくるまで待ってて!!」

(#・∀・)「なのにあんたは面倒くさそうに母さんをあしらって!!」

(#・∀・)「俺が悪いことやった時に説教するのはいつも母さんだった!!」

(#・∀・)「お前は今まで何回俺を叱った!?何回俺を殴った!?」

(#・∀・)「休日は疲れてるからと朝から夕方まで寝てただろ!!俺が小学校行ってから何回家族で旅行に行った!?」


(#・∀・)「お前はいつ父親らしいことをしたんだよ!!!」


(;´・ω・`)「……」


ここまで怒ったモララーを私は今まで見たこと無かった。
モララーを叱った記憶もないし、モララーを殴ったのはこの前が初めてだ。

旅行に連れて行ったことも、数えるほどしかない。


私はいつ、父親らしいことをしたんだ。
186:2011/12/31(土) 08:54:05.61 ID:
モララー……(´・ω・`)
187:2011/12/31(土) 09:00:30.79 ID:
(#・∀・)「答えれねぇだろ!!なんなんだよあんたは!!」

(#・∀・)「だからあんたは―――」


スパァン!!


(;´・ω・`)「なっ……」


この前私が叩いたときよりも大きな音がして、モララーの言葉は中断された。
もちろん、叩いたのは私ではない。


(;#)∀)「ってぇ……」

|゚ノ  Д )つ


そこにいたのは、あの看護婦だった。
きっと騒ぎを聞いてここまで来たのだろう。
189:2011/12/31(土) 09:07:39.92 ID:
|゚ノ#^Д^)「甘ったれるんじゃないわよ!!」

|゚ノ#^Д^)「父親ってのはねぇ、家庭を養うために汗水垂らして働いてんのよ!!」

|゚ノ#^Д^)「いつ父親らしいことをしたかって?そんなの答えるまでもないでしょ!!」

|゚ノ#^Д^)「家族のために必死になって働いたこと。これが立派な父親の仕事でしょうが!!」


あの明るくて優しそうな雰囲気からは考えられない姿だった。
鬼の形相でモララーに怒鳴り散らしている。
モララーも何も言い返せずに黙ったままだ。


|゚ノ#^Д^)「それから!!」

(;´・ω・`)「は、はいっ……?」


今度はこちらの番だった。
まだ若いというのに、随分迫力がある。
191:2011/12/31(土) 09:15:00.22 ID:
|゚ノ#^Д^)「あなた父親でしょう!?なに子供に好き勝手言わせてるの!?」

|゚ノ#^Д^)「あんな生意気なこと言う奴はひっぱたいて怒鳴ってやればいいのよ!!何怯んでんの!?」

|゚ノ#^Д^)「そんなんじゃねぇ、あなたに文句言わずについてきた奥さんがかわいそうだわ!!」


(;´・ω・`)「ヒート……が……?」


|゚ノ#^Д^)「そうよ!奥さんが一番辛かったとき、あなたはそれを知らなかったんでしょ?」

(;´・ω・`)「ああ……だから私は……」

|゚ノ#^Д^)「ちっがーーーーう!!」

|゚ノ#^Д^)「辛そうな人がいたら、気づかないわけないでしょ!!」

|゚ノ#^Д^)「だから奥さんはあなたにそれを気づかせないようにしたのよ!!」


(;´・ω・`)「そんな……ヒートが?」
192:2011/12/31(土) 09:22:18.31 ID:
(#)∀・)「でも……それに気づけないのはひどいんじゃないか……」

|゚ノ#^Д^)「だからあんたはガキなのよ!優しくされることだけが女の幸せじゃないのよ!」

(´・ω・`)「……レモナさん。もういい。それにあまり騒ぐと周りに迷惑がかかる」

|゚ノ#^―^)「ぐ……。わかりました」


(´・ω・`)「モララー……」

(#)∀・)「……なんだよ」


(´・ω・`)「……すまなかった」

(#)∀・)「な……っ!あ、謝ったって俺は……」

(´・ω・`)「私は、お前に父親らしいことをしてやれなかった……すまない」
194:2011/12/31(土) 09:30:30.85 ID:
今まで私はモララーに何をしてしまったのかと考えていた。
そりゃあ心当たりがないはずだ。

……私は何もしてやってなかったのだから。


(´・ω・`)「レモナさんはああ言ったが、母さんが辛い思いをしていたのに気づけなかったのは私の責任だ」

(´・ω・`)「当時の私は仕事のことしか頭になかったから……」

(#)∀・)「……」


(´・ω・`)「でも信じてほしい。その仕事だって、お前たちのためにやっていたんだ」

(´・ω・`)「あの頃は貧しかったから、必死に働いて稼がないとと思ったんだ……」

(´・ω・`)「だから私は母さんを見捨てるようなことはしない。例えどんな結果が待っていようと、最後まで付き添ってやる」


(#)∀・)「……」
195:2011/12/31(土) 09:41:01.72 ID:
(#)∀・)「……まだ、許したわけじゃない」

(´・ω・`)「……ああ、構わない」

(#)∀・)「許して欲しかったら……さっきの言葉、絶対守れよ」

(´・ω・`)「当たり前だ。最初からそのつもりだ」

(#)∀・)「……じゃあいいよ。……今まで色々と悪かったね」



(#)∀・)「……父さん」

(´・ω・`)「モララー……」


(´・ω・`)「……じゃあ、そうだな。まずは今まで叱ってやらなかった分、ここで説教してやろう」

(;#)∀・)「……………………は?」

(´・ω・`)「まず最初にな、モララー。お前ここでぐったりと情けない格好してただろう。
     それも勤務中に他の患者さんに見られかねない場所で。
     これは社会人として最悪の行為だぞ。勤務中はもっと自分の行動に責任をもってだな……」

(;#)∀・)「あー……、もー……」
196:2011/12/31(土) 09:47:06.82 ID:
その夜。
私はモララーの言葉をもう一度思い出していた。

妻はモララーが中学の時代に苦しんでいたとモララーは言った。
つまり今、ちょうど彼女の中ではその時期なのだ。


(´・ω・`)「なぁ……ヒート」

ノパ⊿゚)「なに?」

(´・ω・`)「すまなかったな……気づいてやれなくて」

ノパ⊿゚)「どうしたの?突然……」

(´・ω・`)「……辛かっただろう?家のことを全部まかせっぱでさ」

ノパ⊿゚)「……それを言ったら、私だって謝らなければいけないわ」

(´・ω・`)「……どうして?」

ノパ⊿゚)「だって……あなたが一生懸命働いて、大変な思いしてるのに……あなたの助けになってあげられなかったのだもの」
197:2011/12/31(土) 09:50:41.52 ID:
家族を蔑ろにしてた時期に遡って謝罪出来るってか
でもそれも忘れられるってのは寂しいな
198:2011/12/31(土) 10:01:13.79 ID:
(´・ω・`)「そんなの気にしなくていいのに……」

ノパー゚)「ふふ。私も同じよ」

ノパ⊿゚)「あなたはあなたのできること、私は私のできることをやっただけ」


ノパ⊿゚)「ただ、モララーにはちょっと辛い思いさせちゃったかもしれないわね……」


(´・ω・`)「そう……だな……」



男が稼ぎ、家事は女がやるというのは昔から言われている。
ただし子育ては夫婦二人三脚でやらなくてはならないのだ。

……もしかしたら私が家庭をないがしろにしたために一番不幸になったのはモララーだったのかもしれない。
201:2011/12/31(土) 10:09:41.96 ID:
―1月7日―


年が明けた。
内藤医師は正月も私たちに付き合ってくれた。
本当に彼には頭が上がらない。


さて、以前、彼女の中の年齢と明らかに違うモララーを見ても、
なぜ彼女が違和感を感じないのかという話があった。
結局あまり理解できずに終わったが、一つだけ懸念していた事があった。


それは一体何歳のモララーまで錯覚することができるのかということ。
そして、彼女が錯覚できないところまで言ったらモララーはどうなるのか……。


その恐れていた事が起きたのが、その日だった。


( ^ω^)「こちらに今日の日付と、氏名、年齢、住所をお願いしますお」

ノパ⊿゚)「あの……」
202:2011/12/31(土) 10:16:12.28 ID:
( ^ω^)「どうかしましたかお?」


ノパ⊿゚)「あちらのお医者様は……どういう?」


(;´・ω・`)「……え?」


妻の視線の先にいるのは、モララーだ。
私たちの息子の、モララーだ。

モララーは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに笑顔になって


( ・∀・)「研修医で内藤先生の補佐をしています、モララーと申します。よろしくお願いします」



……そう、言った。
204:2011/12/31(土) 10:21:49.74 ID:
モララー…(ノД`)
206:2011/12/31(土) 10:27:21.97 ID:
ノハ*゚⊿゚)「あら、あなたもモララーっていうの?実はね、2歳になる息子もモララーって言うの」

( ・∀・)「へぇー。そうなんですか。奇遇ですね」


―――ダメだ


ノハ*゚⊿゚)「うちのモララーも、あなたみたいなかっこいいお医者さんになれたらいいわねー」

( ・∀・)「モララーくんがお医者さんを目指すんだったら、きっとなれますよ」


―――やめてくれ


ノパ⊿゚)「……あれ?そういえばうちのモララーは?あなた、モララーはどこ?まさか家に置いてきたんじゃ……」


―――やめろ


ノハ;゚⊿゚)「ねぇあなた、モララーは?ちゃんと連れてきているわよね?」

(´;ω;`)「いるよ!いるから!!モララーはちゃんとここにいるから!!だから……安心してくれ……よ」


ああ、神はなんて残酷なんだ。
目の前に息子がいるのに、息子を探す母親があるか。
こんなの、残酷すぎる。
207:2011/12/31(土) 10:34:46.62 ID:
部屋を出て、廊下でいつものミーティングをする。
しかし誰も、何も言い出さなかった。


( ・∀・)「……大丈夫だよ。いつかこうなるのは、わかってたから」

(  ∀ )「……先生、病気ってひどいよな。だから医者は頑張らないとな」

(  ∀ )「……なぁ、父さんもそう思うだろ?なんか言ってくれよ……なぁ」


モララーの声が震えている。
私は、もう涙をこらえることは出来なかった。
内藤医師も、目尻に涙を浮かべていた。


( ;∀;)「っぐ……くそ……っ……ふぐっ……なんでだよ……」

( ;∀;)「なんで……忘れちまうんだよ……!!」


モララーはその場に泣き崩れた。
私に出来ることと言えば、そんな息子の肩を優しく抱きしめてやることくらいだった。
208:2011/12/31(土) 10:40:58.29 ID:
―1月27日―


あれから日は流れ、モララーも大分落ち着いた。
そんな中、私を驚かせる事件が起きた。

その日、朝起きた時にはまだモララーも内藤医師もいなかった。
なのに妻が起きていて、私におはようと声をかけてきたのだ。


(´・ω・`)「あぁ、ヒートおは」



(´・ω・`)



(´・ω・`)ピッピッピッ



私は、気がついたらPHSで303と押していた。
210:2011/12/31(土) 10:45:17.25 ID:
(´・ω・`)「もしもし」

『どうしましたお?まだ5時前……はっ!!もしかして何か緊急事態が!?』

(´・ω・`)「うん。めっちゃ緊急事態」

『わかりましたお!ダッシュでそちらに向かいますお!!』


ノハ*゚⊿゚)「どうした?」

(´・ω・`)「いや、ちょっと混乱してて、ね」

ノハ*゚⊿゚)「そういえばなんでショボンがここにいるんだ?昨日はここに泊まってったっけ?」

(´・ω・`)「うーん。とりあえず混乱しててわかんない」


ノハ*゚⊿゚)「そっか。じゃー落ち着くまでゆっくりしてるといいぞ!」

(´・ω・`)「そうだね、そうさせてもらうよ」
211:2011/12/31(土) 10:51:12.70 ID:
( ^ω^)

( ・∀・)

(´・ω・`)

ノハ*゚⊿゚)「?」


( ^ω^)「順調ですお。これなら来月くらいには生まれますお」

ノハ*゚⊿゚)「来月か!楽しみだな!なっ!ショボン」

(´・ω・`)「そうだね、楽しみだね」

ノパ⊿゚)「ん?なんか楽しそうじゃないな、どうした?」

(´・ω・`)「あー楽しみ!すっごい楽しみだー!」

ノハ*゚⊿゚)「だよな!!楽しみだ!!」
212:2011/12/31(土) 10:58:51.87 ID:
にん…しん…?
213:2011/12/31(土) 10:59:49.60 ID:
そうして廊下に出て、いつものミーティングを行う。
もちろん議題は……


( ・∀・)「……ねぇ、何母さんのあのお腹」

(´・ω・`)「太ったのとは明らかに違うよね」

( ^ω^)「……どう見ても妊婦のおなかでしたおね」


( ・∀・)

(´・ω・`)


( ^ω^)「いや、想像妊娠ですお。そんな目で僕を見ないで」


……そう、朝起きたら、妻のお腹が妊婦並みに膨れ上がっていたのだ。
214:2011/12/31(土) 11:07:57.38 ID:
( ^ω^)「彼女の中の年齢は25歳……ちょうどモララーを生む歳ですおね」

(´・ω・`)「日付はいつですか?」

( ^ω^)「えーっと……4月10日って書いてありますお」

( ・∀・)「うわ、僕の誕生日じゃん」

(;´・ω・`)「突然破水したりしませんよね……?」

( ^ω^)「しませんお。あくまで想像妊娠ですから」


( ・∀・)「……で、想像妊娠も驚いたけど」

( ・∀・)「どうしたの?母さんの口調」

(´・ω・`)「ああ……そういえば、昔はあんな口調だったんだよ」

(´・ω・`)「でも、モララーが生まれて、少し女っぽくしようとして、今の口調に変わったんだ」
216:2011/12/31(土) 11:17:42.22 ID:
( ・∀・)「へぇ……そんなことがあったんだ」

( ^ω^)「ありますおね。子供が出来るからって口調を変えるのは」

(´・ω・`)「本当に懐かしいですね」


( ・∀・)「……それと、母さんすごい楽しそうだったよな」

(´・ω・`)「当たり前だ。子供ができたんだからな」

( ・∀・)「父さんもあんな感じだった?」

(´・ω・`)「ああ……、母さんには負けるが、結構はしゃいでたな」

( ・∀・)「へぇ……」

( ^ω^)「モララーも子供作ればわかるお」

(´・ω・`)「でもまずは相手探しだな」

(;・∀・)「う、うるさいなぁ!!
220:2011/12/31(土) 11:29:30.96 ID:
―3月9日―


25歳というのは節目の時期だった。
モララーが生まれる歳だったり、口調が変わる歳だったり。

そして我々が特に気を配らなければならない時期でもある。
そう、若返り病で自殺する人間が多い10代~20代前半のラインに入るのだ。



( ^ω^)「……と、いうわけで救急車で運ばれてきたんですお」

ノハ;゚⊿゚)「マジか!?うぉぉぉぉぉ!なんか後頭部が痛くなってきたぞ!?」

(´・ω・`)(打ってないのに……)


……ただ、こんな妻を見ていると、心配するだけ無駄なような気もしてくる。
222:2011/12/31(土) 11:35:39.06 ID:
今気づいたが作者は12時間ぶっ続けで投下してるのか
すごいな・・・・・・
225:2011/12/31(土) 11:41:21.48 ID:
ノハ;゚⊿゚)「しっかし風呂場ですっころぶなんてな……。やっぱりショボンの言うとおり車の免許はとらない方がいいのかな……」

(´・ω・`)「私が?」

ノパ⊿゚)「……ん?どーした?突然『私』なんか言い出して。いっつも『僕』だったろ?」

(´・ω・`)「あ……」


そういえば、この頃は一人称は僕だった。
たしか、仕事に精を出し始めた頃に私と言うようになったのだっけ。


(´・ω・`)「僕、ヒートに免許取るななんて言ったっけ」

ノパ⊿゚)「言ったぞ!!ヒートはそそっかしいしおっちょこちょいだからやめてくれ!ってな」

(´・ω・`)(あー……。そういえばそんなことを言ったかも)
226:2011/12/31(土) 11:43:11.57 ID:
年取ってもヒートかわゆ
230:2011/12/31(土) 11:54:45.49 ID:
たしかこの時期が一番幸せだったような気がする。
まだ仕事と家庭を両立していて、家では妻との会話が絶えなかった。

このままの調子でずっとこれたら……。
今ごろ、どうなっていたのだろうか。


(´・ω・`)「ねぇ、ヒート」

ノパ⊿゚)「ん?」

(´・ω・`)「君は幸せかい?」

ノハ*゚⊿゚)「おう!幸せだ!」


ノパ⊿゚)「あとは子供がいれば言うことなしなんだがな……」

(´・ω・`)「まぁ、そのうちね……」
232:2011/12/31(土) 12:04:51.46 ID:
その日はいろいろ妻と語り合った。
もう30年近く昔のことだ、忘れていることもたくさんあった。

キラキラした大切な何かを取り戻すことが出来たような気がした。


そうやってひたすらに語り合っていると、1日があっという間に過ぎ去っていった。

夕食の時間、いつも通り私は売店へ向かい、自分の夕食を買ってくる。
そこからの帰り、また部屋から内藤医師が出てくるのを見た。
そういえば、売店に行った帰りに彼のそんな姿を見ることが多い気がする。


(´・ω・`)「夕飯買ってきたよ」

ノハ;゚⊿゚)「うおおおおお!?びっくりしたぁ!!」

(;´・ω・`)「な、なに?なに?」


ノハ;゚⊿゚)「び、びっくりするからノックしてから入ってこいよ!」

(;´・ω・`)「えぇぇ……今までそんなこと一言も言わなかったのに……」
235:2011/12/31(土) 12:14:34.41 ID:
これは素晴らしい
236:2011/12/31(土) 12:16:41.88 ID:
後は夕食を食べて眠るだけ。
そんななんでもない一日がただただ幸せだった。


(´-ω-`)(もし……ヒートと一緒に老後を過ごせたら……こんな毎日なのかなぁ……)







ただ、その晩は不思議な夢を見た。
妻が本らしき物を片手に、泣きながら「ありがとう」と「ごめんな」を繰り返すのだ。

妻の泣き声や病室の雰囲気が妙にリアルな夢だった。
238:2011/12/31(土) 12:21:56.99 ID:
泣いた
240:2011/12/31(土) 12:28:49.95 ID:
―5月5日―


ゴールデンウイークでも、内藤医師に休みはない。
なんだか私たちのために休日返上で働いてくれている気がする。

そんなわけでその日は久々に外へ出て、内藤医師へのプレゼントを買ってくることにしたのだ。

大型スーパーの場所はモララーに教えてもらった。


(´・ω・`)(さて……なにを買おうか)


内藤医師が基本的に病院に籠もりきりのことを考えると、食料品や衣類はあまりよくない気がする。
食料品は保存場所がないし、衣類に関しては指定の白衣を着ている彼に他の服をあげてもあまり意味がないだろう。


(´・ω・`)(やっぱり疲れがたまってるだろうから、小型のマッサージ機でも買っていこう)
241:2011/12/31(土) 12:34:29.66 ID:
人に忘れられるって怖いね
242:2011/12/31(土) 12:35:03.26 ID:
がんばれ
243:2011/12/31(土) 12:38:47.47 ID:
とりあえず、小さなマッサージ機と、冷たいアイマスクを購入した。

その帰りに、私はなんとなく書店によってみた。
特に理由はない。
ただ書店があったからなんとなく入ってみた、それだけだ。


その書店の人気図書の欄に見慣れた顔が表紙に印刷された本があった。
内藤医師だ。

どうやらその本は内藤医師の自伝らしい。
気になったので思わず立ち読みしてしまった。


(;´・ω・`)「……」


ある程度読み進めたところで、私は本を閉じた。

その本を購入し、決して開かぬままに病院へと急いだ。
245:2011/12/31(土) 12:50:21.90 ID:
妻のことが書いてあったのか…
247:2011/12/31(土) 12:56:47.48 ID:
病院に戻ると、休憩所に内藤医師はいた。


( ^ω^)「あれ……?ショボンさん、どうしたんですかお?それ……」

(´・ω・`)「いつもお世話になってるので、プレゼントです」

(;^ω^)「えぇっ!?いや、いいですお!そんなの!僕は医者として当然のことをしたまでで……」

(´・ω・`)「いえ……先生は私達に非常によくしてくれています」

(´・ω・`)「なんて親切な人なんだろうって……そう思いました」


(´・ω・`)「でも、私達に特に親切にしてくれるのには、他に理由があったんですね……」


私はカバンから、先ほど書店で買った本を取り出し、テーブルの上に置いた。

それを見て内藤医師の表情が変わる。
249:2011/12/31(土) 13:06:39.89 ID:
( ^ω^)「……それ、読んだんですかお?」

(´・ω・`)「はい」

( ^ω^)「読んだ感想はいかがでしたかお?」

(´・ω・`)「似てる……と思いました。……私と」



内藤医師には幼なじみの恋人がいた。
本当に小さな頃からの付き合いであったらしい。

二人は結婚し、娘を一人も授かった。

ところが内藤医師はひたすらに医の道を進んだ。
時には一週間病院に篭もりきりってこともあったらしい。


理由は、彼の奥さんの脳には先天的な病があり、それの治療法を探すためだと。
251:2011/12/31(土) 13:08:13.76 ID:
なるほど……
255:2011/12/31(土) 13:21:08.62 ID:
( ^ω^)「当時の僕はそれが当然だと思っていたんですお」

( ^ω^)「妻のために、家庭を犠牲にしてまで必死に病気の治療法を探す……」


( ^ω^)「それが僕たちの夢だったから……」


しかし、内藤医師がその治療法を確立する前に、奥さんは亡くなってしまった。
内藤医師は死に目にも会えなかったという。

( ^ω^)「妻が……ツンが死んで、ようやく僕は自分の過ちに気づいたんですお」

( ^ω^)「だって、結婚してからのツンとの思い出が……全然なかったから……」

( ^ω^)「娘も私に愛想を尽かし、どこかへ行ってしまいましたお」


( ^ω^)「今じゃ、どこでなにをしているのかわかりませんお……」
256:2011/12/31(土) 13:22:02.68 ID:
ツン・・・・・・・
257:2011/12/31(土) 13:27:20.97 ID:
先生…
259:2011/12/31(土) 13:28:57.45 ID:
ブーン先生……
264:2011/12/31(土) 13:40:58.14 ID:
家族の為に仕事に没頭し、結局はそれが裏目に出てしまう。
私の境遇とそっくりだった。

ただ、私と内藤医師とで違ったのは……


( ^ω^)「……僕は自分の過ちに気づいた時にはもう何もかも手遅れでしたお」

( ^ω^)「……助けたかった人は死に、娘には逃げられ、仕事を辞めようにも辞められない立場に祭り上げられた……」

( ^ω^)「ゴッドハンドっていう呼称なんて、僕にしてみればある種の呪縛ですお」


( ^ω^)「だけど、そんなどん底の状態から僕を救ってくれたのが……旭教授なんですお」

( ^ω^)「君は君の愛する人を守るためにその技術を得た。そして君は君の愛する人を失う辛さを知っている」

( ^ω^)「だから君はその技術を、誰かの愛する誰かを守るために生かせばいい。君のような苦しみを味わう人を減らすために」

( ^ω^)「……教授はそう言いましたお」
271:2011/12/31(土) 13:48:11.99 ID:
あさぴー・・・
272:2011/12/31(土) 13:50:13.62 ID:
あさぴーが思ったよりもいい人だった
298:2011/12/31(土) 15:06:11.58 ID:
( ^ω^)「だから僕はこの技術を、ショボンさんの愛する人を守るために使いたいんですお」

( ^ω^)「そのためには身を粉にして努力するつもりでいますお」


(;´ω`)「なのに少しも成果が出ないから本当に申し訳なくて面目無くて……」

(´・ω・`)「先生……」


旭教授も残酷な人だ。
彼は内藤医師をゴッドハンドの呪縛から解き放つのではなく、
その呪縛を受け入れさせることで内藤医師を救ったのだ。


(´・ω・`)「先生」

( ^ω^)「おっ……?」

(´・ω・`)「ヒートの病気が治ったら、飲みに行きましょう」

( ^ω^)「……おっ!いいですおね!」


私は願う。
いつか、彼が呪縛から抜け出し、自ら幸せを掴みに行くことを。
300:2011/12/31(土) 15:13:08.88 ID:
―7月20日―


時間というのは不思議だ。
妻が入院してからもうまもなく一年が経とうとしている。
なんと早い一年だろうか。

一方、私たちとは違う時を生きている彼女は……



( ^ω^)「えーと、ヒートちゃんはいくつですか?」

ノパ⊿゚)「4つ」

( ^ω^)「今日は何日かわかるかな?」

ノハ*゚⊿゚)「もくよーびー!!」

( ^ω^)「惜しいなー。今日は水曜日だ」


( ・∀・)「……」

(´・ω・`)「もう4歳……か」
301:2011/12/31(土) 15:15:25.83 ID:
うわあああああああああああああああ
302:2011/12/31(土) 15:17:33.71 ID:
惜しいなーじゃねーようわああああああああああああああ
304:2011/12/31(土) 15:21:03.33 ID:
最初、1ヶ月間の記憶が無くなっていただけで大騒ぎしていた頃からは考えられないだろう。
まさか40年以上の記憶が無くなるとは。


……見た目は50代のおばさんなのに、中身は無垢な幼稚園児。
そのギャップはなかなかクる物がある。

モララーも最近はあまり妻のそばに来ることが無くなった。
やはり、母親のこんな姿を見るのは辛いのだろう。


内藤医師ももうなりふり構わず治療法を調べている。
この前ドイツ語とロシア語の論文を見ながら何か呟いていたときは驚いた。


それで、私はというと……


ノハ*゚⊿゚)「ショボーン!好きー!」

(´・ω・`)「僕もヒーちゃんのこと大好きだよ」

ノハ*゚⊿゚)「んじゃねー、おっきくなったら、およめさんにしてくれる?」

(´・ω・`)「大きくなったらと言わず、今すぐおよめさんにしてあげるよ」

ノハ*゚⊿゚)「わーい!!」
305:2011/12/31(土) 15:21:16.82 ID:
戻る時間の途中で、病気の引き金になった事件に気付いて
解決する流れだと思ってたのに・・・
この先生きのこれるのかこれ
306:2011/12/31(土) 15:29:44.85 ID:
……私はなるべく妻のそばを離れないようにしていた。
目を離すと危ないということもあるし、それに残り少ない彼女との時間を大切にしたいという気持ちもある。


ノハ*゚⊿゚)「だいすきー!」

(´・ω・`)「僕も大好きだ、ヒーちゃん」


( ・∀・)「……」


(´・ω・`)「……どうした?モララー」

( ・∀・)「父さんはさ……虚しくないの?」

(´・ω・`)「何がだ?」

( ・∀・)「母さん、みんな忘れちゃったんだよ?父さんと遊びに行ったことも、結婚したことも、みんなみんな」

(´・ω・`)「…………」


(´・ω・`)「……確かに、虚しい」
307:2011/12/31(土) 15:34:56.35 ID:
超面白いんだが
308:2011/12/31(土) 15:38:19.84 ID:
(´・ω・`)「忘れていく、変わっていくのは虚しいし、悲しい」

(´・ω・`)「けどな、モララー。どんな姿になっても母さんは母さんなんだ」

( ・∀・)「そうだけど……」


( ・∀・)「俺は……やっぱり嫌なんだ。母さんの、そんな姿を見るのは……」

(´・ω・`)「モララー……」


ノパ⊿゚)「ショボーン、あそぼー?」

(´・ω・`)「あ……ああ。うん。何して遊ぶ?」



どんな姿でも、ヒートはヒート。
私は愛することができる。

そう、信じていた。
310:2011/12/31(土) 15:47:21.50 ID:
―7月26日―


ノパ⊿゚)『……もし私が、あなたの知っている私じゃ無くなったら、どうする?』


それでも私は、妻を愛せると思った。
ずっとそばにいてやれると思っていた。



ノパ⊿゚)「うー?」

(;^ω^)

ノパ⊿゚)「あーやーぅーう」

(  ∀ )

ノパ⊿゚)「うだゃーうーあ」

(´・ω・`)
311:2011/12/31(土) 15:52:46.42 ID:
いやあああああああああああああああ
313:2011/12/31(土) 15:54:08.39 ID:
ベッドの上で転がる『それ』はよだれを垂らし、
服がはだけて下着が見えるのも構わずうぞうぞと蠢いていた。

ぴちゃぴちゃと指を舐めまわし、変な生き物を見るかのようにこちらを見つめてくる。


(  ∀ )「あ……ああ……」

ノパ⊿゚)「だーうー?」

( ;∀;)「あああああああああああああああああああああああ!!」


(;^ω^)「あっ!モララー!!」


最近様子がおかしかったモララーにも限界が来たようだ。
『それ』を見て叫び、走ってどこかへ行ってしまった。


(´・ω・`)


ところで、私の愛する妻はどこへ行ったのだろう。
315:2011/12/31(土) 16:00:23.27 ID:
ぐぬぬ
316:2011/12/31(土) 16:00:56.87 ID:
うわあああああああああああ!!
317:2011/12/31(土) 16:03:17.28 ID:
自殺の心配はなくなったけど…
318:2011/12/31(土) 16:05:13.85 ID:
(;^ω^)「ぐぬぬ……旭教授もこんな日に教授回診を入れなくても……」


(´・ω・`)


旭教授が来るのか。
ヒートは旭教授の話が好きだから大歓迎だ。
でも肝心のヒートがいないのに、旭教授は何しに来るんだろう。


教授回診の時間はすぐにやってきた。
ハゲチビメガネの旭教授がまず部屋に入ってきて、その後に金魚のフンがぞろぞろとついて来る。
そういえば、最初の頃と比べて、フンの数が減ったような気がする。

便秘か?


(-@∀@)「……内藤先生、これは」

(;^ω^)「はい……乳幼児期レベルまで記憶が消失しましたお」
320:2011/12/31(土) 16:06:15.17 ID:
Oh...
323:2011/12/31(土) 16:13:59.85 ID:
ノハ;゚⊿゚)「ふぇ……え……」


急にたくさんの人間に囲まれて驚いたか、『それ』はビクビクしていた。
まるで動物園の動物と観客だ。
でも、柵がないから危ないなぁ。


ノハ;⊿;)「い……ぃぇぇぇ……かふっ……ぇぇぇええ」


ノハ;⊿;)「びぇぇぇぇええええええ!!うええええええええ!!」


かわいそうに、怖かったのか泣き出してしまった。
確かに、動物園の動物にしては人との距離が近すぎるか。
まぁ、全身真っ白の人間大勢に囲まれたら普通の動物じゃなくても怖いだろう。

私だって怖い。
325:2011/12/31(土) 16:22:13.78 ID:
ノハ;⊿;)「うぎゃあああああああぉぉぉぉぉぉおおおああああ!!」


『それ』の股下あたりのシーツが濡れて、シミが一気に広がっていく。
どうやら漏らしたみたいだ。

ああ、おしっこくさい。


ノハ;⊿;)「あおおおおおおっおっあっあああああああぁぁぁぁぁ!!!」ブリュッ…ブブブブッブブッ


……ん?
なんか屁と一緒に何かが出るような音が……。

あ、うんこくさいや。


オシッコを漏らすと同時に、脱糞までしたとわかった途端、自分の中で何かが弾けた。




(´;ω;`)「っぷははははははははははは!!ぎゃははははははははははは!!!」
328:2011/12/31(土) 16:23:42.62 ID:
これは………
331:2011/12/31(土) 16:32:27.93 ID:
ショボン…
333:2011/12/31(土) 16:33:34.73 ID:
(;^ω^)「しょ、ショボンさん!?」

(´;ω;`)「あっははははははははははははは!!!こ、こいつうっひひひひひひひ!!小便だけじゃなくてうんこも漏らしやがった!!!」


白衣を着た金魚のフン達はぽかんとしている。
でもなかなか気分が悪そうな奴も多い。
そりゃあ目の前で脱糞されたら気持ち悪いか。
じゃあなんでここに来たんだろう?


(´;ω;`)「くひひひひひひひひ!!おい!お前ら!!なにぼーっと突っ立ってんだよ!もっと近くで見ろよ!!」


せっかく誘ってんのに誰も来ない。
なんなんだ一体。


(´・ω・`)「おいおい学生諸君ー?キミタチはこーゆーのを見に来たんじゃないのかねー?んー?」

(´^ω^`)「だったらもっと近くでみないと賢くなれないよー?」
335:2011/12/31(土) 16:34:19.49 ID:
うわあああああああぁぁぁ
338:2011/12/31(土) 16:39:00.31 ID:
ええ・・・
340:2011/12/31(土) 16:41:10.80 ID:
でももうここまで知能が下がったら自力じゃ自殺出来ないよな
342:2011/12/31(土) 16:42:23.40 ID:
誘ってるのに誰も来ない。
なんなんだこいつらは。


(#´゚ω゚`)「なんなんだよ!てめーら!!みせもんじゃねーぞ!!」

(´゚ω゚`)「ここっていつから動物園になったんだ!?ん!?餌はどこで売ってますかー!?」


(;^ω^)「しょ、ショボンさん!落ち着いてくださいお!!」

(´・ω・`)「ああ、内藤先生。大変ですヒートがいないんです」

(;^ω^)「ショボン……さん?」

(´・ω・`)「大変だなー外行っちゃったのかなー大変だよー」

ノハ;⊿;)「びぇぇぇぇええええええ!!!!」

(#´゚ω゚`)「だぁぁぁぁあ!!うっせぇなぁ!!ヒートどこ行ったんだよぉ!!あぁん!?」
344:2011/12/31(土) 16:51:59.43 ID:
……私はどこか遠くからその光景を見ていた。
泣き叫ぶヒート、そのすぐ横でわめき散らす私。

内藤医師は私の後ろで膝をつき涙をながしている。
そのすぐとなりで旭教授は、顔色一つ変えず私とヒートの醜態を眺めていた。

学生達は全員ひどい顔色をしていて、中には泣き出す生徒もいた。

怒声と泣き声が支配する空間。



(-@∀@)「生徒諸君。しっかりと彼らを見ろ。彼の叫びを聞け。そして絶望しろ」



旭教授のその言葉は、喧騒にかき消されることなく、部屋中に確かに響いた。
私は暴走する自分自身を見ながら、旭教授のの言葉の意味を考えていた。

ふと、モララーが言われた『教材』という言葉を思い出し、何かに一人で納得することが出来た。
348:2011/12/31(土) 17:00:06.72 ID:
(´ ω `)


私が、私自身を取り戻す頃には、旭教授達の姿は無くなっていた。
病室の清掃と、ヒートの世話はレモナさんがやってくれている。
彼女にも本当に世話になりっぱなしだ。


( ^ω^)「ここにいましたかお」

(´・ω・`)「内藤先生……。すみません。見苦しい姿を……」

( ^ω^)「……あれは仕方ありませんお。正直、モララーとショボンさんがああなってくれなきゃ、僕もどうなっていたか……」

(´・ω・`)「そう……ですか……」



( ^ω^)「やっぱり……辛い、ですおね」

(´・ω・`)「……想像以上でした。……私は、最初、無意識のうちに妻のことを物か動物かのように見ていました」
354:2011/12/31(土) 17:07:24.85 ID:
(´・ω・`)「……私は、もう、妻を愛する自信がありません」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……例え妻がどんな姿でも、私は妻を愛することができると信じていたのに……」

(´・ω・`)「いざ蓋を開けてみれば発狂して現実逃避していただけ……」



(´・ω・`)「私はその程度の人間だったんです」



( ^ω^)「……ショボンさん。僕は一つ、あなたに謝らなくてはいけないことがあるんですお」

(´・ω・`)「謝る……私に?」

( ^ω^)「少し待っていてくださいお」
357:2011/12/31(土) 17:18:13.56 ID:
それから少しして、内藤医師は分厚い本らしき物を持ってきた。
なんだかどこかで見たことがあるような本だった。


(´・ω・`)「先生……それは……?」

( ^ω^)「……どうぞ。……私は中を見ておりませんので」


重たい表紙をパラリとめくると、妻の字で何かがびっしりと書かれていた。
……どうやら、日記のようだ。



『6月14日

若返り病という奇妙な病気にかかってしまい、今日から入院生活が始まります
ショボンにはきっとすごく迷惑をかけることになるでしょう。
あと、私自身が記憶を無くすのは嫌だから、ここに今ままでの記憶をここに書き残すことにします。

もし、私が私でなくなった時、せめてこの思い出だけでもショボンに遺してあげれればと、思います。

さて、今日は―――――
358:2011/12/31(土) 17:21:15.09 ID:
知ってたのかよ(´;ω;`)ブワッ
359:2011/12/31(土) 17:23:14.70 ID:
知ってて…(´;ω;`)
362:2011/12/31(土) 17:29:18.47 ID:
(;´・ω・`)「こ、これは一体……!?」


( ^ω^)「……奥さんに頼まれたんですお。毎晩、ショボンさんにバレないように日記を書かせてくれって。日記の保管は僕に一存して」


(;´・ω・`)「でも、それじゃあ……!」


( ^ω^)「もちろん、危険性についても十分説明しましたお。でも……」



ノパ⊿゚)『大丈夫ですよ。そんなのでどうにかなるなんてことはありませんから』

(;^ω^)『で、でも何があるかわかりませんし……』

ノパ⊿゚)『わかりますよ』

(;^ω^)『お……?』

ノパー゚)『だって、私の体ですもの』
363:2011/12/31(土) 17:30:04.54 ID:
なんという…なんという(´;ω;`)
364:2011/12/31(土) 17:30:50.48 ID:
凄まじいな……
367:2011/12/31(土) 17:41:13.33 ID:
( ^ω^)「……正直、どうなるかとヒヤヒヤしてしましたお」

( ^ω^)「でも……奥さんはとても強い方ですおね」

( ^ω^)「記憶が6歳以下になるまで毎日、ずっと書き続けていましたお」


(;´・ω・`)「すごい……こんなに……」


( ^ω^)「大変だったんですお?ショボンさんにバレないように日記を届けるのは」

( ^ω^)「いつもショボンさんが夕食を買いに売店に行く時を狙って渡してましたお」


(;´・ω・`)「ああ……だからよく売店からの帰りに病室から出てくるのを見かけたんですね」

( ^ω^)「そうですお。初日なんかいきなりバレたかと思ってビックリしましたお」
368:2011/12/31(土) 17:42:59.95 ID:
毎日記憶が消えてるという事は、日記を書く度に病気を告知されなおしてるようなもんで…
うわあああああああ
369:2011/12/31(土) 17:44:50.26 ID:
毎日告知されてたのと同じだもんな…
372:2011/12/31(土) 17:46:33.51 ID:
ページ数の分の絶望か……
375:2011/12/31(土) 17:50:08.83 ID:
内藤医師の話を聞きながら、私は日記に目を通し続けた。
途中途中、いろいろと記憶に新しい話もある。


『想像妊娠って本当にあるんだと思った。……それにしても、モララーにはひどいことをしてしまった。
許されるならば、両手で痛いくらい強く抱きしめてあげたかった』

『もうちょっとで日記書いてるのがばれるとけだった……危ない危ない。
でも、こんな病気にかかった私を守って、ずっとそばにいてくれて、本当に嬉しかった』


そのままパラパラと捲っていくと、巻末のページに何か書いてあるのを見つけた。

そこには、ただ一言




           『幸せになって』




それだけが書いてあった。
378:2011/12/31(土) 17:56:27.88 ID:
ぽた、ぽた、と、日記に涙のしずくが落ちた。
妻は一体、どんな気持ちでこの一文を書いたのだろうか。

私は妻を幸せにしてやれなかった。
なのに妻は、私の幸せを願うのだ。


―――そんなの、不公平だ


(´;ω;`)「私は……ヒートを幸せにしてやらないと……」

( ^ω^)「……だったら、今の奥さんを愛してあげてくださいお」

(´;ω;`)「ああ……!ああ……!」



例え妻が壊れてしまっても、彼女が彼女で無くなったとしても、彼女は彼女だ。
おっちょこちょいで……いつも元気で……そして、強い女性なのだ。
380:2011/12/31(土) 18:00:43.25 ID:
救われてくれ・・・
382:2011/12/31(土) 18:05:31.26 ID:
―8月11日―


彼女が彼女であった頃、彼女は思い出をそれに残した。
彼女が彼女であったという証拠を、彼女はそれに残した。

彼女は自分の持ついろんな何かを、一冊の本に閉じ込めた。
私たちは、その本に勇気づけられ、再び立ち上がる気力をもらった。



そして、代わりに彼女は―――


(´・ω・`)「おはよう、ヒート」

ノパ-゚)

(´・ω・`)「今日もいい天気だ、ほら」

ノパ-゚)

(´・ω・`)「暑くなりそうだね……」



―――――抜け殻になった
383:2011/12/31(土) 18:07:43.59 ID:
切ない……
385:2011/12/31(土) 18:10:43.61 ID:
0歳の時の記憶が無くなったらどうなるか、それにはいろんな仮説が立った。

死亡する、植物人間になる、1日のみ記憶の持つ体になる……


しかし、答えはそのどれでもなかった。


彼女は声を出す
彼女は体を動かす
彼女は眠る
彼女は食事を取る



―――ただし彼女に意思はない



(´・ω・`)「ほら、ヒート。水だよ、口を開けて」

ノパo゚)

(´・ω・`)「よしよし、いい子だ。ゆっくりお飲み」
387:2011/12/31(土) 18:12:21.68 ID:
((((;゚Д゚)))))))
392:2011/12/31(土) 18:16:44.13 ID:
下唇に何かを当てると、ヒートは口を開ける。
舌の上に何かを置くと、ゆっくり咀嚼するし、水を流し込むと少しずつ飲む。
反射のみで生きている人間だ。

もちろん、若返り病でここまで進行したのはヒートが初めてで、
この結果が脳科学界に進展をもたらすことになるらしい。
今は、モララーと内藤医師が、旭教授の協力の下、寝る間も惜しんで研究を進めている。

そのおかげで、病室では二人っきりでいることが多い。
たまにレモナさんが来てくれる程度だ。


(´・ω・`)「ヒート、君は幸せかい?」

ノパ-゚)


返事はない。
きっと彼女はまだ幸せじゃないんだろう。


(´・ω・`)「暗くなってきたね。もう寝ようか」


風邪を引かないように布団をちゃんとかけて、ヒートを寝かしつけた。
横にして、布団をかけてやると彼女はそのうち眠るのだ。


(´-ω-`)「……おやすみ、ヒート」
396:2011/12/31(土) 18:21:30.89 ID:
― :月',日―


先週だったろうか、旭教授がヒートの治療は不可能だと言った
私もなんとなく悟っていたから、特に驚きはしなかった

ただ、別れ際に一言、「奇跡を信じるのも、悪くないものだよ」と、そう言った



(´・ω-`)「ん……?」


その日はなんだか明るかった。
白を基調とした部屋が、なんだか明るく感じられた。
その白の中にいる、白い肌の女。

今は反射のみで生きる、生きているのかも疑わしい存在となってしまった彼女。



そんな彼女が―――


          ノハ ー )


              ―――笑ったような気がした
403:2011/12/31(土) 18:27:18.28 ID:
(´・ω・`)「ヒート、君は幸せかい?」


ほぼ、反射のようにそう聞いた。
当然答えは―――


ノパー゚)「幸せじゃなかったことなんて……ないわ」


彼女はこちらを向いて、微笑んで、確かにそう言った。


(´・ω・`)「本当か……?」


ノパー゚)「あなたは本当にバカな人ね……。私がいつ不幸だなんて言った?」


(´・ω・`)「ヒート……。でも私は、仕事ばかりの人間で……」


ノパ⊿゚)「まだそんなことを言ってるの?あなたは、私たちのために仕事をしてくれたのよ」
406:2011/12/31(土) 18:37:41.77 ID:
(´・ω・`)「だけど私は……君を助けられなかった」


ノパー゚)「ううん……助けられた。私が私で無くなってしまっても、あなたは私を愛してくれた」

ノハ-ー-)「きっと私は、世界中の誰よりも幸せよ」



(´・ω・`)「でも……」


ノパー゚)「ショボン、私は、すごい幸せなの」

ノパー゚)「……でも、あなたにはわからないわ」


ノパー゚)「だから幸せになって……?」


(´・ω・`)「幸せに……私が?」
407:2011/12/31(土) 18:38:39.29 ID:
なんだこの急展開
409:2011/12/31(土) 18:44:37.64 ID:
ふわりとヒートの手が私の手に重ねられた

やわらかくて、あたたかい手だ

そっと握り返そうとしたら、するりと、その手は逃げていってしまった


ノパー゚)「約束だよ……」


(´・ω・`)「約束……ああ、約束だ」


ヒートの体が浮いて、少しずつ空へと上っていく

あれ、ここは病室じゃなかったっけ……まぁ、いいか

ぽたりとほほに何かが垂れてきた


ノハ;ー;)「本当にありがとう……私を愛してくれて……」


涙を流しながらヒートはそのまま雲に飲まれ……

411:2011/12/31(土) 18:46:22.28 ID:
え…
416:2011/12/31(土) 18:50:58.15 ID:
バヅン!!


(´・ω・`)「!」


重苦しい機械音がした。
やけに明るい、白を基調とした部屋。
そこに集まる、何人もの人々。


(;^ω^)「電圧上げて!」

|゚ノ;^∀^)「こ、これ以上は危険です!」


内藤医師の声を聞いて、ようやく理解した。
どうやら変な夢を見ていたようだ。

そっとほほに手をやると、なぜかそこだけ濡れていた。
418:2011/12/31(土) 18:53:23.26 ID:
やめろ……
419:2011/12/31(土) 18:55:15.23 ID:
涙目
420:2011/12/31(土) 18:55:29.07 ID:
(;^ω^)「だけど、まだ彼女を死なすわけには……」

(´・ω・`)「内藤先生……」

(;^ω^)「ショボンさん!大丈夫ですお!まだ拍動は完全に止まってないし、十分蘇生が……」

(´・ω・`)「ありがとうございます。……でも、もういいです」

(;^ω^)「はぁっ!?もういいって、諦めるんですかお!?」

(-@∀@)「内藤先生。もう、やめてやんな……」

(;^ω^)「旭教授まで!」

(-@∀@)「……バカ。よく見ろ、クランケの顔」

(;^ω^)「顔!?」


( ^ω^)「…………あ」
422:2011/12/31(土) 19:02:33.81 ID:
ノハ ー )




( ^ω^)

(-@∀@)

|゚ノ ^∀^)


(´・ω・`)


彼女は最期に笑った。
まるで、自分は幸せだったと主張するように。

誰もが言葉を失った室内に、ただ電子音だけが鳴り響いていた。
425:2011/12/31(土) 19:07:21.16 ID:
泣いた
426:2011/12/31(土) 19:12:22.02 ID:
―8月20日―


ヒートが亡くなってから一週間が過ぎた。
今はモララーと二人暮らししているが、いまだに幸せがなかなか見つからないでいる。


(-@∀@)「よっ。何しけた面してるんだ」

(´・ω・`)「旭教授?何してるんですかこんなとこで」

(-@∀@)「散歩だ散歩。それよりどうだ?若返り病の原因、わかったか?」


そういえば前にそんな質問をされた気がする。
あのときは自分のせいだと思っていたが……。


(´・ω・`)「……わかりません」

(-@∀@)「わかんねぇ、か」
429:2011/12/31(土) 19:17:43.89 ID:
(-@∀@)「案外それが正解なのかもな」

(´・ω・`)「あれ?若返り病の研究してたんじゃ」

(-@∀@)「してたけど、結局頓挫したんだ」

(;´・ω・`)「えぇー……」

(-@∀@)「なんか掴めそうな気がしたけど、結局掴めないんだ」


(-@∀@)「幸せと一緒さ」

(´・ω・`)「……幸せと一緒」


(-@∀@)「そうだ。だから、奥さんに幸せだったって言わせたこと、誇っていいぜ」

(-@∀@)「じゃな」


(´・ω・`)「……幸せかぁ」
430:2011/12/31(土) 19:20:12.87 ID:
やだ教授いけめん
431:2011/12/31(土) 19:22:11.37 ID:
チビハゲメガネだけどな
433:2011/12/31(土) 19:26:42.01 ID:
ヒートは意外と難しい課題を残してくれた。
今まで私が幸せだと感じた時には、いつも隣にヒートがいた。


だがヒートはもういない。

ただ、ヒートが遺してくれた日記帳は今も大事に閉まっている。
これから先もずっと彼女の生きた証を残すために。


(´・ω・`)(そうだ……)


じゃあ、彼女と私の生きた証を物語にして残そうか。


タイトルは――――



          ノパ⊿゚)が若返るようです ~fin~
434:2011/12/31(土) 19:27:57.66 ID:

良かった
435:2011/12/31(土) 19:28:31.12 ID:
乙 面白かった
466:2011/12/31(土) 20:01:59.03 ID:
>>1乙!
これは映画化できる!
469:2011/12/31(土) 20:32:56.50 ID:
乙!
SS最後までよんだの久々だわ

元スレ: