1:2012/12/29(土) 20:00:08.20 ID:
だーからぎーぶゆーすまーいる

3:2012/12/29(土) 20:01:05.10 ID:
―――ギャァ―――オンギャア―――


自室に響く新しい命の声。
明るく―――強く灯った命の灯火。

喧騒に包まれた部屋の中、その音だけが耳についた。


「ほら、ツン。元気な女の子だお」


生まれたばかりの我が子をタオルで優しく包み、彼女の目の前まで持ってくる。
彼女は小さく微笑み、その白く細い指で子供の頬を撫でた。
そして、その微笑みを僕に向け、何かを呟く。


「……ん…………て………」


背後で助産師さんと医者が何やら大声で叫んでいて、彼女の声は僕に届かなかった。


だから僕は、彼女に―――――………
5:2012/12/29(土) 20:02:49.88 ID:
         ( ^ω^)だから、Give you smileのようです




◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇
6:2012/12/29(土) 20:05:00.80 ID:
ζ(゚ー゚*ζ「ごちそーさまでした!」


( ^ω^)「おっ。全部食べたお。偉いお」


ζ(^ー^*ζ「えへへ……」


幸せな家庭のとある1コマ。
エプロン姿の男が笑いながら小さな女の子の頭を撫でる。

女の子は水色の園服に身を包んでいて、胸につけたひまわりをかたどった名札には『ないとうでれ』と書いてあった。


町の外れにある小さなアパート。
そこでブーンこと内藤ホライゾンと、その娘であるデレが暮らしている。
ブーンは地元の工場で働いていて、収入は多くないにしろ、2人が暮らして行くには十分な程は稼いでいた。
近所でも評判の仲良し父娘で、いつも笑顔が絶えない家族だと周りから言われている。
ただ……


( ^ω^)「じゃ、ごはん食べ終わったらお母さんにあいさつだお」


ζ(゚ー゚*ζ「うん」
7:2012/12/29(土) 20:05:38.00 ID:
シエンタ
8:2012/12/29(土) 20:07:16.88 ID:
 
デレの母親、つまりはブーンの妻……内藤ツンは、デレを産んだ際に亡くなってしまった。
笑顔で満たされた家庭ではあったが、あるべき物を失ってしまった家庭でもあるのだ。

家庭を満たす笑顔は、その寂しさを紛らわせる物のような、そんな感じがした。


ζ(゚ー゚*ζ「おかあさん、いってきます」


小さな手のひらを合わせ、デレは写真の中の母へ挨拶をすませる。
その表情に寂しさを思わせる色はどこにも見られなかった。

入れ替わりに写真の前に立つブーンは、やはり柔らかい笑顔で―――


「行ってくるお、ツン」


―――窓の外で、雀が二羽戯れていた。
―――朝日が差して、写真とその隣に置かれた一輪の花を照らす。

しばし、時が流れた。
やがてデレが居間に戻ってくる。
その目に映ったのは、亡き母の写真の前で寂しそうに立ち尽くす父の姿だった。
9:2012/12/29(土) 20:09:35.05 ID:
 

ζ(゚、゚*ζ「……おとー……さん?」


( ^ω^)「ああ、ごめんお。もう行く時間だおね」


娘の声を聞いて、ブーンは慌てて振り返った。
……これ以上無いくらいの明るい笑顔で。

その顔を見て、少し心配そうな面持ちだったデレも笑顔に戻り、そそくさとブーンの手を取って玄関へと引っ張っていく。

ブーンは困ったような、そんな笑顔でデレの後をついて行った。
玄関で靴を履き、外へ出る。
扉を閉める前に、ブーンはもう一度だけ「行ってくるお」と呟いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
10:2012/12/29(土) 20:12:05.05 ID:
 

初めて会ったとき、僕らは正反対の存在だった。
弱虫ですぐ泣く僕と、気が強くて男勝りな彼女。

幼稚園でいじめられてる僕を助けてくれたのは、いつも彼女だった。
僕がお礼を言うと、彼女は決まって


「いつまでないてるの!おとこのこなんだからいいかげんなきやみなさい!」


そう僕を叱りつけた。
でも、一度泣いてしまったらなかなか泣きやめないものだ。

だから僕は泣かないように、普段からいつも笑顔でいるように心がけた。
そうしたら、余計にいじめられた。

いじめられてるのに笑ってるから、さらにいじめられた。

でも彼女は


「なかなかったじゃない、えらいえらい」


そう僕を誉めてくれた。
11:2012/12/29(土) 20:14:14.17 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


2人の家から徒歩10分。
そこにデレの幼稚園があった。

門の前には優しい笑みをたたえた女性が立っていて、それを園児や保護者にいかんなく振りまいていた。


川 ゚ -゚)「おはようごz……なんだブーンか」


( ^ω^)「ちゃんと挨拶しろお」

川 ゚ -゚)「お前もな」


ζ(゚ー゚*ζ「クーせんせー。おはよーございます」

川 ゚ー゚)「おはよう、デレちゃん。デレちゃんはちゃんと挨拶できて偉いな」


( ^ω^)「おはようございます、クー先生」

川 ゚ -゚)「なんだ突然。気色の悪い奴だな」

( ^ω^)「おい」
13:2012/12/29(土) 20:16:29.05 ID:
 
彼女、素直クールはブーンとは中学時代からの付き合いで、ツンの友人だった女性だ。
現在はデレの通う幼稚園の教員をしている。


( ^ω^)「じゃあデレ。とーちゃんは仕事に行くからクー先生の言うことをちゃんと聞いて、いい子でいるんだお」


ζ(゚ー゚*ζ「わかった!いってらっしゃい!おとーさん」


( ^ω^)「じゃあクー、頼んだお」

川 ゚ -゚)「うむ。任せておけ」


ブーンはクーにそう言うと、一度だけデレの頭を撫でてその場を後にした。
デレはその背中が見えなくなるまでそこを動かないでいた。
父の背をじぃっと見つめるその瞳には、どこか寂しそうな色が伺えた。


川 ゚ -゚)「……さぁ、そろそろ中に入ろうか」


ζ(^ー^*ζ「うん!」


クーの言葉にデレが笑顔で答える。
……父親譲りの明るい笑顔で。
14:2012/12/29(土) 20:19:29.27 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


放課後、空が赤くなるまでめいっぱい遊んでから家に帰っても、僕は一人だった。
父は仕事で、母は僕がまだ小さいときに亡くなってしまったから。

でも、寂しいと思ったことは一度もなかった。
父は僕を母の分まで愛してくれたから。
仕事が休みの日にはいつも遊びに連れていってくれたし、そうでなくてもよく遊んでくれる。

そして父は僕にとって一番尊敬できる、強い人だった。
いつも笑顔でいてくれて、僕を元気づけてくれた。

父の笑顔を見たら憂鬱な気分もどこかへ行ってしまうのだ。


だから僕もこれからはずっと笑顔でいようと心に決めた。
いじめられても泣かないように。
誰かを元気づけられるように。
また彼女に誉めてもらえるように―――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
15:2012/12/29(土) 20:21:12.94 ID:
sien
16:2012/12/29(土) 20:22:32.54 ID:
 
(*゚ー゚)「せんせーさようなら」

川 ゚ー゚)「うん。さようなら」


(*゚ー゚)「デレちゃんもさようなら」

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃんばいばーい」


時刻は2時を少し回った頃。
園児達は各々の母親に連れられて家路に着いていた。

しかし家庭の事情でどうしてもこの時間に迎えに来ることができない子供もいる。
デレもその1人だった。


从'ー'从「デレちゃ~ん。こっちでおままごとしよ~」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。いいよー」
17:2012/12/29(土) 20:25:07.75 ID:
 
そんな子供達の中で一番デレと仲がいいのが渡辺だ。
両親が共働きで、彼女はいつも遅い時間まで幼稚園で待たされている。


从'ー'从「わたしおかあさん。デレちゃんはかわいいひとりむすめね」

ζ(゚ー゚*ζ「おとーさんは?」

从'ー'从「おとうさんは……」


川 ゚ -゚)「ふむ、では私がやろう」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、クーせんせー」

从'ー'从「じゃあせんせーはいじわるなおしゅうとさんね」


川 ゚ -゚)「あぁ、嫁をいびる姑をばっちり演じて……ん?」
18:2012/12/29(土) 20:28:01.81 ID:
 
渡辺の家庭内の状況も、あまり思わしいものではなかった。
父親はジャーナリストで、国内の様々な場所を旅している。
しかしなかなか実入りが悪く、近所のスーパーで働く妻の収入にすら及ばないほどだった。


从'ー'从「さあ、ばんごはんができましたよ」

ζ(゚ー゚*ζ「わーい!」

川 ゚ -゚)「遅い。年寄りを餓死させる気か」

从;'ー'从「す、すいませんおかあさま……」


ζ(゚ー゚*ζ「いただきます!もぐもぐ、おいしいねー」

川 ゚ -゚)「辛い。なんだこの味噌汁は。こんな辛い味噌汁飲んでたら早死にしちまうよ。
あんたは私にとっとと死ねって言いたいのかい?え?」

从;'ー'从「もうしわけありません……おかあさま」


ζ(゚ー゚*ζ「クーせんせーすごーい。ひるどらのおしゅうとめさんそっくり」


川 ゚ -゚)(しまった。父親役をやるつもりがノリノリで姑役をやってしまった)
19:2012/12/29(土) 20:31:18.71 ID:
 
从 ゚∀从「悪い。遅くなっちまった」

从'ー'从「あ、ほんもののおかあさんだ~」


川 ゚ -゚)「その言い方は誤解を生みかねないからやめなさい」


从 ゚∀从「ああクー先生。いつもお世話になってます。すいませんね、毎度迷惑をかけて……」

川 ゚ー゚)「いえ、私もこの子といる時間が楽しいので一向に構いませんよ」

从 ゚∀从「そう言ってもらえると助かりますわ。……じゃあ帰ろうぜ」


从'ー'从「うん。デレちゃん、せんせー、またあしたー」

川 ゚ー゚)「ああ。さようなら」

ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃんばいばーい」
20:2012/12/29(土) 20:33:32.24 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


いつも笑顔でいたら、いつの間にかいじめられなくなった。
それどころか、気がついたら人の輪の中心にいることが多くなった。

先生にも明るくていい子だと誉められるようになった。
友達も随分と増えた。
その代わりに彼女と一緒にいる時間が減ってしまったのが唯一の問題だった。

しかし、もっと一緒にいたいと彼女に言ったら彼女は顔を真っ赤にして怒るのだ。
その時の僕は彼女が本当に怒っているのだと思い込み、本気で落ち込んだものだ。


いつの間にか、僕は自然に笑顔でいることができるようになっていた。
少し父に近づけたような気がして嬉しかった。

彼女も、僕の笑った表情が一番気に入っていると言ってくれた。
友達も、僕の笑顔を見ていると癒されると言ってくれた。

笑顔には人を幸せにする不思議な力がある。
そう思った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
22:2012/12/29(土) 20:37:26.25 ID:
 

時刻は6時を回り、幼稚園に残っているのはデレとクーだけになった。
いつもならブーンは6時には迎えに来ていたのだが、その日はなかなか姿を現さなかった。


川 ゚ -゚)「遅いな……ブーンのやつ」

ζ(゚ー゚*ζ「きっとおしごとがいそがしいんだよ」


川 ゚ -゚)「……大人だな、デレちゃんは」

ζ(゚、゚*ζ「……?あたしまだ5さいだよ?」

川 ゚ー゚)「ふふっ、そうだな」



デレは同年代の子に比べて少し大人だった。
5歳にしては気が利くし、物事を一歩引いて見ることもできる。
それでいて明るく積極的で、みんなの人気者だ。
23:2012/12/29(土) 20:39:59.89 ID:
 
クーにはそれが不思議でならなかった。
普通、片親の子どもというものはどこかしら心に問題を持つものだ。

ましてデレはまだ5歳。
彼女の"正常"さはある意味"異常"でもあった。

母親がいない故に娘がしっかりしてきたのだろうか。
まさか、中高生ならまだしもこんな子どもがそんなことできるはずがない。
ならばブーンの教育がいいのか。
どうしてもそうは考えられない。
では一体何故―――――


クーの思考はいつもそこでストップする。
いくら考えても、理由がわからなかった。


ζ(゚、゚*ζ「……」


川 ゚ -゚)「……ん?どうしたんだ?」


ζ(゚、゚*ζ「せんせー、むずかしーかおしてた」

川 ゚ -゚)「ああ、すまない。少し考え事をしていたんだ。気にしないでくれ」
25:2012/12/29(土) 20:43:10.27 ID:
ζ(゚ー゚*ζ「なやみごと?」

川 ゚ -゚)「まぁ……そんなところだ。気にしないでくれ」


ζ(゚ー゚*ζ「じゃあおとーさんにそうだんにのってもらおうよ!」


川 ゚ -゚)「え……?」


ζ(゚ー゚*ζ「つらいことがあったり、こまったことがあったらすぐにとーちゃんにいうんだ、っておとーさんがよくいってるから。
    きっとクーせんせーのちからになってくれるよ!」


川 ゚ー゚)「……ああ、ありがとう。機会があったら話してみるよ」

ζ(^ー^*ζ「えへへ」


川 ゚ -゚)(……考えすぎか。片親ということに固執しすぎたかな)


川 ゚ -゚)(……それとも父親があいつだから……)
26:2012/12/29(土) 20:46:06.38 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「あ!おとーさんだ!」


西の方からこちらへ駆けてくる父親の姿を見つけて、デレの表情は一層明るいものになった。
やはり父親がなかなか迎えに来なかったことに多少の不安と寂しさを感じていたのだろう。

クーはそんなデレの姿にどこか安心しながら、いたたまれなさを感じた。
なぜその寂しさを、教育者である自分に見せてくれないのか、と。

隠しているわけではないのだろう。
無意識に、それを表に出そうとしていないのだ。


(;^ω^)「はぁ、ひぃ。ご、ごめんお。遅くなったお」


ブーンは全身汗びっしょりだった。
どうやらここまで走ってきたらしい。

膝に手を当て、荒い息を立てるブーンにデレはそそくさと寄っていき、
額から垂れる大量の汗を花柄のハンカチで拭ってやっていた。


ζ(゚ー゚*ζ「おとーさんすごいあせだー」
27:2012/12/29(土) 20:49:31.33 ID:
 
川 ゚ -゚)「まったく。だから免許を取れとあれほど……」

(;^ω^)「免許があっても車を買う余裕がないんだお」


川 ゚ -゚)「ん?貯金しているんじゃなかったのか?」

( ^ω^)「あれはデレの学費だお」


言いながらブーンはデレの手を握った。
優しく、それでいて離さないように、しっかりと。


( ^ω^)「小学校行って、中学に入って、高校に行って、大学に入る。
贅沢はさせてあげられなくても、せめてこれくらいはしてあげたいんだお」


クーはそれから何も言わなかった。
何も言えなかった。
ブーンのその昔からの笑顔の前では、何も……。


( ^ω^)「じゃあ帰るかお。デレもおなか空いてるお?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、おなかペコペコー」
28:2012/12/29(土) 20:51:49.70 ID:
( ^ω^)「……あ、クーも食べていくかお?」

川 ゚ -゚)「……独身の女を部屋にあげていいのか?」


( ^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「いや、なんでもない。せっかくだし夕飯くらい代わりに作ってやろう」


( ^ω^)「お!ありがとうお!」


川 ゚ー゚)「……ふふっ。ほら、行くぞ」


ζ(^ー^*ζ「わーい!クーせんせーとごはんー!」


デレははしゃいでクーの周りをグルグルと回った。
端から見れば、母親の周りを走り回る娘といった風に映るだろう。

だが、クーにはわかっていた。
自分では……いや、誰にも彼女の母親の代わりなど決してできないということが。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
29:2012/12/29(土) 20:53:43.28 ID:
 
中学に入学して、さっそく僕は人気者だった。
彼女とは違うクラスになってしまったけれど、そのおかげで不安はなかった。

でも、僕は度々彼女のクラスまで遊びに行っていた。
彼女も人気者だった。

そんな彼女と一番仲良さそうにしている女の子がいた。
黒い長髪がよく似合った可愛い子だった。

しばしその子に見とれていると、彼女は途端に不機嫌になってしまった。
僕は一生懸命取り繕って、彼女の機嫌を戻そうとした。
そんな僕らのやり取りをその子は笑って見ていた。

その子はとても頭が良くて、テスト前にはよくお世話になった。
ただ唯一問題があるとすれば、僕がその子にばかり話を聞いていると、
彼女は決まって機嫌が悪くなり、僕はその度に彼女のご機嫌を取らなければならなくなる。

ある日、その子はそんな僕らの姿を見て一言、

「お前達はまるで夫婦みたいだな」

と言った。
彼女は真っ赤になって否定した後、僕を散々に殴ったが、心なしか随分機嫌がよさそうに見えた。
30:2012/12/29(土) 20:56:11.24 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


翌日、デレはいつも通り幼稚園にいた。


川 ゚ -゚)「まぁ、有名な手遊びはこれくらいだ。じゃあ、さっそくやってみるから二人組でペアを作ってくれ」


ζ(゚ー゚*ζ「なーべーなーべーそーこぬけー」

从;'ー'从「そーこがぬけたらかえり……いたたたたた」

ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃん、まわるのそっちじゃないよー」



川 ゚ -゚)「……うん。園児の数が偶数でよかった」


ξ(ФωФξ「クー先生。デレちゃんのお父さんからお電話ですわ」

川 ゚ -゚)「ん、わかった」
31:2012/12/29(土) 20:58:47.37 ID:
 
川 ゚ -゚)「もしもし、私だ」

『あ、クーかお。今晩デレを頼めるかお?』

川 ゚ -゚)「どうしたんだ、突然」


『実は機械のメンテしてたら欠陥が見つかって……。
パーツが届くのは5時以降って話だし、そこから修理してたらどれだけ時間がかかるかわからないんだお』

川 ゚ -゚)「その修理はどうしても今日しなくちゃならないのか?」

『明日現場で使うんだお。修理の代わりを他の人に頼もうにも、みんながみんな自分のことで手一杯だから……』


川 ゚ -゚)「……むう。それは困ったな」

『ダメかお?』

川 ゚ -゚)「今晩は私も外せない用事があるんだ。一応園長にも掛け合ってはみるが……まぁ無理だと思ってくれ」
32:2012/12/29(土) 21:00:49.42 ID:
 
『そうかお……。ありがとうお。仕方ないからドクオにでも頼んでみるお』

川 ゚ -゚)「ああ、わかった。……すまないな」


『こちらこそ仕事中にごめんお。じゃあ、バイバイお』


通話が切れ、ツー、ツーと電子音が一定の間隔で流れ続ける。
それなのにクーは受話器を持ったまま動かなかった。


川 ゚ -゚)(……今日も遅くまで仕事か。あいつはちゃんと休んでるのだろうか)


クーは中学の頃、今のデレとそっくりな家庭を見ていた。
産まれた時に母親を亡くし、父一人子一人で、生きてきた親子を。
それでも幸せそうに生きてきた親子を。

その人の父は、明るい人だった。
クー達が突然家に押しかけても笑顔で迎えてくれた。
痩せこけていて、笑った顔が素敵な父親だった。


川 ゚ -゚)(とりあえずデレちゃんには言っておかねばな……)
33:2012/12/29(土) 21:04:12.82 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「いーとーまきまきいーとーまきまき」

从'ー'从「ひーてひーてとんとんとん」


川 ゚ -゚)「デレちゃん、ちょっといいか?」

ζ(゚、゚*ζ「どーしたの?せんせー」


川 ゚ -゚)「ブーンだが……今日は迎えにこれないらしい」

ζ(゚、゚*ζ「えー」


川 ゚ -゚)「本当なら私が一緒にいてやりたいのだが……生憎仕事がな」

ζ(゚、゚*ζ「ひとりでおるすばん?」


川 ゚ -゚)「いや、ドクオが来るには来るみたいだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさん!
34:2012/12/29(土) 21:06:37.45 ID:
 
少し沈み気味だったデレの顔がパァと明るくなった。
一方のクーはこめかみを抑えてため息をついている。


ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさんいっぱいあそんでくれるからすきだよ!」

川 ゚ -゚)「む……まぁ、デレちゃんがいいならあまり口出しはしたくないが……」


ζ(゚ー゚*ζ「?」


川 ゚ -゚)「……まぁ、あまりドクオと仲良くしないことだ」

ζ(゚、゚*ζ「なんで?」


川 ゚ -゚)「あー……それはだな……。デレちゃんがドクオと仲良くしてたらブーンがデレちゃんを取られたと思うだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあおとーさんといっしょにドクオおじさんとなかよくする!」

川 ゚ -゚)「……まぁそういうことでいいか。とにかく、ドクオと二人きりの時はあまりドクオと仲良くしないことだ」

ζ(゚ー゚*ζ「はーい」
35:2012/12/29(土) 21:08:54.04 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


二年生になっても、相変わらず僕は人気者になれた。
ある日、誰の輪にも入らずにいつも一人でいる男を見つけた。
そういうのがほっとけない性分だった僕は、彼に積極的に話しかけた。

でも言葉は返ってこない。
時おり「うぜぇ……」といったボヤキが聞こえてくる程度だった。

周りのみんなは彼が嫌いなようだった。
彼も周りのみんなが嫌いなようだった。
だから、みんなは僕に彼に構うのはやめろと言ってきた。

彼がいじめに遭うのも時間の問題だった。
彼は泣かなかった、けれど笑いもしなかった。

僕は彼がかわいそうに思えた。
いじめられてるからじゃない、笑わないからだ。

そう思った日から僕はできるだけ彼と一緒にいるようにした。
鬱陶しがられても関係なかった。

ある日彼は「どうしてお前なんかが俺に構うんだ」と聞いてきた。
僕は君の笑った顔が見てみたいからだと答えた。
彼は一瞬キョトンとしていたが、やがて小さく笑って「そんなクサい台詞、男に言うもんじゃないだろ」と言った。
口調は相変わらずだったが、初めて彼の笑った顔が見れたので満足だった。

友達は少し減ってしまったが、代わりに大切な友達が出来た瞬間だった。
36:2012/12/29(土) 21:11:05.59 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


園児達が母親に連れられて家路に向かっていく。
男は、その様子をぼんやりと眺めていた。
時折門から園内の様子を覗いては、そそくさと路端に戻り、降園中の園児達へと視線を送る。


(*゚ー゚)「ねぇ、ママ。あそこにヘンなひとがいるよ?」

イ从;゚ ー゚ノi「こら!指ささないの!」



(;'A`)「…………」


ボサボサの髪に、中途半端に伸びた髭。
服はヨレヨレで、痩せこけた体躯に合っていない。
明らかに不審なその男を横目に、母親達は早足でそこを通り過ぎていく。

男も自分がどのように思われているのか気づいているらしく、くたびれた顔をさらにくたびれさせてため息をついた。
37:2012/12/29(土) 21:13:14.80 ID:
 
「ドクオおじさーん!!」


('A`)「あ……」


そんな男のもとへ元気よく駆けてくる少女が1人。
暗く、沈み気味だった男の顔が一気に明るくなっていく。


ζ(>ー<*ζ「だーいぶ!!」


(;'A`)「おわっと!?」


デレはタックルをするかのような勢いのままに男……鬱田ドクオの胸に飛び込んだ。
ドクオは少しバランスを崩しながらも、しっかりとデレを受け止めた。


('A`)「おいおい。危ないじゃないか」


ζ(^ー^*ζ「えへへ……、ごめんなさーい」
38:2012/12/29(土) 21:15:25.90 ID:
 
先ほどの不審な様子はどこへやら、ドクオは優しい笑みをたたえてデレの頭を撫でる。
その笑顔は純粋で、どこにもやましいものは感じられなかった。

そしてその笑顔は、ブーンの笑顔とはどこか違った雰囲気をデレに感じさせた。


川 ゚ -゚)「怪しい男がいると聞いてきたが……お前か」

('A`)「ああ、クーか。デレを頼むとブーンに言われてな」

川 ゚ -゚)「それはこちらも把握している。不本意だが頼むぞ」

('A`)「おい、不本意ってなんだ」


ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさん、おうちかえろ?」

('A`)「あ、ああ。そうだな。……じゃあな、クー」


川 ゚ -゚)「ああ」
39:2012/12/29(土) 21:17:57.42 ID:
 
まだ太陽が高い位置にあるままに帰宅することは、デレにとって久しぶりのことだった。
ドクオの手をしっかり握り、しきりに彼に話しかける。
ドクオもその都度笑顔で応答していた。


ζ(゚ー゚*ζ「ねぇドクオおじさん。おとーさんはどうしてこれなかったの?」

('A`)「あぁ、仕事でトラブルがあったみたいだ」

ζ(゚、゚*ζ「とらぶる?」

('A`)「なんでも、仕事で使う機械が壊れたりしたらしい」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーん。おとーさんもたいへんだね」

('A`)「……」


ドクオは「大変なのは君の方だ」と言おうとして、やめた。
今言っても意味がない。
デレには理解できないことだろうし、それは彼に伝えるべき言葉なのだ。
40:2012/12/29(土) 21:20:43.29 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「おうちかえったらなにしてあそぶー?」

('A`)「おー、何でもいいぞ。俺は遊び相手になるくらいしかできないから」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃーねー!うーんとねー……」


あごに手を当てて何をするかを一生懸命考えるデレの姿は、年相応の子供らしい物だ。
楽しそうにニコニコ笑って、あーでもない、こーでもないと考えを巡らせている。

デレの母、ツンはあまり笑わない人だった。
……いや、笑った顔を人に見せないと言った方が正しいか。


('A`)(でも……よく似ている)


ドクオはツンの幼少の頃の姿を知らない。
だがそれでも、デレはツンによく似ている。
そう思ったのだった。


('A`)(似ているから……か)


小さく呟いた言葉は青空へゆっくりと溶け込んでいく。
まだまだ日は高い。
41:2012/12/29(土) 21:22:47.05 ID:
よし追いついた!
こういう家族物好きだ
42:2012/12/29(土) 21:23:13.96 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


それは、中三の夏のことだ。
その日は良く晴れていて、学校が終わったらみんなでどこかに遊びに行かないかと話をしていたところだった。

突然、担任に呼び出されて、僕はそのまま車に乗せられた。
車の中で担任から聞いた言葉についてはよく覚えていない。
あまりに突然の事だったので思考がついて行かなかったのだろう。

辿り着いたのは市内の病院だった。
そこから少し歩いて、僕が通されたのは薄暗い、嫌な空気の場所だった。


父が死んだ。


仕事場で機材に押し潰され、搬送先の病院で息を引き取ったらしい。
連日の仕事で疲れが溜まり、それが事故に繋がったとか。

まだ若い僕に、父親の死を通達した医者はどんな顔をしていただろうか。
自分の教え子が父親の遺体と対面している間、担任はどんな顔をしていただろうか。

その時僕は、どんな顔をしていただろうか。
父との別れ際、ちゃんと笑えていた自信はない。
43:2012/12/29(土) 21:25:09.68 ID:
幸せを頼む……
44:2012/12/29(土) 21:26:54.36 ID:
 
翌日、父の葬儀が行われた。
と言っても、お金も無かったし、他に親族もいなかったから小さな葬儀だった。

そんな葬儀だったがみんなも来てくれた。
みんな父とは一応面識があったからだろう。
特に彼女は、ずっと小さい頃から父と顔を会わせている。

その時のみんなの顔を、僕は覚えていない。

父との最期のお別れが済んで、数少ない参列者が去っていく。
途中、「頑張れよ」とか「何かあったらいつでも相談に来い」と父の仕事仲間に言われた。


最終的にそこに残ったのは、僕と彼女だけだった。
とりあえず家に戻ったものの、迎えてくれる人はもういない。

いつも笑顔でいた、優しくて強い父は、もういないのだ。
そう実感すると、悲しくて、苦しくて、涙が溢れそうになった。


「今日だけは、泣いてもいいかお?」


彼女が無言で、小さく頷いたのを視界の端で確認してから、僕は泣いた。
声を上げてわんわんと。

彼女は終始無言だったけれど、強く僕を抱きしめてくれた。
痛いくらいに、強く。
46:2012/12/29(土) 21:30:28.30 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ(-、-*ζ「すー……すー……」


家に戻り、少し遊んだらデレは眠ってしまった。
ドクオはデレに布団をかけると、ただ何をするでも無く窓から外を眺めていた。


('A`)「あまりいい眺めじゃねぇな……」


街の外れにある小さなアパートだ。
立地条件もそういい物ではない。

窓の近くの棚に手を置こうとして、一枚の写真に気がついた。
そこには今は亡きツンが写っていた。

その横に少し太い腕が半分写り込んでいるが、きっとブーンだろう。


('A`)「この写真のブーンは、きっと笑ってんだろうなぁ」
48:2012/12/29(土) 21:33:39.71 ID:
 
ドクオもブーンの笑顔は好きだった。
小、中学とロクに友達も作れず、ひねくれていたドクオにしつこく話しかけてきたのがブーンだ。

ドクオが無視を決めこんでも、ブーンはしつこく、笑いながら話しかけてきた。

最初はおちょくられているんだろうと思っていたが、だんだんとそうでは無いことがわかった。


('A`)「……で、気が付いたらブーンにツン、クーと仲良くなってたんだな」


これからの人生はずっと孤独なのだろうと思っていたドクオにとって、ブーンは恩人のようなものだ。



それゆえに、最近のブーンの様子を心配していた。
それに対して、多少なりの憤りも感じていた。


今日のトラブルについては仕方がない。
だが、どうもブーンは普段から働きづめのように思える。
50:2012/12/29(土) 21:37:29.68 ID:
 
('A`)(デレを迎えに行くために6時には仕事を終えているみたいだが……)


労働の時間だけで見れば、そう気にすることはないだろう。
だが、家事と仕事も両立させ、まともに休みを取らない生活で果たして体は持つのだろうか。


ドクオ自身、ブーンに言ってやりたいことは山ほどあった。
しかし、ドクオには何も言えなかった。

十年以上付き合っている友人だ。
ブーンがどんな気持ちなのかを理解できないわけがない。
だからこそ、何もできず、何も言えない状態が続いていた。


何を言う?
何と言う?
壊れた笑顔を浮かべるブーンに、なんと声をかければいい?



('A`)「なあ、ツン。俺に何ができるかなぁ」
52:2012/12/29(土) 21:39:08.21 ID:
せつな支援
53:2012/12/29(土) 21:39:43.05 ID:
 
写真に向かって語りかけても、返事はなかった。
写真の中の彼女は、照れ笑いを隠そうとしながら、それでも幸せそうな表情でいた。


('A`)「……この写真のブーンは、きっと笑ってんだろうなぁ」


二度目の呟き。
きっとブーンは、彼女の隣で、昔のような笑顔でいるのだろう。


('A`)(―――デレは……)


そういえばデレは、ブーンの笑顔を見たことがあるのだろうか。
ピエロのような壊れた物ではなく、周りの人を幸せにさせるような、あの笑顔を。


ζ(-、-*ζ「……ゅむ……すー……」


('A`)(……もしかしたら、ブーンから一番離れたとこにいるのかもな)
54:2012/12/29(土) 21:42:14.87 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


中高一貫の学校だったから、高校へは無事に進学できた。
みんなも、同じ高校へ進学した。
クーなんかは頭が良かったからもっといい高校に行けただろうに、わざわざ同じ高校に来たのだ。

きっとみんなは、僕を心配してくれていたのだろう。
父親を亡くしたショックはその時には大分薄れていたけど、みんなの気持ちは嬉しかった。


高校生活は大変だった。
バイトと学業を両立させるのは本当に骨が折れた。

そんな僕に、彼女はお弁当を作って来てくれた。


「べ、別に深い意味なんてないから。あんたが忙しいだろうから作ってあげたんだから感謝しなさいよ!」


真っ赤になりながら早口でまくし立て、弁当箱を押しつけてきたことはよく覚えている。
それからしばらくはクーとドクオにからかわれ続けた。
彼女はその度に真っ赤になって二人を追い立てたり、時には僕を叩いたりなんかした。

それでも、みんなと一緒にいる時間は、忙しい日々の中で唯一心が休まる時間だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
56:2012/12/29(土) 21:44:54.65 ID:
 
(-A`)「……ん?」

(;'A`)「やべ……。寝てた……」


ドクオが目を覚ました頃には、外は薄暗くなっていた。
時計を確認して、すぐにデレの方に目を向ける。
デレはまだ眠っていた。


('A`)(そろそろ夕飯か……。どうしよう、俺料理作れないし……。コンビニでいいかな)

ζ(-、-*ζ「くー……くー……」

('A`)(……とは言ったものの。デレを一人にするのはなぁ)


デレはこの歳にしてはしっかりしている。
ドクオがどこかに行ったとしても取り乱したり、危険なことをすることはないはずだ。

しかしブーンから任された手前、デレを放置して買い物に行くのは気が引ける。
58:2012/12/29(土) 21:47:30.58 ID:
 
『ピンポーン』

ドクオが悩んでいると、チャイムが鳴った。
もうブーンが帰って来たのか、ドアを開けるとよく見知った顔が見えた。



川 ゚ -゚)「む。ドクオか」

('A`)「なんだクーか……。ブーンが帰ってきたのかと思った」

川 ゚ -゚)「ブーンはまだか……」


クーは小さくため息をついて、玄関から部屋の中を覗き込んだ。
その手にはスーパーのレジ袋が握られている。


川 ゚ -゚)「デレちゃんは?」

('A`)「部屋で寝てるよ」
60:2012/12/29(土) 21:49:49.93 ID:
 
ζ(ぅー`*ζ「……おとーさん?」


物音で起こしてしまったか、デレが寝ぼけ眼を擦りながら玄関にやってきた。
まだ頭がちゃんと起きてないのか、ドクオをブーンと勘違いしているらしい。


川 ゚ -゚)「すまん。起こしてしまったか……。それと、ブーンは……」

ζ(´ー`*ζ「…………おかあさん?」



川; ゚ -゚)

(;'A`)



空気が固まった。
気まずさと、どう返答するかの困惑が混じり、2人の背中を冷や汗が伝う。

しかし、デレは母親の顔を知らないはずだ。
一体何を思って「おかあさん」と言ったのだろうか。
62:2012/12/29(土) 21:52:29.29 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?クーせんせー?」


ようやく覚醒したか、玄関にいた2人をデレが認識した。
先ほど自分が何を呟いたかは覚えていないようで、2人はホッと胸を撫で下ろした。

だが、そもそも何故自分たちはこんなに緊張しなくてはならないのか。
そんな疑問が2人の頭に浮かぶ。

ツンが死んでからもう5年経つのだ。
積極的に話題に出すことはなくとも、ツンの話をすることに抵抗はほとんど無い。


それでも、この父娘の間に彼女の話を持ち込むのはタブーのように思えた。


ζ(゚ー゚*ζ「せんせーどうしたの?」

川 ゚ -゚)「ああ、いや。この男が悪いことをしてないか心配になってな」

('A`)「そんなことしねぇよ……なんで信用がないんだ、俺は」

川 ゚ -゚)「顔が悪い」

(;'A`)「余計なお世話だ!」
63:2012/12/29(土) 21:53:57.23 ID:
顔www
64:2012/12/29(土) 21:54:44.30 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさんはいいこにしてたよ?」

('A`)「ほれ見ろ」

川 ゚ -゚)「子供扱いされてるが、そこに異論は無いのか」

('A`)「……まぁ、ありっちゃありかなぁ……って」

川 ゚ -゚)「デレちゃん、やはりこいつとはあまり関わりを持たない方がいいぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「……なんで?」


川 ゚ -゚)「実はこいつは妖怪なんだ」

ζ(゚ー゚*;ζ「えぇっ!?ドクオおじさんよーかいだったの!?」

川 ゚ -゚)「ああ。そうだ」

ζ(゚-゚*;ζ「ドクオおじさん……」


('A`)「待て待て待て待て待て。デレがマジで信じるからやめれ」

川 ゚ -゚)「黙れ人間モドキ」

(;'A`)「まだ言うか!?」
66:2012/12/29(土) 21:55:54.66 ID:
頑張れ人間モドキ
68:2012/12/29(土) 21:57:59.45 ID:
 
ζ(゚-゚*;ζ「ドクオおじさん……」

('A`)「ん?どうした?」

ζ(゚-゚*;ζ「はやくにんげんになりたい……?」

(;'A`)「だから妖怪じゃねぇっつのに!!俺たちゃ妖怪人間なのか!?」

川 ゚ -゚)「待て、そのネタはデレちゃんに通じるのか?」


クーの言葉をデレが真に受けて、ドクオが誤解だと喚き散らす。
騒がしくも楽しそうなその様子は、まるで家族のようなものだった。

途中まで騒いでいたドクオも、そう感じて途端に難しい表情に変わる。

嬉しいはずなのに、嬉しくない。これじゃない。
そう感じて、先程までの浮かれた気持ちがさっぱり無くなってしまった。


ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさん?」

('A`)「……いや、なんでもないよ」
72:2012/12/29(土) 22:00:55.13 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


受験シーズンになると、みんな忙しくてなかなか遊べなくなってしまった。
僕はもともと進学する気はなかったから、バイトしながらいい就職先を探していた。

みんなが受験勉強している中、一人だけ就職活動するのは寂しかったし、辛かった。
学もなく、コネも無い僕を雇ってくれる企業なんて無かったから就職活動は難航した。

そんな僕をみんなは心配して、よく様子を見に来てくれた。
それだけで、僕は笑うことができた。
みんなのおかげで、僕は辛くとも頑張ろうと思うことができた。

彼女は、自分の勉強も忙しいはずなのに毎日僕に弁当を作って来てくれた。
大変だろうから、わざわざ作ってくれなくてもいいと言ったら怒られた。
いつもの照れ隠しとは違う、本気の怒り方だった。

「大変なのはみんな一緒でしょ!何のためにあたしがあんたに弁当作って来てあげてるのか考えなさいよ!!」

「……大変な時は、お互い助け合うのが友達でしょ。そんなこともわからないの?」

彼女は少し表情を緩めてそう言った。
彼女の言葉が嬉しくて、彼女の気持ちが嬉しくて、僕は泣いてしまった。
父が死んでしまった時以来の涙だった。

彼女や、みんなのおかげで、僕は辛く苦しいその時期をなんとか乗り切れるような気がした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
74:2012/12/29(土) 22:04:36.91 ID:
 
('A`)「デレは?」

川 ゚ -゚)「大丈夫。もう寝かしつけた」


時刻はもう11時を回っていた。
それなのにブーンはまだ帰ってこない。
デレもブーンが帰って来るまで待とうとしていたが、時間が時間のため、クーが無理矢理寝かせた。


('A`)「……しかし、遅いな。ブーンの奴」

川 ゚ -゚)「まったくだ。こんな時間まで何をやってるんだ」


('A`)「……ツンがいたら、あいつ帰って来たらボコボコにされてたろうな」

川 ゚ー゚)「はははっ。確かに、ツンならやりかねんな」

ξ#'A`)ξ「こんな遅くまでなにやってたのよ!待ってる私たちの身にもなりなさいよね!!」

('A`)「とか」

川 ゚ー゚)「あいつなら言いそうだ」
76:2012/12/29(土) 22:07:24.52 ID:
 
ツンの話をする2人の表情はとても柔らかかった。
先ほどデレが「おかあさん」と呟いた時のような緊張感は微塵も感じられない。

以前にも言った通り、2人ともツンの事を話題に出すのにもう抵抗は無いのだ。


川 ゚ -゚)「……デレちゃんも、そのうちツンみたいになるのかな」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「そうなったら、ブーンは……」

('A`)「やめろ」


ドクオの強い拒絶の言葉に、クーの口がそれ以上動くことは無くなった。
押し黙るクーを見てか、少々キツい口調で言った気まずさからか、ドクオも沈黙する。

狭いボロアパートの一室。
時計の音と、隣の部屋からうっすらと聞こえるデレの寝息が支配していた。
80:2012/12/29(土) 22:10:43.07 ID:
ブーン……
79:2012/12/29(土) 22:10:14.03 ID:
 
( ^ω^)「ただいまお……」


静寂を破ったのは、ガチャリとドアが開く音。
そして、疲れた顔に笑顔を貼り付けた家主だった。


('A`)「やっと帰って来たか……。随分遅かったな」

( ^ω^)「なんとかメドは付いたお。明日も6時から行かなきゃならんお」

川 ゚ -゚)「6時……随分早いな」

( ^ω^)「ドクオ、悪いけど明日朝デレを送ってってやってくれお」

('A`)「それは構わないが……お前、大丈夫か?」

( ^ω^)「これくらいどうってことないお」

('A`)「けど……」
81:2012/12/29(土) 22:13:56.80 ID:
 
ドクオが心配するのも無理はない。
ブーンの顔色は遠目から見てもわかるほど悪かった。

だがそれでもブーンは笑顔で

無機質な笑顔で―――


( ^ω^)「明日も早いから。今日は早く寝るお。二人ともごめんお」

川 ゚ -゚)「寝るのは構わないが……お前、夕飯は食べたのか?まだ残ってるから食べていないなら……」

( ^ω^)「ありがとうお。でも、今はいいお」

川 ゚ -゚)「食欲がないのか?だが無理にでも食べた方がいいぞ。顔色も良くないし……」

( ^ω^)「おっおっ。心配無用だお。ブーンはこれで結構頑丈なんだお」

川 ゚ -゚)「だが……」

( ^ω^)「大丈夫だお。じゃあ、ブーンは寝るお。ドクオの布団も出しておくおね」

('A`)「あ、ああ……」
84:2012/12/29(土) 22:16:36.28 ID:
 
クーの言葉を途中で遮り、ブーンはそそくさとドクオの布団を出す。
そして、自分の布団をデレの隣に敷いて、さっさと寝る準備を始めてしまった。

5分と立たないうちに規則的な寝息が聞こえ始め、クーとドクオは一度顔を見合わせて小さくため息をつく。


('A`)「明日も仕事なのに飯も食わずに寝やかって……。何考えてんだ、あいつは」

川 ゚ -゚)「……あいつ、昼はちゃんと食べたのだろうか」

('A`)「いくらなんでもそれは……」


ドクオは途中で口を噤み、ブーンの鞄に目をやる。
ボロボロで、傷や汚れが目立っているが、まだ鞄としての役目は果たしているようだ。


('A`)「あいつ、確か弁当持ってってるよな」

川 ゚ -゚)「ああ。デレちゃんの分と一緒に自分のも作っていたはずだ」
86:2012/12/29(土) 22:20:54.85 ID:
 
ドクオはブーンの鞄を開け、弁当袋らしき物を引っ張り出そうとした。
が、鞄から取り出す前に動きが止まる。

そのまま弁当袋を鞄に戻し、先ほどよりも大きなため息をついた。


('A`)「……弁当、重かったぜ」

川 ゚ -゚)「……今から起こして、無理にでも食べさせるべきだろうか」

('A`)「……いや、あいつ、相当疲れてたからな。ちょっとやそっとじゃ起きないだろう」


('A`)「……今は、休ませてやろう」

川 ゚ -゚)「……そうか」


再び部屋を訪れた静寂。
聞こえるのは時計の音と、二人分の寝息だけ。
88:2012/12/29(土) 22:23:35.03 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


クラスメート達が次々と進学先を決めていく中、僕は1人色んな企業を東奔西走していた。
そして、町外れの小さな工場に勤めることができるようになった。
給料は安いが、それでも十分生活を賄えるだけの額はあった。

みんなには散々祝福された。
僕も辛く苦しい時期を乗り切ることができ、やっと肩の荷が降りた心地だった。

一方のみんなも、無事志望校に合格できたようだった。
ドクオは近所の、クーは隣の県の、彼女は県内だがここから少し距離のある大学に行くことになった。

みんなの合格を喜ぶ反面、バラバラになってしまうことを悲しむ気持ちもあった。
ドクオはいいが、クーと会う機会は激減するだろう。
そして、小さな頃からいつも一緒にいた彼女とも……。

離れるのは嫌だった。
つなぎ止めておきたかった。

僕は思わず、ずっと言えなかった言葉を口にしていた。
そこにみんながいることも忘れて。

彼女は一瞬キョトンとした後、顔を真っ赤にしてパニクっていた。
一通りパニクった後、彼女は急にしおらしくなって、僕の問いかけに頷いてくれた。

嬉しさのあまり、僕は彼女を抱きしめてしまった。
殴られるかと思ったが、その時だけは全く抵抗されなかった。
90:2012/12/29(土) 22:25:11.83 ID:
嫌なフラグが立ってるな
92:2012/12/29(土) 22:26:49.57 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(-A`)「むにゃ……んあ?」


なにか美味しそうな匂いがして、ドクオは目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすり、大きなあくびをしながら起き上がる。
時刻はまだ5時だった。


('A`)(そうだ。昨夜はブーンの家に泊まったんだ)


だんだんと頭が冴えてきて、昨夜の事を思い出す。
遅くまで仕事をしていたブーンを心配して、クーも残ると言ったのだが、
ドクオが半ば無理矢理家に帰して、その後自分も床についたのだ。


( ^ω^)「お、ドクオ。起こしちゃったかお」

('A`)「ブーン、早いな……って今日は6時から仕事か」
93:2012/12/29(土) 22:30:09.63 ID:
 
( ^ω^)「これ、デレのお弁当だお。渡しておいてくれお」


可愛らしいデザインの弁当箱を指差してブーンはそう言った。
すでに作業服に着替えており、鞄も玄関口に置いてあるので、もう仕事へ行く準備は出来ているようだ。


( ^ω^)「じゃあドクオ、デレの事頼んだお」

('A`)「あ、おい……」


言うが早いか、ブーンは荷物を持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
部屋に一人残されたドクオはポリポリと頭を書きながら部屋のカーテンを捲り、外を見る。
まだ日は昇っておらず、東の空がうっすらと明るくなっている程度だった。

デレはまだ寝ているようで、ドクオも二度寝しようと布団に潜りこんだが、すっかり目が冴えてしまって眠れそうにはなかった。


('A`)「……そういやブーンの奴、朝飯食ったのかなぁ」
95:2012/12/29(土) 22:34:57.54 ID:
 
昨日昼も夜も食べてないのだから相当腹を空かせているはずだ。
そんな状態で朝食を抜くとは考えられないことではあるが。


('A`)(でも、ブーンは昨日から様子がおかしかったしな……)


昨夜、布団に入ってすぐに眠ってしまったあたり、かなり疲れていたのだろう。
だがそれでも、昨夜のブーンの行動には違和感があった。
夕飯を食べるようクーが言ったのにブーンはそれを聞かなかった。
遠慮した、と言うより頑なに拒んだような感じで……。


('A`)(何やってんだあいつ。もう自分一人の体じゃねぇんだぞ……)


ドクオはふと、ブーンの父親の事を思い出した。
父一人子一人……今のブーンと同じような環境で生きていた人のことを。

何度か顔を合わせたことはあった。
痩せこけていたが、いつも明るい笑顔を浮かべていた。

……そして、疲れのせいか倒れてくる機材に気づかずそのまま下敷きになり、死んでしまった。
98:2012/12/29(土) 22:38:05.24 ID:
ブーンの父の葬儀には、もちろんドクオも参加した。
その時のブーンの顔をドクオは今も覚えている。



( ^ω^)



ブーンは笑っていた。
父の遺影を見つめて。

いつものような明るさや暖かさのない、壊れたピエロのような笑顔。
……今のブーンの笑顔。

ドクオは、ブーンに声をかけることが出来なかった。
クーも同様だ。
なんと声をかければいいかわからないという面もあったが、単純に声をかけることが憚られるような気がした。

ツンもその日は一言も喋ることはなかった。
それでも、彼女はずっとブーンの隣にいた。
みんなが解散しても、その場に留まるブーンにずっと付いてやっていた。

……ツンだけが、傷ついたブーンの心を癒すことが出来たのだろう。
100:2012/12/29(土) 22:41:05.66 ID:
 
('A`)(ツンは……いつもブーンの心の支えだったんだな)


布団から起きあがると、ドクオはツンの写真の前に立った。
そして写真の中の彼女に語りかける。


('A`)「なぁツン。やっぱり、今のブーンを助けられるのはお前だけなのかな」


当然、返事はない。
何故、彼女は死んでしまったのだろう。
もし彼女が生きていたら……。


('A`)「……ごめんな。情けない友達でよ」

('A`)「っと……。こんな事言ってたらお前に殴られちまうな」


死んでしまった者は、もう帰って来ない。
……生きている者でどうにかするしかないのだ。
103:2012/12/29(土) 22:43:27.05 ID:
追いついた
不穏な空気が怖い
104:2012/12/29(土) 22:44:12.86 ID:
 
('A`)(……でも、俺は何もできちゃいない。……何も出来ない)

('A`)(中学までの俺と同じ……。ブーンがいなきゃ何も出来なかった)

('A`)(俺は……一人じゃ何も出来ないのか)

窓の外に雀が一羽舞い降りてくる。
チチチ、と小さくさえずると、すぐに飛んでいってしまった。

時計の針は中々進まない。
ここまでの時間はあっという間に過ぎて行ったのに。

デレが起きてくるまで、こんな情けない気分でいなきゃならないなんて。
そう考えると、自然ため息がこぼれた。


('A`)(デレはまだ寝てるよな……)


隣の部屋を確認しようと、戸に手をかけた時だった。
ドクオが手に力を込めるより早く、戸が勝手に開いた。
107:2012/12/29(土) 22:47:05.02 ID:
 
(;'A`)「おわっ!?」

゚。ζ(ぅー`*ζ「んー……?」


開いた戸の先ではデレが寝ぼけ眼を擦りながら立っていた。
二本足で立ってはいるが、ちゃんと起きているかは怪しい。


(;'A`)「デレ……?どうした、まだ起きるには早いぞ?」

゚。ζ(´ー`*ζ「……おしっこ」

(;'A`)「え?あ、ああ何だ。トイレか……って待て待て!そっちはベランダだ!トイレはこっちだろが!」

゚。ζ(´ー`*ζ「むー……?」

(;'A`)「ほらほら、こっちこっち」

゚。ζ(´д`*ζ「ふひゃー……」
109:2012/12/29(土) 22:48:03.03 ID:
ブーン正気にもどれえええ
110:2012/12/29(土) 22:49:36.81 ID:
 
寝ぼけるデレをなんとかトイレまで連れて行って、ドクオはまたため息をついた。
……だが、何故か先ほどよりも気分は晴れていた。


(;'A`)「まったく……。こういう所は歳相応だな」

('A`)(そういやデレはおねしょ癖とか無いのかな……。俺は小2まで治らなかったけど)

('A`)(布団湿ってないか調べといた方がいいかな……)

('A`)(もしおねしょしてたら着替えの手伝いを……)


(;'A`)「って何考えてんだ俺は!変態かっ!!」

ζ(゚ー゚*;ζ「わっ!!どうしたのドクオおじさん!?」


ドクオが一人で想像を膨らませて一人で自己嫌悪に陥ってるところで、丁度デレがトイレから出てきた。
いつの間にかちゃんと目を覚ましたようだ。


(;'A`)「だ、大丈夫だ。ちょっと自分の中の何かが暴走してた……」

ζ(゚ー゚*;ζ「……よーかいのち?」

(;'A`)「まだ信じてたのか!!人間だっての!!」
113:2012/12/29(土) 22:52:18.35 ID:
 
('A`)「少し早いが……朝飯にするか?」

ζ(゚、゚*ζ「……」


リビングに戻り、ドクオは食パンの袋をガサガサとしながらデレに話しかける。
しかしデレは周囲をやけに気にしていた。

昨日と特に変わったところもないのに、一体何が気になるというのか。


('A`)「どうした?デレ」

ζ(゚、゚*ζ「おとーさんは?」

('A`)「ああ、ブーンか。……そういや、ブーンが帰って来たときデレは寝てたからなぁ」


デレはブーンが今日早めに家を出て行くのを聞かされていない。
いつもならいるはずの父親がいないのだから、不思議に思って当然か。
115:2012/12/29(土) 22:56:36.81 ID:
 
('A`)「ブーンはもう仕事に行ったよ。今日はちょっと早く行かなきゃいけなかったんだ」

ζ(゚、゚*ζ「そうなの?」

('A`)「ああ……。デレは寝てたから、教えられなかった。ごめんな」


ζ(゚、゚*ζ「……」

('A`)「デレ?」

ζ(゚、゚*ζ「……おとーさんに、おかえりなさいもいってらっしゃいもいえなかった」

('A`)「デレ……」


少し俯きながらデレが呟く。
なんて父親思いの子なんだろう。

それなのに父親は、この子に心配をかけて……。


ζ(゚ー゚*ζ「あ……。早くご飯にしよ!ドクオおじさん!」

('A`)「あ、ああ」


努めて明るく言ったデレを見て、ドクオは居たたまれない気分になる。
何故自分には、何かを変えようと行動することが出来ないのかと……。
116:2012/12/29(土) 22:56:54.41 ID:
幸せになって欲しいなあ
119:2012/12/29(土) 23:02:17.80 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


社会人というものを、僕は舐めていた。
高校までと違い、結果だけで全てが評価される世界。
高卒だからとか、一生懸命やっているからとか、そんな事は関係無かった。

どんだけ必死にやったって、小さなミス一つで上司からこっぴどく叱られる。
仕事もハードで、毎日のように疲労が蓄積されていくだけ。
正直、辛かった。


だけど僕はくじける事なんて無かった。
僕には、彼女がいてくれたからだ。

彼女は、自分だって忙しいだろうに毎晩のように電話をかけてきてくれた。
ご飯はちゃんと食べてるか、だとかちゃんと寝てるか、だとか仕事は辛くないか、だとか。
そっちこそ、勉強は大丈夫なのかと聞いたら、学生と社会人じゃ大変さが違うでしょと返された。

学校が休みの日とかには、わざわざ家まで来て夕飯を作ってくれたりもした。

「か、彼女なんだから、このくらい当たり前でしょ!」

そんな事を言いながら彼女は僕を支えてくれる。
それだけで僕はどれだけ辛くてもやって行ける気がした。

そして、もっともっと頑張らなくてはとも思った。
いつかは二人分……いや、三人分、四人分を養えるようにならなくてはいけないから……。
123:2012/12/29(土) 23:04:59.19 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、ドクオおじさん、またねー!」

('A`)「おう。……クーもよろしくな」

川 ゚ -゚)「ああ。お前と一緒にいさせるよりは安心だ」

(;'A`)「どういう意味だ!」


時刻は9時を回った頃。
デレはドクオに連れられいつものように幼稚園に来た。

いつものようにクーに朝の挨拶をし、ドクオと別れの挨拶をすませ、いつものように自分の教室に入る。

ただ、いつもと違ったのは、普段自分より早く来ているはずの友人の靴が無かった事だろうか。


(*゚ー゚)「あ、デレちゃんおはよー」

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃんおはよー!……わたちゃんはまだきてないんだね」

(*゚ー゚)「ねー。いつもならいちばんにきてるのにね」
126:2012/12/29(土) 23:08:11.03 ID:
 
前にも言ったが、渡辺の家庭は少々問題を抱えている。
そのため彼女の母親がパートに行っているのだが、
パートの出勤時間の関係で早いうちに渡辺を幼稚園に送り出さなくてはならなかった。
だから、渡辺はいつも一番早く幼稚園に来ていたのだ。


川 ゚ -゚)「みんな集まったかー?」

ζ(゚、゚*ζ「あ、クーせんせー」

川 ゚ -゚)「む、どうした?」

ζ(゚、゚*ζ「わたちゃん今日はどうしたのー?」

川 ゚ -゚)「……事情があって、今日は遅れるみたいだ。デレちゃんは気にしないでいい」

ζ(゚、゚*ζ「……?」


クーが少し困ったような顔をしたのを、デレは見逃さなかった。
ただ、なんで渡辺の遅刻で困るような事があるのかは、理解出来なかったようだが。

クーは困ったと言うよりは焦っていた。
ブーンとデレの事も心配なのに、急に新たな心配事が増えてしまったのだから。
129:2012/12/29(土) 23:09:59.96 ID:
わたちゃん……
130:2012/12/29(土) 23:10:12.25 ID:
 
从'-'从「……」

ζ(゚ー゚*ζ「あ!わたちゃんだー」


渡辺が幼稚園に来たのは、お昼近くになってからだった。
デレは笑顔で渡辺に寄って行くが、すぐに違和感に気づき表情を変えた。


ζ(゚、゚*ζ「わたちゃんどうしたの?おなかいたい?」

从'-'从「……ううん、ちがうよ。おかあさんがね……」


从'-'从「おとうさんとりこんするんだって」

ζ(゚、゚*ζ「りこん……?」


まだ幼いデレにも、離婚の意味は理解できた。
ただ、テレビとかでしか聞いたことが無い話を、自分の一番の友達の両親が、ということはすぐ理解できなかった。
132:2012/12/29(土) 23:14:22.58 ID:
 
从'-'从「それでね、デレちゃん……」


从'-'从「わたし、おかあさんといっしょにとおくにいかなきゃいけないんだって」

ζ(゚、゚*ζ「え……?」

从'-'从「デレちゃんと、バイバイしなきゃいけないんだって」
ζ(゚、゚*;ζ「え……?バイバイ……?」

从'ー'从「……でも、だいじょーぶだよ!デレちゃんには、しぃちゃんとか、ほかのおともだちもいっぱいいるし」

从'ー'从「わたしも、おてがみとかちゃんとかくから」

ζ(゚、゚*;ζ「で、でもわたちゃん……」

从'ー'从「わたしもだいじょーぶだよ。おかあさんといっしょにがんばるから」

从^ー^从「えへ、えへへ……」


ζ(゚、゚*;ζ「……」


デレは頭の中がゴチャゴチャになっていた。
大切な友達の両親が離婚してしまうこと、その友達がどこか遠くに行ってしまうこと。
……辛いはずの友達が笑っていること。

それらを一度に理解するには、デレはあまりにも幼すぎた。
134:2012/12/29(土) 23:15:19.73 ID:
そっちか辛いな……
136:2012/12/29(土) 23:17:15.93 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ただひたすらに、馬車馬のように働いた。
さすがに三年も経つと仕事にも慣れてミスも随分と減った。

そして、ひたむきに頑張り続ける姿は、『仕事の評価』ではなく、『僕自身への評価』を上げてくれた。
おかげで上司にも気に入られ、職場での人間関係も円滑になった。
だから余計に仕事が捗った。

毎日毎日ヘトヘトになるまで働き続けて、彼女には随分心配をかけた。
「働きすぎよ!バカ!!」と怒られたこともあったが、あと少しだけ頑張る必要があった。

そして、その年の夏。
ようやく僕の目標に手が届いた。


いつもより少し洒落た服を着て、小さい頃一緒によく遊んだ公園に彼女を呼び出した。
本当はレストランとか、そういうオシャレな場所がよかったのかもしれない。

でも、僕には……僕達には、そこが一番いい気がした。
139:2012/12/29(土) 23:19:25.76 ID:
「どうしたの?こんなところに呼び出して。……まさか、この歳になって一緒に遊ぼうって言うんじゃないでしょうね」


―――違うお


「じゃあ何?ピクニックするならもっといい場所があるでしょ?」


―――違うお


「まあ、公園で一緒にのんびりするってのも悪く……」


―――ツン


「っ……!」


―――ブーンと、結婚してくださいお


―――これからも、ずっとずっと、ブーンと一緒にいてくださいお
143:2012/12/29(土) 23:22:15.65 ID:
 
僕よりも賢い彼女が、気づかないわけなかった。
僕が、いつもと違う服装で、彼女と一緒に遊んだこの場所に、彼女を呼び出した理由を。

彼女の性格はもうよく知っている。
ああやって関係のない話にもっていこうとしたのはただの照れ隠し。

―――それとも、僕からちゃんとその言葉を聞く前に、泣いてしまわないようにしていたのだろうか。


簡単な、僕なりの、僕らしいプロポーズの言葉。
彼女は何か言おうとして……何かが詰まっているかのように言葉は出てこなくて。
代わりに両目から大粒の涙が溢れ出した。

多分、生まれて初めて見る彼女の涙。
誰よりも優しくて、誰よりも強くて、そして誰よりも大切な彼女の……涙。


彼女は涙で目を赤く腫らしたまま優しく微笑んで


「幸せにしてくれなきゃ……許さないんだからね」


そう、言った。
147:2012/12/29(土) 23:25:55.35 ID:
 


「おい!!内藤!!」


「バカ!後ろだうs;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
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149:2012/12/29(土) 23:26:36.42 ID:
えっ
151:2012/12/29(土) 23:28:47.31 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ(゚、゚*ζ「……」


昼休み。
他の園児達は昼食を食べているのに、デレは一人で園庭のブランコに座っていた。

もちろん、それに気づかないクーではない。
自分の昼食に手を付けず、デレの元へと歩いていく。


川 ゚ -゚)「デレちゃん。お昼ご飯の時間だぞ」

ζ(゚、゚*ζ「クーせんせー……」

川 ゚ -゚)「どうした……って聞くまでもないか」


川 ゚ -゚)「……聞いたんだな」

ζ(゚、゚*ζ「うん……」
153:2012/12/29(土) 23:30:23.42 ID:
 
いつも元気が自慢のデレがこんなに落ち込んでいる姿を見るのは、クーも初めてだった。

だが、この歳で親友との別れを経験するのだ。
こうなるのも仕方あるまい。


ζ(゚、゚*ζ「わたちゃん、とおくにいっちゃうんだね」

川 ゚ -゚)「……そうだな」


ζ(゚、゚*ζ「それに、わたちゃんはおとーさんともはなればなれになっちゃうんだね」

川 ゚ -゚)「……」

ζ(゚、゚*ζ「……わたちゃん、さびしいよね」
川 ゚ -゚)「……そう、だな」



ζ(゚、゚*ζ「……でも、なんでわたちゃんはわらってたんだろう」

川 ゚ -゚)「……!」
155:2012/12/29(土) 23:33:50.54 ID:
 
デレの疑問に、クーは衝撃を覚えた。
なんで笑っていたのか?
なんでそんなことがわからないのか……。

そこまで考えて理解した。

わかるわけがないのだ。


デレはきっと知らない。
辛いのに、笑わなきゃいけない時があることを。
顔は笑っているのに、心では泣いて、助けを求めていることがあるのを。

デレはいつも、壊れた笑顔しか見ていなかったのだから。


川 ゚ -゚)「デレちゃん……。人が笑う時には、二つの場合があるんだ」

ζ(゚、゚*ζ「ふたつ……?」

川 ゚ -゚)「楽しい時と、悲しい時。その時に、人は笑うんだ」

ζ(゚、゚*ζ「かなしいのに……わらうの?」
157:2012/12/29(土) 23:36:18.49 ID:
 
ζ(゚、゚*ζ「なんで……?」

川 ゚ -゚)「……」


なんで、人は悲しい時にも笑うのだろう。
相手に心配をかけないため?
確かに今回はそれに当てはまるだろう。

だが、あいつは……?
ブーンの笑顔は……?


ブーンは、何故笑っているんだろう……


ζ(゚、゚*ζ「ねぇ、クーせんせ……」


ζ(ФωФ;ζ「クー先生!!」


デレがクーに再度問いかけようとした時、突然別の先生が園庭に飛び出してきた。
159:2012/12/29(土) 23:36:46.95 ID:
わあああああ
162:2012/12/29(土) 23:39:14.41 ID:
 
川 ゚ -゚)「どうした?そんなに慌てて……」

ζ(ФωФ;ζ「デレちゃんも……ちょうど良かったわ」

ζ(゚、゚*ζ「ロマせんせー……?」


ζ(ФωФ;ζ「いい?二人とも、落ち着いて聞いてね」


川 ゚ -゚)「だからどうしたと……」




ζ(ФωФ;ζ「デレちゃんのお父さんが、職場で機材に押しつぶされて……」




川; ゚ -゚)



ζ(゚、゚*ζ「…………え?」
164:2012/12/29(土) 23:40:15.23 ID:
ぎええええ
165:2012/12/29(土) 23:40:23.00 ID:
やめてくれよ…頼むよ…
168:2012/12/29(土) 23:42:38.45 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


小さな教会で、小さな結婚式を挙げた。
式に来てくれた人は少なかったけど、幸せだった。

様々な讃辞が飛び交う中心に、僕らはいた。
彼女は恥ずかしいのか終始俯き気味ではあったが。


もちろん、ドクオとクーも来てくれた。
式が終わった後は、4人で僕の家に集まって騒いだ。
二人とも僕らをからかってはツンから制裁を受けていた。
なんだか高校の頃に戻ったようで、少し懐かしい気分になれた。

クーは幼稚園の先生を目指しているようで、「もしかしたら、お前達の子どもを私が面倒見ることになるかもな」と言ってきた。

子ども、というワードに思わず反応したのは彼女も同じようで、
ちらと横に視線を送るとすぐに右の拳が飛んできた。

子ども……。
今までは漠然としか考えていなかったが、いざ自分が父親になるとなったら、途端に不安が首をもたげてきた。

僕は、父のような父親になれるのだろうか……?
169:2012/12/29(土) 23:43:58.02 ID:
なれるから頼む……
171:2012/12/29(土) 23:45:40.70 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(;'A`)「はぁ……はぁ……」


(;'A`)「あ、クー!!」

川 ゚ -゚)「病院で走るな。あと、静かにしろ」

(;'A`)「そうも言ってられるか!ブーンは!?」

川 ゚ -゚)「まだ手術中だ」

('A`)「……そうか」


ブーンの話を聞いたクーはデレを連れてすぐにブーンの搬送された病院へ向かった。
幼稚園の先生達も、クーとブーンが友人同士ということを知ってるからか、
「今日は幼稚園に戻って来なくてもいい」と言ってくれた。
175:2012/12/29(土) 23:48:21.27 ID:
('A`)「デレは……?」

川 ゚ -゚)「あそこだ」


ζ(゚ー゚*ζ「……」


(;'A`)「……」


デレはベンチに浅く腰掛けて、手術中のランプをじっと見つめていた。
……薄く微笑み、死んだ魚のような瞳で。

それは、父親の葬儀に参列した時のブーンの表情と同じだった。


(;'A`)「デレ……?」

川 ゚ -゚)「……残酷な物だな。親友と離れ離れになる話を聞いた後で……これだ」


心を抉るような出来事が立て続けに2つ。
しかも今現在たった一人の肉親を失うかもしれないのだ。
普通の子どもならば状況が飲み込めないだろうが……デレは違う。
母親を亡くしている彼女は「死」がどういうことかを知っている。

もしブーンに何かあったら……きっと彼女は耐えられないだろう。
176:2012/12/29(土) 23:48:58.88 ID:
つれぇよ……
177:2012/12/29(土) 23:51:35.09 ID:
 
10分……20分。
どれくらいの時間が経ったろうか。
一向に進まない時計の針にドクオがイライラし始めた頃、手術中のランプが消えた。


川; ゚ -゚)(;'A`)「「!」」


( ´ー`)「ん?親族の方ですか?」

川; ゚ -゚)「いや、私たちは彼の友人だ」

(;'A`)「それより、ブーンは……?」


( ´ー`)「大丈夫です。命に別状はありません。夜になる頃には目を覚ますでしょう」


川; ゚ -゚)

(;'A`)


川; - .-)(;-A-)「「はぁぁぁ……」」
178:2012/12/29(土) 23:51:57.74 ID:
よかったああああああ
181:2012/12/29(土) 23:52:55.88 ID:
一緒に息ついた
183:2012/12/29(土) 23:55:40.00 ID:
 
医者の言葉を聞いて、二人はへなへなと床に崩れた。
ブーンも、彼の父親と同じ最期を遂げてしまうのではと心配があったのだ。
とりあえず無事と聞いて、二人はようやく安心できた。


(;'A`)「よかったな、デレ。ブーンは無事みたいだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

(;'A`)「……デレ……?」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

(;'A`)「お、おい!デレ!!」



ζ(゚ー゚*ζ「……」



デレはドクオの呼びかけに応えず、ずっと固まっていた。
消灯した手術中のランプをじっと見つめたまま……。
185:2012/12/29(土) 23:57:45.70 ID:
どうした
186:2012/12/29(土) 23:59:10.49 ID:
 
川; ゚ -゚)「で、デレちゃん!?」

( ´ー`)「……無理もないでしょう。自分の父親が死にかけたんです。ショックも大きい」

( ´ー`)「とにかく、病室に搬送しますので、お付き添いの方もご一緒に……」

川; ゚ -゚)「あ……ああ……」


(;'A`)「ほら、デレ、行くぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「……」


ドクオがデレの手を引くとデレはふらふらと覚束ない足取りで歩き出した。
相変わらず両の瞳に光はない。

ブーンが無事で安心したところで、今度はデレがこの有り様である。
ドクオは何度か呼びかけてみたがやはり反応はなかった。
まるで、ただの人形だ。

なんでこの一家にはこんな災難ばかりが降りかかるのか。

ドクオはいるかもわからない神様を呪った。
187:2012/12/30(日) 00:01:48.06 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


朝起きると、彼女が朝食を作ってくれている。
そして、弁当を僕に渡して送り出してくれる。
家に帰ると、彼女はお風呂を沸かして夕飯の準備して待っていてくれた。

休みの日は二人でどこかに出かけたりして、毎日が楽しかった。
仕事も順調で、何をやってもうまく行くような気がした。


そんなある日、彼女は突然体調を崩した。


仕事から帰ると、彼女は洗面所で気分が悪そうにしていた。
僕は慌ててタクシーを呼び、空いてる病院にかけこんだ。

待合室で待たされること数分……、彼女は真っ赤な顔をして出てきた。
後ろには満面の笑顔の看護婦さんも。

「おめでとうございます」

看護婦さんにそう言われて、理解するのには少し時間がかかった。
言葉の意味が理解できて行くにつれ、様々な感情が湧き上がり、思わず彼女に抱きついていた。


……思えば、これが僕達の一番幸せな時期だったかもしれない。
189:2012/12/30(日) 00:05:54.31 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ(゚ー゚*ζ「……」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」


病室はまるで通夜でも行われているような静けさだった。
ベッドに寝ている男はまだ生きているというのに。

結局ブーンは、軽い頭部内出血と右腕、右足の骨折で済んだらしい。
……十分重傷ではあるが、何百kgもある機材に押しつぶされてこの程度で済んだのは不幸中の幸いだろう。

だが、今心配なのはブーンより……


ζ(゚ー゚*ζ「……」

('A`)(デレ……)


……先ほどから一言も発することのない、デレの方だ。
192:2012/12/30(日) 00:09:35.52 ID:
 
すでに日は傾き、もう間もなく夜がやってくる。
医者の話ではブーンは夜には目を覚ますらしいが、そんな様子は見えない。

点滴の残りが無くなり、クーがナースコールを押す。
すぐに看護婦がきて新しいものと交換していった。


川 ゚ -゚)「……なぁ、デレちゃん。お腹空かないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

川 ゚ -゚)「何か買ってくるぞ、何がいい?」

ζ(゚ー゚*ζ「……」


川 - .-)「……はぁ」


一度椅子から立ち上がったクーだったが、小さなため息と共に、再び腰を下ろす。
困った顔でドクオに視線を送るが、ドクオは無言で首を振るだけだった。
193:2012/12/30(日) 00:10:47.06 ID:
幸せになってくれえええ
194:2012/12/30(日) 00:13:32.14 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「……あっ」


今まで無言だったデレが突然声を上げた。
ドクオとクーは驚いて一瞬顔を見合わせるが、理由はすぐにわかった。


(%´ω`)「お……?」

(%^ω^)「ここは……?」


(;'A`)「ブーン!」

川; ゚ -゚)「よかった、気が付いたか」


(%;^ω^)「ドクオ?クー?これは……いっつつ!!」

(;'A`)「ああ、動くな!クー、先生呼んでくれ」

川 ゚ -゚)「わかった」
197:2012/12/30(日) 00:17:01.90 ID:
 

( ´ー`)「……はい、問題ないですね。これならすぐに退院できますよ」

(%^ω^)「……ありがとうございますお」

( ´ー`)「いえいえ、これが仕事ですから。お礼はご友人と、娘さんに言ってあげてください」

(%^ω^)「おっ……」

( ´ー`)「では、私はこれで」


医者が部屋を出て行くと、ブーンはドクオ達に向き直る。
そして、いつものように微笑んで二人に礼を言った。


(%^ω^)「二人ともありがとうお。心配かけてごめんお」

('A`)「……まったくだぜ。このバカやろう」

川 ゚ -゚)「それに、一番心配してたのは私たちじゃないぞ」
200:2012/12/30(日) 00:20:49.52 ID:
 
クーに背中を押されて、デレがブーンのベッドの横までくる。
その顔からは笑みが消えていたが、いつの間にか表情は戻っていた。


ζ(゚-゚*ζ「おとーさん……?」

(%^ω^)「デレにも、心配かけたおね。ごめんお」

ζ(゚-゚*ζ「いたく、ない?」

(%^ω^)「この程度へっちゃらだお」


ζ(゚-゚*ζ「……おとーさん、どっかにいったりしない?」

(%^ω^)「とーちゃんはどこにも行かないお。ちゃんとデレと一緒にいるお」


ζ(;-;*ζ「おと……さ……」


ζ(;Д;*ζ「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!うああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
201:2012/12/30(日) 00:21:40.56 ID:
泣いた!
202:2012/12/30(日) 00:24:30.56 ID:
 
(%^ω^)「よしよし、とーちゃんは大丈夫だから。泣いちゃダメだお」


デレはブーンにしがみついて大声で泣き始めた。
今まで我慢していたことを全て吐き出すように。


ζ(;Д;*ζ「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

(%^ω^)「どうしてデレが謝るんだお。謝らなきゃダメなのはとーちゃんの方だお」

ζ(;Д;*ζ「だっで……おがえりなさいも、いっでらっしゃいもいえなかったから……」

ζ(;Д;*ζ「デレがわるいこだから……おかーさんがおとーさんをつれてっちゃうんだって……」


('A`)「……!」


ζ(;Д;*ζ「だから……だから……うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

(%^ω^)「……大丈夫だお。とーちゃんはずっとデレのそばにいるお」
204:2012/12/30(日) 00:25:48.03 ID:
デレちゃんは悪い子じゃないよおおおおお
205:2012/12/30(日) 00:28:01.24 ID:
 

ζ(-、-。*ζ「すー……すー……」


デレは一通り泣いた後、泣き疲れて寝てしまった。
今は、看護婦さんが運んで来てくれた布団で寝ている。


(%^ω^)「……みんな、本当にごめんお」

川 ゚ -゚)「もう謝るな。そのための友達だろう?」

(%^ω^)「おっ……」


(%^ω^)「デレにも悪いことしたお。……父親失格だおね」

川 ゚ -゚)「そんなことは……」

('A`)「クー、腹減ったからパン買って来て」
207:2012/12/30(日) 00:31:09.94 ID:
 
川 ゚ -゚)「……お前なぁ。人が話してるときに」

('A`)「いいからいいから。ほら、これだけありゃ足りるだろ」


ドクオは千円札をクーに無理矢理握らせる。
最初は困惑していたクーだったが、ドクオの顔を見て、それを黙って受け取った。


川 ゚ -゚)「……何パンがいいんだ?」

('A`)「なんでも」

川 ゚ -゚)「……そうか」


クーが部屋を出て行くと、病室に静寂が訪れた。
外ではもう月が昇っているのに、病室の照明は点けないまま。

薄暗さも相まって、静寂が痛いほど強調される。
やがて、ドクオがゆっくりと口を開いた。
211:2012/12/30(日) 00:34:20.21 ID:
 
('A`)「……ブーン、お前……もっとちゃんとデレを見てやれよ」

(%^ω^)「何を言ってるんだお。ブーンはちゃんとデレを見てあげてるお」

('A`)「どうだか。……今日のデレの言葉で確信したよ」

(%^ω^)「どういうことだお」


('A`)「デレは不安がってんだよ。誰かさんがデレを通して別の人間を見てるから」

(%^ω^)「……ツンの事を言ってるのかお」

('A`)「……さあな」


(%^ω^)「……ブーンは、ちゃんとデレを見てるお。ブーンのとーちゃんがそうだったように、デレに笑いかけてあげてるお」

('A`)「……笑いかけてあげてる、ねぇ」


('A`)「俺は、ツンが死んでからお前の笑った顔を一度も見てないぞ」

(%^ω^)「……嘘つくなお」
214:2012/12/30(日) 00:35:54.60 ID:
ブーン…
215:2012/12/30(日) 00:38:13.37 ID:
 
('A`)「嘘じゃないさ」


('A`)「……お前は笑ってない。自分では笑ってるつもりなんだろうがな」


(%^ω^)「……ブーンは、笑ってない……?」

('A`)「……だから、デレは不安がってんだよ」

('A`)「お前の、ちゃんとした笑顔を見たことがないから……」


ドクオは、それきり何も言わなかった。
今彼に言えるのはこれだけだったのだ。

ブーンはドクオの言葉にショックを受けていた。
自分は笑えていなかった?笑っているつもりになっているだけ?


(%^ω^)(……ブーンは笑えているお。笑えてなかったのは……あの日だけだお)

(%^ω^)(……あの日は……笑えなかった……)


―――だから、ツンは…………
217:2012/12/30(日) 00:41:04.90 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


彼女のお腹が大きくなるに連れて、僕の不安もどんどん大きくなってきた。
自分はちゃんと父親が出来るのかということ。
初めての子育てで失敗しないかということ。


……お腹が大きくなるに連れ、どんどん体調が悪くなっていく彼女のこと。


病院で医者に相談しても、「妊婦にはよくあること」と片付けられてしまった。
助産師の人に相談したら、「心配かもしれないけど、あなたが心配することで奥さんが不安になっちゃうわよ」と諭された。

僕は彼女を不安にさせないように、できるだけ明るく振る舞った。
それに、生まれた子どもの「その後」を考えると、自然と楽しい気分になった。


彼女は

「ふふ、ブーンの笑顔を見てると、なんだか安心するわ」

そう言ってくれた。
220:2012/12/30(日) 00:44:32.54 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさん、またねー」

('A`)「おう。帰りに迎えにくるから、そうしたら一緒に病院行こうな」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」


ブーンが入院している間、デレは幼稚園を休園させた方がいいのではとクーは言った。
だが、デレは休まなくても大丈夫だと、クーに言う。
ブーンも「ずっと病院にいさせるのもかわいそうだお」と、デレが幼稚園に行くことに反対しなかった。

それでもクーは納得出来なかったが、


('A`)「……今は、ブーンはデレと少し距離を置くべきかもしれない」


……ドクオのこの一言で渋々了承した。


川 ゚ -゚)(子どもは親と一緒にいるべきだ……。それに、今はこっちにいたって……)

ζ(゚ー゚*ζ「せんせー、はやくきょーしついこー?」

川 ゚ -゚)「あ、ああ。今行く」
221:2012/12/30(日) 00:45:43.51 ID:
ブーンもデレも心配だ
222:2012/12/30(日) 00:47:11.24 ID:
 
ζ(゚、゚*ζ「あ……」

从'-'从「あ……」


デレが教室に入ると、すぐ渡辺と目が合った。
いつもならそのまま和気あいあいと話し始める二人だが、今日は挨拶すら交わさなかった。


川 ゚ -゚)(……まだ、こっちの問題が解決していないんだ)


さっきまで元気のよかったデレも瞳を伏せ、すっかり押し黙っている。
たまにちらっと渡辺の方を見るが、すぐに視線を戻してしまう。


川 ゚ -゚)(……さて、どうするべきか)


考えてもすぐに答えが出るわけなく、クーは諦めて「仕事」に戻った。
幼稚園にいる限り、彼女はただの「先生」でしかないのだから。
225:2012/12/30(日) 00:50:51.86 ID:
 
昼休み。
デレはやはり一人で園庭に出ていた。
昨日と違う点と言えば、今日は弁当を持って行っているところだろうか。


川 ゚ -゚)「デレちゃん」

ζ(゚、゚*ζ「あ、クーせんせー……」


川 ゚ -゚)「なんだか、悩んでるみたいだな」

ζ(゚、゚*ζ「うん……」


デレはすっかり意気消沈していた。
それでも昨日のような、人形のような表情にはなっていない。

ふと、クーは昨日話していたことについて思い出した。


川 ゚ -゚)「昨日の話の続きをしようか」

ζ(゚、゚*ζ「きのーの……?」
227:2012/12/30(日) 00:54:08.64 ID:
 
川 ゚ -゚)「悲しい時に、なんで人は笑うのか……についてだ」

ζ(゚、゚*ζ「……」


昨日は答えが出なかった。
だが、昨夜のデレを見て、何となく答えがわかった気がした。


川 ゚ -゚)「……辛くて、苦しくて、悲しくて……それが限界を越えると人は表情を失う」

ζ(゚、゚*ζ「どーいうこと?」

川 ゚ -゚)「悲しすぎて、泣きたくても泣けなくなっちゃうんだ」

ζ(゚、゚*ζ「あ……」


何かに気づいたように、デレは声を上げた。
きっと、昨日の自分に当てはまるところがあったのだろう。


川 ゚ -゚)「心の中では、泣きたいと思ってるのかもしれない。だけど泣けない。だから笑うんだ」

ζ(゚、゚*ζ「わたちゃんも……なきたいのかな」
230:2012/12/30(日) 00:57:15.32 ID:
 
ζ(゚、゚*ζ「きのうのあたしとおんなじきぶんなのかな」

川 ゚ -゚)「……そう、かもな」


デレは口を真一文字にキュッと結んで下を向く。
昨日の事を思い出しているのだろうか。
……やはり、昨日の出来事はデレにとってかなり心を抉る出来事だったのだろう。


ζ(゚、゚*ζ「……あたし、わたちゃんになにしてあげればいいんだろ」

川 ゚ -゚)「……難しいな」


デレが口を挟んだところで、渡辺家の事情がどうにかなるなどということはない。
それに、酷く傷心した友人を救う言葉なんて、クーには考えることは出来なかった。

……自分の友人を救う言葉すら、見つからなかったのだから。


ζ(゚、゚*ζ「……あたしね、おとーさんがだいじょーぶってわかって、いっぱいないちゃった」

ζ(゚、゚*ζ「いっぱいないたら、もやもやとかぜんぶなくなったの」


ζ(゚、゚*ζ「わたちゃんもないたら、げんきになるのかな」
233:2012/12/30(日) 01:00:10.94 ID:
 
川 ゚ -゚)「……どうして、そう思ったんだ?」

ζ(゚、゚*ζ「だって、わたちゃん……いちどもないてない」

川 ゚ -゚)「みんなの前だから、我慢してるんだろう」

ζ(゚、゚*ζ「でも、わたちゃんすごいかなしいんでしょ?がまんしちゃだめだよ……」

川 ゚ -゚)「……」


中高生ならともかく、幼稚園児が涙を我慢する必要はない。
ひとしきり泣いて、笑って、喧嘩して……少しずつ社交性を学んでいく場所。
それが、幼稚園や保育園なのだから。

だから、デレの言うことはよくわかる。
わかるのだが……クーの中で、何かが引っかかっていた。

何故だろうか、涙を我慢していつも笑顔でいることが正しいような……そんな気がした。
234:2012/12/30(日) 01:00:40.82 ID:
笑顔が正しいか……
236:2012/12/30(日) 01:03:16.70 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


彼女のお腹も随分大きくなって、彼女の体調も安定してきた。
医者の話では、今が一番安定する時期らしい。

出産の日が段々と近づいていく中、彼女は突然、「家で産みたい」と言い出した。
僕は驚いたが、意外にも助産師さんは彼女の意見に賛成のようだ。
なんでも、妊婦が一番リラックスできる環境で出産する方が母親の精神的負担が軽くなるとか。

そうと言われても、僕はなかなか安心できなかった。
やっぱり、設備の整っている病院で出産した方が安心できる。
でも、彼女はどうしても出産は自宅で行いたいらしい。

結局僕は、彼女の意思を尊重することにした。
彼女の頑固さは知っているから、僕が何を言っても聞かないことはわかっていたからだ。

しかしその時は、彼女はやけに自宅出産に固執していた。
もしかしたら、彼女はわかっていたのかもしれない。

―――出産に伴い、自分がどうなるのかを。
238:2012/12/30(日) 01:05:56.50 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(*゚ー゚)「せんせーさようならー」

川 ゚ー゚)「はい、さようなら」


園児達が次々と帰っていくのを、クーは笑顔で見送っていた。
教室の中の園児が一人、また一人と母親に連れられて家路につき、とうとう残ったのは渡辺とデレだけになった。


川 ゚ -゚)「ドクオもそろそろ来るだろう。デレちゃんも帰る準備をした方がいいぞ」

ζ(゚、゚*ζ「……せんせー」

川 ゚ -゚)「どうした?」

ζ(゚、゚*ζ「あたしがかえったら、わたちゃんひとりぼっちだよね」

川 ゚ -゚)「一応、私も残るが……」

ζ(゚ー゚*ζ「おとーさんにはわるいけど、あたしきょうはわたちゃんといっしょにいる」

从'-'从「!」


川 ゚ -゚)「……そうか。じゃあ、ドクオが来たら私から話をしておくよ」
239:2012/12/30(日) 01:08:37.41 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃん、なにしてあそぶ?」

从'-'从「ふぇ……えと……」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあおままごとでいい?」

从'-'从「え……う、うん……」


ζ(゚ー゚*ζ「じゃあわたちゃんはきんじょのおんなのこ、あたしはそのおともだちのやくね!」

从'-'从「え……?」


ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃんおはよー!」

从;'-'从「あ、おはよー……?」

ζ(´ー`*ζ「きょーもあついねー。おひさまジリジリだよー」

从;'-'从「うん……さいきんあついよね……」
241:2012/12/30(日) 01:10:25.59 ID:
 
……デレは、おままごとと称して他愛のない話を続けた。
最初は、デレが何をしようとしてるのかわからず、困惑していた渡辺も、少しずつ「いつも通り」の会話が出来るようになっていった。

デレの笑顔につられて、渡辺も自然な笑顔を浮かべる。
そこには、「いつも通り」の二人がいた。


ζ(゚ー゚*ζ「……ねぇ、わたちゃん」

从'ー'从「なぁに?」


ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃんは、あたしのだいじなともだちだよ」

从'ー'从「……うん」

ζ(゚ー゚*ζ「とおくにいっちゃっても、ずっと、ずっとともだちだよ」

从'ー'从「……うん」


ζ(゚ー゚*ζ「だからね……」
244:2012/12/30(日) 01:12:13.49 ID:
いい子だ
245:2012/12/30(日) 01:13:07.76 ID:
 

ζ(゚ー゚*ζ「がまんしないで……いいんだよ?」


从'ー'从「…………へ?」


ζ(゚ー゚*ζ「……わたちゃん、かなしいよね、つらいよね」

ζ(゚ー゚*ζ「……だから、がまんしないでいいの」


从'ー'从「わたし……がまんなんて……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

从'ー'从「あ……」


デレは無言で渡辺の手を取った。
そして、まっすぐ渡辺の目を見つめる。

優しい……相手を包み込むような、そんな瞳だった。
247:2012/12/30(日) 01:16:21.72 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「……あたしね、わたちゃんのことだいすきだよ」

从 ー 从「……うん」

ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃんがつらいなら、たすけてあげたいの」

从 ー 从「……うん」

ζ( ー *ζ「……だから」


ζ(;ー;*ζ「がまんしないで……。わたちゃんがかなしいと、あたしもかなしいの……」

从 ー 从「ふぇ……なんでデレちゃんがないちゃうの……?」


从;ー;从「デレちゃんがないちゃったら……わたし……」



誰もいない教室に、少女二人分の泣き声が響く。

それは、少女の悲しみの涙。
それは、少女の感謝の涙。
それは、少女達の友情の涙。

様々な感情が、教室の中に溢れかえっていた。
249:2012/12/30(日) 01:19:58.03 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


夏の暑い日だった。
仕事を終えて帰ろうとしたら、上司が血相を変えて飛んできた。

……彼女の陣痛が始まった。

仕事に行くときはいつもの助産師さんに彼女の事を頼んでいた。
決して暇な人では無かったが、快く引き受けてくれた。
その助産師さんから会社に電話があったのだ。

僕は頭が真っ白になった。
こんな時、どうすればいいのかまったくわからなかった。
家までは上司が車で送ってくれた。

僕はお礼を言うのも忘れて、大急ぎで自分の部屋に飛び込んだ。
彼女は布団の上で、苦しそうな表情をしていた。

助産師さんは落ち着いた様子で、僕に色々指示を出してくれた。
そのうち医者も到着して、いよいよ彼女の初めての出産が始まった。
251:2012/12/30(日) 01:23:45.86 ID:
 
……そこから先は、地獄だった。
出産がどれだけ辛いかについては聞いてたはずなのに、想像以上だった。

彼女は呼吸すらままならない様子で、ラマーズ呼吸法も上手く行うことが出来なかった。
痛みで気絶することもあった。
気絶して、すぐに痛みで起きるときもあれば、助産師さんに叩き起こされることもあった。

僕は、彼女の手を握って、祈ることしかできなかった。
早く、とにかく早く終わって欲しかった。

そんな時、彼女の口から苦しそうな息づかいと共に、言葉が漏れた。



「そんな顔……しないでよ……」


「……笑って…………ブーン……。そしたら……がんばれる……から……」



気を失うような痛みを感じてるはずなのに、彼女はそう言った。
僕は必死に涙を拭い、頑張って笑顔を作った。
彼女も小さく笑ったような気がした。

……僕は、ちゃんと笑えていた自信はない。
253:2012/12/30(日) 01:26:14.85 ID:
 
それからどれだけ経ったろう。
もう、自分が何をやっているかも分からなくなった頃、何かが聞こえた。
そして、僕の目の前に、温かい物が差し出された。

自室に響く新しい命の声。
明るく―――強く灯った命の灯火。

喧騒に包まれた部屋の中、その音だけが耳についた。


―――ほら、ツン。元気な女の子だお


生まれたばかりの我が子をタオルで優しく包み、彼女の目の前まで持ってくる。
彼女は小さく微笑み、その白く細い指で子供の頬を撫でた。
そして、その微笑みを僕に向け、何かを呟く。


「……ん…………て………」


背後で助産師さんと医者が何やら大声で叫んでいて、彼女の声は僕に届かなかった。

だから僕は、彼女に笑いかけた。
彼女がこれからも頑張れるように、彼女を元気づけられるように。

―――――それきり、彼女は動かなくなった。
255:2012/12/30(日) 01:27:00.67 ID:
笑えなかった…
257:2012/12/30(日) 01:29:46.55 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(%^ω^)(ツン……)


ブーンは、病室で一人、亡くした妻のことを考えていた。
幼い頃からずっと一緒で……デレを産んだ時に亡くなってしまった、ツンの事を。


(%^ω^)(ブーンが笑えなかったから……ツンは頑張れなかったんだお)


……だから、死んでしまった。
ブーンはそう考えていた。


(%^ω^)(ブーンが笑えていたら、ツンはまだ生きているんだお)

(%^ω^)(ブーンが笑っていたら、ツンは生きてたんだお)
259:2012/12/30(日) 01:34:11.23 ID:
 
ふと、先日のドクオの言葉を思い出した。
「ちゃんとデレを見てやれ」とドクオは言った。
意味が分からなかった。


(%^ω^)(ブーンはちゃんとデレを見てるお……)

(%^ω^)(ブーンの笑顔を見て、デレも笑ってくれるお……)


『……お前は笑ってない。自分では笑ってるつもりなんだろうがな』


(%^ω^)(……)


ドクオの言葉が頭の中でリフレインする。
意味が分からない。
自分は笑っている、だからデレも笑みを返してくれるのだ。

……ずっと笑顔でいるんだ。
かつて、自分の父親がそうだったように。
261:2012/12/30(日) 01:35:24.87 ID:
胸につまる
262:2012/12/30(日) 01:36:57.63 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「おとーさーん!」

(;'A`)「っ!こ、こらデレ!病院では静かにしろ!」

ζ(゚ー゚*;ζ「あ……ごめんなさい」


静かだった病室が一転して騒がしくなった。
ドクオに叱られたデレは、苦笑いを浮かべてブーンの方を見る。
ブーンも、いつも通りの笑顔でデレに返した。


('A`)「すまんな。ちょっと用事があって遅くなった」

(%^ω^)「いや、大丈夫だお。デレも病院じゃ退屈だおね?」

ζ(゚ー゚*ζ「んーん。おとーさんがいるからたいくつじゃないよ」

(%^ω^)「おっおっ。ありがとうお、デレ」


ζ(゚、゚*ζ「……?」
265:2012/12/30(日) 01:40:50.67 ID:
 
「いつもの」ブーンの笑顔に、デレは違和感を覚えた。
それは確かにいつも父が見せていた笑顔と同じだ。

……なのに、変な感じがした。
そう、まるでブーンが泣いてるような……。


(%^ω^)「デレ、どうしたんだお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、なんでもない」


気のせいだろう、とデレは思った。
ブーンが泣く理由なんて、デレには思いつかなかったから。

……思いつくわけないのだ。

デレは知らないのだから。
ブーンの悲しみを、後悔を。


ブーンがすっかり壊れてしまっていることを……
266:2012/12/30(日) 01:41:45.17 ID:
やめてくれええええ
267:2012/12/30(日) 01:42:54.66 ID:
つらい…ブーン…
268:2012/12/30(日) 01:43:47.00 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


彼女の葬儀はしめやかに行われた。
ドクオとクーも来てくれた。
何を話したかは全然記憶にない。

ただ、クーが近所の幼稚園に勤務することになるかもしれないという話を聞いた気がする。


家に帰ったら、途端に孤独感に襲われた。
自分の家がやけに広く感じられた。

もう、何もかもがどうでも良かった。
なんで自分がここにいるのかもわからなかった。
まるで脱け殻だ。


全てに絶望していた時、声が聞こえた。


いつから抱いていたのだろうか。
腕の中にいた自分の……彼女の娘。
しわくちゃな顔で何かを求めて泣いていた。
270:2012/12/30(日) 01:46:30.49 ID:
 
真っ暗な空間に、明かりが灯ったような気がした。

……まだ絶望するわけにはいかない。
ここには娘がいる。
彼女がいた、彼女といた証がある。
彼女がいる。

彼女を失って、もう笑えない気がしていた。
でも、今なら笑える。


僕は我が子に笑いかけてみた。
すると、彼女はピタリと泣くのをやめ、僕の顔をマジマジと見た後、笑ったような気がした。


僕は誓った。
必ず『彼女』を幸せにしてみせると。
272:2012/12/30(日) 01:48:47.39 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


('A`)「よかったな。明日には退院できるってさ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」


あれからしばらくブーンと話をした後、デレとドクオはブーンの家に向かっていた。
病院に泊まっても良かったのだが、病院から幼稚園までは少し距離がある。

だから家に帰るようにとブーンが言ったのだ。


('A`)「まぁ、退院してもしばらくは病院に通わないとダメだけど…………どうした?」

ζ(゚、゚*ζ「え?」

('A`)「何か考えてるみたいだからさ。悩みなら相談に乗るぞ?」

ζ(゚、゚*ζ「うん……」
274:2012/12/30(日) 01:49:48.91 ID:
今思ったけどWith you smileじゃね?
275:2012/12/30(日) 01:51:38.54 ID:
ドクオとクーにはこの親子(と妻)を助けてやってほしい……
276:2012/12/30(日) 01:53:08.11 ID:
 
デレは、病院でのブーンの笑顔が気になっていた。
気のせいだとは思ったが、やはり違和感は残っている。


ζ(゚、゚*ζ「おとーさん、かなしそうだった」

('A`)「……悲しそう?」

ζ(゚、゚*ζ「よくわかんない……」

ζ(゚、゚*ζ「おとーさん、いつもみたいにわらってたんだけど……」


ζ(゚、゚*ζ「なんだか、きのーのわたちゃんとおなじだった」

('A`)「……」


デレは今まで知らなかった。
ブーンの笑顔が壊れていること……偽物だということを。

だが、デレは知った。
偽物の笑顔を。
……だから気づいたんだ。
279:2012/12/30(日) 01:57:52.85 ID:
 
ブーンを救えるのは、世界中にもツンしかいないだろう。
でも、ツンが死んでしまった今は?
誰もブーンの支えになってやれないのか?

いや、1人いるではないか。
ブーンに支えられ、そしてブーンの支えになってきた少女が。


ζ(゚、゚*ζ「……ドクオおじさん?」


―――デレなら、ブーンを助けてくれる。


('A`)「……そうだな。ブーンはずっと悲しんでる」

ζ(゚、゚*ζ「ずっと……?」

('A`)「ツンが……デレのお母さんが死んじゃった時からな」

ζ(゚、゚*ζ「おかーさんが……」


('A`)「そうだ。デレのお母さんが死んでからブーンは……笑えなくなった」
280:2012/12/30(日) 01:58:35.65 ID:
ハッピーエンドか? 期待していいのか?
281:2012/12/30(日) 02:02:32.80 ID:
 
ζ(゚、゚*ζ「でも、おとーさんいつもわらってたよ?」

('A`)「……そうだな。でも、デレはブーンの笑顔を見て、何て感じた?」

ζ(゚、゚*ζ「……かなしそうだった」

('A`)「……うん。そうだ」


('A`)「いつも笑っていた時……それがブーンが悲しんでいた時だ」

ζ(゚、゚*ζ「……」


('A`)「……ブーンが笑うとさ、そこに自然と人が集まって来るんだ」

('A`)「周りのみんなが自然と幸せな気分になるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「へー……。おとーさんすごいね!」

('A`)「ああそうだ。なんたって、俺と友達になれるくらいだからな」

ζ(゚、゚*ζ「ドクオおじさんとともだちだとすごいの?」
284:2012/12/30(日) 02:04:37.57 ID:
 
('A`)「ああ!なんたって世界に4人しかいないからな!」

ζ(゚ー゚*ζ「だれ?だれ?」

('A`)「ブーンと、ツンと、クーと、デレだ!」

ζ(゚ー゚*ζ「おー!じゃあ、あたしもすごいの!」

('A`)「もちろんだとも!」

ζ(^ー^*ζ「やったー!」


デレはバンザイをしながらドクオの周りをぐるぐる回る。
見た目はツンに似ていても、中身はブーンそっくりだ。

それがおかしくてドクオは軽く吹き出した。
285:2012/12/30(日) 02:05:02.28 ID:
可愛いなぁこのまま幸せになって欲しいなぁ
297:2012/12/30(日) 02:20:37.31 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


男手一つでの子育ては大変だったが、彼女はすくすくと育ってくれた。
僕に似たのか、明るく元気でしょっちゅう外で遊びまわっては怪我をした。

仕事がある時は、ドクオに世話を頼んだりもした。
職場には無理を行って、早く家に帰れるよう、休憩無しにして、休憩時間分だけ早めに上がれるようにさせてもらった。

あと、クーが近所の幼稚園に正式に勤めることになったという話も聞いた。
いつの間にかこの町にみんなが帰ってきていた。


彼女は、よく笑う子だった。
僕が笑うと彼女は笑う。
彼女は笑ってくれた。
彼女が笑ってくれる。



そこに、彼女がいた。
301:2012/12/30(日) 02:27:56.08 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ(゚ー゚*ζ「おとーさんすごーい。なにそれー」

(%^ω^)「車椅子って言うんだお。ブーンの膝で良ければ乗るかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「おとーさんいたくない?」

(%^ω^)「おっおっ。大丈夫だお。……ほら、おいでお」

ζ(^ー^*ζ「わーい!」

(;'A`)「お前らなぁ……車椅子を押す俺の身にもなれよ……」


三人は一路ブーンの家へと向かっていた。
本来ならまだ入院していた方がいいのだろうが、ブーンがそれを拒んだ。

もちろんまともに歩ける状態ではないので、車椅子での帰宅となった。
302:2012/12/30(日) 02:29:02.85 ID:
ドクオはいい友達だな
305:2012/12/30(日) 02:34:36.63 ID:
ζ(゚ー゚*ζ「ただいまー!」

(%^ω^)「ただいまだお」


家に着く頃には、すっかり夕方になっていた。
さすがに室内で車椅子は使えないので、ブーンは動く手足で壁づたいに部屋へと入る。

そして窓際の棚の前―――ツンの写真の前に立った。


「ツン、ただいまだお」


夕日に照らされる父親の背中を、デレが不思議そうな顔で見つめる。
窓から吹き込んだ風が、カーテンを揺らした。


ζ(゚、゚*ζ「おとーさん?」


デレの声を聞いて、ブーンは振り返る。
そして、「いつもの」笑顔を向けた。
307:2012/12/30(日) 02:38:23.49 ID:
娘にもその笑顔を!
308:2012/12/30(日) 02:39:53.39 ID:
ζ(゚、゚*ζ「……」


デレは、昨日よりも強い違和感を覚えた。
……そういえば、母の写真に語りかけているときの父は、いつもと違う感じがしていた。


(;'A`)「あー疲れた。車椅子、玄関に置いときゃいいよな?」

(%^ω^)「おっ。ありがとうお」



……デレは一度、母の写真を見ているときの父の顔を見たことがあった。
その時、ブーンは……



( ^ω^)



写真を見て「なかった」
あのとき、ブーンが見ていたのは……
311:2012/12/30(日) 02:44:45.74 ID:
 
ζ(゚、゚*ζ「……」

(%^ω^)「デレ?どうしたお?」


ζ(゚、゚*ζ「おとーさん」

(%^ω^)「なんだお?」




ζ(゚、゚*ζ「あたし、ここにいるよ?」




(;'A`)


(%^ω^)
316:2012/12/30(日) 02:49:31.19 ID:
デレの言葉に、室内は水を打ったように静かになった。
予想外の言葉に、ドクオも目を丸くする。

ブーンはデレを真っ直ぐ見つめている。
デレの言葉の真意は、誰も理解できなかった。


(%^ω^)「どうしたんだお?デレ。デレはここにいるお?」

ζ(゚、゚*ζ「うん」

(%^ω^)「じゃあ、なんでそんなこと言うんだお?」

ζ(゚、゚*ζ「おとーさん」




ζ(゚、゚*ζ「あたし、しゃしんのなかにいないよ?」
317:2012/12/30(日) 02:49:51.90 ID:
胸が痛い
321:2012/12/30(日) 02:56:06.42 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


彼女のために、もっと仕事を頑張らないとと思った。
いつもと同じ時間で、いつもの倍の仕事をこなした。

少しでも父に近づきたかった。

だがら、頑張った。
でも、そのせいで怪我をして、彼女に心配をかけてしまった。

これ以上心配をかけたくないから、早々に退院した。


「おとーさん」

「あたし、ここにいるよ?」


知ってる。
ちゃんと、そこにいてくれてる。
324:2012/12/30(日) 02:59:06.20 ID:
 
「おとーさん」


「あたし、しゃしんのなかにいないよ?」


写真?

写真に写っているのは……


ζ(゚ー゚*ζ


誰だ


「おとーさん?」


誰だ



お前は、誰だ
329:2012/12/30(日) 03:08:15.41 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ζ( д *;ζ「……ぅげぐっ……」

(%゚ω゚)「……」


ブーンが突然立ち上がったかと思うと、デレに馬乗りになり、その首を締め始めた。
片手、しかも利き手ではない方だとしても、5才の幼女の首を締めるには十分な力がある。


(#'A`)「ブーン!!」

それを見たドクオがすぐにブーンを引き離した。
デレの首にはくっきりと手の跡が残っていた。


ζ( д *;ζ「げほっ!げほっ!」

(;'A`)「デレ!大丈夫か!?」

ζ( д *;ζ「おじざ……えほっ!げほっ!」


(#'A`)「っ……!ブーン!てめぇ、どういうつもりだ!!」
330:2012/12/30(日) 03:09:07.02 ID:
そんな…
331:2012/12/30(日) 03:09:20.82 ID:
やめろよ……
333:2012/12/30(日) 03:14:03.77 ID:
 
(;%゚ω゚)「ツンは……ツンはどこだお」

(#'A`)「ツンは5年前に死んだろ!!何言ってんだ!!」


ブーンは部屋の中を見回し、いるはずのないツンの姿を探していた。
額には脂汗が浮いていて、生気を失った顔をして。


(;%゚ω゚)「ツン……?ツン……?」

(#'A`)「だからツンは死んだっつってんだろ!!」


ドクオがブーンの胸ぐらを掴んで自分の元へ引き寄せる。
ブーンはそれでも視線をあちこちに移動させて、亡き妻の姿を探している。


(;%゚ω゚)「ツン……どこだお……?」

(;'A`)「っ……!」
336:2012/12/30(日) 03:19:45.51 ID:
 
情けない表情でカタカタと震えながら、ブーンはツンを探す。
そんな姿を、ドクオは見たくなかった。

一人ぼっちだった学生生活……。
それを変えてくれたのはブーンだ。
周りはみんな敵だと思っていた自分と、友達になってくれたすごい奴だ。

そんな友達の、こんな姿は見たくなかった。
ポロポロと涙がドクオの頬伝う。


(;%゚ω゚)「ツン……どこ行ったんだお……」

(#;A;)「……だからっ!ツンはもう死んだんだって!!いい加減わかれ!!」

(;%゚ω゚)「ツン……」

(#;A;)「っ!!」
339:2012/12/30(日) 03:21:07.78 ID:
壊れてる友達見るのって辛いよな
340:2012/12/30(日) 03:24:09.13 ID:
 
(#;A;)「俺の顔を見ろよ!!ばかやろぉぉぉぉぉ!!!」


ドクオは思わず拳を振り上げた。
相手は怪我人?知ったことか。
この馬鹿野郎を一発ぶん殴ってやんないと気が済まない。

だが、拳は振り下ろされなかった。
いや、振り下ろせなかった。




(#;A;)「……はなせよ」

ζ( д *;ζ「けほっ……だめ……。ダメだよ……ドクオおじさん」


振り上げられた腕にはデレがしがみついていた。
小さな体全部を使って、ドクオの腕を掴んでいた。
345:2012/12/30(日) 03:30:12.10 ID:
 
ζ( ー *ζ「だいじょーぶだから。あたしがやるから」

(#;A;)「……また、首締められるかもしれないぞ」

ζ( ー *ζ「だいじょーぶだよ……。あたし、ドクオおじさんのともだちだもん」

ζ( ー *ζ「あたし、すごいもん」


(ぅA;)「…………ったく」

('A`)「……頑固なとこは母親譲りだな」


ドクオの手がゆっくりと下ろされる。
そして、ブーンもドクオから解放された。

ブーンは、床に這うようにして動きながら何かをブツブツと呟いていた。


ζ( ー *ζ「おとーさん」
347:2012/12/30(日) 03:33:12.30 ID:
頑張れデレ
348:2012/12/30(日) 03:37:18.61 ID:
(;%゚ω゚)「ツン!?ツンかお!?」


ζ(゚ー゚*ζ「……ううん、あたしだよ」

(;%゚ω゚)「ツンなんだおね!?ツン、そこにいるんだおね!?」

ζ(゚ー゚*ζ「……」


デレは、ゆっくりとブーンの元に寄って行くと、ブーンの頭に抱きついた。
そのままの姿勢で、誰も何も言わないまま数分が経過する。
いつの間にか、ブーンの震えが止んでいた。


ζ(゚ー゚*ζ「おとーさん」

ζ(゚ー゚*ζ「あたしは、ここにいるよ」
353:2012/12/30(日) 03:44:10.51 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


彼女が、どこかに行ってしまった。
探さないといけないのに、体がうまく動かない。


「おとーさん」


ふと、彼女の声が聞こえた。
そこにいるはずなのに、声は聞こえるのに、姿は見えない。

だから、必死に呼びかけた。


「……ううん、あたしだよ」


ああ、そうだ。
ツンだ。
ここにいたんだ。

でも、姿が見えない。

どこにいるんだ。
355:2012/12/30(日) 03:46:03.94 ID:
どうか救いを…支援
356:2012/12/30(日) 03:48:34.15 ID:
 
ふと、柔らかい感触がした。
彼女の匂いがした。

小さい頃から一緒にいた彼女の……。


……違う。
似ているけど、違う。

これは……僕の匂い?
僕と……彼女の匂い?


……違う。
これは……
357:2012/12/30(日) 03:49:03.17 ID:
くるかっ?!
359:2012/12/30(日) 03:53:31.03 ID:
            『ごちそーさまでした!!』

 『おっ。全部食べたお。偉いお。』

            『えへへ……』



    『あ、おとーさんだ!』

                   『はぁ、ひぃ。ご、ごめんお。遅くなったお』
    『おとーさんすごいあせだー』



       『いたく、ない?』

                    『この程度へっちゃらだお』

        『……おとーさん、どっかにいったりしない?』

                    『とーちゃんはどこにも行かないお。ちゃんとデレと一緒にいるお』
362:2012/12/30(日) 03:57:12.52 ID:
(%;ω;)



ああ……そうだ



「おとーさん」




ζ(゚ー゚*ζ「あたしは、ここにいるよ」


(%;ω;)「……デ…レ…………」



デレの匂いだ……
363:2012/12/30(日) 03:57:53.42 ID:
えんだああああああああああああ






えんだああああああああああああ
367:2012/12/30(日) 04:04:28.86 ID:
 
彼女は……ツンは死んだんだ。
わかっていたじゃないか。
ツンはもういないんだって。

だから、デレを大切にしようって。
あの日、誓ったじゃないか。


(%;ω;)「デレ……ごめんお……ごめんおぉ……」


確認するように、我が子を抱き寄せる。
右腕のギプスがうっとおしかった。


(%;ω;)「デレ……」


ちゃんと、ここにいる。
僕の娘、彼女の娘。

僕とツンが一緒にいた証。
370:2012/12/30(日) 04:07:36.44 ID:
よかったー!
371:2012/12/30(日) 04:10:24.55 ID:
 
夕陽が差し込む部屋の中。
僕は娘を抱きしめて泣いていた。

二羽の雀がベランダに降りてきて仲むつまじそうに戯れる。


ζ( ー *ζ「おとーさん」

(%;ω;)「なんだお……?」

ζ( ー *ζ「わらって」

(%;ω;)「……わら……う?」

ζ( ー *ζ「おとーさん、いつもないてたから」


ζ( ー *ζ「だから、わらって?」

(%;ω;)「お……」
374:2012/12/30(日) 04:14:30.12 ID:
 

(%;ωと)グシグシ


(%^ω^)「ど、どうだお……?」

(%;ω^)「笑え、て……」

(%;ω;)「笑えてるかお……?」



ζ(゚ー゚*ζ




ζ(^ー^*ζ「うん!」
375:2012/12/30(日) 04:15:31.40 ID:
ハッピエンきたああああああ!
377:2012/12/30(日) 04:16:09.74 ID:
えんだあああああああ
381:2012/12/30(日) 04:19:05.57 ID:
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(*゚ー゚)「クーせんせーおはようございます」

川 ゚ー゚)「はい。おはよう」


ζ(゚ー゚*ζ「あ!クーせんせーおはよー!」

川 ゚ー゚)「おはよう。デレちゃんは今日も元気だな」


(%^ω^)「クーせんせーおはよー!」

('A`)「おはよー!」


川 ゚ -゚)「……」


(゚A゚)「無視っすか!!」
383:2012/12/30(日) 04:25:55.37 ID:
 
(%^ω^)「おっおっ。ドクオは相変わらずだお」

('A`)「いや、お前も無視されてたからな」


川 ゚ー゚)「おはよう、ブーン」

(%^ω^)「おっ!おはようお!」

(゚A゚)「わざわざ俺だけ無視すんなよ!!」


ζ(^ー^*ζ「あははは!ドクオおじさんおもしろーい」


('A`)「あーあ、クーのせいでデレに笑われたー」

(%^ω^)「他の親御さん達も笑ってるお」

(゚A゚)「いやああああああああああ!!」
385:2012/12/30(日) 04:26:53.37 ID:
ドクオww
388:2012/12/30(日) 04:30:50.84 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「ほんとだー。みんなわらってるねー」

(゚A゚)「とどめ!?」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオおじさん、まえにいってたよ?おとーさんがわらってると、まわりのみんなもわらうって」

('A`)「……デレ」


(%^ω^)「デレ、違うお。ドクオが滑稽だからみんな笑ってるんだお」

(゚A゚)「てめぇデレがいいこと言ったのに!!」

ζ(゚ー゚*ζ「こっけー?」

川 ゚ -゚)「バカみたいってことだ」

(゚A゚)「おいクーてめぇ何教えてんだ!!」

川 ゚ -゚)+「先生だからな」

(゚A゚)「そういう意味じゃねぇよ!!」
390:2012/12/30(日) 04:31:49.05 ID:
ドクオ散々だなwww
392:2012/12/30(日) 04:36:57.23 ID:
 
川 ゚ -゚)「……しかし、わざわざ車椅子でお見送りとはな」

(%^ω^)「……今日くらいは、ちゃんと見送ってあげたかったんだお」

川 ゚ー゚)「……そうか。……まあ、色々吹っ切れたようで何よりだ」

(%^ω^)「おっ!」

  _
( ゚∀゚)「……なんだなんだ。やけに盛り上がってんな」

从'ー'从「あ!デレちゃんおはよー!」

ζ(゚ー゚*ζ「わたちゃんおはよー!」


川 ゚ -゚)「……あれ。今日は旦那さんがお見送りですか?」
  _
( ゚∀゚)「まあ……ちょっと娘に叱られちゃいまして」

川 ゚ -゚)「……はぁ」
  _
( ゚∀゚)「……そんで、家内ともう一度話し合って、離婚の話も無かったことにしようと」
393:2012/12/30(日) 04:38:09.10 ID:
わたちゃんもか!よかったな…
395:2012/12/30(日) 04:41:55.55 ID:
 
ζ(゚ー゚*ζ「ほんと!?」
  _
(;゚∀゚)「へ?あ、ああ、本当だ」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあわたちゃん、これからもいっしょにいられるの!?」

从*'ー'从「えへへ……そうだよ!」

ζ(^ー^*ζ「わーい!やったー!!」


(%^ω^)「おっおっ。こっちもうまく行ったみたいでよかったお」

川 ゚ -゚)「……あ、ああ。少しびっくりしてる」


川 ゚ -゚)「……おっと。そろそろ中に入らねば」

(%^ω^)「おっ。お仕事頑張ってくれお」

川 ゚ -゚)「ああ、お前はしっかり療養しろよ」

(%^ω^)「おっ」
398:2012/12/30(日) 04:46:59.16 ID:
良かったじゃないか…
399:2012/12/30(日) 04:47:12.72 ID:
 
川 ゚ -゚)「はーい、みんなー。そろそろ中に入れよー」


「「「はーい!!」」」


ζ(゚ー゚*ζ「おとーさん!」

(%^ω^)「おっ?」



ζ(^ー^*ζ「いってきます!」


(%^ω^)



―――ツン、見てるかお

―――デレはこんなに元気に育ったお
400:2012/12/30(日) 04:50:58.27 ID:
 

―――これからもデレが楽しく過ごせるように


―――これからもデレが元気でいられるように


―――これからもデレが安心していられるように



―――だから、僕は






(%*^ω^)「おっ!いってらっしゃいお!」







( ^ω^)だから、Give you smileのようです おわり
402:2012/12/30(日) 04:52:38.91 ID:
あ゙ー終わった終わった

長丁場にお付き合いいただきありがとうございました
途中誤爆やフォーマット等事故がいくつかあったことを深くお詫びいたします

もし、質問等あればどうぞ
401:2012/12/30(日) 04:52:08.53 ID:
乙!
みんな幸せハッピーエンドで良かった!本当に良かった!
一度は最悪なエンディングを想像したけどこれで安心して眠れる
ドクオは割りと散々な目にあってるけど良い奴だったな
404:2012/12/30(日) 04:54:59.91 ID:
>>401
もし俺が鬱祭りに参加してたら……わかるな?

あ、幸せになっちゃったようです面白かったです
本当はここで言うべきではないんでしょうが……
あと誤爆すんませんマジすんませんほんとすんません
405:2012/12/30(日) 04:56:03.84 ID:
乙乙
ハッピーエンドでよかったよ
414:2012/12/30(日) 08:18:54.67 ID:

おもしろかった
412:2012/12/30(日) 07:37:37.34 ID:
お疲れさまでした。悲しいけど素敵なお話でした。目から大量の液体が漏れ出て困ったよ!
元スレ: