1:2008/01/26(土) 21:13:26.88 ID:
高校の頃文芸部の冊子に載せた小説を発掘したから載せようと思う。
暇な奴いたら付き合ってくれw

僕は列車に乗っていた。
心地良いガタンゴトンというリズムが僕の身体を刻む。
窓の外を覗くと雪景色が一面に広がっている。
ブルっと身震いをしてカーテンをピシャリと閉めた。


この車両には、僕の他にも沢山乗っていたが、駅に停車するたび、一人、また一人と列車を降りた。
もう5つの駅には停まったハズだ。
今、この車両には、老人と僕の2人きりである。
老人と目があった。
老人はしわに埋もれた目が見えなくなるくらい細めてにっこり笑った。

「何処へ行きたいんだね?」

とゆっくりした口調で話しかけてきた。
「特に何処へ行きたい訳でもありません。」
人と喋るのが苦手な僕は早口で手短かに答えた。

「私はある人と待ち合わせをしているんだ。もう10年も会っていない。」

僕は「そうですか」と冷たく返事を返すと、トランクから本を取り出し、もう話しかけるなという風に本で顔を隠すように読み始めた。
車両にはまたガタンゴトンという音だけが響き始めた。
次の駅で老人は降りていった。
本に顔を埋める僕に「ありがとう」とだけ言い残して。

7:2008/01/26(土) 21:19:02.65 ID:
・・・続きは?
8:2008/01/26(土) 21:20:30.07 ID:
ありがとうと言われる筋合いなどないと思ったが…。
遂に車両には僕一人だ。
もう何時間乗っているのか。
少しばかり不安になった僕は立ち上がった。
木製の固い椅子に長く座っていると疲れる。
腹も空いて、食堂車両を探す必要がある。
理由をつけながら自分の乗っていた最後尾を後にして、前へ前へ進んだ。
3両ほど歩いたところでやっと小さな荷物を見つけた。
しかし人影がない。
急に僕の中に孤独感が溢れ出した。
キョロキョロしていると、「こんにちは」と遠慮がちな女の声が耳に入ってきた。
11:2008/01/26(土) 21:24:15.84 ID:
しかし姿が見当たらないのだ。
僕は不思議に思い、辺りを見回した。

「見えませんよ。」
「え?」
「私には身体が無いのです。この列車に乗って何日目ですか?」
「身体が無い?」

女の質問を無視して聞き返す。
「私は夫と妹を殺してしまいました。
罪を償うためにこの列車に乗っています。
罪を罪として受け入れられない者は消滅していきます。
そのうち私も私として存在できなくなる。」
僕は何故かこの非現実的な女の非現実的なことが嘘に思えなかった。
15:2008/01/26(土) 21:28:30.58 ID:
黒歴史スレかと思ったら小説スレだった
wktk
18:2008/01/26(土) 21:32:33.41 ID:
手書きの冊子を打ち直してるのでちょっと時間かかってます…。
ごめんなさい。

________


「なら認めれば良い。罪を償えばいいではないですか。」
姿のない者に話しかけるのは難しい。
うつむいて喋る僕に女は、

「弱い人間は死を目前にして初めて自分の過ちを知るのです。
もう私には償う身体すら失ってしまった。
死を目前にして初めて罪を認めた弱い人間です。」

哲学的なことを言われ、表面的には理解できなかったのだが、
何故か胸にズンと一突きされたような痛みが全身を貫いた。

「…ここに乗っている人は皆、罪を犯しているのですか?」
「今はそうです。最初の7の駅で降りていった人々は冥界に進む為に乗っていた死人たちです。今はふるいのように罪を認めない罪人だけが残っているのです。」
「僕もですか。」
「きっと。」
19:2008/01/26(土) 21:33:45.73 ID:
ほうほう!wktk
21:2008/01/26(土) 21:35:37.25 ID:
結構好きかも
22:2008/01/26(土) 21:41:24.97 ID:
ドキっとした。僕の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
スピードを出し、車をとばす。大きな衝撃を受けて僕は慌てて車をおりた。
人が倒れ、鮮血がアスファルトを浸食していく。
無我夢中でその場から逃げ、駅に入り、偶然停車していた列車に行き先も確認せずに飛び乗った。
ショックを受けると一時的に記憶喪失になることがあると聞いた事がある。
それは本当に実在することのようだ。あんなに強烈な出来事を今の今まで忘れていた。

「何故この罪人の列車に僕は乗ったのでしょう。僕はこの列車の存在を貴方に聞くまで知りませんでした。」
「運命。」
「運命…。」

僕は女の言った単語を繰り返す。運命、運命、運命…。
…罪を認めない者は皆この列車に乗り込む運命…
「僕は罪など犯していない!!」
僕は気がつくと透明な女と僕しかいないこの車両に狂ったようにこの言葉を放っていた。
25:2008/01/26(土) 21:49:09.88 ID:
「僕は急いでいたんだ!!信号だって無視せざる得ない状況だったんだ!
あいつだってちゃんと確認して道路を渡るべきだったんだ!
轢くつもりなどさらさらなかった!」

何故かこの列車に乗ったことすら知らない女の前で僕は必死に弁解を繰り返した。
女は黙っていた。
「っ…!!!」
急に僕は言葉をせき止めた。
「手が。」
僕の手が僕自身の足を映している。…透けている。
手が半透明になった僕は恐怖心から今度は自身の手に向かって弁解を始めた。
「違う!僕は悪くない!悪いのは死んだあいつ自身だ!違う!」
言い訳を言う僕の手はどんどん生気を失っていく。
あぁ!僕の!僕の身体!!!
26:2008/01/26(土) 21:50:27.41 ID:
どうなるのー
30:2008/01/26(土) 22:01:41.58 ID:
手が疲れて来た…。
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ガラっ。
前の車両から深く帽子を被った車掌と名乗る男が入って来た。
車掌はやけに耳につく機会音が混じったような声で、
「アなたの殺しタのはコノ男デすカ?」
と僕に写真を差し出した。
僕は写真を覗き込んで驚いた。確かに僕が殺した男だ。
何故僕の殺した男の写真をこいつが持っているのかは、この不思議な列車だ。
この際聞くほうが無駄だといものだ。そんなことではない。
「この写真の男、僕に先ほど話しかけた老人だ!
脂汗を額に抱えていると、車掌は
「彼はアなたを怨ンデはいまセン。」
え?っと顔を上げる私に車掌が続ける。
「10年前に他界サレた奥様に会エるトお喜びデしタ。
ナノデあなたは罪を背負う必要ガなイ。」
そこまで車掌が言い終わると僕の身体はみるみる色を取り戻した。
手も元通り。
31:2008/01/26(土) 22:05:06.76 ID:
ふむふむ
33:2008/01/26(土) 22:09:08.31 ID:
「次の駅デ降りテ下さイ」
そういうと車掌は車両を出ていった。
「人は時に死を喜ぶものです。」
女はそう告げるともう口を開かなくなった。
透明なのでもう何処にいるのかすらわからない。
見えない彼女に「ありがとう」と小さく呟くと僕はトランクを取りに最後尾へ歩いていった。



僕は老人の命をこの手で断ってしまった。
許された罪に僕はいつまで苦しめられるのだろうか。



僕は今消滅したい。




「罪人列車」end


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おしまい。
全部読んでくれた人いるのかな…。
短くてゴメン。
34:2008/01/26(土) 22:09:50.59 ID:
>>1乙
面白かった、しかしなんか哀しい結末だな・・・
42:2008/01/26(土) 22:17:39.00 ID:
いやぁ面白い
まじで良い内容だった