1:2009/08/11(火) 01:23:42.48 ID:
怒号とともに、怒りにまかせて叩かれた机の音が部屋に響き渡った。

声の主と机を挟んだ向かい側に、2人の若い警官が冷や汗を流しながら立っている。

巡査A「…申し訳ございません、警部。」

警部「一体いつになったら奴は捕まるんだ!!!情報は十分に集まっているんだろう!!??町の名前どころか、番地まで調べ上げておきながらなぜ捕まらんのだ!!!!」

巡査B「…はい…。ですが、警部…。」

巡査A「・・・・・・我々には、もう…。」

警部「我々にはもう、なんだと言うのだ!!??」

巡査A「・・・・・・警部。お言葉ですが、我々には彼を捕まえることはできません!!!!」

巡査B「……そうです!!!!
あんな、人ごみの中で逃げ惑う人間をどうやって捕まえろというんです!!??あれじゃあ手の出しようがない!!!!」

警部「バカなことを言うな!!
"人ごみの中だからこそ"一刻も早く捕まえる必要があるんだ!!!!
あいつがその気になれば、ただちに市民全員が人質にもなりかねないということを忘れているんじゃないのか!!??罪もない一般市民が常に危険にさらされているかもしれないのだということを忘れるな!!!」

巡査A「それは……、そうですが…。」

警部「大体、あんな目立つ服装でうろついてる男をなぜ捕まえられんのだ!!貴様らの眼は節穴か!?」

2:2009/08/11(火) 01:24:29.73 ID:
おもしろい
3:2009/08/11(火) 01:24:30.78 ID:
巡査A「・・・・・・お言葉ですが!!」


彼は、先ほどよりも強く、はっきりした口調を以て反論した。


巡査A「お言葉ですが、警部!!あなたはウォーリーのことを本当にわかっていらっしゃるのでしょうか!?
"あんな目立つ服装だからすぐ捕まるだろう"!?
冗談じゃありません!!!あんな目立つ服装をした人間が、ウォーリー以外にも何人もいるのです!!彼らが何物かはわからない…。奴の仲間かもしれない…!!!!
・・・・・・だとすれば、より慎重に動かざるを得ないでしょう!!!!」

巡査B[そうです!!!!
それに、姿を見つけたと思ったら、いつの間にか"奴ら"はいなくなっている……。そして、気づけば、全く別の人ごみに紛れ込んでいる!!毎回毎回これじゃあ、あまりにもキリが無い!!!!」

警部「・・・・・・!!!」
7:2009/08/11(火) 01:25:42.43 ID:
一瞬返す言葉を見失ったが、少しして、警部はもう一度冷たく言い放った。

警部「…とにかくだ!!」

警部「市民が危険にさらされている。
これは事実だ。
幸い、今の段階で奴の存在に気づいているのは我々だけだ…!!
誰かがあの悪魔の存在に気づけば、この街の、いや、この国の混乱は避けられない。だからこそ、恐怖と混沌が街を埋め尽くす前に、あの男を捕まえなければならない……!!!!
…わかるな?」



巡査AB「…はい。」

警部「奴が一筋縄じゃいかん敵だということは俺もよくわかっている…。
わかってはいるが、

誰かが終わらせなければならんのだよ。」


巡査AB「…。」


警部「もう一度聴く。俺の言う意味がわかるな?」

巡査AB「・・・・・・はい。」

警部「わかったら、早く任務に戻ってくれ。
我々には余り、時間が無いのだよ。
もし、またウォーリーが現れたら、その時は俺を呼べ。」
8:2009/08/11(火) 01:26:09.82 ID:
これは良スレの予感
9:2009/08/11(火) 01:27:52.38 ID:


2人の巡査は敬礼の後部屋を立ち去る。
残された警部は一人、吸い慣れた葉巻の煙をくゆらしながら、窓辺にたたずむ。


警部「ウォーリー、か…。」




警部「一体、奴の目的は何なんだ……?」
11:2009/08/11(火) 01:28:38.33 ID:
――話は10年前にさかのぼる。

男がウォーリーに初めて会ったのは、郊外のとある事件現場だった。

新米刑事「おぇぇっ…!」

当時新米刑事だった彼は、その現場の惨たらしさに耐えきれず、昼に食べたハンバーガーをひとかけ残らず吐き出してしまうほどだった。

先輩「おいおいどうした?」

声をかけてきたのは男の先輩刑事、グスタフだった。

グスタフ「刑事が現場見て吐いてちゃ、仕事になんねーよ。おまえ、もしかしてこういう現場は初めてか?」

新米刑事「…いえ。何度かあるんですが、
ここまでひどいのは見たことがない…!!!」

グスタフ「確かにそうだな。俺ももうこの課にきてから5年になるが、この現場はなかなかのもんだ。
本来なら、こんなのんびりとした田舎町でお目にかかれるようなものではないな。」

新米刑事「…。」

水で口をゆすぎながら、新米刑事はまだ胸の奥から込み上げる嗚咽と闘っていた。

グスタフ「まあ、何にしろ、この事件の犯人はまともじゃない。俺が刑事になったことを後悔するのは、こういうときだ。
嫌でもこういうキ○ガイと関わりをもたなきゃならないんだからな。ったく因果な商売だぜ。」
12:2009/08/11(火) 01:30:13.70 ID:
グスタフ「さあ。そろそろ落ち着いてきたろ?それとも今日はもうこのまま帰るか?
自分のゲロも解決できない警官なんか現場にいたって役にたたねえからな。」

新米刑事「いえ、もう大丈夫です。」

新米刑事「…ところで、兄さん」

グスタフ「おい」

新米刑事「?」

グスタフ「仕事中は『グスタフ』と呼べと指示してあるだろう。お前は俺のかわいい弟だが、今はただの後輩だ。」

新米刑事「…すいません、グスタフさん。」

グスタフ「で、なんだ?」

新米刑事「鑑識によると、死体の破片は3人分だと聞きました。
しかし、このガイシャ達は近所の証言によると4人で暮らしていた、ということですが…。」

グスタフ「ああ、そうらしいな。子供が1人、見当たらねえんだって?

毎日、赤白青の服を着て、メガネをかけてるっていう子供が。」
13:2009/08/11(火) 01:31:12.29 ID:
新米刑事「ええ。その子の捜索に関してですが、つい先ほど僕が行った聞きこみの中でちょっと気になる情報が得られました。ある住民がその子の母親から昔こんな愚痴を聞かされたそうです。
『子供が家から少しばかり離れた所にある林の周りでよくかくれんぼなんかをして遊んでいる。近くにガケもあるので危ないから、と何度か注意をしたけれど、時折自分たちの目を盗んでこっそり遊びに行っているようだ。』と。」

グスタフ「…なるほど。一応そこを調べてみてもいいかもな。」

新米刑事「はい、事件からの日もまだ浅いですし、もしかしたらうまく逃げだしてそこに身を潜めているかもしれません。
…まあ、犯人が連れ去った可能性もありますけどね。」

グスタフ「そうだな。よし、とりあえずそこへ行ってみよう。おい、フランツ。車を回せ。」

新米刑事(フランツ)「はい。」
14:2009/08/11(火) 01:31:19.91 ID:
おもろい
17:2009/08/11(火) 01:32:42.50 ID:
なんか、雰囲気というか、台詞からにじみ出る世界観が……。

どういう世界だw
18:2009/08/11(火) 01:32:59.96 ID:
車内でフランツは色々と思いを巡らせていた。
――そういえば、こうしてグスタフと2人きりで車に乗るのは久しぶりだ。
昔はちょくちょくドライブなんかもしていた。
フランツは小さな頃から、少し年の離れた兄を慕っていた。
彼らの両親が数年前に事故で他界してからというもの、それまで以上に兄が弟の面倒を見るようになっていった。
成績優秀で、国家試験を一発でパスして刑事になった年上の兄を、純粋に尊敬していた。
それでいて、自分たちの生活費と学費を毎月必ずどこからか捻出してくれていた兄を、本当の親のようにも感じるようになっていった。
そんな兄に憧れて刑事になったはいいが、自分は果たして、本当に刑事に向いているのだろうか・・・・?


そんなことを考えながら車を走らせていた彼は、不意に右隣からの声によって現実へと引き戻された。



グスタフ「おい、林ってあれのことじゃないか?」

フランツ「…あ、ああ。そうみたいですね。」

確かに目の前に林があった。しかし、林というほど木が繁っているわけでもない。子供が隠れていたとしても、この感じならそれほど捜索に手間取ることもなさそうだ。

グスタフ「とにかく、降りてみるか。」

フランツ「ええ、そうですね。」
20:2009/08/11(火) 01:34:22.68 ID:
______________

グスタフ「どうだった?フランツ?」

フランツ「…まだ林の奥までは探し切れてませんが、今のところどこにも見当たりません。一応崖の下も確認しましたが、子供どころか、服や持ち物のようなものすら…。」

グスタフ「そうか。こっちにも見当たらなかった。やはりここではないのかもしれんが、他に手がかりはないしな。一応、近いうちに捜索隊を集めて探してみるか…。」

フランツ「そうですね。」

グスタフ「・・・・・・それで、さっきから気になっていたんだが…」

フランツ「?
なんですか?」

グスタフ「お前、車の中で何を考えていた?」

フランツ「・・・・・・!!!
・・・・気づいてたんですか・・・・。」

グスタフ「当たり前だ。運転中にボーっとしてたら、たとえ俺が刑事でなくたっておかしいと思うだろ。それに、何年お前の兄をしてきたと思ってるんだ。大事な弟が悩んでるかどうか、すぐにわからないでどうする?」

フランツ「・・・・・・。

兄さん・・・・。僕は果たして刑事に向いてるんでしょうか・・・・?」

グスタフ「何を言ってるんだ。お前は俺の弟だ。刑事に向いてるにきまってる。そんなくだらないことで…。」
22:2009/08/11(火) 01:35:03.58 ID:
フランツ「くだらなくなんかありません!!
時々、思うんです。本当に自分にこんな仕事は無理なんじゃないかって。人間が、同じ人間をあれだけ惨たらしく殺してしまえるなんて、考えるだけで気絶しそうになる・・・・!!さっきだって、現場を見ただけで、あれほど狼狽えてしまった・・・・。僕は、本当に……!!!!」

グスタフ「・・・・。」

フランツ「・・・・・・しかし、あの無秩序な現場からは何だか、今まで感じたことのない奇妙は印象を感じとったんです。
何か、こう、自らの信念に悖るはずの行動を身近に感じてしまった――。
湛えられた感情の残りカスを引き裂いてしまいたかった―――。
全てが仮象のような痕跡の与える、嘔気にも似た強い不安―――。この不安・・・・予感は一体・・・・・・?」
24:2009/08/11(火) 01:36:07.68 ID:
ウォーリーが追われる立場だと・・・?
25:2009/08/11(火) 01:36:22.79 ID:
グスタフ「・・・・もういい。フランツ。」

遮るように、グスタフが冷たく言い放った。

グスタフ「・・・・確かに、お前は、刑事であるには、だいぶナイーブすぎるみたいだな。」

フランツ「・・・・・・すいません。」

グスタフ「謝ることじゃない。それに、そういう時期があってもおかしくない。
・・・・・・とにかく、これ以上ここにいても何もならない。一度現場に戻ろう。」

フランツ「・・・・そうですね。」

フランツがドアノブに手をかけた。



「「「「ドゴーーーーーーーーーーーン!!!!」」」」
27:2009/08/11(火) 01:37:18.10 ID:
______________

突然、爆発音が響いた。
一瞬自分に何が起こったのかわからなかった。
どうやら、車が爆発したらしい。

全身が焼けるように熱い。

「あ・・・・、う・・・・・・」

すぐそばにいるはずの兄弟の安否が知りたかった。
しかし思うように声が出ない。
体が言うことを聞かない。
…どういうことだ?これは…?
わけがわからない。
自分はこのまま死んでしまうのか?
爆薬が仕掛けられていた…とすれば・・・・誰、が……?
意識が次第に遠のく。
思考が結びつけようとした先からほどけていく。
しかし、男は、薄れゆく視界の先にはっきりと見つけた。

少しばかりの、しかし、確かな微笑をその口元に湛えながら立つ、赤と白の縞模様を身にまとった眼鏡をかけた少年を。
30:2009/08/11(火) 01:38:15.43 ID:
___________


刑事A「……ツ警部、フランツ警部、どうなさいました?」

警部「ん?あ、ああ、君か。どうした?」

刑事A「いえ、先日捉えた強盗殺人事件の犯人の供述がまとまったので、報告書を提出しようかと…。
先ほどからお声をおかけしていたのですが、なかなかお気付きにならなくて…。どこかお体の具合でも悪いんですか?」

警部「いや、すまない。本当に何でもないんだ。
ちょっと昔を思い出してしまってね。」

そう言ってフランツは机の上の写真立てを傾けた。

警部「君は知らないかな。私と、私の兄だったグスタフだ。とっくに年齢だけは追い越してしまったがね。」

刑事A「お話は多少伺ったことはあります…。何でも捜査中の車の爆破事故で殉職なさったと…。」
31:2009/08/11(火) 01:39:01.92 ID:
その言葉にフランツは過敏に反応した。

警部「事故だと!?事故なものか!!あの後、黒こげの車から火薬の燃えカスが見つかった!!なぜ、彼が死ななければならなかったんだ!!??
あれは、私の自慢の兄弟だったんだ!!!!」

そのあまりの剣幕に刑事は思わず口を噤んでしまった。
しばし沈黙が流れた後、警部が口を開いた。

警部「……あ、いや、すまなかった…。君が悪いわけではないのに…。」

刑事A「いえ…。お気持ちお察しします。」

警部「…すまない。
……私もあの爆発で体中に酷い火傷を負った。今でも火傷のあとが疼く度、事件のことを思い出すよ。」
32:2009/08/11(火) 01:40:42.12 ID:
警部「(ウォーリー……。
あいつは確かにあの時あそこにいたのか……?
あれは本当にウォーリーだったのか……?
あいつがあの殺害事件の被害者一家の生き残りだったとしたら、あいつは

"あの事件の犯人の正体を、知っているかもしれない……。"

そして、あの時の車の爆発のことについても、何か知っているかもしれない……。)」

警部「だとすれば、俺は……
なんとしてでもウォーリーを探し出さなければいけない・・・・・・!!!!」

フランツは小さく、それでいながら強く、呟いた。
35:2009/08/11(火) 01:42:12.95 ID:
フランツが黙りこくったのをきっかけに、それまでじっと話を聞いていた刑事が口を開いた。

刑事A「ウォーリー、ですか…。
・・・・・・あいつは、不思議なやつですな…。」

警部「ああ…。
俺は何年かあいつを追ってきた…。
最初にあいつを追い始めたきっかけは小さなことだったよ…。
あの日、非番だった俺はいつもと同じようにカフェテラスで新聞を広げながらコーヒーとタバコを味わっていた…。
ふと、本当にふと顔を上げたところ、少し離れた所に立ってこちらを眺める男がいた。
そいつは笑っていたが、どこか表情がぎこちない。眼だけが異様にうつろなんだ。
焦点が定まってないような、そんな目だった。
しかし、遠い昔に、この男をどこかで見たような気がした。
そして気づいた。
その男は、俺が昔かかわった事件の被害者一家の生き残りの男の子に似ていたんだ…。
なんとなくだが、面影も残っている。
着ていた服のデザインも全く同じ。見れば見るほど、共通項だらけのように思えてきた。」

刑事A「それが、ウォーリーだったと。」

警部「ああ。」
36:2009/08/11(火) 01:43:11.99 ID:
刑事A「失礼ですが、その事件は結局解決したのでしょうか?
生き残りの男の子の消息は、詳しいところどうなっていたのですか?」

警部「あの事件について、詳しく知らない君に説明するのは時間がかかるが、
未だに犯人は捕まってない、とだけ言っておこう。
子供の消息も結局・・・・。
…ただ、俺は確かにその子をこの目で見たと思っていた。
生き残りの男の子は、少なくとも、林の近くにいたはずなんだ。
しかし、当時の同僚たちに聞いても、口をそろえてそんな子供は見当たらなかったという。子供の姿どころか、誰かがいた一切の痕跡が無かったらしい。俺が見たあの姿を最後に、それっきりそいつの行方はわからなかった。
どういうことだ?
こんなことがありえるか?・・・・・・・・・・・・


まあ、話をもどそう。
『ウォーリー』というのは、その子のあだ名だったんだよ。」
37:2009/08/11(火) 01:44:17.39 ID:
刑事A「……。」

警部「俺はウォーリーに近づいて、声をかけようとした。
そうすると、奴が逃げ出したんだ。走って逃げるわけじゃない。
歩きながら、人ごみへと溶けていくように、スッ、スッ、っと。
少しでも気を抜けば簡単に撒かれていたかもしれない。
とっさに『ウォーリー!!!!』と声をかけた。無意識に、口から出たんだ。
すると、奴が一度だけ振り向いて、ゆっくりとあの渇いた笑いを浮かべた。
それを見て俺は情けない話だが、動けなくなっちまった。
あの顔……、あんな人間の表情を、俺は未だに知らない。
何故だがわからないが、どうしようもない不安と衝動に駆られて、死にたくなった。」

刑事A「結局、そのあとウォーリーはどうなったんですか?事件とは何か関係が…?」

警部「しばらくして、俺が我に帰った時には、もう奴は消えていたよ。
事件との関係があったかどうかは未だに証拠がないから何とも言えんが、俺は見たんだ。
あいつはあの時の子どもに違いないと思ってる・・・。
ただ、この話には続きがある。

それ以来、何か大きな事件が起こるたびに人ごみの中に奴の姿が目撃されるようになっていった……!!」
38:2009/08/11(火) 01:45:09.08 ID:
面白い…何だこの良スレ
40:2009/08/11(火) 01:45:48.49 ID:
警部「おかしな話だろ?でも、確かにこれは事実なんだ。
どこかの町で殺人事件が起こる。そうすると目撃証言に「赤と白の服を着ている眼鏡をかけた男」が上がるようになっていった。
はじめは偶然だろうと思っていたよ。
でもな、偶然が何十回も続くと、そこに因果関係を認めないわけにはいかなくなる。
そして、さらに興味深いことには、奴の姿が目撃された事件は全て未だに未解決のままなんだよ。」

刑事A「なるほど。幼いころに家族を殺されたウォーリーが、その残虐なトラウマから自らのうちにも猟奇性を芽生えさせ、
身体の成長と共に増長したそれらの心理が暴走して、殺人を犯すようになったと…?」

警部「さあな。現場には何の痕跡もない。
奴が殺人鬼だという証拠もない。
ウォーリーに関する証言も、事件の前後に「こんな目立つ服装の人間がいたのを覚えている」程度のことなのかもしれない。
正直、あれだけ目立つ服装を着ているのも、もしかしたら奴なりの心理的作戦なのかもしれない、とさえ勘ぐるようになったよ。
実際、服装に気を取られてか、あいつの顔の造作をはっきり覚えている者はほとんどいなかった。
顔に関する証言もことごとく微妙に食い違っているしな。
全ての証言が同一人物を指すものとも言い切れない以上、我々は本来ならあいつのことは今のところ重要参考人としてしか扱えない。

しかし、あいつが何らかの目的を持って人ごみに現れているのは間違いないんだ。
だから・・・・、何かが起こる前に、奴の身柄を確保しなければ・・・・!!」
42:2009/08/11(火) 01:46:54.64 ID:
あと数分で燃え尽きそうな葉巻を灰皿に立てかけたまま、警部は話を続けた。

警部「・・・・ただ、未だにあいつの目的がわからない・・・・。
一体奴は、何のために『人ごみに現れ、逃げ続けている』のか…?」
奴は……警察を嘲笑っているのか…?
そんなことのために、人ごみを逃げ続けているというのか……!?」

刑事A「あり得ますね・・・・。
ウォーリーがその過去の事件の生き残りの男の子だとしたら、自分の家族を殺した犯人を捕まえられなかった警察に対して恨みに近い感情を抱いていても、おかしくありません。
だとすれば、彼は・・・・。」

警部「(・・・・・・本当にそうなのか・・・・?
いや・・・・、もしかすると、或は……。しかし、そんなことが・・・・?)」

警部は、葉巻の煙と、自らの思案の渦に巻かれながら、
過去の少年と今もなお自分を悩ませる男の渇いた笑いの意味を捉えようとしていた。
彼が、その一つの恐ろしい仮定に辿り着く刹那、部屋の静寂を断ち切るかのように一人の男が苦しそうに息を弾ませながら部屋に駆け込んできた。
44:2009/08/11(火) 01:50:26.95 ID:
巡査B「・・・・警部ッ!!!!」


刑事A「何事だ、騒々しい!?」

巡査B「あ、申し訳ございません!!
警部、申し上げます!!ただいま、現場にいる者から無線が入りました!!

『ウ ォ ー リ ー が 現 れ た』と!!!!」

警部「何っ!!??
それで、現場の奴らはどうしてる!!??
ウォーリーは今、何をしている!!??」

巡査B「現場の者たちは、ウォーリーの姿を見失わないよう張り続けております!!ウォーリーは、いつものように人ごみの中にいます!!
今のところまだ不穏な動きは見せていないということですが、現場のほうでもまだ詳しい報告は現状ではまだ出来かねるようで…。」

警部「そうか、よし、ただちに現場へ向かう!!
急いで車を回せ!!!!」

巡査B「はっ!!」
45:2009/08/11(火) 01:51:13.80 ID:
警部が乗り込んだパトカーは、真っ赤な音を上げ、その緊急性を辺りに知らしめながら現場へと急ぐ。
車内の警部は、耳の横を伝う汗を感じ、歯を食いしばりながら、
それでもその目はただ一人の男を見据えていた。

警部「ウォーリー……待ってろよ・・・・・。」
46:2009/08/11(火) 01:52:17.10 ID:
_______________________


彼が現場に辿り着いた時も、町は相変わらずの賑わいを見せていた。
いつもと変わらぬ見慣れた光景。
この、のどかな光景の中に溶け込んでいるはずの『あの男』の存在。
愛する兄の死に関わっているであろう、憎むべき存在。
長い間あいつを追い続けてきた―――。
それも、今日で終わるかもしれない――――。

誰にも、気づかれてはならない。人々を巻き込むわけにはいかない。
この町は、今日も、いつも通りの平和で穏やかな一日を過ごさなければならない――――。

(・・・・兄さん・・・・。)

(きっと、今から兄さんの仇を討ってやる……。だから、そのまま、僕を見守っていておくれ・・・・・・。)
47:2009/08/11(火) 01:52:57.21 ID:
支援
48:2009/08/11(火) 01:53:16.55 ID:
―――――――――――――――――――――――

巡査A「フランツ警部!!お待ちしておりました!!」

警部「ご苦労。奴は、どこに?」

巡査A「先ほどまであの人ごみの中にいる姿が何度も確認されました。間違いなくウォーリーです。
周囲に他の警官も配置しておきましたので、逃走は不可能です。」

警部「そうか・・・・。よくやった、それでいい。
あまりに直接的すぎる尾行では奴を捕まえることはできない。もうすこししたら応援要員が集まる。
それまでお前たちは何があってもウォーリーを逃がさないように見張っておくんだ。」

巡査A「了解です。
それで、ここからは具体的にどのような方法で追い詰めるおつもりですか?」

警部「それは俺に任せておけ。何しろ俺は10年も前からあいつを知ってるんだ…。
絶対に、俺1人で追い詰めてみせる。」

巡査A「わかりました。」

フランツは、巡査に軽く敬礼をして見せ、そのまま人ごみの中へと消えていった。
50:2009/08/11(火) 01:54:20.86 ID:
―――――――――――――――

警部「さて・・・。」

人ごみの中で、呟くフランツ。部下にああは言ったものの、これだけの人間の中から1人の男を見つけ出すのはそうそう容易なことではない。
見つけたところで、あいつのことだ。一瞬でも気を緩めれば、次の瞬間には姿を消していることだろう。
あいつを探すのに必要なのは、ただ根気と忍耐だけだ。焦れば見つからない。それは自分が一番よく知っている―――。


そんなことを考えていると、不意に後ろから声をかけられた。




子供「おじさん、ウォーリーを探しているの?」




驚いて振り向くと、ウォーリーと同じ格好とした子供がいた。
顔つきと背格好からして彼よりは大分幼いだろう。眼鏡もかけていないし、杖も持っていない。
しかし、確かにこの子供は今『ウォーリー』と口にした。
51:2009/08/11(火) 01:55:33.02 ID:
警部「お前は・・・・ウォーリーの手下か・・・・!?」

子供「よくわかんないけどそんな感じ?うん。僕らは自分たちのことを"親衛隊"って呼んでる。
まあ、詳しいことは彼に直接聞きなよ。彼はきっと全てを話すよ、あなたに。」

警部「ウォーリーは俺に用があるというのか!?奴は今どこにいるんだ!?」

子供「あわてないでよ。彼はあの角を曲がった袋小路で、あなたを待っている。
待っているからには少なからず用があるんじゃない?うん。
今日の僕の仕事はこれを伝えることなんだ。それで終わり。じゃあね。」

突然のことに呆気にとられたフランツは、ただその子が人ごみへとかき消えていくのを、初めてウォーリーに遭った時と同じように黙って眺めていた。
もしかすると、彼らには自分達の姿を眩ませるためのそういった能力のようなものがあるのかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいい。なぜ自分はこんなことにとらわれているのだ。今すべきことはあの袋小路へと向かうことだ。

警部「ウォーリー…。」


頭を過る少しばかりの不安を振り払い、一つの目的に向かって足を踏み出した。
52:2009/08/11(火) 01:56:31.91 ID:
幽かな光を頼りに裏道を突き進む警部。

これで全てがわかるのだろうか―――?

そんな疑問の答えも、この先で見つかるのだと思うと、胸に込み上げてくるものを感じずにはいられなかった。


先ほどの子供に声をかけられてから10分。
ここまでの道のりは、あまりに短く、あまりに長かった。

たどり着いた袋小路には、チカチカ目を刺激する派手な服を纏った男の姿があった。

夢にまで出てきたその笑みは、薄暗い袋小路にあってもしっかりと確認できた。
相変わらず、口元だけで作られている不自然な微笑みであった。


ウォーリー「やぁ、警部。こうしてあなたと2人きりでお話ができる日がくるとは、光栄です。」
54:2009/08/11(火) 01:59:11.76 ID:
彼と話すのは初めてのはずであったが、なぜか懐かしさを感じた。
それは、不思議にもいつも頭の中に思い描いていた声と寸分違わず同じであった。

警部「正直、お前の方から呼び出してくれるとは思わなかった・・・・。
単刀直入に聞く。 ウォーリー、俺に何の用だ…?お前の目的は何なんだ・・・・!?」

ウォーリー「ハハ。そんな怖い顔しないでくださいよ警部。それと、質問には1つずつしか答えられませんからね。
じゃあ1つ目の質問にお答えしましょうか。
『俺に何の用だ?』これはちょっと難しい質問ですね…。 ちょっとお伺いしたいのですが、"俺"って、誰のことです?」

警部「・・・・?何を言ってるんだ?俺は、俺だ。貴様の目の前の男、フランツ警部だ。」

ウォーリー「やはりそうですか。 だとすれば、僕はこう答えなければならない。
僕はあなたに用がある。でも、フランツ警部には用は無いんだ…。」


警部「・・・・・・どういうことだ?」


ウォーリー「だから、こういうことですよ。 つまり、僕が用があるのは、あなたなんです。





グ ス タ フ 警 部。」
55:2009/08/11(火) 02:00:47.70 ID:
な、なんだってー!
57:2009/08/11(火) 02:01:11.74 ID:
警部「・・・・・・な・・・・・・・・・・!!??」

警部「何を言ってるんだ・・・・・・!?
俺はフランツだ!グスタフは、俺の死んだ兄だ・・・・!!」

ウォーリー「アハハ。やだなぁ、警部。本当に僕が何も知らないと思ってるんですか?
確かに「あなた」はあの事故の時、死んだ…。いいですね?
車の大爆発によって2人の兄弟が全身に大やけどを負った。兄グスタフは車の近くにいたため、より強く爆発の影響を受けた。
弟フランツは林を調べようと、少し離れたところにいたため、飛び散った油と炎による火傷で済んだ。
当時、あの「事故」はこう処理されましたね?しかし、そんな証拠はどこにあるんですか?
この事故の処理に使われた情報の大半はあなたの証言に頼ったものだった。
死んだ兄弟の遺体は、ほとんど誰かわからないほどひどい状態になっていたし、歯医者にかかったことのない人間には、歯形の記録だって残されていない。
現場には燃え尽きた車の残骸とその周囲数メートルの焼け跡しか残されていなかった。
あなたの顔だって、それなりの火傷を負って、整形手術を受ける羽目になったほどだ。あなたたち2人は血液型もいっしょだったし、背格好も似ていた…。
赤の他人になり済ますのは難しいだろうが、兄弟ならその難易度は格段に下がる。生き残ったあなたが「自分はフランツだ」と主張し、
彼の声色やクセを真似、経歴や趣味を騙ってなりきれば、実の両親ででもない限り、見分けられなくてもおかしくはない。」
58:2009/08/11(火) 02:02:11.70 ID:
警部「・・・・・・・・!!」

ウォーリー「僕は見ていたんだ。車に乗り込もうと、ドアに手をかけたのは、"フランツのほうだった"。
あなたはその数歩後ろにいた。子供のころの記憶とは言え、間違いようがない。
"僕があなたの姿を、見間違えるはずがない"んだ。」

警部「・・お前は、・・・・・・なぜ、そこまで……。」

ウォーリー「まだ話の途中です。口をはさまないでいただけますか?
さて、フランツは死んで、グスタフが生き残った。
ここで問題は、
なぜあなたが嘘をついて、愛する弟のフリをする必要があったのか?
あなたは、グスタフでいるには都合が悪かった。
『グスタフには死んでもらった方が都合がよかった』!!
なぜか?

グスタフが、僕の家族を殺した殺人鬼だったからだ!!!!!!!!!」


警部「・・・・・・・・!!!!」
59:2009/08/11(火) 02:02:46.17 ID:
すげえ
60:2009/08/11(火) 02:03:14.07 ID:
ウォーリー「…なぜふるえているんですか?
今さらいったい何に恐怖しているんですか?
それが自らの命を奪われる可能性に対してのものであれば、あなたのその推測は間違いなく正しい。
そして僕は、その可能性がまさに先ほどのあなたの質問の答えに対応するものであると言わなければならないでしょうね。」

ウォーリーはまるで、汚らしい小さな虫を見るような目で目の前の男を見つめている。
恐怖を押し殺してグスタフが、尋ねた。

警部「・・・・お前は・・・・、お前たちは一体・・・・、何物なんだ…!!??」

ウォーリー「そこまで答える義理はないんですがね。まあ、いいでしょう。
簡単に言うと、ウォーリーは複数の人間から構成される1つの組織のようなものなんです。
その組織の目的は、『殺したいほど憎んでいる人間を、その人間が最も恐怖する方法を以て殺すこと…。』、」

警部「・・・・!!!!」

グスタフの顔色が、また変わった。
61:2009/08/11(火) 02:03:21.29 ID:
こ・・・これは・・・
62:2009/08/11(火) 02:04:09.64 ID:
なんだと
64:2009/08/11(火) 02:04:40.39 ID:
映 画 化 決 定 ! !
65:2009/08/11(火) 02:04:48.18 ID:
ウォーリー「そうですね。僕の場合は、あなただった。
わかっていただけますか?この組織は非常にビジネスライクなものでしてね。目的を遂げるために集まった人間は皆、ウォーリーになるんですよ。
そして、お互いの素性や経歴も一切知らぬまま、お互いに協力する。最高の復讐を演出するためには、一切の労力を惜しまない。
ただ殺すだけなら簡単だ。だが、僕たちは、あなたたちのような殺人鬼ではない。
殺したい人間以外の人間には、絶対に干渉してはいけない。特に僕が苦労したのは、この点だったんですよね。
なんせ10年も前の話だ。あなたの顔つきや声、容姿も大分変わった。
もしかしたら、あなたが僕の両親を殺した人間では無いかもしれない。
その可能性を完全に否定してからでないと、復讐には入れませんからね。
だから、いつも事件が起こるたびに、『あなたが現場に出向くたびに』人ごみにまぎれ、あなたを観察していた。
あなたの周りのいかなる人物にも接触しないように、あなたの素性を完全に調べ上げた。それは並の労力ではなかったわけですが。
・・・・まあ、あなたが僕の存在に気づいてからは、僕の存在自体があなたに精神的なプレッシャーを与えることになっていたようで。楽しみながら調査ができましたよ。ハハハ。」

グスタフ「・・・・じゃあなぜ、フランツを殺した!?俺に恨みがあるのなら、俺だけを狙えば良かっただろう…!?」

ウォーリー「フランツ?あいつが死んだのは僕の意志じゃない。
考えてもみてください。当時まだ子供だった僕に何ができるというんです?奴を殺したのは、『あのお方』だ。」
66:2009/08/11(火) 02:05:04.87 ID:
完璧に予想外の展開だぜ…
67:2009/08/11(火) 02:05:20.26 ID:
これは素晴らしい
70:2009/08/11(火) 02:05:48.62 ID:
警部「あのお方・・・・、だと・・・・!?」

ウォーリー「ええ。僕も詳しいことは知らない。名前や性別、年齢。ほとんど一切の素性を知らない。
・・・・ただ、もし本当にウォーリーが存在するとすれば、あのお方が一番それに相応しい人間だろうな。
僕らは皆、彼に見出されたにすぎない。ウォーリーは彼の計画のための歯車なんですよ。」




ウォーリー「何度も言いますが、あなたが人を殺したのは事実なんです。それは僕が知っている。
僕は全てを見ていた。あの日、あの時、僕はいつものように兄さんとかくれんぼをしていた――――――。」
71:2009/08/11(火) 02:06:44.63 ID:
このウォーリーは凄い
72:2009/08/11(火) 02:06:57.35 ID:
____________

10年前のその日、ウォーリーはそこにいた。
最近母親からこっぴどく叱られたばかりだったため、その日はいつも行ってる林ではなく、家の庭で兄とかくれんぼをしていた。

兄「いいかい?ウォーリー。10…、9…、8…、」

ウォーリー「(どこに隠れよっかなあ・・・・。そうだ!!ここならちょうどいい!!)」

ウォーリーは家から少しばかり離れた所にあった物置の中に隠れた。
とは言っても、庭の隅にあるそれに隠れることは、2人で決めた"家の構内から出て隠れてはいけない"というルールに反していない。
それに、外からだとこの物置の中は薄暗くて見えにくいが、こちらからは外にいる兄の様子がはっきりと見える。
隠れ場所にここは絶好のポジションだ、とウォーリーは思った。

兄「・・・・2、・・・・1.よし、ウォーリー!!どこだー!?」

ウォーリー「(フフ…。見つかるもんか。)」

こんないい場所があるなんて気付かなかったなぁ。
このまま兄さんが僕を見つけられなければ、これからしばらくはかくれんぼの時、この場所を使おう。
そんなことを考えながら、いつの間にかウォーリーはウトウトとしてしまっていた。
73:2009/08/11(火) 02:08:03.84 ID:
_______________


???「・・・・・・・!!」

兄「・・・・・・・!!」


目を覚ましたのは、声が聞こえたからだったと思う。
叫ぶような、喚くような兄の声と、聞き覚えのない男の声。
そっと物置の戸の隙間からのぞくと、確かに兄と男がいた。

見知らぬ男。

幼いウォーリーが、一瞬でそれが自分の敵だと感じたのは、
その瞬間に男が自分の兄にナイフを突き立てたからである。


全てが夢だと信じたかった。
しかし、夢ではなかった。

失禁していた。
ただ震えながら、声を殺しながら、涙を飲むばかりであった。


全てが終わり、男が立ち去ったのがいつなのかわからない。
ただ、数十分後物置から出た彼が目にした世界は、数時間前まで保たれていたはずの「日常」の一切が毟り取られていた。
74:2009/08/11(火) 02:08:48.08 ID:
____________

特に、ここに来ようと思ったつもりはなかった。
ただ、あそこにはいられなかった。

それに、ここはなんとなく落ち着く場所だし、ここに来ればいつも通り兄がかくれんぼをしに来てくれるような気もした。

林の中で、ウォーリーは自分が何をなすべきかわからなかった。

ぼんやりとサイレンの音が聞こえる。
当然、それが自分の家へと向かう音であることも、
その中に先ほどの殺人鬼が、現場に残った証拠を消しに行くべく一人の警官として乗り込んでいることも、知る由もなかった。

何も考えられなかった。

その時、ウォーリーに話しかける1人の男がいた―――。
75:2009/08/11(火) 02:10:16.78 ID:
―――――――――――――――
ウォーリー「僕が覚えているのはここまでです。
古い記憶だからなのか、あんな光景を目の当たりにしたせいなのかはわかりませんが、記憶が断片的なんですよね。
あのお方に関する記憶もほとんど残って無いや。
『グスタフへの復讐』、『徹底的な恐怖を与えながらの制裁』、『ウォーリー』、・・・・。
これくらいかな、僕が覚えているあの人の言葉は。
ただ、僕が言うのも変だけど、彼はやっぱり『本物のウォーリー』なんじゃないかって時々思うよ。」


ウォーリー「…もう他に聞きたいことはありませんか?
じゃあ、今度は僕が質問する番ですね。
あ、別にあなたが両親や兄を殺した動機なんかについて聞くつもりはありませんから。
証拠はほとんど残ってませんでしたが、あなたが父からけっこうな額の借金をしていたらしい、という所までは調べましたしね。
動機なんてこれで十分です。
僕にとって重要なのは、あなたが彼らを殺したという事実。それだけです。」


グスタフ「・・・・・・・・・・俺はどうすればいいんだ・・・・?」

ウォーリー「おや、まだ質問が残ってましたか。これは失礼しました。
とりあえず、何もしなくていいです。
答えられるようなら質問に答えて欲しいんですが、それが無理そうならただ僕の話を聞いて下さるだけで結構です。」
76:2009/08/11(火) 02:11:17.66 ID:
グスタフ「・・・・・・違う・…。」

ウォーリー「?」


グスタフ「俺は・・・・何も知らない・・・・。俺は……フランツ……。」


ウォーリー「・・・・まだ言っているんですか?
あなたはフランツじゃない。
あなたはグスタフだ。僕は知っているんだ、あなたの全てを。
もうこれは『僕が』『あなたを』許す許さないの次元の問題じゃない。
それがわかりませんか?
あなたの愛する弟の名を騙って、天国の弟を裏切ってまで、一体あなたは何から逃げようとしているのですか?
そのままフランツになりきって生き続ければ、グスタフの、あなた自身の罪はなかったことになるとお思いですか?
僕の愛する人たちを奪ったあなたの罪は、消えてなくなるとお思いですか?」


ウォーリー「・・・・惨めだなぁ。・・・・実に惨めだ。
あなたみたいな人間に愛する家族を殺された僕の気持がわかりますか?」
77:2009/08/11(火) 02:12:04.89 ID:
グスタフ「・・・・・・・。」


もう、言葉が出なかった。体の震えが止まらない。俺はきっとここで殺されるだろう。
気づくと、その膝から崩れ落ち、ただうずくまりながら祈りをささげた。
神に対してなのか、名を騙った弟に対してなのか、自分の殺した者たちに対してなのか、目の前にいる男に対してなのか。わからないまま、ただ祈り続けた。



ウォーリー「なんであの人たちは、殺されちゃったんだろう。」

項垂れるグスタフ。

ウォーリー「なんでお兄さんは、いなくなっちゃったんだろう。」

一層体を縮ませるグスタフ。

ウォーリー「僕はただ、かくれんぼがしたかっただけなのに。」
79:2009/08/11(火) 02:13:03.98 ID:
ウォーリー「・・・・まあ、今じゃかくれんぼというよりは鬼ごっこみたいになってしまったけどね。悪くないさ。あ、それと。

僕は捕まらないよ。

あなたのような欠陥品も捕まえられないような、無能な警察どもにはね。」


ウォーリー「・・・・さあ、これ以上何を恐れることがありますか?
僕が全てを白日のもとにさらけ出したとしても、そこにはもう、『あなたはいない』。
あなたが今この瞬間心配するところがあるとすれば、ただ一点、グスタフとしてそのゴミみたいな人生の終止符がどのように打たれるか、という点だけですね。
ハハハハハ!!!!」

ウォーリーが被っている帽子を取ると、1丁の小さなピストルが現れた。
彼はそれを右手に取り、静かに帽子をかぶりなおした――――。
80:2009/08/11(火) 02:14:05.82 ID:
???「そこまでだ!!ウォーリー!!!!」

顔を上げたウォーリーが目にしたのは、十数人の狙撃隊と、数人の刑事だった。

隊長「さあ、ウォーリー。見ての通り、お前の命は我々が握っている。
お前の足元を向いているその銃口が少しでも上に傾けば、その瞬間、お前の頭は打ち抜かれる。」


ウォーリー「…ハハ。
……やだなぁ、刑事さん達。僕は別に何も・・・・。」

隊長「先ほどから見ていた。
・・・・フランツ警部に関する話が真実か否かは我々が判断することではない。彼への判決は然るべき場で下されるだろう。
然し、今我々が最優先すべき問題は次の一点だ。
お前の発言で、そこの警部は精神的にも肉体的にも非常に大きな苦痛を被っている。暴行罪もしくは傷害罪の可能性がある。
それに加えてお前が今持っている銃。先ほどまでの発言と合わせて、警部を殺す意思があると判断した。
よって、お前の身を殺人未遂の現行犯で拘束する。
我々も手荒なまねはしたくない。しかし、抵抗せずに我々に捕まえられるか、血まみれになって殺されるかはお前次第だ。」
82:2009/08/11(火) 02:15:30.84 ID:
ウォーリーは目を向いて狙撃隊を見つめていたが、しばらくしてまた冷静さを取り戻した。
先ほどまで驚きを隠せなかった表情にはまた例の笑みが戻っていた。

ウォーリー「捕まえる?殺す?」

見開いた眼はそのままに、一層彼の口角が上がった。


ウォーリー「ハハハハハハハハ!!!!
何を言い出すかと思えば!!とんだ傑作だ!!!!!!!」

隊長「な!?
・・・・黙れ!!それ以上騒ぐと本当に・・・・!!!!」
83:2009/08/11(火) 02:16:01.10 ID:
もう今までのようにウォーリーは探せない・・・
84:2009/08/11(火) 02:16:33.14 ID:
ウォーリー「いいだろう!!!貴様らにできるのか!!??やってみるがいいさ!!!!
ウォーリーは捕まらない!!ウォーリーは死なない!!俺がウォーリーか!?
馬鹿な!!もうウォーリーは俺の手から離れた!!!!全てのウォーリーは永遠に生き続けるさ!!!!
俺が死んでも、それは何らの意味をもたない!!今やウォーリーはこの世界そのものだ!!!!
この男のような、全ての憎まれるべき人間に対する復讐心、その全てがウォーリーだ!!!!それは、何度でも生まれ変わり続けるだろう!!!!!
聞こえるか、グスタフ!!??貴様ももう、ウォーリーの一部だ!!その意味においても、ウォーリーは決して消えさることはない!!!!
たとえ・・・・、お前が死んでもだ!!!!!」

ウォーリーが銃を構えた。

「!!??やめろ、全員、撃・・・・!!」

「パァァァァァァンンンン!!!!!!!!」

狙撃隊が撃つより早く、ウォーリーの指が引き金をひいた。
85:2009/08/11(火) 02:17:36.17 ID:
―――――――――――――
隊長が駆け足で近寄る。

隊長「・・・・クソッ!!遅かったか・・・・。」

大量の血を頭から噴き出しながら転がる死体を見ながら言った。

隊長「即死だ・・・・。」

刑事「…し、しかし、なぜ彼はこんなことを・・・・」

隊長「…わからん。とにかく、詳しいことはまた一から調べ直さないことには・・・・。」


逃げ場がないと悟ったウォーリーは自殺を図った。
なぜグスタフを道連れにしなかったのか。
もう十分に彼に恐怖を与えた、という思いからなのか。
捜査を撹乱するためなのか。
自らの逮捕後の刑務所での囚人生活を恐れてのことなのか。


それは、うずくまりながらただ震えているだけのグスタフにもついにわからなかった。
87:2009/08/11(火) 02:19:20.11 ID:
――――――――――――――
「ウォーリーが死んだか・・・・。」

夜の闇の中、呟く男がいた。
結局あの後、街は大騒ぎになった。
翌日からも、新聞やTVなどのメディアがこぞって、
これまで警察がひた隠しにしていたウォーリーの存在とグスタフについての報道と議論を繰り広げられた。
そのため、今はその街に住んでいない男にも、直ちにこの情報は伝わることとなった。

「そうだ、それでいい・・・・。『ウォーリー』はもはやあいつ1人ではない…。あいつが死んでもすぐに次のウォーリーがグスタフを殺しにかかる。
あそこであの男を殺すよりは『ウォーリー』の秘密と、この僕に関する情報が引き出される可能性を絶ってしまうのがより賢明な判断だろう。」

そう言って男は葉巻に火をつけた。
長らく馴染めなかった味と香りも、今ではそれほど気にならなくなっていた。
88:2009/08/11(火) 02:19:22.98 ID:
すげぇ
89:2009/08/11(火) 02:19:40.46 ID:
本当に銃声が聞こえてきそうな最期だな…ウォーリー…
90:2009/08/11(火) 02:20:01.59 ID:
「ウォーリーか・・・・。あの時、あいつに遭わなければ、僕は永久に真実を知らないままだったかもしれない…。
何より、『ウォーリー』の協力なくしては、僕の目的は成し遂げられなかったかもしれない…。」


この時既に、男の目的はほとんど達せられていた。
しかし、男の興味はもう違うところにあった。


「世間はまだ、『ウォーリー』が複数いることを知らない。
ほとぼりが冷めたところでまた『ウォーリー』を復活させるのも面白いかもな・・・・。

・・・・よし。
今のうちにまた新たなウォーリーを探しに向かうとするか・・・・。」


火をつけたばかりの葉巻を灰皿に押し付け潰した。
スーツを羽織り、少々目深な帽子をかぶり、男は出かけた。



91:2009/08/11(火) 02:20:50.82 ID:
え?
92:2009/08/11(火) 02:20:59.88 ID:
一応これで終わりです。
質問あったら受けつけます。


思ったよりスレ伸びなかったorz
93:2009/08/11(火) 02:21:49.06 ID:
やばやばやばい。傑作。

>>93 
ありがとう(^ω^ )  
94:2009/08/11(火) 02:22:02.97 ID:
まだいけるだろ
98:2009/08/11(火) 02:23:19.27 ID:
>>94
そうかもしれん。
でも途中で飽きた。
自分ではこれでそこそこ満足してる。
95:2009/08/11(火) 02:22:14.37 ID:
続きは?

>>95 
今のところ無い  
96:2009/08/11(火) 02:22:17.05 ID:
乙!
もしや最後の男はフランツ…?
勘ぐってしまうんだが
99:2009/08/11(火) 02:23:29.24 ID:
>>96
俺もそう思った
106:2009/08/11(火) 02:26:14.22 ID:
>>96
>>99
そこに関してはあえて伏せときたい。
申し訳ないorz
117:2009/08/11(火) 02:37:03.84 ID:
映画の脚本家がいると聞いてきました
面白かった>>1
118:2009/08/11(火) 02:37:44.43 ID:
>>1これって前作有るの?
125:2009/08/11(火) 02:45:42.16 ID:
>>118
えと、前作っていうか1ヵ月くらい前に>>12までしか書いてない状態でスレ立てたんだ
「コナンですね、わかります」ってオチのつもりだった
今考えると全く面白くないなorz

でもそれなりに評判良かったから改めて書き直したっていう
だから前作は無い

ちなみに今のところは次回作も無い(^ω^ )
119:2009/08/11(火) 02:39:10.25 ID:
これは傑作
132:2009/08/11(火) 02:57:54.41 ID:
これは無駄に映画化しても不思議じゃない
139:2009/08/11(火) 03:19:34.95 ID:
ゾ、ゾロリでも書いてほしいな
142:2009/08/11(火) 03:28:04.41 ID:
意外と評判良かったようで安心した

>>139
ゾロリって読んだことないけど
図書館とかにあったら借りて読んでみる
実際に書くかどうかはわからないから期待はしないでほしい
140:2009/08/11(火) 03:20:06.57 ID:
うわあ乙
久々に引き込まれたぜ
149:2009/08/11(火) 03:46:28.48 ID:
乙!!
こうゆう世界観つくれるってすごい。
154:2009/08/11(火) 04:02:16.09 ID:
起きたら本屋行ってウォーリー買ってくる
元スレ: