77:2008/08/22(金) 22:35:38 ID:
第21話 【T岳】

飲み会で聞いた話。

「T岳って、知ってるよな?2000mもなくて、高山植物も豊富だし、ロープウェイもあるし、
スキー場もあるところ。最近だと岩登りでも有名らしいな。きれいな山だし、人気あるんだよ。
地形とかも、沢が多いところも、気をつけていれば初心者にも登りやすいし、面白い。
けど、な。あれ、結構、人を呑み込んでいるんだよ。
7~800名位だったかなあ。びっくりするだろ?
エベレストですら、登山者なら200人も飲んでないのに、だぞ。 
だから素人に冬のT岳はお勧めしない。夏に行け。」

「いやぁ、山登りは狂おしく遠慮いたしますwww 自分は高原で温泉派なんでwww」

「ならいいけどな。俺が山登り好きだってのは知ってるよな?
技術も体力も専用の装備も勿論ある。
そういう訳で、冬に行ったわけだ。 
でもなあ。天気チェックして、ビバークポイントとか
万全の準備はしたのに、天候急変した挙句、ホワイトアウトした。
ま、緊急避難はしたさ。だけど雪はどんどん激しくなってくるし、ヤバイかな?と思ったら…
足首、いきなりつかまれたんだよ。」

「さすが、”救難活動最後の砦”、小松救難隊ですな。」

「松本まで、切符四枚…松本まで…、って違うわい!
遭難届出す前から救難隊に足首つかまれたら誰だってびっくりするわ!
とにかく、足首つかまれたんだよ。
で、必死で振りほどこうとしたんだけど、なにやっても外せない。
こいつ、って思って目線を向けたら、さ。無いんだよ。」

「無い?何が?」

78:2008/08/22(金) 22:36:24 ID:
「感触は間違いなくある。なのに、
…自分の足は見えるのに、つかんでいる手がどうしても見えないんだ。
しかも、これが冷たい手ならまだしも、暖かいんだよ、その手。男の手。
で、だんだん、だんだん眠くなってきて…
ヤバイ、寝るな自分、と思っても体が温まってきて、瞼が重くなってきて。
ああ、もう寝るな、意識も、朦朧として、混沌として、少し寒くて、
…無意識に腕を組んだ。

そうしたら、急にトイレに行きたくなったんだよ。しかも切羽詰りまくり。
冬山で下手にトイレはできんから、慌てて足首の辺り 振り払った。
眠気も飛んだから、すぐに下山したんだけどな。
あん時寝ちまってたら、と思うと身が震えるよ。」

「なんで腕組んだら意識戻ったんだろうね?」

「あー、帰ってから見たら、お前さんにもらったお守りを、胸ポケットに入れてたよ。」

「そうだ。あのお守りにまつわる、もう一つの山話があってだな……」

その話はまた、次の順番の時に。【了】

「僕のお母さんですか?」【不可解な体験、謎な話】
「誰もいねー」【洒落怖】
「餓鬼」【ほんのりと怖い話】
 
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